複雑地形における風車の性能評価に関する研究 Evaluation of Wind Turbine Performance Testing on Complex Terrain 松下大介(機械工学・助教) Daisuke Matsushita (Assistant Professor, Department of Mechanical Engineering) 派遣先: DEWI (Deutsches Windenergie-Institut) 派遣期間:2010/08/26-2010/10/30 研究のキーワード:風力発電,複雑地形,CFD,性能評価 Keywords: Wind turbine, Performance measurement, Site calibration, Complex terrain, CFD 1. Introduction Wind energy is one of useful clean energy which reduces the discharge of CO2 emission in the world. In Japan, renewable energy is only a small percentage of the energy supply although there are some government policies of reduction of CO2. On the other hand, in Germany, by some kind of government sponsorships of renewable energy for long periods and the supply of wind energy is increase as well as PV and biomass energy[1]. As research aspect, there are not so much reliable data for a meteorological measurement because of no obligation for performance measurement of wind turbine in Japan. One of problem for wind turbine in Japan is the terrain complexity of a wind turbine site. The international standard document for performance measurement of wind turbine IEC61400-12-1[2] can not be applied for the most of the site in Japan. A new technology for the performance measurement is the numerical site calibration[3]. There are some round robin tests for the estimation of the velocity by CFD[4]-[6]. The author is attending the one of the test as team UNJ that is held by DEWI which is a research institute of wind energy in Germany. During the stay, several cases of numerical site calibration are performed and discussed for the wind turbine site on complex terrain and some knowledge for the performance measurement are obtained. 2. Results and discussion One of the test sites is located in a place of relatively loose topographical change in Japan and another one is almost flat terrain but surroundings are steep topography. Furthermore several sites are considered. In order to obtain the flow correction factor that is defined as a ratio between a wind velocity at the position of reference mast and a wind velocity as the position of wind turbine position, a commercial flow simulator for complex terrain is used. The de facto standard of CFD tool for complex terrain in Europe is WAsP. However, the adaptation for the complex terrain is very difficult because the WAsP is non-linear tool. There are many parameters for the simulation and the results are affected by small change of those parameters. Many cases of parameter study are carried out and as the result, the influence of (1) grid matching (2) meteorological effect (3) statistical procedure (4) effect of distance between the masts are discussed. Most of uncertainties of the flow correction factor are cause by CFD procedure, but there is some case of which site calibration has large uncertainty although the measurement data has high reliability. Figure 1 shows the one of the wind turbine site in Europe. The mast 1 is reference mast and the mast0 and mast2 are target mast. The distances among the masts are larger than a value which is described in IEC document. Furthermore, as