東北地方太平洋沖地震において被災した RC 造建物の柱 - 塩原研究室

23338
日本建築学会大会学術講演梗概集
(東海) 2012 年 9 月
東北地方太平洋沖地震において被災した RC 造建物の柱梁接合部の検証
正会員
柱梁接合部
軸力
東北地方太平洋沖地震
鉄筋コンクリート
○沖原圭佑*
正会員
塩原等**
柱梁曲げ強度比
概要
2012 年東北地方太平洋沖地震で被害を受けた旧基準で
り大破と判断されている。地上 5 階以上は RC 造で最小の
設計された仙台市内の 9 階建 RC 造集合住宅と現行基準で
は 3 階以上にも見られ RC 造の 5 階以上の桁行き方向の外
設計された 4 階建および 3 階建ての RC 造学校校舎を取り
周の十字形柱梁接合部に斜め亀裂が生じ仕上げのタイル
上げ、柱梁強度比が 1.0~1.5 の範囲では、柱梁接合部に架
の剥落と接合部中央部のコンクリート圧壊が見られた。
構変形が集中するという理論的予測*1 を考慮して柱梁接合
2.2 RC 造校舎
図 6 は 1985 年に竣工した 4 階建 RC 造の学校校舎(以下、
1.
部の被害要因を検証する。
2. 建物概要及び被害状況
2.1 SRC 造集合住宅
図 1 は、1969 年に竣工した SRC 造建物で、1・2 層は事
務所、3 階以上は中廊下形式の住宅の共用型集合住宅であ
る。顕著な被害は SRC 造の 1 階柱脚部の破壊(図 3)であ
Is 値は 0.3 程度であり、耐震補強は未実施であった。損傷
旧校舎という)、図 11 は 1992 年に増築された 3 階建 RC
RFL
4FL
⴫3ෳᾖ
3FL 3600
3600
2FL
1FL 3600
G.L.
SRCㅧ㋕㛽
9FL
Σ
ΣU
ΥU
Σ
Σ
Σ
Σ
Σ
Σ
ΣU
Σ
Σ
Σ
Σ
ΤU
Τ
ΤU
Σ
Σ
Σ
Σ
Σ
Σ
4500 ‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫ޖ‬
‫= ޖ‬OO?
X1
X2
X3
X4
X5
X6
X7
X8
X9
X 10 X 11 X 12 X 13 X 14 X 15 X 16
⴫1࡮2ෳᾖ
࿑2ෳᾖ
RFL
図 6 旧校舎 Y1 通り軸組図 及び 損傷度
2800
8FL 2600
7FL 2600
&
6FL 2600
5FL 2700
4FL 2700
2750
3FL
3300
2FL
1FL
G.L.
࿑10ෳᾖ
3600
ΦU
ΦU
ΦU
ΤU
Σ
Σ
ΣU
ΣU
Σ
‫ޖ‬
X7
‫ޖ‬
X6
‫ޖ‬
X5
ΣU
Σ
‫ޖ‬
X4
&
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ΦU
5400
X8
ΦU
ΦU
3600
&
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ΤU
‫ޖ‬
X3
ΣU
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Τ Υ
Τ
‫ޖ‬
X2
図 7 2F X10-Y1 柱梁 断面図
図 8 壁破壊
図 9 柱のせん断破壊
図 10 3F X10-Y1
接合部の損傷
‫ޖ‬
X1
X0
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図 1 SRC 造集合住宅 Y4 通り軸組図 及び 損傷度
&
&
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RFL
3FL
&
᪞ᢿ㕙 [mm]
図 2 7F X4-Y4 柱梁 断面図
2FL
図 3 柱脚部の破壊
1FL
G.L.
3600
3600
3600
X2
4500
‫ޖ‬
X3
‫ޖ‬
X4
‫ޖ‬
X5
‫ޖ‬
X6
‫ޖ‬
X7
‫ޖ‬
X8
[mm]
‫ޖ‬
X9
X 10
図 11 新校舎 Y11 通り軸組図
&
図 4 柱のせん断破壊
図 5 接合部の損傷
&
JQQR
ᩇᢿ㕙
&
=OO?
