抄 録 シンポジウム S 01 − 1 虐待による急性硬膜下血腫に対する減圧開頭術の有効性 ○荒木 尚、師田 信人、福元雄一郎、根木 宏明、平岩 直也、佐藤 研隆、 李 政勲、辻本 真範 国立成育医療研究センター 脳神経外科 【目的】虐待による頭部外傷(Abusive Head Trauma: 以下 AHT)は特に 2 歳未満の小児に多く認められ、 急性硬膜下血腫に Hypoxic-ischemic encephalopathy(以下 HIE)を合併する臨床像が多く、結果的に頭蓋内 圧亢進を呈して死亡する症例が多い。今回虐待による急性硬膜下血腫における減圧開頭術の有効性について 検討した。【対象と方法】2009 年 1 月∼ 2010 年 11 月までの期間、AHT により入院した 13 例につき後方視的 検討を加え、来院時 GCS、画像所見、他部位損傷、減圧開頭術の詳細、予後等を調査した。【結果】平均年 齢 16.3 カ月(range2-31 カ月)、来院時平均 GCS 5.6(range3-13)であり、CT 画像では全例に急性硬膜下血 腫及び HIE 像を認めた。13 例中全例に頭蓋内圧センサーを挿入し ICU 管理にも関わらず圧が 25mmHg を 超えた 6 例に減圧開頭術を施行した。(両側前頭開頭 5 例、片側開頭 1 例)尚、広範な硬膜切開を行わず特に 中頭蓋窩の減圧を十分に行った。術後全例で著しい ICP 低下を認め、退院時平均 GOS は 3.6(median4)で あった。【結論】AHT による頭蓋内圧亢進に対し減圧、特に両側前頭減圧術は乳児の頭蓋内圧亢進例に対し て著しい圧降下作用を有し救命を目的とした治療法として有効であると考えられた。機能予後不良な症例に は特別な養育支援が必要となるため、長期入院となる傾向がある。 S 01 − 2 小児重症頭部外傷例に対する軽度低体温療法と両側減圧開頭術の効果 ○宮城 知也 1)、竹内 靖治 1)、土井 亮 1,2)、徳富 孝志 1,3)、重森 稔 1) 1) 久留米大学 医学部 脳神経外科、2)久留米大学 医学部 高度救命救急センター、 3) 一ノ宮脳神経外科病院 【目的】2003 年に米国から発表された 18 歳未満の小児の重症頭部外傷のガイドラインでは、他の保存的治療 でもされない場合には低体温療法や減圧開頭術を段階的に行う治療方法が treatment option のひとつとして とりあげられた。そこで 2008 年以降、18 歳以下で GCS 5以下の症例に対してはまず軽度低体温療法を行い、 その後も頭蓋内圧亢進が改善しない場合や復温後の頭蓋内圧亢進に対しては段階的な両側の減圧開頭術を追 加した。今回は以前の症例と比較した。【対象・方法】2000 年から 2007 年までに経験したのは 18 例(低体温 群)であった。2008 年から 2010 年 3 月までに経験したのは 10 例(減圧群)であった。両群間で、年齢、重症度、 CT 分類、ICP 値や転帰などについて検討した。【結果】2008 年以降に両側外減圧術を行った症例は 10 例中 6 例であった。平均年齢は低体温群で 10 歳、減圧群では 14 歳で有意差はなかった。GCS は低体温群では 4.3 で、 減圧群では 4.8 であり有意差を認めた。CT 分類は低体温℃群の 22% が evacuated mass lesion であり、減圧 群では 60% であった。ICP、脳灌流圧のコントロールは低体温群で第 4 病日以降に有意に不良となった。6 ヶ月後の Glasgow Outcome Scale(GOS)は低体温群では GR/MD が 7 例(39%)、dead が 7 例(39%)であり、 減圧群では全例で GR/MD が得られた。【結論】小児の重症頭部外傷例では低体温療法に両側減圧開頭術を 加えることで転帰の改善の可能性がある。 − 42 − S 01 − 3 緊急開頭術に引き続き脳低温療法を施行した重症急性硬膜下血腫症例の検討 ○小畑 仁司、杉江 亮、頼經英倫那、宮田 とも、孫 偉 大阪府三島救命救急センター 【はじめに】重症頭部外傷に対する脳低温療法の効果は、現在 evidence が得られていないが、脳圧下降作用 は明らかであり、脳圧亢進を伴った患者群に対しては有望と考えられる。【方法】当センターで脳低温療法を 開始した 1995 年以降に搬送された重症急性硬膜下血腫症例で緊急開頭術に引き続き脳低温療法を施行した 64 例を対象とし、診療録、画像所見をもとに後ろ向きに検討した。脳低温療法の適応は原則として Glasgow Coma Scale(GCS)6 以下を対象としたが、talk and deteriorate 例や脳圧亢進をきたした例はこの限りで はない。緊急開頭術と前後して冷却を開始し、体表冷却法により深部温 33-34℃を 2 日間以上継続し、脳 圧、画像所見を指標として 1℃/日で復温した。初期の数例を除き、ミダゾラム、ブプレノルフィン、ベク ロニウムを投与し、原則として気管切開、経腸栄養を 24 時間以内に開始した。転帰は 3 ヶ月後の Glasgow Outcome Scale(GOS)により判定した。 【結果】年齢は 2 歳から 72 歳まで平均 43.0 歳で、男性 37 名、女性 27 名、 GCS は 4.89 ± 1.53、瞳孔所見は両側散大 15 名、一側散大 21 名であった。開頭術前に脳圧を測定し得た 25 名の脳圧は平均 47.5mmHg であった。全員に減圧開頭術(うち 28 名に対しては両側開頭もしくはテント上 下の複数回の減圧開頭)を施行し、復温完了まで脳低温療法の期間は 7.67 ± 3.71 日(1-21 日、3 日以内に脳 圧制御不能により積極的治療中止の 7 例を含む)であった。転帰は、GR: 18(28.2%)、MD: 6(9.4%)、SD: 15 (23.4%)、VS: 4(6.3%)、D: 21(32.8%)で良好(GR+MD)が 37.5%、不良(SD+VS+D)が 62.5% であった。 45 歳以下の転帰良好は 15 名、不良 14 名、46 歳以上では同じく 9 名と 26 名で有意差を認めた(p=0.033, χ 2 検定) 【結語】経過中に積極的治療断念例を含む GCS 6 以下の急性硬膜下血腫症例の転帰良好率は 37.5% であ ったが、GCS 3 でも 4 名が転帰良好であり、また若年群の転帰は既報の通り有意に良好であった。 S 01 − 4 最重症頭部外傷に対する外来緊急穿頭術の治療成績 −自験例 35 例の検討− ○朴 永銖 1)、弘中 康雄 1)、本山 靖 1)、中瀬 裕之 1)、奥地 一夫 2) 1) 奈良県立医科大学 脳神経外科、2)奈良県立医科大学 高度救命救急センター 【目的】本学会において両側瞳孔異常を呈する最重症頭部外傷に対する ER 外来での穿頭術の治療経験につき 報告してきた。Full recovery する症例も得られるようになったが、依然十分な治療効果が得られていないの が現状である。我々の治療成績を報告すると同時に救命可能群の背景につき検討を加える。 【対象・方法】07 年 5 月から緊急穿頭術施行した 35 症例。平均年齢 59.3 歳(14-88 歳) 、受傷機転は転落・転倒 17 例、交通事 故 14 例、不明 4 例となっていた。全例が搬送時もしくは搬送後短時間で両側瞳孔が散大し対光反射が消失し ていた。CT にて血腫を確認後、可及的速やかに ER 外来で穿頭を施行し頭蓋内血腫を除去しドレーンなら びに ICP sensor を留置した。その後、開頭術が適応と判断した症例には引き続き手術場にて広範囲減圧開頭 術を追加し、全身状態が許す限りバルビツレート・軽度低体温併用(B-H)療法を 3-5 日間導入した。 【結果】 救急隊現着時から穿頭術までの時間は平均 81.9 分(37-183 分)で年々短縮傾向にあった。17 例には手術場 で減圧開頭術を追加施行したが、最近のシリーズでは外来穿頭にても clinical sign の改善が全く得られなか った症例では減圧開頭術は施行しなかった。13 症例(37%)が救命可能であり、3ヶ月後の転帰は GOS で GR:3,MD:4.SD:3,PVS:3,D:22 となった。Full recovery したのは 3 例で、いずれもが若年者症例であった。搬送 時既に GCS 3 であった症例 18 例中、救命可能症例は 2 例のみであった一方で、搬送時 GCS > 6 であった 7 例中 6 例が救命可能であった。減圧開頭に B-H 療法を追加施行可能であった症例に救命率が高かった。 【結論】 ER 外来での速やかな緊急穿頭術は最重症 ASDH の一部に転帰を改善させる可能性があり、とりわけ搬送直 後より急速に意識レベルが悪化する症例に有効であった。しかし、外来穿頭にても瞳孔所見に変化が無い場 合はいかなる治療を追加しても予後を改善させることは困難である。 − 43 − S 01 − 5 急性硬膜下血腫 脳ヘルニア患者に対する治療戦略 ○松本 学 1)、石川 若菜 1)、渡邊 顕弘 1)、和田 剛志 1)、関 厚二朗 1)、恩田 秀賢 1)、 高山 泰広 1)、布施 明 1)、川井 真 1)、横田 裕行 1)、戸根 修 2)、富田 博樹 2) 1) 日本医科大学付属病院 高度救命救急センター、2)武蔵野赤十字病院 脳神経外科 【はじめに】重症頭部外傷患者の治療は、急性期凝固線溶異常への理解が深まるにつれて変化をしてきた。無 計画な外科手術は予後を悪化させ得る為、線溶亢進のピークを避けた Intentional Delayed Craniectomy は 有効な治療の一つである。しかし、脳ヘルニアを来した患者においては同様な戦略での治療が困難と考えて いる。今回我々は、来院時脳ヘルニア徴候を来した頭部外傷患者の意識回復に関連する因子を検討した。【対 象】2002 年 1 月∼ 2008 年 12 月に武蔵野赤十字病院救命救急センターへ、又は 2009 年 1 月∼ 2010 年 12 月に 日本医科大学高度救命救急センターへと搬送された頭部外傷患者のうち、来院時脳ヘルニア兆候を有し初療 室にて穿頭血腫除去術を施行した 36 症例を対象とした。【方法】患者予後は、意識回復群と非回復群に分類 した。意識回復に関連する因子を検討した。【結果】対象症例の平均年齢 58 ± 22 歳、GCS 中央値 4(3-4 61% 5-8 39%)、両側瞳孔異常 15 例(42%)片側 19 例(53%)であった。穿頭で減圧が十分でない 22 例において 減圧開頭を施行した。意識回復を 9 例(25%)において認めた。通報から穿頭血腫除去までの時間は、意識 回復群 86 ± 44 分、非回復群 112 ± 37 分であった(p=0.023)。減圧開頭術施行症例においては、通報から減 圧開頭までの時間は意識回復群 145 ± 41 分、非回復群 190 ± 44 分であった(p=0.0158)。目撃者有で意識回 復 9 例(35%)目撃者無 0 例(0%)であった(p=0.039)。今回の検討においては年齢・性別・左右・瞳孔異 常は意識の回復に関係しなかった。【結論】来院時脳ヘルニアを呈する重症例においては、減圧までの時間 と受傷目撃の有無が患者の意識回復を決定する重要な因子であった。適切な一次救命処置と初療穿頭・脳室 ドレナージ・浸透圧利尿剤・体温呼吸管理を駆使した迅速な減圧を行い、開頭の適否・時期を正しく判断す る事が意識回復につながると考えている。 S 01 − 6 その外減圧は必要だったか −急性硬膜下血腫における外減圧術の必要性とその関連因子の検討− ○萩原 靖、山本 章貴、上野 正人、水島 靖明、松岡 哲也 大阪府立泉州救命救急センター 【はじめに】我々は以前より重症頭部外傷の頭蓋内圧亢進に対して外減圧を中心とした脳圧管理を行い、その 有効性を報告してきた。しかし外減圧症例の中には、術後強い脳浮腫が見られず、結果的に外減圧が不要で あったと思われるものがしばしば認められる。そこで今回我々は過去の急性硬膜下血腫での外減圧症例を検 討し、外減圧の必要性の有無および外減圧の必要性に関わる因子について調査した。【症例と方法】2007 年 1 月から 2010 年 7 月までに搬送された急性硬膜下血腫症例のうち、外減圧を施行したものを対象とした。減圧 術後 CT の評価により、結果的に A:外減圧が不要であった、B:外減圧が必要であった、C:どちらとも 言えない、の 3 群に分類した。これら 3 群について、年齢・性別・来院時 GCS・来院時 B.E.・来院時 FDPDD、脳損傷の部位・外減圧前の ICP センサー挿入の有無について比較検討を行った。【結果】患者群は 26 名、 A 群 6 名、B 群 18 名、C 群 2 名であった。来院時 B.E. は B 群− 3.6mEq/l とアシドーシス傾向であったが、 A 群、C 群は正常範囲であった。FDP-DD は A 群 47 μ g/l、C 群 46 μ g/ l に対して B 群 125 μ g/l と著明 な高値を示した。予め ICP を挿入せずに減圧開頭を行ったものは 18 例あり、そのうち減圧が必要であった ものは 10 例であった。【考察】今回の検討では、来院時 FDP-DD の高値とアシドーシスが外減圧の必要性と 関連しており、特に FDP-DD は強い関連性があると考えられた。【結語】外減圧術は脳圧管理に極めて有効 であるが、侵襲もまた大きい治療法である。救急現場では緊急減圧開頭がやむを得ず必要になる場合が多々 あるが、状態が許す場合には ICP を挿入して脳圧モニターを行うと共に、FDP-DD や B.E. を検討し、不要 な外減圧症例を減らす努力が必要であると考える。 − 44 − S 02 − 1 柔道による急性硬膜下血腫の現状解析と対応 ○永廣 信治 1)、溝渕 佳史 1)、本藤 秀樹 2)、戸松 泰介 3)、紙谷 武 3) 1) 徳島大学 脳神経外科、2)徳島県立中央病院 脳神経外科、3)全日本柔道連盟 医科学委員会 【背景・目的】柔道による重症頭部外傷の殆どは急性硬膜下血腫であり、中学体育への柔道必修化に伴い頭 部外傷事故の増加が懸念されている。全日本柔道連盟(全柔連)の「損害補償・見舞金制度」における事故 報告の解析を行い、柔道による急性硬膜下血腫の特徴と対策を検討した。【方法・対象】2003 年から 2010 年 までの7年間に全柔連に報告された 32 例を対象とし、受傷年齢、原因・病態、診断名と手術の有無、経過 と転帰を調査・解析した。【結果】1.受傷年齢(7-76 歳)は 10-20 歳が 27 例(84%)と大部分を占め、特に 中学1年(9 例)と高校1年(8 例)の初心者にピークがみられた。2.投げ技による頭部打撲が 26 例(81%) に確認され、中でも後頭部打撲が 16 例と多かった。受傷の1カ月前、1年前に柔道による頭部外傷既往を 有する例が1例ずつあり、1例は急性硬膜下血腫を指摘されていながら練習復帰し重症急性硬膜下血腫とな った。3.受傷時の症状は意識障害(20 例、63%)と頭痛・嘔吐(9例、28%)が多く、意識清明期を 26 例 (81%)に認めたものの、5 分以内に悪化する例が半数を占めた。4.診断:急性硬膜下血腫が 28 例(88%)で、 脳挫傷を伴わない単純型が 26 例(93%)を占めた。5.治療:開頭血腫除去手術が 27 例(88%)に行われた。6. 緊急手術にもかかわらず転帰不良例が 72%を占め、うち死亡 15 例、重度障害 8 例であった。【結論】柔道に よる重症頭部外傷は単純型急性硬膜下血腫が殆どであり、投げられた時の受け身が不十分なために前後方向 の回転加速度損傷が緩衝されず、架橋静脈が断裂し発症すると考えられた。脳神経外傷学会としても、柔道 を含むコンタクトスポーツによる急性硬膜下血腫に対する調査や解析・研究を行い、安全な指導法について の提言や、競技者・保護者・指導者・関連する医師に対し頭部外傷後の対応指針を示す必要があると思われた。 S 02 S02-2 −2 重症急性硬膜下血腫の臨床的検討 ○萩原 信司、小関 宏和、秋山 真美、谷 茂、田中 典子、糟谷 英俊 東京女子医科大学東医療センター 【目的】2003 年 4 月から 2010 年 10 月までに当院で血腫除去術を行った GCS8 点以下の重症急性硬膜下血腫 80 症例について臨床像を検討した。【方法】当院では 2003 年 4 月より 2010 年 10 月までの間、術前意識が GCS8 点以下の重症急性硬膜下血腫 80 症例に対し手術が行われた(男性 51 名、女性 29 名、年齢 6 カ月∼ 89 歳、 平均 55.9 歳)。この 80 症例について原因(受傷機転含む)や他の頭蓋内病変合併の有無、瞳孔異常の存在の 有無、外減圧の施行有無などについて転帰との関連を中心に検討した。【結果】原因・受傷機転では交通外 傷が多く 32 例(46.2%)、次いで転倒が 19 例(23.7%)、転落事故が 10 例(12.5%)で、受傷機転が不明な例 が 14 例(17.5%)であった。また非外傷性が 2 例(1 例は内頸動脈瘤破裂、1 例は dural AVF)みられた。脳 挫傷の合併は 53 例(66.3%)にみられた。硬膜下血腫以外に合併病変の存在しない症例(いわゆる simple type subdural hematoma)のうち約半数に抗凝固・血小板療法や肝、腎障害などの出血性素因をみた。術前 の瞳孔異常(不同ないしは両側散大)は 53 例(66.3%)に存在した。転帰は GR が 9 例、MD が 13 例、SD が 18 例、V が 9 例、D が 31 例で、Mortality rate は 38.8%であった。転帰との関連については、年齢、脳挫傷 合併の有無、術前意識、瞳孔異常の有無が相関を示した。【考察】急性硬膜下血腫はいまだ予後不良例が多 いとされている。今回の症例群は GCS8 点以下の重症例ということもあり、予後不良群が 72.5%、Mortality rate は 38.8%となった。予後との相関を示した因子のうち脳挫傷の合併のみが治療により改善可能な因子と 考えられ、更なる治療法の発展が期待される。また、脳挫傷を伴わない急性硬膜下血腫では出血素因の存在 を常に念頭におき、凍結血漿やビタミン K 製剤の使用を考慮する必要性があると考えられた。 − 45 − S 02 − 3 Talk and deteriorate を呈する急性硬膜下血腫症例 −自験 469 例の検討から− ○梅澤 邦彦、荻田 庄吾、木村 聡志、竹上 徹郎 京都第一赤十字病院 脳神経外科 【はじめに】急性硬膜下血腫(ASDH)は、重篤な頭部外傷の一病態として知られている。軽症例が存在す る一方、当初意識状態良好でありながら短時間で悪化する、所謂 talk and deteriorate type(T&D)も認 められ、その病態は多岐に渡る。T&D ASDH の特徴を知るべく、筆頭筆者の経験した ASDH 469 症例を retrospective に検討した。【対象】90 年 4 月から 2010 年 10 月までに経験した ASDH469 例(男性 307 例、女 性 162 例、平均年齢 59.2 歳)を対象に、ASDH 部位、搬入時意識状態、脳挫傷合併有無、急性硬膜外血腫 (AEDH)合併有無、手術治療の有無及び方法、退院時転帰を検討した。【結果】1.ASDH 症例全体におい て、搬入時意識状態と予後との間に有意差ある相関を認めた。2.搬入時意識状態良好群で搬入後、急速に 悪化する T&D は 28 例(6%)認め、その死亡率は 61%であった。3.T&D は大脳半球間裂にのみ ASDH が存在する群では認められず(0/30)、両側大脳半球に ASDH が存在する群では 1/40(2.5%)、右大脳半球 に ASDH が存在する群では 13/196(6.6%)に認めた。4.年齢、ASDH の存在部位、脳挫傷の有無、AEDH の有無を検討したが、搬入時意識良好の ASDH 群が T&D であるか否かの予測因子は見いだせなかった。 5.T&D ASDH に対する手術治療において、穿頭血腫除去施行群に比して、開頭血腫除去及び外減圧を施 行した群の方が予後良好であった。手術未施行群の死亡率は 100%であった。6.対側 AEDH を認める群に 対する ASDH 除去術にて、30%に術後対側 AEDH の増大を認めた。考察 : 初診時の意識状態、initial CT で T&D か否かを予測することはできない。したがって、ASDH 症例は、搬入時に意識が良好でも、急速に悪化、 緊急手術が必要となる可能性があることを常に念頭に治療を開始しなければならない。また、対側 AEDH 合併例では血腫除去後、AEDH の増大を認めることがあるので、迅速に手術を開始し、迅速に終え、対側 AEDH 増大に備えることが大切である。 S 02 S02-4 −4 頭部外傷に伴う凝固線溶系障害の特徴 −頭部外傷と多発外傷の比較検討より− ○高山 泰広 1)、横田 裕行 1)、佐藤 秀貴 1)、桑本健太郎 1)、直江 康孝 2)、中江 竜太 2) 1) 日本医科大学 救急医学教室、2)川口市立医療センター 救命救急センター 【はじめに】ショック、広範囲組織損傷、アシデミア、低体温を伴うことが少ない頭部外傷においても凝固 線溶系障害が生じることが報告されている。外傷形態より発症メカニズムの違いがあり臨床的に明らかする 必要があると考える。【対象】2004 年から 2010 年までに関連施設にて治療された AIS3 以上の単独頭部外傷 38 例および頭部外傷を除いた多発外傷 62 例を対象とした。【方法】1.頭部外傷群と多発外傷群の臨床所見 (年齢、性差、DIC スコア、SOFA スコア)および凝血学的検査について統計学的手法を用いて比較検討を した。2.重症頭部外傷 15 例おける凝固線溶系分子マーカーの時間的推移について統計学的手法を用いて検 討した。【結果】1.臨床所見には有意差を認めなかった。血小板、D-dimer 値、PIC 値、AT 活性、PC 活性 では頭部外傷群で有意に高く(p < 0.05)、TM 値 、TAT / PIC(凝固/線溶比)では多発外傷群が有意に 高かった(p < 0.001)。回帰分析では TAT / PIC 比が病態を示す有意な因子であった(p < 0.001)。2.受 傷直後の D-dimer、TAT 値、tPA-PAI-1 値は上昇していた。D-dimer 値は約 3 時間がピーク(p < 0.01)と なり、24 時間後には急激に低下した(p < 0.001)。TAT 値と tPA-PAI-1 値は 7 日間かけて徐々に低下した(p < 0.05)。TM 値は上昇しなかった。【考察】1.TAT / PIC 比検討より頭部外傷は線溶優位であり、多発外 傷は凝固優位であると考えられる。また TM 値より、頭部外傷では血管内皮細胞障害が関与しない凝固線溶 系障害でもあると考える。2.頭部外傷の受傷直後は線溶優位であったが 24 時間以降では線溶遮断に傾き凝 固優位になるため血栓傾向に移行するものと考える。 − 46 − S02-5 S 02 − 5 Iomazenil SPECT と脳実質微小透析法を用いた急性硬膜下血腫における病態評価 ○小泉 博靖 1)、藤澤 博亮 2)、末廣 栄一 1)、石原 秀行 1)、野村 貞宏 1)、梶原 浩司 1)、 藤井 正美 1)、鈴木 倫保 1) 1) 山口大学 医学部 脳神経外科、2)周東総合病院 脳神経外科 急性硬膜下血腫は CT、MRI 画像所見では脳実質外に占拠する血腫であるが実際の開頭手術所見では血腫の直 下に脳挫傷の存在を認めることも多く、その病態は決して単純ではなく、血腫直下にある大脳皮質代謝への影響 を臨床的に評価した報告は少ない。当科では外傷急性期に中枢性ベンゾジアゼピン受容体のトレーサーを用いた I-123-iomazenil(IMZ)SPECT により皮質領域における皮質神経細胞の viability を評価すると同時に術中に開頭 術野より皮質内に in vivo microdialysis probe(微小透析プローブ)を留置して術後経過中の神経細胞外液中の化 学物質濃度の変化をモニターすることで脳皮質局所における組織代謝の変化を評価した結果、大変興味深い所見 を得たので文献的考察を加えて報告する。 【症例】53 歳、女性。バイク走行中の転倒により受傷。左前頭側頭葉 を中心に厚さ 15mm に及ぶ急性硬膜下血腫と対側への正中偏位を認め、緊急開頭術を行った。受傷後 4 日目に実 施した IMZ SPECT では CT 所見で変化を認めなかった左前頭葉と側頭葉皮質の一部に著しい集積低下を認めた。 術中に留置した微小透析プローブより回収した細胞外液の解析結果では lactate や glutamate の著しい濃度上昇 が認められた。微小透析プローブは IMZ 集積低下部位と一致する左側頭葉皮質に留置されており、同部位にお ける脳組織代謝異常が示唆された。従来、IMZ SPECT による集積低下は脳虚血障害においては不可逆的な変化 とされていたが同症例では 3 カ月後に実施した IMZ SPECT の再評価で IMZ 集積の著しい回復が認められた。ま た同部は同時期に実施した MRI 画像で皮質領域の目立った損傷を認めなかった。同様の画像所見を得たその他 の症例提示を含め、急性硬膜下血腫症例における大脳皮質の病態評価について文献的考察を加えて報告する。 S 02 S02-6 −6 急性硬膜下血腫の病態 −脳循環動態による検討− ○本多 満 1)、横田 京介 1)、桝田 博之 2)、植草 啓之 2)、周郷 延雄 2)、佐瀬 茂 3)、 吉原 克則 1)、一林 亮 1) 1) 東邦大学医療センター大森病院 救命救急センター、2)東邦大学医療センター大森病院 脳神経外科、 3) 安西メディカル株式会社 【目的】急性硬膜下血腫は局所性脳損傷であり、重症頭部外傷(TBI)の中でも代表的な病態であり現在でも 転帰が良好であるとはいえないのが現状である。また、重症 TBI 症例は急性期に脳循環障害をきたし、そ れが転帰に影響を及ぼしていることが知られている。今回我々は、来院時あるいは治療経過中に GCS が 8 点以下を呈した重症 TBI 症例に対して、Day1 から 3 の間に脳血流量(CBF)、平均通過時間(MTT)、脳血 液量(CBV)を測定し、脳循環障害の病態の検討を行った。【対象および方法】対象は 2002 年より 2008 年に 当施設にて入院加療を行い、脳循環評価を行いえた重症 TBI 症例 69 例(♂ 58 例、♀ 11 例、平均年齢 45.5 歳)。 来院時の CT により症例を局所性脳損傷として急性硬膜下血腫、脳挫傷、瀰漫性脳損傷として DAI、瀰漫性 脳腫脹の 4 病態に分類して年齢、重症度(GCS)、脳循環動態、転帰を検討した。【結果】1. それぞれのグル ープで GCS および転帰においては有意な差は認めなかったが、局所性脳損傷は瀰漫性損傷に比較して年齢 が高かった。2.CBF に関してはそれぞれ 26.2 ± 8.6、27.0 ± 8.9、31.5 ± 15.8、36.9 ± 13.3ml/100g/min であり、 局所性脳損傷において有意に低下していた。3.MTT に関してはそれぞれ 7.3 ± 1.5、6.6 ± 1.1、6.7 ± 1.3、6.1 ± 1.2sec であり局所性脳損傷において有意差はないものの延長していた。4. CBV に関してはそれぞれ 2.9 ± 0.7、2.8 ± 0.8、3.4 ± 1.0、3.4 ± 0.8ml/100g であり局所性脳損傷において有意に低下していた。【考察・結語】 局所性脳損傷は瀰漫性脳損傷に比較して脳循環の障害を認めた。局所性損傷の中で急性硬膜下血腫は脳挫傷 に対して有意差は認めなかったものの脳循環は悪かった。急性硬膜下血腫は年齢層が高く、脳循環障害をき たしている病態が存在し、二次的脳損傷を最小限にする治療・管理を行う必要があることが示唆された。 − 47 − S 03 − 1 東京ルール固定地域救急センター(二次救急)における脳神経外傷治療の現状 ○布目谷 寛 1)、橋本 卓雄 2)、松井 正治 1) 1) 松井外科病院 脳神経外科、2)聖マリアンナ医科大学 脳神経外科 【はじめに】救急医療の東京ルールの固定地域救急センター(二次救急)として活動を開始した 2009 年9月 以降の当院における脳神経外傷治療の現状について検討を加えた。【結果】2010 年 10 月までの当該 14 カ月 の間に当院を受診した脳神経外傷患者は 1390 名(救急車搬入 751 名、外来受診 639 名、男 53%女 47%)で、 平均年齢 51.4 歳、初診時GCSは平均 14.4 点であった。頭蓋内病変を合併したのは 46 名、脊髄脊椎外傷を 合併したのは37名であった。初診時GCS 14 点及び 15 点の軽症頭部外傷患者は 1109 名で、1044 名に対 して頭部CTを施行した。そのうちの 22 名(2.1%)に頭蓋内病変を認め、2名は数時間後に意識障害が増 悪した。初診時CTに異常の無い軽症頭部外傷患者のうち、観察入院を必要としたのは 35 名(男 19 名、女 16 名、平均 63.9 歳)で、33 名は予後良好、遅発性病変の合併1名、合併症による死亡1名であった。飲酒後 の頭部外傷のため救急車にて搬入された 206 名中、8名に頭蓋内病変を、3名に脊椎骨折を合併した。18 歳 以下の小児頭部外傷患者は 291 名(3歳未満 71 名)で、救急車搬入は 35 名(3歳未満7名)であった。脊椎 脊髄外傷の原因は、転落、交通外傷、スポーツ外傷で、脊髄損傷を呈したのは2名であった。【考察】二次 救急における脳神経外傷治療の現場では、軽症頭部外傷、飲酒関連外傷、小児頭部外傷等に関する様々な問 題が山積している。その対応は、初療を担当する医師の経験と技量に基づく判断に委ねられているに過ぎず、 その担当医も必ずしも脳外科医や救急医ではないのが実状である。多数の雑多な患者が押し寄せる二次救急 診療施設において、標準的な脳神経外傷診療を確保するために、脳神経外傷に対する患者教育や啓蒙活動に 加え、二次救急診療担当医が参照可能なガイドラインの作成等の方策が急務であろう。 S 03 S03-2 −2 当院(二次救急施設)における頭部外傷治療の現状 末廣 栄一 1)、占部 善清 1)、吉野 弘子 1)、米田 浩 2)、小泉 博靖 2)、鈴木 倫保 2) 1) 健和会大手町病院 脳神経外科、2)山口大学 医学部 脳神経外科 【目的】二次救急施設の脳神経外科にとって頭部外傷は脳血管障害と同様に多くの救急搬送があり脳神経外 科診療活動の多くを占める。しかし、頭部外傷診療に対する注目度はあまり高くなく二次救急施設における 頭部外傷治療の現状の把握すらなされていない。そこで、地域の救急基幹病院(二次救急)である当院にお ける頭部外傷治療の現状について検討した。【方法】対象は 2004 年 4 月から 2010 年 10 月までの期間で当科 に頭部外傷が原因で入院した 439 例とした。搬入時の Glasgow Coma Scale(GCS)score から、軽症群(GCS 14-15)、中等症群(GCS9-13)、重症群(GCS3-8)に分けた。年齢、性別、飲酒の有無、受傷原因、CT 所見、 手術の有無、入院期間、退院時転帰について検討した。【結果】軽症群は 252 例(57.4%)、中等症群は 116 例 (26.4%)、重症群は 71 例(16.2%)であった。平均年齢は 59.2 歳で男性比は 64.5% であった。飲酒を認めた患 者は 81 例(18.5%)で中等症(30.2%)にて最も多かった。受傷原因は転倒が 208 例(47.4%)で最も多く、次 いで交通事故が 115 例(26.2%)であった。CT 所見では、急性硬膜下血腫が 174 例(39.6%)と最も多く重症 化するほど、その比率は有意に上昇した。骨折のみ(22 例、5.0%)や CT 所見なし(27 例、6.2%)の経過観察 入院もみられた。手術は 70 例(15.9%)で施行されており軽症群でも 15 例(6.0%)、中等症群でも 18 例(15.5%) で施行されていた。入院期間は平均 20.8 日で重症化するほど有意に延長されていた。退院時転帰であるが、 予後良好群(GR + MD)は 82.7% で mortality は 8.2% であった。重症化するほど予後良好群は有意に低下 し mortality は上昇した。【結論】飲酒のため意識レベルの判断が困難な患者、さらに軽症群や中等症群にお いて手術が必要となったり死亡退院となった患者が含まれていた。以上より軽症・中等症の直接搬入を担う 二次救急施設における頭部外傷治療では、ただの頭部打撲と安心せず慎重な対応が必要である。 − 48 − S 03 − 3 二次救急病院において転帰不良となった軽症外傷性頭蓋内出血症例の検討 ○小山 淳二 1)、石井 大嗣 3)、阿久津宣行 2)、三宅 茂 1)、相原 英夫 2)、甲村 英二 1) 1) 神戸大学 医学部 脳神経外科、2)兵庫県立加古川医療センター 脳神経外科、 3) 公立豊岡病院 脳神経外科 【緒言】重症頭部外傷診療は三次救急病院に集約化されつつあるが、軽症例は二次救急病院で診療する機会 も多い。今回、三次救急病院と二次救急病院での治療成績を比較すると共に、二次救急病院で入院後悪化、 転帰不良となった症例を検証し、同病院群での外傷診療の問題点や改善し得る点を検討した。【対象】二次 救急病院症例 A 群:2007.4 ∼ 2009.10、来院時 Glasgow coma scale(GCS)12 点以上 137 例(全外傷性頭蓋 内出血例の 74%)と、三次救急病院での同症例群 B 群:2009.11 ∼ 2010.11、36 例(全例の 35.6%)の転帰等 を比較。更に A 群では退院時 Modified Rankin Scale SD 以下の転帰不良群(U 群)と、MD 以上の良好群(F 群) の間で頭蓋内血腫の種類、多発外傷率、併存疾患、入院後の血腫増大、虚血性合併症について比較検討。【結果】 平均年齢は A 群で有意に高く、転帰不良例は A 群 16.7% と、B 群 3% に比べ有意に多かった。A 群中の U 群(23 例)、F 群(115 例)の検討:平均年齢は U 群 78.7 歳と、F 群 70.4 歳に比べ高かった。頭蓋内血腫の種類、 多発外傷率は二群間で差はなかった。併存疾患では U 群で虚血性心疾患の既往が多く、受傷前の抗凝固剤・ 抗血小板剤の内服もそれぞれ U 群 17.4%、39.1% と、F 群 1.7%、11.3% に比べ高かった。入院後の血腫増大 は U 群 56.5% と、F 群 7.0% に比べ多かった。U 群の3例で脳梗塞を合併、1例で胸部大動脈瘤による上腸 間膜動脈閉塞を合併し、転帰不良の原因となった。【考察、結論】症例の特性や、年齢の違い等 bias はあるが、 二次救急病院での成績は三次救急病院に劣ると言わざるを得ない。併存疾患や全身合併症の管理が二次救急 病院での治療成績改善の余地と考えられた。 S 03 S03-4 −4 高エネルギー外傷の治療成績からみた地方都市の二次救急病院の現状と問題点 ○山城 重雄 1)、等 泰之 1)、吉田 顯正 1)、井上 克彦 2)、倉津 純一 3) 1) 熊本労災病院 脳神経外科、2)熊本労災病院 外科、3)熊本大学 脳神経外科 【背景】当院は脳神経外科を有する地域の基幹病院であり、重症頭部外傷を含む高エネルギー外傷を積極的 に受け入れる。専属救急医が不在で集中治療室の機能を有しないため、複数科の医師の協力が不可欠である。 今回治療成績を多発外傷と頭部外傷の側面からまとめ、問題点につき考察した。【対象と方法】2009 年 1 月 より 2010 年 10 月までの 263 例の高エネルギー外傷患者を対象とし、転帰と死亡例の検討を行った。患者は 搬入後 JATEC に準じた初期診療後に、損傷度の高い科での入院加療となる。重症頭部外傷の場合はガイド ラインに準じ、ICP 管理の適応を考慮する。【結果】受傷機転は交通外傷 222 例(84.4%)と転倒・転落 29 例 (11%)で大部分を占めた。死亡例は 21 例(8%)で、予測生存率(Ps)が 0.5 以上の予測外死亡は 5 例にみら れ、来院時 CPA 症例を除いた修正予測外死亡率は 33% と計算された。Abbreviated Injury Score 3 点以上 が複数部位にみられる多発外傷は 22 例で、13 例(59%)が死亡の転帰をたどった。このうち予測外死亡が 3 例にみられ、2 例は出血性ショック、1 例は他科入院中の硬膜下血腫の増大が原因であった。脳神経外科で 加療した 34 例(13%)の Glasgow Outcome Scale で示す転帰は GR21 例、MD1 例、SD3 例、V1 例、死亡が 8 例であった。死亡例のうち 7 例は年齢 80 以上、GCS5 点以下の急性硬膜下血腫、Ps が 0.5 以下のいずれかで、 予測外死亡は 1 例のみであった。少数ながら、ICP 管理が奏功した症例がみられた。【結論】地方病院の外傷 診療の弱点は多発外傷にあり、特に大量出血に対する初期治療が不十分である。また一診療科に入院すると、 他部位の損傷による急変に対処できない事例がある。重症頭部外傷症例は高齢で多発外傷を伴うことも多く、 救命が困難なのが現状である。 − 49 − S 03 − 5 今日の 2 次救急指定市中病院における頭部外傷の実際 ○中山 晴雄 1)、横内 哲也 1)、佐藤健一郎 1)、木村 仁 2)、櫻井 貴敏 2)、吉井 信哉 1)、 原科 純一 2)、中野 弘康 2)、平元 周 1)、岩渕 聡 2) 1) 緑成会横浜総合病院 脳神経外科、2)東邦大学医療センター大橋病院 脳神経外科 重症頭部外傷治療・管理のガイドライン初版の序文にあるように、頭部外傷の社会に与える損失は計り知 れない。従って、頭部外傷の現状を把握し受傷原因を分析することは、予防医学の観点からも重要である。 事実、頭部外傷に関する疫学研究は海外のみならず本邦においても以前から行われてきた。しかしながら、 欧米のみならず本邦における頭部外傷の疫学研究の多くは、重症患者を対象としているものが大半であり、 対象医療施設における頭部外傷受診例の全てを対象とした検討は少ない。実際、本邦における頭部外傷に関 する代表的な疫学研究である「日本頭部外傷データバンク(Japan Neurotrauma Data Bank:JNTDB)」でも、 JNTDB が重症頭部外傷に関するデータバンクであることから、軽傷∼中等症の頭部外傷は対象として含ま れていない。そこで今回、2 次救急指定の市中病院である緑成会横浜総合病院救急外来を受診した全ての頭 部外傷症例について診療記録を用いて後方視的に調査し、その傾向について検討した。緑成会横浜総合病院 は横浜市北部に位置する病床数 300 床の 2 次救急指定市中病院である。2010 年 1 月 1 日から 11 月 30 日まで の約 1 年間に当院救急外来を受診した患者総数は延べ 11,369 名そのうち脳神経外科受診者は延べ 3,423 名で あった。この中で、外傷に伴う者は延べ 1,845 名であり脳神経外科受診者総数の 53.9% を占めていた。この ようにして抽出された 1,845 名を対象として、受傷機転、病態、入院の有無、治療、転帰について検討した。 この中で、当院において頭部外傷により救急外来を受診した患者の受傷機転は、転倒・転落が最も多く、次 いで交通外傷であった。このような事実を社会に向かって公表し、啓蒙していくことは、疫学研究の持つ大 切な役割である。当日は、これらの項目についてより詳細な検討を行い今日の 2 次救急指定市中病院におけ る頭部外傷症例の実際について報告する。 S 04 − 1 高齢ラット脳出血モデルにおける血腫腔と Deferoxamine の関係について ○畠山 哲宗 1)、岡内 正信 1)、Keep Richard2)、Xi Guohua2)、河井 信行 1)、田宮 隆 1) 1) 香川大学 医学部 脳神経外科、2)University of Michigan Department of Neurosurgery 【目的】脳出血後の神経障害についての報告は多いが血腫腔の大きさについて検討を行っている報告は少 ない。今回我々は高齢ラットの脳出血モデルを用いて、脳出血後の血腫腔の大きさが鉄キレート剤である Deferoxamine(DFX)にて抑制されるかどうか検討を行った。 【方法】生後 18 ヶ月の雄の Fisher 344 ラットに対し、右大脳基底核に 100mg/mL の動脈からの自己全血を 注入し脳出血モデルを作成した。出血後 2 時間、その後 12 時間毎に DFX(100mg/kg)の筋注を 7 日間行い、 対照群には同様に生理食塩水の筋注を行った。ラットは脳出血前、出血後 1 日目、28 日目、56 日目で行動評 価を行い、56 日目で殺処理を行った。血腫腔周囲の HO-1、フェリチン、OX-6、GFAP について免疫組織学 的方法を用いて調べた。また出血後の血腫腔の大きさ、神経症状についても評価を行った。 【結果】DFX 治療群は対照群に比べ神経脱落症状を減らし、血腫腔の面積も有意に抑制した(0.03 ± 0.08 vs. 0.17 ± 0.25 mm2 at day 56, P < 0.05)。また血腫側大脳基底核の HO-1、フェリチン量も DFX 治療群は対 照群に比べ有意に抑制したが、OX-6、GFAP の値は 2 群間に有意差を認めなかった。 【結論】DFX は高齢ラットの脳出血モデルにおいて、HO-1、フェリチンの産生、血腫腔の形成を抑制した。 これらの結果より、DFX は脳内出血の患者の脳障害を抑制し有用な治療法になる可能性が示された。 − 50 − S 04 − 2 Microwave 照射による新しい実験脳損傷モデルの開発 ○布施 明 1)、鈴木 剛 1)、恩田 秀賢 1)、渡邊 顕弘 1)、和田 剛志 1)、関 厚二朗 1)、 松本 学 1)、横田 裕行 1)、森 修 2)、内藤 善哉 2) 1) 日本医科大学 高度救命救急センター、2)日本医科大学 病理学講座(統御機構・腫瘍学) 【はじめに】Fluid percussion モデルに代表される実験頭部外傷モデルは、多くの研究が行われ高い評価を得 ている一方で、多くの業績によって新しい知見を見出すのが難しくなっている。新しい実験脳損傷モデル が開発され、従来の実験頭部外傷モデルと比較検討が行えれば、多角的な検討が可能になると考えられる。 【目的】Microwave 照射による新しい実験脳損傷モデルを開発すること。【対象・方法】Microwave fixation system (Model MMW-05) を用いて、 ラット脳に短時間の Microwave を照射した。 照射強度を決定するために、 5Kw から開始し、死亡率が 25%以下になる照射強度の上限を設定した。その後、Microwave の強度によって、 Mild(2Kw/0.1sec)、Moderate(2.5Kw/0.1sec)、Severe(3-3.5Kw/0.1sec)に分類した。照射時のバイタルサ イン、照射前後の動脈血液ガス(Ph、PaCO2、PaO2、HCO3-、B.E.)、Glucose、Lactate、照射後の病理学 的変化を観察した。【結果】Microwave 照射時、血圧は一過性に上昇を認めるが、その後短時間で照射前の 血圧に復した。呼吸は照射後も無呼吸などはなく有意な変化は認めなかった。動脈血液ガス所見、Glucose、 Lactate を照射前後、及び照射 10 分後に測定を行ったが、有意な変化は認められなかった。病理学的検索で は、HE 染色で神経細胞の変性が観察され、Microwave の強度が強いほど変性が多く認められる傾向があっ た。【考察・まとめ】Microwave 照射により脳組織に損傷が起きることが示された。今後、Microwave 照射 によって引き起こされる脳損傷の継時的な観察を行うとともに、本損傷の病態についてさらに詳細な検討を するため、免疫染色などを用いた検討を行う必要があると考えられた。 S 04 S04-3 −3 鉄過剰環境が引き起こす脳室周囲組織における神経損傷 ○福島 匡道 1,2)、田戸 雅宏 1)、森 達郎 1)、前田 剛 1)、相澤 信 3)、片山 容一 1) 1) 日本大学 医学部 神経外科学系脳神経外科分野、2)春日部市立病院 脳神経外科、 3) 日本大学 医学部 機能形態学系 【背景】脳内出血では赤血球より鉄イオンが遊離して脳実質内に鉄過剰環境が引き起こされると、活性酸素種 が発生し、細胞膜損傷を起こすことが明らかになっている。