分担研究 「小児科医と心理士による公立小学校における 「康相談室」 の

 厚生労働省科学研究費補助金 子ども家庭総合研究事業
健やか親子21推進のための
学校における思春期の心の問題に関する相談システムモデルの構築
分担研究「小児科医と心理士による公立小学校における
「健康相談室」の開設および相談システムの試行」
−平成16年度の試みから−
松嵜くみ子
青山学院大学文学部心理学科兼任講師
根本
芳子
太田総合病院研究員
柴田
玲子
湘南医療福祉専門学校兼任講師
古荘
純一
青山学院大学文学部教育学科
佐藤
弘之
昭和大学医学部小児科
渡辺修一郎
昭和大学医学部小児科
研究要旨
平成15年度の研究結果から、小学生版QO L尺度が児童の心身の健康の状態を比較
的簡便に把握する、スクリーニングテストとして有用であることが示された。平成16
年度は、小学生版QO L尺度を用いて児童の心身の健康を把握し、実際に児童および教
員の支援に結びつけることを目的に、都内公立小学校において、1次スクリーニングと
して小学生版QO L尺度および担任教員による「気がかりな児童」に関するチェックリ
ストを実施し、低QO L得点の児童および担任教員からみた「気がかりな児童」に注目
し、その後の支援として、①各学年の担任教員団毎に、臨床心理士からQO L尺度得点
の結果のフィードバックおよび実際の対応についてのディスカッション②臨床心理士
による授業参観③相談を希望する担任教員に対する、実際の対応についての個別相談∼
を実施した。効果についての評価はまだ終わっていないが、小学生版QOL尺度を用い
た支援を試みた。個々の事例に関しては、有効なディスカッションが行われ、支援の必
要な児童を学年全体で理解し、教員が同学年の教員団からのサポートを受けながら支援
するのに有用であったと推測される。今後、児童自身のQO Lの変化、教員からの評価
を検討し、「相談システム」の試行に関する評価としてゆきたい。
研究協力者
松村陽子
青山学院大学院文学研究科
羽下路子
心理学専攻博士前期課程
心理学専攻博士後期課程
大浦顕子
青山学院大学院文学研究科
青山学院大学院文学研究科
吉井華恵
青山学院大学院文学研究科
心理学専攻博士前期課程
心理学専攻博士前期課程
一84一
米山麻衣子 青山学院大学院文学研究科
やすいことが考えられ、小児科医と臨床心理
心理学専攻博士前期課程
士が連携を取り合うことによって、子どもの
高本綾乃 青山学院大学院文学研究科
心身の変調に対し、より早期の段階で対応・
心理学専攻博士前期課程
予防できる可能性がある。そこで、昭和大学
宮澤俊彦、 横浜国立大学大学院
医学部小児科では、近隣の小学校と協力しな
学校教育臨床専攻臨床心理学
がら、小児科医と臨床心理士がともに子ども
コース
の幅広い健康支援行うため、健康相談室を開
A。研究目的
設した1)。本報告では、平成15年度までの健
近年、不登校、学習障害、AD/HD、生活習
康相談室での活動に加えて、平成16年度に
慣病などへの対応の増加と共に、これまで身
実施した、学校支援システムの試みをまとめ、
体面が中心であった養護教諭の仕事の質と
検討することを目的とする。
量が、心身両面への対応が必要とされるもの
B.研究方法
に変化してきた。また、身体面、行動面、心
1)実施対象:都内公立小学校
理面への総合的な対応は知識と時間と労力
児童数は約440名、一学年2∼3
を必要とし、学校現場での教員の負担も増加
クラスである。
していることが予想される。
2)試行した支援システムの概要:
しかし、学級のなかで支援を必要とする児
①2年生から6年生299名を対象とした小
学生版QOL尺度実施(1次スクリーニン
童を見出し、適切な対応を提供していくこと
は非常に難しい。まず、心理的な問題は表面
グ)。:各クラス毎に担任教員が実施
に現れにくく行動面の観察からは発見され
②QOL尺度得点下位約10%の児童およ
にくい。また、家庭の問題を抱えている場合
び担任教員によって挙げられた「気がかりな
も子どもが自ら苦痛や悩みを訴えることは
児童」(健康相談室で作成した「気がかりな
少なく、様々な変調は、まず身体症状に現れ
児童」に関するr先生用チェックリスト(表
90
80 日全体
70
60
目書次スク
50 リーニング
40
30
20
璽8
一 {
譲
図1.1次スクリーニングとして実施した小学生版QOL尺度得点平均’
(N=299〉
一85一
1)」を、あらかじめ担任教員に配布し、記
