2 コシヒカリの食味向上を目指した幼穂形成期の生育を指標とする穂肥

コシヒカリの食味向上を目指した幼穂形成期の生育を指標とする
穂肥施用法
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普及に移す技術の内容
(1)背景・目的
2008 年農業試験場成果情報として中山間地のコシヒカリの食味向上(玄米タンパク
質含有率:7.4%以下)を目指した穂肥早期一回施用法が確立され、日野郡では生育診
断に基づく良食味米生産のための穂肥施用基準が策定された。その後、県下全域での適
応性について確認を行ったところ、従来の診断法による施肥より玄米タンパク質含有率
の低下に繋がる可能性が示唆された。
そこで、コシヒカリの食味向上を目的に幼穂形成期の生育診断指標(草丈・葉色)を
用いて穂肥窒素量を決定する穂肥施用法を確立する。
(2)技術の要約
1)コシヒカリの栽培において、幼穂形成期の草丈・葉色を用いて判定する穂肥施用法
は、玄米タンパク質含有率の低下に有効で食味向上につながる。
2)倒伏程度も軽減でき安定した収量の確保が可能である。
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試験成果の概要
(1)穂肥を 2 回(窒素量:2kg+2kg)施用した場合、玄米タンパク質含有率と倒伏程度に
は関連性がみられる。良食味米生産の目標を玄米タンパク質含有率 7.4%とすると倒伏
程度は 2 程度と予想される(図 2)。
(2)玄米タンパク質含有率 7.4%、倒伏程度 2 とした場合の幼穂形成期時の草丈は 70cm
~ 75cm 程度、葉色は 36(SPAD 値)程度と予想される(図 3,4)
。倒伏程度 0 の葉色(SPAD
値)は 32 程度である。
(3)食味向上を目指した幼穂形成期における生育診断指標は、草丈は 70 ~ 75cm 程度、
葉色は 32 ~ 36 程度と予想される。
(4)幼穂形成期に生育診断指標を用いて穂肥を施用した場合、従来の穂肥施肥法(窒素
2kg/10a・2 回施用)と比較して、玄米タンパク質含有率は低下する傾向がみられ、収量
は同等である(表 1)。特に、診断による窒素 2kg/10a・1回施用の診断区では、倒伏程
度が小さくなり、玄米タンパク含有率は低くなる(表 1、図 5)
。
-5-
穂肥診断
スタート
草丈が
70cm未満か
草丈が
70~75cm
の範囲か
いいえ
は
い
窒素で
2kg/10a施用
はい
葉色値が
32~36の
範囲か
いいえ
いいえ
葉色値が
32未満か
は
い
は
い
は
い
葉色値が
36以下か
窒素で
1kg/10a施用
窒素で
2kg/10a施用
いいえ
窒素
無施用
い
い
え
窒素
無施用
図1 用いた穂肥施用量判定法
①診断時期
幼穂形成期(幼穂長1mm時)
②診断項目
草丈・葉色(SPAD値)
③診断方法
診断結果を基に右の診断表で穂肥窒素施用量
を決定
④穂肥施用時期
幼穂長8mm時(第2穂肥は無施用とする)
8.5
8.0
7.5
○:玄米タンパク ≦7.4
●:玄米タンパク >7.4
45
y = 0.3434x + 6.8443
R² = 0.4981
n=26
幼穂形成期葉色(SPAD値)
玄米タンパク質含有率(%)
9.0
7.4
7.0
y = 0.1622x + 25.075
n=26
40
36
35
30
6.5
2.0
6.0
0.0
1.0
2.0
3.0
70
25
4.0
50
60
倒伏程度
37
35
30
25
60
○:穂肥1回 N2kg(診断後施用)
×:穂肥無施用(診断後施用)
9.0
玄米タンパク質含有率(%)
幼穂形成期葉色(SPAD値)
●:穂肥2回 N2kg+2kg (従来法)
△:穂肥1回 N1kg(診断後施用)
40
50
90
図3 玄米タンパク質含有率と幼穂形成期の草丈・葉色の関係
(穂肥N:2kg-2kg 2008-2011)
○:倒伏程度 ≦2
●:倒伏程度 >2
y = 0.1622x + 25.075
n=26
80
幼穂形成期草丈(cm)
図2 玄米タンパク質含有率と倒伏程度の関係
(穂肥N:2kg-2kg 2008-2011)
45
70
70
75
8.5
8.0
7.5
7.0
6.5
6.0
