歯科学会雑誌第39巻 No.2/第173回 岐阜歯科学会例会 - 朝日大学

第
回 岐 阜 歯 科 学 会 例 会
)開催日
平成
)会
場
朝日大学
年
)時
間
総会
例会
月
日(土)
号館
:
:
階第
大講義室
∼
∼
(担当分野:朝日大学歯学部口腔病態医療学講座インプラント学分野
および障害者歯科学分野)
う考えているかを学ぶ.
岐阜歯科学会専門部会活動報告
.夏期等の長期休暇を利用
國央 教授
し,全国で活躍する卒業生の歯科診療所を訪問し,あ
平成 年度専門部会「歯科医学教育向上推進部会」活
らかじめ定めたテーマに基づき臨床研究をサポートす
動報告
る.
朝日大学・明海大学生涯研修部研修会への参加と夏季
阜歯科学会において報告を行うとともに,スチューデ
休暇を利用しての歯科医院訪問
ント・クリニシャン・リサーチ・プログラムにアプラ
座長
)
○林
芳紘
○兵藤
広明 ) ○渡瀬
○森
裕佳理
○橋本
土井
)
○宮井
○和田
周子 ) ○吉原
豊
)
永原
久敏
)
○吉崎
裕允 ) ○西川
亜弥
)
今回は,明海大学との合同で行っている生涯研修部
)
の研修会プログラムへの参加と夏季休暇を利用しての
歯科医院訪問について,その内容および参加学生の感
○山田
秀明 )
永原
國央 )
倉知
正和
)
田村
康夫 )
田邊俊一郎
)
)
イする.といった内容である.
聡美 )
)
侑子
.年間活動目標として研究テーマを設定し,岐
尚
想を発表する.
生涯研修プログラムへの参加と歯科医院訪問を通し
( 朝日大学歯学部歯学科
学年)
て,学生達は多くのことを学び,大きな成果を得るこ
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
とができたと考える.
)
( 朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
インプラント学分野)
)
( 朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
歯科理工学分野)
座長
研究発表
村上
幸孝 教授
( )朝日大学歯科医学教育推進センター)
歯科医学研究入門Ⅰ「口腔微生物学分野」研究発表
( )朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座
う蝕に関わる細菌の性質を知ろう
護 ) ○森原
○和仁
小児歯科学分野)
長谷川義明 )
猪俣
惇子 ) ○渡邊
恵)
歯科医学教育向上推進部会は,歯科医師になること
引頭
毅)
村上
幸孝 )
年間の大
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
学での講義や実習だけでは修得することのできない,
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
を目標に入学した歯学部生会員を中心に,
将信 )
)
国内外のトップレベルの歯科医療および臨床応用され
( 朝日大学歯学部口腔感染医療学講座
ている先端医療に触れることを通して,歯科医学教育
口腔微生物学分野)
の向上を図ることを目的としたプロジェクト部会であ
る.その主な活動内容は,歯学部
学年,
学年学生
により結成されている先端歯科医療研究同好会(CE
クラブ)活動のサポートで,
目的
う蝕とは,口腔内に棲息する細菌が糖質から作った
.現在の歯科医療の動
酸により歯質が脱灰されて生じる,歯の実質欠損であ
向および研究発表において注目を集めている事項を学
る.う蝕の主な原因となるのが,口腔レンサ球菌に分
習する.
.大学で行っている生涯研修プログラム
類されるミュータンスレンサ球菌群である.ミュータ
(CE)の研修会の運営をアシストし,受講生である
ンスレンサ球菌群は,他の口腔レンサ球菌とは異なる
先生方がどのような姿勢で学んでいるのか,またどの
特徴的な性質を持っており,その性質がう蝕の発症と
ような考えで毎日の診療を行い,今後の歯科医療をど
進行に大きく関与している.本研究では,ミュータン
スレンサ球菌群の持つ性質について他の口腔レンサ球
菌と比較しながら調べることを目的とした.同時に,
結果
.バイオフィルム形成試験
および
ミュータンスレンサ球菌群の性質に及ぼすキシリトー
にスクロースを添加し
ルの影響を検討した.また,近年,細菌の同定法とし
た場合,非添加と比較して有意な増加が認められた
て応用されているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によ
が,他の口腔レンサ球菌では有意差は認められなかっ
り,唾液から
た.グルコースおよびキシリトール添加では,いずれ
および
の口腔レンサ球菌においても顕著な差は認められな
を分離・同定することを試みた.
かった.また,視覚的評価法においても同様の結果が
得られた.
方法
.糖分解能試験
.菌株ならびに菌液
ミュータンスレンサ球菌群の
,ミティス菌群の
リウス菌群の
および
およびサリバ
を用いた.菌の培養には
ABCM 寒天平板培地および BHI 液体培地を用いた.
いずれの口腔レンサ球菌においてもスクロースおよ
びグルコースの分解能は陽性であったが,キシリトー
ルでは陰性であった.
.PCR による同定
の
口腔レンサ球菌の分離には MS 寒天平板培地を用い,
つの PCR 反応液からは予想される
ミュータンスレンサ球菌群の分離には MSB 寒天平板
サイズの増幅産物が検出され,
培地を用いた.
の反応液から増幅産物が検出された.
では全て
.バイオフィルム形成試験
クリスタルバイオレット法にてバイオフィルム形成
考察
量を定量的に評価した.スクロース,グルコース,キ
ミュータンスレンサ球菌群は,グルコースおよびス
シリトール添加および非添加の BHI 液体培地に菌液
クロースを利用し酸を産生したが,スクロースを添加
を加え, 穴プレート(ポリスチレン)に接種した.
した場合においてのみバイオフィルム形成が認められ
培養は ℃で
週間,嫌気的に行った.上清を捨てた
た.これらの結果から,スクロースは,ミュータンス
後,PBS にて
回洗浄後, .%のクリスタルバイオ
レンサ球菌のバイオフィルム形成に関わる重要な因子
回洗浄し
であることが考えられた.ミュータンスレンサ球菌群
た後,エタノールにより CV を溶出し,マイクロプレー
はグルコシルトランスフェラーゼによりスクロースを
トリーダーにて吸光度(
nm)を測定した.また,
唯一の基質として水不溶性グルカンを作る.この水不
ガラス試験管を用いて同培地にて培養を行い管壁への
溶性グルカンが本研究におけるプラスチックおよびガ
菌の付着状態を観察し,視覚的にバイオフィルム形成
ラス表面への付着性に強く関与していると考えられ
量を評価した.
た.一方,キシリトールを添加した場合では,ミュー
レット(CV)を加え染色した.PBS にて
.糖分解能試験
タンスレンサ球菌群を含む全ての口腔レンサ球菌にお
糖および糖アルコールを添加した BHI 寒天平板培
いてバイオフィルムは形成されず,酸産生も認められ
地(クロロフェノールレッド添加)
に各菌を播種し ℃
なかった.これらの結果から,キシリトールは口腔内
で 時間,嫌気的に培養した.培地の pH が低下し黄
で酸およびバイオフィルムを口腔レンサ球菌に作らせ
変した場合に糖分解能陽性と判定した.
ない優れた甘味料であることが考えられた.
PCR を応用した同定法において増幅産物が得られ
.PCR による同定
唾液から MS および MSB 寒天平板培地を用いて,
口腔レンサ球菌およびミュータンスレンサ球菌群を分
離した.その中から,
と推定される集落をそれぞれ
ない反応液が
の原因として,
つずつ選択し,菌種間
つ認められた.こ
と類似な集落を形成する
を選択した可能性が考えられた.いずれにし
および
で配列の異なる S rRNA 遺伝子領域に設計したプラ
において
ろ,本法は迅速かつ正確な同定手法であると思われ
た.
イマーを含む PCR 反応液に加えた.サーマルサイク
ラーを用いて PCR を行った後,PCR 反応液をアガ
ロースゲル電気泳動により分離し,増幅の有無を確認
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
した.
座長
歯科医学研究入門Ⅱ「口腔外科学分野
研究発表
研究発表
髙井
良招 教授
高齢者歯科学」
全身疾患を有する患者の安全な歯科治療法とその実態
千恵
)
高須
浩徳
)
早瀬
友克 )
○岩
貴義
)
阪本
晃多
)
石川
○石田
慮が必要であることが分かった.
俊介
)
恭子
)
脳の一部が虚血あるいは出血により一過性または持
美佳 ) 本郷
智祥 )
続性に機能的,器質的障害を受けた状態をいい,脳梗
髙井
良招 )
塞,脳出血,クモ膜下出血が
)
佐藤
高本
.脳血管障害と歯科治療
大脳卒中である.脳卒
( 朝日大学歯学部歯学科
学年)
中の患者は障害部位によって知覚と運動神経障害があ
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
り,歯科用ユニットへの移乗にも配慮が必要である.
( )朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
口腔外科学分野高齢者歯科学)
また,原因となった高血圧症や糖尿病への配慮が必要
であり,それらに対する内服薬を理解する必要であ
る.さらに,脳卒中の伸展拡大と再発予防のために抗
血栓薬を服用しており,抜歯等の外科的手術や歯周治
目的
現在,本邦は世界的に稀な超高齢社会に直面し,
歳以上の高齢者の総人口に対する割合は
年
月現
療による止血困難が予測されるので注意が必要であ
る.
在, .%を占めている.また,高齢者は全身疾患を
有する割合が高いが,医療の進歩によりそれらの疾患
を有したままでほぼ通常の生活を営んでいる者も多く
結論
B型およびC型肝炎患者の治療には
つの点に注意
存在する.我々が歯科医師として社会の中枢をなして
が必要である.まず,ウイルス感染症により止血機能
いく時代には,こうした全身疾患を有する高齢者の歯
が低下しており,外科処置後の後出血に注意が必要で
科医療をいかに安全に効率よく進めるかは大きな課題
ある.また,肝機能低下により抗菌薬や NSAID の使
用には配慮が必要である.第
である.
歯学部カリキュラムでは高齢者歯科学は
点目には患者から患
学年で教
者,患者から術者等への二次感染を予防する必要があ
学年までの基礎歯科医学的
り,SP の実施と院内感染対策を充実する必要がある
知識や内科学,外科学等の隣接医学の知識を基に,社
ことが分かった.また,脳卒中後の患者の治療には原
会的によく知られている疾患について図書館書籍やイ
因となった疾患について充分把握する必要があり,特
ンターネットを駆使して,疾患の理解と安全な歯科治
に服用薬物に対する理解が必要である.また,常用し
療法について理解することを試みた.
ている抗血栓薬により外科処置後の後出血の可能性が
授される予定であるが,
高いため,それらに対する配慮が必要である.
さらに,
検索疾患および方法
検索疾患の選択は参加者全員が興味のあるものと
四肢の麻痺等による歯科用ニット上の事故にも配慮が
必要であることが分かった.
し,全員が異なった疾患について実施をすることとし
高齢者歯科学研究入門を通して,物事をより良く理
た.検索方法は内科学,外科学等の教科書および講義
解していく上で今までに学んできた知識がいかに重要
時配布プリント,図書館書籍およびインターネットを
であるかが分かった.例えば,薬理学の知識により出
利用して行った.
血傾向がみられる患者には使用禁忌薬物があること
や,内科学の知識により血液を介して感染症が成り立
結果
つことを再確認することがでた.日頃,授業を受けて
.B型肝炎およびC型肝炎と歯科治療
いる中では,他科目の知識を利用しながら段階を踏ん
HBV と HCV 感染の原因は針刺し事故,輸血,刺
で結果を導き出すことはほとんどないので,個々の科
青,性交,母子感染等の血液との交わりによって生じ
目の内容がどれほど重要なことであるかを考える良い
る.そのため,すべての患者が感染源を持っていると
機会になった.
念頭に置いておくことが重要であり,防止には標準的
また,結果がすべてではなく,原因から結果が生じ
予防処置(Standard Precaution:SP)が重要である.
る過程や逆に結果から原因を類推することが重要であ
また,これらは院内感染予防対策に非常に役立ち,患
り,それらをどのように考えて調べていくかを学ん
者の保護にも重要であり,交差感染を防止するための
だ.例えば,ある疾患を調べるに際に,
機材の消毒,滅菌方法,手洗い,患者毎のグローブの
学んだ解剖学,生理学,生化学,病理学等の多くの知
交換等感染に対する予防対策のキーワードである.一
識を繋げることにより多くのことが理解できることに
方,肝機能の低下した患者に対しては抜歯時の出血傾
気づき,毎日の積み重ねがいかに有用であり重要であ
向が考えられ,治療時には患者の常用薬や後出血に配
るかが分かった.今後とも,今回学んだ方法により知
学年までに
の病理組織に反映されている.粘液嚢胞は,停滞型も
識の積み重ねを続けたいと強く思った.
存在する.頻度は, .∼ .%と少なく,病理学的
には内面を上皮で覆われた明瞭な嚢胞腔を有する粘液
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
渡邉
嚢胞として溢出型と区別している.
