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Title
島根県におけるダニ媒介性感染症の疫学的研究( 内容と審査
の要旨(Summary) )
Author(s)
田原, 研司
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 乙第115号
Issue Date
2012-09-18
Type
博士論文
Version
none
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/48020
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏名(本(国)籍)
推
薦
教
原
田
員
岐阜大学
研
司(島根県)
教授
学 位
の
種
類
博士(獣医)
学
記
番
号
獣医博乙第115号
位
渡
連
学位授与年月日
平成
学位授与の要件
学位規則第3条第2項該当
学 位
審
査
論
文
委
治
雄
24年9月18日
題
島根県におけるダニ媒介性感染症の疫学的研究
員
主査
岐阜大学
教
授
渡
連
雄
副査
帯広畜産大学
教
授
猪
熊
寿
副査
岩手大学
教
授
板
垣
匡
副査
東京農工大学
教
授
藤
川
清
副査
岐阜大学
教
授
石
黒
論
文
の
内
容
の
要
直
隆
旨
我が国におけるダニ媒介性感染症は感染法に規定される四類感染症を中心に,毎年,多数報告
される。中でも死亡例や重症化例の報告がある日本紅斑勲およびつつが虫病は常に報告数では上
位を占める。これら疾患の起因病原体は,ともにRickettsiales目細菌であり,前者はマダニ,
後者はツツガムシが媒介する。島根県では,1999年から2009年までの累計報告数の最も多かった
四類感染症は日本紅斑熱95例,次いでつつが虫病57例である。特に,播種性血管内凝固症候群
を併発した日本紅斑熱の重症化例の報告が多数あり,また,つつが虫病による死亡例が3件報告
され,いずれも公衆衛生上の対策が必要な蒐要な感染症である。このことから本研究では,島根
県におけるRickettsiaies日和蘭等による患者の発生実態,環境中の病原体浸淫状況及び感染リ
スクの疫学的背景を明らかにし,公衆衛生対策に炸することを主目的としている。
第一づ経では,日本紅斑熱症例の免租性を規定する窮境要因の解明を試みている。島根県では,
1987年に本症の初発例が見出されて以降,2009年までに110例の患者が見出されているが,その
全例が県東部日本海側に位置する払根半島で報告され,また,その約93%に相当する102例が島
根半島西端部にある弥山山地内で感染したと寸任定されていたことから,この症例の集拙性を規定
する何らかの環境因子の存在が推定されていた。申評者は,これら患者から見出されるリケッチ
ア種が戯c鹿亡ねJ∂如上c∂であること,また日本紅斑熱心者の地域免租性を規定する因子として
は,フタトゲチマダニの病原体保有率とニホンジカの生息がリスク因子として考えられることを
見出した。これは人獣共通の節足動物媒介性感染症の制御を行う上で極めて重要な発見であり,
今後の島根県内における日本紅斑熱に対する牟衆術生上の対策立案における有益な基礎情報とな
った・と思われる。
第二帝では,つつが虫病について,島根県における本症の感渠小浦型,野鼠の病原体保有状況
について調査研究を行っている。島根県では,1985年から2009年までに96例の塩者が報告され
ているが,県東部斐偏りl憐域でその73%(70例)が見出されるなど,大きな流行地域があること,
また全県的に,患者発生が春3∼5月および初冬11,12月にピークが見られることが知られてい
-200-
た。本研究では,流行地域である県廃部斐伊川流域では肘ゴ飢打∂亡ぶUf∫l聯棚U血Ka叩型のシーク
ェンスタイプである
α
∬-2が主な感染型であることに加え,韓国で症例報告がある
f甜ねと伊皿血Yeo-joo型を見出した。α亡5此ぶ昭此血JYeo-joo型感染例は我が国では,山形県,
秋田凰新潟県の症例に次いで西日本では初めて確認された症例であり,今後本型の浸潤実態解
明について継続的な調査展開が望まれる。その他の地域においても,島根半島の患者1例がα
蝕丑鞘卿肌血Gilliam型のサブタイプ∬感染例であったことを除き,ほとんどがα亡ぶU亡5【柳川U血
Earp型∬-2型感染であることを明らかにした。これらα亡ざUf∫l閉脚血は野鼠からも見出された
ことから,野鼠がこれら病原体の自然卿こおける維持に関与していることも明らかとなった。一
方で野鼠類からはこれまで知られていないα
亡ぶUf∫喝甜日成上のシークエンスタイプが見出された。
今後はこれらα.t5U亡ぶU卵皿血の病原性等について解析が必要であると考えられる。