一方、脳室内出血での脳損傷における鉄イオン の関与は未だ明らかにされていない。【目的】私どもは脳室内出血においてもこの細胞損傷の機序が関与して いると考え、ラットの脳室内に鉄イオンを注入して神経損傷が引き起こされるか検討した。【方法】Wistar Rat に Iron(II)chloride tetrahydrate(50 mmol/l)を充填した osmotic pump の注入針を側脳室まで刺入し て、鉄イオン脳室内持続投与モデルを作成した。灌流固定し、酸化ストレスマーカーとして 8-OHdG 免疫染 色を行った。また、神経細胞の脱落を観察するため Nissl's 染色を行い、鉄沈着の同定には Prussian blue 染 色を用いて観察した。【結果】鉄イオン注入側での脳室周囲組織への鉄の沈着が確認され、海馬 CA1 領域で の神経細胞の脱落が認められた。神経細胞脱落が認められた CA1 細胞層で 8-OHdG 免疫染色の陽性細胞を 認めた。【結論】脳室内出血など脳室内で鉄が過剰になる環境により、海馬に神経細胞の脱落が引き起こさ れた。その機序として酸化ストレスの関与が示唆された。 − 51 − S 04 − 4 3D シミュレーションモデルを用いた頭部衝撃メカニズムの解明 ○高尾 洋之 1)、谷 諭 1)、渡邊 大 2)、篠原 慎 2)、弓削 康平 3)、阿部 俊昭 1) 1) 東京慈恵会医科大学 脳神経外科、2)宇部工業高等専門学校 機械工学科、3)成蹊大学 理工学部 【目的】頭部衝撃による脳損傷のメカニズムは未だに解明されていない。我々は動物実験の代用として、こ れまで数々の頭部外傷のシミュレーションモデルを検討してきた。今回新たな 3D シミュレーションモデル を用いて、受傷時の頭部の応答と脳内応力変化を想定し、脳損傷のメカニズムの解明を試みた。【方法】本研 究に用いた人体頭部モデルは、ボランティアによる頭部 CT 画像を元にボクセル法により構築された約 122 万要素のモデルである。頭部ボクセルモデルの左側方向から拳を想定した直径 100[mm] 質量 5[kg] の球を速 度 10[m/s] でこめかみ、頬、顎にそれぞれ衝突させた。境界条件として、頭部モデルの最下端部は全面完全 固定とした。解析には陽的時間積分法を採用している汎用有限用法解析ソフト LS-DYNA を使用した。 【結果】 受傷後の頭部の挙動を解析すると、こめかみへの打撃で頭部はほぼ冠状面内で回転運動し、頬では、体軸を 中心に頭部が回転するような挙動が見られ、顎では、打撃直後は冠状断面内横方向へ回転し、その後体軸周 りに回転するような挙動が見られた。一方、脳内応力分布の観察では、3 つの解析共に脳内では、脳幹上位 部に高い応力が観察されたが、最も応力が高かった打撃位置はこめかみであり次いで顎、頬の順であった。 【結 語】脳幹への応力集中が最も高かったのはこめかみの打撃であったことから、Gennarelli らの動物実験のご とく、頭部冠状断面で回転するような頭部の応答をするときに脳幹周囲にひずみが起きている可能性がある。 頭部外傷の際の意識障害の発生には、脳全体より、脳幹部周囲のひずみが関与している可能性が示唆された。 今後、諸条件を変更することなどにより、脳損傷のメカニズムの解明の可能性が示唆された。 S 04 S04-5 −5 Laser-induced Stress Wave による帯状束軸索損傷 ○苗代 弘 1)、竹内 誠 1)、島 克司 1)、川内 聡子 2)、佐藤 俊一 3) 1) 防衛医科大学校 脳神経外科、2)防衛医科大学校 医用工学、 3) 防衛医学研究センター 情報システム研究部門 【背景】高強度のレーザー光を利用して発生する衝撃波の一種であるレーザー誘起応力波(LISW:Laserinduced Stress Wave)を用いて、頭部の爆風傷モデルを小動物に作成することに成功した。本法は、実際 の爆薬を使用せずに実験室内でモデルを作成できるため、その応用範囲は広い。高強度のパルスレーザー 光を固体材料(ターゲット)に照射するとプラズマが誘起され、その膨張に伴い応力波(衝撃波)が発生す る。これはレーザー誘起応力波(LISW)と呼ばれ、立ち上がり速度の速い圧縮性の応力波である。本技術 の特徴を生かし、マウスないしラットの頭部にレーザー誘起応力波(LISW)を適用することにより、各種 レベルの脳損傷モデルを作成できる。LISW はエネルギーレベルの制御性が高く、その空間特性、時間特性 も自由に変化させることができる。【方法】今回、脳挫傷や頭蓋内出血を来さない低エネルギーレベル(0.5 J/cm2 または 1.0 J/cm2)で、SD rat の頭部に LISW による衝撃を加えた。2週間後に灌流固定し、脳の冠 状断の Bodian 銀染色を行い、Image J に取り込み、透過性を定量評価し、軸索密度を検討した(sham、0.5 J/cm2、1.0 J/cm2; 各 n=4)。【結果】摘出した脳には、肉眼的に損傷は認めなかった。帯状束軸索密度が、 sham と比較し 0.5 J/cm2(P < 0.05)、1.0 J/cm2(P < 0.02)で有意に減少していたが、脳梁の軸索密度には 差がなかった。【結論】LISW の低エネルギーレベル損傷は、帯状束軸索損傷を来す事が判明した。帯状束は、 視床前核、海馬領域を結ぶ回路を形成し、記銘力、情動、注意障害、空間認知能低下に関与する。本モデルは、 ヒトにおける爆風による軽度の脳損傷の実験モデルになりうる事が示唆された。 − 52 − S 04 − 6 脳梗塞に対する神経保護効果のメカニズム;PI3K/Akt pathway および mitoKATP channel の関与 藤木 稔、○阿部 英治、永井 康之、森重 真毅、久保 毅、石井 圭亮、 阿部 竜也、古林 秀則 大分大学 医学部 脳神経外科 【目的】Geranylgeranylacetone(GGA)は単回経口投与で脳梗塞に対す神経保護効果を有する。脳梗塞 に対する神経保護効果の背景に PI3K/Akt pathway、mitoKATP channel がどのように関与するか検討 した。【方法】中大脳動脈梗塞モデルに対し、虚血 48 時間前に GGA を経口投与し、24 時間後の神経症 状および梗塞体積を評価した。虚血 24 時間前に Diazoxide(DZX; mitoKATP channel opener)あるいは 5-hydroxydecanoate(5HD; mitoKATP channel inhibitor)を単独あるいは GGA 投与と併せて腹腔内投与し 神経保護効果への影響を 6 群で比較した(1 群:control、2 群:5HD、3 群:DZX、4 群:GGA、5 群:GGA + 5HD、6 群:GGA + DZX(n=6))。 さ ら に、PI3K/Akt pathway の 関 与 を Wortmannin(Wort; PI3K inhibitor)単独あるいは GGA 投与と併せて髄腔内投与し神経保護効果への影響、p-Akt 活性を 4 群で比較し た(1 群:DMSO、2 群:Wort、3 群:GGA + DMSO、4 群:GGA + Wort)。【結果・考察】GGA の神経保 護効果は 5HD、DZX、Wort によりほぼ完全に抑制された。GGA は単独 p-Akt を誘導し、虚血誘導 p-Akt を増加させ、これらは Wort により抑制された。単独では神経保護効果を有する mitoKATP channel opener が GGA の神経保護効果を抑制するメカニズムを含め、脳梗塞に対する neuroprotection を総合的に考察する。 S 05 − 1 頭部外傷の死亡予測から見た年齢因子と凝血学的因子の検討 ○高山 泰広 1)、横田 裕行 1)、佐藤 秀貴 1)、桑本健太郎 1)、直江 康孝 2)、中江 竜太 2) 1) 日本医科大学 救急医学教室、2)川口市立医療センター 救命救急センター 【背景】高齢化社会に伴い転倒・転落による高齢者頭部外傷が増加している。そのため初回の GCS に関係な く転帰不良になることがある。これは加齢による脳や血管の脆弱性によるものと考えられる。頭部外傷の死 亡予測因子である年齢を分析し脳損傷に影響を与える因子について検討をする。【対象】2004 年から 2010 年 までに関連施設にて治療された AIS3 以上の頭部外傷 245 例とした。【方法】1. 生存群 192 例、死亡群 53 例に おいて臨床所見および凝血学的検査について比較検討し、回帰分析にて死亡予測因子を明らかにする。2. 回 帰分析にて明らかになった死亡予測因子の感度特異度よりカットオフ値を決定し死亡予測表を作成する。3. 死亡率が上昇する年齢のカットオフ値を決定し、年齢前後の 2 群間比較から相違する因子を検討する。 【結果】 1. 年齢、GCS、ISS、PT-INR、PT、APTT、Fibrinogen、FDP、D-dimer に有意差を認めた(p < 0.001)。 回帰分析にて年齢、GCS、D-dimer が独立した予後決定因子であった。2. 感度特異度より年齢 57 歳、GCS7 点、 D-dimer50 μ g / ml をカットオフ値と決定した。年齢 57 以上、GCS7 以下、D-dimer50 以上では 32 / 34 例(94.1 %)が死亡していた。3. 57 歳未満群 132 例、57 歳以上群 113 例の 2 群間比較にて Fibrinogen(250 ± 87vs286 ± 98)、FDP、D-dimer、死亡率に有意差を認めた(p < 0.001)。Fibrinogen と FDP の相関係数は 0.26:0.58 で 57 歳以上群で有意に高かった。【考察】成人高年齢である 57 歳以上で死亡率が上昇していることが判明し た。57 歳以上群では線溶系亢進が有意に高く凝固因子の消費も高いと推測されるが、逆に 57 歳未満群より も Fibrinogen 値は有意に高かく凝固線溶反応の解離が認められた。これは高年齢群での Fibrinogen 基準値 が高いものと考えられる。また Fibrinogen 値と FDP 値の相関係数より 57 歳以上群では Fibrinogen 消費量 に対する線溶反応が、57 歳未満群に比較して、非常に高いものと考える。 − 53 − S 05 − 2 出血性素因を有する急性硬膜下血腫の現状と問題点 ○川瀬 誠、刈部 博、平野 孝幸、中村 太源、真野 唯、伊藤 明 仙台市立病院 脳神経外科 脳梗塞や狭心症などの閉塞性動脈疾患、心房細動などの既往により、抗血小板剤や抗凝固剤の内服が必要 な症例も少なくないことから、これら出血性素因のある患者の外傷による出血性合併症も増加している。急 性硬膜下血腫の外科的治療としては開頭血腫除去術が推奨されているものの、前記のような出血性素因を 持つ症例においては広範囲開頭手術は躊躇されることも多い。一方、これら出血性素因が血腫拡大の危険 因子でもある。今回我々は、急性硬膜下血腫症例における抗血小板剤・抗凝固剤の内服等により出血性素 因を有する急性硬膜下血腫の現状と問題点について検討した。【対象と方法】2001 年 1 月より 2009 年 12 月 までの期間に、当院にて入院・治療を行った外傷性急性硬膜下血腫 495 症例中、65 歳以上の高齢者は 225 例(M:F=141:84、平均年齢 77.5 ± 7.3 歳)であった。これら高齢者を対象に、出血性素因の有無にて重症度 (GCS)、血腫量、24 時間以内の血腫拡大の有無および退院時転帰(GOS)を比較検討した。【結果】出血性素 因を有する患者は、64 歳以下では 7%であったが、65-74 歳では約 24%、75 歳以上では 35%と高率であった。 出血性素因のない患者の転帰は GR+MD:81%、D:19%であったのに対し、出血性素因を有する患者では GR+MD:42%、D:41%と不良であった。また、重症度、血腫量、血腫拡大率ともに出血性素因の有無に より有意差を認めた。【考察】今回の検討により、出血性素因を有する高齢者は軽微な外傷にて急性硬膜下 血腫を起こし、転帰不良であることが示唆された。出血性素因を有した高齢者への治療法に関しては、明確 なガイドラインが無いのが実情だが、当院ではこれまで、high risk の患者に対する穿頭術の効果を報告し てきた。今回の結果は高齢者急性硬膜下血腫の治療法を検討する上で重要な意味を有すると思われる。 S 05 S05-3 −3 抗凝固剤ないし抗血小板剤内服中の頭部外傷例の臨床的検討 ○土井 亮 1)、宮城 知也 1)、江藤 朋子 1,2)、竹内 靖治 1)、重森 稔 1)、坂本 照夫 2) 1) 久留米大学 医学部 脳神経外科、2)久留米大学 医学部 高度救命救急センター 【目的】抗凝固剤および抗血小板剤内服中の頭部外傷例の臨床的検討を行った。【対象・方法】対象は 2000 年 1 月から 2010 年 3 月までに当院で加療を行った 50 歳以上の頭部外傷例(搬入時 CPA や重篤な肝疾患などは 除く)は 591 例であった。そのうち抗凝固剤ないし抗血小板剤の内服例群は 95 例で、非内服例は 496 例であ った。両群間における、年齢、受傷機転、搬入時重症度、多発外傷の有無、CT 分類および退院時転帰につ いて比較検討した。【結果】年齢は内服群では平均 76 歳、非内服群では 70 歳であり内服群で有意に高かっ た。受傷機転は内服群では転落・転倒が 60%、非内服群では交通事故が 50% と多く、内服群の 16% が多発 外傷、非内服群では 25% であった。搬入までの時間は内服群が 249 分、非内服群が 196 分であり、重症度は 内服群では 53% が重症、非内服群では 44% が重症であった。内服群の 54% は血腫例であり、非内服群では 39% であり、有意に内服群で血腫群が多かった。転帰は内服群の 33% が転帰良好で 36% が死亡に対し、非 内服群では 44%が転帰良好で死亡が 26% であった。【まとめ】抗凝固剤および抗血小板剤内服中の頭部外傷 は、軽微な外傷でも頭蓋内病態の悪化する例が多く、転帰はより不良である。 − 54 − S 05 − 4 抗凝固・抗血小板治療中の外傷性頭蓋内出血例における治療と管理 ○相原 英夫 1)、阿久津宣行 1)、小山 淳二 2)、三宅 茂 2)、甲村 英二 2) 1) 兵庫県立加古川医療センター 脳神経外科、2)神戸大学大学院 医学研究科 脳神経外科 【緒言】抗凝固(ACT)・抗血小板(APT)治療下での外傷性頭蓋内出血においては、血腫増大の危険が大き い一方、休薬に伴う脳梗塞等の虚血合併症の頻度も高く、治療、管理の非常に困難な疾患群である事を、我々 は前回の本学会において発表した。今回、その指摘治療方針を考える上で、示唆に富むと思われた数症例を 提示し、同疾患群の治療、管理に関して考察を行う。【現在の治療原則】抗血栓薬は中止、ACT は Vit.K で リバースをはかり、開頭術必要な場合や凝固能の低下が高度であれば血液製剤の投与も行う。APT に対し て血液製剤の投与は行わない。CT 撮影時に状況が許せば CTA も施行して頭蓋内外の血管を確認、虚血リ スクの評価を行い、血圧など全身状態の安定、CT での血腫の所見、その推移などと併せて抗血栓薬の再開 時期を考慮する。【症例】1)67 才女性:転落外傷、GCS;5 で搬入、左急性硬膜下血腫(ASDH)を認め、緊急 開頭術施行、術中から ECG 異常あり、AMI に対して術直後に PCI 施行、aspirin 開始、受傷 24hr で挫傷性 脳出血拡大、再開頭内減圧施行。Day6 には再度 PCI を行って BMI ステント留置、clopidogrel も開始となった。 以後も ICU にて集中管理を行い、2 剤での APT 下で、独歩転院まで回復した。2)76 才男性:Af にて他院 で ACT もコントロール不良(INR:14 台)、外傷の有無は定かでないが、歩行の不安定症状あり、他院で右 ASDH を認め当院へ転院。Vit.K での急速リバース、保存的加療で血腫の増大なく経過したが、徐々に左麻 痺が進行、転院 3 日後に痙攣重責となって気管内挿管、鎮静管理、MRI にて右側頭葉の静脈性梗塞と、内包 の梗塞を認めた。【考察、結論】1)ACT・APT を行っている根拠を確認し、特に高齢者は血管イベント発 生のリスク評価が重要。2)虚血リスクによっては早期の抗血栓治療再開が必要であるが、血圧を主体とし た厳重な全身管理が重要。3)安易な抗血栓治療、コントロール不良は、厳に慎み、一般内科への啓蒙も重要。 S 05 S05-5 −5 高齢者頭部外傷治療のピットフォール:脳損傷後の低ナトリウム血症の病態と治療 ○森 達郎 1)、田戸 雅宏 1)、五十嵐崇浩 1)、重森 裕 1)、茂呂 修啓 1)、 福島 匡道 1)、前田 剛 1)、小嶋 純 1)、平山 晃康 1)、片山 容一 1) 1) 日本大学 医学部 脳神経外科、2)社会保険横浜中央病院 【目的】高齢者の外傷患者では様々な基礎疾患を抱えていることが多く、頭蓋内病変の管理のみならず、全身 管理にも注意を払う必要がある。また入院期間が長期にわたり臥床状態が続くと廃用症候群のリスクも高くな り、さらなる合併症を惹起する。低ナトリウム(Na)血症は、臨床上最も頻度の高い水・電解質異常である。 くも膜下出血急性期にみられる低 Na 血症は循環血漿量の低下を招き、脳血管攣縮の症候化に深く関わってい る。頭部外傷患者においても低Na血症を呈することが報告されている。高齢者の低 Na 血症は、意識障害の 遷延や自発性の低下、認知機能悪化の原因となり、早期離床の妨げになる。また臥床が長期にわたることで、 肺炎や褥瘡などの廃用症候群の併発につながる。私どもは、頭蓋内損傷を有する頭部外傷患者の低 Na 血症の 発現について調査し、脳損傷後の低 Na 血症の病態について検討を行った。一部の症例では血清Na値の測定 に加えて、Na出納、水分出納を算出し、循環血漿量の測定を行った。 【結果】185 例の頭蓋内損傷を有した患 者のうち、50 例(27.3%)に低 Na 血症を認め、とりわけ高齢の脳挫傷患者でその頻度が高かった。こうした症 例では過剰な Na 排泄に伴い Na 出納ならびに水分出納は負に傾き、循環血漿量は低下していた。鉱質コルチ コイド作用をもつハイドロコルチゾンは腎・尿細管での Na 再吸収効果をもつ。ハイドロコルチゾンの静脈内 投与により、過剰な Na 排泄は抑制され、低 Na 血症も容易に是正された。 【結語】高齢者頭部外傷では容易に 低 Na 血症を併発する。脳損傷後の低 Na 血症の病態は Na の過剰な排泄と循環血漿量の低下から塩類喪失に よるものであり、とくに高齢の脳挫傷患者では低 Na 血症に陥りやすい。本病態に対する認識不足から低 Na 血症の是正が見過ごされると、離床が進まないばかりか合併症を惹起するリスクがあり注意が必要である。 − 55 − S 05 − 6 腎透析患者の急性硬膜下血腫の検討 ○榊原陽太郎、大塩恒太郎、田中雄一郎、橋本 卓雄 聖マリアンナ医科大学 【緒言】腎透析患者においては、抗血小板剤、抗凝固剤が日常的に使用されている。そのため非透析患者に比 較し、同程度の外傷であっても予後不良であることが多い。今回、当施設における腎透析患者の急性硬膜下 血腫について検討したので報告する。【対象】2001 年から 2010 年までに経験した腎透析患者の急性硬膜下血 腫 6 例を対象とした。これは同時期に経験した全急性硬膜下血腫 293 例の約 2% を占めた。男性 5 例、女性 1 例、 年齢 52 ∼ 84 歳(平均 65 歳)であった。これら 6 例の受傷機転、抗血小板、凝固剤使用の有無、転帰、外傷 までの透析期間を検討した。【結果】受傷機転は、透析後帰宅してから浮動感による転倒頭部打撲が 5 例、階 段より転落が 1 例であった。6 例全例が何らかの抗血小板剤或いは抗凝固剤を服用していた。初診時の GCS は平均 5.6 点 CT 所見は、全例正中偏移を伴う急性硬膜下血腫であり、急性期治療の基本は外減圧、血腫除去、 脳室ドレナージ、脳圧モニター設置、常温管理とした。転帰は GOS SD 2 例 PVS 2 例 D 2 例であった。透析 導入から外傷までの期間は 4 例が 1 年以内、3 年が 1 例、13 年が 1 例であった。【結語】腎透析患者の急性硬 膜下血腫は、透析導入開始後、比較的早期に軽度の頭部外傷を契機に発症することが多い。高エネルギー外 傷はむしろ少なく、自宅での浮動感による転倒が受傷機転として最多であった。抗血小板剤或いは抗凝固剤 を服用している場合が多く、予後は極めて不良のため、透析後の自宅安静の指示を透析医に啓蒙することも 重要と思われた。 S 06 − 1 小児脳外傷のリハビリテーション ○栗原 まな 神奈川県総合リハビリテーションセンター 小児科 近年の救命救急医療の進歩により救命されうる脳外傷が増え、当院を受診する脳外傷後の小児が増えてい る。今回は小児脳外傷のリハビリテーションの現況をまとめた。 【対象および方法】対象は最近 10 年間に当院でリハビリテーションを行った 16 歳未満に脳外傷を受傷した 138 例で、受傷時年齢は 12 日∼ 15 歳 4 ヵ月(平均 7 歳 4 ヵ月)、現在の年齢は平均 14 歳 6 ヵ月である。受傷 原因は交通事故 103 例、転落 15 例、転倒 4 例などである。後遺症の状況とリハビリテーションの経過につい て検討した。 【結果】後遺症は運動障害 63 例、知的障害 68 例、てんかん 35 例、高次脳機能障害 88 例が認められた。高次 脳機能障害では注意障害 61 例と記憶障害 58 例が多かった。これらの後遺症に対して、運動障害と知的障害 に対する従来のリハビリテーションに加え、障害受容/家族支援、復学支援、高次脳機能障害への対応が重 要であった。症例ごとに「評価に基づくリハビリテーションプログラム」を作成し、医師、理学療法士、作 業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、院内学級教師などからなるチームにより対応し た。当院で発足した後天性脳損傷児の家族会である「アトムの会」はピアカウンセリングの役割を担っていた。 高次脳機能障害に対しては正確な評価が必須であるが、小児では神経心理学的検査以上に生活のなかでの問 題点の把握が重要であった。注意障害に対しては、覚醒度の向上、注意力を高める直接訓練、行動療法の応用、 環境の調整を行った。記憶障害に対しては、本人の覚醒度の向上、反復刺激による記憶機能の改善、環境の 調整、外的補助手段の活用、学習面への工夫を行った。実例を通してリハビリテーションの様子を提示する。 − 56 − S 06 − 2 高次脳機能障害デイケアによる生活訓練 ○山里 道彦 1)、井上 浩希 2)、山倉 敏之 2)、西澤めぐみ 3)、西澤 香苗 4)、高橋 晶子 4)、 小林 栄喜 5)、吉井與志彦 5)、朝田 隆 6) 1) 筑波記念病院 精神科、2)筑波記念病院 作業療法科、3)筑波記念病院 看護科、 4) 筑波記念病院 臨床心理科、5)筑波記念病院 脳神経外科、6)筑波大学 臨床医学系精神医学 【背景】高次脳機能障害を持つ症例は、自宅や以前の職場など本人になじんだ住空間で、発症前の状態に近 い生活をめざすことを望んでいる。この目標を実現するため、急性期∼回復期にリハビリテーション訓練が 行われ、その後に復学・就労支援がなされてきた。最近では、それらに加えて、維持期∼慢性期に行われて いる生活支援が注目されている。生活支援とは、患者に家事、自己表現、記録の習慣、体力の維持などを指 導していくことである。当院は、4 年前より高次脳機能障害デイケアを開設し、作業療法士・看護師・臨床 心理士のスタッフで生活支援を主体にしたグループ訓練を行ってきたので、その成果を報告する。 【方法】行政的定義で高次脳機能障害と診断された脳外傷 24 症例に対し、デイケアの形態で週 1 回(毎回 6 時間)のグループ訓練を行った。訓練は、認知課題と作業課題で構成した。作業課題では、家事・体力維持・ コミュニケーション・趣味などの項目からなる、さまざまな生活訓練を行ってきた。グループ訓練の開始前 と 6 カ月後の各症例の家族に、心理面についてのアンケート調査(Yamasato,2006)を行った。また同時に、 HDS-R などの神経心理検査を行った。これらの結果は、対応のあるt検定で評価した。 【結果】アンケート調査の結果から、患者の心理面に有意な改善が得られた、また認知面でも HDS-R と FAB には有意な改善がみられ、他の認知機能も現状維持ができていた。 【考察】デイケアによる生活訓練は、高次脳機能障害者の生活支援をしていくこと、認知機能を維持すること、 介護者の負担を軽減すること、の 3 点で有用であった。 S 06 S06-3 −3 頭部外傷後に高次脳機能障害を認めた一症例 ○籏生麻衣子 1)、谷山 市太 2)、惠飛須俊彦 2) 1) 公立南丹病院 リハビリテーションセンター、2)公立南丹病院 脳神経外科 【はじめに】平成 21 年度に頭部外傷の入院患者 19 名にリハビリを行ない、うち 4 名に対し高次機能改善にむ けたリハビリを施行した。代表的に症例を呈示し高次機能障害に対しリハビリの有用性について検討した。 【症例】13 歳、男性。3 階からの転落事故による脳挫傷・人字縫合離開骨折・頭蓋底骨折で救急搬送された。 JCS200、GCS6(1+1+4)、搬入時に挿管、ICU で保存的に加療を行い約 1 週間後に抜管、その 3 日後からリ ハビリ開始となるが、全ての ADL 動作は全介助、触覚・聴覚優位で視覚は時々色がわかる程度だった。徐々 に左同名半盲・知的機能低下・Gerstmann 症候群・記憶障害・身体失認・構成障害・Balint 症候群が明らか となる。【経過】受傷後約 2 か月で伝い歩きにて移動、ADL 動作も見守りと時々声かけでほぼ自立、視覚も 目標物を自力で見つけられ文字音読も 2 語文が読めるまで回復するも生活では他感覚に依存していた。受傷 2 か月半後に自宅 ENT し外来リハビリ開始、歩行訓練・ADL 訓練・Balint 症状に対する訓練(追視訓練・ 目と手の協応目標の訓練等)・音読や書字訓練・記憶障害の訓練・メンタルサポートなどを実施する。受傷 から約 7 カ月半後に学校復帰、直後の評価では自宅・学校内での動作や歩行は見守り下でほぼ自立、環境調 整して長文音読可、仮名等で枠内に短文レベルで書字可まで改善したが、視空間性障害や失算・失書、記憶 障害等が著しく残存しており授業は特別対応が必要だった。しかし約 1 年後には、漢字含めた書字が少し可 能となり、記憶障害はほぼ改善、視覚利用で出来ることが増えた。Balint 症状もかなり軽減した。【考察】本 症例が短期間に症状改善し ADL 自立できたのは、機能改善したことに加え新たな技能獲得や環境適応がで きたことや、発症が 13 歳と若年であったことの影響が大きいと考える。またリハビリで日常生活のシーン を想定し、残存する能力の使い方を本人と模索・トレーニングしたことは有効であった。 − 57 − S 06 − 4 外傷性脳損傷受傷後の睡眠障害 ○中川 敦寛 1)、刈部 博 2)、西野 精治 3)、古谷 桂子 4)、松井 憲子 4)、星 知恵美 4)、 阿保 圭子 4)、山口 真一 4)、井上 昌子 4)、久志本成樹 4)、冨永 悌二 1) 1) 東北大学 大学院医学系研究科 神経外科学分野、2)仙台市立病院 脳神経外科、 3) スタンフォード大学 医学部 睡眠生体リズム研究所、4)東北大学病院 高度救命救急センター 【背景】外傷性脳損傷(TBI)で救命し得た症例では、明らかな神経学的脱落症状がないにも関わらず、受傷 前の生活レベルに戻れない症例を経験する。主要な要因として、近年、高次脳機能障害に注目が集まって いるものの、睡眠障害の影響も少なからず経験する。しかし、その頻度と重症度、受傷からの期間による 変化を含めて詳細は明らかではない。【方法】2010 年 1 ∼ 8 月に当院に入院した多発外傷を含む TBI 76 例を 対象とした。頭蓋内損傷所見を伴わない脳震盪、慢性硬膜下血腫は除外した。主観的に睡眠の質を評価する Pittsburgh Sleep Quality Scale(PSQI)を用いて睡眠の質に関する調査を行った。【結果】上記基準を満たし た 46 例の入院時 GCS の平均値は 10.9(3-15 中央値 13)、ISS の平均値は 23.5(9-50 中央値 20)、退院時死亡率 は 26.1%であった。生存した 34 例のうち、連絡がとれない、あるいは障害により評価できなかった 14 例を 除く 20 例(平均年齢 44.5 歳)で睡眠障害の調査結果を検討した。PSQI の平均点は 3.7 点で、睡眠障害の存 在を示す PSQI ≧ 6 は 5 例(25%)で認められた。5 名のうち 1 例は受傷前から睡眠剤を内服していた。5 名の 入院時意識レベルは GCS 6-15(平均 12 中央値 13)であった。全体としては、7 つの構成要素(睡眠の質、入 眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、眠剤の使用、日中覚醒困難)に差は認められなかった。【結論】外 傷性脳損傷後にリハビリテーションを行い、社会復帰や生活の質の向上をめざす過程においては、今回検討 した睡眠障害の他にも疼痛、心因性障害が相互的に悪影響をおよぼす可能性は以前から指摘されている。今 後、前向き、かつ系統的な経時的変化の解析を polysomnograph など客観的睡眠障害評価を加えて行う予定 である。 S 06 S06-5 −5 東京都における「高次脳機能障害に対するリハビリテーション」の実態ヒアリング調査 ○渡邉 修 1)、廣實 真弓 2) 1) 首都大学東京 人間健康科学研究科、2)国立精神・神経医療研究センター病院 リハビリテーション科 【はじめに】東京都は、平成 20 年度の高次脳機能障害者実態調査において、都内在住の高次脳機能障害者を およそ 5 万人と推計し、東京都心身障害者福祉センターを障害者自立支援法に基づく高次脳機能障害支援普 及事業の支援拠点機関と位置づけ、専門相談、人材育成、普及啓発等に取り組んできた。今後は、高次脳機 能障害そのものに対するリハビリテーションの手法および支援ネットワークの構築が課題となる。そこで、 都内の認知リハビリテーションの現状についてヒアリング調査を行った。【対象および方法】都内の7つの 脳神経疾患を対象とする医療機関、7つの通所機関(市区町村の保健福祉センター等)、8つの作業所およ び4つの広域的支援機関(東京都心身障害者福祉センター、東京都立中部総合精神保健福祉センター、東京 障害者職業センター、東京障害者職業能力開発校)を訪問調査し、脳卒中および脳外傷を主とする脳損傷者 に対する認知リハビリテーションの実態を見聞し、実績を調査した。【結果および考察】急性期病院の平均入 院期間は 30 日であったが、作業療法、言語聴覚療法を中心に高次脳機能障害へのアプローチが行われてお り、軽度例は在宅へ、中等度から重度例は回復期リハ病棟等、リハ専門病院への転院が行われていたが、連 携体制の不十分さを課題とする機関があった。地域の保健福祉センターでは、高次脳機能障害者に対し、系 統的なリハプログラムを策定し、包括的支援体制をとり効果をあげている施設がみられた。作業所、授産施 設も、近年、高次脳機能障害に対する取り組みが増え、一般就労へ移行できた症例が全体で 10%程度みられた。 いずれの機関も高次脳機能障害のなかでも、特に精神症状を呈する例への対応に苦慮していた。今後、高次 脳機能障害に関するさらなる社会の理解、リハ方法の確立、連携体制の充実が求められる。 − 58 − S 06 − 6 頭部外傷後の高次脳機能障害 ○直江 康孝 1)、桑本健太郎 3)、高山 泰広 4)、高島伸之介 5)、中江 竜太 1)、田上 正茂 1)、横田 裕行 2) 1) 川口市立医療センター、2)日本医科大学付属病院 高度救命救急センター、 3) 日本医科大学多摩永山病院 救命救急センター、4)松江病院、5)埼玉脳神経外科病院 はじめに近年頭部外傷患者は減少傾向にあるが、頭部外傷後の高次脳機能障害が問題になっている。GOS では GR と評価されながらも高次脳機能障害のために復職できなかったり転職を余儀なくされたりする例 が少なくない。そこで我々は当院に搬送された頭部外傷患者で高次脳機能障害の発生の実態について調べ た。対象と方法 2008 年 1 月 1 日から同年 12 月 31 日までに当院に搬送された頭部外傷患者 111 人について retrospective に調査した。結果 111 人の頭部外傷患者(多発外傷を含む)のうち生存退院となったのは 77 人であり男性 58 人女性 19 人、平均 37 歳であった。77 例の退院時の Glasgow outcome scale(GOS)は GR63 例 、MD8 例、SD 3例、VS3 例であり、高次脳機能の評価が不可能な SD、VS を除く 71 例について検討 した。さらに GR 群および MD 群から GR に改善した 5 例を含む 68 例のうち評価不能な鬱病、引きこもり、 ADHD の 3 例を除く 65 例で高次脳機能評価が可能で、このうち 32 例(49%)で何らかの高次脳機能障害を 認めた。頭部 MRI で明らかに異常がないにもかかわらず高次脳機能障害がみられたのは 5 例であった。2 年 間のフォローが可能であった 14 例ではいずれも高次脳機能障害の改善がみられた。32 例の高次脳機能障害 患者のうち 11 例で復職、復業が確認され、5 例で復業不可能なことが確認できた。高次脳機能障害の内容と しては記銘力障害、遂行機能障害、注意障害などが多くみられ復職の妨げとなっていると考えられた。結語 頭部外傷後の後遺症として失語症、片麻痺などの外見上明らかなものだけでなく、復職の妨げとなる高次脳 機能障害が高率に存在することを認識するとともに、対応策として早期の評価とリハビリおよび地域の患者 支援システムの整備が重要と考えられる。 S 07 S07-1 −1 当院における脳神経外傷に対するチーム医療 ○石崎 竜司、桑野 愛、北川 雅史、田代 弦 静岡県立こども病院 脳神経外科 当院では 2007 年 6 月に PICU が開設されて以来、静岡県内と隣接県よりなる広域から、ヘリ搬送を含めた 小児外傷救急搬入を多数受け入れてきた。開設当初は重症でない場合も頭部外傷には全例脳神経外科医が係 わり、搬送・初期診療・患者管理等においてさまざまな問題が見られたが、primary survey の時間短縮を図り、 出来るだけ早く CT 検査に行く・脳神経外科医も JATEC の資格を取ることで PICU にて行われている初期 治療の理解をする・毎朝 PICU にて合同カンファレンスを行い、全身に亘る治療経過を共有し、日々の治療 方針を討議する・救急総合診療科を創設し、軽症の頭部外傷の治療や PICU に入院となっても手術対象でな い症例の一般病棟での管理を行うなどの工夫を行うことで、脳神経外科医の負担は大きく改善した。小児の みならず重症頭部外傷においては、チーム内での役割分担をはっきりし、それぞれの役割を確実にこなしな がら、情報交換することが重要であり、当院におけるチーム医療確立のための工夫を 初期の頃と最近の具 体的症例も提示して報告する。 − 59 − S 07 − 2 脳神経外科外傷におけるチーム医療 −医療過疎地域との画像電送システムを用いた連携医療の現状− ○高沢 弘樹、森田 隆弘、成澤あゆみ、斉藤 敦志、佐々木達也、西嶌美知春 青森県立中央病院 脳神経外科 【背景および目的】当施設のある青森県津軽地方は脳神経外科施設が少なく頭部外傷急性期治療に関しては 医療過疎地域である。当施設では、1989 年より画像電送システム(以下電送とする)を用いた遠隔医療を行 い、脳神経外科医不在の病院との連携をとってきた。その結果、現在では津軽地方約 60 万人の医療圏を支 える 11 の基幹病院から、24 時間体制で当院へ電送による紹介がなされている。本報告では電送を用いた医 療連携およびチーム医療の有用性について検討する。【方法と対象】電送システムの装置は米国イメージ社 製の photophone WS である。受信装置は脳神経外科ナースステーションに設置し、受信するとナースはす ぐに当番医に報告する。当番医は送信医師に画像をみながら対応を指示し、移送の適否について検討する。 移送する場合には当番は救命センターおよび手術部に連絡を入れ受け入れ、受け入れ態勢を整える。対象は 2005 年 1 月から 2010 年 9 月までに当科で入院加療を行った連続 644 例の頭部外傷患者を対象に電送システム 紹介患者と直接来院患者の患者背景、手術を要した患者の割合、手術入室までの時間につき後方視的に検討 した。【結果】644 例の内訳は電送 78 例、直接搬送 566 例であった。両群間において年齢、病型、意識レベル に有意差は認められなかった。手術を要した症例は電送では 78 例中 20 例(25.6%)、直接搬送は 566 例中 70 例(12.4%)で明らかに電送群の方が手術症例の割合が高かった。手術を要した症例での来院から手術室入 室までの時間を検討した結果、電送群 2 時間 13 分、直接搬送群は 2 時間 57 分と電送群で入室までの時間が 有意に短かった。【結語】電送により搬送前に手術の必要性を判断することが可能であった。さらに手術ま での時間を短縮する効果も確認できた。このことから受け入れ前の処置を含めたチーム医療の必要性を再認 識した。 S 07 S07-3 −3 外傷性脳損傷受傷早期の二次侵襲防止と転帰改善に向けたこころみ:看護の観点から ○古谷 桂子 1)、中川 敦寛 2)、荒船 龍彦 3)、鷲尾 利克 4)、宮村奈美子 2)、久志本成樹 1)、冨永 悌二 2) 1) 東北大学病院 高度救命救急センター、2)東北大学大学院 医学系研究科 神経外科学分野、 3) 東京大学大学院 工学系研究科、4)産業技術総合研究所 【背景】低血圧、低酸素血症は外傷性脳損傷受傷早期における二次侵襲の主要な因子である。救急外来(ED)、 神経集中治療室(ICU)における検討では、二次侵襲の程度、回数、持続時間は頭部単独、多発外傷に関わ らず神経学的な転帰不良と関連することが報告とされているものの、これまで看護の観点から行った報告は ない。そこで、受傷早期における二次侵襲の詳細と転帰の関係を検討した。【方法】2010 年 1 ∼ 8 月の期間に 当院に入院した外傷性脳損傷 76 例を対象とした。頭蓋内損傷所見を伴わない脳震盪、慢性硬膜下血腫は除 外した。搬送時(EMS)は搬送録、ED では 5 分毎、ICU では受傷後 72 時間以内において 1 時間毎に取得さ れているデータから低血圧(カフ圧の収縮期血圧< 90 mmHg)、低酸素(酸素飽和度< 93 %)を解析した。【結 果】上記基準を満たした 46 例の退院時死亡率は 26.1%であった。EMS では低血圧(+)症例の退院時死亡 率は 50%(なし 26.3%)、低酸素(+)症例では 50%(なし 22.9%)であった。ED で低血圧(+)症例 12 例(多 発外傷の処置中 2 例、凝固異常による術中出血 4 例)の退院時死亡率は 67%(なし 11.8%)、低酸素(+)症 例はなかった。ICU で低血圧(+)症例 16 例(鎮痛・鎮静後 3 例、痙攣後 1 例、CHDF中 1 例、尿崩症 1 例、 他臓器の出血 1 例)の退院時死亡率は 60%(なし 16.7%)、低酸素(+)症例 7 例(痰貯留2例、痙攣による 呼吸抑制 1 例、喘息発作 1 例)では 62.5%(なし 18.4%)であった。【結論】従来の報告通り、受傷早期の二次 侵襲は転帰と何らかの相関が認められる可能性が示唆された。看護師も EMS から始まる一連のチーム医療 の中で二次侵襲を意識した教育と情報共有の中心的役割を担うことで、二次侵襲発生防止に向けたより適切 な対応が可能になっていくものと考えられた。 − 60 − S 07 − 4 救命救急センターにおける緊急減圧術 − ER ナースと OP ナースとの協力体制− ○北川 篤史 1)、近藤 千恵 1)、溝口 寿代 1)、北澤美沙子 1)、松並 睦美 1)、丸山 志保 2)、 岡田美知子 2)、塩見 直人 2) 1) 済生会滋賀県病院 看護部、2)済生会滋賀県病院 救命救急センター 救急科 重症頭部外傷症例の中には緊急の減圧が必要な症例があるため、当院では救命救急センター処置室で緊急 減圧術を施行できる体制を整えている。今回、手術の準備から施行までに係る看護師の役割について、チー ム医療の観点から検討した。当院救命救急センター処置室における緊急減圧術は基本的に救急科医師が担当 し、脳神経外科医師と協力して行っている。看護師は救命救急センター看護師(ER ナース)と手術室看護 師(OP ナース)が協力して手術の準備、介助に当たっている。平日時間内(午前 8 時 30 分∼ 17 時)は手術 室課長に連絡し、OP ナースが手術器具準備および直接介助を行う。ER ナースは間接介助および患者のバ イタルチェックなど外回りを担当する。時間外は直接介助なしで行うことを原則としている。手術は気管挿 管下に全身麻酔を導入して行い、ER ナースは患者の観察記録も記載する。2008 年 4 月から 2010 年 12 月ま でに救命救急センターにおいて施行した緊急穿頭術は 29 例であり、このうち外傷性急性硬膜下血腫(ASDH) は 9 例であった。この 9 例の診断(CT 撮影)から手術開始までの時間は平均 24 分であった。救命救急セン ターにおける緊急減圧術は、診断がついてから 30 分以内に開始できることが多く、緊急の減圧が救命の鍵 となることが多い頭部外傷症例においては非常に有効性が高いと考えられる。手術の準備・介助に関しては、 重症患者の初期診療を得意とする ER ナースと手術の介助を得意とする OP ナースが協力することで、迅速 な準備と的確な介助が行える。ER ナースと OP ナースのお互いの利点を生かした協力体制について報告する。 S 07 S07-5 −5 京都九条病院における脳神経外傷患者の看護とチーム連携 ○高橋 美香 1)、芦澤 暁子 1)、南田喜久美 1)、平井 誠 2)、村上 守 2)、榊原 毅彦 2)、山木 垂水 2) 1) 医療法人同仁会京都九条病院 集中治療室看護部、2)医療法人同仁会京都九条病院 脳神経外科 当院は一次から二次救急を担う地域の中核病院である。中核病院の役割として救急搬入から退院後に至る まで患者のニーズに応えられる存在でなければならない。そのためのチーム連携は必要不可欠である。その 中でも当院が力を入れている救急医療と退院支援につき、看護の面から紹介する。当院は入院ベッド 207 床 のうち脳神経外科病棟が 50 床・ICU7 床で脳神経外傷患者に対応している。救急患者搬入時に、駆けつけら れる全ての医師と担当看護師、放射線科等のコメディカルスタッフが初期治療・看護にあたることを共通の コンセプトとして救急体制を組んでいる。この体制の下、24 時間可及的早期に画像診断・手術加療を行うこ とが可能となっている。特に神経外傷治療にはこれらの体制が必要不可欠となるため患者に携わるスタッフ すべてが正確な判断や対応が出来るように教育を行っている。ICU では GCS8 点以下の重症脳損傷患者に対 し積極的脳平温療法(以下 INT)を取り入れている。看護研究ではデータを収集しマニュアル作成や管理方 法の見直しを行っている。手技の簡便さや体温コントロールのしやすさから、医師の指示のもと看護師が主 体となって INT 導入時からの体温管理を行うことにより、INT 終了後 38℃以上の体温上昇がみられた患者 は 11.1%に留まり、39℃以上の上昇は 0%という良好な結果を得ている。また、急性期から看護師が中心と なり患者・家族、コメディカルスタッフ・介護支援スタッフと共にカンファレンスを実施し、患者の療養生 活について検討している。そして患者の生活の再構築を行いより安寧な退院生活が過ごせるように支援して いる。