80
90
幼穂形成期草丈(cm)
0.0
1.0
2.0
倒伏程度
3.0
4.0
図5 診断結果による穂肥窒素施用量と玄米タンパク質含有率と
倒伏程度の関係(2008-2011)
図4 倒伏程度と幼穂形成期の草丈・葉色の関係
(穂肥N:2kg-2kg 2008-2011)
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表1 指標診断に基づいた施肥回数・窒素施肥量での生育・収量への影響(場内及び現地試験・2001、2008~2011平均)
診断結果
調査
点数
診断時
草丈
(cm)
1.診断区 穂肥1回・N量2kg
2.診断区 穂肥1回・N量1kg
3.診断区 無施用 4.従来法 穂肥2回・N量:2kg+2kg
10
4
7
26
67.4
78.1
79.9
71.0
葉色
出穂期
葉色
倒伏程度
(0-4)
精玄米重
(kg/10a)
玄米タン
パク質含
量率(%)
等級
(1-9)
33.7
33.4
40.0
36.6
33.6
32.0
36.8
37.9
0.5
1.8
2.7
2.3
506
549
487
510
6.81
6.92
7.24
7.64
4.0
4.3
5.3
5.0
**
*
n.s
**
n.s
分散分析 (全診断結果・従来法)
注釈)各試験区の耕種概要;品種コシヒカリ、 調査場所:農業試験場、(2008・2009)、日野町(2008・2009)、江府町(2010)、三朝町(2008~
2010)、八頭町(2008~2011)、大山町(2010、2008)、鳥取市気高(2008)、鳥取市河原(2001)。移植日:日野町 5月17日(2008)、5月15日
(2009)、江府町 5月3日(2010)、三朝町 5月21日(2008)、5月23日(2009)、5月22日(2010)、八頭町 5月27日(2008)、5月23日(2009)、5月22
日(2010)、5月26日(2011)、大山町 5月22日(2010)、5月18日(2008)、鳥取市気高 5月24日(2008)、鳥取市河原 5月20日(2001)。幼穂形
成期は、農業試験場7月15日(2008)、7月14日(2009)、日野町 7月8日(2008)、7月10日(2009)、江府町 7月8日(2010)、三朝町 7月14日
(2008)、7月15日(2009)、7月17日(2010)、八頭町:7月17日(2008)、7月16日(2009)、7月17日(2010)、7月13日(2011)、大山町 7月17日
(2010)、7月16日 (2008)、鳥取市気高 7月14日(2008)、鳥取市河原 7月12日(2001)。穂肥は硫安を施用。施肥以外の栽培管理は農家慣行。
分散分析を行い、1%有意差が認められた場合は**、5%有意差が認められた場合は*、有意差が認められない場合はn.sとした。葉色はSPAD
値。倒伏程度は0(無)~4(甚)の5段階で表示。重量は水分15%換算。精玄米重は1.85mmのグレーダで調製。玄米タンパク質は近赤外測定に
よる。等級検査は農産物検査員に依頼。
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普及の対象及び注意事項
(1)注意事項
1)本情報は農業試験場内ほ場(標高 13m)及び現地ほ場である日野町下榎(標高 214m)、
江府町宮市(標高 250m)、三朝町今泉(標高 40m)
、八頭町大坪(標高 88m)、大山
町坊領(標高 152m)、鳥取市気高町(標高 77m)、鳥取市河原町(標高 172m)にお
いて 2001 年から 2011 年に得たものである。
2)地力が低く、生育後期に葉色が極端に落ちるほ場では等級が低下する恐れがあるた
め適応を避ける。
3)葉緑素計 SPAD-502 による葉色測定値から葉色板測定値への変換は可能である(新
しい技術第 33 集:参考となる情報・成果)
。
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試験担当者
環境研究室 主任研究員
室 長
作物研究室 研究員
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香河良行
坂東 悟
角脇幸子