第三章では,Anaplasmataceae科細菌および励besia屈原虫の野鼠における病原体保有調査を行
ChdIdatus
っている。このなかで,欧州で新興感染症として注目されている
Neoe址1ichia
mikurensisが県内で捕獲された野鼠より検出されたことから,島根県内でも本感染症が潜在して
いる可能性を初めて示した点で公衆衛生上有益な情報となったと考えられる。また,県内各地で
捕粟した野鼠類におけるバベシア原虫の調査から,本県では2つの異なる型のバべシア原虫が存
在することを明らかにした。且扇cm臼Kobe型は調査した範囲では,その分布に限局性が見出さ
れたことから,分布域を規定する何らかの生億学的な因子の存在が推定されたが,これの究明に
は至らなかった。
以上,申請者による研究により,島根県におけるダニが媒介するRickettsiales目細菌および
且血cm打の分布実態の一端が明らかとなった。特に日本紅斑熱においては,足元っ皿ゴc∂を媒介
する主要ダニ種が特定され,その分布がニホンジカの棲息分布と相関している可能性をあきらか
にしたことは,今後の本感染症リスクマネージメントにおいて有益な知見であると考えられた。
審
査
結
果
の
要
旨
本研究は,自然界における人獣共通ダニ媒介性感染症病原体の分布実態を明らかにしヒ
ト公衆衛生上のリスク評価を行うことを主目的としている。
第一章では,島根県における日本紅斑熱の疫学調査を行い,感染リケッチア種の同定,
多数のマダニからの病原体保有調査による病原体媒介マダニの同定,ならびにフタトゲチ
マダニの吸血源動物であるニホンジカの抗体検査等丹念に行い,一連の研究により日本紅
斑熱患者の地域集積的な流行を規定するリスク因子として,フタトゲチマダニの優勢な病
原体保有率とニホンジカの生息相が相関することを我が国で初めて明らかにしたことは極
めて秀逸であると考えられた。一方,ニホンジカの分布が,フタトゲチマダニの病原体保
有率にどのような影響を与えるか等については今後の検討課題であると思われた。
島根県におけるつつが虫病患者の感染血清型,および野鼠類の病原体保有状況に関する
疫学的研究では,肘ゴe月t衰亡5口舌甜卵澗日出JP-2型が島根県では主な感染型であることに
加え,韓国でヒト感染症例の報告がある0.抽丑叫卿肌血Yeo-joo型が島根県にも侵入
していることを初めて明らかにしている。また自然界での主な病原体保有動物である野鼠
類での病原体保有調査の結果はヒト公衆衛生上重要な情報となると考えられた。他方,新
たに見出されたYeo-job型の媒介つつが虫の同定等は今後の課題と考えられた。
第三章では,アナプラズマ科細菌およびバべシア属原虫の野鼠における病原体保有調査
を行っている。この中で,欧州で新興感染症として注目されている
胸oe力rJ上c最∂
皿ゴムure月ぶi5を野鼠類より検出し,島根県内でも本感染症が潜在している可能性を初めて明
らかにした。また,バベシア原虫の調査では,本県では2つの異なる型のバべシア原虫が
存在することを発見しており,島根県内でのこれら感染症サーベイランスにおいて重要な
-201-
基礎情報となったと思われる。
以上,本研究により,島根県におけるダニ媒介性リケッチア目細菌およびバべシア属原
虫の分布実態の一端が明らかとなった。特に,日本紅斑熱においては,βゴcAe亡f∫i∂力po扇c∂
を媒介する主要ダニ痙が特定され,その分布がニホンジカの棲息分布と相関することを明
らかにしたことは,本感染症のリスクマネージメントにおいて有益な知見になるものと評
価した。
以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論
文として十分価値があると認めた。
基礎となる学術論文
目:
1)題
Molecular
Of Babesia
microti,Ehrlichia
CandiddtusNeoehrlichiamikurensisinwi1drodents丘omshimane
survey
species
and
Prefecture,Japan
著
名:
者
Tabara,K.,Arai,S.,Kawabuchi,T.,Itagaki,A.,Ishihara,C.,Satoh,
H.,Okabe,N.andTsqii,M.
学術雑誌名:
MicrobiologyImmunOlogy
巻・号・貢・発行年月
51(4):359-367,2007
目:
2)題
Highincidence
of
rickettsiosis
correlated
to
prevalence
Rickettsiajqponica訂nOngLh7emqP7palislongicornistick
著
者
名:
Tabara,K・,Kawabata,H.,Arai,S.,Itagaki,A.,Yamauchi,T,,
Katayama,T・,F両ita,H・andTakada,N.