脳神経外傷患者に対し救急医療から退院後の生活まで幅広いケアを行うためにはコメディカルスタッ フがチームを組み連携することが重要である。今後も急性期から在宅医療まで,的確に対応していけるよう 日々チームワークを深め、患者によりよい医療・看護が提供できるように努めていく。 − 61 − S 01 − 1 − 62 − 抄 録 一 般 口 演 O 01 − 1 プロジェクト 2004 はわが国の頭部外傷の実情を反映しているか: プロジェクト 2004 と One Week Study の比較から ○小野 純一、藤川 厚、重森 稔 頭部外傷データバンク検討委員会(日本脳神経外傷学会) 【目的】頭部外傷データバンクにおけるプロジェクト 2004(P2004)は 2004-2006 年に 19 施設から登録された。 一方 One Week Study(OWS)は 2005 年 6 月の 1 週間に全国脳神経外科 A/C 項施設を対象にアンケート形 式で施行された。今回は P2004 が 2005 年当時のわが国の頭部外傷、とくに重症例の実情を反映しているか 否かを検討するために、OWS と比較分析したので報告する。【対象・方法】P2004 は 1101 例が登録され、そ のうち搬入時の Glasgow Coma Scale(GCS)score 3-8 の重症例は 826 例(75%)であった。OWS は 327 施設 から 802 例の報告があり、重症例は 107 例(13%)であった。分析項目は年齢、性別、受傷原因、GCS score、 CT 所見、多発外傷、脳神経外科的減圧術である。【結果】1)年齢:P2004 では OWS と比較して、小児例が 少なく、50 歳代が多い傾向にあった(p < 0.0001)。平均年齢(中央値)は P2004, OWS でそれぞれ 49.9(54)歳、 46.4(49)歳であった。2)性別:男性は P2004 で 71%、OWS で 70% であり、両群間に差を認めなかった。3) 受傷原因:交通事故は P2004 で 54%、OWS で 57% であり、差を認めなかった。また交通事故の内訳でも両 群間に差を認めなかった。4)GCS score の分布は両群間に差がなく、score の中央値はいずれも 5 であった。 5)CT 所見:CT の分類が P2004 と OWS で異なるため単純比較はできないが、両群ともに局所性損傷が多 かった。6)多発外傷の頻度は P2004 で 48%、OWS で 36% であり、前者で高率であった(p=0.0265)。7)脳 神経外科的減圧術の頻度は P2004, OWS でそれぞれ 32%、27% であり、両群間に差を認めなかった。【結語】 限られた検討項目ではあるが、P2004 はその当時の日本の頭部外傷重症例の実情をほぼ反映しているものと 思われる。 O 01 O01-2 −2 小児頭部外傷における JNTDB プロジェクト 2004 の位置づけ:One Week Study との比較 ○藤川 厚 1)、小野 純一 2)、重森 稔 2) 1) 千葉県循環器病センター 脳神経外科、2)頭部外傷データバンク検討委員会(日本脳神経外傷学会) 【目的】2005 年当時、頭部外傷データバンク・プロジェクト 2004(P2004)が進行中であったが、対象は主に 重症頭部外傷例であった。これに対し本邦における頭部外傷の全体像を把握する目的で、頭部外傷全入院例 を対象とした One Week Study(OWS)を 2005 年に行った。今回はそれぞれ小児例(受傷時 16 歳未満)に 注目して小児頭部外傷の特徴を比較し、P2004 の結果が何を表しているかなど、その位置づけについて検討 した。 【対象】OWS は 2005 年 6 月 20 日からの 1 週間に脳神経外科 A 項・C 項施設で入院加療した頭部外傷全例を 対象とした。小児例は全体の 19.8% を占めていた。一方、P2004 は 2004 年から 2006 年に参加 19 施設(2 次・ 3 次救急病院)で入院加療した重症頭部外傷(GCS 8 以下)全例および中等・軽症頭部外傷手術例を対象とし、 小児例は 10.1% であった。小児例の臨床像、画像所見などを両研究間で比較した。 【結果】OWS:転落・転倒 50%、交通事故 35% であった。乳幼児は転落・転倒が多く、学童期以降は転落・ 転倒と交通事故がほぼ同数であった。なお、調査票に「虐待」の選択肢がなかったため、その実態は不明である。 大多数は GCS 13 以上の軽症例であり、GCS 8 以下の重症例はわずかに 8.9% であった。びまん性脳損傷は全 体の 6.9% に過ぎず、重症例および外科的減圧術例(P2004 と同条件)に限っても 25% であった。P2004:交 通事故が 72.2% を占め、虐待は 3.0% であった。びまん性脳損傷は 56.4% を占めていた。 【結語】P2004 で見ているのは小児頭部外傷のごく一部であることに注意が必要であり、画像所見の判定方法 も OWS と P2004 では異なる可能性があった。また、近年社会問題化している虐待などを意識したデータ収 集も必要と思われた。 − 64 − O 01 − 3 神経外傷データバンクにみる高齢者外傷の変遷 ○宮田 昭宏 1,2)、中村 弘 1,2) 1) 千葉県救急医療センター 脳神経外科、2)日本神経外傷データバンク 【目的】人口ピラミッドの変化に伴い、重症頭部外傷患者は高年齢化する傾向にある。今回はこれまでに行 われた日本神経外傷データバンクの二つのデータ(JNTDB Project1998/2004)を高齢者に注目し比較検討を 行った。【対象・方法】JNTDB 登録症例中、両者に共通する 6 歳以上、搬入時 GCS8 以下の CPA 症例を除く 症例を抽出した。P1998 と P2004 両者に登録した 8 施設について P1998 登録分を A 群(777 例)、P2004 登録 分を B 群(539 例)とし、P2004 から登録した 11 施設登録分を C 群(474 例)に区分した。検討 1: A 群と B 群の比較にて同一母集団における年次変化を検討、検討 2: B 群と C 群を比較し同一時期の施設特性による 差異を検討した。年齢層は 65 歳以上、75 歳以上に区分し、年齢割合、男女比、受傷機転、外科治療、転帰 について比較した。予後は退院時 GOS として Good(GR/MD)、Fair(SD/V)、Dead(D)に分類した。【結果】 検討 1: 65 歳以上は A 群で 31.3%、B 群 36%、75 歳以上で A 群 15.7%、B 群 19.7%。65 歳以上の男性の割合 は 66.3% から 62.4% に減少した。交通事故の割合は高齢層ほど減少した。開頭術は 65 歳以上 A 群 38.3%、B 群 32.5%、75 歳以上 A 群 36.0%、B 群 27.4% と減少したが、転帰は各年齢層で死亡率が減少した。検討 2: B 群、 C 群間で年齢齢構成に差は見られない。65 歳以上の開頭術の割合は B 群 32.5%、C 群 51.1%、75 歳以上でも B 群 27.4%、C 群 50.0% と差が認められ、転帰は 65 歳以上で B 群 Good/Fair/Dead(%): 19.0/34.5/46.4、C 群 16.2/37.6/46.2、75 歳以上では B 群 13.2/37.7/49.1、C 群 11.8/32.9/55.3 であった。【結論】高齢者に対する 外傷治療は、機能予後など未知な部分が多く方針は各施設の判断に任されているのが現状である。多施設デ ータから高齢者に対する治療と転帰を検討することにより、症例毎に適切な治療を選別していくことが必要 である。 O 01 O01-4 −4 GCS 3 点の重症頭部外傷の現状:頭部外傷データバンクから ○卯津羅雅彦 順天堂大学医学部附属静岡病院 救急診療科 (頭部外傷データバンク検討委員会) 【目的】GCS スコアが 3 点の重症頭部外傷の転帰は不良で、治療手段介入を躊躇する場合も考えられる。頭 部外傷データバンクに登録された GCS 3 点症例の現状を検討した。【方法】参加 19 施設に登録された 1101 例 の頭部外傷のうち、GCS で 8 点以下の重症頭部外傷は 805 例あり、このうち GCS が 3 点であった 215 例を検 討の対象とした。これらを退院時転帰から、生存(S)群(51 例)と死亡(D)群(164 例)に分類し、各群間 を比較検討した。【結果】年齢と受傷機転は、両群間に差はみられなかった。来院時 CPA(S 群 3/50 例;6%、 D 群 41/164 例;25%)は、D 群に多くみられた。収縮期血圧(S 群 /D 群:132.7/ 97.8)、心拍数(100.0/78.3)、 呼吸数(22.0/14.8)はいずれも S 群が高かったが、体温(35.7/35.5)には差はみられなかった。瞳孔異常(S 群 19/51 例;37.3%、D 群 146/163 例;89.6%)は、D 群に多くみられた。pH、PaO2、PaCO2 は両群間に差 はみられなかったが、血糖(184.0/230.0)は D 群が高かった。ISS は、S 群 24.9,D 群 33.2 点と D 群が高く、 特に頭頚部(4.2/4.5)、胸部(2.4/3.7)、腹部(1.4/2.6)、四肢(1.6/2.5)において D 群が高かった。画像所見 では、diffuse injury と mass lesion の割合は両群間に差はなかったが、頭蓋底骨折(S 群 10/34 例;29.4%、 D 群 59/128 例;46.1%)は D 群に多くみられ、頭蓋内空気(S 群 8/48 例;,D 群 53/158 例;33.5%)とく も膜下出血(S 群 29/49 例;59.2%、D 群 126/156 例;80.8%)も D 群で多くみられた。退院時転帰は GR8、 MD7、SD11、VS26、D163 例であった。【結論】GCS3 点の重症頭部外傷では、頭部外傷の重症度も高いが、 体幹部により重症外傷を受傷しているため、生存率は 24%にすぎなかった。そのため、頭部だけでなく全 身の外傷への対応を同時に行うことの重要性が再認識された。 − 65 − O 01 − 5 頭部外傷データバンク Project 2009 第1期データにおける飲酒の有無の影響 ○奥野 憲司 1,2)、小川 武希 1,2) 1) 東京慈恵会医科大学 救急医学講座、 2) 頭部外傷データバンク検討委員会(日本神経外傷学会、日本交通科学協議会) 【背景】頭部外傷データバンク(JNTDB)では、これまで本邦における頭部外傷の実態調査をする目的で、 Project 1998(P1998)と Project 2004(P2004)の二つの大規模研究を行ってきた。これまでの2回のデータ において、飲酒運転の罰則強化により飲酒交通事故例が減少していることを報告し、これはまた交通事故防 止にむけた法整備が、社会的損失を防いでいることの確認となった。現在 2009.7.1 から Project 2009(P2009) が始まり、新たなデータ収集を行っている。【目的】今回、P2009 の第1期データにおける飲酒頭部外傷患者 の傾向について、P1998,P2004 と比較検討する。【方法】P2009 が開始された 2009.7.1 から 2009.12.31 入院まで の、第1期データとして登録された 281 例のうち、飲酒の有無、交通事故と非交通事故にわけて分類し比較 検討した。 【結果】1)P2009 に登録された重症頭部外傷 281 例のうち、飲酒ありと判定されたのは 52 例であり、 全体の 18.5% であった。2)飲酒頭部外傷 52 例のうり、交通事故は 20 例で、全体の 7.1% を占め、前回比 +0.7 ポイントであった。一方、非交通事故は 32 例(11.4%)で、前回比 +2 ポイントであった。3)飲酒交通 事故患者は 20 代と 60 代に多かった。一方、飲酒非交通事故患者は、60 代に 1 峰性のピークを認め、P2004 と同じ傾向であった。【考察】JNTDB P2009 に登録された重症頭部外傷患者のうち飲酒関連事故では、非交 通事故患者が増加傾向にあり、特に 60 代に多い傾向が P2004 と同様に認められた。引き続き P2009 のデー タを検索し、その対策について検討する必要があると考えられた。 O 01 − 6 脚立・梯子からの転落による頭部外傷の検討 ○清川 樹里、高里 良男、正岡 博幸、早川 隆宣、八ッ繁 寛、重田 恵吾、住吉 京子、 百瀬 俊也、前田 卓哉 国立病院機構災害医療センター 脳神経外科 【背景】脚立からの転落による頭部外傷は、上方視での作業中に後方へ転落し、頭部から墜落することが多く、 過去の報告からもその予後は不良であることが多い。今回、当院に搬送された症例について臨床的検討を行 った。 【方法】対象は 1995 年 12 月より 2010 年 11 月の 16 年間に脚立・梯子からの転落し、当院に搬送された頭部外 傷患者 60 例とし、後ろ向きにデータを収集した。転帰は退院時 GOS で、D/VS/SD を転帰不良群、MD/GR を転帰良好群と 2 群に分類した。 【結果】対象患者は男性 52 例、女性 8 例で、平均年齢は 61.8 歳(男性:63.0 歳、女性:56.1 歳)であった。このうち、 観血的治療を行ったのが 11 例(開頭血腫除去および外減圧術:9 例、HITT 及び血腫除去、外減圧術:1例、 HITT のみ:1例)で、残りの 49 例は保存的療法を行った。脚立転落の転帰不良群は 9 例、転帰良行群は 34 例、梯子転落の転帰不良群は 7 例、転帰良好群は 9 例であった。落下高度は転帰不良群で平均 2.32m、転帰 良好群で平均 2.11m と有意差は認められなかった。しかし、60 歳以上の高齢群と 59 歳以下の若年群に分類 して検討を行ったところ、脚立転落では転帰不良群の全例、梯子転落では転帰不良群の 86%を高齢群が占 めることが確認された。 【結論】元来、脚立からの転落による頭部外傷は後方へ転落しやすいという脚立の性質から重症化すると考 えられていたが、今回年齢別に分類し検討したところ、梯子からの転落においても同様の結果が得られた。 高齢者の高所での作業においては、十分な安全対策が必要であることが改めて明らかとなった。 − 66 − O 02 − 1 当院における急性硬膜下血腫 90 例の検討 ○雄山 博文、鬼頭 晃、槇 英樹、服部 健一、野田 智之、丹羽 愛知 大垣市民病院 脳神経外科 【はじめに】当院における急性硬膜下血腫症例を検討し、過去の内科的治療歴や基礎疾患と予後との関係を 得たので報告する。【症例】過去 5 年間に入院治療した、急性期の急性硬膜下血腫 90 例を検討した。出血に 関係のある、過去の治療、基礎疾患でみると、ワーファリンもしくはワーファリンと抗血小板剤の内服 17 例、抗血小板剤 1 剤もしくは 2 剤の内服 8 例、血液透析 1 例、DIC もしくは MOF2 例、肝臓障害 3 例、白血 病 1 例、血小板減少 4 例、VP shunt1 例であった。受傷機転は転倒 46 例、転落 12 例、交通外傷 16 例、殴打 1 例、揺さぶり 1 例、受傷機転の無いもの 14 例であった。【結果】受傷機転の無いものが 14 例認められたが、 うちワーファリン内服、抗血小板剤内服、DIC、肝臓障害、血小板減少、VP shunt 等の出血に関係のある、 過去の治療、基礎疾患のあるものが 10 例認められ、受傷機転のあるもの 76 例中 49 例が過去の治療、基礎疾 患がなかったことをみると、出血に関係のある過去の治療、基礎疾患のあるものは有意に外傷無しで出血す ることが多かった。手術は 16 例で必要であった。術後の ADL は社会復帰 7 例、家庭内復帰 20 例、介助で の家庭内復帰 21 例、寝たきり 16 例、植物状態 6 例、死亡 20 例であった。経過中 7 例で hyponatremia を、4 例で脳梗塞を併発した。尚、入院中慢性硬膜下血腫になったものは 12 例あり、内 3 例で穿頭手術が行われた。 退院後慢性硬膜下血腫の手術のために再入院となった症例は認められなかった。出血に関係のある過去の治 療や基礎疾患を有する症例 37 例中、死亡が 12 例あったのに対し、過去の治療や基礎疾患を有しない症例 53 例中死亡は 8 例であり、わずかに優位差はでなかったが、出血に関係のある過去の治療や基礎疾患を有する 群で死亡例がかなり多かった。【考察】出血を生じ易い薬剤を内服したり、出血性素因を生じる基礎疾患を 有する患者は、出血を生じ易くまた予後も悪いため、注意を要する。 O 02 − 2 脳室−腹腔シャント留置患者における外傷性急性硬膜下血腫:8例の検討 ○相場 豊隆、渡邉 徹、平石 哲也、藤原 秀元 新潟県立新発田病院 脳神経外科 これまで腰椎−腹腔シャント(LPS)留置患者における外傷性急性硬膜下血腫についてはいくつか報告があ るが、脳室腹腔シャント(VPS)留置患者ではまとまった報告が無い。今回われわれは当院の VPS 患者にお ける外傷性急性硬膜下血腫の病態を検討してみた。症例:対象は 2002 年以降当院に入院した外傷性急性硬膜 下血腫 177 例のうち、 すでに VPS が留置されていた 8 例である。受傷時の年齢は 51 歳から 87 歳 (平均 71.9 歳) で男性 3 例、女性 5 例であった。VPS 留置のきっかけとなった疾患はくも膜下出血 7 例、聴神経腫瘍 1 例で、 全例開頭手術がなされていた。抗血小板剤や抗凝固剤の使用例は無かった。VPS 留置から受傷までは 33 日 から 1381 日の間隔であった。受傷機転は転倒 7 例、階段転落 1 例であり、うち施設内発症が 3 例で、飲酒時 の転倒は男性の 2 例であった。血腫の発生側は VPS と同側が 5 例、反対側 3 例であったが、VPS 付近からの 出血を思わす例は無かった。VPS は圧可変式が 5 例であったが、それ以外の例も含めて全例 10cmH2O 以下 の圧に設定してあった。以前の開頭範囲に血腫があったのは 10 年前の開頭の 1 例のみで、VPS を置くきっか けとなった手術の反対側であった。受傷前の CT で 4 例にうすい硬膜下水腫が見られたが血腫の発生側と関 連は無いと思われた。開頭手術は 2 例に施行され、出血源は脳皮質動脈 1 例と不明 1 例であった。予後は病 前レベル復帰 6 例、mRS 4から 5 への悪化 1 例、死亡 1 例であった。考察:以前の報告で VPS では LPS と 比較して軽度頭部外傷による急性硬膜下血腫は少ないという記載があり、また LPS 症例 206 例中 4 例で発生 したとの報告もある。当院では 2002 年以降 151 例の VPS 手術が施行されているが、うち 8 例で発生が見ら れ患者群の違いはあるが LPS より発症が少ないということはないと思われた。原因のほとんどが転倒なのは 病前の状況によるものと思われた。今回は VPS と血腫の状況に明らかな関連は見出せなかった。 − 67 − O 02 − 3 非典型的な急性硬膜下血腫の 2 例 ○原 睦也、戸根 修、玉置 正史、佐藤 洋平、廣田 晋、澤田 佳奈、富田 博樹 武蔵野赤十字病院 【症例1】79 歳男性自宅で転倒して頭部を打撲。しばらくして意識レベルが低下し、救急車で他院に搬送さ れた。頭部CTでテント下に限局した急性硬膜下血腫を認め、当院に搬送された。来院時 GCS11(E4V1M6) で開頭血腫除去術を検討したが、血小板 0.6 万と異常低値であり、これを断念した。翌日水頭症に対して脳 室ドレナージ術を行った。第 39 病日 GCS13(E3V4M6)、mRS 4、経管栄養で転院した。テント上下の硬膜 下血腫は新生児期にみられることがあるが、それ以外では稀である。テント周囲の急性硬膜下血腫の原因と してテント断裂や架橋静脈の損傷があげられており、多くは軽症である。しかし、抗凝固療法中や血液疾患 の合併による報告もなされており、本症例の経過は血小板低下が関係しているのではないかと考えられた。 【症例 2】63 歳男性植木職人で 8 時 30 分ごろ高所(約 3-4m)から転落し、救命救急センターに搬送された。 GCS14(E3V5M6)で 9 時の頭部 CT で薄い急性硬膜下血腫を認め、保存的治療を行った。既往となる基礎疾 患はなかった。13 時 30 分、16 時 30 分の follow-up CT で少しずつ血腫が増大していたが意識レベルに変化 はなかった。17 時意識レベルが低下し、右瞳孔散大となった。CT で血腫の増大、midline shift を認め、緊 急で開頭血腫除去術・外減圧術を行った。術中所見で active bleeding はみられなかった。第 57 病日 GCS10 (E3VTM6)、mRS 5、経管栄養で転院した。この症例の経過は talk and deteriolate に類似しているが、患 者は 60 代であり、高齢者特有の talk and deteriolate とは言い難い。また出血性素因がないにも関わらず、 CT 撮影の度に出血が増大し、一瞬にして切迫脳ヘルニアを呈した。しかし、術中所見で明らかな出血源は 認められなかった。この経過を遅発性出血と言ってもよいかもしれないが、原因について考察したい。 O 02 − 4 亜急性期に急性増悪した急性硬膜下血腫 3 例 ○荻田 庄吾 、梅澤 邦彦、竹上 徹郎、木村 聡志 京都第一赤十字病院 脳神経外科 【はじめに】急性硬膜下血腫(ASDH)を、神経学的異常の殆どない軽症頭部外傷の CT にて、認めることがある。 その軽症 ASDH 群の中に、亜急性期に急速に症状を呈する、亜急性硬膜下血腫(SASDH)の存在も知られ ている。経験した SASDH 3 例を元に、治療上の留意点を検討した。【症例1】70 歳男性。脳梗塞の既往、抗 血小板剤内服中。転倒受傷 2 日後に不可解な行動増悪、救急搬送。入院時 JCS:2、麻痺なし。頭部 CT にて 軽度右 ASDH を認め保存的加療開始。受傷 9 日目に独歩退院。退院後 2 日目に左上下肢不全麻痺出現、再入院、 血腫増大と midline shift 出現。痙攣重積となり、受傷 14 日目に穿頭血腫除去術施行。受傷 44 日目にリハビ リ転院(転院時、JCS:2.麻痺なし)。【症例 2】74 歳男性。Paf に対しワーファリン内服中。転倒し救急搬送。 CT にて軽度左 ASDH を認め、入院。入院時 JCS:2、麻痺なし。保存的加療開始。受傷 6 日目に痙攣重積 となり、CT にて血腫増大及び midline shift 出現、開頭血腫除去術施行。受傷 46 日目にリハビリ転院(転院時、 JCS:2. 麻痺なし)。 【症例 3】53 歳女性。既往にアルコール性肝硬変。抗血小板剤内服なし。飲酒後に頭部打撲。 受傷 3 日後に嘔吐出現し救急搬送。入院時 JCS:1、麻痺なし。CT にて軽度左 ASDH を認め保存的加療開始。 入院時採血にて INR1.1、PLT8 万。受傷 4 日後に左不全麻痺出現。その後、血腫は徐々に増大、右不全麻痺 も増悪。意識障害出現したため、受傷 11 日目に開頭血腫除去術施行。術後、麻痺は速やかに改善、受傷 32 日目に自宅退院。 【考察】初診時軽症の ASDH 症例の中には、亜急性期に急激に症状を呈する一群が存在する。 手術の timing を失しないように、ASDH 症例は、軽症でも慢性期まで厳重な監視が必要である。 − 68 − O 02 − 5 「thin subdural hematoma」症例の検討 ○平井 誠 1)、村上 守 1)、榊原 毅彦 1)、松井 淳琪 2)、山木 垂水 1) 1) 京都九条病院 脳神経外科、2)京都九条病院 救急科 急性硬膜下血腫は、軽症例では血腫が薄く軽度の意識障害や神経脱落症状を呈するのみの場合が多い。ま た、重症例では入院時より厚い血腫が存在しそれに伴う脳への圧迫所見及び正中構造偏位が認められ重度 の意識障害、神経脱落症状を呈し可及的早急に手術を要するものと、重度の意識障害、神経脱落症状を呈 するものの、正中構造偏位も顕著でないいわゆるびまん性損傷 type III(一部 type II)に薄い硬膜下血腫 を伴った症例が存在する。このような症例を「thin subdural hematoma」と呼ぶことがある。この「thin subdural hematoma」症例において薄い硬膜下血腫を手術により除去すべきか判断に難渋することがある。 今回、われわれは「thin subdural hematoma」症例について検討したので報告する。2005 年 1 月から 2010 年 12 月までに当院で経験した頭蓋内病変を伴う急性期頭部外傷症例 176 例の内急性硬膜下血腫症例は 58 例で、 GCS8 以下の重症例は 13 例であった。そのうち「thin subdural hematoma」症例は 4 例であった。当院では、 GCS8 以下の症例には、原則として ICP monitor を装着し積極的脳平温療法を行っている。「thin subdural hematoma」症例には、全例 ICP monitor を装着し積極的脳平温療法を行った。1 例は ICP monitor 装着時よ り ICP 亢進が認められ直ちに手術を行った。1 例は徐々に ICP コントロールが不能となり手術を行った。残 り 2 例は保存的加療を行った。結果は、GR:2 例、SD:1 例、D:1 例で、予後不良 2 例は手術群であった。「thin subdural hematoma」症例の手術適応、手術時期などについて検討する。 O 02 − 6 重症急性硬膜下血腫症例に対する集学的治療の検討 正岡 博幸、高里 良男、早川 隆宣、八ツ繁 寛、重田 恵吾、住吉 京子、百瀬 俊也、 前田 卓哉、清川 樹里 国立病院機構災害医療センター 脳神経外科 【目的】当施設では重症急性硬膜下血腫に対しては減圧開頭血腫除去を行い、脳腫脹のつよい例には脳低温 療法(HT)を加えて治療を行っている。今回、この治療の有用性と限界について検討した。【方法】対象は、 脳低温療法を治療に導入するようになった 1996 年 8 月以降、減圧開頭血腫除去を施行した CT 上血腫が 5 m m以上の急性硬膜下血腫 132 例(男性 96 例、女性 36 例、7 − 95 歳、平均 51.0 歳)とした。この症例群の年 齢、来院時 GCS、瞳孔所見、CT 上の血腫サイズ・正中偏位を退院時 GOS と比較した。また、正中偏位の 方が血腫サイズより大きい半球に脳腫脹が加わったと思われる群(A 群:69 例)と血腫サイズの方が正中偏 位より大きい血腫群(B 群:63 例)の 2 群にも分けて検討した .HT は 54 例で施行した。【成績】全症例の来 院直後の平均 GCS は 6.3、転帰は GR18、MD19、SD13、VS18、D64。機能予後良好は 28%みられるが死亡 率も 48%だった。A 群 GR/MD20、D36。B 群は GR/MD 17、D28。1)年齢:GR/MD は A 群では 69 歳の 1 例を除けば 50 歳まで、B 群は 65 歳まで見られた。2)来院時 GCS:GR/MD は A 群で 3、4 にも 2 例(全例 HT)、B 群で 3、4 で 4 例(3 例が HT)みられた。3)瞳孔異常:GR/MD は A 群で 10 例(HT8 例)。B 群で 9 例(7 例 HT)。4)血腫サイズ:GR/MD は A 群で 14mm まで、B 群で 17mm まで見られた。5)正中偏位: GR/MD は A 群で 22mm の 1 例を除けば 14 mmまで、B 群で 15mm まで見られた。【結論】重症急性硬膜下 血腫に対して外減圧を行い、脳低温療法を加えることで 28%の患者で機能予後良好となったが、脳腫脹の 加わった症例では 50 歳以上、術前の CT 上 14mm 以上の血腫サイズ、14mm 以上の正中偏位では予後不良 であった。 − 69 − O 03 − 1 亜急性硬膜下血腫に対する柴苓湯の治療効果− 3 症例の検討 ○長谷川 秀、松元 淳、西川 重幸、工藤真励奈、三浦 正毅 熊本赤十字病院 脳神経外科 【目的】柴苓湯は利水作用、抗炎症作用、内因性ステロイド分泌促進作用を有しているとされ、慢性硬膜下血 腫に対して有効性があるとの報告がある。亜急性硬膜下血腫の成因から、柴苓湯による治療効果があるので はないかと考え投与を行った。【方法】臨床経過や頭部 CT で亜急性硬膜下血腫と診断し、保存的に経過をみ ると判断した 3 症例に対して、柴苓湯 6.0 g / 日を投与した。【結果】症例 1.アルコール性肝硬変の 54 歳男 性。某日転倒して受傷。厚さ 12 mm の右急性硬膜下血腫あり。保存的に加療。受傷後 14 日経過の頭部 CT で亜急性硬膜下血腫(厚さ 16 mm)の診断。無症候であったが、脳実質への圧迫所見があったため、柴苓湯 の内服開始。受傷後 34 日、柴苓湯内服後 21 日で血腫は縮小。症例 2.既往のない 66 歳女性。某日転倒して 受傷。厚さ 5 mm の左急性硬膜下血腫あり。保存的に加療。受傷後 26 日の頭部 CT で亜急性硬膜下血腫(厚 さ 17 mm)の診断。無症候であったが、脳実質への圧迫所見があったため、柴苓湯の内服開始。受傷後 89 日、 柴苓湯内服後 63 日で血腫は消失。症例 3.人工弁術後の 27 歳女性。人工弁術前の MRI では硬膜下血腫なし。 某日頭痛と左半身麻痺が出現。頭部 CT で厚さ 14mm の右亜急性硬膜下血腫あり。抗凝固療法を中止できる 状態でなかったため、手術はせず柴苓湯の内服で保存的加療施行。柴苓湯内服後 5 日で麻痺は改善し、内服 後 13 日で血腫は消失。【結論】症例は少ないが、亜急性硬膜下血腫に対して柴苓湯は治療効果があったと考 えられる。また急性硬膜下血腫は、亜急性期を経て慢性硬膜下血腫になる場合もあり、亜急性期に血腫増大 が予防できれば慢性硬膜下血腫の発生は抑えることができると考えられる。従って、柴苓湯は亜急性硬膜下 血腫及び慢性硬膜下血腫に対して内科的治療薬になる可能性が示唆された。 O 03 O03-2 −2 慢性硬膜下血腫再発例に対する内視鏡下手術の検討 ○横須賀公彦、宮本 健志、戸井 宏行、松崎 和仁、松原 俊二、平野 一宏、宇野 昌明 川崎医科大学 脳神経外科 【はじめに】慢性硬膜下血腫に対する穿頭術は確立された手術であるが、約 10% に再発を認め、再発例に対 する治療法は様々である。近年、慢性硬膜下血腫再発例に対し内視鏡下手術が有用であったとの報告がある。 我々は、2008 年より慢性硬膜下血腫再発例に対して積極的に内視鏡下手術を行っており、その結果について 報告する。 【対象と方法】2004 年 1 月から 2010 年 6 月の間に当院では慢性硬膜下血腫 248 例に対して 275 回の穿頭術を 行ったうち、再発症例 26 例に対して 31 回の穿頭術を行った。再発回数は 1 回が 21 例、2 回が 3 例、3 回が 1 例、4 回が 1 例で、再発例に同様の穿頭術を行っても再発する傾向があった。これら再発例のうち、難治性 の 6 例で神経内視鏡下手術を施行した。 【結果】神経内視鏡手術を行った症例の平均年齢は 79 歳(55-93 歳)、手術側の内訳は右側 5 例、左側 1 例で あった。手術は局所麻酔下に穿頭部はリュウエルを用いて拡大し、硬性鏡で血腫腔内を観察した。梁柱は切 断し、モノポーラーで凝固止血した。また、血腫腔内の oozing 部にはサージセルやフィブリン糊を用いて 可能な限り止血を行った。十分に血腫腔内を洗浄した後、硬膜下ドレナージチューブを留置し閉創した。ド レナージチューブは頭部 CT で血腫や空気の残存量に応じて術後 1-7 日で抜去した。6 例とも神経内視鏡下手 術後の再発は認めなかった。 【結語】再発を繰り返す難治例には中硬膜動脈塞栓術や開頭術が有用との報告がある。内視鏡下手術は低侵 襲で行え、再発予防に有用な方法の一つと考えられた。 − 70 − O 03 − 3 最近の慢性硬膜下血腫の患者背景の特徴 ○村上 陳訓、刈茅 崇、伊林 範裕 済生会京都府病院 脳神経外科 【はじめに】慢性硬膜下血腫は、その臨床的な特徴から、認知症との鑑別が重要視されてきた。しかし、近年、 超高齢者や認知症患者の増加により、典型的な臨床経過をとる症例ばかりではなくなった。そこで、最近の 慢性硬膜下血腫の患者背景を分析し、診療の注意点を検討した。【方法】2004 年 1 月から 2010 年 12 月までに 当院で手術を施行した 108 例を検討対象とし、患者背景として、年令、性別、症状、認知症を含む既往症、 抗血栓療法の有無等について検討した。 【結果】年齢は 42 歳から 98 歳までで、平均 77.9 歳であった。男女比は、 男性 76 例、女性 32 例であった。症状は、運動麻痺が 96 例(89%)で、最も頻度が高く、JCS10 以上の意識 障害を認めたのは 24 例であった。病前から認知症の診断を受けていた患者は 31 例(29%)であった。また、 療養型病院や介護施設からの紹介が 17 例、これらの患者は、1 例が介護施設から療養型病院に移ったが、そ の他は紹介元に転院した。また、自宅から入院した 1 例が、介護施設に入所した。アスピリン等の抗血栓療 法を受けているのが 17 例、外傷の既往が明らかなのは 61 例であった。手術はすべて穿頭洗浄術で、ドレー ンを 1 日留置しているが、再発は 11 例で認めた。【考察】本検討症例の 29%で、病前より認知症を認めたが、 今後も慢性硬膜下血腫に罹患する認知症の患者は増加すると予想される。認知症の患者では、外傷の既往が はっきりしなく、軽度の神経症状の出現を察知するのも困難である。また、病院や施設など自宅外で生活さ れている場合、担当者の交代により、日々のわずかな変化にも気づきにくく、診断が遅れる可能性が危惧さ れる。治療の時期を逸しなければ、良好な転帰が期待できる疾患なので、かかりつけ医や療養型病院や介護 施設のスタッフに対する啓蒙活動が今後重要になると考えられた。 O 03 − 4 慢性硬膜下血腫の月毎の症例数・再発率の検討 ○山田 哲久 1)、村田 秀樹 2)、前田 善久 2)、今本 尚之 2)、由比 文顕 2)、名取 良弘 2) 1) 飯塚病院 救急部、2)飯塚病院 脳神経外科 【背景】慢性硬膜下血腫の発生頻度および再発率に関して季節性は報告されていない。今回月毎に症例数お よび再発率を検討したので報告する。 【対象・方法】当院で 2000 年 1 月∼ 2009 年 12 月までに穿頭術を行なった慢性硬膜下血腫 771 症例を対象とし て月毎の症例数、再発率を検討した。 【結果】穿頭術を行った 771 症例のうち再発症例は 88 症例であり、再発率は 11.4%であった。各月毎の症例 数及び再発率は、1 月 56 症例、16.1%、2 月 54 症例、9.3%、3 月 50 症例、16.0%、4 月 75 症例、10.1%、5 月 68 症例、11.8%、6 月 53 症例、11.8%、7 月 79 症例、17.7%、8 月 89 症例、13.5%、9 月 79 症例、12.7%、10 月 68 症例、5.9%、11 月 42 症例、7.1%、12 月 58 症例、1.8%であった。症例数は 8 月に多く、11 月に少なか った。再発率は 7 月に高く、12 月に低かった。また、外傷症例では受傷から初回手術まで平均 67.9 日であった。 【考察】症例数に関しては、春季に活動的になり外傷が多くなりその後の経過で夏季に慢性硬膜下血腫を発 症し症状を呈するからと考えられた。夏季に再発率が高い原因として、気温が高く脱水傾向が脳の腫脹を抑 制する可能性が考えられた。今後更なる検討が必要である。 − 71 − O 03 − 5 慢性硬膜下血腫の手術方法の検討、再手術以外の観点から ○村上 健一、宗本 滋、熊橋 一彦、南出 尚人、上野 恵 石川県立中央病院 脳神経外科 【目的】慢性硬膜下血腫は、治療する頻度が多い疾患でありながら、手術方法にコンセンサスがない。今回、 同一施設で手術方法のみを穿頭洗浄ドレナージ術から穿頭ドレナージ術に変更し、何が変わったかを検討し たので報告する。【対象】当院で手術施行し、再手術なく外来で治癒まで追跡できた症例。平成 20 年4月∼ 21 年3月は穿頭洗浄ドレナージ術を 22 例に施行し、21 年5月∼ 22 年7月は穿頭ドレナージ術を 16 例に施 行した。各々について、手術時間、入院期間、加療期間(手術日から最終外来日までの期間)について検討 した。【結果】今回の対象からはずれているが、再手術は穿頭洗浄ドレナージ術 18.2%、穿頭ドレナージ術 6.3%であった。手術時間は、一側では穿頭ドレナージ術が優位に短かった(穿頭洗浄ドレナージ術 46.9 ± 20.4 分、穿頭ドレナージ術 27.2 ± 7.2 分 p< 0.05)。両側では、穿頭ドレナージ術が平均は短かったが優位 差を認めず(穿頭洗浄ドレナージ術 71.3 ± 13.1 分、穿頭ドレナージ術 54.0 ± 15.2 分 p> 0.05)。入院期間は、 穿頭ドレナージ術が平均は短かったが優位差を認めず(穿頭洗浄ドレナージ術 17.4 ± 12.5 日、穿頭ドレナー ジ術 13.1 ± 7.1 日 p> 0.05)。加療期間は、穿頭ドレナージ術では 121 日以上の長期通院は減少した(穿頭 洗浄ドレナージ術6例、穿頭ドレナージ術2例)。また、平均も短縮されたが優位差を認めず(穿頭洗浄ド レナージ術 108.0 ± 81.0 日、穿頭ドレナージ術 81.7 ± 42.1 日 p> 0.05)。【結論】穿頭ドレナージ術に変更し、 一側の手術時間以外に優位差は認められなかったが、平均では手術時間、入院期間、加療期間とも短縮され た。医師の立場からも患者の立場からも、穿頭洗浄ドレナージ術より穿頭ドレナージ術が勧められる。 O 03 − 6 慢性硬膜下血腫穿孔洗浄術における人工髄液アートセレブ使用の検討 ○中村 達也、大橋 智生、冨田 丈博、三木 保 東京医科大学 茨城医療センター 脳神経外科 【目的】慢性硬膜下血腫は一般に穿孔洗浄術で容易に治癒可能な疾患である。しかし約10%が再発し再手 術が必要になる。血腫穿孔洗浄術に従来使用している生理食塩水の代わりに、人工髄液アートセレブ ? を使 用した場合の再発率、安全性について検討した。 【方法】手技は従来法と同じく局麻下、1箇所の穿孔からカテーテルを血腫腔内へ挿入し洗浄。アートセレブ 500ml を約 36 度に加温したものを点滴ラインを用い自然滴下、又は 20cc シリンジを用いて注入した。2007 年8月∼ 2009 年7月までの生理食塩水を使用した 50 例(Ns 群)と 2009 年8月∼ 2010 年 11 月までのアート セレブ群 50 例(Ar 群)で比較検討した。 【結果】慢性硬膜下血腫再発がNs群で7例(14%)、Ar 群で4例(8%)であり有意差は認められませんで したが Ar 群の方が、再発が少ない傾向が見られた。また、周術期合併症は両群とも認めなかった。再発の 有無を抗凝固薬(アスピリン・プロピドグレル・シロスタゾール・ワーファリン)の有無で比較検討すると、 術前後に抗凝固薬を使用していない場合、Ns 群 43 例中5例(12%)が再発、Ar 群 38 例では再発はなくア ートセレブでの血腫洗浄は極めて有用と考えられた。抗凝固薬を使用例では、Ns 群7例中2例(28%)が再発、 Ar 群 12 例中4例(33%)に再発がありほぼ同率であった。特にアスピリンとプロピドグレル内服併用例に 再発しやすい傾向であった。 【考察・結語】アートセレブは慢性硬膜下血腫の洗浄液としての安全性が確認された。また再発率も少ない 傾向にあった。これはアートセレブに 2.3%の Ca イオンが含まれており、血腫外膜からの止血に有利に働き 治癒を促進し再発を減少させた可能性が示唆された。 − 72 − O 03 − 7 慢性硬膜下血腫における両側性血腫についての検討 ○藤巻 高光、小林 正人、宮内 浩、伏原 豪司、根木 宏明、大川原 舞、 上宮奈穂子、竹田理々子、太田 実紀 埼玉医科大学病院 【目的】慢性硬膜下血腫における両側性血腫の臨床的特徴について検討する。【対象・方法】過去3年間に埼 玉医科大学病院で穿頭ドレナージ術を施行された慢性硬膜下血腫 77 例 81 回の手術について、両側性の頻度、 再発等について検討した。【結果】症例の年齢は 29-97 歳(平均 72.1 +/− 14.5)女性 27 例、男性 50 例。右 29 例、左 33 例、両側性を 19 例(23%)に認めた。19 例中 12 例で両側、7 例に片側のみの手術が施行された。 再手術を4例(4.9%)に必要とした。同側の再手術1例、反対側の再手術2例、両側性の両側性再手術1例 であったが、両側性で片側のみ初回手術を施行した例で反対側の手術を必要とした例はなかった。【結論】 慢性硬膜下血腫手術時に反対側にわずかな血腫を認める両側性血腫の場合、反対側の手術が必要となる可能 性は低いものと考えられた。 O 04 − 1 外傷性頭蓋内動脈解離の臨床的検討 ○刈部 博 1)、亀山 元信 1)、川瀬 誠 1)、平野 孝幸 1)、伊藤 明 1)、冨永 悌二 2) 1) 仙台市立病院 脳神経外科、2)東北大学大学院 医学系研究科 神経外科学分野 【背景・目的】外傷性頭蓋内動脈解離の臨床的特徴について、小児と成人の違いを主眼に検討する。【対象・ 方法】2001 年 1 月∼ 2010 年 12 月の 10 年間に当科で入院・治療を行った外傷性頭蓋内動脈解離 22 例(男性 12 例:女性 10 例、年齢 0 ∼ 79 歳)を対象とした。診療録の記載から、性差、受傷機転、発症様式、解離部位、 合併する頭蓋内病変、転帰等についてレビューし、疫学的事項や臨床像の特徴について検討するとともに、 対象を 15 歳未満の小児例(9 例)と 15 歳以上の成人例(13 例)に分けての検討を加えた。【結果】外傷性動 脈解離の発生頻度は、小児が成人よりも高頻度であった。性差は小児例と成人例の間に差はなかった。受傷 機転は、転倒・転落 6 例、スポーツ外傷 8 例、交通事故 9 例で、小児ではスポーツ外傷が、成人では交通事 故が最も多かった。また、小児では比較的軽微な外傷で発生する頻度が高かった。発症様式は、脳梗塞・虚 血 14 例、くも膜下出血 3 例、無症候 6 例で、小児では脳梗塞・虚血発症が最も多く、くも膜下出血を呈した 3 例は全て成人例であった。解離部位は、内頸動脈 11 例、椎骨動脈 5 例、中大脳動脈 2 例、前大脳動脈 2 例、 後大脳動脈 1 例で、小児・成人ともに内頸動脈が最も多かった。合併する外傷性病変は、脳挫傷 11 例、びま ん性軸索損傷 8 例、頭蓋底骨折 7 例、動脈解離部位以外の外傷性くも膜下出血 7 例、急性硬膜下血腫 3 例な どで、動脈解離以外の病変がないものも 6 例認められた。GOS で評価した転帰は、GR6 例、MD8 例、SD5 例、 PVS1 例、D1 例で、小児・成人例ともに内頸動脈解離は他の部位の動脈解離に比べ転帰不良の傾向が認めら れた。【結語】外傷性頭蓋内動脈解離は、特に小児では稀な病態ではないと推察された。小児と成人におけ る発生頻度や発症様式の違いは、解剖学的・生理学的背景の違いに加えて、受傷機転の違い関連していると 考えられた。今後の症例の積み重ねによる詳細な検討と治療方針の確立が急務と考えられた。 − 73 − O 04 − 2 頚部外傷に合併した小脳梗塞の検討 ○本多ゆみえ 1)、石坂 秀夫 1)、後藤 忠輝 1)、松前 光紀 1)、猪口 貞樹 1) 1) 東海大学 医学部 脳神経外科、2)東海大学 医学部 救命救急医学 【はじめに】頚部外傷に脳血管障害を伴うことはしばしば経験する。今回頚部外傷に小脳梗塞を合併し、椎 骨動脈の評価し得た症例を報告する。【対象】2007 年 10 月から 2010 年 9 月までに、当院に救急搬送された 5 症例。【結果】男 4 人、女1人、平均年齢 61 歳、頚椎損傷 3 例、頚部刺創 2 例。転帰は GR4 例、MD1 例。(症 例 1)36 歳女、実家で療養中に頚部を 3 ヶ所、腹部を 10 ヶ所自分で包丁で刺した。頚部は気管に達し、ド クターヘリ要請となった。現着時 GCS1-1-1、PEA、直ちに CPR 開始し 2 分後には頚動脈触知、来院時は血 圧 78mmHg に改善した。頭部 CT で左小脳半球に淡い低吸収域を認めた。