した。
入後提出してもらった)に対して臨床心理士、
⑤QOL尺度得点が低い児童と担任教員か
小児科医師の面接を実施(2次スクリ…ニン
らみて「気がかりな児童」について、希望す
グ)。
る担任教員と臨床心理士で、個別面接を実施
③学年別に各クラスの担任、副担任、臨床心
し授業参観の結果を参考に検討した。
理士でQOLの結果を参考にミーティング
C研究結果
(以後r学年別ミーティング』)を開き、Q
1)1次スクリーニング結果:1次スクリ…
OL尺度得点が低い児童と担任教員からみ
ニングとして実施した、小学生版QOL尺
て「気がかりな児童」への対応について検融
度得点の平均は図1に示すとおり。平成1
④QOL尺度得点が低い児童と担任教員か
5年度、平成16年度に実施した全国的調
らみて「気がかりな児童」を中心に健康相談
査の全体の結果と近似した結果となった。
室スタッフによる授業参観(授業参観にあた
2)QOL得点が50点以下(約下位15%)
り、あらかじめ授業観察用チェックリスト
であった児童は66名であった。低得点群
(表2)を作成し、授業参観時に持参して、
のQOL尺度得点の平均は図2に示すと
記録をつけた)を実施した。授業参観中に記
おり。 全体の平均得点と低得点群の平均
録したチェックリストをもとに、授業参観後、
得点に関して、t検定を行ったところ、す
各クラスごとに記録まとめた。さらに、全ク
べての領域得点において5%の有意水準
ラスの授業参観終了後、授業参観に参加した
で有意な差となった。
健康相談室スタッフ2名は、i)担任教員が
3)学年別ミーテイング概要:QOLの結果、
困難を感じていると思われる点について五)
「気がかりな児童」の資料をもとに実施さ
担任教員の働きかけで、「よい変化」が起こ
れたミーティングの概要を一部紹介する。
っていると感じられる点について、自由記述
(プライバシー保護のため、重要な内容に
1
90
80
70
60
50
40
30
20
11
夢ざ9び固 落9落9び
拶ガ
諭
廼
図2.低得点群の平均QOL得点(Nニ66〉
一86一
日全体
目低得点群
影響を与えないと判断した部分に関して
する。
は修正を加え九)
必要な児童に対して、健康相談室スタッ
参加者:担任教員 副担任 健康相談室臨床
フによる個別対応を実施、
心理士(リラックスした雰囲気で話し合いが
具体的に対応に困った時点での健康相談
できるよう、飲み物、茶菓子を準備した。)
室との連絡にっいての確認
担任教員より学級ごとにrQOL低得点」ま
3)「QOL低得点の児童」と「気がかりな
たは「気がかりな児童」について、日常的な
児童」を対象とした健康相談室スタッフによ
様一子や気がかりな点について解説および参
る授業参観の概要
加者によるディスカッション
【健康相談室スタッフによる授業参観記録
【よくあがってきた気がかりな点の例1
より】=
学習面で遅れがち。
①担任の教員が困難を感じていると推測さ
ほかの児童とかかわろうとしない。
れる状況:
切れやすい。
・全体に落ち着きのない印象。言い争い、
乱暴をする。
ものの取り合いなどが起こっている。
反抗的
・かばんに教科書をしまうのに10分以上
1対1で対応して声かけをしないと課題
かかる。
が進まない。
先生の指示には従えるが、指示が出てい
人のことが気になり、ちょっかいを出す。
ないときには、立ち歩き、おしゃべりが
友人から避けられている。
頻繁。
こだわりが強く、思うようにならないと、
先生が個別に説明しないと、うまく動く
パニックを起こす。
ことができない。
勝手なときに大きな声で話劣
国語の授業中に算数の教科書を読んでい
嘘をつく。
る。
人の嫌がることをする。
廊下へ飛び出すなど突飛な行動をする。
言葉がきつく、周りの子どもたちを傷つ
先生がクラス全体に指示を出していると
ける。
きに周りの友人に話しかけている。
・帰りの会のあと、先生が教室を出て行っ
・宿題をやってこない。
身支度がほとんどできない。
てからも児童が残っており、喧嘩などが
動作が遅く、全体に間に合わない。
起こっていた。
「気持ち悪い」とすぐ訴える。
②担任教員の働きかけで、学級の状況が改善
忘れ物が多く、整理ができない。
したと推測される状況
「痛み」を頻繁に訴える。
・学習面で心配だった児童が、先生の対応
体力がなく自信がない。
(「理解している児童がまだ狸解できて
家庭と連絡をとっても連絡がとれない。
いない児童にわかりやすく教える」こと