一弘 助教
治療方法は,摘出術・凍結療法などがあるが,基本
歯科医学研究入門Ⅱ「口腔外科学分野」研究発表
は摘出術である.本症例において口唇腺の外科的摘出
溢出型粘液嚢胞の一症例
を行ったのは,小唾液腺が損傷していた場合,再発す
友也 ) ○高山
○加藤
真宏 ) 藤本
雅子 )
る恐れがあるためである.しかし,完全に周囲の損傷
式守
)
した口唇腺を取り除けない場合,再発を起こす可能性
( )朝日大学歯学部歯学科
道夫
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
があるため,患者にはその旨を説明する必要性があ
る.
口腔外科学分野)
平成
緒言
朝日大学歯学部付属病院
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
口腔外科外来において経
験した粘液嚢胞の一例を報告する.
座長
○小林
材料と方法
訴:下唇部の腫脹
患
者:
雅子 助教
歯科医学研究入門Ⅱ「口腔外科学分野」研究発表
年間放置した血管腫の
主
研究発表
藤本
高大
)
例
英二 ) 江原
○境
渡邉
一弘
( )朝日大学歯学部歯学科
歳女児
)
式守
雄一 )
道夫 )
学年)
( )朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
現 病 歴:以前より下唇部の腫脹を認めていたが,変
化がないため近歯科医院を受診する.精査の
口腔外科学分野)
ため当院を紹介来院する.
全身所見:特記すべき事項なし.
緒言
既 往 歴:特記すべき事項なし.
臨床症状:下唇部に無痛性の直径約
血管腫は血管組織の増殖を特徴とする良性腫瘍であ
mm 腫瘤を認め
り,口腔領域には頬粘膜,口唇,舌などに好発する.
る.透明な小水泡であり,出血なく,境界明
症状は無痛性であり,処置は経過観察に止めることも
瞭である.
あるが,ときに日常的な硬固物の咀嚼,咬傷,外傷な
臨床診断:粘液嚢胞
ど,傷害により出血,感染を引き起こす可能性も考え
治
られる.今回われわれは,症状を自覚しながら長期間
療:摘出術
病理診断:溢出型粘液嚢胞
に渡り放置された舌血管腫の
鑑別診断:血管性病変
の概要と若干の考察を加えて症例報告とした.
考察
症例
嚢胞とは,周囲をほぼ完全に嚢胞壁で囲まれ,その
例を経験したので,そ
患者: 歳,女性
中に種々の液状,半流動状などの内容物をいれている
初診:平成 年
ものである.その中で粘液嚢胞は,小唾液線・大唾液
主訴:昨日,煎餅を食べていたら出血した.
線の導管が何らかの原因によって傷害され,唾液の流
既往歴:高血圧,C 型肝炎,子宮筋腫
出障害により発生する唾液線嚢胞全体をさしており,
現病歴: 年前から血豆あり.
口腔領域に発生する軟組織の中ではもっとも多くみら
れる.小唾液線に由来する嚢胞は粘液瘤,大唾液線に
みられるのは,ガマ腫が代表的である.
溢出型粘液嚢胞は,病理組織学的に明瞭な嚢胞壁も
裏装上皮もなく,大多数は外傷により本嚢胞が反復し
て発生する.損傷した導管から溢出した唾液に対して
月
年前にも出血を認め
たが止血したため,放置していた.
口腔内所見:視診より,舌背部に φ × mm の暗赤
色の腫瘤を認めた.出血は認められなかった.触診
より,弾性軟,圧縮性,ガラス板による圧迫では,
退色を認めた.
X線検査所見:咬合法X線写真から,腫瘤内に不透過
肉芽組織および線維性結合組織が増生しその結果,嚢
物は認められなかった.
胞様腔を形成すると考えられる.この過程は,本症例
超音波検査所見:舌 正 中 に φ
× mm の 低 echo 領
域を認めた.ドップラー画像から,病巣内部に拍動
前から腫瘤を自覚していたにもかかわらず,それまで
性の弱い血流信号が確認された.
の経過は固定的であったために, 年間の長期間にわ
臨床検査所見:かかりつけの内科医師による血液一般
たり放置されたものと考えられるが,年齢,既往歴を
検査,生化学検査の結果において特記すべき異常所
考慮した際に,凝固・線溶系のコントロールが十分な
見は認められなかった.
されていない場合は偶発的な出血により今後,大出血
臨床診断:舌血管腫
も予想される.そのため,できるだけ早い時期での摘
処置および経過:上記臨床診断のもと,浸潤麻酔下に
出が必要であるとともに,かかりつけ内科医師への対
て Er:YAG レーザーを用いて摘出した.術後,翌
診および他の全身疾患を把握した上での処置が望まれ
日において舌全体に内出血斑と腫脹を認めるも,疼
た.幸いにも,他の全身疾患はコントロールされてお
痛自制内で拍動性の出血は認めなかった. 日目に
り,出血傾向はないとのことであった.
おいて舌背部の治癒は良好で,瘢痕などの萎縮や疼
血管腫の治療には,外科的切除の他に組織硬化剤注
痛は認められず,経口摂取も問題ないとのことで
入,栄養血管栓塞術,梱包療法,凍結療法,放射線療
あった.経過観察により,現在までに再発の所見は
法などが報告されている.本症例に用いたレーザー療
得られていない.
法は,Er:YAG レーザーを用いた.レーザーの種類
病理組織所見:拡張した血管腔があり,血管腔は薄い
には他に CO レーザー,Nd:YAG レーザーなどが一
壁で血管内皮細胞と肉芽化した平滑筋から構成され
般的である.Er:YAG レーザーは組織表面吸収型
ている.血管腫の一つであると思われたが,血管内
レーザーであり,同じ種類の CO レーザーと比べて約
容物を認めないリンパ管と疑われる構造がみられた
倍の水分吸収性を持つため,軟組織に対する熱的損
ため血管腫,リンパ管腫双方を考慮した.そのため
傷が少なくて済む.また,外科的切除と比較しても創
免疫組織化学的分析より,血管腫であると診断し
傷治癒の早さ,出血の少なさなどの利点がある.本方
た.血管腫のうち動静脈性血管腫の特徴である血管
法において術後の経過は良好であり,全身的な既往歴
構 造 を 認 め な い た め 海 綿 状 血 管 腫 cavernous he-
からも,より侵襲の少ない方法を選択できたと思われ
mangioma であることがわかった.
た.
今後も,経過観察を行い再発が認められないか注視
考察
することとする.
血管腫は血管組織からなる腫瘍であり,一般には組
織の発育異常としての過誤腫,奇形腫的なものである
と 指 摘 さ れ て い る.単 純 性 血 管 腫 simple heman-
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
gioma,海綿状血 管 腫 cavernous hemangioma,蔓 状
座長
研究発表
江㞍
貞一 教授
血管腫 racemose hemangioma などに分類される.女
歯科医学研究入門Ⅰ「口腔解剖学分野
性に多く,各年代にみられるが先天的組織異常として
発表
生下時または幼児期からみられるものが多い.口腔内
魚類と鳥類の顎筋に関する肉眼解剖学的研究
では頬粘膜,口唇,舌に好発する.咬筋部や耳下腺に
○大藪
も発現し,稀に顎骨内にも生じる.本症例の海綿状血
佐藤
友嗣 ) ○平出
和彦
)
小萱
解剖学」研究
朋洋 ) 渡邉
康徳
)
江㞍
竜太 )
貞一 )
管腫は血管腫全体の .%を占め,口腔領域において
( )朝日大学歯学部歯学科
は舌に最も好発する.鑑別診断としてリンパ管腫,血
( )朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座
腫,Blandin-Nuhn 嚢胞などがある.今回,術前の所
学年)
口腔解剖学分野解剖学)
見により,暗赤色の腫瘤,
ガラス板による圧迫で退色,
病巣内部に拍動性の血流信号が得られた.腫瘤内にX
線不透過物,つまり静脈石は認められなかったが,臨
床診断としては血管腫と診断した.
緒言
我々ヒトを含む哺乳類は,前歯で切り取った食物を
臼歯ですり潰す.このような摂食方法は,食塊を粥状
多くの場合,症状は固定的であり,障害を認めない
にしてから嚥下することで消化吸収効率を上げるとい
場合は経過観察とすることもある.しかし,徐々に増
う利点をもち,常に高い体温を維持することに役立っ
大し,大きくなると発音障害や摂食障害などの機能障
ている.これに対して,体温維持に要するエネルギー
害を示したり,突然の多量出血により出血性ショック
量が少ない魚類,両生類,爬虫類など変温動物では,
に陥った症例も報告されている.本症例では,血管腫
食物を口腔内で砕かずに丸呑みする.丸呑みをするタ
が舌背部に存在し硬固物摂取時に出血を訴えた.数年
イプの脊椎動物は,頭蓋に多数の関節をもっており,
口腔の横幅や開口角度を増加させる働きを担う.恒温
顎骨と舌骨(顎舌骨筋およびオトガイ舌骨筋)を結ぶ
動物でありながら上顎・下顎に歯を欠き,特殊化した
のに対し,同様の機能をもつ鳥類の下顎下制筋は後頭
胃の一部である砂嚢で“咀嚼”をおこなう鳥類も食物
部と下顎後端とを結び,顎関節の後方で垂直に走行し
を丸呑みするため,魚類などと同様の特徴をもつ.こ
ていた.
のような可動性に富んだ頭蓋が動く仕組みは,「頭蓋
魚類および鳥類の開口・閉口運動には,ヒトにみら
キネシス」とよばれる.頭蓋の運動様式が異なる脊椎
れるような下顎の下制・挙上に加え,上顎の上下方向
動物の分類群間では,顎筋の構造および機能も異な
への運動も含まれる.このような運動様式は,哺乳類
る.そこで顎運動に関係する筋がどのような進化の過
のように前歯で食物を適度な大きさに噛み切らない魚
程を辿ってきたのかについて学ぶため,頭蓋キネシス
類や鳥類が,サイズの大きい食物を口腔内に取り入
が顕著に発達する魚類および鳥類の顎筋を観察し,
「解
れ,嚥下するための適応であると考えられる.また水
剖学」の講義・実習で学んだヒトの咀嚼筋との違いに
中で摂食する魚類にとって,口腔の横幅を広げる機構
ついて考察をおこなった.
は,口腔内に陰圧をつくることで餌を吸引するために
不可欠なものと思われる.ヒトにみられる
方法
つの咀嚼
筋のうち,側頭筋と相同な下顎内転筋は魚類,鳥類で
タチウオ(魚類)およびゴイサギ(鳥類)の頭部を
ともに認められた.その一方で,翼突筋は鳥類のみに
ホルマリンによって固定し,顎筋の構造を肉眼で観察
認められ,咬筋は魚類,鳥類のいずれにも認められな
した.
かった.このことから,水中から陸上への進出,恒温
性の獲得といった脊椎動物の歴史における大きな変化
結果および考察
タチウオでは,我々の側頭筋と相同である下顎内転
筋が顕著に分化し,区画によって異なる機能を有して
にともなって,摂食装置もそれに適したものとなり,
下顎内転筋から必要に応じて咬筋,内・外側翼突筋が
派生してきたという進化のプロセスがうかがえる.
いた.中でも眼窩の後方から起こり下顎骨に付く区画
(下顎内転筋後部)は閉口作用をもち,他の区画に比
べて顕著に発達していた.このことから,下顎内転筋
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
後部は,獲物をくわえる力を生み出す主体であること
座長
が示唆される.それ以外の筋はいずれも比較的薄く,
歯科医学研究入門Ⅰ「口腔解剖学分野
下顎の下制,上顎の挙上,上顎の下制,口腔横幅の増
研究発表
加など,様々な機能を有していた.魚類の頭蓋をつく
歯周組織
る骨は互いに連結されて複雑なリンク機構を形成する
寿穂 助教
口腔解剖学」
歯根膜の構造とその発生
○小野
)
ため,ひとつの筋の活動によって複数の関節が連動す
研究発表
吉田
晃裕 ) 吉田
( 朝日大学歯学部歯学科
寿穂 ) 明坂
年隆 )
学年)
)
る.このことから,魚類では哺乳類のような柔軟性の
( 朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座
ある顎運動をおこなうことができず,ある特定の運動
口腔解剖学分野口腔解剖学)
パターンのみが可能であると考えられる.一般に魚類
の舌は未発達であるが,タチウオでは舌弓部と鰓弓上
目的
端部から構成される舌状の構造物が存在していた.し
歯根膜は歯胚構成要素である歯小嚢から発生する結
かし,ヒトにみられるような外舌筋・内舌筋は認めら
合組織で,歯のセメント質を歯槽骨に付着させる働き
れなかった.
をする.歯根膜は線維束を形成し,咬合力・外力に対
一方,ゴイサギにおいても,タチウオと同様に下顎
内転筋の発達と複雑な層分化が認められた.鳥類の上
応した機能的な走行と配列をあらわすこの付着様式は
釘植とよばれる.