気管損傷・腹腔内損傷があるた め各部位の縫合術を優先とし、術後下甲状腺動脈からの出血を TAE で止血した。この時、左椎骨動脈に仮 性動脈瘤を認めたが、当日は観察のみとした。経過中左小脳半球脳梗塞による閉塞性水頭症が出現し保存的 治療で改善した。後日仮性動脈瘤に対しコイリング施行し閉塞した。(症例 2)53 歳男、交通外傷。来院時 GCS4-5-6、頚髄 6 番以下の脊髄損傷と第 5 頚椎骨折を認めた。第 3 病日に意識レベルが低下したため頭部 CT 施行し右小脳半球の低吸収域を認めた。MRA で右対骨動脈の狭小化は認めるが閉塞は無かった。経過中右 小脳半球脳梗塞による閉塞性水頭症が出現しマニトールを使用するが水頭症が進行、後頭蓋窩開頭減圧術を 施行すべきであるが、頚椎骨折と頚髄不全麻痺があり、術体位をとることが麻痺を増悪させる可能性があり 前角に脳室ドレナージを挿入し、高圧コントロールとした。後に VP シャント施行、意識レベル GCS4-5-6 に 改善しリハビリ目的に転院した。【まとめ】頚部外傷に伴う小脳梗塞は椎骨動脈損傷によるものと考えられ るが、多発外傷を伴っていることがあり積極的な抗凝固治療が施行できない。このため小脳梗塞の可能性を 考慮し早期に椎骨動脈等の評価を施行し、早期から浸透圧製剤により治療を開始する必要がある。 O 04 − 3 外傷性眼動脈瘤に対して脳血管内治療を行った 1 例 ○鈴木 雅規 1)、小林 士郎 1)、石原正一郎 2) 1) 日本医科大学千葉北総病院 脳神経センター 脳神経外科、 2) 埼玉医科大学国際医療センター 脳卒中センター 脳血管内治療科 症例は 44 歳男性、作業中にダンプカーの荷台より転落し、左前頭部を強打し、前医へ救急搬送となる。 前医頭部 CT にて SAH を呈し、外傷性くも膜下出血との診断で同院へ入院となった。初診時には意識障害 を呈していた為、はっきりしなかったが、受傷後 10 時間頃から光覚程度の視力低下の訴えがあり、ステロ イド投与を施行するも反応無し。精査目的にて受傷翌日に当院紹介となった。入院時意識清明、左視力は光 覚弁であった。眼科受診にて硝子体、網膜に異常無く、球後性視神経損傷との診断を得た。入院 2 日後では 頭部 3DCTA で異常所見を認めなかったが、入院 6 日後の頭部 3DCTA にて左前床突起近傍に動脈瘤の出現 を認めた。脳血管撮影にて眼動脈自体に出現した外傷性脳動脈瘤と診断となり、入院 8 日後に母血管を含め た脳動脈瘤コイル塞栓術を施行した。外傷性眼動脈瘤に対する脳血管内手術は稀であり、これを文献学的考 察を含め報告する。 − 74 − O 04 − 4 遅発性に大量出血を来した重症頭部外傷に伴う鼻出血の一例 ○頼經英倫那、杉江 亮、小畑 仁司 大阪府三島救命救急センター 脳神経外科 【はじめに】顔面外傷を伴う重症頭部外傷症例で、一旦止血が得られたと思われた鼻出血が第 7 病日に再出血 を来たし、塞栓術を要した症例を経験したので報告する。【症例】74 歳男性。自転車の事故転倒にて受傷し たと思われ、通行人に倒れているところを発見され当センターに救急搬送された。来院時 JCS300、GCS 3 (E1,V1,M1)、血圧 160/90mmHg、脈拍 86/ 分 , 呼吸 12/ 分で O2 10L 投与で SpO2 97% であった。左前額部 に挫創があり、左耳、左鼻出血を認めた。頭部 CT 上、外傷性くも膜下出血と左前頭葉を中心に散在する小 さな脳挫傷、脳室内出血も認めた。気管挿管の上、脳圧計を留置し、脳低温療法を導入して管理した。鼻出 血は両側鼻腔内にタンポンガーゼを挿入し、徐々に止血が得られたため、経過観察とした。第 2 病日に撮影 した MRI では左前頭葉、脳幹、脳梁にも脳損傷を認め、び漫性軸索損傷と診断した。第 7 病日に脳低温療 法を終了し、鎮静薬、筋弛緩剤を終了した。第8病日頃より自発呼吸の出現とほぼ同時に鼻からの再出血を 認め、再度圧迫止血を試みたが、止血困難で(出血量約 2000ml)、造影 CT で造影剤漏出を認めたため、塞 栓術を施行した。マイクカテーテルを顎動脈より、posterior superior alveolar A の起始部まで誘導し。造 影すると、咽頭の方向に造影剤漏出を認めたため、ゼルフォームと IDC を用いて塞栓術を施行した。その 後 JCS 3 程度まで回復し、リハビリ転院となった。約 1 か月の経過で歩行可能が状態まで回復された。 【考察】 顔面外傷に伴う外傷性脳血管障害は、遅発性に動脈瘤を形成することが多いとされるが、自験例では明かな 動脈瘤形成は無く、咽頭内に直接出血を来していた。自発呼吸の回復とともに。血餅がはがれて再出血を来 したものと思われた。このような症例でも塞栓術は有効であると思われた。 O 04 − 5 軽微な顔面外傷後に大量鼻出血で発症した頭蓋底部仮性内頸動脈瘤の2例 ○中村 元 1)、藤中 俊之 1)、田崎 修 2)、射場 治郎 2)、黒田 淳子 1)、梶川隆一郎 1)、 芝野 克彦 1)、島津 岳士 2)、吉峰 俊樹 1) 1) 大阪大学大学院 医学系研究科 脳神経外科、2)大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター 【はじめに】外表上軽微な顔面外傷であっても、頭蓋底骨折に伴い血管が損傷されることがある。今回我々は、 顔面外傷後 2 週間目に大量鼻出血で発症した頭蓋底部仮性内頸動脈瘤の 2 例を経験したので報告する。 【症例1】48 歳男性。自転車で転倒し近医で右頬骨骨折の診断で保存的加療を受けた。受傷後 4 日目に自宅 退院となったが、受傷後 10 日目と 15 日目に大量の鼻出血を認め、当院救命センターに搬送された。脳血管 造影で右内頸動脈頭蓋底部に仮性動脈瘤を認め、同時に施行した内頸動脈閉塞試験(BOT)で虚血耐性を確 認できたため、そのまま血管内手技による trapping を行った。 【症例2】38 歳男性。バイク同士の衝突事故で他院救命救急センターへ搬送された。顔面骨骨折と右眼周囲 の挫創を認めたがその他の異常所見を認めず入院 5 日目に自宅退院となった。受傷後 14 日目に大量の鼻出 血を認め、CT アンギオで右内頚動脈頭蓋底部に仮性動脈瘤を認めたため当院へ転院となった。脳血管造影 で右内頸動脈 C3 部に仮性動脈瘤を認め、同時に施行した BOT で虚血不耐性であったため、橈骨動脈を用 いた high flow bypass 設置の上、血管内手技による trapping を行った。 【考察】顔面を含む頭部の外傷においては、頭頚部血管損傷の可能性があるため血管精査の必要性が提唱さ れつつある。上記症例においても当初は軽微な顔面外傷のみと診断されていたが、約 2 週間の経過で内頸動 脈頭蓋底部に仮性動脈瘤が発生し、出血性ショックを起こした。正常血管壁を持たない仮性動脈瘤の治療は、 損傷部位を含めた親血管 trapping が第一選択であるが、虚血不耐性の場合は high flow bypass を設置した 上での血流遮断が必要となる。画像所見および治療手順を供覧しつつ、当院での頭部外傷時血管損傷スクリ ーニングの実際や trapping 手技の戦略・手術手順について報告する。 − 75 − O 04 − 6 外傷性頭頚部血管損傷に対する血管内治療の有用性と問題点 ○藤中 俊之 1)、中村 元 1)、田崎 修 2)、萩原 靖 3)、黒田 淳子 1)、梶川隆一郎 1)、 芝野 克彦 1)、嶋津 岳士 2)、吉峰 俊樹 1) 1) 大阪大学 医学部 脳神経外科、2)大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター、 3) 大阪府立泉州救命救急センター 【目的】外傷性頭頚部血管損傷は出血と虚血の両面性があり、多発外傷の場合も多いことから、詳細な病態 の評価と適切な対応が必要である。また、技術的進歩により、従来は治療困難であった症例でも血管内治療 で対応できる場合が多くなってきた。外傷性頭頚部血管損傷に対する血管内治療の有用性と問題点について 代表症例を提示し報告する。【症例】2000 年 1 月以降に血管内治療を行った外傷性頭頚部血管損傷 82 例(頚 部 ICA 23 例、VA 28 例、頭蓋内 ICA 23 例、ECA 2 例、BA 1例、PICA 1 例、MMA 4 例)。受傷機転は交 通外傷が多く、症候は出血 29 例、虚血 10 例、無症候 35 例、その他 8 例であった。【結果】治療内容は血管 閉塞術 46 例、動脈瘤塞栓術 4 例、ステント留置術 12 例、ステント併用塞栓術 8 例、経動脈的瘻孔閉鎖術 8 例、 経静脈的塞栓術 5 例であった。治療による合併症は 3 例(3.7%)に認めた。損傷血管に起因する術後の出血・ 梗塞は 2 例(2.4%)に見られたが転帰に影響したものは 1 例(1.2%)であった。【考察】外傷性頭頚部血管損 傷に対する血管内治療は診断に続いて治療が行え、直達手術が困難な場合でも良好な治療効果が期待できる。 しかし、血管閉塞を要することが多く、側副血行が不十分な症例ではバイパス術の併用が必要であったり、 治療困難な場合もある。ステントを用いて血管を温存できる場合もあるが、偽性動脈瘤などでは治療効果が 不十分である可能性があり、今後カバードステントなど新しいデバイスの開発、応用が望まれる。また、治 療適応や治療方法に関しても明確な基準が確立されておらず、今後の検討が必要である。 O 05 − 1 脊椎損傷に対する instrumentation 手術 ○下川 宣幸、夫 由彦、塚崎 裕司、杉野 敏之、川上太一郎、金城 雄太、南 義人 ツカザキ病院 脳神経外科 【はじめに】近年、建造物の高層化、交通機関の発達とともに脊椎・脊髄損傷は高エネルギー外傷に伴う重 度のものが増加してきている。以前ならばハローベスト等の強固な外固定や長期ベッド上安静を余儀なくさ れてきた重症脊椎損傷患者にとり、近年発達してきた instrumentation を駆使する手術を受けることで、こ れらの負担の軽減が可能となってきている。当院での過去 11 年間の脊椎 instrumentation 手術症例を報告す る。【対象】2000 年 1 月から 2010 年 12 月までの期間で、脊椎・脊髄損傷で手術治療を行った 84 例(保存的 加療例は除く)の内、instrumentation を使用した 50 例(非使用例は除く)。男性 38 例、女性 12 例。年齢 は 15 歳から 90 歳(平均 64.0 歳)頚椎 40 例、胸椎 5 例、腰椎 5 例であった。【結果】手術に伴う合併症を認めず、 固定性も良好で経過した。【考察・結語】instrumentation を使用し、強固な内固定を得ることは、術後の外 固定の簡略化につながり、早期離床・早期リハビリテーションが可能となりその公益は大きい。代表症例を 提示したい。 − 76 − O 05 − 2 頚椎脱臼骨折に伴う椎骨動脈損傷−末梢塞栓防止のためのコイル塞栓術 ○吉田 昌弘 1)、三野 正樹 1)、今泉 秀樹 2) 1) 大崎市民病院 脳神経外科、2)大崎市民病院 整形外科 【はじめに】頚椎脱臼骨折においてしばしば椎骨動脈(VA)損傷を合併し小脳脳幹梗塞の原因となることが 知られている。観血的整復術の術中術後における末梢塞栓の予防のため、コイルにて親動脈閉塞を施行して いる。当科にて経験した 4 例を供覧する。【代表症例】28 歳女性。交通外傷により四肢麻痺をきたし搬入され た。意識清明。四肢脱力を認め、単純写および CT で C5/6 脱臼骨折を認めた。Frankel E の脊髄損傷と診断。 MRI では脱臼骨折による脊髄圧迫を認めた。左横突孔内の flow void が欠損(血栓化)していた。MRA で 左 VA が描出されなかった。DSA を施行したところ、左鎖骨下動脈造影で左 VA が起始部から数センチ上 で閉塞していた。右 VA は健常であった。この時点で小脳、脳幹梗塞の所見は認められなかったが、引き続 き施行する観血的脱臼整復で閉塞部が再開通し、末梢塞栓が起こる可能性があると考えた。左 VA 起始部に マイクロカテーテルを誘導し、離脱型コイルを用いて親動脈閉塞を施行した。観血的脱臼整復術は対側 VA の patency を確認する目的で術中 DSA を併用して施行した。術後小脳脳幹部に梗塞は見られず、脊髄症状 も速やかに改善して独歩退院した。【考察】頚椎頚髄損傷に椎骨動脈損傷を伴う頻度は 15 − 18% とされ、特 に上位頚椎損傷(hangman fracture など)、脱臼骨折に伴いやすい(40% 以上)と言われている。早期診断 には MRI、MRA がきわめて有用である。VA 閉塞や解離を認めた場合、再開通による末梢塞栓、遅発性小 脳脳幹梗塞の危険がある。また、観血的脱臼整復術を前提とする場合、術中に閉塞部位からの遊離血栓が塞 栓症を起こす危険性もあると報告されている。一方このような症例は多発外傷例が多く抗凝固療法がためら われることも多い。対側が健常な片側椎骨動脈閉塞の場合、従来は再開通の予防のため観血的結紮が試みら れてきた。コイル閉塞はコストの問題はあるが安全、簡便かつ低侵襲である。 O 05 − 3 頸椎損傷診断遅延例の検討 ○秋山 雅彦 1)、中原 成浩 2)、野田 靖人 1)、諸岡 暁 1)、大橋 洋輝 3)、長島 弘泰 3)、 磯島 晃 3)、谷 諭 3)、阿部 俊昭 3) 1) 富士市立中央病院 脳神経外科、2)佐藤第一病院 脳神経外科、3)東京慈恵会医科大学 脳神経外科 頸椎骨折は頭頸部鈍的外傷患者の 2 − 6% に起こるとされ決して稀ではない。しかし診断の遅れあるいは 見逃しは 5 − 20% にものぼるとされている。我々は受傷機転の大小にかかわらず、1意識清明で薬物の影響 が無い、2頸部痛あるいは頸部の圧痛がない、3 全身の身体評価を妨げる合併外傷が無いという3条件を満 たさない、全ての患者に対し thin slice CT を行い、MPR 構築により axial、sagittal、coronal 画像を作成す ることを原則としてきた。しかしながら自院でその原則が守られないことや、他院を経由した症例で診断遅 延が少なからず存在している。今回我々は診断遅延症例に関して検討を加えた。 2 年間で診断した 42 例の 頸椎損傷症例のうち、診断遅延症例は 14 例(33%)、16 病変であった。14 例の内訳は男性 12 例、女性 2 例、 年齢 45 ∼ 85 歳(平均 61.4 歳)、受傷機転は交通事故 3 例、転倒・転落が 11 例で高エネルギー外傷と定義さ れる例は 3 例(21%)のみであった。飲酒の関係した外傷は 7 例(50%)もあった。受傷高位は C1:1 病変、 C2:3 病変、C3 − C6:10 病変、C7 − T1:2 病変であった。全例で頸部痛を訴えていたが、神経症状陽性は 2例のみであった。8例で保存的に加療し、外科治療を要したのは6例であった。診断遅延の原因は不十分 な画像診断が 9 例、不適切な画像の読みが5例であった。頸椎損傷は「頭部外傷のみ」や「受傷エネルギー が低い」と思われる外傷でも発生する可能性があり、頸椎損傷ガイドラインに従って慎重に画像診断をする 必要がある。 − 77 − O 05 − 4 椎間関節脱臼を伴った中下位頸椎損傷の 2 症例 ○竹島 靖浩 1)、西村 文彦 1)、弘中 康雄 1)、中川 一郎 1)、本山 靖 1)、朴 永銖 1)、 中瀬 裕之 1)、井田 裕己 2) 1) 奈良県立医科大学 脳神経外科、2)名張市立病院 脳神経外科 外傷性中下位頚椎損傷に対する治療の最終目的は良好な alignment で安定した脊柱を獲得し、脊椎不安定 性や後彎変形の増強および脊髄の二次的な圧迫を予防することにある。今回我々は椎間関節脱臼を伴った中 下位頸椎損傷の 2 例を経験したので報告する。症例1.75 歳男性。車に乗車中、対向車と衝突し受傷。来院時、 運動麻痺を認めず感覚障害も認めなかったが、頚椎レントゲンで、C4 が前方へ脱臼しており、右側の facet が interlock していた。頚椎MRIでは髄内に異常信号は認めなかった。まず直達牽引し整復を行った上で 安静加療を行った。受傷から4週間後の頚椎動態レントゲンで頚椎の不安定性を認めたため、一期的に頚椎 前方固定術と後方固定術を行った。術後経過良好で新たな神経学的症状は出現しなかった。症例2.24 歳男 性。プールに飛び込んで頭部を打撲し受傷。受傷時、運動麻痺は認めず、右手 C6 領域のしびれ感を認めた。 頚椎レントゲンでは、C4 の前方脱臼を認めた。他院で直達牽引を行い一時整復されたが、受傷から約1週 間後のレントゲンで頚椎の不安定性を認めたため、当科紹介転院となった。頚椎MRIでは、C4/5 レベル で頚髄損傷を負っていた。受傷から約3週間後に、C4/5 前方固定術を行い、術後外固定を約2ヶ月間行った。 術後症状の悪化なく良好に経過した。症例1は高齢者であり、術後早期退院を目的として一期的に前方固定 と後方固定術を行った。症例2では、頚椎の不安定性に加えて頸髄損傷を負っていたこともあり、体位変換 に伴う二次的頸髄損傷を避けるために、前方固定術のみを行い、術後外固定の併用を行った。症例に応じて 最適な治療方法の計画することが重要と考えられる。 O 06 − 1 脊髄震盪の検討 ○柳川 洋一、宮脇 博基、阪本 敏久 防衛医科大学校病院 救急部 【目的】当地域における脊髄震盪の特徴を明らかにすること。 【方法】2007 年 1 月から 2010 年 12 月までの間に、 当院に鈍的外傷患者として搬送され入院となった患者の中で、脊髄損傷例を対象とした。対象を脊髄震盪と 脊髄損傷の 2 群に分類し、両群間で、比較検討を行った。脊髄震盪の定義は、脊髄障害による感覚、麻痺の 症状が出現し、72 時間以内に完全消失した症例とした。【結果】36 例が脊髄損傷例で、そのうち 8 例が 72 時 間以内に神経症状が消失し、脊髄震盪と判断した。性別、受傷機転、来院時の Glasgow Coma Scale、呼吸数、 Frankel 分類、脱臼・骨折の頻度、手術率、生存率に関しては、両群間で差を認めなかった。一方、脊髄震 盪群は脊髄損傷群と比較し、年齢は若く、収縮期血圧は高く、脈は速く、病院前との比較し神経学的所見が 改善を示す頻度が高く、最小脊柱管前後径は広かった。脊髄震盪群では 1 例が症状消失に 72 時間を要した が、それ以外は 24 時間以内に完全消失していた。脊髄震盪群では放射線学的検討で頸椎の脊柱管狭窄を 2 例、 頚椎椎間板ヘルニア 1 例、胸腰椎骨折 1 例を認めた。【結語】病院前からの経過を詳細に検討すれば、脊髄震 盪は脊髄損傷の中では稀ではない。脊髄震盪の特徴として病院前の神経学的所見と比較し、臨床症状が急激 に改善し、生命徴候に対して迷走神経の関与が少ない点が脊髄損傷との鑑別点であることが示唆された。 − 78 − O 06 − 2 頸椎損傷(骨症を含む)に対する固定術を行うタイミングについて ○戸田 茂樹 1)、横田 裕行 2)、寺本 明 1) 1) 日本医科大学 医学部 脳神経外科、2)日本医科大学 医学部 救急医学 【目的】頸椎脱臼などの外傷症例に対しては緊急に前方 and/or 後方固定術を行う場合以外は、創外固定(ハ ローベストなど)の固定を行い、後日固定術を行っている。待機手術について、手術時期による予後の違い について検討したので報告する。【方法】2007 年 4 月から 2010 年 10 月までの頸椎骨折および脱臼症例で神経 学的異常所見を認める 20 例について、発症時の NCAA score・発症から手術までの時期に関して 1 週間未 満と 1 週間以上について・年齢・性別・合併症の違いについて検討した。【結果】重傷症例にハローベストを 装着することが多いが、手術までに 1 週間以上経過した場合には肺炎や深部静脈血栓症などの合併症をきた すことが多く、最終的に全身状態の悪さで手術の機会を逃してしまったり、深部静脈血栓症で死亡に至った 例もあった。一方 1 週間以内に固定術を行った症例に関しては入院時に誤嚥性肺炎をきたした症例のみ手術 機会を逃した。性別では男性が圧倒的に多く、合併症も男性に多く認められた。また、年齢的には 70 歳以 上の高齢者に重篤な合併症が多かった。【考察】神経所見を伴った頸椎外傷症例に関しては手術による固定 にしても、創外固定にしても頸椎を固定することで ADL を改善することができ、手術のタイミングは予後 にあまり関与しないと考えられたが、今回の検討では、高齢者で神経学的所見の悪い症例に関してはできる だけ早期に手術による固定を行うことが予後の改善につながることが認められた。ハローベストなどの創外 固定をしても看護側に頸椎外傷症例に対しての経験が浅ければ、患者を動かすことで症状を悪化させるので はないかという不安があり、手術後よりも体動が少なく、合併症を引き起こす可能性が高いものと考えられ た。【結論】頸椎外傷に関しては高齢者で神経学的所見が悪い症例では可能な限り早期に手術による固定を 行い、早期に ADL を改善させることが大切と考えられた。 O 06 − 3 近年の脊椎・脊髄外傷の発症傾向 ○鈴木 晋介、佐々木 徹、園田 順彦、木村 尚人、西村 真実、江面 正幸、上之原広司 国立病院機構仙台医療センター 脳神経外科 最近の救急の傾向として、高齢者がどの場面でも増加傾向にある。脊損の場でも同様の傾向にあり、当科 の脊椎・脊髄損傷症例の推移を述べたい。【対象・方法】平成 5 年から平成 22 年の間に当科で経験した脊椎・ 脊髄損傷症例 540 例(男性 416 例、女性 124 例、平均年齢 46.6 才)を対象とし、平成 5 年から平成 18 年の間 の 431 例(前半群)と平成 19 年と平成 22 年の間の 109 例(後半群)との年齢分布、受傷原因等を比較検討し た。脊髄損傷の重症度は ASIA scale を使用した。統計処理は Statview を使用した。【結果】年令分布のヒ ストグラムは前半は20代と60代に二峰性にピークを有していたが、後半群はその傾向が少なくなった。 平均年令は、前半群 45.2 才であったものが、後半群 54.1 才と、8.9 才の著明な高齢化を示した。受傷の原因 であるが、前半は、交通事故 65.7%、転倒・転落 26.7%、事故 10.2%、スポーツ 4.4%、その他であったものが、 後半群は交通事故 15.6%、転倒・転落 78.9%、スポーツ 5.5%、その他と、有意な交通事故例の減少傾向を みた。特に高齢者頚椎損傷の増加傾向も認められ、特に C34、C45 のやや高位頚損が多い点で予後不良例が 増えた印象が多い。【結論】最近の 4 年間に、脊椎・脊髄損傷の原因が急変し、交通事故例が減少した。高エ ネルギー型の脊髄損傷が減少したが、転倒等の原因の高齢者症例が増加している。 − 79 − O 06 − 4 北海道における 2009 年の脊髄損傷発生調査 ○中尾 弥起、須田 浩太、楫野 知道、森平 泰、東條 泰明、上田 明希、小甲 晃史 北海道中央労災病院 せき損センター 【はじめに】脊髄損傷は重篤な機能障害をきたす外傷であり、患者の社会復帰を目指す上で急性期からの適 切な治療が望まれる。しかしながら現在においても有効性について見解の一致を認めない治療法が存在し、 選択にあたっては各施設の判断に委ねられているのが実情である。治療の標準化に向け、データの蓄積・エ ビデンスの構築が不可欠であると考え、北海道における新規脊髄損傷患者発生数ならびに受傷形態を調査検 討することを目的とした。 【対象と方法】北海道内のすべての二次救急指定病院と三次救急指定病院、計 296 病院に新規脊損に関するア ンケートを送付した。対象期間は 2009 年 1 月 1 日より 2009 年 12 月 31 日までの 1 年間で、入院した新規脊損 患者の有無、年齢、性別、診断、麻痺の程度、受傷原因につき回答を得た。 【結果】264 病院より協力を得ることができ、回答率は 89.2%であった。新規脊損患者を有したのは 33 病院、 症例数は 178 症例(32.1 人 /100 万人・年)であった。Frankel 分類の内訳は A 23 名、B 15 名、C 52 名、D 88 名であった。頚髄損傷は 133 例であり、うち骨傷を有したのは 35 例(26.3%)、有しなかったのは 98 例(73.7%) であった。胸腰髄損傷は 44 例で全例が骨傷を伴っていた。受傷原因は平地転倒 57 例(32.0%)、低所から の転落 25 例(14.0%)、高所からの転落 22 例(12.4%)、交通事故 38 例(21.3%)、重量物落下 11 例(6.2%)、 スポーツ外傷 13 例(7.3%)、その他 12 例(6.7%)であった。 【考察】本邦に於いては過去に脊髄損傷の全国調査が 2 度行われている。これらと比較すると、平均年齢の上 昇と不全損傷の割合の増加が認められた。男女比には大きな変化を認めなかった。本研究での調査は回答率 が高く脊髄損傷発生状況を把握するための重要なデータベースとなり得ると考える。 O 07 − 1 日本脳神経外傷学会「外傷に伴う低髄液圧症候群」診断基準による外傷後症候群の分析 ○篠永 正道 国際医療福祉大学熱海病院 脳神経外科 【背景】追突事故など比較的軽度の外傷後、長期にわたり多彩な症状で苦しむ被害者は少なくない。これま で外傷後頚部症候群、バレ・リュー症候群、補償金目当ての仮病・詐病などと称されてきたが病態は解明さ れず、有効な治療法もなかった。外傷後に髄液が持続的に漏出し減少することにより多彩な症状が出現する 脳脊髄液減少症説が注目されている。【目的】いわゆる外傷後症候群の患者が日本脳神経外傷学会「外傷に 伴う低髄液圧症候群」の診断規準にどの程度合致するかを検討した。【方法】外傷後 30 日以内に発症し、頭 痛、頚部痛、眼症状など多彩な症状が6ヶ月以上持続する症例のうち MRI 検査、RI 脳槽シンチグラフィー を施行した 200 例について検討した。髄液漏出は RI 画像で判定した。【結果】200 例の内訳は男性 61 例、女 性 139 例、交通事故 188 例、スポーツ7例、転倒転落5例であった。前提規準の座位または立位をとると 15 分以内に増悪する頭痛を示した例は1例もなかった。15 分の縛りを除いた起立性頭痛は 76 例であった。体 位による症状の変化は 70 例にみられた。大規準の造影 MRI でび漫性の硬膜肥厚増強を示した例はなかった。 腰椎穿刺にて 60mm 水柱以下の低髄液圧をしめしたのは 13 例、髄液圧が 61mm 水柱以上で RI 検査にて髄 液漏出を示す画像所見を有する例は 23 例であり、診断基準を満たすのは 36 例で全体の 18%であった。 【考察】 慢性化した外傷例では座位または立位をとると 15 分以内に増悪する頭痛を持つ例はなく、MRI でのび漫性 の硬膜肥厚増強をしめす例も全くなかった。一方 200 例中 RI 脳槽シンチグラフィーで漏出像を示したのは 82 例であり、この 82 例中起立性頭痛または体位による症状変化を伴った例は 27 例のみであった。日本脳神 経外傷学会の診断規準は髄液が漏れているにも拘らず非該当になる例が多いので慢性期の外傷例には新たな 基準が求められる。 − 80 − O 07 − 2 外傷性脳脊髄液減少症診断における CT ミエロの有用性 ○守山 英二 国立病院機構福山医療センター 脳神経外科 【目的】むち打ち損傷などの外傷後に、脳脊髄液減少症を発症することはすでに明らかにされており、発表 者の所属する厚生労働省研究班で診断基準の検討が進んでいる。本症の診断には、主に RI 脳槽シンチ(RIC) が用いられ、CT ミエロ(CTM)の髄液漏出検出率は比較的低いとされてきた。実際、当院での 4 列 MDCT では、RIC 陽性例の約 50%のみに髄液漏出が検出された。平成 22 年 11 月に当院に導入された 64 列 MDCT (Aquilion64、東芝メディカルシステムズ)による診断結果を報告する。【方法】RIC と CTM は同時に施行 した。25G ペンシルポイント針による腰椎穿刺、髄液圧測定に続いて、延長チューブを用いてオムニパーク 240(10ml)、111In-DTPA(37mBq)の順に注入した。RIC は 1、2.5、6、24 時間後、CTM は 1.5 時間後に撮 影した。【成績】現在までに計 30 例(初回検査 15 例、治療効果確認 15 例)の検査を行い、初回検査例 15 名 中 9 名を RIC 所見から脳脊髄液減少症と診断した。(SIH:2 例、外傷性脳脊髄液減少症 :7 例)CTM により、 RIC 直接所見陽性の 4 例全例、間接所見のみ陽性の 5 例中 4 例で、主に頚椎、胸椎レベルの髄液漏出が検出 された。【結論】少数例の経験ではあるが、64 列 MDCT による CTM は、髄液漏出検出に非常に鋭敏であった。 特に水平断、冠状断画像を同時に検討することにより、診断可能となる例が多かった。従来、外傷性脳脊髄 液減少症は SIH と異なり、漏出部位が下部脊椎に集中することから、その存在自体が疑問視されることがあ った。今回の結果を見ると、髄液漏出量が比較的少ないために、解像度の低い RIC あるいは従来の CTM で は、漏出像の描出に限界があったと考えられる。 O 07 − 3 慢性硬膜下血腫症例に隠れた脳脊髄液減少症を見落とさないために ○中 大輔 1)、千代 孝夫 2) 1) 日本赤十字社和歌山医療センター 神経救急部、2)日本赤十字社和歌山医療センター 第一救急部 【目的】過去 5 年間で手術した慢性硬膜下血腫症例 277 例を検討し、慢性硬膜下血腫症例に隠れた脳脊髄液減 少症を見落とさないためのポイントについて報告する。【対象】2006 年 1 月から 2010 年 12 月の 5 年間に手術 した慢性硬膜下血腫 277 例(男性 182 例、女性 95 例、42 ∼ 96 歳、平均 75.5 歳)。【結果】277 例中、片側症例 は 224 例、両側症例は 53 例であり、4 例が脳脊髄液減少症による慢性硬膜下血腫であることが確定できた。 3 例が両側症例、1 例が片側症例であった。【症例】42 歳、女性。4 週間前にスケートボード中に転倒し、後 頭部から背部をアスファルトに強くぶつけた。受傷 1 週間後から立位や座位で悪化する頭痛を自覚し、頭痛 が悪化してきたとのことで当センターを救急受診した。脳脊髄液減少症による慢性硬膜下血腫を疑ったが、 頭部 CT では少量の右慢性硬膜下血腫を認めるのみで、脳脊髄液減少症に特徴的な CT 所見を認めなかった ため経過観察とした。しかし頭痛は悪化し、造影頭部 MRI を実施したところ、右硬膜下血腫に加え、びま ん性硬膜肥厚、頭蓋内静脈拡張などの所見を認め、脳脊髄液減少症による慢性硬膜下血腫と診断した。脂肪 抑制 T2WI-MRI で C1/2 レベルに髄液貯留を認め、髄液漏出部位を確定することができた。そこで自家血に よるブラッドパッチ法をおこなったが慢性硬膜下血腫は再発し、再度穿頭血腫ドレナージ術を施行した。術 後 MRI で再確認すると髄液漏出は改善しておらず、2 回目のブラッドパッチ法を施行した。これにより翌日 から頭痛は改善、髄液漏出も完全に消失した。【まとめ】昨年の本学会でも発表したが、脳脊髄液減少症に よる慢性硬膜下血腫は両側性であることが特徴の一つである。しかし、今回われわれは初めて片側症例を経 験した。今後は片側慢性硬膜下血腫であっても、座位や立位での頭痛悪化の有無を慎重に確認し、常に脳脊 髄液減少症という病態を念頭に入れながら診断、治療にあたるべきであると思われた。 − 81 − O 07 − 4 シャント術施行 12 年後に症候性気脳症を呈した重症頭部外傷の一例 ○松本 優、山本 浩隆、田中 潤、鵜山 淳、原 淑恵、山下 晴央 兵庫県災害医療センター / 神戸赤十字病院 脳神経外科 脳室腹腔シャント術後に気脳症を呈する症例は少ないながらも報告がなされている。重症頭部外傷(脳挫 傷)により脳室腹腔シャント術を施行され、12 年経過したのちに著明な気脳症を呈した一例を経験したので これを報告する。【症例】52 歳男性。12 年前に交通事故で他院にて重症頭部外傷(脳挫傷)として入院、経 過中に水頭症を併発したために脳室腹腔シャント術を施行され、長期リハビリ後、車椅子を自操でき、介助 下に経口摂取が可能となった。今回意識レベルの低下を主訴に当院を紹介受診。来院時の頭部 CT にて著明 な気脳症を呈したために精査加療目的に入院。前医で施行された頭部 CT で中頭蓋底に空気を認めており、 シャント圧設定は低値に設定されていたため、高値に変更した。入院中 39 度台の発熱を認め、髄液検査に て髄膜炎と診断し抗生剤投与をおこなったが改善せず、シャントの抜去術を施行。その後の頭部 CT では頭 蓋内空気の減少および髄液所見の改善を認め、水頭症の悪化も認めなかった。意識レベルは改善し、自宅退 院とした。外来にて頭蓋内空気の消失を確認、水頭症については脳室拡大を認めるも神経学的所見も著変な く経過している。【考察】シャント術後に遅発性に気脳症を呈する頭部外傷症例は稀である。頭蓋骨骨折を 伴う頭部外傷症例にシャント術を施行した場合、シャントによる髄液過剰流出に伴い頭蓋骨骨折部から空気 を頭蓋内に引き込むことで気脳症を呈する症例が文献的に報告されている。シャント術が必要となった頭部 外傷患者では圧可変式バルブを使用してのシャント術後、注意深い経過観察の上、症状があればシャント圧 設定の変更やシャント抜去も考慮すべきであると思われた。 O 08 − 1 当施設における高齢者重症頭部外傷治療の現況 ○宮田 圭 1)、浅井 康文 1)、小柳 泉 2)、三國 信啓 3) 1) 札幌医科大学 救急集中治療医学講座 脳神経外科学講座、2)札幌医科大学 救急集中治療医学講座、 3) 札幌医科大学 脳神経外科学講座 【はじめに】近年高齢者社会の進行とともに頭部外傷患者が増加しており、受傷機転や転帰は若年例に比較 し大きく異なる。当施設における高齢者重症頭部外傷の現況と問題点につき報告する。【対象と方法】2006 年 4 月̶2010 年 8 月まで当施設に搬入された 65 歳以上の重症頭部外傷 32 例(mean74.3yo CPA を除く)につ き受傷機転、搬入時バイタルサイン、積極的治療、転帰等を JNTDB2004 データと比較検討した。【結果】単 独外傷群(n=23)の受傷機転は転落(7)30%、歩行者(7)30%、転倒(5)22%、搬入時 GCS3-8(n=13)41 %、GCS9-12(n=7)22%、GCS13-15(n=2)6%、T&D(n=12)37.5% で術前瞳孔異常は 52%に認めた。CT 分類は diffuse type(n=1)、focal type(n=22)で Evacuated Mass(n=19)のうち SDH が 68%を占めた。退 院時転帰は GR(0)MD(2)SD(6)VS(4)D(11)で、死亡率は SDH(60-62%)術前瞳孔散大(75%)と高い 一方、EDH/ICH/contusion(17%)、T&D(25%)と低かった。AIS3 以上の他臓器損傷を伴う多発外傷群(n=9) では CT 分類で Diffuse type が 44%をしめた。搬入時ショックバイタル(n=6)では SD(1)D(脳損傷 3 失 血 2)と生命転帰不良であった。JNTDB2004 高齢者 366 例とのデータ比較では、当施設において craniotomy (61.5%)、HITT → craniotomy(18.8%)、ICP sensor(62.5%)および積極的加療全体(84.3%)と JNTDB 若 年群に匹敵する割合であったが転帰改善には反映されていなかった。救命困難な最重症例への(診断的意味 合いの大きい)処置が EM や積極加療の割合を高くした一面もあり、救命目的での積極的加療と明確に区別 する必要がある。 − 82 − O 08 − 2 高齢者における外傷性くも膜下出血単独例の臨床的特徴 ○越後 整 1)、広田 健吾 1)、岡 英輝 1)、橋本 洋一 1)、日野 明彦 1)、塩見 直人 2)、岡田美知子 2) 1) 済生会滋賀県病院 脳神経外科、2)済生会滋賀県病院 救命救急センター・救急科 【目的】頭部外傷診療において、外傷性くも膜下出血に遭遇する機会は少なくない。その多くは脳挫傷やび まん性脳損傷などに伴って起こるが、比較的軽微な外傷においても単独でみられることがある。その自然歴 は大部分予後良好と考えられるが、高齢者における自然経過や転帰について言及した報告は少ない。そこで 今回我々は、65 歳以上を対象とした外傷性くも膜下出血単独例の臨床的特徴について検討した。 【対象】当院で入院加療を行った頭部外傷患者のうち、頭部 CT で脳挫傷やびまん性脳損傷、急性脳腫脹など を伴わず、外傷性くも膜下出血のみを認めた 200 例から、65 歳以上で退院後の長期観察が可能であった 75 例(高齢者群)を対象とした。これらの初診時意識レベル、受傷機転、合併外傷の有無、画像所見、および 転帰について検討した。 【結果】高齢者群の初診時 GCS は 15 点が 40 例、14 点が 25 例、13 点が 9 例、12 点が 1 例で比較的軽症例が多 かった。受傷機転は、転倒が 37 例と最も多く、続いて交通事故が 24 例、転落が 11 例であった。1 もしくは 2 つの脳槽に限局した症例は 60 例で、3 つ以上の脳槽に認めた症例は 15 例であった。3 ヶ月後の GOS は GR が 62 例(83%)、MD が 13 例(17%)であった。転帰について 65 歳未満の症例(若年者群)と比較すると、 若年者群では GR が 119 例(95%)、MD が 6 例(5%)で、高齢者群の方が有意に MD が多かった。その他、 高齢者群では慢性硬膜下血腫の合併を 7 例(9%)、硬膜下水腫の拡大を 4 例(5%)、認知機能の低下を 4 例(5%) 認めた。 【結語】高齢者における外傷性くも膜下出血は必ずしも予後良好ではなく、特に認知機能の低下や慢性硬膜 下血腫の合併に注意を要することが示唆された。 O 08 − 3 高齢者の外傷性頭蓋内出血に対する開頭術の検討 ○垣内 孝史、加藤 庸子、服部 夏樹、我那覇 司、石原 興平、廣瀬 雄一 藤田保健衛生大学 脳神経外科 高齢者に対する、外傷性頭蓋内出血の開頭術を行った予後は成書を参照にする限り、あまり芳しいもので はない。予後が悪いからといって、実際の臨床の場では、断るのも難しいのが現状である。当施設では、両 側瞳孔散大している患者以外は、原則適応であれば、開頭術を行っている。手術を最近 2008 年から 2010 年 の 3 年間で、当施設において行った開頭頭蓋内血腫除去術 71 件中、70 歳以上(最高齢 87 歳)の高齢者の頭 部外傷による 25 例であった。うち分けは、硬膜下血腫 20 例、硬膜外血腫4例、脳内血腫 1 例であった。特 徴として、若年者と異なり、転倒等による外傷が多く、交通外傷等の高エネルギー性外傷は少ない。術後脳 腫脹をおこし死亡するケースや再出血を起こすケースは比較的少ない傾向にあった。予後は硬膜下血腫で は全例良くて経口摂取が可能な程度である。基礎疾患のある患者の予後は悪く、特にワーファリンを内服し ていた症例 3 例ともに死亡退院となった。硬膜外血腫の症例は、4 例とも自宅退院ができるまで回復をした。 高齢者に対する開頭術を年齢により制限をする必要まではないが、家族へ家庭復帰には家族の支援と理解が 不可欠であり、社会復帰は難しいことをしっかりと術前に説明する必要があると考えられた。 − 83 − O 08 − 4 高齢者軽症頭部外傷における危険因子 ○河内 正人 市立八幡浜総合病院 脳神経外科 【目的】高齢者軽症頭部外傷における危険因子を明らかにすることを目的とした。【対象症例】2004 年 6 月か ら 2008 年 9 月までに入院した高齢者軽症頭部外傷症例(65 歳以上、GCS 13-15)69 例を対象とした。入院の 判断は意識障害、受傷時の意識消失、順行性あるいは逆行性健忘、局所神経症状、強い頭痛や嘔吐、危険な 受傷機転、頭蓋骨骨折、CT における異常所見の存在である。【方法】頭蓋内外傷性病変発生の危険因子を後 ろ向きに検討した。12 の危険因子を選択して、CT での頭蓋内外傷性病変の有無との相関を単変量解析(カ イ二乗検定)で分析し、有意であった危険因子を選択して多変量解析(多重ロジスティック回帰分析)で検 討した。【結果】年齢は 65 歳から 100 歳、平均 81.1 歳、中央値 82.0 歳で、69 例中 41 例に頭蓋内外傷性病変を 認め、うち 4 例に緊急手術が必要であった。多重ロジスティック回帰分析にて有意な危険因子は GCS 13 で あること、および受傷時の意識消失であった。【結論】高齢者軽症頭部外傷における頭蓋内合併症の危険因 子は GCS 13 であること、および受傷時の意識消失であることが示唆された。 O 08 − 5 高齢化社会における頭部外傷後 vegetative state(VS)と severe disability(SD)症例の臨床的検討 ○中村 弘 1,2)、宮田 昭宏 1,2) 1) 千葉県救急医療センター 脳神経外科、 2) 日本頭部外傷データバンク検討委員会(日本脳神経外傷学会、日本交通科学協議会) 【目的】頭部外傷後 VS と SD 症例の病理所見は異なるとされる。本研究では VS と SD 症例の臨床的差異を 検討し高齢化社会における頭部外傷後 VS の特徴を明らかにする。【方法】対象は日本頭部外傷データバンク プロジェクト 1998・2004 登録例から、受傷後 1 ヶ月以降の転帰 SD の 324 例(SD 群)と受傷後 6 ヶ月の転 帰 VS の 90 例(VS 群)。下記因子で単変量・多変量解析を実施:年齢、性別、原因、GCS、瞳孔異常、頭 頸部 AIS、ISS、血圧、動脈血酸素分圧、血糖値、骨折、CT(CT 分類、くも膜下出血、脳室内出血)、治療 内容(穿頭血腫除去術、外減圧術、頭蓋内圧モニタリング、体温管理療法)。【結果】(1)VS 群の臨床所見。 年齢 1 ∼ 89 歳(median 57.0)、男性 70%、交通事故 58%、骨折 67%、頭蓋内血腫 69%。(2)単変量解析。p < 0.15 因子:年齢(p=0.015)、GCS(p=0.003)、瞳孔異常(p=0.069)、頭蓋内圧モニタリング(p=0.004)、 外減圧術(p=0.005)。CT 分類(p=0.0008)、脳室内出血(p=0.083)、動脈血酸素分圧(p=0.018)。他の因 子はすべて p>0.15。(3)ロジスティック回帰分析。p < 0.01 因子:年齢(40 歳以上、OR: 3.02)、GCS(OR: 0.85)。p < 0.05 因子:頭蓋内圧モニタリング(OR: 1.94)、外減圧術(OR: 2.22)、びまん性脳損傷(CT 分類、 reference は急性硬膜下血腫以外の頭蓋内血腫、OR: 3.18)、急性硬膜下血腫(CT 分類,OR: 2.32)。【結論】 頭部外傷後 VS の多くは病理学的びまん性軸索損傷(DAI)が主因とされるが、今回の VS 群では血腫例が 多いことより、VS の原因として一次性脳損傷・DAI よりも、頭蓋内圧亢進・ヘルニア・虚血性脳損傷等の 二次性脳損傷が優位となっている可能性がある。その背景には、患者群の変化(高齢化、女性増加)、外傷 メカニズムと脳損傷の変化(骨折・頭蓋内血腫とくに急性硬膜下血腫の増加)等があると考えられる。治療 内容の一部が VS と関係するという結果の解釈についてはさらに詳細な分析を要する。 − 84 − O 08 − 6 特発性急性硬膜下血腫6症例の検討 ○鈴木 海馬 1)、中島 弘之 1)、佐藤 章 1)、栗田 浩樹 2)、古田島 太 1)、根本 学 1) 1) 埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科、2)埼玉医科大学国際医療センター 脳卒中外科 【目的】急性硬膜下血腫(ASDH)は頭部外傷に伴う脳挫傷や橋静脈の損傷で起こる事が知られているが、重 篤な頭部外傷なしで発症する特発性急性硬膜下血腫(SSDH)も存在する。当院で経験した SSDH6 例につき 文献的考察を加え報告する。【方法】症例は 2006-2009 年に当科で経験した男性 3 例、女性 3 例の計 6 例で年 齢は 75-91 歳(平均 79.8 歳)であった。