提 言 書 平成24年8月 呉市新庁舎建設工事発注方法検討委員会 -1- はじめに 呉市新庁舎建設事業は,平成27年3月末の完成に向けて,現在,設計業務を行っ ています。 基本計画によると,新庁舎は今後50年以上にわたり,呉市の行政,防災,文化及 び市民協働の拠点となって市民生活の中心的機能を果たしていく重要な役割を担う施 設として位置付けられており,その規模は,建設費約130億円という呉市にとって 前例のない大型建設工事となっています。 また,基本設計では,不測の大地震にも耐え得るよう,市内にも数例しかない免震 構造を採用することとしています。 呉市は,これらの特殊性から,呉市新庁舎建設事業が,現行の入札・契約制度で は,対応しきれない可能性があるとし,当委員会に対して,課題の抽出とその解決の 方向性について,また,併せて新庁舎建設工事を地域経済活性化に寄与させる手法に ついて,意見を求めました。 当委員会では,計4回にわたり各委員がそれぞれの専門分野の観点から議論し,そ の結果をこの提言書としてまとめました。 この提言が,新庁舎建設工事の施工業者選定方法を決定する際に,参考となること を希望します。 平成24年 8月20日 呉市新庁舎建設工事発注方法検討委員会 委員長 - 1 - 吉長 成恭 1 検討課題 新庁舎建設工事の特殊性と現行の入札・契約制度を踏まえて議論した結果,次のよ うな課題が生じると考えた。 (1) 課題 課 題 内 容 新庁舎建設工事は,大型建設工事であることから全 透明性・公平性 ・競争性の確保 国的にも注目度が高く,更なる透明性・公平性・競争 性の確保に努めなければならない。 特に入札に参加できる業者数は,十分確保できるよ うにする必要がある。 今後50年以上にわたって安全・安心に使用でき, 市民に愛され親しまれる施設とするため,高品質な庁 品 質 の 確 保 舎とする必要がある。 このため,高度な技術力を有する施工業者を選定す る必要がある。 コストの縮減 前例のない大型建設工事であり,可能な限り事業費 の縮減に努める必要がある。 新庁舎建設工事を地域経済活性化に寄与させるため には,経済波及効果を元請や下請負工事,資材調達な 地域経済活性化 ど直接関与する業種だけではなく,間接的な関与が期 待できる様々な分野の業種にまで,その効果を波及さ せる仕組みづくりが必要である。 - 2 - 2 提言 課題の解決の方向性について,発注方法を検討した結果,次のとおり提言する。 (1) 提言内容 ア 入札方法 入札方法については,次の二つの方法を比較・検討した。 入 札 方 法 一 般 競 争 入 札 特 徴 ・入札価格のみで落札者を決定する。 ・入札価格,施工上の技術提案及び地域貢献提案など 総 合 評 価 方 式 の評価項目を総合的に評価して落札者を決定する。 ( 標 準 型 ) ・評価項目及び基準などを明確にすることが重要であ (注1) る。 (注1) 総合評価方式には,簡易型,標準型及び高度技術提案型などがある が,呉市の求める工事内容などを実現するため,施工上の技術提案及 び地域貢献提案などを求めることができる標準型が適当であると判断 し,総合評価方式については標準型で検討した。 結果 総合評価方式(標準型)の採用 入札方法については,次の観点から上記方式の採用を提言する。 総合評価方式(標準型)は,対象工事における品質確保策の提案により, 高品質な施工の確保が期待できる。 また,併せて具体的で実効性のある地域貢献策の提案を求めることによ り,地元業者の活用及び育成が期待できる。 なお,これらの提案内容の履行を担保するため,受注者と履行に関する協 定を締結することにより,確実な履行を促すことが重要である。 ただし,協定については「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法 律(昭和22年法律第54号)」に抵触しないように留意するとともに,協定内 容をホームページなどで公開し,定期的に達成率を公表することで,協定に 違反した企業の社会的な信用性に対してペナルティを課すことが望ましい。 