【話し合いの結果試みた対応】:
を指導する)によって、周りの児童がそ
全体的に「声かけ」を増やす。
の児童の勉強を協力してサポートする体
わかりやすい、具体的な「指示」を工夫
制ができていて、周囲の児童と仲良く遊
一87一
んでいる。
対応についての工夫:「何をする時間か」に
・ 「気がかりな児童」は多いクラスである
っいて、あらかじめわかりやすく説明する。
が、なるべく個別に対応している。個別
事例4(中学年男児):授業中、思いついた
といっても放課後の補習などではなく、
ことを口にしてしまい、一言多い。
進度の速い児童にはそれを褒め、自信を
対応についての工夫:「授業中言いたいこと
持たせ、児童の意見は無視しないで一度
があるときは、必ず手を挙げて、先生にあて
はやってみて、一緒に考える(変わった
てもらってから話すこと」というルールをク
意見で童)けなさない)。児童は楽しく手を
ラスの児童に徹底する。よく見えるところに
挙げ、自分の意見を言っていた。
ルールを書いて貼づておく。
4)希望する担任教員との個別面接:
事例5(中学年女児):微熱が続き、不登校
奎例1(高学年男児):学業の問題があり、
ぎみ。母に送られてやっと登校してくる状況,
算数は大体できるが漢字が難しい。1年生の
運動が苦手で、疲れやすい、大縄とびに入れ
漢字はクリアするが、2年生の漢字でひっか
ない、’ボールが嫌い。できるようになると参
かる。書写のノートは5回に3回くらいは母
加する。
親の手をかりて提出できるが、内容について
対応についての工夫:①小児科の受診を薦め
は理解していない様子。時々どの行を書いて
てみる。②体育の大縄とびなどのときは、無
いるかわからなくなっていることがある。計
理強いしないで、ゆっくり慣れる練習の時間
算力はあるが、文章題は難しい。
を作って試みる。
対応についての工夫:①やる気はだんだん出
事例6:(低学年男児)二授業中、授業の課題
てきている様子な0)で、担任教員が「できな
に集中することが難しく、自分の興味のある
いときになるべくがっかりしないように」し、
ほうに関心が移ってしまい、作業が遅くなる。
「少しでもできたときに、褒める」ことを、
担任教員が保護者に学校での様子、困ってい
根気よく繰り返す。②漢字の練習のときは、
ることを伝えた。
すでに書けるようになっている漢字を繰り
対応についての工夫:①課題の難易度を下げ
返し、少しだけ新しい漢字を加えてみる。③
てみる。②全体の課題にこだわらず、その児
「書く」が難しいときは、「読む」をまず練
童が集中して向かえる課題を探す。など提案
習してみる④書写のとき。「書き写したところ
した。
まで」白い紙を当てて隠して書いてみる。
5)相談システム試行に関する先生方からの
事例2(中学年男児):友人関係は問題ない
感想、:
が、宿題をやってこないときに「忘れました」
・ QOL実施から結果のフィードバックの
を担任に伝えることができない。
期間をもう少し短くしてほしい。
対応についての工夫=毎回r宿題を忘れまし
・得点のフィードバックだけになりやすい
た」のせりふを担任の先生が、本人の代わり
が、助言がもづとほしかづた。
に繰り返して言うようにする。
全体会でのフィードバックより学年毎の
事例3(中学年男児)1「何をする時間かわか
フィードバック、話し合いが有効であっ
っていない」。先生のいないときにはふざけ
た。
てしまう。落ち着きがない。
学年単位のディスカッションは「共通理
一一88一
解」に役立った。
れた、難しすぎない課題の提供の工夫。
・結果を家庭へのフィードバックにもつな
などであった。
げる工夫を考えてほしい。
E今後の課題
D。考察
今後の課題として
都内の公立小学校において、小学生版QO
1)支援の効果について客観的な評価をする
L尺度をスクリーニングのツールとして使
こと。たとえば、支援システム導入後の児童
用し、「課題、問題を抱えている」可能性の
のQOLの変化、担任教員の負担感の軽減、
推測される児童を早期に発見し、児童に対す
などの評価を検討することが考えられる。
る支援、担任教員に対する支援が可能になる
2)低QOLの児童および担任教員から見て
ことをめざしして、支援システムを試行した。
気がかりな児童の抱える問題をさらに分析
支援の効果に関する客観的な評価をおこな
し、担任教員にとって実現可能性が高く、具
うまでにはいたらなかったが、
体的な支援のプログラムの開発を試見るこ