᪞ᢿ㕙
図 12 X9-Y11 柱梁 軸組図
Analysis on Beam-Column Joints in Reinforced Concrete Buildings
Damaged during the 2011 Tohoku-Chiho Taiheiyo-Oki Earthquake
― 723 ―
図 13 非構造壁のひび割れ
OKIHARA Keisuke, SHIOHARA Hitoshi
造の校舎(以下、新校舎という)である。どちらも現行耐
構造の雑壁や完全スリットが設けられていない袖壁付き
震基準で設計されているが 4 階建て旧校舎の被災度は小
柱のせん断破壊が生じたものと考えられる。つまり、腰
破で、地震直後は継続使用できなかった。主な被害は袖
壁にスリットを設けた層にスリットの施していない非構
壁付き柱のせん断破壊、雑壁・柱のせん断破壊(図 8・9)
造の雑壁など剛性の高い要素が共存するとそこに著しい
であった。また 3 階床レベルで十字形柱梁接合部に斜め
損傷が生じるので、構造設計上注意が必要である。
亀裂の発生が多く見られた(図 10)。一方同じ敷地内の 3
新校舎 2 階の柱及び梁の断面図と各部材強度及び曲げ
階建て新校舎は、旧校舎に似た平面を有するが被災度は
強度比を図 12 と表 4 に示す。新校舎の柱寸法と配筋量は
軽微で、非構造壁にひび割れ(図 13)が生じた程度で継続
旧校舎とほぼ同じであり梁の主筋量が少ないが、その結
使用されていた。
果柱梁強度比は 2.0 以上が確保された。そのため、架構の
3. 柱梁接合部の分析
3.1 集合住宅
7 階の柱及び梁の断面図を図 2 に、靱性保証型指針*3(以
剛性が確保され応答変位が減少し、旧校舎と同様に腰壁
に完全スリットが設けられ雑壁が存在するにも関わらず、
非構造壁の損傷の程度は軽微に留まった可能性がある。
下、「指針」という)で計算した部材強度と柱梁強度比を
表 1 と表 2 にそれぞれ示す。表 1 は床荷重を柱が全て負
表 3 各部材強度及び曲げ強度比(X10-Y1)
担するとして算定した軸力を用い、表 2 は戸境の連層耐
柱
(kN-m)
震壁も床荷重を負担するとした場合である。接合部せん
断余裕度は 2~3 であり指針で接合部破壊は説明できない。
柱が全荷重を負担するとして求めた柱梁強度比を計算す
ると 2.0 以上となり、戸境の連層耐震壁も床荷重を負担す
るとした場合、柱梁強度比は 1.3~1.7 程度となった。既往
の研究では、柱梁強度比が 1.0 に近い値のときに柱梁接合
RF
4F
3F
2F
1F
表れることが実験*2 により確かめられており、このことも
柱梁接合部の損傷が大きい原因であると考えられる。
表 1 強度及び曲げ強度比(柱が軸力を全て負担)(X4-Y4)
柱
(kN-m)
9F
8F
7F
6F
5F
767.0
946.8
1103.1
1208.1
1463.2
梁
上端引張
(kN-m)
401.8
526.1
555.1
740.9
778.1
梁
下端引張
(kN-m)
279.9
404.1
434.3
541.2
778.1
接合部
柱梁
設計用応力
強度比
(kN)
2.51
324.1
2.20
445.3
2.34
432.9
2.08
571.4
1.97
667.1
接合部
強度
(kN)
1205.4
1205.4
1259.4
1349.4
1764.2
接合部
余裕度
3.72
2.71
2.91
2.36
2.64
表 2 強度及び曲げ強度比(壁の軸力負担を考慮)(X4-Y4)
柱
(kN-m)
9F
8F
7F
6F
5F
663.5
747.7
820.9
859.0
1025.9
梁
上端引張
(kN-m)
401.8
526.1
555.1
740.9
778.1
梁
下端引張
(kN-m)
279.9
404.1
434.3