顎は哺乳類とは異なり,基部が撓むことによって上下
わたしは歯の付着と緩衝機能をあらわす歯根膜の構
方向に回転させることができる.その運動範囲は種に
造が歯胚の時期にさかのぼり歯小嚢から歯根の形成と
よって異なるが,ゴイサギではわずかな可動性しか見
それにつづく歯の萌出とともに機能的な組織分化をあ
られなかった.上顎の下制は口蓋骨と下顎後端内側面
らわすことに注目し,その形成過程を明らかにするこ
を結ぶ翼突筋の作用によって,挙上は眼窩内側壁と方
とにした.
形骨を結ぶ翼状骨前引筋の働きによるものと考えられ
た.翼突筋は,下顎の前進にも寄与していた.哺乳類
の開口筋が側頭骨と下顎骨(顎二腹筋)
,あるいは下
材料と方法
口腔解剖学実習標本を用い顕微鏡デジタルカメラで
撮影し,画像をメモリーカードに保存した.撮影した
成と歯の萌出という連続した時間的,空間的な経過で
画像から必要な組織画像を選択,精査し,パソコン教
理解しまとめることができた.
室の PC(パーソナルコンピュータ)を使用して画像
処理・編集と解説文章の編集を行い,研究の成果を組
織アトラスとしてまとめた.
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
結果と考察
機能歯の歯根膜では一般に線維芽細胞からなる歯根
歯科医学研究入門Ⅱ「歯科補綴学分野
研究発表
永原國央
教授
可撤性義歯学」
研究発表
膜細胞,セメント芽細胞,骨芽細胞,破骨細胞,マラッ
朝日大学歯学部附属病院における局部床義歯の設計に
セ上皮遺残および歯根膜線維と脈管神経隙が観察され
関する調査
る.歯根膜線維は線維束を形成し,縦断標本低倍率の
○清水
雄太 ) 河野美根子 ) 東野
嘉文 )
都尾
元宣 )
観察では歯槽頂線維群,水平線維群,斜走線維群,根
尖線維群,根間線維群の各線維群が,一方,水平断標
( )朝日大学歯学部歯学科
本ではスポーク状に観察される.いずれの線維群も機
( )朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
能的な走行配列として確認される.アザン・マロリー
学年)
歯科補綴学分野可撤性義歯学)
染色の中倍率観察では細い線維束が寄り集まって太い
線維束を形成している.しかし,一つの線維束がセメ
緒言
ント質から歯槽骨に連続している像は観察されず,歯
日常の臨床で製作している欠損補綴物は,同じ欠損
根膜の中央領域で叢状を示している.歯根膜線維束の
部位に対しても異なった補綴物を製作しているのが通
間には脈管神経隙が観察され,血管と神経の分布は歯
例である.このような補綴処置の相違は,患者個人個
根膜およびセメント質,歯槽骨への豊富な栄養供給が
人によって口腔内の状態が異なっていることなどが要
示唆される.
因になっており,近年では新しい処置方法の導入など
歯根膜の発生にかかわる歯小嚢は帽状期歯胚からエ
も考えられる.これら補綴処置の変化を知ることは,
ナメル器の外エナメル上皮と歯乳頭を包むように配列
補綴処置を行う上で参考になると思われる.その中で
する組織として観察される.鐘状期では歯小嚢は歯胚
も,局部床義歯の設計は多種多様であり,
統計的なデー
を取巻く細胞と血管の層,および,その外側を占める
タがあることでより良い設計が考えられる.
線維の層が観察される.
歯根が形成されると,歯小嚢からセメント芽細胞,
そこで,平成 年度に本学附属病院補綴科にて装着
された局部床義歯の設計に関する調査を行った.
線維芽細胞,骨芽細胞が分化し,セメント質,歯根膜,
束状骨が形成される,この組織分化の起点がヘルト
ウィッヒ上皮鞘を取巻く歯小嚢組織の密な集合領域に
実験方法
調査方法は,平成 年
月,
月, 月の本学附属
あることが示唆される.この領域を境に歯頸側へは斜
病院補綴科にて装着された局部床義歯の技工カードを
走する線維束が,一方,歯の基底側では薄い歯小嚢の
用いて,性別と年齢を Kennedy の分類別に調査し,
組織と形成されつつある歯根膜線維がハンモック状を
欠損の種類における直接,間接支台装置の設計や大連
あらわしている.一方,歯冠をおおう歯小嚢の線維は
結子の設計についても調査した.また,同一患者で
歯を吊り下げるように走行し,代生歯では歯小嚢の線
個以上の義歯を装着した場合は,それぞれ単独で対象
維が伸展した導索によって歯小窩と導索管が満たされ
とした.
ている.導索と粘膜固有層の線維束とは明瞭な違いが
見られる.歯の萌出で,歯冠 / の萌出では歯小嚢由
結果
来の幼若な歯槽頂線維群が観察されるが,萌出し歯肉
調査の結果,女性の方が総数では上回るものの,男
が形成されると歯頸部は歯根膜線維群と歯肉固有層の
性の方がⅠⅢⅣ級で多かった.年齢は,Kennedy の
線維群による機能的な走行配列をあらわす.
分類のすべてにおいて 代で最大を示した.支台装置
の設計では,遊離端欠損の直接支台装置におけるエー
まとめ
カース鉤が一番多く,バックアクション鉤や RPI 鉤
歯根膜の構造とその発生をテーマに研究を行い,口
などはほとんどみられなかった.中間欠損では,直接
腔組織・発生学の講義と実習の知識をさらに深く探求
支台装置のエーカース鉤が一番多かった.大連結子の
することで,発生,組織分化,機能的構造が歯根の形
設計では,遊離端,中間欠損共にバーが多かった.さ
らに,自費診療は全体の
割未満であった.このこと
から,保険診療での設計は,自由度に限りがあり多様
方法
個性正常咬合を有する男女
名(男
名,女
名,
平均年齢: 歳)を被験者とした.測定用試料として
性に欠けることがわかる.
チューイングガム(ロッテ社製,キシリトールガムラ
イムミント,以下,ガムと略す)を用いた.咀嚼能力
結論
.性別では,女性が総数で上回った.男性は,ⅠⅢ
を測定する姿勢は足を床につけて座った状態(以下,
Ⅳ級で女性より多かった.
座位
.年齢では,Kennedy の分類のすべてにおいて
下,座位
代で最大を示し,Ⅳ級にいたっては , , 代で
と略す)およびサマーベッドに横になった状態(以下,
は見られなかった.
水平位と略す)の
.支台装置の設計は,遊離端,中間欠損共に,エー
と略す)
,足を床につけないで座った状態(以
と略す)
,立ったままの状態(以下,立位
姿勢で測定した.
ガムを市販のチャック付ポリ袋に入れ,ポリ袋の白
カース鉤が一番多く,次いで線鉤となった.
地部分に氏名,姿勢位および咀嚼回数を記入した.記
.大連結子の設計は,欠損の種類を問わず,上下顎
入後,ポリ袋にガムを入れ,その重量を計測した.咀
共にバーが一番多かった.
嚼回数は各姿勢位で 回, 回, 回, 回および
.自費診療は全体の
割未満で,バックアクション
回とし,ガムの咀嚼は自由咀嚼とした.ガムの咀
鉤や RPI 鉤などが設計されていた.
嚼時,噛むのに要した時間をストップウォッチで測定
今後,このような調査をしていき,当大学の傾向を
した.噛み終えたらもとのポリ袋に入れて回収後,重
量を測定した.咀嚼前と比べ,減少した重量を溶け出
知る上で必要と思われる.
した糖量(以下,糖溶出量と記す)とした.
本研究は,朝日大学歯学部倫理委員会の承認のもと
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
川村
で行った.
早苗 講師
結果
歯科医学研究入門Ⅰ「口腔生理学分野」研究発表
咀嚼時間は水平位が他の姿勢と比べて長く,立位で
姿勢が咀嚼能力に及ぼす影響
○大垣
○大東
慶實 ) ○小杉
宏昌
)
安尾
真子 ) ○齊藤
敏明
)
( )朝日大学歯学部歯学科
)
( 朝日大学歯学部歯学科
雄一 )
)
川村
早苗
硲
哲崇 )
は短い傾向がみられた.また,
は 回咀嚼時,座位
以外の姿勢では ∼
より時間が長い傾向がみられたが, ∼
学年)
は噛む回数が多くなっても
学年)
化がみられなかった.
( )朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
口腔生理学分野)
食事をする際,椅子に座り,姿勢よく食事をするこ
とがこれまでの研究から推奨されている.しかし,近
年,核家族化が進行し,一人暮らしをする人が増加し
回咀嚼
回咀嚼で
回の咀嚼時間にあまり変
ガムの咀嚼による糖溶出量は咀嚼回数が ∼ 回で
は,噛む回数に正比例して増加する傾向がみられた.
一方,咀嚼回数が ∼
緒言
回当たりの咀嚼時間
回の場合では,糖溶出量は
咀嚼回数が ∼ 回までの増加量に比べて少ない傾向
にあった.
次に姿勢の違いによる糖溶出量は,座位
が咀嚼回
数 回と 回において他の姿勢より糖溶出量が多い傾
てきていること,高齢社会となり,寝たきりの人が増
向がみられた. 回以上になると回数が多くなるにつ
加してきていることから,様々な姿勢で食事をする
れて,姿勢による糖溶出量に差は認められなかった.
人々が増加してきており,社会問題となっている.ま
しかし,
た,歯科治療では咬合調節を座位で行うことが推奨さ
数が多くなるにつれ,糖溶出量が減少していったが,
れているが,実際には水平位で行われることも少なく
他の姿勢ではどの回数でもほぼ変わらなかった.
回当たりの糖溶出量は,座位
では咀嚼回
ない.その原因として,姿勢が変わることで,咀嚼能
力がどのように変化するのかどうかまだ明確にされて
結論
いないためであると考えられる.そこで,
本研究では,
.咀嚼時間は水平位で長く,立位で短い傾向がみら
主に食事や歯科治療の際に関係すると考えられる姿勢
れた.
の咀嚼能力を市販のチューイングガムを用いて測定
.糖溶出量は座位
し,姿勢が咀嚼能力に影響を及ぼすのか検討した.
傾向にあった.
(床に足をつけて座る)が多い
以上の結果から,姿勢は咀嚼能力に影響を及ぼすこ
リーム,蒸しパンを模した試料を模擬食品とした.水
道水模擬食品は,造影剤そのものとした.お茶模擬食
とが示唆された.
品は水道水模擬食品の水道水をお茶飲料(綾鷹,日本
コカ・コーラ株式会社)に置き換えたものとした.プ
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
飯田
リン(プリンミクス,ハウス食品株式会社)
,牛乳プ
幸弘 助教
リン(プリンエル,ハウス食品株式会社)
,ゼリー(ゼ
歯科医学研究入門Ⅱ「歯科放射線学分野」研究発表
リエース,ハウス食品株式会社)
,生クリーム(かん
エックス線造影剤がビデオ嚥下造影検査試料の風味に
たんホイップ,雪印メグミルク株式会社)模擬食品は
与える影響
通法の作製をしたが,水,あるいは熱湯を水道水模擬
○中岡隆太郎 ) 大田
)
奥野
真江
安井
徳久 ) 若森
近藤
優 ) 足立ことの )
仁美
)
名定
慧
)
食品に置き換えた.蒸しパン模擬食品はホットケーキ
の粉(森永ホットケーキミックス,森永製菓株式会社)
まや ) 飯田
幸弘 )
に水道水模擬食品を混和した後に電子レンジで加熱し
勝又
)
た.模擬食品の他に造影剤を入れていない試料,すな
( )朝日大学歯学部歯学科
)
( 朝日大学歯学部歯学科
明敏
学年)
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
歯科放射線学分野)
わち元の飲食物(元試料)も材料に供した.
官能検査は二人一組で行った.被検者はブラインド
状態でスプーン一杯,あるいはシリンジで
cc の模
擬食品を口腔内に投与され,咀嚼,模擬食品の風味確
認,食塊形成,
嚥下のタイミングなどを自由に行った.
嚥下が終わった後に,どの造影剤を用いた模擬食品(あ
緒言
近年,高齢社会を迎え,嚥下障害を持つ患者数が増
るいは元試料)を投与されたのかを回答した.回答後
加している.ビデオ嚥下造影検査(VF)は嚥下障害
は水道水で口をすすぎ,次の模擬食品を摂取した.す
患者の嚥下動態を把握する最も有効な方法の一つであ
べての造影剤別に,また,模擬食品の種類毎に正解率
る.VF を端的に表現すると,エックス線透視装置の
を検討した.
前で,エックス線造影剤を加えた検査試料(模擬食品)
を摂取する様相を透視動画で記録する方法と言える.
通常の飲食物はエックス線画像で観察困難な性質上,
VF で用いられる模擬食品は必ず造影剤を含んでい
る.造影剤は種類によって風味,粘性,固さなどが異
結果
造影剤別正解率は,元試料 .%,
バリウム .%,
オプチレイ .%,ビジパーク .%であった.
模擬食品別正解率は,水道水 . %,お茶 .%,
なっており,飲食物に加えることによって,固さ,付
プリン .%,牛乳プリン .%,ゼリー .%,生
着性,凝集性などの物性が変わることが報告されてい
クリーム .%,蒸しパン .%であった.