学術雑誌名:
TheJournalofVetennaryMedicalScience
巻・号・頁・発行年月
73(4):507-510,2011
目:
島根県におけるつつが虫病の疫学的検討
名:
田原研司,川端寛樹,安藤秀二,新井智,板垣朝夫,渡追治雄
3)題
著
者
学術雑誌名:
日本獣医師会雑誌
巻・号・頁・発行年月
65(7):535-541,2012
既発表学術論文
目
1)題
二
島根県西部で発生したA養鶏場の卵が原因と推定された
鮎加70乃e肋g乃毎γiffゐによる食中毒の疫学的考察
著
者
名:
学術雑誌名:
日本食品微生物学会雑誌
巻・号・貫・発行年月
目:
2)題
保科健,田原研司,板垣朝夫,関龍太郎,足立行,奥野栄,村
上佳子,松本紹生,伊藤耕,坂根英子,柳俊徳,笹木正夫,斉
藤真理子,泉谷秀昌,寺島淳,渡逓治雄
19(1):27-31,2002
Anoutbreakofmixedinfbctionofenterohemorrhagic血cherichia
COliO26:Hlland
Shimane,Japan
著
者
名:
genOgrOuPIIat
noroviruS
Iizuka,S.,Tsunomori,Y.,Tabara,K.,Tsuda,K.andFukuma,T.
学術雑誌名:
JapaneSeJoumalofIn氏ctiousDiseases
巻・号・頁・発行年月
58(5):329-330,2005
ー202-
a
kindergartenin
of
目:
3)題
NovelgeneticvariantSOfAnqplasmaphagoり′tqPhilum,An呼Iasma
bovis,Anqplasmacentrale,andanovelEhrlichiasp・inwilddeer
andticksontwom年lOrislandsinJapan
著
名:
者
Kawahara,M.,Rikihisa,Y.,Lin,Q.,Isogai,E.,Tahara,K.,Itagaki,
A.,Hiramitsu,Y.andT年iima,T.
学術雑誌名:
AppliedandEnvironmentalMicrobiology
巻・号・頁・発行年月
72(2):1102-1109,2006
目:
4)題
EpidemiologicalstudyofJapaneSeSPOttedfeverandtsutsugamuShi
diseaseinshimanePreftcture,J
著
名:
者
Tabara,K.,Hoshina,K.,Itagaki,A.,Katayama,T.,Fltiita,H・,
Kadosaka,T.,Yan0,Y.,Takada,N.andKawabata,H.
学術雑誌名:
JapaneSeJournalofInfectiousDiseases
巻・号・頁・発行年月
59(3):204-205,2006
目
5)題
AnoutbreakofgroupCrotaviruSinftctioninanelementaryschool
inshimanepreftcture,Japan,February2006
著
名
者
Iizuka,S.,Tabara,K.,Kawamukai,A.,Itogawa,H.andHoshina,
K.
学術雑誌名
JapaneseJournalofInftctiousDiseases
巻・号・貢・発行年月
59(5):350-351,2006
目:
6)題
著
者
名:
AnoutbreakofpsittacosisinabirdparkinJapan
Matsui,T.,Nakashima,K.,Ohyama,T.,Kobayashi,J・,Arima,Y・,
Kishimoto,T.,Ogawa,M.,Cai,Y・,Shiga,S・,Ando,S・,Kurane,Ⅰ・,
Tabara,K.,Itagaki,A.,Nitta,N.,Fukushi,H.,MatsumOtO,A・and
Okabe,N.
学術雑誌名:
EpidemiologyInfection
巻・号・頁・発行年月
136(4):492-495,2008
目:
7)題
Detection
of
sapoviruSeS
and
norovirusesin
gastroenteritislinkedgenetica11ytoshell五sh
著
名:
者
Iizuka,S.,Oka,T.,Tabara,K.,Omura,T.,Katayama,K・,Takeda,
N.andNoda,M.
学術雑誌名:
JournalofMedicalVirology
巻・号・貢・発行年月
82(7):1247-1254,2010
目;
8)題
DetectionofhumanmetaPneumOViruSgenOmeSduringanOutbreak
Ofbronchitisandpneumomiainageriatriccarehomeinshimane,
Japan,inautumn2009
著
者
名:
0mura,T.,Iizuka,S.,Tabara,K.,Tsukagoshi,H.,Mizuta,K.,
Matsuda,S.,Noda,M.andKimura,H.
学術雑誌名:
JapaneSeJournalofInftctiousDiseases
巻・号・頁・発行年月
64(1):85-87,2011
-203-
an
outbreak
of
9)題
目:
DivergentanCeStrallineagesofnewfbundhantavirusesharboredby
Phylogenetica11yrelatedcrocidurineshrewspeciesinKorea
著
者
名:
Arai,S.,Gu,SH.,Baek,LJ.,Tabara,K.,Bannett,SN.,Oh,HS.,
Takada,N.,Kang,HJ.,Taya,T
Yanagihara,R.andSong,J・W.
学術雑誌名:
Virology
巻・号・貢・発行年月
424(2):99-105,2012
-204-
K.,Morikawa,S.,Okabe,N.,