これらを勘案すると,「品質の確保」及び「地域経済活性化」の課題の解 決に当たり,総合評価方式(標準型)に優位性が認められる。 - 3 - イ 発注形態 発注形態については,次の二つの方式を比較・検討した。 発 注 形 態 特 徴 ・建設工事を工種(建築,電気及び機械設備など)ご とに分離・分割して発注する。 分離分割発注方式 ・発注件数が増加するため,業者の受注機会が拡大す る。 ・工事ごとに諸経費が必要となるため,一括発注方式 に比べて割高となる。 ・建設工事を工種ごとに分離・分割せずに一括して発 注する。 一 括 発 注 方 式 ・発注件数が減少するため,業者の受注機会が縮小す る。 ・工事ごとの諸経費を一本化できるため,分離分割発 注方式に比べてコストの縮減ができる。 結果 一括発注方式の採用 発注形態については,次の観点から上記方式の採用を提言する。 一括発注方式は,諸経費の一本化により諸経費率の抑制が可能である。特 に大型建設工事の場合,わずかな諸経費率の違いでも縮減額が大きく,コス ト縮減が図れる。 分離分割発注方式は,分離・分割する単位にも左右されるが,発注する工 事件数が増加することで,業者が元請業者として受注する機会が拡大し,地 域経済の活性化につなげることが可能である。 しかし,各工種において入札参加者に同種同規模工事又は類似工事の施工 実績を求めるため,新庁舎建設工事のような大型建設工事では,実質的に入 札に参加できる地元業者が限られてしまう。 このため,地元業者が元請業者として受注する機会の拡大につながらず, 分離分割発注方式が持つ地域経済活性化に対する利点が,十分に見込めない 可能性が高いと想定される。 これらを勘案すると,「コストの縮減」の課題の解決に当たり,一括発注 方式に優位性が認められる。 - 4 - ウ 入札参加資格 入札参加資格については,次の二つの参加資格を比較・検討した。 入札参加資格 特 徴 ・JV(※1)のみ参加できる。 ・組成条件の一つに地域要件(※2)を設定すること J V 限 定 入 札 で,地元業者の元請受注機会の確保及び育成が図ら れる。 ・地元業者数が少ない状況で,地域要件を設定すると, 入札に参加できるJV数が限られる。 ・JVと単体企業が参加できる。 混 合 入 札 ・高い競争性が確保できる。 ・地元業者が元請として受注する可能性が減少する。 ※1 ※2 対象工事に限って結成する特定建設工事共同企業体のこと。 主たる営業所(本店)などを呉市内に有していること。 結果 混合入札(JVと単体企業が参加できる入札)の採用 入札参加資格については,次の観点から上記方式の採用を提言する。 新庁舎建設工事は,事業規模が大きく全国的にも注目されており,特に競 争性の確保に留意する必要がある。また,全国知事会が示している指針で は,入札参加可能者数を20者以上は確保すべきとしている。 呉市が発注する工事では,予定価格が6億円以上の建築工事及び3億円以 上の設備工事は原則として入札参加資格においてJV限定入札としている。 また,これまで地元業者をJVの構成員とするように組成条件の一つとし て地域要件を設定しているが,呉市建設工事入札参加有資格者名簿において 格付最上位に当たるA等級の地元業者数(注2)が少ないことから,組成で きるJVの数が限られ,20者以上の入札参加可能者数を確保することは難 しい状況となっている。 なお,入札参加可能者数を20者以上確保することだけに着目すると,参 加資格を単体企業に限定する考え方もあるが,これまで呉市が地元業者の受 注機会の確保に努めてきた経緯を踏まえると,単体企業に限定する事は適切 でないと判断した。 混合入札は,JVに加えて単体企業での参加が可能であるため,20者以 上の入札参加可能者数を確保することができ,競争原理が働きやすい状況と - 5 - なる。 これらを勘案すると,「透明性・公平性・競争性の確保」の課題の解決に 当たり,混合入札に優位性が認められる。 (注2) 市内及び準市内業者を合わせた地元業者数は,建築一式工事で12 者,電気工事で11者,管工事で11者である(平成24年8月1 日現在)。 (2) 期待される相乗効果 期待される相乗効果の内容は,次のとおりである。 総合評価方式(標準型)に,一括発注方式と混合入札を組み合わせること で,総合評価方式(標準型)における品質確保策や地域貢献策に関する提案 の充実が期待できる。 一括発注方式と組み合わせることで受注者の裁量が増える(スケールメリ ット)ため,下請負工事や資材調達などにおいて,多種多様な地域貢献策の 提案が可能となる。また,大型建設工事の場合,一括発注方式は,分離分割 発注方式と比較して提案内容の一貫性が保たれるため,具体的で実現可能な 提案が期待できる。 混合入札にすることで高い競争性が確保できるため,入札参加者は積極的 な品質確保策や地域貢献策の提案をしてくることが期待できる。 (3) 提言の補足事項 議論を進めていく中で,次のような貴重な意見があり,次の段階において是非検 討していただきたい。 ア 総合評価方式の提案課題 総合評価方式(標準型)のメリットは,品質確保や地域経済活性化だけではな く,総合評価方式で求める提案課題をどのような内容で設定するかで,呉市が新庁 舎建設に当たって重要視している方向性を市民にアピールする手段とすることもで きることである。 また,新庁舎は市のシンボルとなる施設であり,市民にとって愛着や誇りが持て るようにしなければならない。そのためにも,次のような効果が期待できる提案課 題を設定することが必要となる。 ① 市民参加 施工段階を積極的に公開するなどの取組により,多くの市民が建設段階から新 - 6 - 庁舎と関わることで,新庁舎に対する愛着や誇りを醸成することができる。 また,これらの取組は,まちづくりにもつながることが期待できる。 ② 地元製品の積極的活用 建設資材として地元企業が製造している製品を積極的に活用できれば,地元企 業の実績と責任を顕示できる。これにより地元企業の育成や新庁舎への愛着や誇 りの醸成につながることが期待できる。 ③ 地域経済波及効果 新庁舎の建設工事は,できるだけ地域経済の活性化に寄与させる必要がある。 したがって,元請や下請負工事,資材調達など直接関与する業種はもちろんの こと,間接的な関与が期待できる様々な分野の業種においても積極的に地元業者 が活用されれば,更なる経済波及効果が見込まれる。 イ 新庁舎建設事業の関連工事 新庁舎建設事業は,新庁舎建設工事のほかに現庁舎の解体工事や来庁者駐車場整 備工事などの関連工事が含まれている。 これらの工事は,地元業者が元請業者として施工することが可能な規模であるこ とから,できるだけ地元業者が活用されるよう留意することが望まれる。 3 委員会開催日程 回 開 催 日 議 事 内 容 1 平成24年5月21日 ・呉市新庁舎建設基本計画 ・現行の入札・契約制度について ・新庁舎建設事業を取り巻く状況 ・新庁舎建設工事発注における他都市事例 2 平成24年6月25日 ・第1回発注方法検討委員会 主な質疑について ・入札・契約制度の比較について 3 平成24年7月26日 ・合併特例債の発行期限延長について ・検討委員会より依頼のあった調査検討項目について ・地域貢献提案の履行担保策について ・提言書について 4 平成24年8月7日 ・提言書(案) ・提言書について(概要版) - 7 - 4 委員名簿(順不同・敬称略) 氏 名 委 員 長 所 吉長 成恭 副委員長 柴田 浩喜 朝日 秀弘 呉商工会議所 西宮 善幸 呉工業高等専門学校 秦 清 広島国際大学 心理科学部 広島大学大学院 属 教授 社会科学研究科 客員教授 公益社団法人中国地方総合研究センター 情報開発部 副会頭 弁護士 呉市公平委員会 山田 知子 比治山大学 中本 克州 呉市 副市長 廣津 忠雄 呉市 副市長 建築学科 委員長 現代文化学部 - 8 - 教授 准教授 部長
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