shown in Fig.2, the flow correction factors are difference value for each mast in spite of the terrain is almost flat in the direction of south wind. In that direction, it is clear that a treatment of difference of meteorological condition is important. Similar results are obtained by an analysis for the other wind turbine site. 3. Summary The one of a new procedure for the performance measurement of wind turbine is tested. Measurement data with high reliability is supplied by DEWI. The numerical site calibration may be substitution technique for the estimation of the wind velocity at the hub height of the wind turbine. In the case of which the complexity of the site is not so complex and large distance between the masts, the meteorological effect should be considered as same as the effect of terrain change. 1.研究の概要 2.研究の内容および成果 長期的な視点からCO2問題やエネルギー資源を論 じれば,クリーンエネルギーの中でも再生可能エネ ルギーの有効利用が重要であると考えられるが,日 本においては,長期にわたる安定した政策がとられ ているとは言えないのが現状である.一方,ドイツ では再生可能エネルギーに対しては20年間の全量 固定価格買い取り制度などの政策により,メーカー の開発計画や投資および雇用などの面での安定感 があり,風力・太陽光・バイオマスなどによる発電 量は年々増大している[1]. 風力発電においてもドイツは技術先進国であり, 北部の平坦な牧草地や畑に多くのウインドファー ムがある.また北海の水深の浅い地域の利点を生か して大型の洋上風車も急速に建設が進んでいる.同 時に風況観測や性能計測におけるIEC標準の履行が 義務であるために信頼性の高いデータを有してい る. 一方で日本においては,台風や雷などの厳しい気 象条件がある上に,複雑地形に風車を設置するケー スが多く,また性能計測の義務がないために正しい 風車性能を評価することが非常に困難な状況であ る.風車の性能は,風車ハブ高さにおける風速を用 いて評価されるが,平坦地でない風車サイトでは IEC61400-12-1に記載されたサイトキャリブレー ションの手順に従って,近傍の風況観測マストの データから風速を見積もる必要がある[2].しかし近 年の風車大型化によりコストが増大し,また複雑地 形においては不確かさが増大するなどの問題が生 じてきている. そこでCFD技術を用いて風車への流入風速を見積 もる手法が数値サイトキャリブレーション [3] であ り,国内外で複雑地形サイトにおける実測データと の比較などにより精度や不確かさの検討が行われ ている[4]-[6]. 派遣者は,ドイツの研究機関であるDEWIにより行 われたラウンドロビンテストに日本から産学連携 チームで参加した経緯から,今回の派遣先を決定し た.日本で行われたラウンドロビンテストでの検討 内容,およびDEWIにより行われたサイトにおける再 解析データについて議論を行うことで,数値サイト キャリブレーションにおける信頼性や課題等の情 報を共有し,またヨーロッパにおける複雑地形サイ トでの信頼性の高い観測データを用いて同様の解 析を行うことを目的とした. 複雑地形における風車性能評価における,数値サ イトキャリブレーション技術に関しては,計算パラ メータや地形解像度等のCFDに関する不確かさに加 え,実測データの解析や不確かさ評価も重要な要素 であることがわかった. 2.1.概要 本派遣における研究内容は,風力発電 における性能評価手法のベースとなる風車流入風 速の見積もりに関するものである.これに関しては, 国際標準化文書であるIEC61400-12-1に,平坦地で ないサイトに関してはサイトキャリブレーション による風速補正手法の記載があるが,日本の多くの 風車サイトにおいては地形複雑度が大きく適用で きないケースが多い.また,日本では風車サイトに おける性能評価が義務でないため,解析に十分な不 確かさを持つ実測データを得ることが難しい. DEWIでは,ヨーロッパを中心に世界中の多くの風 車サイトでの観測実績を持ち,数値サイトキャリブ レーションに対して詳細な比較をできるデータを 有している.本派遣期間では,過去のラウンドロビ ンテストの再解析およびより複雑地形サイトにお ける比較検討を行った. 2.2.CFDツール 今回の数値サイトキャリブレー ションには,商用の流れ場シミュレーションツール であるRIAM-COMPACTを用いた.これはLESを利用し た非定常・非線形ツールであり,複雑地形により発 生する複雑流れ場を表現できることが利点である. 今回の滞在期間においては,数地点間の流入風向ご との平均風速比のみを比較対象とした. 2.3.比較サイト IEC文書におけるサイトキャリ ブレーションと数値サイトキャリブレーションと の比較には,まず日本の比較的複雑度の低いサイト の 解 析 結 果 を 元 に , DEWI の Performance measurement 部 門 お よ び Micrositing international部門の研究者と比較検討内容および 解析手順について方針をたて,次にラウンドロビン テストサイトの再解析を行った結果を踏まえて, DEWIが観測データを所有する複数の風車サイトか ら選定したサイトにおいてシミュレーションおよ び議論・考察を行った. 2.4.結果および考察 図1にDEWIによるラウンド ロビンテストサイトを示す.周囲が複雑地形である が,観測マスト周辺は平坦に近い地形となっている. ここに高さ43mの参照マストM1および高さ80mの対 象マストM0およびM2が設置されている.マスト間距 離は,IEC文書のサイトキャリブレーション手順に おける基準値である風車ロータ径の2~4倍と比較 して大きな値となっている. 図2に参照マスト風速基準の風速補正係数を示す. 白抜きのプロットが観測データ(サイトキャリブ レーションデータ),中実プロットがCFDによる値 (数値サイトキャリブレーションデータ)であり, △がマスト0位置,□がマスト2位置の係数である. 観測データのプロットのない風向は,風速計が観測 マスト後流の影響を受けるため性能評価から除外 する風向である.