るが,風味の変化については報告が少ない.そこで,
本研究では飲食物に造影剤を加えることによる風味の
変化を,健常成人を対象として検討することとした.
考察
正解率の高いバリウムは粒子が大きく,シャリシャ
リとした食感が強い.これが模擬食品に混ぜても判別
可能な理由と思われた.同様にオプチレイは独特の苦
実験材料・方法
嚥下障害の既往の無い健常成人八名(男性四名,女
みが強く,食感には影響を及ぼさないものの,風味に
性四名,平均年齢 .歳)を対象とした.全員,口頭
強い影響を与えていたのが判別可能な理由と思われ
で内容を説明し,文書で同意を得て研究を行った.
た.その一方,ビジパークと元試料は正解率が低かっ
造影剤としてバリウム(バリトゲン HD,伏見製薬
た.今回の研究で用いた模擬食品は甘いものが多かっ
所株式会社)
,ヨード系造影剤を用いた.ヨード系造
た.ビジパークは甘みが強い造影剤であるため,その
影剤はオプチレイ(オプチレイ
風味が紛れて違いがわかりづらく,両者の判別が難し
,コヴィディエン
ジャパン)とビジパーク(ビジパーク
,第一三共
かったものと思われた.
株式会社)の二種類を用いた.バリウムは W/V%
模擬食品別では,水道水,お茶,ゼリーは造影剤に
と W/V%,ヨード系造影剤は原液と水道水による
よる風味の変化を受けやすい飲食物と思われた.生ク
倍希釈液,すなわち濃度の異なる二種類ずつを検査に
リーム,プリン,牛乳プリン,蒸しパンは造影剤によ
供した.
る風味の変化を受けづらい飲食物と思われた.
水道水,お茶,プリン,牛乳プリン,ゼリー,生ク
以上より,造影剤の種類により,模擬食品の風味へ
の影響に違いがあることがわかった.また,造影剤に
く,常用者の .%,全調査対象者の .%が服用し
よる風味の影響を受けづらい飲食物があることがわ
ていた.次に抗精神薬と睡眠.・抗不安薬が多く,
かった.
.%が服用していた.そのほかの常用薬としては降
圧剤や抗パーキンソン剤や筋弛緩薬,高脂血症薬など
の薬剤が含まれていた.
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
安田
順一 講師
抗てんかん剤は,商品名で 種類, 名の使用を認
めた.
番多かったのが,医薬品名でバルプロ酸ナト
歯科医学研究入門Ⅱ「障害者歯科学分野」研究発表
リウムのデパケン(
人)で,
障害者歯科受診者の常用薬について
ンのテグレトール(
人)で,フェニトインのアレビ
絵菜 ) ○中西沙知子 ) 橋本
○寺部
岳英 )
景華 )
玄
)
( 朝日大学歯学部歯学科
アチン(
番目がカルバマゼピ
人)であった.
睡眠薬・抗不安薬は,商品名で
種類, 名の使用
を認めた.医薬品名ニトラゼパムのベンザリンが
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
障害者歯科学分野)
多く服用されていた.(
人)
番
番目がエチゾラムの
デパスと,フェノバルビタールのフェノバールであっ
た.
抗精神薬は商品名で
緒言
障害者歯科受診者では薬剤を常用しているものが多
種類, 名の使用を認めた.
番多かったのが医薬品名でリスペリドンのリスバ
く,歯科医師・歯科衛生士はそれらの薬剤についての
タール(
知識が必要とされる.新しく認可される薬剤の種類も
やセレネスなどがあった.
人)であった.その他では,エピリファイ
多くなっており,歯科医療従事者は最新の知識を持っ
降圧剤は商品名で 種類, 名の使用を認めた.メ
ていることが大切である.今回,われわれは朝日大学
インテートやオルテメック,ラジレスなどがあった.
歯学部付属病院障害者歯科における受診者を対象に,
全般的にその他の患者による服用が多かった.
常用薬剤について調査したので報告する.
考察
調査の結果,薬剤常用人数が,障害者歯科受診者の
対象ならびに方法
日間に
半数近くにおよび( .%)
,これらのことは初診時
朝日大学歯学部付属病院障害者歯科を受診した 人と
のみならず定期検診時に薬剤についての問診が必要で
した.知的障害(以下,MR) 名,脳性麻痺(以下,
あることが再確認された.
対象者は,平成 年
月 日∼
月 日の
CP) 名,自閉症 名,ダウン症候群(以下,ダウ
常用薬剤の中で抗てんかん剤が多かったのは主障害
ン症) 名,脳出血や脳梗塞(以下,脳血管障害)
に加えて,てんかんを合併している者が多かったため
名,それ以外のものは(以下,その他) 名であった.
であると考えられる.特に,自閉症のてんかん保有率
平均年齢は .± .歳であった.調査方法は,朝日
に関しては %∼ %程度,知的障害者のてんかん保
大学歯学部付属病院の対象受診者の初診時カルテより
有率も ∼ %程度との報告もあり,今回の結果につ
対象者の年齢,性別,主障害名,常用薬名を抽出した.
ながったと考えられる.抗てんかん剤常用時に起こり
薬剤名は,「今日の治療薬
うる口腔内副作用としてはフェニトイン誘発性の歯肉
」(南江堂)に従い薬効
肥大がある.このため徹底した口腔清掃により歯肉肥
別に分類し分析した.
大の発症を遅らせ,また重症化することを予防するこ
とが重要である.
結果
薬剤の常用者は 名中 名( .%)であった.脳
抗精神薬の中で一番常用されていたのはリスパダー
%,脳性麻痺では .%,知的障害
ルであった.情緒不安定や多動などの情緒障害や異常
では .%,自閉症では .%,ダウン症では .%
行動に対する有効性が高いと言われている.抗精神薬
の者が薬剤を常用していた.脳血管障害では
血管障害では
脳性麻痺では
∼
種類,知的障害では
種類,
では副作用として唾液分泌量低下を認めることが多
∼ 種類,
く,これにより口腔内の自浄作用が低下するおそれが
種類の薬
あるので気をつけなければならない.また,日常生活
剤を常用していた.薬剤の常用者の一人平均常用薬剤
にける行動意欲の減退を認めることが多く,歯ブラシ
数は .であった.
による口腔清掃に対する意識の低下への注意も必要と
自閉症では
∼
種類,ダウン症では
∼
常用薬剤の薬効別服用状況は抗てんかん剤が最も多
考えられる.
睡眠薬・抗不安薬では最も多く常用されているの
る事は治療前の診断において有用である.全身疾患の
は,ニトラゼパムであった.ニトラゼパムは,睡眠薬
有無,局所的な疾患など精査する事は多くあるが,検
として使われているが抗不安薬としても投与されてお
査の項目として骨密度の測定は,インプラント体と歯
り,幅広い効果を期待し障害者に投与されているた
槽骨のオッセオインテグレーションを得る上で非常に
め,このような結果になったと考えられる.
重要である.しかしながら,骨密度の検査を一般の開
当院障害者歯科受診患者では半数近くが常用薬を服
業医で行う事は器材の設備の関係で困難であるといわ
用しており,その種類も多種類であることが今回の調
ざるをえない.そこで我々は,比較的簡便に患者の骨
査より示唆された.歯科診療において,これらの薬剤
密 度 の 状 態 を 精 査 す る 方 法 と し て,田 口・KLE-
が口腔内へどのような影響を及ぼすのかを考慮した治
METTI・五十嵐らのパノラマエックス線写真上で下
療計画および口腔衛生指導が必要であると考えられ
顎骨下縁皮質骨から得られる指標と全身的な骨密度指
る.そしてそれらの計画を作成する歯科医師・歯科衛
数の関係を報告した論文と照らし合わせ,当院の患者
生士には常に最新の薬剤に対する知識を持つことが重
と比較しその有用性を確かめるべく分析を行い,若干
要であると考えられた.
の知見を得たので報告する.
結論
方法
朝日大学歯学部付属病院障害者歯科を受診した 人
対象症例は,
年
月から
年
月の間に朝日
を対象とした. 人のうち薬剤を常用しているものは
大学歯学部附属病院口腔インプラント科に来院し,そ
人, .%であり,半数近くの受診者が常用薬を服
のうち術前検査としてパノラマエックス線撮影および
第二中手骨にて骨塩量計測を行った症例から無作為に
用していた.
薬剤は,日々新薬が開発・研究されている.それら
抽出した 名.男性 名(年齢 歳から 歳,平均年
の薬剤も薬効や副作用について歯科医師は正確な情報
齢 .歳)と女性 名(年齢 歳から 歳,平均年齢
を持つことが安全な診断治療につながるものと考えら
歳)とした.調査項目は,パノラマエックス線写真
から得られる,下顎骨下縁皮質骨厚み(Mandibular
れる.
Cortical Width:MCW)および下顎下縁皮質骨内面
の 形 状 を 分 類 化 し た(Mandibular Cortical Index:
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
研究発表
MCI)と,第二中手骨撮影から得られる,若年成人平
広明 助教
均値(Young Adult Mean:YAM)および骨塩量(Bone
歯科医学研究入門Ⅱ「インプラント学分野」研究発表
Mineral Density:BMD)の 項目とした.その値か
パノラマエックス線写真と第二中手骨での骨密度測定
ら,MCW・MCI と YAM・BMD とを比較検討を行っ
との相関関係
た.
座長
○梅原康次郎
)
大城
楓)
松井
)
勇樹
○麩谷茉里奈
岩島
)
江波戸克行
木戸上幸太郎 ) 広田
森
茉莉子
)
( )朝日大学歯学部歯学科
)
夏樹 )
)
岩島
広明
永原
國央 )
学年)
( )朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
インプラント学分野)
結果
MCI は
男
性C
( .%)であり,C
( .%)
,C
名(
で
名(
.%).C
で
はなかった.女性C
で 名( .%)で あ り,C
名
で 名
で
%)であった.MCW は男性の平均は . cm
で,女性は . cm であり,大きな差は認められなかっ
た.BMD は,男性の平均で . mmAl で,女性の平
緒言
均は . mmAl であった.年代別では,男性の BMD
テレビや雑誌で歯科インプラント治療が多く取り上
の値は年齢が増加してもあまり変化は認められなかっ
げられ,広く世間に認知されるようになり治療を希望
たが,女性においては, 代で . mmAl であった
する患者が増えている.しかし,歯科インプラント治
が, 代 に お い て は . mmAl と 減 少 傾 向 を 示 し
療に対するトラブルも同様に増えているのが事実であ
た.YAM は 男 性 の 平 均 は .%で 女 性 の 平 均 は
る.内容は治療内容・料金などと様々であるが,根底
.%であり女性の方が低い値を示した.年齢別で
にあるのは,処置に対する診断が不十分ではないかと
は,男性では BMD と同様に年齢による値の変化は認
思われる.
められなかったが,女性は 代で %に対し, 代で
歯科インプラント治療において,全身状態を把握す
は %と骨粗鬆症の目安となる %近い値となり,骨
塩量の低下が認められた.YAM と MCW の相関関係
カリオテスターにて測定し,比較検討した.
においては,YAM %台では平均 mm であったの
に対し
%台では mm と増加し,YAM と MCI に
おいては,MCI がC
で .%に対しC
では .%
と減少し,相関関係を認めた.
実験材料・方法
.実験前準備
実験を行う前に,朝日大学歯学部
年生
人はう蝕
の概要についての講義を受けた.その後,カリオテス
ターについての使用説明を受け,適切に使用できるよ
考察
今回の男女 人計測結果およびその分析によって,
う練習を行った.
第二中手骨での骨密度指数に異常値を示している症例
.実験材料
はなかった.男性は,加齢による骨密度の変化は認め
予めエアータービンにてう窩の開拡が終了している
られなかったが,女性は加齢ともに骨密度が低下する
C 程度のう蝕を有するヒト新鮮抜去歯を用いた.う蝕
傾向が見られた.パノラマエックス線写真から得られ
象牙質の硬さの測定にはカリオテスター(三栄エム
る MCW・MCI と第二中手骨から得られる骨密度指
イー)を使用した.
数との間には相関が認められたことで,簡易的ながら
.実験方法
全身的な骨塩量のスクリーニングに有用であると思わ
まず,う窩の開拡後すなわち,う蝕象牙質除去前の
れた.今後は,症例数を増やしていき更なる関連性を
硬さを測定した(コントロール)
.その後エキスカベー
追求したいと考える.
タでう蝕象牙質を術者(学生)の主観により感染層を
除去し,その時の硬さを測定した(A群)
.さらに感
染層のみが染まるという,う蝕検知液(カリエスチェッ
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
歯科医学研究入門Ⅰ「歯科保存学分野
ク,ニシカ)を用いてう蝕象牙質を染色し,メーカー
修介 助教
の指示通り検知液が染まらなくなるまでエキスカベー
歯冠修復学」
タを用いてう蝕象牙質を除去し,硬さを測定した(B
日下部
研究発表
群)
.この操作を
う蝕象牙質硬さ測定システムを用いたう蝕象牙質の硬
対して行った.う蝕象牙質の硬さは μm( KHN)
さの測定
∼ μm(
)
○篠島
金山
佳弘 )
北村
曽我
)
○越智
鈴子
大泉
一将
)
日下部修介
)
)
( 朝日大学歯学部歯学科
KHN)までしか測定できないため,押し
)
込まれた距離(μm)で表した.得られた値は平均値
加藤
祐也 )
を求め,一元配置分散分析と多重比較検定 scheffé を
堀田
)
用いて有意差検定(p< . )を行った.また本実験
○石井亜矢子
優)
人の学生が か所のう蝕象牙質に
正人
学年)
( )朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
で使用した抜去歯は,朝日大学歯学部倫理委員会の承
諾(受付番号
)を得たものである.