そのうち 3 例が抗血小板薬を内服していた。4 例は明らかな外傷はなく、 2 例はごく軽微な外傷で発症し、全例で頭部に明らかな打撲所見は認められなかった。初診時の GCS は 4-12 であり、CT 上厚さ 2.0-2.6cm の ASDH が認められ、1 例で IVH、1 例で diffuse SAH を伴った。6 例とも開 頭による血腫除去を施行した。【結果】術前に 3D-CTA が 3 例、AG が 1 例で行われ、1例で造影剤の漏出像 が見られた。術中所見は全例で脳表の細動脈に損傷を認め、1 例のみ bridging vein の破綻を伴ったが、他に は明らかな脳損傷や出血源はなかった。1 例は血管形成的にクリップをかけており、2 例は血管縫合、3 例は 電気凝固で止血を行った。GOS は 1 例が MD で、3 例が SD で、2 例が VS であった。【結論】SSDH は極め て稀で高齢者に多く予後も悪いとされているが、当科の症例でも 1 例を除いては予後不良であった。高齢者 で軽微な外傷で発症した ASDH に対しては、動脈損傷の可能性を念頭において早急に手術を検討する必要 があると考えられた。また一般的には脳挫傷を伴う ASDH の方が予後が悪いとされるが、高齢者の SSDH に関しては脳挫傷がなくとも予後不良となる可能性がある。 O 09 − 1 救急診療における全例応需の達成 − 10 年間のプロセスの分析− ○千代 孝夫、辻本登志英、岡本 洋史、松島 暁、久保 健児、久保 真佑、河村麻美子 日赤和歌山医療センター 救急集中治療部 【目的】病床数 850 床、対象人口 40 万人、年間救急患者数3万名、救急車台数 7500 台、1日入院 14 名、初 期∼3次までが応需対象の ER 型救急施設が行い得ている全例応需についてその経緯を報告する。【救急体 制の移り変わりと歴史】1984 年までは、救急の暗黒時代で、2名当直のみの時代である。1984 年には救命セ ンターの認定を取得したが、実情は、各科寄せ集めの医師が対応する看板だけの時代である。1999 年に、病 院側の判断により、某大学から救急医を招請したが、各科との連携を無視したために、各科との間にトラブ ルが発生して争乱時代となり、1年余で撤退した。そのため、2000 年に別の大学から救急医を招請して、救 急体制の改革が始まり、夜明けを迎え、その後 10 年がたち、全例応需(2009 年実績:拒否件数 60 件)を確 保しつつ、25 万名以上を診療したが、トラブルは皆無であり、現在は、安定時代である。【考案と結語】全 例応需のコツは、ベッドバリアフリー体制やベッドコントローラーの存在ではなく、必須なものは施設全体 の理解による支援である。 − 85 − O 09 − 2 アルコール摂取後の頭部外傷における転帰不良因子 ○松川 東俊、篠田 正樹、藤井 本晴、山本 大輔、村形 敦、石川 陵一 聖路加国際病院 脳神経外科 【目的】アルコール摂取と頭部外傷後の転帰とは関係がないとする報告がある一方で、アルコール摂取が転 帰不良因子であるとする報告や良好因子であるとする報告もある。アルコール摂取後の頭部外傷患者におい ての予後不良因子を検討した研究は少ない。今回の研究の目的はアルコール摂取後に頭部外傷をきたした患 者における、予後不良因子を調べることである。 【方法】2004 年 4 月から 2009 年 12 月までに、アルコール摂取後の頭部外傷にて当院脳神経外科に入院した 218 名を対象とした。受傷 1 年後の Extended Glasgow Outcome Scale(E-GOS)にて転帰の評価を行った。 E-GOS6 点以下を転帰不良群、7 点以上を転帰良好群とした。2 群間で、臨床的特徴、身体所見、画像所見等 を比較検討した。単変量解析、多変量解析を行い、P < 0.05 を有意とした。 【結果】単変量解析の結果、転帰不良群では男性(OR, 4.1; 95% CI, 0.94-18; P = 0.0485) 、瞳孔異常(OR, 8.6; 95% CI, 3.2-12; P < 0.0001) 、脳波異常(OR, 13; 95% CI, 5.7-30; P < 0.0001) 、急性硬膜下血腫(OR, 6.9; 95% CI, 3.4-14; P < 0.0001) 、γ GTP 異常高値(OR, 5.9; 95% CI, 2.8-13; P < 0.0001) 、重症頭部外傷[GCS8 点以下] (OR, 5.5; 95% CI, 2.7-11; P < 0.0001) 、血中エタノール濃度 35mg/ dL 以上(OR, 22; 95% CI, 4.8-36; P < 0.0001)の割合 が多かった。これらの項目を用いて多変量解析を行った結果、瞳孔異常(OR, 26; 95% CI, 3.5-58; P =0.0068) 、脳 波異常(OR, 7.3; 95% CI, 2.1-16; P =0.0017) 、γ GTP 異常高値(OR, 5.9; 95% CI, 2.1-18; P =0.0011) 、血中エタノ ール濃度 350mg/ dL 以上(OR, 11; 95% CI, 1.8-28; P = 0.0162)が転帰不良と関係していた。 【結論】アルコール摂取後の頭部外傷患者において、瞳孔異常、脳波異常、γ GTP 異常高値、血中エタノー ル濃度 350 mg/ dL 以上が受傷 1 年後の転帰不良因子と関係していた。 O 09 − 3 病院内での転倒・転落による頭部外傷について ○安本 幸正 1)、足立 知司 1)、長谷川 浩 1)、原 毅 1)、堤 佐斗志 1)、阿部 祐介 1)、 伊藤 昌徳 1)、幅下 貞美 2)、唐島 孝影 2) 1) 順天堂大学医学部浦安病院 脳神経外科、2)順天堂大学医学部浦安病院 医療安全管理室 【目的】近年、医療安全管理体制として医療事故の院内報告制度が整備されてきた。本院では 2009年度から医療事 故の電子報告制を導入し、医療事故の実態が把握しやすくなった。今回、2009年度における院内発生の転倒・転 落による頭部外傷について分析したので報告するとともに本年度に経験した警鐘的症例を報告する。 【結果】2009 年度の報告は 2998件、その内、転倒・転落は 492件(20%)であった。受傷部位は頭部・顔面が 24% と最も多く、 次に臀部 20% であった。影響レベル 3a 以上の転倒・転落は 49件、その内 30件が頭部外傷であった。頭部外傷の 54% は担癌患者で、65歳未満では 83%と多く、一方 65歳以上では 45%と少なくむしろ認知症や不穏患者が多か った。転倒・転落の方向は、前方が 71%(歩行中のふらつき・つまずき、座位で前に屈んだ時) 、後方が 21%(ベ ッドから立ち上がり移動する時、特に低床ベッド) 、側方は 7% であった。前方転倒の 1例に頬骨および眼窩骨折 が生じたが、後方転倒は臀部をぶつけた後に後頭部をぶつけるためか、骨折はみられなかった。5歳未満の転倒・ 転落は 6件、すべてがベッドからの転落、5件が頭部を受傷したが、すべて軽症であった。頭蓋内血腫を伴った患 者はなかった。 【症例】54歳、女性。外傷性脳内出血で入院した。不穏のため、全身を抑制、ナースステーション で観察した。看護師がナースステーションを離れた際に、ベッド頭側から転落、直接に後頭部を打ち、後頭骨骨 折と左側頭葉挫傷が生じた。神経学的に変化はなく、保存的治療にて改善した。電動ベッドでの抑制の困難さが 原因と思われた。 【結論】転倒・転落は入院時の危険度の評価や離床センサーの導入などにより軽症化の傾向にあ るもの、件数の減少には至っていない。非高齢者ならば担癌患者、高齢者ならば不穏、認知症患者、前方への転 倒が多いこと、幼児はベッドから転落し頭部外傷が多いなどは転倒・転落防止に有用な情報と思われる。 − 86 − O 09 − 4 離島における脳神経外傷救急の検討 ○川添 一正 鹿児島赤十字病院 脳神経外科 【はじめに】当院では、鹿児島県南部の十島村、三島村に医師を1人ずつ常駐させて離島医療を行っている。 救急依頼があった場合は、ヘリ搬送し対応している。これまでのヘリ搬送患者の分析を行い、脳神経外傷対 応の問題点を検討するとともに、緊急での対応が奏功した症例を経験したので報告する。【目的】離島救急 医療の現状を分析し、離島における神経外傷患者救命の可能性を検討する。【対象】平成 16 年 1 月 1 日から 平成 19 年 12 月 31 日までの間に当院に搬送された離島救急患者および、 平成 22 年 10 月にヘリ搬送された患者。 【結果】平成 16 年 1 月 1 日から平成 19 年 12 月までにヘリ搬送された 53 例中、脳外科患者 28 症例。脳梗塞 12 例、 脳出血5例、頭部外傷7例、痙攣2例、その他2例。平成 22 年 10 月搬送患者、急性硬膜下血腫1例。【考察】 当院でのヘリ搬送は、鹿児島県防災ヘリもしくは、海上自衛隊のヘリを用いている。その為、医師を同乗し、 搬送するまでに2時間以上を要する。当然、現在まで t-PA 適応患者はない。さらに、重症頭部外傷に対し、 救命し得た症例は少なかった。先日、両側瞳孔散大した急性硬膜下血腫の患者に対し、来院後 1 時間以内に 局麻にて減圧開頭術を開始し、救命し得た症例を経験した。ヘリ搬送システムの検討とともに、麻酔対応を 含め、緊急時の治療の検討も必要であると考えられる。 O 09 − 5 来院時に軽度から中等度の意識障害を有する頭部外傷患者における 「deteriorate」発生に関連する因子の検討 ○射場 治郎 1)、田崎 修 1)、中村 元 2)、藤中 俊之 2)、吉峰 俊樹 2)、塩崎 忠彦 1)、 小倉 裕司 1)、鍬方 安行 1)、嶋津 岳士 1) 1) 大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター、2)大阪大学医学部附属病院 脳神経外科 【背景と目的】頭部外傷においては、来院時の意識レベルは比較的良好であるにもかかわらず、その後、予 後不良の転帰をとる症例が存在する。本研究の目的は来院時軽度から中等度の意識障害を有する頭部外傷患 者において、神経症状の増悪因子について検討することである。【対象と方法】2009 年 2 月から 2011 年 1 月 までに受傷から 2 時間以内に搬入された頭部外傷患者のうち、搬入時に GCS score が 9 以上であり、来院時 の CT で頭蓋内出血を認め、かつ造影 CT を施行した 30 例を対象とした。「deteriorate」の定義は、頭蓋内 出血の増大に伴い、血腫除去、減圧開頭、脳室ドレナージなどの外科的減圧処置を要した症例とした。来院 時の評価項目として、受傷機転、止血機能検査、血小板数、来院時 CT の頭蓋内病変、骨折形態、造影 CT における頭蓋内血腫内への造影剤の漏出像(extravasation)とした。【結果】対象 30 例のうち、 「deteriorate」 を認めたのは 8 例(26.7%)であった。また、来院時の頭部 CT における円蓋部骨折の有無(p=0.01)、造 影 CT における extravasation の有無(p < 0.01)、来院時血液検査における D-dimer 値(p < 0.01)の三 つの因子について「deteriorate」発生との有意な関連性を認めた。ROC 曲線下面積は、円蓋部骨折 :0.773、 exravasation:0.830、D-dimer 値 :0.801 であった。【結論】来院時の円蓋部骨折、extravasatin、D-dimer 値は、 来院時軽度から中等度意識障害を有する頭部外傷例の「deteriorate」発生の予測因子として有用であった。 − 87 − O 09 − 6 脳挫傷を原因とする上下肢の難治性疼痛に対して脊髄刺激術が有効であった一例 ○種井 隆文 1)、竹林 成典 1)、中原 紀元 1)、前澤 聡 2)、梶田 泰一 2)、若林 俊彦 2) 1) 名古屋セントラル病院 脳神経外科、2)名古屋大学大学院 医学系研究科 脳神経外科 【はじめに】近年、機器の進歩および安全性の高さなどから難治性疼痛に対して脊髄刺激術の有効性、適応 は拡大している。今回、脳挫傷を原因とする右上下肢の難治性疼痛に対して脊髄刺激術にて高い除痛効果が 得られた症例を経験したので報告する。【症例】症例は 38 歳の男性。32 歳の時に交通事故に遭遇し近医入院。 入院当初は心肺停止で数ヶ月意識不明の状態であったが、徐々に意識は改善し高次機能障害を残す程度で退 院となった。その後右上下肢および右顔面にしびれが出現し、徐々に悪化し痛みを伴うようになった。痛み は下肢優位に強く、痛みのために歩行障害を来たしていた。麻痺は認めないが知覚鈍麻を伴っていた。薬物 治療、ブロック治療などを様々行われたが効果が乏しいため手術目的で当院に紹介された。下肢の痛みに対 して胸椎レベルに脊髄刺激電極(4 極)を 2 本挿入し、試験刺激をしたところ著明な除痛効果を認めた。そ こで 2 日後に頚椎レベルにも 4 極電極を 2 本追加挿入し、上肢にも同様な除痛効果を認めた。4 本の電極を 一つのバッテリー(プライムアドバンスト)へ接続した。術後経過は良好で、70% 以上の除痛効果を認め歩 行障害も改善し、現在も効果は維持されている。【結論】脊髄刺激術は様々な原因の難治性疼痛に有効とい う報告はあるが、脳挫傷を原因とする疼痛に対する報告は少ない。今後、脳挫傷などの外傷を原因とする難 治性疼痛に対して脊髄刺激術は外科的治療選択肢の一つとして検討する価値はある。 O 10 − 1 顔面頭部外傷−関連各科との連携 ○西川 重幸、三浦 正毅、長谷川 秀、松元 淳、工藤真励奈 熊本赤十字病院 脳神経外科 【背景】今回我々は当院に顔面外傷を付随した頭蓋内損傷について検討を行った。 【症例】2000 年 1 月から 2009 年 12 月までの 10 年間において当科に入院した患者において比較的重症の頭蓋 内損傷の患者で、顔面に関する関連各科へのコンサルトを要した患者を対象とした。 【結果】上記の期間、2519 名の患者が当科で入院し、加療を行ったが、このうち 205 名(8.1%)が顔面外傷に 対して他科へのコンサルトを要した。このうちもっとも頻度が高い診療科は耳鼻咽喉科で 131 名(63%)であ り以下、眼科、歯科、皮膚科、形成外科の順であった。受傷の原因としては交通事故が最も多く 126 名(61%) であり、転倒・転落が 60 名でこの 2 つで大部分を占めた。交通事故の内訳ではバイク関係が 41 名(32%)と 最も多かった。コンサルト内容では顔面骨骨折関係に関するものが最も多かった。各科別では耳鼻咽喉科関 係では聴力障害、顔面神経麻痺を、歯科は下顎骨折に対してコンサルトを行っていた。眼科では複視に関す るコンサルトが最も多く、眼球破裂でコンサルトを行ったものは 3 名のみであった。当然のことであるが皮 膚科、形成外科に対しては頭皮損傷に関してコンサルトを行っている症例がほとんどであった。付随する脳 神経障害では顔面神麻痺が最も多く、全例耳鼻咽喉科にコンサルトされていた。以下聴神経、嗅神経、視神 経障害の順であった。観血的治療を要したものは 42 名(20.4%)であったが脳神経外科の急性期手術を要し たものは 7 名(16.7%)のみで、大部分は保存的治療のみのものであった。急性期から他科との共同手術に なったものは眼球摘出を行った 1 例のみであった。 【結語】外傷の急性期においては頭蓋内損傷の治療が最優先にされていた。しかし顔面骨の損傷、脳神経損 傷の損傷は回復後の QOL を左右する非常に重要な要因であり、急性期から早急な対応が重要である。関連 各科が常在することは頭蓋顔面外傷の診療を行う上で非常に有用である。 − 88 − O 10 − 2 中等症頭部外傷例の急性期における経過と転帰 ○塩見 直人 1)、岡田美知子 1)、丸山 志保 1)、越後 整 2)、岡 英輝 2)、橋本 洋一 2)、日野 明彦 2) 1) 済生会滋賀県病院 救命救急センター・救急科、2)済生会滋賀県病院 脳神経外科 【目的】頭部外傷例は搬入時の意識が比較的よくても急激に状態が悪化する場合があるため、厳重な経過観 察が必要である。今回、中等症頭部外傷例の急性期の経過と転帰に関して検討を行った。【対象・方法】2007 年 7 月から 2010 年 10 月までに当院救命救急センターに搬入された搬入時の意識レベルが GCS 9 から 13 点 の頭部外傷連続 62 例を対象とした。これらの年齢、性別、受傷機転、搬入時 GCS、頭蓋内病変、合併損傷、 症状の推移、治療、転帰について検討した。【結果】対象例の平均年齢は 49.7 歳で男性が 66% であった。受 傷機転は 36 例(58%)が交通事故であり、自転車および二輪車走行中の衝突事故が多かった。搬入時 GCS は 13 点が最も多く 32 例(52%)であり、12 点 12 例、11 点 5 例、10 点 7 例、9 点 6 例であった。47 例(76%) に頭蓋内病変がみられ、局所性脳損傷が 32 例、広範性性脳損傷が 15 例であった。対象例全体の転帰良好例 (GR、MD)は 48 例(77%)であり、死亡例は 10 例(16%)であった。局所性脳損傷例のうち 16 例(52%)が 増悪し 12 例に手術が施行された。症状が増悪した例で 7 例(44%)が転帰良好であったが、手術症例に限る と約 60% が良好であった。死亡した 10 例のうち、頭蓋内病変が死因となったものは 5 例であり、4 例は合併 損傷による出血性ショックであった。GCS13 点の症例で転帰不良であったのは多発外傷例 2 例であった。 【考 察】搬入時 GCS が 13 点の症例は、受傷後ある程度の時間経過で軽症か中等症かを判断する必要がある。今 回の検討では 13 点の 32 例中 6 例(19%)において症状が増悪しており、転帰は 29 例(91%)が良好であった。 したがって、13 点の症例は症状の推移からみれば中等症であるが、転帰からすると軽症と考えられる。【結論】 今回の検討では、中等症頭部外傷例の 30% 弱において症状が悪化し 16% が死亡した。手術を行った症例で は約 60% が転帰良好であった。 O 10 − 3 軽症−中等症頭部外傷における脳梁損傷部位による転帰の違い ○松川 東俊、篠田 正樹、藤井 本晴、山本 大輔、村形 敦、石川 陵一 聖路加国際病院 脳神経外科 【目的】びまん性軸索損傷(DAI)は頭部外傷における予後不良因子とされている。損傷部位として、白質、 脳梁、脳幹が挙げられるが、その部位ごとの予後へ与える影響に関しては明確にはされていない。GCS9 点 以上の軽症−中等症の頭部外傷は一般的に予後良好であるとされているが、中には社会復帰が困難となる場 合も少なくない。今回の研究の目的は軽症−中等症の頭部外傷において、DAI 損傷部位が受傷 1 年後の転帰 に与える影響を検討することである。 【目的】2004 年 4 月から 2009 年 12 月までに、軽症−中等症の頭部外傷にて当院脳神経外科に入院し、かつ MRI を施行し得た 318 名を対象とした。受傷 1 年後の Extended Glasgow Outcome Scale(E-GOS)にて転帰 の評価を行った。E-GOS6 点以下を転帰不良群、7 点以上を転帰良好群とした。2 群間で、臨床的特徴、身体所見、 画像所見等を比較検討した。単変量解析、多変量解析を行い、P < 0.05 を有意とした。 【結果】単変量解析の結果、転帰不良群では 65 歳以上(OR, 3.3; 95% CI, 1.8-6.2; P = 0.0002)、男性(OR, 3.7; 95% CI, 1.4-9.9; P = 0.0055)、瞳孔異常(OR, 10; 95% CI, 1.9-25; P = 0.0033)の割合が有意に多かった。DAI 部位に関しては、脳梁病変単独損傷(OR, 7.9; 95% CI, 1.5-24; P = 0.0129)のみが転帰不良と関係し、白質病 変単独、脳幹病変単独は転帰不良と関係していなかった。また、白質、脳梁、脳幹のうち、2 部位以上の同 時損傷は転帰不良とは関係していなかった。これらの項目を用いて多変量解析を行った結果、65 歳以上(OR, 3.8; 95% CI, 1.9-7.9; P = 0.0002)、男性(OR, 4.4; 95% CI, 1.6-16; P = 0.0104)、瞳孔異常(OR, 15; 95% CI, 3.2-27; P = 0.0018)、脳梁損傷(OR, 7.2; 95% CI, 1.4-15; P = 0.0265)はいずれも有意に転帰不良と関係していた。 【結果】軽症−中等症の頭部外傷において、脳梁損傷は受傷 1 年後の転帰不良因子である。 − 89 − O 10 − 4 電撃傷に合併した頭部外傷の 1 例 ○岩瀬 正顕 1)、前田 裕仁 1)、斉藤 福樹 1)、中谷 壽男 1)、河本 圭司 2) 1) 関西医科大学附属滝井病院 高度救命救急センター、2)関西医科大学 脳神経外科 【目的】電撃傷に合併する頭部外傷は知られているが、脳損傷の実体は明らかにされていない。今回、我々は、 頭部に流入口を持つ頭部電撃傷の希な1例を経験したので考察を加え報告する。【症例】61 歳男性。平成 21 年6月某日、マンションエレベーター造設の目的で電気作業中に労働災害で受傷した。マンション1階の電 気室で、50cm の足台に乗って作業していたところ、天井の配電盤(交流、6600V ×4本)の配電極に頭部 を接触した。受傷直後、意識消失し、足台の上から地面に落ちて倒れ込んだ。3分間ほど痙攣が持続し、痙 攣が止まった後も意識障害が続いていた。近くにいた別の作業員が呼びかけたが返事がなく救急連絡した。 救急隊到着時 JCSIII-100 点、搬送中に JCSII-10 点であった。病院到着時所見は、血圧・脈拍は正常、呼吸は 正常、意識は JCSI-3 点であった。会話成立も受傷時の記憶がなく、軽い見当識障害を認めた。外表所見は、 右頭頂部の頭皮に直径6cm の深達度3度熱傷を認め、両手の流出口に熱傷を認めた。画像所見では、MR Iを含めた放射線学的検査で、電流の走行経路を検索したが確定には至らなかった。搬入3日目の時点で他 の実質臓器の損傷は認めず熱傷に対し加療し軽快退院した。血液検査では CK205、血中ミオグロビン 283 と 軽度上昇を認めた。【考察】頭部電撃傷は比較的少なく、電撃傷の 2.9%、熱傷の 0.9%の頻度で発生するとの 報告がある。頭部電撃傷では死亡原因は心損傷、脳損傷の順に多いとされているが、電撃傷時の転倒・墜落 に伴う頭部外傷も多く、脳損傷の実体は明らかにされていない。生存例では、受傷後に意識障害と健忘症を 生じることが多いとされる。流入口の頭皮熱傷に対しては、損傷の程度に応じて組織修復を試みる。 【結論】1. 比較的まれな頭部電撃傷を経験した。2.頭部電撃傷の電流追加経路を示唆する画像所見を得た。3.頭皮 の組織再建を施行した。 O 10 − 5 頭蓋穿通性外傷 11 例についての検討 ○伊藤 明 1)、刈部 博 1)、川瀬 誠 1)、平野 孝幸 1)、冨永 悌二 2) 1) 仙台市立病院 脳神経外科、2)東北大学大学院 医学系研究科 神経外科学分野 【目的】経眼窩的頭蓋穿通性外傷を経験したので過去に当院で経験した頭蓋穿通性外傷 10 例を含め文献考察 を加えて報告する。 【症例】74 歳男性。意識障害と左片麻痺を主訴に当院へ救急搬送された。来院時 JCS=10、GCS=13(E3V4M6) で、左片麻痺を認めた。上眼瞼は腫脹し軽微な裂創も伴っていた。頭部 CT では前頭葉底部から被殻、頭頂 葉皮質下に連なる脳内出血を認め、右眼窩上壁遊離骨折、気脳症を認めた。患者が倒れていた付近に血痕の 付いた園芸用支柱が落ちていたことから、転倒した際に園芸用支柱が右眼窩上壁から頭頂部までを穿通した 経眼窩的頭蓋穿通性外傷と考えられた。MRA では主幹動脈の損傷は認めなかった。開頭血腫除去術と眼窩 形成術を施行し抗菌薬投与を開始した。術後髄膜炎を呈したが抗菌薬投与により治癒しリハビリテーション 目的に転院となった。 【考察】頭蓋穿通性外傷では解剖学的脆弱性から経眼窩的穿通性頭部外傷が多いとされる。視束管や上眼窩 裂経由での穿通性外傷では内頸動脈や海綿静脈洞の損傷の危険があるとされるが、眼窩上壁経由では主要血 管損傷は少ないとされる、自験例 11 例でも同様の傾向であった。本症例では穿通枝損傷による被殻を主座 とする脳内出血を認めたが、頭蓋穿通性外傷による基底核部の出血の報告は渉猟し得た限りで 4 例のみと稀 であった。また穿通性頭部外傷では髄膜炎や脳炎、脳膿瘍等が重大な合併症とされ、自験 11 例中 3 例で中 枢神経系感染を合併しているが、いずれも抗菌薬投与で治癒した。 〈結語〉頭蓋穿通性外傷は、主幹動脈損傷がなければ早期の異物除去と予防的抗菌薬投与により良好な転帰 を得ることが可能と考えられた。 − 90 − O 10 − 6 当院で経験した穿通性脳損傷例の臨床的検討 ○野口 慶 1)、宮城 知也 1,2)、竹内 靖治 1,2)、土井 亮 1,2)、徳富 孝志 2)、重森 稔 2) 1) 久留米大学 脳神経外科 高度救命救急センター、2)久留米大学 脳神経外科 【目的】我々がこれまで経験した穿通性脳損傷例について検討した。【対象】2000 年から 2009 年に当院の高度 救命救急センターで経験した穿通性脳損傷は 9 例であった。この 9 例の受傷機転や侵入経路、画像所見、治療、 転帰について検討した。【結果】年齢は平均 49 歳(14 ∼ 79 歳)で、全例が男性であった。侵入経路は経眼窩 的が 6 例で、残りの 3 例は経前頭骨からであった。経眼窩的では 4 例が竹で、1 例でハンガーの針、1例で 鉄筋であった。竹が侵入した 4 例ではいずれも上眼窩裂に侵入したが、竹以外の 2 例ではいずれも眼窩から 前頭部に侵入していた。経前頭骨的の 3 例ではいずれも大工作業中の器具の穿通であった。入院時の重症度 は、経眼窩的に脳幹を穿通した 1 例を除いた例では軽症例であった。6 例では血管損傷も疑われ、3D-CTA や MRA を行なったが全例で血管損傷を認めなかった。全例で緊急に異物除去術を行なったが、5 例では骨 膜筋皮弁を用いて硬膜形成術を追加した。転帰は脳幹への穿通を認めた 1 例を除いて全例で良好であったが、 脳幹損傷例では術後に低体温療法を追加したが死亡した。【結論】竹などの比較的柔らかい異物は経眼窩か ら上眼窩裂へ侵入するが、金属などの硬い異物は経頭蓋骨に直接脳へ侵入する傾向であった。重要な脳組織 の損傷は少なく、緊急手術で良好な転帰が得られる。 O 11 − 1 両側性急性硬膜下血腫に対して小開頭内視鏡下血腫除去術が有用であった1例 ○村井 尚之、中野 茂樹、廣野誠一郎、堀口健太郎、佐伯 直勝 千葉大学 医学研究院 脳神経外科 【はじめに】急性硬膜下血腫には極小開頭洗浄術や広範囲減圧開頭が行われる場合が多いが、今回内視鏡下 小開頭手術にて良好な経過を得た症例を経験したので報告する。【症例】症例は 70 歳女性、開頭腫瘍摘出術 と術後水頭症に対する脳室腹腔シャント術の既往があったが、KPS 80 程度で自立していた。自宅玄関前で 酔って転倒して頭部を打撲、受傷後1時間で来院した。来院時 GCS は E3V5M6 で、頭頂部に小手拳大の皮 下血腫あり、頭部 CT にて左 15mm、右7mm の急性硬膜下血腫を認めたが明らかな麻痺がなく経過観察と した。受傷後4時間では血腫は左 19mm、右 12mm に増大、右方への正中偏位の増悪を認めたが、意識状態 及び神経所見に変化を認めなかった。38 時間目には左 15mm、右 10mm と血腫は減少していたが、軽度の 右上肢麻痺・右顔面神経麻痺を認めたため、局所麻酔下にて両側開頭硬膜下血腫除去術を施行した。血腫中 央に線状の皮切を設け、3cm 大の小開頭を行い人工髄液で血腫を流した後に、硬性鏡にて血腫を吸引し出血 源であった脳表の左で小動脈、右で静脈を凝固止血した。次に軟性鏡にて周辺の血腫を摘出しほぼ全摘出す ることができた。手術は左右の順で行い体位変換も含めて 3 時間程度で終了した。術後の経過も順調で、シ ャント圧をあげていた期間も 4 日間と短く 19 日目に独歩退院した。【結語】急性硬膜下血腫で脳挫傷や急性 脳腫脹を伴わない単純血腫型では、内視鏡による小開頭で充分な血腫除去ができる場合があり、本術式の適 応を検討してよい症例はさらにあるものと思われた。 − 91 − O 11 − 2 頭蓋内圧モニタリングを指標として減圧手術を繰り返した重症頭部外傷の1例 ○阿久津宣行 1)、相原 英夫 1)、甲村 英二 2) 1) 兵庫県立加古川医療センター 脳神経外科、2)神戸大学大学院 医学研究科 脳神経外科学分野 【緒言】頭蓋内圧(ICP)のモニタリングは重症頭部外傷管理に必須である。今回我々は、ICP モニタリング下に、 複数回の減圧手術を行うも ICP 亢進が抑えきれず、最終的に人工皮膚を用いた皮膚レベルでの減圧を行って 救命し得た重症頭部外傷の1例を経験したので報告する。【症例】64 歳男性:山中での仕事の休憩中に腐っ た木が倒れてきて頭部を直撃。Dr. ヘリにて救急搬送、意識レベルは GCS 8(E2V2M4)、左上下肢の麻痺あり、 CT にて多発頭蓋骨骨折と両側の急性硬膜外血腫、右脳挫傷を認めた。緊急の両側頭頂開頭による硬膜外血 腫除去術を施行し ICP センサーを留置した(day0)。術後 ICP は 20mmHg(以下省略)台前半で推移したが、 翌日には 30 台まで上昇、CT にて右頭頂葉の血腫周辺の浮腫が強く、右外減圧部分骨窓の拡大と硬膜形成を 追加した(day1)。術後 ICP は 10 台まで低下したが、徐々に上昇、バルビツレートや低体温などの治療にも 反応が悪く、数日後には 40 前後となったため、右外減圧部分をさらに拡大し側頭葉切除と頭頂葉脳挫傷部 の血腫除去を行った(day5)。術後 ICP は 10 台まで低下していたが、その翌日には 50 前後まで上昇、皮膚 縫合と硬膜の縫合を解放すると ICP は 10 まで急速に低下、その tension を保つように人工皮膚(真皮)を用 いての皮膚形成を行った(day6)。以後、ようやく ICP は 20 前後で経過、更なる亢進を認めなかった。【考察、 結論】頭部外傷においては CT 所見のみでは脳圧の予測が困難な場合もあり、ICP センサー等による持続モ ニタリングが重要である。通常の減圧手術で ICP コントロール困難な場合には、人工皮膚(真皮)を用いて の皮弁による減圧が有効な場合もある。ただ、感染や以後の皮膚のトラブルの危険性も高く、様々な感染予 防などの対策は必要である。 O 11 − 3 テント上下に連続する急性硬膜外血腫小児例の臨床的検討 ○吉岡 進 1)、濱田 一也 1)、下高 一徳 1)、倉津 純一 2) 1) 大分県立病院 脳神経外科、2)熊本大学 脳神経外科 【目的】これまでに外傷性急性硬膜外血腫がテント上下に及ぶ場合の臨床像について検討した報告は少ない。 今回、小児例でその臨床像、望ましい手術方法を明らかにすることを目的として後方視的に検討を行ったの で報告する。【対象、方法】当院にて入院加療を行った外傷性急性硬膜外血腫のうちテント上下に連続して 血腫が存在し手術を施行した 15 歳未満の小児例5名を対象とした。病歴、臨床症状、画像所見、手術方法、 術中所見、治療結果等について検討を加えた。【結果】5名の内訳は、女 3 名、男 2 名、年齢は、3 ∼ 8 歳(平 均 5.6 歳)。受傷機転は、転落3名、転倒2名で、打撲部は、後頭部 4 名、不明1名であった。受傷時の意識 障害は、なし4名、不明1名であった。入院時全例で意識障害を認め(JCS“2”;2 名、 “10”;2 名、 “100”;1 名)、 4 名で嘔吐がみられた。頭蓋単純写では、横静脈洞と交叉する線状骨折を4名に認め、1名では骨折線はみ られなかった。頭部 CT では、全例で片側性に横静脈洞をまたいで凸レンズ型の血腫をテント上下に認めた。 3名では、高吸収域と(等)低吸収域とが混在していた(混合吸収型)。脳挫傷や硬膜下血腫の合併例はな かった。CT 再検を行い得た3名全員で血腫の増大を認めた。全例で手術を行い、横静脈洞部の骨を残しテ ント上下に開頭し血腫を除去した。術前 CT で混合吸収型を呈した3名では凝血塊だけでなく液状成分が存 在し、(等)低吸収域の広さが液状成分量に比例していた。全例で開頭範囲内に出血源はなく横静脈洞から の出血が示唆されたが、術中止血困難例はなかった。術後、全例で意識障害は改善し、神経学的異常所見な く退院した。【結論】テント上下に連続する急性硬膜外血腫は、(脳損傷等の合併がない場合)時期を失する ことなく従来の方法で手術を行うことで良好な治療結果が得られる。画像所見と術中所見から手術時の工夫 点についても報告する。 − 92 − O 11 − 4 Hinge 型減圧開頭術の有効性及び適応について ○江崎 孝徳、中尾 保秋、山本 拓史、森 健太郎 順天堂大学医学部附属静岡病院 脳神経外科 【はじめに】Hinge 型減圧開頭術は 2007 年に報告され(JNS 107:678-682,2007)、当院でも 2008 年に導入した が、症例を重ねた結果治療できない症例もあった。今回 Hinge 術の有効性及び問題点を報告し適応につい て考察した。【対象・方法】2008 年 9 月以降 Hinge 術を行った症例である。術中 ICP が 20mmHg を示す症 例、術後の ICP が 25mmHg 以上を示したり CT の正中偏位が悪化する症例は骨片除去型減圧開頭術に変更 した。Hinge 術で治療できた症例群は、Hinge 術導入前の 1 年間に行った骨片除去型減圧術で治療できた症 例群との間で、術後 ICP・CT の正中偏位の経過・在院日数・手術回数・急性期後の追加手術回数・頭蓋内 感染合併率を比較した。【結果】Hinge 術を導入以降も重症などの理由で骨片除去型減圧術が選択され Hinge 術を行わなかった症例が 19 例あり、そのうち 14 例は術後に死亡した。27 例が Hinge 術を開始したが、7 例 は途中で骨片除去型減圧開頭術に変更となり(25.9%)、1 例は脳幹出血が原因で死亡した(3.7%)。よって 19 例が Hinge 術で治療できた(70.4%)。一方骨片除去型減圧術群は 12 例あった。19 例の Hinge 術群と 12 例 の骨片除去型減圧術群の比較で、術後 ICP、CT の正中偏位の経過はほぼ同様であった。また Hinge 術群 で在院日数や手術回数は少なく頭蓋内感染は認めなかった。【考察】最重症例では Hinge 術は不向きである が、そのような症例は従来の骨片除去型減圧術を行っても多くは死亡し、治療の限界であったと考えられる。 Hinge 術は術後の頭蓋形成術の必要がなく手術回数や在院日数を改善でき有効な方法であり減圧効果も期待 できる。しかし減圧が不十分な症例もある為、ICP 測定を行い CT 所見も総合的に考慮し手術法を判断する 必要があると考えられた。 O 11 − 5 出血性ショックを伴う急性硬膜外血腫に対し中硬膜動脈塞栓術を施行した一例 ○前田 裕仁 1)、岩瀬 正顕 1)、中谷 壽男 1)、河本 圭司 2)、米虫 敦 3)、澤田 敏 3) 1) 関西医科大学 医学部 救急医学科、2)関西医科大学 医学部 脳神経外科、 3) 関西医科大学 医学部 放射線科 【目的】圧排症状を呈する急性硬膜外血腫は速やかに開頭術を行うべきであるがそれが不可能な場合も経験 する。今回循環、呼吸動態が不安定なため手術に先立ち後腹膜腔と中硬膜動脈の塞栓術を行った一例を経 験したので報告する。【症例】47 歳、女性。(主訴)意識障害(既往歴)アルコール依存症(現病歴)普段よ り不眠で睡眠薬を内服していた。2 階のベランダから墜落し当院へ救急搬送となった。(来院時現症)来院時 JCS200GCSE1V2M4 で瞳孔は右 2.0 左 2.0。血圧 84/56mmHg 脈拍 145 回 /min。血液製剤と細胞外液を投与 で血圧 BP118/78HR88 と安定した。頭部 CT で 5mm の左硬膜下血腫 5mm、10mm の右硬膜外血腫を認め た。胸部 CT にて肺挫傷を、腹部 CT にて L4 の圧迫骨折と横突起の骨折あり、後腹膜腔への造影剤漏出像 が認められた。【経過】受傷 4 時間後に瞳孔不同が出現。頭部 CT で右硬膜外血腫は 20mm と増大しており 開頭手術の方針とした。気管挿管を行ったところ頻脈を呈し血圧は 60mmHg 台に低下し後腹膜腔の活動性 出血が疑われた。頭部の手術前に TAE を行うべく血管造影を施行し循環動態の改善を図ることとした。左 L4 腰動脈、右 L3、L4 腰動脈右腸骨回旋動脈に塞栓術を施行。引き続き総頚動脈造影を行ったところ右中硬 膜動脈より血管外漏出像を認めたため同動脈を 2mm 径ジェルパートで塞栓した。循環動態は改善したが気 管からの持続的な出血あり、長時間の手術は不可能と判断し右側は穿頭、左側は小開頭で可及的に血腫をと り ICP モニターを挿入した。右硬膜外血腫は減少したが新たに挫傷性出血を認めた。術後はバルビツレート 療法を行い ICP の制御に努めたが広範な脳虚血を呈し第 11 病日死亡退院となった。【考察】外傷急性期の中 硬膜動脈の造影所見は報告が見受けられない。【結語】外傷急性期の中硬膜動脈塞栓術を経験した。 − 93 − O 11 − 6 高濃度グリセリン溶液を用いた凍結自家頭蓋骨保存による頭蓋形成術 ○細田 哲也、竹内 浩明、山内 貴寛、常俊 顕三、有島 英孝、北井 隆平、 新井 良和、菊田健一郎 福井大学 医学部 脳脊髄神経外科 【目的】減圧開頭術後の頭蓋骨欠損に対する頭蓋形成術に関して、hydroxyapatite など人工骨や熱処理や凍 結保存による自家頭蓋骨が用いられることが多い。しかしながら、感染症などの合併症で再手術や追加治療 が必要になることが文献では 4 ∼ 30%と報告されている。我々は、高濃度グリセリン凍結(−84℃)による 自家頭蓋骨保存を行ってい、頭蓋形成術を行っている。その方法と有用性を報告する。【方法】減圧開頭術で 除去された頭蓋骨の結合組織、筋膜などを剥離子などで可及的に除去し自家頭蓋骨骨弁とする。骨弁をプラ スチックまたは金属製の容器にいれ、95%濃度のグリセリン溶液で骨弁全体を満たし、容器は蓋で密封する。 その容器を−84℃の保冷庫に移し、凍結グリセリンを徐々に溶解させ、溶解したグリセリンの中より骨弁を 手術中に取り出し、生理食塩水で洗浄した後にチタンプレートで固定する。【結果】2001 年 4 月から 20010 年 3 月にかけて 37 例(外傷 14 例、脳血管障害 20 例、脳腫瘍 3 例)に対して上記方法にて頭蓋形成術を施行したが、 感染症や骨融解などの合併症はなく、いずれも経過良好である。【考察】人工骨による頭蓋形成術により感 染症などのリスクが低下したとの報告があるが、異物であり高価である。我々は高濃度グリセリン凍結によ る自家頭蓋骨保存方法は頭蓋形成術に有用と考えている。 O 12 − 1 重症頭部外傷患者にみられる血清/髄液サイトカイン比の変動 ○斎藤 豪 1)、丹正 勝久 1)、吉野 篤緒 2)、櫛 英彦 3) 1) 日本大学 医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野、 2) 日本大学 医学部 脳神経外科学系 神経外科学分野、3)日本大学 文理学部 人文科学研究所 【目的】脳損傷により産生されたサイトカインは破綻した血液脳関門 ; blood brain barrier(BBB)から血液 中に spill over し、systemic inflammatory response syndrome(SIRS)を誘導する。そこで頭部外傷患者の SIRS の特徴を血清/髄液サイトカイン比の変動から検討した。 【対象・方法】頭部外傷患者 25 例を対象とした。 これらの interleukin 6(IL-6)、interleukin 8(IL-8)、interleukin 10(IL-10)を測定するため、末梢血と髄 液を入院時、24 時間後、72 時間後、1 週間後の計 4 回採取し、血清と髄液サイトカインの比 [serum / CSF IL-6(serum IL-6 / CSF IL-6 × 100)、serum / CSF IL-8(serum IL-8 / CSF IL-8 × 100)、serum / CSF IL-10(serum IL-10 / CSF IL-10 × 100)] を求め、生存群と死亡群の 2 群に分け有意差検定を行なった。【結 果】15 例は生存したが、10 例は脳死となり死亡した。1)serum / CSF IL-6:死亡群は入院時から順に 7.5、 4.7、4.8、0.8 と経時的に低下したのに対し、生存群は入院時 5.4、24 時間 2.6 で 72 時間に 22.5 に上昇し 1 週間 9.5 で死亡群より有意に高値が続いた。2)serum / CSF IL-8:死亡群では入院時から順に 0.5、0.9、1.2、0.3 であったが、生存群は入院時 0.3、24 時間 4.4 で 72 時間の 10.2 をピークとする上昇が認められ、1 週間 5.0 で 死亡群より有意に高値が続いた。3)serum / CSF IL-10:死亡群は入院時から順に 26.9、36.2、67.6、59.4 であったのに対し、生存群は 168.0、110.9、129.6、94.3 で入院時から 72 時間まで有意に高値であった。【結論】 生存群は入院時より serum / CSF IL-10 は高値で抗炎症反応は維持されており、72 時間以降の serum/CSF IL-6、serum / CSF IL-8 の高値は生体防御反応としての向炎症反応と考えられる。生存群に比して死亡群 の血清/髄液サイトカイン比の低値は、脳死という過大侵襲により惹起された immunosuppression を反映 していると考えられる。 − 94 − O 12 − 2 ICP センサー先端部位と波形の関連性に関する検討 ○大重 英行 1,2)、上坂 達郎 1)、岩村 拡 2)、葛岡 桜 1)、岩田 亮一 1)、津田 快 1)、 吉村 晋一 1)、北澤 康秀 2)、淺井 昭雄 1)、河本 圭司 3) 1) 関西医科大学枚方病院 脳神経外科、2)関西医科大学枚方病院 救急医学科、 3) 関西医科大学滝井病院 脳神経外科 【はじめに】ICP モニターに関しては、周波数や振幅等をはじめとした多角的な研究が数多く報告されてい る。波形に関しては脳 compliance や脳圧を反映しているとも言われているが、先端部位置と波形の関連は あまり検討されていない。今回、ICP センサー先端部と波形に関して検討した。【方法と対象】2010 年 8 月か ら 11 月までで ICP 亢進が予想され ICP センサー挿入した連続 11 例の波形と部位を考慮し解析した。年齢は 17 ∼ 78(平均 46)才、男 8、女 3 であった。疾患は外傷 5、静脈洞血栓症 3、SAH2、脳腫瘍 1 例。すべて意 識障害を呈し、ICU 管理が必要であった。【結果と考察】挿入部位は脳実質 9 例、硬膜外 2 例。CT で先端部 位と viavility を確認した。先端の viavility があり圧が 30mmHg 以下でコントロールされた例では動脈波類 似の波形に notch 形成を認めた。Viavility の低下や脳 compliance の低下部と考えられる部位では notch は わずか∼消失していた。硬膜外は波形変動がやや多かった。CT で viavility があると判定されても notch が わずかな例もあり、画像では推察しきれない動脈波のセンサーとの伝導路の質、つまり脳 compliance の状 態変化があるとも考えられた。【結語】ICP 評価時は、挿入場所、脳 compliance も予測し、波形評価を併せ て行うことで病態予測の因子としえる。 O 12 − 3 経頭蓋的近赤外光による脳血流増加作用 ○苗代 弘 1)、魚住 洋一 1)、竹内 誠 1)、長谷 公洋 1)、小林 弘明 1)、川内 聡子 2)、 佐藤 俊一 3)、藤井 和也 1)、島 克司 1) 1) 防衛医科大学校 脳神経外科、2)防衛医科大学校 医用工学、 3) 防衛医科大学校 防衛医学研究センター 情報システム研究部門 昨年の本会のシンポジウムで、経頭蓋近赤外線レーザー照射によるマウス局所脳血流の有意な増加を報告 し、その作用機序に一酸化窒素が関与していることを明らかにした。