①小学生版QOL尺度と担任教員による
と。最近になって、LD児の個別支援にあた
「気がかりな児童」チェックリストによ
り、教師支援プログラムの開発が試みられて
って、支援が必要と予測される児童のス
いるが2)、ほかの様々な課題についても支援
クリーニングが可能であることが示され
の万法、プログラムを検討し、より有効な教
た。
員支援を考える必要がある。
②学年毎、個別の担任教員と健康相談室ス
3)支援システムの中には児童の支援だけで
タッフ、臨床心理士とのディスカッショ
なく、教員自身の困難感の解決、自信の回復
ン、支援は、担任教員から「有効」と感
などについても考慮される必要があり3)教師
じられたことが示されたっ
支援の内容、方法、プログラムについても検
③支援が必要とされる状況の特徴としては、
討する必要がある。また教師・小児科医・心
なんらかの理由で、学級に対する全体的
理士の連携維持の継続性をどのようにして
な指導、が困難になっている状況、児童
いくか。などが挙げられる。今後健康相談室
がなんらかの困難を感じて担任教員に伝
の有効性を示し、経済面、スタッフの手配を
えても、児童と担任教員の問でコミュニ
含め検討していく必要がある。
ケーションがうまくいかない状況などが
F健康危険情報
示された。
なし.
④r低QOL得点の児童」r気がかりな児
G研究発表
童」がクラスにいて、困難が予測される
学会発表
状況においても、担任教員の「関わりの
柴田玲子、根本芳子、松嵜くみ子、 小児科
工夫」によってかなりの変化が生じるこ
医と心理士による「健康相談室」の開設 第
とが示された。その工夫の主なものは、
22回目本心理臨床学会自主シンポジウム
i)全体だけでなく個別の丁寧な説明、
皿5.9。12京都
指示の工夫。五)児童一人一人の発言、
意見を「けなさない」「無視しない」で一
H知的所有権の取得状況
度は取り上げる工夫。血)個別に設定さ
なし
一89一
参考文献
1)根本芳子 柴田玲子 松嵜くみ子 小田
島安平 飯倉洋治:公立小学校での小児科
医・心理士による健康相談室の開設.小児保
健研究、62,381−387,2003.
2)海津亜希子 佐藤克敏:LD児の個別の
指導計画作成に対する教師支援プログラム
の有効性一通常の学級の教師の変容を通じ
てr教育心理学研究、52、458−471、2004.
3)松嵜くみ子:教員のQOLと職場のスト
レッサーおよび児童のQOLとの関連.平成
15年度厚生労働科学研究子ども家庭総合研
究事業報告書「健やか親子21推進のための
学校における思春期の心の問題に関する相
談システムモデルの構築(主任研究者 渡邉
修一郎)」、68−71、2004.
一90一
擾業参観雨チエツクリスト
奪
羅入者
月 露( ) 時翼轟 科藁
項暴
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1あてはまらない1やや(ときどき)l l大変(よく) i
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ll レ人でいることが多い
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下
墨
コメント
一91一一
一
i
重
星
年 組 名前
先生用チェックリスト
あてはまらない やや(ときどき)
あてはまる
項目
吐
1
2
3
4
5
6
7
8
9
大変(よく)
あてはまる
一人でいることが多い
いろいろなことを気にする
仲間はずれになりやすい
自分の気持ちを表現するのが苦手
思い込みが激しい
変わった雷動をする
落ち藩きがない
思ったことをすぐ口にだしてしまう
落し物・忘れ物が多い
10
身の回りの整理整頓ができない
11
うそをつく
12
書葉遣いが乱暴
13
規則を守らないことが多い
14
ものを壊したり人壕暴力をふるう(他害)
15
自分の体を傷つける(自傷)
16
不機嫌イライラしていることが多い
17
丁寧な指示が必要
18
体調がよい
19
情緒が安定している
20
自信を持っている
21
家庭が安定している
22
友人関係が安定している
23
1
学校生漬が安定している
24
身づくろいが整っている
25
食事睡眠などの生活のリズムが整っている
愚一に て
国語の達成度
30%以下
算数の遼成度
30%以下
教科全体の達成度
30%以下
一92一
3⑭
70%以上
70%以上
o墨ンo
70%以上