歯科保存学分野歯冠修復学)
結果および考察
緒言
学生
人の平均測定値 は,コ ン ト ロ ー ル が
.
現在のう蝕治療は,エアータービンにてう窩を開拡
μm,A群; .μm,B群; .μm であっ た.コ ン
した後,硬さ,着色,う蝕検知液による染色性を基準
トロールとA群,コントロールとB群,A群とB群に
としてう蝕象牙質の感染層を低速のラウンドバーやス
有意差が認められた.
プーンエキスカベータで削除している.しかし,削除
以上より,う蝕検知液を用いた方がエキスカベータ
時の硬さや着色からの情報だけでは,術者の主観や臨
のみの場合より硬さが大きいことから,エキスカベー
床経験で判断することが多く客観性に欠ける.う蝕象
タのみではう蝕象牙質が残存しており,う蝕検知液を
牙質硬さ測定システム・カリオテスターは圧子を一定
使用することにより確実に感染う蝕象牙質が除去され
の荷重でう蝕象牙質に押し込み,その距離(μm)を
ることが分かった.またカリオテスターにおけるう蝕
計測し,距離をヌープ硬さに換算するものであり,う
象牙質の感染層の除去の指標は硬さ KHN 以上(距
蝕象牙質の硬さを数値として表し,チェアサイドでも
離 μm 以下)とされているが,B群の .μm はヌー
測定することができるシステムである.
プ硬さに換算すると KHN であり,感染していない
今回,C 程度のう蝕を有する抜去歯を使用し,①エ
う蝕象牙質の硬さを自分の判断で除去することは極め
キスカベータのみと②う蝕検知液とエキスカベータを
て困難であり,う蝕検知液を用いても
併用し,う蝕象牙質を除去した場合の象牙質の硬さを
は完全に感染う蝕象牙質の除去を行うことが困難であ
年生の学生で
表
ることが示唆された.また術者によってカリオテス
ター使用時の圧子を押し込む際の力加減,スピードに
差があるなどの影響もあると推測できたため,カリオ
テスターの使用に対する訓練ももっと必要であると考
えられた.しかし,カリオテスターはう蝕象牙質の感
染していない軟化象牙質の硬さを理解,経験するのに
適した器械であり,今後の臨床実習や歯科治療に役立
染色法
目的
Victoria Blue
特 (VB)/HE 染色
殊
染 広域
色 Cytokeratin
(AE /AE )
血管弾性線維と HE 染色の組合せで腫
瘍細胞の血管浸潤をみる検出
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
永山
研究発表
元彦 准教授
歯科医学研究入門Ⅰ「口腔病理学分野」研究発表
口腔の扁平上皮癌を診る
明加 ) ○岩田
英丸 ) ○瀬戸
荘太 )
○田中れいら ) ○炭竃
雄佑 ) ○藤井
裕子 )
○久保
○脇田
麻理 )
池田
泰)
呉城
太基 )
小坂
衛央 )
波多野魁人 )
森原
頌之 )
)
元彦
)
江原
道子 )
真人
)
田沼
)
都
優子
永山
平野
( )朝日大学歯学部歯学科
)
( 朝日大学歯学部歯学科
順一
すべての上皮細胞の細胞骨格に共通す
るケラチン中間径フィラメントの検出
で上皮性腫瘍細胞の存在を検出
D -
リンパ管内皮細胞の細胞表面抗原を検
出することでリンパ管の存在を把握検
出
CK /
高度に分化した重層扁平上皮細胞の検
出
つと思われた.
平成
研究に用いた染色法と目的
免
疫 CK
染
色
Ki-
異形成を示す上皮細胞の検出
細胞周期関連抗原で細胞の増殖活性を
検出
Heterogeneous
nuclear ribonu- 核細胞質間輸送タンパクの一つで細胞
の増殖等の活性化を検出
cleoprotein K
(hnRNPK)
結果
HE 染色
学年)
病巣全体の範囲,構造異型ならびに癌細胞の細胞異
学年)
型を把握することができた.病変の中央部には潰瘍が
( )朝日大学歯学部口腔病態医療学講座
口腔病理学分野)
みられ,正常粘膜の重層扁平上皮は欠落して一層の線
維性偽膜で覆われ,その直下には細胞や核の大小不
同,濃染核,核分裂などの細胞異型を示す癌細胞が少
数の細胞集塊を形成しながら,浸潤性増殖を示してい
緒言
口腔の腫瘍,特に悪性腫瘍はその浸潤性から,手術
た.一方,潰瘍の周辺部は粘膜上皮が上皮異形成の特
の切除範囲が患者の予後を大きく左右する.さらに良
徴を示し,正常粘膜上皮とは明瞭な境界線を示してい
悪性境界病変もあり,診断に苦慮することが多い.そ
た.以上の所見から,扁平上皮癌の,周囲には上皮異
こで,病理診断に至る標本作製過程,病理組織学的診
形成が存在するという所見を得たが,癌細胞の脈管侵
断行程,ならびに臨床との繋がりの理解を目的に,患
襲の可能性も残した.
者から採取した口腔の悪性腫瘍疑いの生検組織切片を
HE/VB/D - による
重染色
題材に,種々の染色法を施すと同時に,扁平上皮癌の
VB は血管の弾性線維を HE 染色の上で青色に染
由来,特徴,予後不良因子および病理組織診断の意義
め,さらに D - 免疫染色でリンパ管内皮細胞の検出
について考察した.
を応用したところ,動静脈血管への侵襲はなく,D 陽性発現のリンパ管周囲近くまでの癌細胞の浸潤は
研究材料・方法
みられたが,明らかなリンパ管内侵襲は検索した切片
研究材料は同意を得られた症例で,初診時に悪性腫
瘍を疑い,安全域を含めた切除生検された舌下部粘膜
中には検出できなかった.
AE /AE ,CK / ,CK 免疫染色
の潰瘍性病変で,材料は %ホルマリンで固定,脱水
病巣中心部から浸潤する上皮由来の癌細胞を捉える
後パラフィンに包埋し,ミクロトームでパラフィン切
AE /AE と,癌細胞や周囲の上皮異形成を CK で,
片を作製した.Hematoxylin & Eosin(HE)染色で,
逆に正常な上皮の存在を CK / の免疫染色で検索
病変は扁平上皮癌 squamous cell carcinoma で,その
した結果,潰瘍直下と周辺に潜り込むように AE /
断端は完全に切除されているという病理組織学的診断
AE 陽性発現の癌細胞が浸潤していた.CK は癌細
を得た.これに基づき,表
胞の一部と上皮異形成を示す細胞に陽性発現が限定し
に示す特殊染色ならびに
免疫組織化学的検索(免疫染色)を行った.
た.一方,CK / は潰瘍部の癌細胞や周辺の上皮異
形成部には陰性で,安全域の正常な粘膜上皮で陽性発
現を示した.
が,近年脂肪組織中でも多分化能をもつ間葉系幹細胞
Ki- 免疫染色
の存在が明らかになった.脂肪組織は骨髄に比べ生体
潰瘍直下の浸潤部で平均 . %(SD . %)
,周
内に豊富に存在し,採取も簡便かつ安全に行える上,
辺 の 上 皮 異 形 成 部 で .%(SD . %)の 陽 性 率
組織重量あたりの幹細胞数も多いことから臨床応用に
(MIB index)を示し,全視野中の陽性発現率は平
適している.
本研究では,マウス脂肪組織由来幹細胞(ASC)
均で約 . %(SD . %)を示した.
を用いた骨分化誘導実験系を確立する目的で,マウス
hnRNPK 免疫染色
潰瘍直下の浸潤部で平均 .%(SD .%)
,周辺
脂肪組織から採取した ASC に各種条件で骨分化誘導
の上皮異形成部で %(SD . %)で核内の陽性率
刺激を施し,遺伝子発現や石灰化物形成を観察するこ
(hnRNPK index)を示し,全視野中の陽性発現率は
とで骨分化誘導条件を検討した.
平均で約 .%%(SD .%)を示した.
材料と方法
① ASC の採取:ASC は既報に従いマウス(BALB
考察
今回の検索に用いた扁平上皮癌は,微小な潰瘍を示
しながらも,舌筋層部にまで達する重層扁平上皮由来
の浸潤性の強い癌で,その癌細胞や上皮異形成の Kiで示す細胞の増殖性は高く,hnRNPK で示す細胞
/c:♂)鼠頚部脂肪組織より採取し, %牛胎児血清
(FBS) を添加した DMEM 培地 (DMEM 基本培地)
中で ℃,
%CO 存在下で継代培養した.骨への分
化誘導実験には継代数
の ASC を用いた.②細胞表
活性も高い特徴を示した.加えて,VB や D - で脈
面抗原の解析:細胞表面抗原(Sca-I,CD )の発現
管侵襲性を疑わせる浸潤性から,今後の経過に注意を
パターンは,継代数の異なる ASC を蛍光標識抗 Sca-
払うべき症例と認識した.一方,癌細胞を含む上皮細
I,抗 CD 抗体でそれぞれ染色し,フローサイトメー
胞は細胞の分化異常を示し,癌細胞部や周辺の上皮異
ターを用いて解析した.③骨分化誘導:骨分化誘導に
形成部の細胞は CK 陽性発現を示し,正常粘膜部で
は %FBS, μg/ml アスコルビン酸, mM β-グリ
は CK / 発現陽性で,その安全域で切除されてい
セロリン酸, nM デキサメタゾン含有 αMEM 培地
ることが確認できた.今回の研究入門で経験した特殊
(Dex
(+)
分化培地)および Dex
(+)
分化培地の組成
染色や免疫染色は,通常の HE 染色による形態学的な
からデキサメタゾンのみを除いた培地(Dex
(−)
分化
診断だけでなく,現在,行われている分子生物学的診
培地)を用い,各々の培地中で ASC を
断要素に裏付けられた病理診断を支えるものであるこ
た.ASC を DMEM 基本培地で同期間培養したもの
とが認識できた.
をコントロールとした.④アルカリホスファターゼ
週間培養し
(ALP)活性の検出:ASC の ALP 活性は,細胞を固
定した後 ALP 染色キット(武藤化学)を用いて染色
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
近藤
して測定した.⑤石灰化物の染色:細胞を固定した後
信夫 教授
アリザリンレッド-S で石灰化物を染色した.⑥ RNA
歯科医学研究入門Ⅰ「口腔生化学分野」研究発表
の抽出と ALP 遺伝子発現量の測定:ASC から Nip-
脂肪組織由来幹細胞の骨分化誘導条件の検討
pon Gene 社製 IsogenⓇを用いて総 RNA を抽出し,In-
○酒井
神谷
)
雅文 ) 谷口
真子
)
髙山
( 朝日大学歯学部歯学科
由樹 ) 川木
英次
)
近藤
晴美 )
vitrogen 社製 SuperScriptTM II RT を用いて逆転写反
)
応を行った.得られた cDNA を鋳型とし,ALP の発
信夫
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座
現を SYBERⓇ Premix Ex TaqTM を用いてリアルタイ
ム PCR 法で測定した.
口腔生化学分野)
結果と考察
緒言
① ASC の表面抗原解析:採取した ASC は単一の
再生医療のひとつとして幹細胞を用いた組織再生療
細胞種ではなく,大きさ,形状等が異なる複数の細胞
法が注目され,歯科治療においても破壊された歯周組
集団であったが,そのほぼ全ての細胞が培養初期から
織再建における臨床応用が検討されている.幹細胞源
未分化細胞のマーカーである CD を強発現してい
としては従来骨髄幹細胞が広く利用されているが,骨
た.また継代を重ねると,CD に加え,幹細胞マー
髄細胞の採取は患者への負担も大きく,採取された髄
カーである Sca-I を強発現する細胞集団も増加した.
細胞中の幹細胞の存在比率は極めて少ない.ところ
②骨分化誘導時の骨分化マーカーの変化:ASC を
DMEM 基本培地および
種類の分化培地で培養する
形態学的な特徴,相違点を知ることは重要である.
と,コントロール群に比較して Dex
(−)
分化培地を
乳歯,永久歯の観察は患者の口腔内で実際に行う場
用いた Dex
(−)
誘導群では,骨分化の指標である ALP
合には制約が多いことから通常スタディーモデルを作
の mRNA 発現が顕著に上昇し,その発現量は分化誘
製し個々の歯,歯列弓形態および歯槽部の観察を行っ
導
ている.
