IMO 海上安全委員会 MSC84(ロンドン) - 海上技術安全研究所

参加会議:国際海事機関(IMO)第 84 回海上安全委員会(MSC 84)
会議期間:平成 20 年 5 月 7 日~5 月 16 日
会議場所:英国ロンドン IMO 本部
海上技術安全研究所からの出席者
吉田公一(国際連携センター長)
主な貢献
吉田は、ゴールベースの新造船建造基準(GBS)、防火小
小川剛孝(目標指向型構造基準研究プロジェクトチーム
委員会(FP)、設計設備小委員会(DE)及び液体気体貨物輸
/国際連携センター 主任研究員)
送小委員会(BLG)の報告に関する審議に参画した。
GBS では、吉田が日本の代表として参加している専門
前列中央:吉田、前列右:小川
家グループ(Pilot Panel)が実施した Tier III(船級
規則等の GBS への適合検証)策定作業の中間報告を行っ
た。次回 MSC85 では、油タンカー及びばら積み貨物船を
対象とした仕様的アプローチに基づく GBS 及び関連する
SOLAS 条約案の完成を目指すことを確認した。
また、GBS に関するワーキンググループに参加して、
包括的な GBS の枠組みを議論し、船体構造に焦点を絞っ
た GBS に関する包括的ガイドライン案を作成に貢献し
た。MSC86 までに GBS に関する包括的ガイドライン案の
作成をさらに推進して完成を目指すこと及びセーフティ
レベル・アプローチ(SLA:リスクを物差しとして、達成
すべき船舶の安全性レベルを定量的に設定する規則作成
方式)による GBS の検討を推進することを中心とする今
後の作業計画の策定にも貢献した。
小川は、GBS に関するワーキンググループに参加して、包括的な GBS の枠組みを議論し、船体構造に焦点を絞
った GBS に関する包括的ガイドライン案を作成及び今後の作業計画の策定に貢献した。
これに関して、SLA に基づく GBS の審議を円滑に進めるために、性能ベース非損傷時復原性基準及び構造最終
強度評価を例にとり、最終目標(Top level goal)と機能要件(functional requirements)のギャップを埋め
るための技術的課題の説明等を通じて策定の円滑な進行を促した。さらに SLA による GBS の検討をすすめるため
に、次回以降の会議に更なる研究成果を報告するよう要請された。
また、今次会合において SLF51(今年 7 月 14 日~7 月 18 日)からの新規議題となることが決定した「RORO 旅
客船の損傷時復原性に係る新 SOLAS 条約付属書第 II-1 章見直し」に関して、CESA(欧州造船工業会)等との情
報交換を行った。
主な審議結果
1.ゴールベースの新造船構造基準(GBS)
(1)油タンカー及びばら積み貨物船を対象とした仕様的アプローチに基づく GBS
Tier I(目標)及び Tier II(機能要件)に関しては MSC81 で基本的に合意されている。
現在、次回 MSC85 における SOLAS 条約等関連規則改正案等の承認にむけて、我が国の代表も参加している専門
家グループ(Pilot Panel)が Tier III(船級規則等の GBS への適合検証)策定作業を進めている。今次会合で
は、専門家グループの進捗状況について、国際船級協会連合(IACS)の油タンカーに関する共通構造規則の模擬
プレゼンテーションを実施しつつ、Tier III の検討を進め、本年 12 月に開催予定である次回 MSC85 へ向けて
完成しつつある旨の報告があった。
(2)包括的(generic)な GBS
包括的な GBS の枠組みを議論し、船体構造に焦点を絞った GBS に関する包括的ガイドライン案を作成した。
今後、船体構造以外の分野への GBS の適用を検討する予定である。我が国は、性能ベース非損傷時復原性基準及
び構造最終強度評価を例にとり、最終目標(top level goal)と機能要件(functional requirements)のギャ
ップを埋めるための技術的課題の説明等を通じて策定の円滑な進行を促した。また、我が国は、次回以降の会議
に更なる研究成果を報告するよう要請された。
(3)GBS に関する今後の作業計画
次回 MSC85 では、油タンカー及びばら積み貨物船を対象とした仕様的アプローチに基づく GBS 及び関連する
SOLAS 条約案の完成を目指すことを確認した。また、MSC86(2009 年 6 月)までに GBS に関する包括的ガイドラ
イン案の作成をさらに推進して完成を目指すこと及び(2)の我が国の研究成果を含めた SLA による GBS の検討を
推進することを中心とする今後の作業計画を作成した。
2.船舶長距離識別追跡システム(LRIT)関連
LRIT の各種技術仕様について概ね審議を完了するとともに、本年 7 月に関係国等で開始予定のシステム試験
について実施要領等の方針を了承した。
システム実施に向けた最重要課題である各国間の経費負担の枠組みについては、旗国、入港国及び沿岸国が利
用度に応じてデータ通信料を負担するとの原則に合意した。しかしながら、何れの国にも利用されなかったデー
タの取り扱い等コスト負担方法の詳細については先進国、途上国、便宜置籍国といった立場による主張の違いを
完全に埋めることはできず、今後も検討を継続することとした。
また、コーディネータとして LRIT に参加することとなっている IMSO(国際移動衛星通信機構)の監査業務に
ついては、各データセンター(DC)が必要なデータを年 1 度 IMSO に提出し、これを解析する方法で行うことと