2009 年の Stroke に掲載された大規模 前向き無作為二重盲検臨床試験の結果を踏まえ、現在、NEST-3 trial が予定されている(Effectiveness and safety of transcranial laser therapy for acute ischemic stroke. Stroke 40:1359-64,2009)。我々も、2008 年、 学内倫理委員会に申請し承認を得て、中枢神経損傷に対する近赤外光による治療を行っている。マウス in vivo と astrocyte、PC12 神経系培養細胞 in vitro の基礎的実験で、近赤外線によって、細胞外液中の神経伝 達物質の glutamate と dopamine が上昇する事を見出した。臨床試験では、頭蓋内圧亢進と脳ヘルニアに続 発する除脳硬直を呈し、外減圧術等で救命し得たが、8ヶ月以上、四肢自動運動無く、開眼するも追視なく、 従命の全くない 40 歳男性に対し、家族の同意を得て、前額部に LED(出力:13mW x 23 = 299mW)による 低出力近赤外光治療を朝夕 30 分間2回施行した。治療前と8週間の治療後の局所脳血流を IMP-SPECT で 定量評価した。治療後、照射部位の頭皮にトラブルは無く、左上肢の自動運動、合目的運動が出現し、前頭 葉脳血流の有意な増加を認めた。マウスにおいて認められた、脳血流増加作用が、低エネルギー近赤外光を 使ってヒトにおいても同様に認められる可能性が示唆された。脳損傷慢性期のリハビリテーションに寄与す る可能性がある。 − 95 − O 12 − 4 軽度低温は TLR2 活性化マイクログリアの NF- κB 活性化阻害を介し 炎症性・抗炎症性因子産生を抑制する ○松井 智浩 1)、田崎 萌 2)、吉岡 貴裕 2) 1) 山口大学大学院 医学系研究科 病態検査学講座、2)山口大学 医学部 保健学科 検査技術科学専攻 【目的】活性化マイクログリアが産生するサイトカインや一酸化窒素(NO)は脳障害増悪に関与する。よって、 脳低温療法はマイクログリアからのこれらの神経傷害性因子産生を軽減し、脳保護効果をもたらす可能性が ある。マイクログリアに発現する Toll 様受容体(TLR)は病原体非存在下で、損傷細胞から遊離・放出され る内因性物質によって活性化される。本研究では、TLR2 活性化マイクログリアの炎症性・抗炎症性サイト カインと NO 産生ならびに核内転写因子 NF- κB 活性化に低温・高温が及ぼす影響を調べた。 【方法】新生仔ラット脳より単離したマイクログリアを TLR2 活性化剤(Pam3CSK4)で刺激し、33-37-39℃ 下で培養した。培養上清中のサイトカイン(TNF- αおよび IL-10)産生量は ELISA にて、NO 産生量は比 色法にて、また、核内 NF- κB p65 活性化は ELISA にて、それぞれ測定した。 【結果】TNF- α産生は 3-6 時間、IL-10 および NO 産生は 48 時間、また、NF- κ B p65 活性化は 0.5 時間で、各々、 37℃に比べ 33℃では低値、39℃では高値を示した。 【結論】軽度低温は TLR2 活性化マイクログリアの NF- κB 活性化とその後の早期における TNF- α、後期 における IL-10 および NO 産生を抑制した。よって、脳低温療法による脳保護作用の一機序に、マイクロ グリアの NF- κB 活性化阻害を介した早期での炎症反応抑制と後期での炎症・抗炎症反応抑制が関与する ことが示唆された。高温はマイクログリアの NF- κB 活性化と TNF- α、IL-10 および NO 産生を増加させ た。これらの温度依存性変化は、低温下での脳保護効果および高温下での脳障害増悪における病態把握に、 TNF- αが早期の、IL-10/NO が後期の、重要なマーカーになりうることを示唆する。 O 12 − 5 髄液 lactate 値 −頭部外傷術後細菌性髄膜炎の指標としての診断的意義− ○萩原 靖、上野 正人、大下 宗亮、水島 靖明、松岡 哲也 大阪府立泉州救命救急センター 【はじめに】術後細菌性髄膜炎は軽症例から重症例まで多岐にわたっており、菌血症からの波及と考えられ る市中細菌性髄膜炎とは大きく病像が異なっている。また髄液所見は外傷や手術の影響により修飾され、髄 液所見のみから確定診断する事はしばしば困難である。今回我々は脳脊髄液中の乳酸濃度に着目し、細菌性 髄膜炎の指標としての髄液乳酸値の有用性について検討した。【対象と方法】2006 年 1 月 1 日から 2010 年 4 月 30 日までに当センターに入院した患者のうち、髄膜炎を疑われた患者を対象とした。対象は 46 例、入院 時原疾患の内訳は頭部外傷 28 例、脳血管障害 11 例、自己免疫性脳炎 1 例、肝性脳症 1 例、敗血症 1 例、意 識消失発作 1 例、細菌性髄膜炎 1 例、頭蓋骨欠損 2 例であった。これらを C 群:髄液中から細菌が検出された、 或いは頭蓋内膿瘍のもの、N:臨床的に髄膜炎が否定的であったもの、S:細菌は検出されなかったが、臨 床的に髄膜炎と診断されたものの 3 群に分け、それぞれ髄液一般検査、髄液乳酸値を測定した。【結果】髄液 lactate の平均値は C 群 15.9mmol/l、N 群 2.0mmol/l、S 群 4.9mmol/l であった。同時に測定した髄液中の glucose 値は C 群 7mg/dl、N 群 71mg/dl、S 56mg/dl であった。自己免疫性脳炎の 1 例は髄液 lactate2.3、 髄液 glucose101、硬膜外膿瘍の 2 例は髄液 lactate3.4、髄液 glucose76 といずれも正常に近い値を示した。 【考察】 髄液 lactate は細菌性髄膜炎の診断の指標の一つとして利用できる簡便かつ有用な検査であり、またその値 は病勢を鋭敏に反映すると考えられた。 − 96 − O 12 − 6 頭部外傷に対する脳内 microdialysis と FDG-PET ∼エネルギー代謝の評価と問題点∼ ○河北 賢哉 1)、矢野 達也 2)、切詰 和孝 1)、篠原奈都代 1)、阿部 祐子 1)、中原 貴志 1)、 高野耕志郎 1)、河井 信行 2)、田宮 隆 2)、黒田 泰弘 1) 1) 香川大学医学部附属病院 救命救急センター、2)香川大学 医学部 脳神経外科 Microdialysis: MD は脳内に微小透析膜カテーテル(以下:MD カテ)を挿入し、少量の脳組織液を持続 的に採取する方法であり、ブドウ糖(Glu)、乳酸(Lac)、ピルビン酸(Pyr)、グルタミン酸(Glt)、グリセ ロール(Gly)の各濃度をベッドサイドで経時的にモニタリングできる。しかし、MD カテ付近の微小な領 域の情報しか得ることができないので、MD カテの挿入部位によって値が異なることが想定される。一方、 FDG-PET は測定時の情報しか得られないが、ROI を作成することにより任意の領域の脳組織糖代謝を評価 することができる。よって、MD と FDG-PET の組み合わせることにより、エネルギー代謝をより正確に評 価できると考えられる。今回我々は、MD モニタリング中に FDG-PET を行い得た 2 例を含む頭部外傷(脳 挫傷を除く)12 例を対象とし、MD および PET によるエネルギー代謝と MD カテの挿入部位の相違(灰白 質と白質)による各種バイオマーカー値の相違を検討した。症例はび慢性脳損傷 2 例、急性硬膜下血腫 6 例、 急性硬膜外血腫 2 例、外傷性くも膜下出血 2 例であった。MD カテ先端は CT にて確認し、6 例が灰白質、6 例が白質に挿入されていた。MD カテの平均留置時間は 113 時間であり、その間に採取できた組織液は合計 約 1100 バイアルであった。FDG-PET 施行例はび漫性脳損傷 1 例(MD カテは灰白質)と急性硬膜下血腫 1 例(MD カテは白質)であり、2 例とも PET における灰白質の糖代謝率低下が認められ、MD において前者 は細胞レベルでの糖代謝障害が推測された。また白質のバイオマーカー値は灰白質よりも低値を示した。重 症頭部外傷急性期の脳組織では糖代謝障害が起こることがあるが、MD カテの位置にてバイオマーカー値に 違いが生じるため、その評価には注意が必要であると思われた。 O 13 − 1 脳外傷者の歩行能力の長期予後 ○青木 重陽 1)、日比 洋子 1)、鄭 健錫 1)、大橋 正洋 1)、安保 雅博 2) 1) 神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーション科、 2) 東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座 【目的】脳外傷者においては、認知面の問題と並んで身体機能に関する症状も発生頻度は高いが、その長期 的な経過は明らかでない点も多い。リハビリテーション病院に入院した脳外傷者の歩行能力の長期的な変 化を調査する。【対象・方法】過去 5 年間に当科を退院した脳外傷者 421 名のうち、受傷から 1 年以上の経過 が外来などで調査できた 288 名。男 236 名女 52 名、受傷時平均年齢 38.6 歳。受傷時に GCS8 点以下の意識 障害を呈した重症例は 182 例(63.2%)。歩行能力の経時的変化を後方視的に調査した。評価には modified functional ambulation categories(mFAC)を用いた。フォローアップ期間は受傷より平均 3 年 10 ヶ月。さ らに、受傷 1 年以内に歩行可能となった歩行早期群、受傷 1 年以後に歩行可能となった歩行遅延群、最後ま で歩行不能だった歩行不能群を比較検討した。【結果】1.受傷 1 年以内に 225 例が屋内歩行以上可能であり (歩行早期群)、受傷 1 年以降に 24 例が屋内歩行以上可能となった(歩行遅延群)。歩行獲得までの期間の最 長は 52 ヶ月であった。最終的に屋内歩行可能となったのは 249 例(86.5%)で 234 例は屋外歩行も可能とな った。2.歩行遅延群は受傷時の意識障害が重度であり、骨折等で下肢関節可動域制限を呈する者も多かった。 歩行不能群は、意識障害が遷延している者、経過中の合併症発生例、画像上脳幹に異常を認める者が多かっ た。【考察】脳外傷者は多くの症例で受傷 1 年以内に屋内歩行が可能となり、受傷 1 年を経過しても歩行を獲 得する症例もある。当初意識障害が重度の多発外傷者でも、覚醒し強い脳幹症状が無ければその後歩行が獲 得できる可能性がある。急性期治療時からのリハビリテーション対応(関節可動域維持など)が有効である と考える。 − 97 − O 13 − 2 脳外傷後高次脳機能障害の PET・社会的行動障害についての検討 ○間瀬 光人 1)、深川 和利 2)、日比野 新 3)、長野 友里 4)、阿部 順子 5)、小川 鉄男 4)、 飯田 昭彦 6)、山田 和雄 1)、蒲澤 秀洋 2,3) 1) 名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経外科学、2)名古屋市総合リハビリテーションセンター 高次脳機能 障害支援部、3)名古屋市総合リハビリテーションセンター 企画研究局、4)名古屋市総合リハビリテーション センター リハビリテーション科、5)岐阜医療科学大学 保健科学部 看護学科、6)名古屋市総合リハビリテ ーションセンター 放射線科 【背景と目的】高次脳機能障害患者には易怒性や衝動性による対人関係構築困難、人格機能障害による退行、 意欲・自発性の低下などの症状がしばしばみられる。これら社会的行動障害は患者の社会参加の大きな妨げと なっているにもかかわらず、その客観的評価は難しく病態生理も明らかではない。本研究の目的は PET を用 いて社会的行動障害の重症度と局所脳酸素代謝の関係について検討することである。 【対象と方法】対象は脳 外傷後高次脳機能障害患者で社会的行動障害が見られた 18 症例(M:F=14:4、平均 27.7 才、受傷後平均 32.8 ヶ月) である。社会的行動障害の診断は受傷を契機として出現した日常・社会生活に支障を来す問題行動があるも のとした。症状の重症度は The Global Assessment of Functioning(GAF)Scale を用いて評価した。全症例に PET を施行し、 局所脳血流(CBF)と局所脳酸素代謝(CMRO2)および GAF scale との相関について検討した。 【結果】GAF scale のばらつきは 40 点(社会参加はしているが継続が危ぶまれる状態)から 80 点(わずかな症 状があるが、 有意義な社会生活を送れる状態)で平均 62.3 点であった。61 点以上(軽症群 11 例)と 60 点以下(重 症群 7 例)の 2 群に分けると、CBF については両群間に差はなかったが、CMRO2 については両側後頭葉、両 側上側頭回、左中/下側頭回、左尾状核、左島、左海馬周囲、右視床/視床下部、右橋、両側小脳において重 症群で有意に低下していた(p < 0.05) 。 【結論】社会的行動障害を有する患者の重症例では、従来報告されて いる高次脳機能障害患者の脳血流低下部位としてはあまり指摘されていない両側上側頭回の酸素代謝が低下す ることが明らかとなった。その症状発現機序との関係については不明でさらに検討を要する。 O 13 − 3 頭部外傷後ジストニア(PAID)に対するバクロフェン髄注療法の治療経験 ○布川 知史 1,2)、植嶋 利文 1)、木村 貴明 1)、畠中 剛久 1)、石川 久 1)、内山 卓也 2)、 中西 欣弥 2)、加藤 天美 2)、坂田 育弘 1) 1) 近畿大学医学部付属病院 救命救急センター、2)近畿大学 医学部 脳神経外科 【目的】当救命救急センターでは、重症頭部外傷(GCS < 8)の症例には低体温療法にて脳神経保護を行って いるが、1 次脳損傷のために神経機能障害を残すことも少なくない。これら神経機能障害は、運動機能障害 だけでなく不随意運動を合併し、リハビリテーションに影響を与える。重症頭部外傷後にジストニアを伴 った自律神経障害、Paroxysmal Autonomic Instability With Dystonia(PAID)を呈した症例を経験し、バ クロフェン髄注療法(ITB 療法)を行ったので報告する。【症例・結果】対象は 2009 年 1 月以降当センター に搬送された重症頭部外傷の患者 175 例のうちの 3 例で、全例 20 歳代の男性、び漫性軸索損傷 1 例、急性硬 膜下血腫・び漫性軸索損傷 2 例であった。急性硬膜下血腫 2 例には開頭血腫除去術と外減圧術を施行、全例 に低体温療法を行い、翌日には急性期リハビリを開始した。復温に伴い後弓反張姿勢をとり、発汗・頻脈・ 発熱・高血圧・頻呼吸などの自律神経障害を来した。PAID と診断し筋弛緩剤等の内服投与を開始したが治 療に反応せず、ジストニア症状が持続するため ITB 療法を施行した。術後から後弓反張は改善を示し、自 律神経障害による症状は改善した。【考察】重症頭部外傷後 PAID を発症した場合は、ジストニアが早期リ ハビリテーションの妨げとなり、回復期においても重度の機能障害に陥る。当センターでは ITB 療法を選 択、ジストニアの改善とともに他の自律神経症状も消失し、臥床へとつなげることが可能となった。【結語】 Paroxysmal Autonomic Instability With Dystonia(PAID)には ITB 療法が有効と考える。 − 98 − O 13 − 4 頭部外傷後回復期における自動車運転能力評価と再獲得 ○大賀 優 茨城県立医療大学付属病院 診療部 リハビリテーション科/脳神経外科 【目的】頭部外傷後回復期における自動車運転能力再獲得に向けての評価訓練と適性検査結果について検討 する。【対象と方法】2008 年 2 月から 2010 年 12 月にかけて当院で入院加療した頭部外傷患者 38 名(免許所 有者 30 名)のうち、回復期リハ病棟に入院し受傷前に自動車を常用し痙攣発作のエピソードがなく明らかな 視野視力障害を持たず入院中に基本的 ADL が自立し評価訓練を希望した 12 名を対象とした。自動車運転適 性検査装置 DS-2000R(三菱プレシジョン株式会社)によるシミュレーション / 適性検査と神経心理学的検査 による評価を行い、必要に応じてシミュレーション訓練を含めた認知リハビリテーションを施行し、退院時 に自動車運転の可否を判定した。【結果】男 11 名・女 1 名で平均年齢 38.8 才、受傷から平均 44 日後に入院し、 平均 73.8 日の入院期間であった。シミュレーションコース評価での危険走行回数は開始時平均 25.8、退院時 18.7 であった。自動車適性検査はハンドル操作性・AT シフトレバー操作・アクセルペダル操作性・ブレー キペダル操作性・アクセルブレーキ踏みかえ反応時間の 5 項目で評価し、退院時 10 名を合格、2 名を不合格 と判定した。合格者において WAIS は FIQ/PIQ/ 処理速度が境界域で他は正常域、BADS は平均であったが、 失格者中 1 名は WAIS 処理速度および BADS が障害域、他 1 名は下肢感覚障害が結果に大きな影響を及ぼ していると判断された。退院後聞き取り調査で合格 10 名中 8 名が日常的に自動車運転を再開し、全例無事 故であることを確認した。【結論】頭部外傷後回復期での自動車運転能力再獲得率は免許所有者対象では約 30%だが対象を適切に選択すれば約 80%と高率であった。生活期では自動車運転能力再獲得率はさらに高 まることが予想され、長期的支援と判定結果のフィードバックが不可欠である。 O 13 − 5 積極的脳平温療法の看護の実際 ○小川加奈美 1)、川本百合香 1)、芦澤 暁子 1)、南田喜久美 1)、榊原 毅彦 2)、村上 守 2)、 平井 誠 2)、山木 垂水 2) 1) 医療法人同仁会京都九条病医院 集中治療室、2)医療法人同仁会京都九条病院 脳神経外科 【はじめに】当院では、脳保護を目的に重症脳損傷患者に対し積極的脳平温療法(INT)を行っている。これ まで文献で報告されている脳低温療法と比確して、1 血行動態やその他のバイタルサインが安定している 2 肺炎など合併症が少ない 3 複雑な機器を必要としない 4 解熱に対する冷罨法の負担が少ない 5 看護スタッ フへの負担が少ないなど脳平温療法は特別な技術を必要とせず簡便であり、比較的容易に看護スタッフの間 で定着している。【結果】INT 導入当初は、体温を 35.5 ∼ 37.0℃以内に管理しようとブランケットの温度を 20℃以下に設定し局所クーリングを積極的に行っていた。しかし、シバリングを誘発することや対応する看 護師によってクーリング部位やブランケット温の設定などに違いがあったことから体温管理の方法について マニュアルを作成した。マニュアルにそって体温管理を行うようになり看護スタッフの手技の統一ができ体 温管理に対する意識の変化もみられ体温管理が行いやすくなった。また、INT 終了後の 24 時間に急激な体 温上昇をきたす患者が多かったが、ハーフブランケットを使用することで INT 終了後の体温変化を緩やか にすることができた。【考察】積極的脳平温療法は容易かつ簡便であり人的経済的負担が少ない療法である。 INT 終了後の体温上昇についてはハーフブランケットの使用が容易かつ効果的なものであった。【おわりに】 今後もよりよい体温管理がおこなえるよう日々検討していく。 − 99 − O 14 − 1 柔道による脳損傷の現状 ∼最近 27 年間で 110 名以上の柔道死亡事故∼ ○野地 雅人 地方独立行政法人神奈川県立病院機構足柄上病院 脳神経外科 【はじめに】柔道による加速損傷が原因で急性硬膜下血腫を生じる事例は過去に散見される。最近になってそ の数が予想以上に多い事が判明し、マスコミに取り上げられた。今回筆者が「柔道事故被害者の会」を通し て知り得た詳細の情報を分析し、問題点の究明を学会レベルでも検討したい。 【日本の柔道事故の現状】1983 年から 2009 年の 27 年間で 110 名以上の中学・高校生が柔道事故で死亡している。脳損傷は全体の 60-70%と 推測され、殆どが純粋な急性硬膜下血腫である。死亡事例の特徴として、 (1)夏合宿に多い(2)体格差の大 きな相手同士の乱取りが関与していることが多い(3)初心者(1 年生)に多い(4)明らかな頭部打撲が確認 できない事例も存在する(5)柔道の死亡率は他のスポーツに比較して格段に高い(6)柔道が盛んな諸外国で は死亡事故はほとんどない、ことがあげられる。 【症例 1】13 歳男性:夕方柔道の乱取り後の投げ込み練習中 に体重差のある生徒より大外刈りをかけられ後頭部より落ちて受傷、ふらつき、嘔吐した後より意識消失し た。急性硬膜下血腫認められたため緊急手術をうけるも死亡。 【症例 2】16 歳女性:柔道部の夏季合宿に来て いた。朝乱取り中に投げ技を受けた際に頭部打撲をし、以降頭痛、悪心、昼過ぎに嘔吐あり。翌日頭痛が続 いていたので休んでいたが合宿最後の練習とのことで参加、投げ技をかけられたところで強直性けいれんが 出現した。急性硬膜下血腫認められたため緊急手術をうけるも vegitative state の状態である。 【考察】諸外国 に比較し事故が多いのは日本独自の指導方法に原因があるのではないのかと考える。中でも指導者の 「脳振盪」 に対する意識の薄さ、 「加速損傷」などの医学的知識の欠落が問題である。 【今後の課題】当学会でも積極的関 与により発生原因を明らかにし、一刻も早く予防対策を行い柔道事故の撲滅を目指さなくてはいけない。 O 14 − 2 サーフィンによる頭頚部外傷の特徴と予防 ○重森 裕 1)、田戸 雅宏 4)、福島 匡道 2)、森 達郎 3)、前田 剛 1)、梅沢 武彦 4)、 川又 達朗 1)、上野 裕壹 5)、片山 容一 1) 1) 日本大学 医学部 脳神経外科、2)春日部市立病院 脳神経外科、3)横浜中央病院 脳神経外科、 4) 相模原協同病院 脳神経外科、5)横須賀市立病院 脳神経外科 【目的】サーフィンの競技人口は日本国内で 100 万人、世界では 1,000 万人を超えるといわれ、プロスポーツの一 つとして海外では定着している。一方、自然を相手に物理法則を利用して非日常的な移動をすることからサー フィンは、危険性の高いスポーツの一つと考えられる。サーフィンによる外傷は、サーフボードによる接触事 故が多く、挫傷・裂傷などの軽微な外傷が多いと報告されている。しかしサーフィンと頭部外傷の関係につい て検討した報告は少ない。今回我々は、3 例のサーフィンによる頭部外傷と 1 例の脊髄損傷を経験したので、サ ーフィンによる頭頚部外傷に注目し、文献的考察を加えその臨床像を明らかにする事によって、予防対策につ いての検討を行った。 【症例】37 ∼ 47 歳の 4 症例。全例男性であった。サーフボードや岩が頭部へ直撃すること により受傷した。3 例は頭蓋骨陥没骨折を認め、外科的治療を行ない転帰良好であったが、1 例は上位頚髄損傷 を認め転帰不良であった。 【考察】サーフィンによる全外傷の中で頭頸部外傷のしめる割合は、約 40%であり、 頭頚部の裂創、挫創の割合が 25%である事が認められました。頭頚部外傷の内訳は、約 60%が挫傷・裂傷であ ったが、脳震盪が 10%、骨折が 7%、眼窩内病変 3%、頭蓋内病変 1.7%、脊髄損傷が 1.8%であった。また、サ ーフィンによる頭頚部外傷は初心者のショートボードの直撃損傷で起こる可能性が高いことが明らかになった。 このことから頭部外傷の予防策として、1)ヘッドギアやマウスガードの着用、2)ボード先端の形状や材質の改 良など、が有用であると考えられた。また我が国において、サーフィンはスポーツという認識よりもレジャー 的な感覚が大きく、危険性についての考えがなされていないことが多い。今後は事故防止教育を普及させ、競 技者がサーフィンの危険性と危機回避方法を学ぶことが防具の開発とともに不可欠であると考えられた。 − 100 − O 14 − 3 柔道による重症頭部外傷の特徴と予防:死亡例 108 症例についての検討 ○重森 裕 1,3)、内田 良 2)、大城 真也 1)、井上 亨 3) 1) 福岡東医療センター 脳神経外科、2)愛知教育大学 教育学部、3)福岡大学 医学部 脳神経外科 【目的】これまで柔道による頭部外傷の報告は数少なくその実態は明らかではない。本研究は、柔道における死亡 事故事例をもとに、柔道と重症頭部外傷の関係を明らかにする目的で以下の調査を行った。 【対象と研究】過去 28 年間に日本スポーツ振興センターに寄せられた全国の中学校・高等学校における柔道による死亡事故の報告例を もとに、性別・事故発生学年分布・死亡に至った病態・柔道技と死亡病態との関係・複数回の頭部外傷の症例数 を検討する事で、柔道による重症頭部外傷の臨床像を明らかにし、予防対策についての検討を行った。 【結果】調 査期間中の死亡事故例は 108例であり、平均は年間 4例、男女比は、103:5であった。学年の内訳は、高等学校 1 年生が 46例で最も多く、中学校 1年生と高等学校 2年生が 18例、中学校 2年生が 14例であり、中学校・高等学校 ともに低学年に死亡事故が多く発生していた。頭部外傷に起因したものは 70例と最も多く、その内訳は、急性硬 膜下血腫が 47例、脳挫傷が 12例であった。死亡直前の柔道技は、大外刈りが 15例と多く、背負い投げと体落と しが 6例であった。頭部外傷に起因した死亡例のうち、11例に複数回の頭部外傷が記録されていた。 【考察】柔道 における死亡事故例の死因は、頭部外傷が半数以上を占め急性硬膜下血腫が全体の 45% に至ることが明らかとな った。また部活動で柔道を始めたばかりの初心者が多く含まれていることが考えられた。重症頭部外傷の予防策 として初心者には頭部を打撲しない受け身の練習を徹底させることや、打ち込みや投げ捨て練習の際に、ヘット ギアやマウスピースが有用であると考えられた。未熟な競技者を事故から守るために、初心者への禁止技の設定 や頭部打撲後の対応についてのシステムの構築を検討し、重大事故防止教育を全日本柔道連盟と共に普及させる ことが、急性硬膜下血腫が生じた状況を十分に検討し、原因を明らかにしていくことと共に必要である。 O 14 − 4 モバイル CT を用いたアメリカンフットボールにおける頭部外傷事故対策 ○中山 晴雄 1,2,3,4)、藤谷 博人 5)、谷 諭 3,4)、川又 達朗 3,4)、荻野 雅宏 3,4)、 福田 修 3,4)、森 照明 3,4)、平元 周 2)、岩渕 聡 1)、阿部 俊昭 3) 1) 東邦大学医療センター大橋病院 脳神経外科、2)緑成会横浜総合病院 脳神経外科、 3) 日本脳神経外傷学会スポーツ頭部外傷検討委員会、 4) 臨床スポーツ医学会学術検討委員会 脳神経外科部会、5)聖マリアンナ医科大学 スポーツ医学講座 アメリカンフットボールは、数あるスポーツの中でも、競技者が互いに激しく接触、さらには衝突することが避け難い だけでなく、むしろ本来的に予定されている競技であるから、接触・衝突に付随して様々な事故が生じ、競技者の身体・ 生命に危害が及ぶことの高度の危険性を内在している。日本アメリカンフットボール協会医事委員会は、1988年から国内 の頭部外傷に関する検討を行った結果、本邦における重症頭部外傷による死亡率が米国の約 20倍に及ぶことを報告してい る。このような報告を受け、重大な事故を予防すべく、ルール改正やヘルメットなど防具の改良が行われてきた。しかし ながら、ヘルメットをかぶることにより直達外力による影響を減少することは出来ても、回転加速度と並進加速度の影響 を消失させることは困難であり、今日でもフットボールによる死亡事故の年間発生率は選手 10万人当たり、米国では 0.3 ∼ 0.7人、日本では 2人前後とされており、未だに日本のフットボールにおける重篤な頭部外傷の発生率は非常に高いのが 実際である。したがって、今後本邦のフットボールにおける重症頭部外傷事故対策として、試合時におけるゲームドクタ ーの派遣に代表される医療人員投資ならびに、試合会場への医療設備投資、医療連携の構築といった医療体制の改善が必 要と考えられる。一方、移動する検査室と例えられるモバイル CT は、戦後に発生した地震では過去最悪・未曽有の被害 を出した阪神淡路大震災において、その必要性を認められた新移動医療システムであり、平成 20年 7月厚生労働省医政局 長通知の発令による大幅な規制緩和以降その運用が活性化されており注目を集めている。そこで、本研究では 2010年の関 東学生アメリカンフットボール連盟秋季公式試合にモバイル CT を導入することで、本邦のフットボールにおける頭部外 傷事故対策の一環として新たな医療体制の構築を試みたので、その実際と効果について検討し報告する。 − 101 − O 14 − 5 大学1部リーグ アメリカンフットボール部における脳振盪発生予防の取り組み ○田戸 雅宏 1)、鶴谷 舞 2)、小野 武 3)、増田 英人 4)、安保 和之 4)、重森 裕 1)、 森 達郎 1)、前田 剛 1)、川又 達朗 1)、片山 容一 1) 1) 日本大学医学部 脳神経外科、2)㈱プロフェッショナルトレーナーズチーム、 3) 関西学院大学アメリカンフットボール部、4)Kwansei Dental Fighters 【目的】スポーツによる頭部外傷は脳振盪の頻度が最も高く、中でもアメリカンフットボールではその頻度 が高く、致死的脳損傷に至る症例も存在する。急性硬膜下血腫等の致死的脳損傷の発生頻度は脳震盪の発生 頻度と相関を示し、脳震盪の予防が致死的脳損傷の減少につながると報告されている。本研究ではアメリカ ンフットボールにおける脳振盪の発生状況を調査し、脳振盪の予防対策について考察する。 【対象】過去 4 年間に大学 1 部リーグのアメリカンフットボール部の練習 586 回、試合 69 回に参加した延べ 571 人を対象とした。 【 方 法 】 専 門 の 講 習 を 受 け た 学 生 ト レ ー ナ ー が 問 診・ 神 経 学 的 テ ス ト・Standardized Assessment of Concussion を行い、コーチ、アスレティックトレーナー、チームドクターと連絡をとり脳振盪の診断を行った。 【結果】脳振盪は 4 年間で 103 回発生し、年平均 25.8 回であった。その多くがめまいや頭痛であり、意識消失 を呈する重症はなかった。健忘症状を認めたのは 15 例(14.6%)だった。年別脳振盪発生率、ポジションや学 年で発生率に有意な差は認めなかったが、月別脳振盪発生回数では 8 月に脳振盪の発生件数が最も多かった。 【考察】8 月は秋のリーグ戦に向けて練習量が増えるため、フルコンタクトの回数が多くなる。また夏合宿 中では、疲労蓄積・睡眠不足による集中力低下、暑さによる脱水状態などの影響により脳振盪の発生頻度が 高くなるものと推測される。本チームでは脳振盪診断や復帰プログラムを明確するとともに、脳振盪の客観 的評価にも取り組んでいる。国内トップレベルのチームが行う脳振盪予防に対する取り組みが、競技団体全 体への予防対策の啓蒙や意識の向上となり、致命的な脳損傷の予防につながると考えられる。 O 14 − 6 当院における頭蓋底骨折 51 例の検討 ○雄山 博文、鬼頭 晃、槇 英樹、服部 健一、野田 智之、丹羽 愛知 大垣市民病院 脳神経外科 【はじめに】当院における頭蓋底骨折症例を検討し、全身の合併損傷と予後との関係を得たので報告する。【症 例】過去 5 年間に当院に入院した急性期の頭蓋底骨折症例 51 例を対象とした。受傷機転は転落 12 例、転倒 5 例、 交通外傷 20 例、自転車単独事故 7 例、重量物による挟み込み 2 例、重量物落下 1 例、サッカーによる頭同士 の衝突 1 例、硬式ボールの衝突 2 例、殴打 1 例であった。頭蓋底の骨折部位は前頭蓋底 34 例、中頭蓋底 4 例、 蝶形骨 2 例、錐体骨 18 例、後頭骨 4 例(のべ数)であった。【結果】頭部の合併損傷として、顔面骨骨折 13 例、 急性硬膜外血腫 12 例、脳挫傷 12 例、急性硬膜下血腫 9 例、外傷性くも膜下出血 6 例を認めた。気脳症を 27 例に認めたが、髄液漏を生じたものは 6 例であった。脳神経症状は 6 例に、髄膜炎を 1 例に、hyponatremia を 1 例に生じた。全身の合併損傷としては、胸部損傷 9 例、腹部損傷 3 例、骨盤骨折 3 例、脊椎骨折 7 例を 認めた。手術は顔面骨整復術 4 例、急性硬膜外血腫除去術 4 例、急性硬膜下血腫除去術 1 例、脳挫傷除去 術 1 例、脳室ドレナージ術 1 例が行われた。予後は、なんとか家庭内生活が送れるものが 38 例であったが、 寝たきり 4 例、植物状態 4 例、死亡 5 例も認められた。血気胸、肺挫傷等の胸部合併症を 9 例に認めたが、 このうち 6 例が死亡もしくは植物状態となった。胸部合併症のない 42 例中死亡もしくは植物状態となった は 3 例であり、胸部合併症のある症例で有意に死亡もしくは植物状態が多かった。また脾臓損傷 2 例、肝臓 及び脾臓の損傷 1 例と、腹部合併症を 3 例に認めたが、このうち 2 例が死亡もしくは植物状態であった。腹 部合併症のない 48 例中死亡もしくは植物状態は 7 例であり、腹部合併症のある症例で有意に予後が悪かっ た。【考察】全身の合併損傷、特に胸部、腹部の損傷を有する症例で予後が悪く、注意を要する。 − 102 − O 14 − 7 growing skull fracture の 7 例 ○亀田 雅博、上利 崇、小野 成紀、伊達 勲 岡山大学大学院 脳神経外科 growing skull fracture は、交通事故・転落など強い外傷が原因で認められた頭蓋骨の骨折線が受傷後徐々 に拡大してくる病態で、発達過程にある乳幼児に認められる稀な疾患である。このたび、当科にて経験した growing skull fracture の連続 7 症例をまとめたので最新の症例を中心に報告する。7 症例の内訳は、男児 4 例、女児 3 例で、受傷原因は、交通事故 3 例、転落 2 例、その他 2 例であり、従来の報告通り強い外傷が背 景に存在していた。受傷部位はテント上 4 例、テント下 2 例、テント上下にまたがるものが 1 例であった。 手術時の患児の年齢は、7 カ月から 4 歳(中央値1歳 8 カ月)であり、受傷から手術までの期間は 5 カ月から 12 カ月(中央値 9.5 カ月)であった。最新の症例は、交通事故にて左側頭 - 頭頂部の骨折、脳挫傷を認めた 7 カ月の男児で、保存的加療を受けたが、骨折線の拡大、それに伴う骨欠損部に拍動性の腫瘤を認めたため、 growing skull fracture の診断にて当科紹介となった。手術では、断裂した硬膜の修復と、正常部の頭蓋骨 から骨弁を採取し骨欠損部を補填、骨弁を採取した部位はアパセラムにて骨形成を行った。術後 3 カ月の時 点では、骨折線の拡大を認めず、病状は落ち着いている。Growing skull fracture は稀な疾患であるが、成 長過程にある乳幼児の頭蓋骨骨折を認めた場合には、将来的に合併する可能性がありうることを念頭に置い ておく必要があると考えられた。また、骨欠損部の処置については、レジンにて補填後、数年して growing skull fracture が再発し再手術となった報告もあり、自家骨で補填するという strategy も検討に値するもの と考えられた。 O 15 − 1 重症頭部外傷での Diffuse Vascular Injury と予後の関連の検討 ○岩村 あさみ 1,3)、田岡 俊昭 1)、坂本 雅彦 1)、和田 敬 1)、明石 敏昭 1)、越智 朋子 1)、 吉川 公彦 1)、朴 永銖 2)、奥地 一夫 3) 1) 奈良県立医科大学 放射線科、2)奈良県立医科大学 脳神経外科、 3) 奈良県立医科大学 高度救命救急センター 【目的】頭部外傷例で白質に広がる多数の微小出血の集合は、病理学的には Diffuse vascular injury(DVI) とよばれ、Diffuse axonal injury とは区別される。磁化率強調画像を用いて、重症頭部外傷症例で見られる DVI と考えられる白質の微小出血の程度を評価し、その出現頻度および予後との関連を評価することが本研 究の目的である。 【対象と方法】対象は 2007 年 4 月から 2010 年 3 月までに当院高度救命救急センターに搬送 された重症頭部外傷患者(Glasgow Coma Scale ≦ 8)で MRI を施行した 26 名である。通常の MRI 撮像に加 えて、磁化率強調画像(3D-FLASH、TR=49ms、TE=40ms、FA=15deg、FOV=230mm、Matrix=320x272、 Slice thickness=1.6mm)での撮像を行い、白質内の低信号病変として描出される微小出血の程度を以下の ように分類した。Grade0:出血なし、Grade1:点状出血、Grade2:数珠状の出血、Grade3:放射状に配列 する数珠状出血とし、Grade 2 と 3 を DVI と見なした。微小出血の程度と、意識障害の遷延期間および予後 (Glasgow Outcome Scale:GOS)との関係に関して検討を行った。 【結果】磁化率強調画像で描出される微小 出血は Grade0:2 例、Grade1:7 例、Grade 2:1 例、Grade 3:16 例であり、約 65% の症例で Grade2 又は 3 の微小出血(DVI)がみられた。意識障害の遷延期間は微小出血の程度に関して有意差を認めなかった。予 後に関しては、DVI がみられた 17 例中、Good recovery を示す症例が 2 例であり、DVI のみられなかった 9 例で Good recovery が 6 例であったことと比較して、有意に少なかった(p < 0.05) 。 【結論】磁化率強調画像 では重症頭部外傷症例の半数以上で DVI と考えられる微小出血がみられ、中でも放射状に配列するパターン が多く見られた。また、DVI のみられる例では予後が不良であることが示された。磁化率強調画像による重 症頭部外傷症例での白質の微小出血の評価は予後予測に有用であると考えられた。 − 103 − O 15 − 2 経頭蓋超音波 Color Duplex Sonography 探触子固定装置(Sonopod)を用いた脳組織灌流の解析 ○塩貝 敏之 1)、小山 真理 1)、山本真佑実 1)、吉川 健治 2)、水野 敏樹 3)、中川 正法 3) 1) 恵心会京都武田病院 脳神経科学診療科、2)星ヶ丘厚生年金病院 脳卒中内科、 3) 京都府立医科大学大学院 医学研究科 神経内科学 【目的】経頭蓋超音波 Color Duplex Sonography(TCDS)モニタリング用の探触子固定装置(Sonopod)を、 脳組織灌流解析に応用し、有用性と問題点を検討する。【方法】脳組織損傷を伴う神経疾患 11 例(31-94 歳、 平均 66;男 9、女 2)を対象とした。SONOS 5500(Philips)を用い、TCDS で両側中・後大脳動脈で解析後、 S3 探触子を Sonopod に装着し、Levovist? を bolus 静注後、側頭窓(7 例で両側、4 例で片側)から視床・基 底核レベルにて脳組織灌流画像の水平断像を描出し、関心領域における時間−強度曲線を解析した。全例で 1.7MHz 送受信の Power Modulation Imaging(PMI)、うち 2 例で送・受信 1.2/2.4MHz の Second Harmonic Imaging(SHI)を併用し、うち 9 例で acetazolamide(ACZ)による脳血管反応性(CVR)の評価を行った。 【結果】1)検者1人で、全例脳組織灌流測定が可能となった。2)患者の体動により、探触子の位置が変動す ることがあったが、ほぼ同部位に再調整できた。3)CVR 評価においては、ACZ 前後における関心領域設定 の再現性が向上し、同一部位(両側基底核・視床、対側側頭葉)にて定量評価可能であった。4)対側側頭窓 からの評価には、Sonopod の再固定が必要で、左右同一スライスでの評価という観点からは問題があった。5) 片側側頭窓から両側半球の評価が可能な PMI が、SHI より解析に適していた。【結論】TCDS 用の探触子固 定装置(Sonopod)により重症脳障害患者のベッドサイドで、簡便に精度の高い脳組織灌流測定の定量解析 が繰り返し可能で、脳損傷に伴う脳虚血病態のリアルタイム評価が可能である。 O 15 − 3 頭部外傷における脳幹損傷 MRI 所見による検討 ○杉山 健、宮田 昭宏、岡田 博史、桝田 宏輔、石毛 聡、山内 利宏、 小林 繁樹、中村 弘 千葉県救急医療センター 脳神経外科 【目的】頭部外傷の画像診断方法としての MRI の有用性についてはすでに指摘されており多数の研究報告が 行われている。特に小脳・脳幹についてはより正確な画像診断が可能であり有用性が高いと考えられている。 本報告の目的は、頭部外傷急性期の MRI 所見をもとに、脳幹損傷の評価を行うことである。【対象と方法】 千葉県救急医療センター外傷データベースを用いた。後ろ向き調査期間は 2004 年 1 月 1 日から 2008 年 12 月 31 日。登録 1723 例中、身体いずれかの部位で AIS3 以上。受傷急性期に頭部 MRI が施行され読影評価可能 であった 250 例を対象とした。脳幹損傷の画像分類は、Firshing と Wedekind らの方法を参考にし、損傷の型・ 局在・性状について評価分類した。また、合併するテント上の所見もあわせて評価分類した。【結果】250 例 中 27 例で脳幹損傷所見を認めた。すべて限局型であり、局在は中脳 24 例・中脳−橋背側 1 例・橋 2 例・延 髄 0 であった。出血性変化を認めたものは 2 例であった。合併するテント上の所見は、皮質皮質下 8 例・基 底核視床 3 例・脳梁 11 例・脳実質外 8 例・テント上異常所見なし 5 例であった。【考察と結論】頭部外傷に おける脳幹損傷頻度は、10.8% であった。画像所見の特徴としては、1)大脳脚に限局した損傷が多く、脳幹 損傷の 70% をしめていた。2)非出血性損傷が多く、明らかな出血性損傷は 7% のみであった。3)合併する テント上所見は脳梁に最も多くみられ、41% をしめていた。以上 3 点である。この MRI 所見に加え、受傷 機転の評価、他のモダリテイとの比較など行うことにより、病態のより正確な把握につながる可能性がある。 − 104 − O 15 − 4 急性硬膜下血腫における T2* 強調画像の検討 ○宮本 健志、藤原 敏孝、横須賀公彦、戸井 宏行、松崎 和仁、松原 俊二、 平野 一宏、宇野 昌明 川崎医科大学 脳神経外科 【目的】びまん性軸索損傷における microbleeds(MBs)の有無の検討は、重症度や予後を評価する上で重要 である。今回、急性硬膜下血腫(ASDH)における T2* 強調画像での MBs の有無と予後の関係について、 同様の意義を持つか後向き検討を行った。文献的考察を加えて報告する。 【方法】2005 年 1 月から 2010 年 11 月の間、当院で開頭血腫除去術または減圧開頭術を行った ASDH 例 57 例 のうち、急性期に MRI/T2* 強調画像を撮影した 32 例を対象とした。症例の平均年齢は 67.4 歳(18-86 歳)、 男性 21 例、女性 11 例であった。それぞれ MBs や挫傷性脳出血(Contusional hemorrhage:CH)の有無につ いて評価し、MBs を有する症例は DAI の stage1 から 3 に分類した。予後は GOS(Glasgow Outcome Scale) で評価した。MRI は平均で受傷後 10 日(0-37 日)に撮影した。 【 結 果 】17 例(53.1%) に MBs を 認 め、ASDH の 約 半 数 に DAI を 伴 っ て い た。