週間目で誘導開始前の 倍に達した.これに対し
そこで今回我々は,スタディーモデルを用い乳歯,
Dex
(+)
分化培地中で培養した Dex
(+)
誘導群では,
ALP の mRNA 発現量は分化誘導開始前より低下し
永久歯の大きさの比較,および歯列分析を行い,各歯
週間後では検出限界以下であった.ALP 活性も,Dex
列期の分析を行ったので報告する.
(−)
誘導群でのみ,誘導
れはじめ,
週間で弱い染色像が観察さ
週間後まで経時的に上昇した.一方,Dex
研究方法
)研究対象
(+)
誘導群,コントロール群では ALP 活性はほとん
乳列期は,本学付属病院小児歯科所蔵のスタディー
ど検出できなかった.
③石灰化物の形成:Dex
(−)
誘導群でのみ 日から
モデル 名(男子
週間でアリザリンレッド染色陽性の石灰化物の形成
を使用した.また永久歯列期は,今回の研究内容を説
が確認され始め,約
週間では顕著な石灰化物の沈着
が観察された.一方 Dex
(+)
誘導群,コントロール
名,女子
名,平均年齢 .歳)
明し同意を得た 名(男性 名,女性
名,平均年齢
.歳)に対し,印象採得を行い作製したスタディー
モデルを使用した.いずれも広範囲な齲蝕や形成不
群では石灰化像はほとんど検出できなかった.
以上の結果から,マウス ASC はアスコルビン酸,
全,歯冠修復物のないものを対象とした.
β-グリセロリン酸存在下で骨への分化が十分進行し,
石灰化物の形成にまで至ることが明らかとなった.デ
)観察方法
(
)歯の大きさおよび歯列弓周長の測定
キサメタゾンは,ヒト ASC の骨分化を誘導するとの
乳歯列期,永久歯列期のスタディーモデルを用い
報告があるが,マウス ASC ではむしろの骨分化を抑
て,歯の大きさ(近遠心幅径)および歯列弓周長をセ
制しており,種によるデキサメタゾン感受性の違いが
パレーティングワイヤーおよびノギスで計測した.
示唆された.本研究で確立したマウス ASC の骨分化
(
)歯列分析
誘導系は,ASC の歯・骨形成機構自体の解明はもと
永久歯列期のスタディーモデルを対象に小野の回帰
より,骨組織再生の足場素材の有効性の検討などにも
方程式を用いた方法と Moyers の予測表を用いた方法
幅広く利用可能であると考えられた.
の
つを利用して歯列分析を行い,萌出空隙の過不足
を調べた.
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
長谷川
結果
信乃 講師
(
)乳歯と永久歯の大きさの比較では,上顎では
中切歯 .mm,側切歯 .mm,犬歯 .mm,第一小
歯科医学研究入門Ⅰ「小児歯科学分野」研究発表
乳歯および永久歯の大きさの比較から得られた各歯列
臼歯は .mm 乳歯より永久歯が大きいのに対して,
期の状態の分析
第二小臼歯と第二乳臼歯では,先行乳歯である第二乳
○木村
高島
西田
将博 ) 胤森
大輝
)
宜弘
)
賢志 ) 鈴木
寛之
)
長谷川信乃
)
椋代
( )朝日大学歯学部歯学科
慶)
臼歯の方が .mm 大きかった.また下顎については
元島
梓)
中切歯 .mm,側切歯 .mm,犬歯 .mm 乳歯より
田村
)
康夫
学年)
( )朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座
小児歯科学分野)
永久歯の方が大きいが,第一小臼歯と第一乳臼歯は .
mm,第二小臼歯と第二乳臼歯では .mm 先行乳歯
の方が大きかった.
(
)小野の分析を利用した歯列分析では,萌出空
隙が不足していると考えられる模型は 名中
目的
基本的には,乳歯も永久歯も同じ様な発育過程をた
あった.
また,Moyers の予測表を利用した歯列分析では
どる.しかしながら形態的,組織学的および物理化学
名中
的に異なった点が多くみられる.そのため乳歯及び永
が最も大きい値であった.
久歯を対象とする小児歯科臨床においては歯冠修復や
咬合誘導処置を行っていくためにも,乳歯,永久歯の
名で
名であった.不足している量としては .mm
C-V 系列の 語の被験語を選択した.
考察および結論
混合歯列期は,乳歯列から永久歯列に替わっていく
各被験者にマウスガード未装着,装着の状態で被験
大切な時期である.この時期に歯の大きさや,小野の
語を発音させ,INTERNET 社製サウンド編集ソフト
回帰方程式や Moyers の予測表を用いて永久歯列の予
ウェア「Sound it! . for Windows」に録音記録した.
測をすることで,永久歯萌出前に歯列弓の状態を推測
得られた音声サンプルをアニモ社製音声分析ソフト
「杉スピーチアナライザー」を用いてピッチ曲線を描
することが可能となる.
今回の結果から,乳歯と永久歯の大きさの比較では
第一乳臼歯,第二乳臼歯よりも後継永久歯である第一
記し,ピッチ曲線の現れない部分(中間の子音部分)
の持続時間を計測した.
小臼歯,第二小臼歯のほうが小さいことが確認でき
た.これはリーウェイスペースに関係しており,交換
結果
マウスガード未装着と装着状態を比較した結果,装
期の歯列の調整に関係していると考えられる.
このことから,後継永久歯の予測は歯列不正や咬合
着状態で有意な持続時間の延長が認められた.一方,
異常を早期に発見し,咬合誘導を行うことによって将
装着状態において特定の被験語(apa,ipi,iko,epe)
来おこりうる歯列不正に対し,早期に対応出来ること
では未装着時と比較して持続時間の短縮が認められ
が示唆された.
た.
「被験者」と「マウスガード装着の有無」を因子と
して分散分析を行った結果,「被験者」
,「マウスガー
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
歯科医学研究入門Ⅱ「歯科補綴学分野
ド装着の有無」
,「被験者」と「マウスガード装着の有
理 准教授
無」の相互関係に有意差が認められた.さらに「マウ
可撤性義歯・
スガード未装着」を基準に Fisher の PLSD を行った
山村
結果,「マウスガード装着」に有意差が認められた.
総義歯学」研究発表
マウスガード装着時における発音の変化
○小畠
莉里 ) ○澤野
未來 ) 片山
山村
( )朝日大学歯学部歯学科
理
)
藤原
祐)
周
)
学年)
( )朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
歯科補綴学分野可撤性義歯・総義歯学)
考察
マウスガードの装着により,咬合が挙上される事に
よる口腔容積の増加,唇頬側では唇,頬と歯,歯槽間
にマウスガードが介在することによる唇,頬の運動阻
害,口蓋側への延長による口腔容積の減少と舌の口蓋
への接触の変化といった口腔内環境の変化が起こった
目的
スポーツ医学の発展で,マウスガードが様々なス
と考えられ,破裂子音産生への「かまえ」に影響が現
われたと推測された.
ポーツにおいて使用されている.本来マウスガード
は,個人競技である格闘技系のコンタクトスポーツを
対象に開発されたため,歯への衝撃に対する軽減が主
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
な目的となっているが,ラグビー,アメリカンフット
座長
研究発表
東
幸雄 講師
ボールの団体競技では,競技中に言葉によるチームメ
歯科医学研究入門Ⅱ「歯科薬理学分野」研究発表
イトとのコミュニケーションが必要である.しかし,
fMLP と IL- は異なったシグナル伝達系でラット好中
マウスガードの装着が発音障害を引き起こし,チーム
球の細胞遊走を調節する
メイトとのコミュニケーションに支障をきたし,ゲー
ムの勝敗に密接に関係することもありうる.
そこで,今回マウスガード装着による音響変化を観
測した.
方法
各被験者の上顎模型上で,山八社製マウスガード .
mm を軟化圧接し,実験的マウスガードを製作した.
○山本
加藤
藤江
梨乃 ) 今村玖美子 ) 上野
陽介 )
大貴 ) 錦見
貞登 )
理規
)
水谷
彩香 ) 設楽
晃徳
フェラス・アルカイド )
)
東
幸雄 )
柏俣
正典 )
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔感染医療学講座
歯科薬理学分野)
調音部位の異なる無声破裂子音[p]
,[t]
,[k]を日
本語母音[a]
,[i]
,[u]
,[e]
,[o]の間に挟んだ V-
好中球が end-target chemoattractant(ETC)と en-
dogenous chemoattractant(EDC)の濃度勾配の中間
田中
雅士 )
長谷川智哉 )
に置かれたとき,殆どの細胞が ETC の方向に遊走す
河野
哲)
吉田
隆一 )
ることが知られている.しかし,その詳細な機序につ
( )朝日大学歯学部歯学科
いては明らかにされていない.今回,シグナル伝達系
( )朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
(シグナル)を指標として ETC fMLP と EDC IL- で
学年)
歯科保存学分野歯内療法学)
誘導されるラット好中球 chemotaxis をリアルタイム
に観察しながら,定量的に遊走速度および極性形成を
測定可能な EZ-Taxiscan を用いて検討した.
研究目的
根管形成・拡大時に根管小器具を使用することによ
り,根管内にはスミヤー層が形成される.スミヤー層
実験方法
体重
は象牙質削片や細菌の層状構造物であり,象牙細管を
%カゼイ
目詰りさせることで,根管消毒剤の効果や,根管充填
ンを投与(i.p.)し, ∼ 時間後に腹腔液から好中
∼
g の Wistar 系雄ラットに
剤の接着性を低下させる.根管の無菌化の獲得のため
球を回収した.好中球の遊走は EZ-Taxiscan により
には,このスミヤー層の除去が重要であり,根管洗浄
測定した.EZ-Taxiscan は視覚的に観察可能な chemo-
にゆだねられてる.一方,糖の摂取により,臨界 pH
taxis chamber で,
つの水平のコンパートメントと
(約 .)以下となると,エナメル質の脱灰が始まる
それを挟む microchannel で構成されている.一方の
が,通常は唾液緩衝能などの作用により中性領域にま
コンパートメントに細胞を他方のコンパートメントに
で戻る.しかし,クエン酸を含む酸性食品の過剰摂取
細胞遊走因子を適用すると,microchannel に再現性
者や,職業的に頻繁かつ大量にワインを摂取するワイ
が高く安定な遊走因子の濃度勾配が形成され,少なく
ンテイスター,嘔吐を繰り返す起こす摂食障害者など
とも
は,歯の表面が脱灰する酸蝕症が生じ,近年問題視さ
時間以上維持される.細胞遊走は経時的に CCD
カメラで記録し,形態観察を行うとともに遊走速度,
方向性,直進性を測定した.
れている.
そこで,歯内療法学における歯科医学研究入門で
は,この酸性食品とりわけ,飲料水およびアルコール
飲料の歯質の脱灰能に着目し,根管洗浄剤として使用
結果および考察
好中球に発現するミオシンⅡの活性化に関与するこ
とが知られて い る Rho-kinase(ROCK)の 阻 害 薬 Y
することにより,スミヤー層の除去が可能かどうか,
その根管清掃効果について検討した.
は fMLP お よ び IL- で 誘 導 さ れ る chemotaxis
の遊走速 度 お よ び 極 性 形 成 を 抑 制 し た.p MAPkinase 阻害薬 SB
は fMLP で誘導される chemo-
材料および方法
)実験材料:
taxis の遊走速度および極性形成を抑制したが,IL-
コカ・コーラ(日本コカ・コーラ)
,ポッカレモン
で誘導される chemotaxis には影響を与えなかった.
(ポッカ)
,DoleⓇパイナップルジュース(雪印メ
Phosphatidylinositol -kinase(PI- K)阻害薬 LY
グミルク)
,スポーツドリンク(アクエリアス,日本
は IL- で誘導される chemotaxis の遊走速度および極
コカ・コーラ)
,
赤ワインおよび対照として %EDTA
性形成を抑制した.しかし,fMLP で誘導される che-
を用いた.なお,すべて実験材料は常温で使用し,開
motaxis では遊走速度は抑制したが極性形成には影響
栓後ただちに,pH 測定器(twin pH,堀場製作所)
しなかった.以上の結果から,PI- K 経路は IL- で誘
を用い pH を測定した.
導される好中球 chemotaxis の,また p MAPK 経路
)根管洗浄効果の検討:
は fMLP で誘導される好中球 chemotaxis の中心的な
被験歯としてヒト抜去下顎小臼歯を用いた.歯冠を
シグナルとして機能していることが示唆された.
切断した後,作業長を根尖より
mm 短く設定し,通
法に従って# まで根管形成を行った.次いで,超音
波発振装置(ENAC- )を用い,流水量 ml/min で
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
河野
歯科医学研究入門Ⅰ「歯科保存学分野
哲 准教授
歯内療法学」
プを作業長まで挿入し,スケール
行った.洗浄時間は
の強さで洗浄を
分間とし,使用チップは,常に
新鮮な溶液で根管内を満たすことが可能となるように
研究発表
飲料水およびアルコール飲料を用いた根管洗浄効果
○井殿
連続的に根管に実験材料(溶液)を注入しながらチッ
泰鳳 ) ○川口
彰一 ) ○木田
智也 )
# の根管洗浄用ニードル(中空)を用いた.洗浄後
は水洗により根管内の残存溶液を除去した.その後,
ただちに歯根を縦割断,臨界点乾燥し,
オスミウムコー
− .mm,下顎 .mm であった.パノラマエックス
ティング後,その破断面を SEM 観察し洗浄効果を検
線写真所見では第二大臼歯まですべての永久歯を認
討した.