結果のグラフからは,特に距離の 遠いマスト2においてサイトキャリブレーションと の誤差が大きいことがわかる. 誤差要因としては,いくつかの観点から検討を 行った結果,ソフトウエアによるマスト周辺グリッ ドサイズの影響,マスト位置間の気象条件の相違, 統計データの算出手法の影響,マスト間距離が大き いことによるサイトキャリブレーションデータの 不確かさなどの影響が考えられる.特に気象条件に 関しては,各マスト位置の風配図からも異なった風 況であることが確認され,このようなケースにおい ては,工学モデルのみでなく気象モデルとの組み合 わせの方が有効であると考えられる. DEWIが有する多くのサイト地形および観測デー タ等からも,サイトキャリブレーションおよび数値 サイトキャリブレーションにおける信頼性確保が 困難なサイトが多く存在することがわかり,今後よ り一層の手法の改良等が必要であることが分かっ た. 3.派遣経験 本派遣期間は約2カ月と短かったため,スムーズ に研究を開始できるように事前の準備を行った結 果,到着翌日から問題なく研究を進めることができ た.具体的には,事前にプランとタイムスケジュー ルを,結果が失敗であったケースも想定して受け入 れ先の担当者とメールでやり取りしていたことと, 九大の研究室のパソコンへリモートアクセスでき るようにしておき,負荷の高い作業を持参のノート PCでさせないようにしたことである. またディスカッションをスムーズに進めるため に,解析結果を説明する際には,その都度レポート を作成して内容を理解しやすいように工夫をした. 組織にはドイツ以外の国籍の研究者やゲストも多 く,英語のみで十分コミュニケーションが可能で あった. DEWIを含め,ヨーロッパの風力関連の研究所では, 国際標準化のIEC文書以外にもノウハウをまとめた 資料等を持っており,風況観測などについては実績 のある手法が定着しているようで,国内のディス カッション等で疑問に感じていた観測手法および 統計処理についての質問についても,明確な回答を 得られたことは有意義であった. DEWIでは今年度に一部移転を行ったOldenburg支 部(図3)に滞在し,主に性能計測とCFDを用いたサ イト選定の部門の研究者と関わった.女性研究者の 割合も高く,大学の研究室のようなノリではないが, みな陽気で非常に親切であった.今回は洋上風力部 門については訪問できなかったが,新人研修に同行 して,国内には施設がない風車性能試験サイト(図 4)を訪問した際に,風況観測マストや風速計等の 機器設置に関する計測などを体験し,今後の計測に おける有益な知見を得ることができた. 北部ドイツでは,ウインドファームは平坦地の畑 や牧草地にあり,多くが2MW以上であった.ドイツ においても日本と同じように陸上での風力発電容 量は限界に近いことが知られているが,出力の低い 風車を建て替えることで発電規模を拡大している 点で日本の政策と大きな違いを感じた.ドイツでの 昨年度の風力発電の新規設置容量は約1.9GWで,こ れは日本の総容量とほぼ同じ規模である.世界最大 級の風車があるEmdenでは,6~7MWの風車(図5)を 見学したが,台風や落雷のある日本の風車とは設計 指針が異なっているようで,体感的にはかなり騒音 レベルが低いと感じた. 滞在期間中に,2年毎に北部Husumで行われてい る世界最大規模の風力展示会(図6)に参加したが, 大きなビジネスの場でもあり熱心な質問や交渉等 を見ることができた.ここで資料収集に最も熱心で あったのは,今や世界最大の風力市場となっている 中国のビジネスマンであった. ドイツでの滞在で実感したことは,節水,節電, リサイクル意識の高さであった.再生可能エネル ギーの先進国であるが,有限の資源についての取り 組みも参考にすべき事項であると考えられる.また, Oldenburgは近郊都市のBremenと同様,自転車道の 面積割合がドイツで最も高い都市であり,主に歩道 上の車道側に歩道と異なるブロックで自転車道が 確保されていた.交通弱者に対するマナーも日本と は比較にならないほど良く,多くの列車に自転車を 持ち込める車両が確保されていることもあり,自転 車が有効利用されていることを実感した. 本派遣によって,数値サイトキャリブレーション 技術に関する有益なデータを得られたこと,計測に おける様々なノウハウを得られたことは,クリーン エネルギーに関する研究テーマを持っている立場 として非常に有意義なものとなった.また,公私と もにコンタクトをとれる研究者がドイツにできた ことはヨーロッパが風力研究の先進国である事を 鑑みても,今後の研究活動において有益であると考 えられる.今回の研究内容についての論文化を含め, 今後の連携を密にとる予定であり,学生や他研究者 にとっても有益な人間関係を構築していこうと考 えている. Mast0 (Z=646m, H=80m) Mast1 (Z=681m, H=43m) Mast2 (Z=699m, H=80m) Fig.1 Site arrangements Fig.6 Husum wind energy 2010 References Fig.2 Flow correction factors Fig.3 DEWI Oldenburg office Fig.4 Test site Fig.5 Emden [1] ”Renewables 2010 Global Status Report”, REN21, 2010. [2] IEC, “IEC61400-12-1, Wind turbines – Part 12-1: Power performance measurements of electricity producing wind turbines”, 1st Ed., 2005. [3] H, Matsumiya, D., Matsushita, et. al., "Wind Turbine Performance Measurements in Complex Terrain with CFD Application", Annual Report of the Faculty of Engineering Kyushu University, pp46-56, 2007. [4] F. Durante, V. Riedel, U. Bunse, P. Busche, H. Mellinghoff, “Round robin numerical flow simulation in wind energy, Part 1: Description of test”, DEWI magazine No.31, pp19-26, 2007. [5] V. Riedel, F. Durante, “Round robin numerical flow simulation in wind energy, Part 2”, DEWI magazine No.32, pp12-26, 2007. [6]飯田,松宮,松下ほか,”風車性能評価のための数 値サイトキャリブレーションの検討”, 第29回風 力エネルギー利用シンポジウム講演論文集, pp255-258, 2007.
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