Stage1 は 11 例(34.4%)、 stage2 は 3 例(9.4%)、stage3 は 3 例(9.4%)であった。CH は 22 例(68.8%)に認めた。退院または転院時 の GOS は、予後良好群(GOS4,5)が 8 例(25%)、予後不良群(GOS1-3)が 24 例(75%)であった。CH22 例のうち 18 例(81.8%)が予後不良であり、DAI17 例のうち、14 例(82.4%)が予後不良であった。CH も DAI もない 4 例のうち、3 例(75%)が予後良好であった。脳幹に MB を伴う stage3 DAI の 3 例は全例予後 不良であった。 【考察】CH や MBs を認める症例は重症の傾向にあった。一方で MBs、CH ともに認めない症例は、比較的 予後良好であった。術後、MRI がその病態把握に有用であると考えられた。 O 15 − 5 外傷性脳幹損傷の画像所見と臨床的特徴 ○杉江 亮、小畑 仁司、頼經英倫那 大阪府三島救命救急センター 脳神経外科 【はじめに】大きな頭蓋内血腫や脳ヘルニアによる二次性脳損傷によって生じる脳幹損傷にくらべ、受傷直後 に生じる一次性脳損傷による脳幹損傷は比較的頻度が少なく、病変も CT で明瞭しない場合がある。今回自 験例で、MRI で指摘し得た脳幹損傷の 6 例を経験したので報告する。【対象と方法】2005 年 1 月より 2010 年 12 月までの間で、当センターに重症頭部外傷で入院加療し、MRI で脳幹損傷を指摘し得た 6 例を対象とした。 検討項目は、来院時の意識レベルや治療方法などの患者背景に加え、CT 所見、MRI 所見を検討した。MRI は東芝 Excelart(1.5T)を使用し、DWI、T2*WI で、thin slice を含めた画像所見を撮像した。【結果】全例 男性で、13 歳から 67 歳で、平均 37.3 歳であった。受傷機転は、交通外傷が4例で、転落が 2 例であった。全例、 来院時 JCS 3 桁の意識障害があり、来院時、瞳孔散大もしくは瞳孔不同を認めていた症例は 4 例あった。脳 低温療法は3例に導入、開頭術前に脳圧計を挿入した症例は 2 例あり、初圧はそれぞれ 14mmHg、10mmHg であった。来院直後の CT で、全く脳内に占拠性病変が無いと判断できる症例は 3 例、残りは、前頭部に急 性硬膜外血腫(1 例は脳圧計設置術を先行させ、ICP14mmHg)が 2 例、側頭部に薄い急性硬膜下血腫が存在 した例が 1 例であった。MRI で指摘し得た脳幹損傷は、中脳レベルで認め、病変はおおむね 1cm 程度であり、 DWI で high intensity で、T2*WI で4例が low intensity を呈していた。いずれの症例も 2 週間以上の遷延 性意識障害を呈していた。当センター転院時の予後は GOS:MD1 例、SD:2 例、VS :3 例であった。【考察】 今回報告した脳幹損傷は、び漫性軸索損傷と呼称している病態に類似するものではないかと思われた。同病 変は、初期に CT でも指摘し得ることは難しく、瞳孔異常や、遷延性意識障害を有する症例では、積極的に MRI を撮像すべきと考えられた。 − 105 − O 15 − 6 びまん性脳外傷後高次脳機能障害評価のためのフルマゼニル PETを用いた中枢性ベンゾジアゼピン受容体測定 ○河井 信行 1)、川西 正彦 1)、河北 賢哉 2)、矢野 達也 2)、田宮 隆 1) 1) 香川大学 医学部 脳神経外科、2)香川大学医学部附属病院 救命救急センター 【目的】びまん性脳外傷(DBI)後に高次脳機能障害が後遺した患者において頭部 MRI などによる形態学的 画像所見が乏しく、高次脳機能障害の原因となる局所性脳病変を検出することが困難なことがある。我々は DBI 後高次脳機能障害患者において中枢性ベンゾジアゼピン受容体を定量的に評価できる分子イメージング トレーサである 11C- フルマゼニル(11C-FMZ)を用いた PET 検査を行ったのでその結果を報告する。 【対象】 データベース作成のための正常被験者は、男性 10 名、女性 10 名の 20 名(平均年齢 24.4 ± 2.8 歳、22 ∼ 30 歳)である。また患者群は、DBI 後に高次脳機能障害を後遺した男性 7 名、女性 1 名の 8 名(平均年齢 29.1 ± 11.1 歳、19 ∼ 46 歳)である。【方法】PET 検査は、11C-FMZ 静注後 60 分間のダイナミック撮影を行い、 橋を reference とする binding potential(BP)画像を作成した。統計学的画像解析ソフト 3D-SSP を用いて 患者群において正常被験者群と比較して有意(Z score > 2)に神経細胞が脱落した部位を検出した。さらに 脳血流解析ソフト SEE を応用し個々の患者において脳の各領域における FMZ-BP の低下を定量的に評価し、 その値と WAIS-III の結果との相関を統計学的に検討した。【結果】正常被験者では比較的均一な BP 画像が 得られ、統計学的画像解析のためのデータベースが得られた。患者群において正常被検者群と比較して内側 前頭回、前部帯状回、視床において有意な神経細胞の脱落が確認された。それらの領域は MRI の形態学的 画像診断では明らかな損傷を認めなかった。また左内側前頭回と右視床における FMZ-BP 低下と WAIS-III の結果には有意な相関が認められた。 【結論】FMZ-PET 検査により DBI に伴う高次脳機能障害患者において、 形態学的画像診断では異常を認めない部位にも神経細胞脱落が確認された。また神経細胞脱落と認知機能検 査に有意な相関が認められ、FMZ-PET は DBI 後の高次脳機能障害の診断に役立つものと考えられた。 O 16 − 1 手術治療を要した吸引分娩に合併した新生児急性硬膜下血腫の 2 例 ○朴 永銖、弘中 康雄、本山 靖、中瀬 裕之 奈良県立医科大学 脳神経外科 吸引分娩に合併した重症急性硬膜下血腫(SDH)に対し、迅速な手術により良好な経過を得ることができ た 2 症例を経験したので報告する。【症例1】在胎 41 週 0 日、A 病院にて吸引分娩により出生。Apgar score 9 点→ 10 点、出生直後は呼吸状態は安定し哺乳も可能であった。Day2 より啼泣後にチアノーゼおよび徐脈 を呈するようになり当院 NICU へ搬送される。来院時、後弓反張ならびに無呼吸発作を認め、大泉門は高 度に緊満していた。CT にて脳幹を高度に圧迫する massive な後頭蓋窩 SDH ならびに閉塞性水頭症を認め た。直ちに緊急手術を施行、右 rhomboid suture を利用し約 15mm の骨窓を設け、後頭蓋窩 SDH を可及的 に摘出した後、大泉門から脳室ドレナージを留置した。術後速やかに意識障害は改善し、ミルクの哺乳も術 翌日から可能となり元気に退院。【症例2】在胎 40 週 4 日、同じく A 病院にて吸引分娩により出生。Apgar score 9 点→ 10 点、Day2 より SpO2 が低下し徐脈を認めるようになり転送となる。来院時から無呼吸発作が 頻発し、CT にて小脳テントに沿った SDH を確認。右 rhomboid suture 周辺に約 20mm の骨窓を設け可及 的にテント上の SDH を摘出した。術後無呼吸発作が数日間遷延したが徐々に回復し、神経症状なく退院した。 【結語】分娩外傷による SDH に対しては、減圧を目的とした小開頭(骨窓)による血腫除去にて十分な治療 効果が得られており、大開頭による血腫除去は危険かつ不要であると考えられた。 − 106 − O 16 − 2 ドクターヘリ搬送が有効であった小児の重症頭部外傷の検討 本多ゆみえ 1)、○西山 淳 1)、竹内 昌孝 1)、溝上 義人 1)、松前 光紀 1)、猪口 貞樹 2) 1) 東海大学 医学部 脳神経外科、2)東海大学 医学部 救命救急医学 【はじめに】小児は頭蓋内はタイトであり、頭蓋内出血等が生じると急速に症状が増悪する。しかし、小児 の脳神経は可塑性に富み、発生した損傷部は将来的に回復する見込みがある。すなわち、迅速に専門家の下 で適切な治療が開始できれば、その機能予後に関しては大いに期待できる。今回、ドクターヘリ搬送された 小児の頭部外傷症例につき検討した。【対象】2004 年 4 月から 2010 年 10 月までに、ドクターヘリ搬送された 15 歳以下の小児症例 145 例中、小児の頭部外科症例 52 症例あった。 【結果】頭部外傷の内訳は交通外傷 39 症例、 墜落・転落 11 症例、その他 2 症例であった。転帰は Glasgow Outcome Scale(GOS)の GR 41、MD 2、SD 1、PV 0、D 8(CPAOA 4)であった。(症例 1)8 歳男性、2mの高さのジャングルジムより転落、受傷現場 では意識良好であったが、GCS 1-1-3 に増悪したため、ドクターヘリ搬送となった。ヘリ内で左眼瞳孔散大・ 対光反射消失し、マニトールを投与しながら搬送。左急性硬膜外血腫の診断で緊急開頭術を予定したが、瞳 孔散大が改善せず、入室前に ER で HITT し減圧を行った。GCS4-3-6、経口摂取の可能、右上下肢の麻痺と 失語の状態で転院。(症例 2)7 歳男性、自転車乗車中乗用車と接触受傷。救急隊接触時 GCS3-4-6 であり重症 頭部外傷疑いでドクターヘリ搬送となった。搬送中、GCS3-1-4 まで意識レベル低下、来院直後に全身性痙攣 を認めた急性硬膜下血腫・脳挫傷を認め、グリセオールを投与しながら緊急開頭術となった。独歩退院し通 学中である。予後良好例に、ヘリ現着時 GCS5 点の症例と搬送中 GCS8 点にレベル低下した症例の重症頭部 外傷が含まれており、小児症例でかつドクターヘリ搬送であったからこそ改善しえた症例であると考えた。 【まとめ】小児の重症頭部外傷のドクターヘリ搬送は、初期治療の早期開始および迅速適確な病院選定によ る早期診断の結果、頭蓋内合併症を減少させ結果として予後を改善でき有効である。 O 16 − 3 乳児頭部外傷の検討 ○小関 宏和、萩原 信司、秋山 真美、谷 茂、田中 典子、糟谷 英俊 東京女子医科大学東医療センター 脳神経外科 【目的】2007 年 1 月から 2010 年 11 月の間に当院を受診した乳児頭部外傷について検討を行った。【対象】2007 年 1 月から 2010 年 11 月に当院を受診した乳児頭部外傷は 307 例であった。この 307 例につき月齢、受傷機 転、画像診断施行の有無、頭蓋・頭蓋内病変の有無などについて検討した。【結果】307 例の内訳は男児 168 例、 女児 139 例。月齢は 0 ∼ 3 カ月が 73 例(23.8%)、4 ∼ 7 カ月が 106 例(34.5%)、8 ∼ 11 カ月が 128 例(41.7%) であった。受傷機転ではベッドやソファー、ベビーカーなどよりの転落・滑落(144 例、47.0%)が多かった。 画像診断(頭部単純 X-P ないしは頭部 CT)は 112 例に行われ、26 例で頭蓋・頭蓋内病変をみた(全症例の 8.5%、 画像診断を行った内の 23.2%)。頭蓋・頭蓋内病変をみた例の内訳は頭蓋骨線状骨折が 16 例、急性硬膜下血 腫が 4 例(うち 2 例は線状骨折伴う)、急性硬膜外血腫が 2 例(2 例とも線状骨折伴う)、脳挫傷が 3 例、陥没 骨折が 1 例であり、26 例中 21 例に頭蓋骨骨折がみられた。病変が存在した例の受傷機転では階段や抱っこ・ おんぶ、高い(100cm 以上)台よりの転落が多数(26 例中 16 例)を占めた。【考察】乳児の頭部外傷は原因と して滑落・転落が多く、特に階段や抱っこ、1m 以上の高い台よりの転落では頭蓋・頭蓋内病変を伴うこと が比較的多く、画像診断を行うべきと考えられた。この際、高率に頭蓋骨骨折を伴うことや被爆の問題(頭 部単純 X-P が 0.1mSv、頭部 CT が 2~3mSv)を考えるとまず頭部単純 X-P を行うことが有用と思われる。 − 107 − O 16 − 4 Retroclival Epidural Hematoma の 2 例 ○荒木 尚、師田 信人、福元雄一郎、根木 宏明、平岩 直也 国立成育医療研究センター 脳神経外科 Retroclival epidural hematoma(REDH)は稀な病態であり、全硬膜外血腫の約 1%程度とされ、過去 27 例の症例報告が存在している。今回当施設で経験された 2 例を提示し、画像所見、治療経過、予後等につ いて文献的考察を交え報告する。症例 1:1 歳男児 自宅にて心肺停止状態であるところを発見され前医 へ救急搬送。蘇生処置により心拍再開したため全身管理目的で当センター転院となる。来院時意識レベル GCS1-t-1 瞳孔両側 3 ミリ、対光反射消失。脳 CT にて広範なびまん性脳虚血及び大脳表面の硬膜下血腫を 認めた。橋下部から延髄レベルの軸位断にて大孔前縁に沿う高吸収域病変を認めた。矢状断にて REDH が 認められた。画像所見より虐待が疑われ、両側の網膜出血が指摘された。血液循環動態が極めて不安定であ り、入室 5 日目に死亡した。症例 2:4 歳男児 公園でブランコから誤って後方に転倒し、後頭部を打撲した。 直後の意識消失はなく啼泣あり。直後から頻回の嘔吐を認め、顔色不良となり近医救急外来を独歩受診した。 意識レベル清明、瞳孔異常なし、頚部痛を訴え、打撲部の皮下血腫を認めた。神経学的異常は認められなか った。脳 CT にて外傷性くも膜下出血を認めるとされ当院転院搬送となる。大孔レベルの軸位断にて前縁に 高吸収域病変を認め、矢状断にて REDH が認められた。頚椎カラー支持下で保存的に経過観察され、受傷 後一週間でほぼ消失した。神経学的異常なく独歩退院した。REDH は小児に多く、比較的軽度な受傷機転で 発生する。環軸間亜脱臼を合併することが多い。心肺停止例が多い一方無症候あるいは軽微な症状で潜在的 に病変が存在する可能性も高く、受傷機転によっては MRI 等を行う必要もある。 O 16 − 5 乳児期頭蓋骨陥没骨折の検討 ○竹本 理、山田 淳二、笹野 まり 大阪府立母子保健総合医療センター 脳神経外科 【はじめに】成人の陥没骨折では、早期に修復術を行う意見が強い。小児では、自然整復の報告もあり、そ の判断は年齢により異なる。過去に、乳児の単純陥没骨折は自然整復される可能性が高いことを本学会で も報告したが、さらに症例が増えたので再度検討を加えた。【対象と結果】2000 年以降、当科で治療した新 生児を含む乳児陥没骨折 12 例(連続症例)。男児 8 例、女児 4 例。受傷機転は、産道外傷と考えられる 5 例、 ベッドなどから転落した 3 例、だっこの状態から誤って落とされた 3 例、転倒 1 例。出生時外傷を除く 7 例 の月齢は 8.0 ± 2.5 ヶ月。いずれも、外表所見以外の臨床症状はなく、CT 上も、頭蓋内出血や脳挫傷はない。 2 例が院内発生で、1 例は他院よりの緊急入院、9 例が受傷 0 ∼ 10 日後に外来受診となった。骨折部は、頭頂 骨 9 例、前頭骨 2 例、後頭骨 1 例。初診またはそれに近い CT が保存されている 10 例を計測に供した。陥没 骨折はすべて円錐または類円錐形で、いわゆるピンポンボール型の陥没骨折はない。陥没部の半径は 1.89 ± 0.41cm、深さ 0.83 ± 0.30cm、体積 2.59 ± 2.07cm3 であった。全例手術は行わず、入院または外来で厳重に 観察したところ、陥没部は 58.5 ± 35.8 日で 50.0% の体積となり、150.3 ± 57.1 日でほぼ整復された。全例で、 7.5 ± 2.1 ヶ月で終診となった。この時点で、てんかんや発達の遅れはなかった。診察終了までの期間は、新 生児例平均 7.8 ± 1.4 ヶ月、乳児例 7.3 ± 2.6 ヶ月と差がなかった。【考察】新生児を含む乳児期発生の単純陥 没骨折は、修復術の必要はなく、平均 7.5 ヶ月で自然整復される。したがって、この時期では急性期の手術 適応はないと考える。 − 108 − O 16 − 6 小児急性硬膜下血腫の治療成績 ○中野 真、竹内 信泰、村山 裕明、小泉 英仁、山崎 弘道 山梨県立中央病院 【目的】小児急性硬膜下血腫の治療成績についてはこれまで多くの報告がある。開頭術後、急激な脳浮腫に より予後不良となる例が当院でも散見される。今回、当院での小児急性硬膜下血腫症例の経過、予後を検討 した。【結果】2001 年から 2010 年、当院で入院治療を行った 10 才以下、小児急性硬膜下血腫 16 例を検討した。 年齢は 0-10 才、男児 11 例、女児 5 例であった。退院時の予後は良好例(GR)10 例、軽度から中等度後遺障 害(MD)2 例、予後不良例(D&SD)4 例であった。9 例に開頭術が行われた。開頭術が行われた 9 例中 4 例 は D&SD であり、2 例は MD であった。GR は 3 例であった。手術を行わなかった 7 例はすべて GR であった。 0-5 才 10 例については 6 例に手術治療が行われたが 3 例が D&SD で 2 例が MD、GR は 1 例のみであった。6 才以上 6 例は 5 例が GR であった。【結語】小児急性硬膜下血腫の手術治療成績は決して満足のいくものでは なかった。特に乳幼児の手術治療成績は不良である。予後不良例の臨床的特徴について検討した。 O 16 − 7 本邦における乳児硬膜下血腫の受傷機転と虐待の予測因子の検討 ○角野 喜則、埜中 正博、永野 大輔、馬場 庸介、押田 奈都、中島 伸、山崎 麻美 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 脳神経外科 乳児硬膜下血腫の原因は、以前本邦においては中村の 1 型に解説されるように仰向けに倒れ、後頭部を打 撲することが受傷機転と考えられてきた。一方、近年欧米では虐待、特に shaken baby syndrome が受傷原 因と捉えられている。乳児硬膜下血腫は家庭内で受傷することが多く、事故なのか、それとも虐待なのかを 推測するのは困難である。今回当施設にて経験した 1 歳以下の硬膜下血腫のうち原因があきらかでない 27 例を対象に親の受傷機転の説明、硬膜下血腫の形態、網膜出血や頭部以外の外傷の有無、繰り返す外傷の有無、 そして予後について、中村の 1 型が含まれる可能性がある 7 ヶ月以降(A 群)と、可能性が少ないと考えら れる 6 ヶ月以前(B 群)とに分けて検討した。A 群の平均月齢は 8.6 ヶ月で、B 群は 3.3 ヶ月であった。親の 受傷機転の説明は、仰向けに倒れたとの説明が A 群では 9 例(69%)に見られたが、B 群ではなかった。ま た受傷機転の説明の変遷は B 群では 4 例(40%)に見られたが、A 群では 2 例(12%)以外はほぼ一貫していた。 頭部以外の外傷は A 群で1例(5.9%)、B 群では 5 例(50%)に認めた。外傷の繰り返しは B 群で 2 例(20%) に認めたが、A 群ではなかった。予後は GOS で良好であったのが A 群では 16 例(94%)であったのに対し、 B 群では予後が良好であったのは 6 例(60%)であった。7 ヶ月以降の硬膜下血腫例の大半は、外傷の繰り 返しもなく、予後が良好であった。この群には中村の 1 型も含まれている可能性が高いと推測された。一方、 6 ヶ月未満の硬膜下血腫例は、受傷機転の説明があいまいで、頭部以外の外傷があり、外傷の繰り返しが多く、 予後が悪かった。6 ヶ月未満の硬膜下血腫は虐待によるものである可能性が高く、予後も悪いことから積極 的な児の保護や警察の介入が必要であると考えられた。 − 109 − − 110 − 抄 録 ポ ス タ ー P 01 − 1 虚血条件下での神経様細胞におけるエダラボンのHMGB1に対する効果 ○菊池 清志 1)、川原 幸一 2)、宮城 尚久 1)、倉本 晃一 3)、森元 陽子 4)、三浦 直樹 5)、 橋口 照人 2)、丸山 征郎 2)、重森 稔 6) 1) 公立八女総合病院 脳神経外科、2)鹿児島大学大学院 血管代謝病態解析学、 3) 大牟田市立病院 脳神経外科、4)鹿児島大学大学院 歯科保存学分野、 5) 鹿児島大学 臨床獣医学講座 画像診断分野、6)久留米大学 医学部 脳神経外科 Immediate early cerebral ischemia after traumatic brain injury(TBI)is common, and makes the brain further susceptible to secondary insults. High mobility group box-1(HMGB1),a nonhistone DNAbinding protein, is massively released into the extracellular space from neuronal cells after ischemic insult and exacerbates brain tissue damage in rats. Edaravone, a potent free radical scavenger, has been shown to be a promising neuroprotective agent. Here, we examined the effects of edaravone on the dynamics of high mobility group box-1(HMGB1),which is a key mediator of ischemic-induced brain damage in oxygen-glucose deprived(OGD)PC12 cells. In vitro, edaravone dose-dependently(1-10 μ M)suppressed OGD and hydrogen peroxide(H2O2)-induced HMGB1 release in PC12 cells. H2O2 dose-dependently triggered the activation of p-ERK1/2. The ERK kinase(MEK)1/2 inhibitor U0126 almost completely blocked the release of HMGB1 in response to H2O2.Furthermore, edaravone(3-30 μ M)blocked HMGB1triggered apoptosis in PC12 cells. Our findings suggest a novel neuroprotective mechanism for edaravone that abrogates the release of HMGB1.In light of recent observations as well as the good safety profile of edaravone in humans, we propose that edaravone might play a potent neuroprotective role through the inhibition of HMGB1-induced neuronal cell death in TBI. P 01 − 2 頭部外傷による硬膜肥満細胞の脱顆粒と大脳ヒスタミンレセプターの発現 ○島田 亮、中尾賢一郎、古谷 累、木林 和彦 東京女子医科大学 医学部 法医学講座 【目的】頭部外傷では、外力は硬膜を介して脳に伝わるので、硬膜の肥満細胞が脱顆粒してヒスタミンを放 出し、ヒスタミンが脳に影響を及ぼすと考えられる。本研究ではラットの controlled cortical impact model を用いて、頭部外傷による硬膜の肥満細胞と脳のヒスタミン受容体 histamine receptor H3(HRH3)の経 時的変化を調べた。【方法】全身麻酔したラットの頭頂皮膚を切開し、左頭頂骨に直径 6mm の骨窓を開け、 pneumatic impact device を用いて硬膜の上から脳損傷を作成した。また、骨窓形成だけのラットをコント ロール群とした。受傷後 1、4、7、14 日目にラットを灌流固定して硬膜と大脳のパラフィン切片を作製し、 トルイジンブルー染色、tryptase 抗体と HRH3 抗体を用いた免疫染色を行った。また、受傷後 1、4、7、14 日目にラットを灌流し、大脳から total RNA を抽出し、real time PCR による HRH3 の mRNA 発現解析を 行った。【結果と考察】受傷後 1 日目と 4 日目では、硬膜のトルイジンブルー染色と tryptase 免疫染色で陽 性の肥満細胞の数は有意に減少し、大脳の HRH3 のタンパクと mRNA の発現量が有意に増加した。受傷後 7 日目と 14 日目では、硬膜の肥満細胞数と大脳の HRH3 発現量はコントロール群と比較して有意な差は認め られなかった。硬膜の肥満細胞数の変化は肥満細胞の脱顆粒−再顆粒形成によるものと考えられた。従って、 頭部外傷後 1 ∼ 4 日には硬膜の肥満細胞が脱顆粒し、脳内に増加したヒスタミンが大脳に HRH3 を発現させ ると考えられた。ヒスタミンは脳浮腫を起こし、HRH3 はヒスタミン遊離を抑制することが知られている。 本研究では頭部外傷による硬膜肥満細胞と大脳 HRH3 の各変化の経時的関係を明らかにし、外傷性脳損傷の 病態の一端を捉えることができた。 − 112 − P 01 − 3 アルコール依存症患者の頭部外傷 −末梢神経障害の合併− ○布施 郁子、田中 敏樹、渡邊 一良 公立甲賀病院 脳神経外科 アルコール依存症患者が頭部外傷を受傷することは稀ではない。特に意識障害を伴っている場合には、日 頃の ADL や飲酒量などの正確な情報は得にくく、診断・治療に対し、問題となることがある。今回重症ア ルコール依存症の頭部外傷に於いて、アルコールに関する全身合併症が臨床経過に影響したケースを経験し たので、報告する。【症例】41 歳男性。アルコール依存症、うつ病で精神科受診中。早朝に自家用車で単独 追突事故を起こし、当院救急搬送。搬送時:JCS300、GCS/E1V1M1、自発呼吸安定、瞳孔不同あり(左瞳 孔散大)、頭部CT:左急性硬膜下血腫、midline shift 著明。緊急開頭血腫除去術、外減圧術施行。術後数 日で JCS3, GCS/E4V3M6 まで意識状態は改善したが、四肢の運動機能回復は悪く、CT上頸椎の骨症はな かったため、中心性脊髄損傷と考えられた。しかしMRI上脊髄の明らかなダメージはなく、神経内科コン サルトし、アルコール性末梢神経障害と診断された。【考察】アルコール依存症患者は、若年であっても様々 な合併症を伴うケースがある。肝機能のみならず、脳萎縮も見られ、健康な同世代よりも意識状態や機能改 善に時間がかかる印象である。また重症となると低栄養・末梢神経障害を伴うこともあり、二次性筋萎縮を 来していることがある。受傷時までADLが自立しているため気づきにくく、受傷後発症したと思われる四 肢麻痺に脊髄損傷を疑うが、よく観察すると明らかな筋萎縮が見られ、リハビリテーションの経過に大きく 影響する。ビタミン剤投与が必須となるため注意を要する。 P 01 − 4 フルニトラゼパム大量内服後転落し JCS200 で搬入され、脳梁に画像変化を認めた一例 ○藤田 智昭、武内 勇人、岩本 芳浩 公立山城病院 脳神経外科 【目的】頭部外傷後で CT 上頭蓋内占拠性病変がなく昏睡状態である場合、MRI による脳梁の病変検出はび まん性脳損傷の診断上重要である。しかし、脳梁病変の全てがびまん性脳損傷というわけではなく、脳梁の 挫傷や、薬物内服後の場合 clinically mild encephalitis with a reversible splenial lesion(以下 MERS)の合 併の可能性も考慮する必要がある。今回フルニトラゼパム大量内服後転落し昏睡状態で搬入され、MRI 拡 散強調画像で脳梁膨大部に高信号を認めた 1 例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。【症例】13 年前に腎移植を受けた 62 歳女性が,転落する音に駆け付けた家人により階段の踊り場で嘔吐物にまみれて いるところを発見され、JCS200 で当院へ救急搬入された。頭部 CT で占拠性病変を認めず、MRI 拡散強調 画像で脳梁膨大部に高信号を認めた。その後家人より遺書らしき文書の存在と 10 年以上前に処方され冷蔵 保存されていたフルニトラゼパムが約 100mg 減っているとの情報提供があった。薬物中毒と MERS による 画像変化の可能性も考慮したが、測定したフルニトラゼパムの血中濃度は中毒域以下であり、24 時間以上経 過しても JCS200 の状態であったため、びまん性脳損傷と診断した。その後、8 日経過した時点で意識状態 の改善を認め、受傷 36 日目に神経脱落症状なく退院した。受傷 13 日目と 34 日目に MRI を再検したが、脳 梁膨大部の病変は変化なく存在していた。【考察・結語】薬剤性に MERS を起こす可能性はあるが、現在フ ルニトラゼパムによる報告は無く、また経過からびまん性脳損傷による意識障害と画像変化と考えた。MRI の普及によりびまん性脳損傷の診断は比較的容易にはなってきているものの、今回のように様々な要因が重 なっている場合慎重に診断をする必要があると思われた。 − 113 − P 01 − 5 マウス cold injury に対する水素ガス吸入の効果 ○小林 弘明 1)、大谷 直樹 1)、長谷 公洋 1)、竹内 誠 1)、苗代 弘 1)、島 克司 1)、 鈴木 信哉 2)、上野山真紀 2) 1) 防衛医科大学校 脳神経外科、2)防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生部門 【目的】水素ガスはヒドロキシラジカルを減少させる抗酸化作用を持つ。水素暴露によりラットでの脳虚血で の再還流障害や頭部外傷での治療効果を持つと報告されている。今回、水素ガス吸入によるマウスでの cold injury モデルでの効果について検討したのでその結果を報告する。 【対象と方法】オス C57BL6J マウス、10-12 週令をペントバルビタール腹腔内注射にて麻酔し、頭皮を正中切 開し骨膜を剥離し頭蓋骨を露出させる。Bregma から 3mm 外側、3mm 後方の位置に対して頭蓋骨越しに液 体窒素に浸した綿棒を 15 秒間押しつけ外傷を作成する。その後直ちに頭皮を縫合し、マウスをチャンバー 内に入れ、水素ガスを含む混合ガス(組成:水素 1.3%、酸素 30%、窒素 68%)を 6 時間暴露させる。これを、 手術日から翌々日まで 3 日間繰り返し、6 時間× 3 日の水素暴露を行う。評価としては、(1)TTC 染色によ る脳損傷体積、 (2)エバンスブルーによる血液脳関門破綻の程度、 (3)脳水分含量測定による脳浮腫の程度、 (4)行動実験 を外傷より 48 時間後に行った。 【結果】水素ガス吸入により(1)脳損傷体積は有意に減少し、 (4)行動実験での改善傾向を認めたが、 (2) 血液脳関門破綻および(3)脳浮腫については有意に増強していた。 【結論】マウス cold injury に対して水素ガス吸入はおそらく効果があるものと考えられるが、水素ガス吸入 により好まざる影響も与えていると考えられ、治療を効果的にするための用法があるものと思われる。 P 01 − 6 演題取り下げ − 114 − P 02 − 1 重症急性硬膜下血腫に対する Damage control surgery − multiple dural slit による血腫除去の1例− ○山内 利宏、宮田 昭宏、杉山 健、石毛 聡、桝田 宏輔、中村 弘、小林 繁樹 千葉県救急医療センター 脳神経外科 【緒言】頭蓋内圧が高値の重症急性硬膜下血腫(ASDH)に対する硬膜の開放・血腫除去により、凝固線溶系 の破綻や静脈環流障害を惹起し、術中急性脳腫脹の原因となる。今回我々は、多数の小型(1cm 以下)硬膜 切開部より血腫除去を行い、体温及び凝固線溶系安定化を確認の後に、広範囲の硬膜切開・内減圧を行っ た1例を経験したので報告する。【症例】42 歳男性。バイク事故。来院時 GCS7。左瞳孔不同あり。来院時 D-Dimer > 40 であった。左 ASDH と側頭葉挫傷を認めた。脳室ドレナージ及び骨片除去後(36.5℃)の頭 蓋内圧(ICP)は 70mmHg であり、急性脳腫脹の危険性が高いことから、最終的な硬膜切開を妨げないよう な dural slit を多数設け、slit から吸引できる範囲で血腫除去を行なった。挫傷部が存在すると予想される場 所は、湧き出る血腫のみ吸引した。脳実質の invagination は無かった。血腫除去後 ICP の著明な低下は無 かったが、術直後の瞳孔は改善した。術後血腫はほぼ全摘出されていた。その後、新鮮凍結血漿の投与を行 い凝固系を正常化させ、5%食塩水投与と脳平温療法で頭蓋内圧を 30mmHg まで調節可能であった。【考察】 重症 ASDH に対する血腫除去は、穿頭(HIT を含む)による方法が、最も全身に対する侵襲が少なく、凝 固線溶系に与える影響も少ない。一方、狭い術野では万人が十分効果的な血腫除去は行えず、開頭術の追加 を要する症例が多い。本法の位置づけは、Damage control surgery であり、本法のみで完結するものでは ない。最終的には大型硬膜切開による減圧術へと継続させる一手技である。挫傷中心部直上での施行・症例 を重ね適応・問題点を検討していきたい。【結論】重症 ASDH に対して multiple dural slit で血腫除去を行う ことで、意図的な待機手術が可能であった 1 例を報告した。 P 02 − 2 軽微な外傷による急性硬膜下血腫と診断した 1 例 ○武内 勇人、藤田 智昭、岩本 芳浩 公立山城病院 脳神経外科 軽微な頭部外傷による急性硬膜下血腫は稀ながら存在するが、今回われわれは、軽傷頭部外傷後、画像上 急性硬膜下血腫と診断されたもののその後の症状経過から硬膜肥厚と考えられた 1 例を経験したので報告す る。 症例は 75 歳、男性。既往歴は糖尿病。6 日間の国内旅行中に便所で頭部を打撲した経験があり、その旅行 中に頭痛・発熱を認めていたが、帰宅後も症状が持続し、起床時のふらつきも加わったため当院を受診した。 初診時意識は清明であり、他覚的に明らかな神経症状を認めなかった。頭部 CT で両側小脳テントおよび後 頭部大脳鎌にびまん性の high density area を認めたために急性硬膜下血腫と診断した。その後保存的に経 過観察を行ったが、明らかな症状の増悪を認めることはなく、また画像所見上の経時的変化も認めなかった。 最終的に、CT 上の high density area は肥厚した大脳鎌および小脳テントであったと考えられた。 頭 部 CT に て high density を 呈 す る 病 変 に 関 し て、 出 血 性 病 変 で あ る こ と の 確 認 方 法 と し て は Housenfield 値、MRI での T1 強調画像、T2 強調画像の比較、経時的変化による方法などがあげられる。今 回の病変に関しては、厚みを持った血腫ではなかったことから経時的変化を追うことのみが有効な方法と考 えられた。 − 115 − P 02 − 3 術後に hyperperfusion を呈した乳児急性硬膜下血腫の一例 ○桝田 博之 1)、近藤 康介 1)、原田 直幸 1)、根本 匡章 1)、早乙女荘彦 2)、小嶋 靖子 2)、 本多 満 3)、黒木 貴夫 4)、長尾 建樹 4)、周郷 延雄 1) 1) 東邦大学医療センター大森病院 脳神経外科、2)東邦大学医療センター大森病院 小児科、 3) 東邦大学医療センター大森病院 総合診療科救命センター、4)東邦大学医療センター佐倉病院 脳神経外科 本邦では軽微な外傷で生じる乳児の急性硬膜下血腫(ASDH)は、中村の小児頭蓋内血腫 1 型として知られ、 乳児重症頭部外傷の 7 ∼ 8% に起こるとされている。その死亡率は 17.5% ∼ 70% と高率で、たとえ救命し得 たとしてもその 50% に後遺症を残すと言われており、また、患側大脳半球に CT で低吸収域(LDA)を示す 症例も報告されている。今回我々は、乳児 ASDH に対し手術加療を行い、術後に Xe-CT で hyperperfusion を呈した一例を経験したので報告する。【症例】10 ヶ月男児【現病歴】自宅で転倒し頭部打撲。その後元気 がないため来院。【神経学的所見】JCS1 、右上下肢に MMT4/5 の麻痺を認めた。【入院歴】CT にて左大脳 半球に正中偏位を伴った ASDH を認め、患側後頭葉には LDA を呈していため、同日手術を施行。挫傷は なく中村の 1 型と思われた。MRI にて患側に広範囲に脳浮腫を呈していたため Xe-CT を施行したところ、 hyperperfusion を認めた。その後神経所見、画像所見ともに改善し、day40 で退院となった。【考察】術前 CT 上での LDA は血腫の圧排による虚血と考えられる。それゆえ、術前から広範囲に ischemic penumbra を呈していたと考えられた。【結語】術後、Xe-CT にて hyperperfusion を呈した乳児 ASDH の一例を経験し た。本例においては、CT 上で広範な LDA を呈していたにもかかわらず、神経所見の改善を見た。神経所見、 画像所見ともに改善した場合には、hyperperfusion を念頭におくことが示唆された。 P 02 − 4 腹腔内圧上昇が誘因と想定された急性硬膜下血腫の 2 症例 ○片山 亘、高橋 利英、三木俊一郎、佐藤 允之、藤田 桂史、亀崎 高夫 茨城西南医療センター病院 脳神経外科 【はじめに】特発性硬膜下血腫の定義としては、明らかな頭部外傷の既往がなく、また脳動脈瘤、脳動静脈奇形、 脳腫瘍や血液凝固異常などがなく、硬膜下腔に血腫を呈するものである。今回、我々は腹腔内圧上昇に伴っ て急性硬膜下血腫を呈したと考えられる 2 症例を経験し報告する。 【症例】症例1:35 歳男性、サッカーの試合中に対戦相手の肘が右側腹部に強く当たった。転倒はせず歩い てコートを出て苦痛に耐えていたが、その後急激に意識障害、頻回嘔吐、左片麻痺を呈し、当院に搬送され た。頭部 CT にて右急性硬膜下血腫を認め、緊急開頭血腫除去術を施行した。術中所見として脳挫傷はなく、 上矢状洞に流入する架橋静脈からの出血を認めた。脳ヘルニアに伴う脳梗塞に伴い右動眼神経麻痺、右上下 肢麻痺が残存し発症 2 か月後に回復期リハビリ病院転院となった。 症例2:31 歳女性(Body mass index40.6 と高度の肥満)、ペットに餌を与えるためにしゃがんでいたとこ ろ、突然の頭痛、嘔吐が出現したため、前医を受診し、頭部 CT で右急性硬膜下血腫を認めたため、当院に 転送となった。来院時に神経学的異常はなく、保存的加療で症状は改善し独歩退院となった。脳血管造影で 出血源となる器質的血管病変は認めなかった。 【考察】腹腔内圧の上昇は右心系静脈圧を上昇させ、脳からの静脈灌流を阻害、脳静脈圧を上昇させること が報告されている。我々が経験した 2 例はともに頭部に強い外力が加わる受傷機転はなく、発症時の状況か ら腹腔内圧上昇により脳静脈圧も上昇し、脳静脈の脆弱な部分から出血したと推測される。 【結語】腹腔内圧の上昇に伴い、急性硬膜下血腫を発症したと考えられる 2 症例を経験した。頭部への直接的 外傷がなくとも、腹腔内圧上昇に伴い急性硬膜下血腫を発症することがあると想定される。 − 116 − P 02 − 5 重度の凝固能異常を呈していた硬膜下血腫の 1 例 ○南都 昌孝、大渕 英徳、萬代 綾子、小坂 恭彦、中原 功策、天神 博志 京都第二赤十字病院 脳神経外科 【はじめに】重度の凝固能異常を呈していた硬膜下血腫の 1 例を経験したので報告する。 【症例】83 歳男性、心房細動に対しワーファリン内服加療中。2 日前より体調不良、歩行困難を訴えていた。 徐々に動けなくなり、自宅で倒れているところを発見され当院救急搬入される。GCS 10(E4、V2、M4)、 四肢に皮下出血を認めた。血液検査では PT 67.0 秒、PT-INR 18.3、APTT 99.9 秒と重度の凝固能異常を呈 し RBC 146 万、Hb 4.8 g/dl、Ht 14.4% と高度貧血を認め CRP は 11.98mg/dl であった。頭部 CT にて一部 high density area を伴う low density の硬膜下血腫を認めた。1 時間後に GCS 5(E1、V1、M3))、瞳孔不同 出現。頭部 CT にて硬膜下血腫の増大、脳幹の圧迫増悪を認めたため、第 9 因子製剤投与し緊急穿頭血腫除 去術を施行した。術中、淡血性の液状血腫が勢いよく流出してきた。術後脳ヘルニアによる脳梗塞、DIC 合 併、意識障害遷延し気管切開施行、mRS Grade 5 で転院となった。 【考察】ワーファリン内服患者においてはさまざまな要因で凝固能異常を呈することがあり急性硬膜下血腫 の予後不良因子と報告されている。特に感染症など全身状態が不良な場合、凝固能異常を増幅させ本症例の ように頭部 CT にて low density area が主となると、その治療方針決定に苦慮することがある。 P 02 − 6 外傷性後頭蓋窩硬膜下血腫症例の検討 ○竹内 誠 1)、大谷 直樹 1)、長田 秀夫 1)、苗代 弘 1)、早川 隆宣 2)、正岡 博幸 2)、 高里 良男 2)、島 克司 1) 1) 防衛医科大学校 脳神経外科、2)国立病院機構災害医療センター 脳神経外科 【はじめに】外傷性後頭蓋窩硬膜下血腫は非常に稀であり、頭部外傷患者のうち 0.2%程度とされている。今 回われわれは、10 例の外傷性後頭蓋窩硬膜下血腫患者を経験し、その臨床像、画像所見、治療、転帰などに ついて検討したので報告する。 【対象】1995 年から 2009 年の間に当院に入院した頭部外傷患者 4315 例のうち、 外傷性後頭蓋窩硬膜下血腫を認めた 10 例(0.23%)を対象とした。【結果】男性 7 例、女性 3 例、平均年齢 58 歳(3 − 97 歳)であった。4 例は多発骨折に伴うショック及び凝固障害を認めた。また他の 1 例は抗凝固剤を内服 していた。平均 GCS は 8 であった。打撲部位は後頭部が 5 例であった。後頭蓋窩硬膜下血腫単独例は 2 例で、 他の 8 例は頭蓋内合併損傷を認めた。合併損傷は、テント上硬膜下血腫 7 例、テント上脳挫傷 5 例、小脳挫 傷 3 例であった。後頭蓋窩硬膜下血腫に対して手術を施行したものは小脳挫傷を合併した 1 例のみであった。 Poor outcome rate は 90% で、mortality は 50%であった。【考察】外傷性後頭蓋窩硬膜下血腫症例の報告は 渉猟しえた限りで 49 例であった。特徴として、coup injury によるものが多い、来院時 GCS が低い(多く は 8 以下)、予後は極めて悪いことなどが挙げられた。今回のシリーズでは、凝固障害を半数に認めており、 後頭蓋窩硬膜下血腫形成の機序に関与している可能性が示唆された。【結語】当院で経験した外傷性後頭蓋 窩硬膜下血腫の検討につき報告した。極めて稀な外傷であり、治療方針、予後因子につきさらなる検討が必 要である。 − 117 − P 03 − 1 頭部皮下血腫から虐待を疑われた血友病 B の 1 例 ○山中 巧、木谷 知樹、佐藤 雅春 市立豊中病院 脳神経外科 【はじめに】小児頭部外傷の診察においては常に虐待の可能性を念頭に置くべきである。一方で、虐待を疑 わせる症例では基礎疾患の有無に留意する必要がある。今回、虐待を疑ったものの血友病 B と最終診断した 症例を経験したので報告する。【症例】3 歳男児で、1 年前に急性硬膜下血腫にて開頭術の既往がある。両側 前頭部の皮下腫瘤で来院し、頭部 CT で皮下血腫を認めた。翌日再受診した際に皮下血腫が後頭部まで拡大 していた。理学所見や両親の様子から虐待を疑ったが、小児科で精査を行なった結果、血友病 B の診断とな った。【考察】本症例でわれわれは虐待を疑い、「児童虐待の防止等に関する法律」に従い子ども家庭センタ ーに通告した。