め,上下顎左右側に第三大臼歯を認めた.頭部エック
ス線規格写真所見では水平方向には上顎骨の正中は顔
面の正中に一致し,下顎骨の正中は顔面の正中に対
結果および考察
開栓直後の pH は,コカ・コーラ( .)
,ポッカレ
Ⓡ
し, .mm 左方に偏位していた.また,上顎歯列正
( .)
,Dole パイナップルジュース( .)
,
中は顔面の正中に一致していたが下顎歯列正中は .
スポーツドリンク( .)
,赤ワイン( .)
, %EDTA
mm 左側に偏位していた.前後方向では標準治と比較
モン
すると,骨格系では SNA 角は .°
と
( .)であった.
また,SEM 写真より,今回用いた実験材料はすべ
て,
分間の洗浄時間で根管壁のスミヤー層は除去さ
S.D.を超えて
S.D.を超えて大きく,上
下顎ともに前方位を示していた.ANB 角は− .°
と
S.D.を超えて小さい値を示し,骨格性
れ,象牙細管開口部は明瞭に観察できた.
超音波発振装置の併用や洗浄時間を
大きく,SNB 角は .°
と
分間と長めに
設定したことにより,スミヤー層の除去ができたとも
た.歯系については U -FH は
級であっ
.°
,U -SN は
.°
S.D.を超えて大きい値を示した.L -MP は .°
で
考えられるが,蒸留水を用いたプレ実験においては,
標準範囲内の値を示し,L -FH は .°
で
S.D.を超
同条件にてスミヤー層の残存を認めることにより,実
えて大きい値を示した.軟組織側貌所見では E-line に
験材料の低い pH や,クエン酸の存在が影響している
対して上唇は .mm 後方に位置し,下唇は .mm 前
と考えられる.
方に位置していた.
以上より,今回用いた飲料水およびアルコール飲料
は, %EDTA と同程度のスミヤー層除去効果が認
められたが,糖質を含む飲料水やアルコールを含む赤
ワインの臨床での応用は困難であると考えられる.
診断
本症例は,前歯部の反対咬合,過小なオーバーバイ
トおよび上顎歯列の軽度の叢生を伴う,骨格性Ⅲ級,
Angle Ⅲ級,ローアングル症例と診断した.
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
研究発表
向井
治療方針
陽祐 助教
骨格的不調和の根本的改善には外科的矯正治療が必
歯科医学研究入門Ⅱ「歯科矯正学分野」研究発表
要である.術前矯正治療の歯の排列時の抜歯・非抜歯
外科的矯正治療を併用した骨格性
の決定については,叢生量からは非抜歯による排列が
級,Angle Ⅲ級,
考えられるが,上顎中切歯歯軸唇側傾斜の改善と下顎
ローアングル症例
○岡村
悠平 ) ○河上恵利香 ) ○木村
向井
陽祐
( )朝日大学歯学部歯学科
)
北井
成華 )
骨の後方移動量を十分に確保することが困難となるこ
)
とから,上顎両側第一小臼歯の抜去による排列を選択
則行
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔構造機能発育学講座
歯科矯正学分野)
することとした.固定に関しては,上顎歯列の叢生の
改善と上顎前歯の後方移動を行うため,トランスパラ
タルアーチとストレートプルヘッドギアを装着し,最
大の固定とした.上下顎両側第三大臼歯は治療開始前
に抜去することとした.
症例の概要
初診時年齢 歳
か月女子,前歯部反対咬合と下顎
の突出を主訴に来院した.家族歴および既往歴に特記
治療経過
すべき事項は認めなかった.顔貌所見では,正面観で
下顎両側第三大臼歯を抜去し,上顎にトランスパラ
オトガイ部の左方偏位を認め,側貌は陥凹型である.
タルアーチとストレートプルヘッドギアを装着した.
口腔内所見では,オーバージェット− .mm,オー
その後,上顎両側第一小臼歯,下顎左側第一小臼歯お
バーバイト+ .mm,下顎歯列正中は上顎歯列正中
よび下顎右側第二乳臼歯を抜去し,上下顎にプリア
に対して .mm 左方へ偏位していた.第一大臼歯関
ジャストエッジワイズ装置を使用し術前矯正治療を開
係は左右側ともに Angle Ⅲ級であった.模型分析で
始した.その後,顎枝矢状分割術を施行することによ
は Hellman の発育段階は VA 期,歯列対称性は上下
り,顔貌の改善,咬合の緊密化を図った.動的治療期
顎ともに対称,歯列弓形態は上下顎ともにU字型で
間 か月間,保定は上下顎ともにラップアラウンドリ
あった.アーチレングスディスクレパンシーは上顎
テーナーを用いて か月経過し現在も継続中である.
とした.
結果
本症例は外科的矯正治療であり,咬合の機能改善は
成人式歯科健診では,う蝕,口腔清掃,不正咬合,
もとより,顔貌の変化も重要であった.顔貌の変化と
歯周組織,智歯萌出などの状態について診査を行い,
しては,正面観においてオトガイ部の左方偏位の改善
それぞれの結果について両群を比較検討した.
が認められた.側面観察においてはオトガイ部の後退
により陥凹型であった側貌は直線型へと変化し,良好
結果
な結果が得られた.歯系については,上下顎歯列正中
DMF について
が一致し,大臼歯関係Ⅱ級・犬歯関係Ⅰ級と良好な結
未処置歯(D)
は,男子ではF群 . ,非F群 . ,
果が得られた.また,上下顎歯列弓の正中は顔面正中
女子ではF群 . ,非F群 . であり,男女ともにF
と一致し,安定した咬合関係を確立することができ
群では低値を示し,男子では有意差を認めた.喪失歯
(M)は,両群ともに少なく,差は認められなかった.
た.
処 置 歯(F)は,男 子 で はF群 . ,非 F 群 . ,
女子ではF群 . ,非F群 . であり,男女ともにF
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
研究発表
群では低値を示し,女子では有意差を認めた.DMFT
篤則 教授
指数は,男子ではF群 . ,非 F 群 . ,女 子 で は
歯科医学研究入門Ⅱ「社会口腔保健学分野」研究発表
F群 . ,非F群 . であり,男女ともにF群では低
小学校でのフッ化物洗口によるう蝕予防効果の持続
値を示し,男女ともに有意差を認めた.また,う蝕経
性―洗口終了
験がない者(Caries Free)は,男子ではF群 .%,
座長
磯崎
年後の効果―
○山本
昂直 ) 長谷川
)
井上
憲哉
岩田
幸子 ) 廣瀬
上嶋
慶 ) 佐藤しおり )
実保
)
田中
智子
)
晃子 ) 石津恵津子 )
大橋たみえ
)
磯崎
( )朝日大学歯学部歯学科
篤則
)
非F群 .%,女子ではF群 .%,非F群 .%を
示し,男女ともに F 群が有意に多かった.
口腔清掃,不正咬合,歯肉炎,水平智歯の状態
口腔清掃状態は両群間に統計的有意差は示されな
かったが,男女ともにF群で“良”の割合が多い傾向
学年)
( )朝日大学歯学部口腔感染医療学講座
が認められた.不正咬合のない者は男女とも両群で約
社会口腔保健学分野)
%を認め,両群間に統計的な差は認められなかっ
た.歯肉炎 の な い 者 は,女 子 でF群 .%,非F群
.%を認め,非 F 群の方が多い傾向が示された.
目的
社会口腔保健学教室では,
地区
年から瑞穂市の穂積
小学校においてフッ化物洗口を実施している.
洗口終了後の評価としては,
水平智歯は,男子で非 F 群に多い傾向が示されたが,
統計的有意差は認められなかった.
年より被験者が集ま
る市町村主催の成人式において成人( 歳)時点での
成人歯科健診を実施している.この穂積地区は
年
結論
F群は,男女ともに,う蝕経験に係わる項目で非F
群の値と比較して明らかに低値を示し,フッ化物洗口
月,巣南地区と合併し瑞穂市となった.
そのため
年以降の成人式には,小学生時代フッ化物洗口を実施
によるう蝕予防効果が持続していることを示唆した.
した穂積地区と,フッ化物洗口未実施の巣南地区の成
フッ化物によるう蝕予防効果以外の項目では両群間に
人が参加することになった.
明らかな差は認められなかった.
そこで,穂積地区ならびに巣南地区の 歳時点の歯
科健診結果を比較し,小学校
年間でのフッ化物洗口
によるう蝕予防効果の持続性を検討した.
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
研究対象および方法
歯科医学研究入門Ⅱ「歯周病学分野」研究発表
座長
∼
子
年の瑞穂市成人式歯科健診を受診した男
名,女子
名の合計
名を研究対象とした.
このうち,フッ化物洗口を実施した穂積地区
に
年間在籍していた
名(男子
名,女子
をF群,フッ化物洗口未実施の巣南地区
籍していた
名(男子
名,女子
小学校
名)
安田
忠司 講師
グレーシーキュレットと炭酸ガスレーザーによる除石
効果の比較
真作 ) ○久田
○南出
小林亜希子
小学校に在
名)を非F群
研究発表
)
)
智詠 ) 井出
翔太 )
鈴村
優莉
岩田
智之 )
安田
忠司 ) 澁谷
俊昭 )
( 朝日大学歯学部歯学科
)
学年)
( )朝日大学歯学部歯学科
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔感染医療学講座
歯周病学分野)
が始まり,傷ついた歯茎を修復すると考えられてい
る.炭酸ガスレーザーの LLLT 作用により細胞外情
報伝達因子である MAPK に多くの信号が送られ組織
の創傷治癒を急速に進行されることができる.
このように近年レーザーを用いた歯石除去が臨床の
研究目的
歯周治療においては,機械的療法(mechanical ther-
場で用いられている.本研究はこれまで一般的に用い
apy)
,化学療法(chemotherapy)に加え,近年では
られているグレーシーキュレットと炭酸ガスレーザー
広義の意味で光エネルギーを用いた治療法(光療法)
による SRP の根面の表面性状を比較,考察すること
が取り入れられ,それらが患者や部位レベルでの条件
を目的とする.
に応じて,機械的療法を中心に複合的に用いられてい
る.今日,光療法の一つとしてレーザーはその優れた
臨床効果により,歯周治療において有効な手段の一つ
材料と方法
前歯,臼歯それぞれ
本の歯石の付いた抜去歯を用
となっている.各種の高出力レーザーが治療の容易
意し,前歯,臼歯それぞれ
化,効率化や治療成績の向上を目的として主に軟組織
トにより SRP を行い,残りの前歯,臼歯それぞれ
本はグレーシーキュレッ
のマネージメントに効果的に用いられている.また,
本は炭酸ガスレーザーにより SRP を行う.術前,術
治療に伴う術中および術後の患者の疼痛や不快感の軽
後の写真をそれぞれ撮り実験群と対照群の根面性状を
減も大きな利点である.これらの効果はまだ十分なエ
視覚的に比較する.
ビデンスによって裏付けされたものではないが,多く
の臨床家により経験的に理解されているところであ
る.本研究で使用した炭酸ガスレーザーの波長は
結果
写真を見た感じでは,炭酸ガスレーザーにより,グ
nm 程度であり象牙質透過性がほとんどないために,
レーシーキュレットによる SRP の方が目に見えて歯
表面吸収型のレーザーと言われているが,実際には生
石は取れ,根面は滑沢になっている.また,レーザー
体内への熱の蓄積があり,過度の照射で腐骨の危険性
の方は,歯が黒ずんでいる所も見られるため,注意が
がある.単位面積当たりの熱エネルギーが,他のレー
必要であると考えられる.
ザーより最も高い.血液の凝固作用を持ち,主に歯肉
切開,口腔内殺菌や凝血など軟組織用レーザーとして
考察
用いられている.炭酸ガスレーザーの利点としては生
実際の臨床では,歯根部は歯肉に覆われており盲目
体の %以上を占める水分にほとんど吸収され,歯周
下でのレーザーによる根面のデプライドメントについ
組織と皮膚組織にだけ反応し,深部にレーザーの影響
ては,まだ手技や臨床的評価が確立していない.
また,
が到達しないため安全に使用できる.炭酸ガスレー
グレーシーキュレットでも,複雑なポケット内の清
ザ ー に は 大 き く 分 け で HLLT 作 用(High reactive
掃,掻爬および,滅菌は限界があると考えられる.補
Level Laser Therapy)と LLLT 作 用(Low reactive
助的なレーザーの使用で,ポケット内により,確実な
Level Laser Therapy)の
つ の 効 果 が あ り,HLLT
殺菌,無毒化および感染組織の蒸散効果が期待され
作用とは,切開や蒸散と言われる,異物や腫瘍を除去
る.また,周囲細胞の生物学的刺激効果などの可能性
したりする作用である.それに対して LLLT 作用と
もあり,炎症の軽減や組織修復,再生に有利に働く可
は組織の再生や治癒を促進する作用である.この作用
能性も考えられる.