541.2
778.1
接合部
柱梁
設計用応力
強度比
(kN)
2.07
324.1
1.69
445.3
1.70
432.9
1.47
571.4
1.36
667.1
接合部
強度
(kN)
1205.4
1205.4
1259.4
1349.4
1764.2
接合部
余裕度
3.72
2.71
2.91
2.36
2.64
梁
下端引張
(kN-m)
285.2
480.4
593.8
593.8
接合部
柱梁
設計用応力
強度比
(kN)
0.73
469.4
1.07
1149.1
1.00
1580.8
1.09
1580.0
接合部
強度
(kN)
1562.8
2232.6
2232.6
2232.6
接合部
余裕度
3.33
1.94
1.41
1.41
表 4 各部材強度及び曲げ強度比(X9-Y11)
柱
(kN-m)
部の破壊が生じると予測されており*1、一つの要因となる。
また、偏心接合部では、柱梁接合部の破壊がより顕著に
414.6
613.2
667.9
721.2
梁
上端引張
(kN-m)
285.2
480.4
684.9
684.9
RF
3F
2F
1F
594.6
648.0
700.1
梁
上端引張
(kN-m)
280.5
280.5
280.5
梁
下端引張
(kN-m)
280.5
280.5
280.5
接合部
柱梁
設計用応力
強度比
(kN)
1.06
380.8
2.21
419.5
2.40
319.9
接合部
強度
(kN)
1542.0
2202.9
2202.9
接合部
余裕度
4.05
5.25
6.89
4. まとめ
2012 年東北地方太平洋沖地震で被害を受けた建物の地震
被害と柱梁接合部の設計の分析から以下の知見を得た。
1.
現行設計基準の柱梁接合部のせん断余裕度が 2 から
3 程度と十分に規定を満たしていても柱梁接合部に
破壊が生じることがある。
2.
靭性骨組の設計では、腰壁にスリットを設ける一方
で同じ層に対策を施していない非構造の雑壁など剛
性の高い部分が共存するとそこに著しい損傷が生じ
注意が必要である。
謝辞
本研究を行うに当たって独立行政法人都市再生機構東日本支
社及び仙台市に構造図面、耐震診断結果、耐震改修基本設計結果を
ご提供いただいた。ここに記して関係各位に謝意を表する。
参考文献
*1 塩原等:鉄筋コンクリート柱梁接合部:梁曲げ降伏型接合部の耐
3.2 学校校舎
旧校舎 2 階の柱と梁の断面図を図 7 に、この建物の各
部材強度及び柱梁曲げ強度比を表 3 にそれぞれ示す。柱
に対して梁の鉄筋が比較的多いが、接合部せん断余裕度
は 1.4~3.3 と大きい。一方、十字形柱梁接合部の柱梁強度
震設計. 日本建築学会構造系論文集,第 74 巻第 640 号,2009 年 6 月,pp.
1145-1154.
*2 楠原文雄,松土智史,塩原等,壁谷澤寿一,福山洋:柱幅か 大きく柱
梁曲け 強度比か 小さい鉄筋コンクリート造十字形柱梁接合部の実
験. 日本建築学会大会学術講演梗概集 (関東) 2011 年 8 月, pp. 531532.
比は 0.7~1.0 である。そのため柱梁接合部に変形が集中し
*3 鉄筋コンクリート造建物の靱性保証型耐震設計指針・同解説:日
て架構剛性が低くなり、同じ層で相対的に剛性の高い非
本建築学会
* 東京大学大学院工学系研究科 修士課程
** 東京大学大学院工学系研究科 准教授
* Graduate Student, School of Engineering, The University of Tokyo
** Associate Prof., School of Engineering, The University of Tokyo
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