しかしながら最終的に血友病Bの診断となり、虐待を疑う前に医療機関の責務として的確に 鑑別診断することが重要であると考えられた。一方で、血友病と診断されても虐待を完全に否定できたわけ ではない。今後、患児を医学的にフォローしていく一方で、家族全体を社会的にもフォローしていくことが 必要であると思われた。 P 03 − 2 血友病 A 患者の重症頭部外傷の一例 ∼急性期・周術期の管理について∼ ○目原 久美 1)、桑原 広輔 1)、下吹越 航 1)、遠藤 広史 1)、牧 真彦 1)、上笹 宙 1)、 望月 徹 1)、畝本 恭子 1)、黒川 顕 1)、横田 裕行 2) 1) 日本医科大学武蔵小杉病院 救命救急センター、2)日本医科大学附属病院 高度救命救急センター 血友病患者の頭部外傷についてはこれまでにも様々な報告があるが、交通事故で情報がないまま救急搬送 されてきた血友病患者の重症頭部外傷についての報告は非常に稀である。我々は今回重症頭部外傷を負った 血友病患者の初療、緊急手術、周術期管理を経験したので発表する。【症例】28 歳、男性【現病歴】長距離ト ラック運転中、停車中の大型トラックに追突し受傷。受傷時独歩で救急車に乗車し、救急病院受診。前頭部 穿通性陥没開放骨折、前頭部脳挫傷を認めるも脳外科緊急対応不能とのことで、当院転院となる。搬送中か ら当院到着までに意識レベル GCSE1V3M4 に低下、来院時 CT にて左前頭葉に 7 × 4 × 5cm の外傷性脳内血 腫を認めたため、左前頭部開頭減圧血腫除去術、また開放創に対してデブリドマン施行し閉創。術後の CT で血腫は除去されていたものの、ICU 入室後に ICP 40mmHg 以上の高値となり、翌日再検した CT で脳挫 傷よりの出血の増悪と右前頭葉挫傷部の腫脹を認めたため、右前頭部開頭減圧血腫除去術施行。初療から緊 急手術までの間に母親から患者が血友病 A であるとの情報を得、日本赤十字社のガイドラインに添って第 8 因子製剤の投与を開始した。術後は脳膿瘍を合併したが、出血のコントロールは良好で、大きな後遺障害残 すことなく 2 か月後独歩で退院した。【考察】日々外傷を診察している救命医であっても血友病という稀な基 礎疾患の診療にあたる機会はほとんどなく、今回ガイドラインを参考にし急性期・周術期から安定期の治療 に当たった経験は非常に貴重なものとなった。一刻を争う重症頭部外傷を扱う施設として、血友病患者のよ うな凝固障害を有する内因性疾患に対する対応、即ち、診療プロトコールや特殊薬剤の供給元への確認体制 の整備の必要性を痛感した一症例であった。 − 118 − P 03 − 3 抗血栓薬服用例の慢性硬膜下血腫の治療経験 ○石橋 章、横倉 義典 ヨコクラ病院 脳神経外科 【目的】抗血栓薬服用例での慢性硬膜下血腫(CSDH)例の外科治療および経過について検討した。【対象】 1998 年1月より 2010 年 10 月までに当院で外科治療した慢性硬膜下血腫は 97 例であった。このうち、抗血栓 薬を服用していた 17 例(ワーファリン 10 例、抗血小板剤 7 例)を対象とした。【方法】年齢、基礎疾患、術 前の PT-INR、術前、術後の休薬期間、再手術の有無、術後の合併症などに基づき検討した。また、抗血栓 薬非服用例 80 例を対照例とした。【結果】ワーファリン服用例は 10 例、年齢 69-91 歳(平均 81.9 歳)で、基 礎疾患は心房細動(AF)と心原性脳梗塞(CEI)を有した例(7例)、ペースメーカー埋め込み術後(1例)、 AFと糖尿病(1例)、AF と CEI および陳旧性心筋梗塞で CSDH を伴う急性硬膜下血腫(ASDH)(1例) であった。術前の休薬期間は 0-4 日が 5 例、7-16 日3例、28 日以上および不明が各々1例であった。術前の PT-INR は全例 2.0 以下であった。全例穿頭術で治療。術後服薬再開例は 3 週間以降8例、服薬なし 2 例であ った。術後 3 日目に、1 例で急性心筋梗塞を発症し、予後不良であった。術後、血腫排液不良であった 1 例 に再手術を施行した。再発は1例で認められたが、保存的治療にて治癒した。バイアスピリン服用例は7例、 年齢 77-94 歳(平均 84.4 歳)で、基礎疾患は陳旧性脳梗塞(5 例)、左房内血栓(1例)、ASDH(1例)であっ た。術前の休薬期間は 2-3 日 3 例、7-14 日 3 例、不明1例であった。全例に穿頭術を施行した。術後服薬再開は、 1 週間内 2 例、1-2 週間内 1 例、3 週間以降 3 例、無し 1 例であった。術後、再発例はなかった。抗血栓薬非服 用 80 例での再発は 5 例で、周術期での予後不良例はなかった。【結論】1)ワーファリンの術前での休薬と、 術後の再投与の時期は基礎疾患も考慮して検討すべきである。2)バイアスピリンの休薬は短期間であって も、術後再発の可能性は低い。 P 03 − 4 下垂体近傍の頭蓋底多発骨折による難治性尿崩症の 1 例 ○伊藤 清佳 第二岡本総合病院 脳神経外科 【症例】34 歳、男性。クレーンを運転中に金属塊と壁に頭部を挟まれ転落受傷し当院に救急搬入された。搬 入時、両側耳出血、鼻出血、髄液鼻漏を認めた。GCS14 点、受傷時の健忘、嘔吐、頭痛、左眼外転障害を認 めた。頭部 CT;右側頭骨から頭頂骨にかけての線状骨折を認め、骨折直下の側頭葉脳挫傷性出血、左側頭 部硬膜下血腫を認めた。蝶形骨の多発骨折、蝶形骨洞内出血、鞍隔膜周囲の血腫、左錐体骨骨折、気脳症を 認めた。頭部 MRI;CT 所見に加え、左後頭頭頂部、右後頭部、左迂回槽、両側前頭部に SAH、右前頭葉、 右側頭葉から後頭葉に及ぶ脳挫傷を認めた。【入院後経過】気脳症、髄液鼻漏は、安静と抗生剤点滴で軽快 した。左外転神経麻痺は Vit.B12 投与で約 3 ヵ月で消失した。一方、受傷から 10 日後尿崩症を認めた(尿量 6500ml/ 日、尿比重 1.003、ADH 値測定感度以下)。デスモプレッシン点鼻で尿量管理した。2 ヶ月半後に てんかんを発症し、バルプロ酸を開始した。受傷から約 2 ヶ月半後尿崩症を残して退院した。【退院後経過】 失立発作を認め、カルバマゼピンを追加した。また、高次脳機能障害が顕在化し、作業療法を開始した。さ らに、精神運動発作が顕在化し、カルバマゼピン増量、ガバペンチン追加が必要だった。一方、尿崩症は持 続し、デスモプレッシン点鼻は維持量が必要であった。【考察】頭部外傷後尿崩症の発症率は、20%から 25 %であり、そのうち、永続的な尿崩症は、まれで 6%から 7%と報告されている。本症例では鞍隔膜周囲の 血腫による物理的障害が病態と考えられる尿崩症を認め、持続した。 【結語】両側からの外力による頭部外傷 により蝶形骨の多発骨折に伴う難治性尿崩症の 1 例を報告した。画像所見から下垂体近傍の病変が疑われた 場合、尿崩症への配慮が必要と思われた。 − 119 − P 03 − 5 抗血小板薬が高齢頭部外傷患者の転帰に与える影響についての検討 ○住吉 京子、高里 良男、正岡 博幸、早川 隆宣、八ッ繁 寛、重田 恵吾、百瀬 俊也、 前田 卓哉、清川 樹里 国立病院東京災害医療センター 脳神経外科 【背景】高齢患者では虚血性心疾患・脳梗塞の既往により受傷時に抗血小板薬内服中であることが稀ではない。 抗血小板薬が頭部外傷患者の予後に与える影響については様々な施設からの報告がみられるものの、統一し た見解は未だ得られていないのが現状である。これは搬送時の重症度・CT 所見の違いを考慮した比較がな されていないことが原因の1つであると推測し、当院の症例について検討を行った。【方法】2009 年 11 月か ら 2010 年 10 月までに当院に搬送され、CT 上頭蓋内のみの外傷性変化が確認された 60 才以上の患者 351 例 のうち、抗血小板薬内服中であった 21 例(65-90 才、平均 80 才)を対象とした。搬送時 GCS により重症群(搬 送時 GCS が 8 以下)、中等症群(9-12)、軽症群(13-15)に分類し、それぞれ受傷機転、CT 所見、転帰につ いて検討した。【結果】重症群が 7 例、軽症群が 14 例であり、抗血小板薬内服患者内には中等症群は確認さ れなかった。CT 所見は重症群では全例急性硬膜下血腫、外傷性クモ膜下出血が存在、このうち2例では脳 挫傷の合併が確認された。軽症群では急性硬膜下血腫が4例、外傷性クモ膜下出血が9例、残り1例には急 性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷が確認された。GOS に関しては重症群では D 5例、VS 2例 軽症 群では GR12 例、MD 2例であった。出血量は抗血小板薬使用群では非使用群と比較し来院後増大する傾向 にあったものの、軽症群では転帰に影響を及ぼさず、重症群では死亡率が増加する傾向があった。【考察】文 献上の報告と同様に、抗血小板薬内服中の高齢頭部外傷患者においては搬送時 GCS が転帰と強く相関した。 軽症群では外傷性クモ膜下出血の割合が多いことも、血腫量が増大により転帰に影響がでにくい原因と考え られた。 P 03 − 6 軽症頭部外傷に伴った神経原性肺水腫の 1 例 ○大下 宗亮、萩原 靖、小野 秀文、石川 和男、水島 靖明、松岡 哲也 大阪府立泉州救命救急センター 神経原性肺水腫は器質的または機能的な中枢神経系疾患に伴い発症する肺水腫であり、数多くの報告がな されているが、重症例に多く、軽症例の報告は少ない。今回、軽症頭部外傷に伴い発症した神経原性肺水腫 の 1 例を経験したので報告する。 【症例】12 歳、男児。 【現病歴】野球の練習中、硬式ボールが右側頭部に当たり、 受傷した。前医に到着した際、GCS E3V5M6 の意識障害を認めたが、間もなく改善し、意識清明となった。 頭部 CT で右側頭葉に脳挫傷を認めた。軽症であり、保存的加療の方針となったが、胸部単純写真で両側び まん性浸潤影を認め、呼吸管理目的で転院搬送となった。【経過】当センター到着時、意識清明であり、脳 挫傷の拡大は認められなかった。酸素投与は必要とするものの、呼吸状態の明らかな増悪は認められなかっ た。受傷翌日の胸部単純写真で顕著な改善が認められた。頭部単独外傷に続発したという病歴、急速に両側 びまん性浸潤影を生じ、短期間で改善したという臨床経過等より神経原性肺水腫と診断した。以後、経過は 良好であった。【結語】稀ではあるが、軽症頭部外傷時にも神経原性肺水腫発症の可能性を認識する必要が あると考えられた。 − 120 − P 04 − 1 環椎後頭関節脱臼 外傷死での検討 ○杉山 健、宮田 昭宏、岡田 博史、桝田 宏輔、石毛 聡、山内 利宏、 小林 繁樹、中村 弘 千葉県救急医療センター 脳神経外科 【目的】外傷性環椎後頭関節脱臼は頭蓋頚椎移行部の損傷であり死亡率は高く、また生存できても高度な神 経症状を後遺することが多いとされている。本報告の目的は、外傷死亡例の CT 所見をもとに、その発生頻 度および受傷機転などのプロフィールを検討することである。【対象と方法】千葉県救急医療センター外傷 データベースを用いた。後ろ向き調査期間は 2004 年 1 月 1 日から 2008 年 12 月 31 日。登録 1723 例中、死亡 は 363 例。このうち、頭蓋頚椎移行部の CT 検査がおこなわれ読影可能であった 236 例を対象とした。画像 診断は、CT 正中矢状断をもとに計測し、basion − dens interval(BDI)あるいは basion − axial interval(BAI) のいずれかが 12mm を超えたものを環椎後頭関節脱臼(AOD)と判断した。【結果】236 例中 9 例 3.8% で AOD を認めた。脱臼の型は、環椎に対して後頭骨が前方へ偏位しているものが 7 例、前方および上方へ偏 位しているものが 1 例、歯突起骨折を合併し前方へ偏位しているものが 1 例であった。【考察と結論】外傷性 AOD の頻度は、剖検ではおよそ 6 − 8% と報告されている。今回の CT 所見をもとにした外傷死亡シリーズ における AOD の頻度は 3.8% であった。これらのケースについて、その受傷機転、生存期間などプロフィ ールについて検討を加える。 P 04 − 2 列車事故による重症多発外傷から社会復帰可能な状態にまで回復した症例の検討 ○山内 貴寛 1)、細田 哲也 1)、小寺 俊昭 1)、東野 芳史 2)、常俊 顕三 1)、有島 英孝 1)、 北井 隆平 1)、新井 良和 1)、竹内 浩明 1)、菊田健一郎 1) 1) 福井大学 医学部 脳脊髄神経外科、2)中村病院 【目的】通常、列車との人との衝突では殆どが即死である。たとえ救命したとしてもその後死亡あるいは重度 の後遺症を呈することが多い。今回、列車との衝突による多発外傷で当初救命困難と考えられたが、社会復 帰可能な状態まで回復した症例を経験したので報告する。【症例】35 歳 女性【臨床経過】電車走行している ところを線路内に進入し衝突受傷。12 時 26 分入電。12 時 46 分当院救急搬送。来院時 JCS:200、瞳孔不同な し。血圧 100mmHg、心拍数 103 回 / 分、SpO2:97%(酸素 10L)、全身 CT にて、頭蓋骨骨折、左急性硬膜下 血腫、脳挫傷、多発肋骨骨折、両側血気胸、脾臓損傷、骨盤骨折、腹腔内出血を認めた。14 時 30 分気管内 挿管、15 時 30 分両側内腸骨動脈塞栓術、16 時 30 分両側胸腔内ドレーン挿入術を施行した。17 時 30 分より 左減圧開頭術+硬膜下血腫除去術施行。術後は 8 日間のバルビツレート昏睡療法を施行。術後 1 日目に DIC 併発、Hb3.0 まで低下し大量の MAP、FFP、PC 輸血を行った。術後 14 日目に誤嚥性肺炎でコントロールさ れた MRSA 肺炎を併発。術後 27 日目より指示動作に応じるようになり、経口摂取開始。術後 37 日目に頭 蓋形成術施行。麻痺もなく、独歩可能で、軽度の失語と高次機能障害を認めるも日常生活は自立した。術後 56 日目に回復期病棟に転院となった。現在受傷後 8 カ月経過しているが、職場復帰可能な状態まで改善して いる。【考察】救命できた原因として、1)事故現場から消防本部および当院までの距離が近かった事。2)救 急部との連携があり各科とも合併疾患に迅速に対応できたこと。3)そのため早く当科的処置ができ ICP コ ントロールに成功したこと。4)重症 infection、DIC コントロールといった合併症に成功したこと。上記が 重要と考えられた。 − 121 − P 04 − 3 多発外傷症例における頭蓋内病変の遅発性増悪に関連する因子の検討 ○石毛 聡、宮田 昭宏、岡田 博史、桝田 宏輔、山内 利宏、杉山 健、 中村 弘、小林 繁樹 千葉県救急医療センター 脳神経外科 【目的】多発外傷症例においては問題点が多岐にわたり、また鎮静下の処置や全身麻酔が必要となることも 少なくないため、頭部単独外傷と比較して診察や検査を行う上での制約が多い。特に頭部外傷に対して保 存的治療を行う場合、他部位の外傷の診療のために頭部外傷の経過観察が不十分となる可能性がある。今 回我々は、多発外傷症例を対象とし、頭蓋内病変の遅発性増悪に関連する因子について検討した。【方法】 過去 5 年間の自験外傷症例 2,127 症例のうち、Abbreviated Injury Score(AIS)≧ 3 の頭部外傷を合併した 多発外傷症例 213 例(来院時心肺停止症例および来院直後に開頭術を施行した症例は除外)を対象とし、診 療録から抽出した情報をもとに単変量解析(単変量一般化線形モデル)および多変量解析(Classification and Regression Tree; CART)を行い、頭蓋内病変の遅発性増悪および保存的治療から開頭手術への移行に 関連する因子を後方視的に検索した。【結果】対象の年齢は 2-104 才(中央値 45 才)、男性 : 女性 = 156:57、 Revised Trauma Score(RTS)は 1.465-7.841(中央値 6.904)、Injury Severity Score(ISS)は 9-75(中央値 26)、最大頭部 AIS は 3-5(中央値 4)であり、頭蓋内病変の遅発性増悪は 64 症例に認め、このうち保存的 治療から開頭術へ移行したものは 15 症例であった。頭蓋内病変の遅発性増悪には、単変量解析にて GCS、 RTS、ISS、最大頭部 AIS、最大胸部 AIS、SDH、頭蓋冠骨折、気脳症、頭蓋底骨折が関連し、多変量解析 にて ISS が最も関連していた。また保存的治療から開頭術への移行には、単変量解析にて ISS、最大頭部 AIS、EDH、後頭蓋窩骨折、気脳症が関連し、多変量解析にて頭部最大 AIS,RTS が関連していた。【考察・ 結語】頭部外傷を合併した多発外傷症例においては、頭部のみならず他部位の外傷についても生理学的・解 剖学的評価を十分に行った上で、慎重な経過観察が必要と思われる。 P 04 − 4 急性硬膜外血腫を伴った多発外傷の 1 救命例 ○津村 龍 1)、田村 朋子 1)、岐浦 禎展 2)、坂本 繁幸 2)、谷川 攻一 1)、栗栖 薫 2) 1) 広島大学病院 高度救命救急センター、2)広島大学病院 脳神経外科 多発外傷においては、各部の損傷は相互に関連しながら重篤化するので臓器別・領域別に特化した診療科 の分担的な治療では救命が困難である。部位ごとの確定診断や治療に固執せず、全身的緊急度を重視し、生 命に関わる損傷に対する処置を最優先とするという総合的な視点で判断を行い、治療優先順位を決定するこ とが極めて重要となる。今回我々は、急性硬膜外血腫を伴った多発外傷の 1 救命例を経験したので報告する。 症例は 13 歳、女性。10m の高さから墜落し、多発外傷を受傷した。出血性ショック状態で他院へ搬送され、 両側血気胸、多発肋骨骨折、左腎破裂、頭蓋骨骨折、外傷性くも膜下出血、胸椎破裂骨折、骨盤骨折と診断 された。両側胸腔ドレナージ挿入後、出血性ショックの状態で当院へ転院搬送された。左腎破裂に対して左 腎動脈塞栓術を行った後、瞳孔不同が出現。CT にて右急性硬膜外血腫を認めたため、開頭血腫除去術施行 し、外減圧とした。術中、多量の鼻出血が持続し、大量の輸血を必要とした。術後に止血のため両側顎動脈 および両側中硬膜動脈に対してコイル塞栓術を行った。受傷 1 か月後に胸椎後方固定術、骨盤後方固定術施 行。意識レベル JCS1 となり、受傷 55 日後に車椅子でリハビリテーション病院へ転院した。 − 122 − P 04 − 5 外傷性動眼神経麻痺の 1 例 − 3D CISS による検討− ○岡田 博史、杉山 健、桝田 宏輔、石毛 聡、山内 利宏、宮田 昭宏、中村 弘、小林 繁樹 千葉県救急医療センター 脳神経外科 【はじめに】これまで、通常の MRI を含めた画像診断で、動眼神経を確実にまた、再現性を保って同呈する ことは困難であった。しかし、3D constructive interference in steady state(3D CISS)画像を用いると脳 槽内の微小構造を描出することが可能であり、滑車神経、三叉神経、外転神経、顔面神経、聴神経、舌下神 経の描出についての報告がある。今回我々は外傷性動眼神経障害を 3D CISS にて直接的に認めた一例を経 験した。【症例】57 歳女性、車対車の接触事故にて受傷し当院へ救急搬送された。来院時 BP140/60mmHg、 SpO2 100%、HR96 回 / 分、BT35.6℃、GCSE1V1M1 であり、瞳孔径が右 3mm、左 7mm、と瞳孔不同を認 め、対光反射は左側で消失していた。頭部 CT で外傷性 SAH と左視床出血を認めた。また頚部 CT にて第 2 頸椎歯突起骨折(Anderson 分類 3 型)を認めた。頭蓋内病変に対しては保存的加療を行い、頸椎骨折に対 しては Halo vest を装着した。入院後経過としては、GCS E4VTM6 まで意識状態は改善したが、左動眼神 経麻痺を残存した。3D CISS にて左動眼神経が脳幹から硬膜貫通部において不整であり、正常側に比べ細い 所見を認めた。本症例は入院 1 ヶ月後にリハビリテーション目的に転院となった。【考察】これまでの報告 では 3D CISS を用いて動眼神経を同呈しているが、動眼神経障害を直接的にとらえた画像の報告は少ない。 本症例は 3D CISS 画像上、中脳から海綿静脈洞に至る脳槽内での形態変化を認めており、外傷性動眼神経 麻痺に相当する所見と考えられた。 P 04 − 6 神経外傷救急疾患における退院遅延をもたらす要因に関する検討 ○小川 隆弘、萬代 綾子、南都 昌孝、小坂 恭彦、中原 功策、天神 博志、久保 哲 京都第二赤十字病院 脳神経外科 頭部外傷や脳卒中などの神経外傷救急疾患では、初期診断・初期治療によりその後の転帰が大きく左右さ れるため、神経症状の評価と頭部CT / MRIでの画像評価における臨床診断が重要であり、それに対する 初期治療をいかに迅速に対応し、施行していくかも重要であるといえる。脳救急に対する治療、リハビリテ ーション、介護は脳卒中にかぎらず類似しているため脳救急全体として医療施設間の連携が必要であると考 えられ、それらの連携をいかに円滑に行うかによって、地域における脳救急のより充実した連携システムが 構築されるものと考える。そこで今回、当院救命救急センター 40 床に入院した患者の動向を退院遅延群・ 退院非遅延群との2群に分け、比較・検討を行った。対象と方法は、平成 21 年 5 月∼平成 22 年4月にかけ ての一年間における救命救急センターに入院した脳出血、くも膜下出血、頭部外傷 281 例を検討の対象とし た。但し、死亡症例は除外とした。検討項目は、年齢・性別・疾患名・手術の有無・手術の内容・生活環境・ 認知症の有無・入院時意識状態・実在院日数・退院可能日数・退院遅延日数(実在院日数−退院遅延日数) とし、退院可能日数は主治医が退院可能と判断した日数とした。今後、今回の検討結果が基となり、神経外 傷救急疾患に対し適切な診断・治療が行われた上で、退院遅延の少なく、より円滑な脳救急の連携システム が構築され、脳救急の地域活性化に結びついていくことが期待される。 − 123 − P 05 − 1 頭部外傷後 40 年経過して発見された頭蓋内異物の 1 例 ○門田 知倫、竹内 勇人、神原 啓和、小野田恵介 岡山赤十字病院 脳神経外科 【目的】今回我々は頭部外傷後 40 年を経過したのちに腫瘍性変化を伴って発見された頭蓋内異物を有する 1 例を経験したので報告する。【症例】59 歳男性。生来健康であったが 20 歳の時、乗用車運転中の事故で入院 の既往あり。2010 年 9 月、目眩、嘔吐で発症し当科入院となった。入院時の頭部 CT で左前頭部に石灰化の 強い腫瘍性病変を認めた。保存的加療にて症状の改善が見られたため、その後開頭腫瘍摘出術を行った。術 中の所見では、前頭蓋底部に瘻孔を認め、その部より肉芽を形成した腫瘍性病変を認めた。周囲との癒着が 強く、また肉芽の隙間より、ガラス片が突出していた。肉芽内には大量のガラス片が混入しており、ガラス 片を覆うように肉芽が形成されていた。また肉芽の周囲にもガラス片が散見された。頭蓋底部近くの前頭洞 を貫いて外部よりガラス片が頭蓋内に迷入したものと考えられた。肉芽、ガラス片を全摘出したのち、頭蓋 底部の瘻孔を修復し手術を終えた。術後の経過は良好で独歩退院された。40 年前に事故を起こした以外に大 きな既往もないことから、当時の事故の際に頭蓋内に異物が入ったまま現在まで経過したものと思われた。 加えて生来健康であり、髄膜炎など合併症も来たさず、さらに大病もせず病院にかかることもなく過ごして きたため、発見が遅くなったものと考えられた。【結語】現在ではヘリカル CT など簡便に頭部の詳細な検査 が可能であるが、40 年前ではまだ CT は普及しておらず、詳細な検査は困難であったと思われる。本症例は 40 年という長い経過で合併症も来たさずに頭蓋内異物が腫瘍性変化を来たして発見された稀な一例であると 思われた。 P 05 − 2 視神経管開放術にて著名な視力の改善が得られた外傷性視神経障害の1例 ○中島 弘之、佐藤 章、鈴木 海馬、高平 修二、古田島 太、根本 学 埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科 【目的】外傷性視神経障害には保存的あるいは外科的治療が試みられるが、International Optic Nerve Trauma Study では両者による有意な視力改善は得られてなく、症例に応じた治療法を選択すべきとされて おり、未だ明確な適応がないのが現状である。今回我々は有効に治療し得た外傷性視神経障害の1症例を経 験したため文献的考察を加え報告する。【症例】38 歳男性でサッカーの最中に相手の膝が右顔面に当たって 受傷し、近医に搬送された。右眼の視力が低下(0.2 程度)しており、頭部・顔面 CT 上では脳挫傷、気脳症、 頭蓋骨及び顔面骨骨折があり、骨片の視神経への圧迫所見が認められた。経過観察にて視力の急激な悪化が ないため保存的治療となり、脳神経外科を含めた経過観察が必要との事で当院へ紹介搬送された。搬入時意 識レベルは JCS 1、GCS E4V5M6 で瞳孔不同があり、対光反射は右眼で消失していた。保存的治療の継続を 検討したが、気脳症からの感染が懸念されステロイドの投与が出来ないため、受傷翌日に視機能改善及び感 染予防目的に開頭手術を行った。【結果】術後より視力は徐々に改善していき、術後 4 日目には視力が 0.8 と なった。術後 18 日目には 1.5 と受傷前と変わらないくらいまで改善した。右視野の鼻側下方の 1/4 半盲及び 複視が残ったが、視神経乳頭に異常はなかった。【結論】早期に外科的治療に踏み切った結果、著名な視力 の改善を得る事が出来た。骨片による視神経圧迫が明白な例では視力低下の原因と考え、早期に手術を行う のが有用であると考えられた。 − 124 − P 05 − 3 頭蓋骨骨折を伴う帽状腱膜下血腫に対して治打撲一方が奏功した一例 ○津金慎一郎、福岡 俊樹、今川 健司、高橋 立夫 国立病院機構名古屋医療センター 脳神経外科 頭蓋骨骨折を伴う帽状腱膜下血腫で、陥没骨折の手術後に治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を処方したと ころ、内服開始後、早期に治癒した症例を経験したので報告する。【症例】8 歳男子。交通外傷のため受診。 右側頭骨と左前頭骨に陥没骨折を認めた。また、左側では、線状骨折が後頭骨まで達していた。受傷 9 日目 に頭蓋形成術を行った。左側では、線状骨折の板間層から出血が続いており、帽状腱膜下血腫を形成してい た。骨折部をプレートで固定し、血腫の存在した部の頭蓋骨穹窿部に小孔を穿ち頭皮を縫合して固定したが、 手術翌日から再び血腫の貯留が見られた。治打撲一方を手術から 3 日後に内服したところ、内服開始 3 日目 から血腫の消褪が見られた。内服は、5 日間続けて終了したが、血腫再発を認めなかった。【考察】帽状腱膜 下血腫は、幼小児の軽微な外傷後でも見られることがあり、2 から 4 週間で自然治癒するとされている。多 くは薬剤を用いず、経過観察のみで軽快することが多いと思われる。一方、頭蓋骨縫合を超えて広がるため、 乳児ではショック状態に陥ることもあり得るとされる。本症例は、板間層からの出血が続いていたため、骨 折部をまずプレート固定した上に、頭皮を頭蓋骨に縫い付けたが、処置されていないところに血腫の貯留が 見られた。治打撲一方は、打撲・捻挫等で患部が腫脹、疼痛する場合に用いられ、血液・血流の停滞を改善 することが期待できるとされる。小児であるため、成人が内服する量よりも減らして処方したが、大黄が含 まれる薬剤なので、下痢による脱水に注意するべきである。 P 05 − 4 当院における頭部外傷術後の自家骨弁溶解例に対する頭蓋形成術の経験 ○早川 隆宣、高里 良男、正岡 博幸、八ツ繁 寛、重田 恵吾、住吉 京子、百瀬 俊也、 前田 卓哉、清川 樹里 国立病院機構災害医療センター 脳神経外科 頭部外傷に対して減圧開頭血腫除去術を行い、自家骨弁にて頭蓋形成術を行った後に、感染所見はなく骨 弁の溶解(菲薄化と欠損)を生じたため再度頭蓋形成術を行い、長期に経過を追跡できている 4 例について 検討した。自家骨弁は、減圧開頭後に− 80 度に冷凍保存し、頭蓋形成術前日から自然解凍し手術に用いた。 最初の頭蓋形成術から再手術までの期間は、11 ヶ月から 2 年 7 ヶ月で、再手術後現在まで 5 年から 9 年の経 過観察を続けている。骨弁溶解はいずれも外側面から削られるように菲薄化が進み、欠損に至り、内側面は 比較的保たれており、感染時のようないわゆる腐骨状態とは異なる病態であると考えられた。1 例目は、骨 欠損および陥凹部のみにレジンをかぶせた。9 年経過し、レジンをのせなかった部位に溶解が進行しており、 現在経過を見ている。2 例目は、骨折により自家骨弁は数片に分かれており、初めの頭蓋形成時にそれをに チタンプレートでつないだ。前頭部は仮骨が進んだものの、後半部で溶解が進み、離れ離れの骨片になって しまい、これを除去し、空いた欠損部に合うように作成しておいたセラミックス頭蓋プレートにて形成した。 最近の 3、4 例目は、骨弁全体に菲薄化が進み一部欠損となった。自家骨弁はそのまま残し、チタン頭蓋プ レートを開頭部全体をカバーするように作成し、上からかぶせた。1 例は、残る自家骨弁の菲薄化欠損が若 干進行、1 例はほとんど変化なく経過している。再手術時の手術リスク、感染や強度のことを考えると、自 家骨弁の上からチタンプレートで覆う形成術が優れているものと思われ、現在のところ長期予後も良好であ る。 − 125 − P 05 − 5 軽微な外傷を契機に症状を呈した先天性中脳水道狭窄症の 1 例 ○森田 隆弘 1)、高沢 弘樹 1)、成澤あゆみ 1)、斉藤 敦志 1)、佐々木達也 1)、 西嶌美知春 1)、鈴木 直也 2) 1) 青森県立中央病院 脳神経外科、2)青森労災病院 脳神経外科 【はじめに】無症状で経過している先天性の中脳水道狭窄症が腫瘍、炎症、感染、外傷などにより症状を呈 することは過去に報告させている。今回私達は軽微な外傷をきっかけに症状を呈した症例を経験したため報 告する。【症例】23 歳、男性。16 歳時にサッカーの試合中に転倒し、青森労災病院を受診。頭部 CT で脳室 拡大が指摘されたが無症状のため経過観察されていた。その後より、慢性的に軽微な頭痛が出現し、7 年後 に増悪して両側の視力障害も出現したため近医で頭部 MRI が行われたところ、中脳水道狭窄症と水頭症の 診断となり当科に紹介された。来院時は意識清明で明らかな神経学的異常所見を認めず。眼科的にも視野障 害や異常な眼底所見を認めなかった。頭部 CT、MRI で側脳室、第 3 脳室の著明な拡大と中脳水道の閉塞を 認めた。軟性鏡を側脳室前角より挿入し、第 3 脳室に進めて中脳水道が膜様の構造物で閉塞していることを 確認した。また、灰白隆起を穿破して第 3 脳室底開窓術を行った。術後は症状も軽快し、脳室も縮小して独 歩自宅退院した。【考察】成人発症の中脳水道狭窄症は形態学的に膜様構造物による中脳水道の狭窄、閉塞 が認められ、慢性的な頭痛で発症する。腫瘍、炎症、感染、外傷などにより急性増悪することもあり、第 3 脳室底開窓術で 80% 以上が軽快する。治療法としてはその他に、脳室−腹腔シャント術や中脳水道ステン ト留置術がある。本症例ではもともと先天的な中脳水道狭窄症があり、頭部を打撲したことによる微小な出 血や髄液中の蛋白濃度上昇などにより閉塞性が高まったか、反応性の膜の肥厚により閉塞した可能性がある と考えられた。これに対して内視鏡的第 3 脳室底開窓術を行い良好な結果を得た。 P 05 − 6 高齢者における外科治療を要した非高エネルギー頭部外傷症例の転帰・予後の検討 ○畑中 良、河合 拓也、山口 竜一、塩川 芳昭 杏林大学病院 脳神経外科 【目的】重症頭部外傷の転帰・予後は受傷時の外力の程度や、手術までの時間、神経学的所見、CT 所見、手 術所見、既往症、全身合併症など様々な要因が関与している。手術を要した重症頭部外傷症例のうち非高エ ネルギー外傷(人−車、人−電車、バイク事故、3 m以上の転落事故を除く)、または詳細不詳な頭部外傷に おける、高齢者(70 歳以上)と非高齢者での転帰・予後について検討を行った。【対象・方法】杏林大学脳神 経外科にて上記の受傷機転で 2005 年 2 月から 2009 年 12 月の期間に外科治療を行った連続 68 症例を対象と した。【結果】非高齢者(n=40)の転帰は入院時の GCS によって大きな差異は認めない一方で、高齢者(n=28) の転帰は、予後不良群では入院時の意識レベルの低い(GCS:8 点以下)割合が多かった。GOS 転帰は、GR1 例、 MD8 例、SD5 例、VS2 例、D12 例(LC で死亡例が 1 例)で、KPS についても非高齢者より有意に低かった。 また、高齢者では抗凝固・抗血小板薬の内服歴も多かった。【考察】70 歳以上の高齢者において、非高エネ ルギー外傷においても転帰・予後は不良で、若年者と比較しても有意に不良であった。また、高齢者の生存 症例において、ADL の完全な改善を認めた症例は少なく、療養型病院への転院や、基礎疾患・合併症によ る重篤化、死亡症例を認めた。高齢者では、頭部外傷の受傷機転が不明だったり、抗凝固・抗血小板薬内服 歴も多く、予後不良の因子の一つとして考えられた。 − 126 − P 06 − 1 穿通性外傷による総頚動脈仮性動脈瘤の一例 ○豊田 康則、豊嶋 敦彦、蔵本 智士、勝間田 篤、小野 恭裕、河内 正光、松本 祐蔵 香川県立中央病院 脳神経外科 症例は 54 歳男性。仕事中に突然背後から出刃包丁で切りつけられ救急搬送された。受診時 JCS 20 点、右 頚部に 4cm の切創、右手掌・左第 5 指にも切創を認めた。衣類には大量の血液が付着しており圧迫にて止血 されていたが頚部血管の損傷が予想された。さらには血腫により気管が左に圧配されており気管内挿管にて 気道確保を行った。DSA にて左総頚動脈分岐部に仮性動脈瘤を認めた。血流遮断目的にてバルーンカテー テルを留置した上で血管形成術を施行した。手術は CEA に準じて行い、剥離を進めると総頚動脈分岐部に 1cm の切創を認め、同部位に仮性動脈瘤を認めた。総頚動脈∼内頸動脈を切開すると軽度の dissection を認 め、6-0 プロリンで縫合し手術終了とした。両手の切創も縫合処置とした。術後評価にて仮性動脈瘤の消失 を確認した。経過良好につき自宅退院となった。文献によると頚部血管の外傷性仮性動脈瘤は頚部開放性損 傷の 6% に合併するとされている。今回我々は穿通性外傷による総頚動脈仮性動脈瘤の一例を経験したので 報告する。 P 06 − 2 出血性ショックを合併した口腔内出血に対し選択的外頸動脈塞栓術を施行した一例 ○松本 学、石川 若菜、渡邊 顕弘、和田 剛志、関 厚二朗、恩田 秀賢、高山 泰広、 布施 明、川井 真、横田 裕行 日本医科大学付属病院 高度救命救急センター 【症例】55 歳 男性【現病歴】自動二輪車運転中に乗用車と衝突して受傷した。昏睡状態、ショック、高エ ネルギー外傷であり、Load&Go の判断で当院救命救急センター搬送となった。【診断】#1 急性硬膜下血 腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷 #2 右血気胸、多発肋骨骨折 #3 頭蓋底骨折、蝶形骨骨折、上顎骨骨折 #4 両側鎖骨骨折、肩甲骨骨折【来院時現症】BP 60/35mmHg HR 78bpm RR 23/min SpO2 100% (O2 BVM 10l/min) BT 34.9℃ GCS E1V1M1 Pupil 5/5mm Light Reflex n/n 【入院後治療経過】口 腔内大量出血、右胸郭動揺と呼吸音の減弱、血圧低下、意識障害(深昏睡)と両側瞳孔散大、体温の低下と ABCDE 全てにおいて異常を認めた。気管挿管・右胸腔ドレナージ、大量輸液及び輸血による蘇生を行い、 循環の改善を得て急性硬膜下血腫・急性硬膜外血腫に対し開頭血腫除去術・外減圧術を施行した。術後口腔 内出血が持続し、再び出血性ショックを呈した。全身検索で口腔内以外に大量出血の原因は発見できず、選 択的外頸動脈撮影を施行した。上行口蓋動脈より血管外漏出を認め、塞栓術を施行した。以降持続する出血 は無く、循環動態は安定した。24 時間での総輸血量は 24 単位であった。救命に至り、頭蓋形成を経てリハ ビリ病院へと転院した。【考察】重症頭部外傷に合併する外傷性鼻・口腔内出血にはいくつかの特徴がある。 頭部外傷に伴う凝固障害により自然止血を得ることが困難であり、多発外傷の場合はその傾向は更に顕著と なる。圧迫止血は頭蓋底骨折を伴うため期待できず、骨・深部の直接止血も容易ではない。外頸動脈に対す る塞栓術は、手技が容易であり、迅速・低侵襲であることから、難治性出血と判断したら積極的に施行すべ きである。その治療適応を確立することで、外傷患者の予後改善が期待できると考えられる。 − 127 − P 06 − 3 医原性前大脳動脈瘤の 1 手術例 ○成澤あゆみ、佐々木達也、斉藤 敦志、高沢 弘樹、森田 隆弘、村上 謙介、西嶌美知春 青森県立中央病院 脳神経外科 外傷機転が原因で、前大脳動脈末梢に仮性動脈瘤を生じることがあるが、今回、私達はシャント手術時の 損傷によって生じた前大脳動脈瘤の 1 例を経験したので、反省を込めて報告する。症例は 67 歳の女性でくも 膜下出血にて発症し、破裂左中大脳動脈瘤クリッピングを施行された。術後脳室拡大を認め、JCS 3 の状態 で左脳室腹腔短絡術を施行した。Dandy のカニューレで左前角を穿刺しようとした際に脳表から 4.5 cm の 点で抵抗があったため、一旦 Dandy のカニューレの内筒を抜くと激しい動脈性の出血を認めた。Burr hole を rongeur で拡大し、脳表を確認したが異常を認めず、穿刺した tract からの出血であった。しばらくして 出血の勢いが弱まったため頭皮を縫合し、ただちに CT 室へ直行した。CT では右前頭葉内側の脳内出血と 脳室内出血を生じていた。すぐに手術室に戻り左前角から脳室ドレナージを施行した。翌日施行した DSA では右前大脳動脈末梢の血管分岐部ではない部分に最大径 2.2 mm の動脈瘤を認めた。翌日開頭手術を施行 したところ、右前大脳動脈末梢部に円形の穿孔を認めた。縫合、wrapping を行い、術中脳血管撮影を施行 したが、穿孔部より末梢の前大脳動脈が描出されなかった。術後 CT では脳梗塞を認めず、back flow によ り右前大脳動脈の血流が保たれているものと思われた。1 ヶ月後に左 V-P shunt を施行し、JCS 1 神経脱落 症状なしの状態で自宅退院した。脳室穿刺に際して前大脳動脈損傷を生じることは避けるべき合併症である ことは言うまでもないが、出血から前大脳動脈損傷を疑ったら、迅速に血管の評価を行い治療する必要があ ると思われた。前大脳動脈を閉塞したにも拘らず幸いにも梗塞を免れることができた症例であったが、仮性 動脈瘤では血行再建の準備も行い手術に臨むべきと思われた。 P 06 − 4 外傷性 direct CCF の一治療例 ○村上 守 1)、塚原 徹也 2)、新井 大輔 2)、山口 将 2)、堤 貴彦 3)、金子 一郎 3) 1) 京都九条病院 脳神経外科、2)京都医療センター 脳神経外科、3)京都医療センター 救急部 【はじめに】Direct CCF(carotid cavernous fistula)に対する治療は、detachable balloon を用いた fistula の閉塞が主流であったが、balloon が使用できない現在、治療法に迷うこともあると思われる。今回、 transvenous に cavernous sinus(CS)経由のコイル塞栓により良好な経過を得た症例を経験した。【症例】63 歳女性で、原付バイクでの自損事故で救急搬入された。初診時、意識レベル JCS 2、GCS13(E3V4M6)、右顔面・ 側頭部の打撲跡、左外耳道からの出血を認めた。右眼瞼の浮腫が強く、右眼球や右の視力に関しては十分な 評価ができない状態であった。CT 上、右中頭蓋底および頬骨弓骨折、外傷性くも膜下出血を認めた。他臓 器損傷は、右鎖骨・右肋骨骨折(第 4、5)、右気胸、肝損傷があり、胸腔ドレーンを留置した。入院 4 日目 から右開眼可能となったが、右眼の上半分の視野欠損の訴えあり、眼科で右外傷性視神経症と診断された。 入院 7 日目 左眼の眼球運動障害(内転がわずかに可能)、眼瞼下垂が明瞭となり、MRI 上、左上眼静脈の 拡張を認め外傷性 CCF が疑われた。8 日目の脳血管撮影で direct CCF と診断、lt .IC(C4)に fistula を認めた。 同時に行った balloon occlusion test では、rt. IC から A-com、lt.VA から P-com を介する flow を認めたが SPECT で右 MCA 領域の CBF 低下あり、母血管閉塞は不可と判断した。19 日目 IPS 経由で transvenous embolization を行った。術直後わずかに shunt が残存したが、CS 内の tight packing は行わず終了した。術 後 6 日目に左眼球充血消失、眼瞼下垂の改善があり、術後 1 か月の血管撮影で shunt の消失を確認、術後 3 か月で眼球運動障害は完全に改善した。 − 128 − P 06 − 5 頭部外傷後に生じた無症候性脳血管攣縮の一例 ○青木 淳 青木医院 症例は、30 歳女性、琵琶湖でウェィクボード中にボードが湖面に刺さり、水面に向かって垂直に頭部を打 ちつけた。意識消失はなく、直後から頭痛が持続した。翌日より、約 20 分間持続する強い頭痛を、間歇的 に自覚し、鎮痛剤は効果なかった。受傷3日の夜に、激しい頭痛を自覚、翌日当院を受診した。来院時、神 経学的脱落症状はなく、MRI 上、クモ膜下出血などの頭蓋内出血、脳挫傷など器質的異常を認めなかった。 MRA にて、両側 carotid fork の狭小化、両側 A1, 左 M1 起始部の狭窄を認めた。来院時、頭痛は改善傾向で、 虚血症状は見られないため、経過観察とした。4ヶ月後の follow-up MRA を撮影すると、主幹動脈の狭窄は、 完全に消失していた。外傷性クモ膜下出血の伴わない、頭部外傷後に発生する脳血管攣縮は、稀である。若 干の文献的考察を加え、報告する。 P 06 − 6 くも膜下出血発症時の転倒により外傷性頭蓋内血腫を併発した一例 ○松田 和也、松本 圭吾、高道美智子、橋村 直樹 社会保険神戸中央病院 今回われわれはくも膜下出血に急性硬膜下血腫、脳挫傷を合併し治療方針、治療、術後管理に難渋した 症例を経験したのでこれを報告する【症例】57 歳女性、トイレの個室で倒れているところを発見され当院搬 入となった。搬入時の意識レベルは JCS3 桁であった。頭部 CT で急性硬膜下血腫を認め緊急手術の準備を 進めた。ただ著しいくも膜下出血の所見はなかったが脳底槽の描出が不良であり CTA を施行することとし た。徐意識レベルは徐々に改善し検査の前には JCS2 桁となった。CTA では脳底動脈に窓形成とそこに動脈 瘤をまた左後大脳動脈にも動脈瘤を認めた。幸い急性硬膜下血腫は縮小しておりそれに対する緊急手術の必 要はなくなったが新たに脳挫傷を認めた。今回の病態はまずくも膜下出血が発症しそれにより意識消失もし くはそれに近い状態となり転倒し頭部打撲し急性硬膜下血腫と脳挫傷となったと考えられた。治療としては 脳動脈瘤の位置が脳底動脈窓形成部という解剖学的な特異性と多発動脈瘤ということなどを考慮しコイル塞 栓術を施行した。術後は転倒時の頚髄損傷によると考えられる四肢麻痺を認めまた慢性腎不全が悪化したた め CHDF 導入しその後 HD へ移行するなど問題があったが、結果的には mRS1 で独歩退院となった。【考察】 くも膜下出血の発症時の転倒により頭部外傷を受傷することはまれならず経験するが本症例のごとく頭蓋内 血腫を伴う場合、治療の優先順位については各々の病態の重篤性に応じて決定すべきである。 − 129 −
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