は炭酸ガスレーザーにのみ特化した作用であり,例え
以上から,今回行った
種の術式は,どちらも完璧
ば,メス切開するよりも,炭酸ガスレーザーで切開し
ではなく,一長一短であるため,両方行うことで,よ
た方が傷の治りが早く,痛みも少ないなどの利点があ
り完璧に近づくことになると感じた.
る.具体的に歯周病により歯茎に炎症がある場合,炭
酸ガスレーザーの HLLT 作用により歯周病細菌の殺
菌,炎症組織の除去を行ない続いて炭酸ガスレーザー
の LLLT 作用により炎症組織を除去された部位は出
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
座長
若松
研究発表
宣一 准教授
血し血液中の血小板が凝固し,その中の細胞の増殖因
歯科医学研究入門Ⅰ「歯科理工学分野」研究発表
子 で あ る PDGF(platelet derived growth factor)が
Erosion と Abfraction はレジン添加型グラスアイオノ
線維芽細胞と結合すると,細胞外情報伝達因子である
マーセメントの劣化を加速させるか?
MAPK に信号が送られ次々に細胞分裂,増殖,分化
○松本麻衣子 ) 中西
康典 ) 七井
秀隆 )
羽田
惇 ) 若松
宣一 ) 土井
)
( 朝日大学歯学部歯学科
豊)
た.グループ
プ
学年)
)
( 朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
歯科理工学分野)
はコントロール群(無処理)
,グルー
は Erosion 群として Cyclic pH 試験を行った.そ
してグループ
を Erosion+Abfraction 群とした.Cy-
clic pH 試験では,曲げ試料を室温コーラ中に
浸漬し, 秒間水洗後ハンクス緩衝液中に
する試験を
目的
サイクルとし,合計
分間
分間浸漬
サイクル Erosion
歯 頸 部 欠 損(Non-caries cervical lesions:NCCL)
を負荷した.Erosion+Abfraction 群では,コントロー
の形成機構については,咬頭の摩耗と NCCL との相
ル群の比例限の %の荷重を最大荷重とする繰り返し
関性,並びに有限要素法応力解析の結果を基礎にし
荷重を負荷した.いずれの群の曲げ試料についても,
て,Abfraction の概念[ ]が提案されている.すなわち,
室温空気中で
咬合力により曲げモーメントを受けた歯頸部に引張応
比較検定を行った.
点曲げ強さを測定し,分散分析後多重
力が集中し,NCCL が形成されるとする考えである.
しかし in vitro で引張応力のみを歯質に作用させて
結果
ハンバーガー+ポテト with ドリンクの平均の咀嚼
も,NCCL のような欠損は再現できていない.そこで
現在では,Abfraction に加えて,細菌に由来しない
時間は 分 秒,咀嚼回数の平均値は
酸 に よ る Erosion と Abrasion が 複 合 的 に 作 用 し て
た.このデータを基にして,Erosion+Abfraction 群
NCCL が形成されると考えられている[ ].
に お い て 負 荷 す る 繰 り 返 し 荷 重 の 周 波 数 を .Hz
NCCL の修復にはグラスアイオノマーセメント,レ
ジン添加型グラスアイオノマーセメント,そしてコン
(
回であっ
cycles/ min)とした.コントロール群の
点
曲げ強さは平均 .MPa(SD: .)
,Erosion 群で
ポジットレジンが用いられるが,いずれの成形修復材
は 平 均 .MPa(SD: .)
,Erosion+Abfraction
料を用いるにしても,NCCL の形成と同様に,材料に
群では平均 .MPa(SD: .)であった.また荷
は Abfraction,Erosion,Abrasion が負荷されると考
重―変位曲線の比較から,Erosion 群および Erosion
えられるため,これらが成形修復材料に与える影響を
+Abfraction 群では微小な亀裂の発生による荷重の
明らかにする必要がある.
減少が複数観察された.
Erosion が成形修復材料に与える影響については,
乳酸水溶液[ ]などの酸性溶液あるいはコーラ[ ]などの
結論
酸性飲料中に一定期間材料を浸漬し,強さ,硬さ,表
Cyclic pH 試験を用いた Erosion の負荷はレジン添
面性状の変化などから耐久性の評価が試みられてい
加型グラスアイオノマーセメントの曲げ強さを有意に
[ ]
る.また Erosion+Abrasion の複合効果 については
低下させた.一方,Erosion+Abfraction 群では有意
Cyclic pH 試験と歯ブラシ摩耗試験から検討されてい
な低下は認められなかった.
る.しかし,Erosion と Abfraction の複合効果が成形
修復材料に与える影響についてはこれまで明らかにさ
文献
れていない.そこで本研究では,成形修復材料として
[ ] Grippo JO, J. Esthet. Dent., ,
光重合型グラスアイオノマーセメント(RM-GIC)を
[ ] Bartlett DW, et al., J. Dent. Res.,
選択し,Cyclic pH 試験による Erosion の負荷に加え
[ ] Yu H, et al., J. Dent.,
て,Abfraction,すなわち繰り返し荷重の負荷が RM-
[ ] Bagheri R, et al., J. Dent.,
,
-
GIC の曲げ強さに与える影響を調べた.
[ ] Wongkhantee S, et al., J. Dent.,
- ,
,
-
,
,
,
-
,
,
-
,
材料と方法
RM-GIC としてペースト+ペーストタイプのフジ
平成
年度歯科医学研究入門Ⅰ・Ⅱ
フィル LC(GC)を用いた.Abfraction の条件を決定
するために,実験
ではハンバーガー+ポテト with
座長
研究発表
松井
歯科医学研究入門Ⅱ「歯科補綴学分野
孝介 助教
固定性義歯学」
ドリンクの咀嚼時間と咀嚼回数をタイマーとカウン
研究発表
ターを用いて計測した.実験
咬合接触検出システム Anabiter によるシリコーン被
(E)
に従って 本の曲げ試料(
では,ISO
mm×
:
mm× mm)
を作製(練和 秒,光照射両面各 秒)し, ℃水中
に
週間保存後ランダムに
つのグループに分割し
膜厚さの検討
○蒔田
岩本
将也 ) 釣谷
万里
)
上川
匡弘 ) 伊神
慶祐
)
漢那
裕高 )
憲貴 )
兵藤
雅大 ) 柳澤
拓明 ) 松井
孝介 )
倉知
)
)
( 朝日大学歯学部歯学科
正和
学年)
( )朝日大学歯学部口腔機能修復学講座
歯科補綴学分野固定性義歯学)
( )朝日大学歯学部歯科医学
教育推進センター)
装置本体,とそれを制御する専用ソフトウェアから構
成される.
試料面積は撮影された透過光画像を専用ソフト上で
bit グレースケールに変換,その後任意のしきい値
を設定し,そのしきい値を基準とした一定の透過光量
以上である領域の面積を表示する.なお,しきい値と
は透過部の境界を明瞭にするための輝度レベルを指定
するもので,AnabaiterⓇにおいては,この数値を下げ
ると試料の透過領域が多くなり,実際の面積よりも大
緒言
顎口腔系が円滑に咀嚼運動を行うためには,習慣性
きな値が表示される.対して数値を上げると透過領域
閉口運動に伴い,上下顎の歯が均等に接触することが
が少なくなり実際の面積よりも小さな値が表示され
必要である.
る.
また,形態的に接触が可能な点は可及的に同時に接
触することが望ましく,いわゆる早期接触が存在した
場合や,咬合接触において左右の不均衡が存在した場
結果
ライトボックス中央に置いた厚みの異なる
種類
合,顎関節への悪影響,歯根膜炎の発症,歯根の破切
( μm, μm, μm, μm, μm)の 試 料 各
などの原因となり得ることが知られている.
枚において面積がそれぞれ . mm の近似値を表示す
近年,咬合接触状態を定量的に評価する T-Scan シ
ステム,プレスケールなどが臨床応用されている.し
かしこれらのシステムは測定を行う為にある程度以上
の咬合力が必要である.
軽い咬合力による咬合接触状態の評価として,シリ
るしきい値を測定した.
その平均値は μm では
μm で は
., μm で は
., μm では
., μm で は
.,
.
であった.また標準偏差は . ∼ . 間に分布しどの
厚みにおいても比較的安定した値を示した.
コーン印象材を用いた方法が適していると考えられて
いる.
考察
本学補綴学教室の松井らはブラックシリコーンと
Ⓡ
種類(
μm,
μm,
μm,
μm,
μm)の
Anabaiter を用いてその透過光量から咬合接触状態を
上下顎歯間距離を想定した各試料は,それぞれの距
評価する方法を報告している.しかしブラックシリ
離,本実験では厚みに応じたしきい値の設定を行えば
コーンはベースとキャタリストの重量比にバラツキが
再現性のある結果が得られることが示唆された.しか
生じやすく,その結果シリコーン皮膜の色調に差が生
し本実験で設定した条件においては μm と μm で
じやすく,硬化したシリコーン皮膜の透過光量にも影
の面積表示結果に代表されるように,
響すると考えられる.そこで演者らは射出比が一定化
分解能を得ることは困難であると思われる.このこと
された GC 社製ブルーシリコーンを用いて試料の製作
は装置に使用されているデジタルカメラの分解能に限
を行い,既知の面積,厚みを持った試料の透過光画像
界があるものと考えられた.本実験で使用したブルー
を測定し,再現性のある測定値を得るための測定方
シリコーンを用いて咬合接触面積を定量化するシステ
法・設定値を検討した.
ムとして GC 社製バイトアイが開発され
μm 単位での
μm 単位で
の測定を可能にしているとのことである.
実験方法・材料
シリコーン皮膜試料製作
シリコーン皮膜試料の製作には GC 社製ブルーシリ
コーンをスプラインマイクロメータのスピンドル先端
しかし歯根膜の存在する天然歯の場合では, μm
以下での接触状態を達成することが必要であるという
報告もあり,本装置を臨床応用する上での制約は少な
いとも考えられる.
mm)に挿入,圧接し試料中央部の厚さを
また,松井らは測定条件により表示される面積が変
μm, μm, μm, μm, μm とし,面積を πr
動する原因に①ライトボックスの輝度差による透過光
部(直径
= . mm とした試料を製作した.
量の変動②デジタルカメラに使用されているレンズ周
測定装置概要
辺減光による画像上の試料輝度差の減少が考えられ,
測 定 装 置 は 軌 維 社 製 AnabaiterⓇを 用 い た.AnⓇ
正しい面積を表示する方法を報告している.しかし,
abaiter は高解像度デジタルカメラ,透過光用ライト
その後のソフトウェア開発により①,②の問題点は解
ボックス,反射光用の照明,咬合接触面積を計測する
消されているとの事である.さらに,臨床応用におい
て咬合面の印象採得後のシリコーン印象材には余剰部
測定条件を一定に近づけることが出来ると考えてい
分が存在し,撮影するレンズと平行に設置することが
る.
難しい.しかし,余剰部分のトリミングを行うことで
岐阜歯科学会開催予定
第
回例会
平成 年 月 日(土)
担当分野:小児歯科学分野
平成 年度第
回総会および第
回例会
平成 年
月 日(土)
平成 年
月 日(土)
担当分野:口腔解剖学分野(解剖学)
平成 年度総会および第
回例会
担当分野:口腔解剖学分野(口腔解剖学)
平成
, 年度
岐阜歯科学会役員一覧
平成 年
〈理
月
日現在
事〉
明
大
倉
式
田
中
堀
山
石
柏
玄
澁
田
永
都
吉
神
俣
会
長
副 会 長
副 会 長
副 会 長
常任理事(庶務部)
常任理事(事業部)
常任理事(編集部)
常任理事(経理部)
土
平
澁
永
田
堀
柏
吉
常任理事(県歯連携)
監
事
監
事
磯 崎 篤 則
足 立 正 徳
小 林 剛 宏
〈執
坂
橋
知
守
沼
嶋
田
内
行
年
宏
正
道
順
正
正
六
隆
重
和
夫
一
人
人
男
谷
村
原
尾
田
正
景
俊
康
國
元
隆
元
典
華
昭
夫
央
宣
一
井
田
谷
原
沼
田
俣
田
健
俊
國
順
正
正
隆
豊
一
昭
央
一
人
典
一
磯
勝
近
住
智
平
村
武
崎
又
藤
友
原
田
上
内
篤 則
明 敏
信 夫
伸一郎
栄 一
健 一
幸 孝
尚 博
江
北
硲
髙
土
藤
村
㞍
井
幹
幹
幹
幹
事
事
事
事
原
竹
幹
事
江
小
東
河
堀
廣
井
井
原
松
貞
則
哲
良
泰
一
行
崇
招
豊
周
徳
部〉
〈顧
問〉
宮
田
高
木
侑(学校法人朝日大学理事長)
幹
正(岐阜県歯科医師会会長)
野
口
瀬
道
宏
幸
敬
晃
子
朋
雄
哲
司
子