したが、コーディネータの業務内容と必要経費について更なる検討を要請した。
船上搭載装置について、LRIT としての型式承認取得機器を搭載する方法に加えて、無線設備として型式承認
を得ているインマルサット等の既存機器に対しては LRIT 機能の船上試験により条約要件への適合性を確認する
ことができるとする回章が承認された。
3.SOLAS条約等の改正の採択
採択した強制要件の改正のうち、主なものは、以下のとおり。何れの改正も 2010 年1月1日に発効予定。な
お、下記の【適用】における対象船舶の意味は次のとおり。
貨物船 :国際航海に従事する500総トン以上の貨物船
全ての船舶 :上記の貨物船及び国際航海に従事する旅客船
現存船 :上記の船舶のうち 2010 年1月1日前に建造された船舶
(1) 非常用曳航手引書の搭載義務付け(附属書第 II-1 章)
【適用】 全ての船舶(現存船である貨物船:2012 年 1 月 1 日まで猶予)
【備考】 「船舶所有者/運航者のための非常時曳航手順準備のための指針」を合わせて承認した。
(2) 乗降設備の設置・保守・検査の義務付け(附属書第 II-1 章)
【適用】 全ての船舶(現存船:設備基準は非適用で、検査・保守その他の要件のみ適用)
【備考】 「乗降設備の建造・設置・保守・検査のためのガイドライン」については、次回設計設備小委員会
(DE)で再審議することとした。
(3) 固定式炭酸ガス消火装置の制御装置の性能要件の要求(附属書第 II-2 章)
【適用】 2002 年 7 月 1 日以前に建造された船舶:2010 年1月1日以降の最初の入渠まで猶予
【備考】 国際火災安全設備コードにおける炭酸ガス放出の二段階操作化(炭酸ガス貯蔵タンクとスペースへ
の放出のバルブの分離)等の要件を上記船舶に新たに適用。
(4) 固定式加圧水噴霧装置を搭載している閉囲された車両、RORO 及び特殊区域の排水詰まり防止設備の義務付
け(附属書第 II-2 章)
【適用】 全ての船舶(現存船:2010 年1月1日以降最初の検査まで猶予)
【備考】 関連指針を防火小委員会(FP)で作成中。
(5) レーダー・トランスポンダの代替設備としての AIS-SART(AIS search and rescue transmitter)の設置
(附属書第 III 章及び関連証書様式)
【適用】 全ての船舶(貨物船は 300 総トン以上に適用)
【備考】 レーダー・トランスポンダの代替設備として AIS-SART の利用を新たに認めるもの。
(6)「海上事故及び海上インシデントの安全調査のための国際標準と勧告方式のコード(海難事故調査コード)
」
の強制化(附属書 XI-1 章)
【備考】 各国政府の海難調査等は上記コードの関連規定に適合して行うことを新たに強制化するもの。
4.海上セキュリティの強化
今次会合において提案された港湾保安監査のためのベストプラクティスの作成、海上保安モデル規則の作成な
ど、改正SOLAS条約の施行を担保し、海上セキュリティの強化を図る方策について審議が行われた。
カナダから、各国が監査方法について共通認識を有することを目的とした港湾保安監査のベストプラクティス
を作成するため、コレスポンデンスグループを設立するよう提案がなされたが、審議の結果、次回 MSC85(2008 年
12 月)においてコレスポンデンスグループの設立を含め、再度審議がなされることとなった。
5.航行安全小委員会関連
今次会合では、NAV53 における審議に基づき、上記回章案の承認が要請された。審議の結果、上記回章案が承
認され、流木等漂流物との衝突事故防止の重要性を認識したうえで、これを回章することとなった。
6.船舶の設計・設備小委員会関連
第 51 回設計設備小委員会(DE 51)からの要請事項について主に以下の検討を行った。
(1) 検査強化プログラム(ESP)のガイドライン(総会決議 A.744(18))の改正
検査強化プログラム(ESP)のガイドライン(総会決議 A.744(18))の改正作業の進捗、特に、通信部会を設置
して、①単船側バルクキャリア用の要件と新規に開発された二重船側バルクキャリアの要件の調和作業、②IACS
の統一規則 UR Z シリーズとの調和作業のためにガイドラインのレビュー、③検査計画会議に船長あるいは船長
等に指名された代理者が出席することを許容する改正案を作成することを指示したことを、ノートした。
(2) 特殊目的船コード(SPS コード)の全面改正
今次会合で、特殊目的船コード(SPS コード)の全面改正(MSC 決議案「SPS コード 2008」
)を原案通り採択し
た。
(3) 救命設備及び関連事項
(イ) 「救命艇、進水装置及び負荷離脱装置の整備事業者認証のための暫定勧告」
審議の結果、IMO 事務局及び Bahamas の提案に基づく修正を行った上で、 MSC 回章案「救命艇、進水装置及び
負荷離脱装置の整備事業者認証のための暫定勧告」
(DE 51/28 の付録2)を承認した。
(ロ) 整備事業者の世界的展開
設計設備小委員会(DE)が国際救命設備製造者協会(ILAMA)に対し、適切な整備事業者の世界的展開(非 ILAMA
業者との協力を含む。
)に係る事項及び整備士の認定のための訓練の有効性について報告を求めていることを確
認した。
(ハ) LSA コードの改正
特段の議論無く、MSC85 で採択予定の LSA コード一部改正案(貨物船用の救命艇の設計体重 75kg→82.5kg、自
由降下式救命艇の収容可能人数に関する規定の全面改正)を承認した。次回 MSC 85 において本改正は採択され
る見込みである。
(ニ) 救命設備試験に関する改定勧告の改正
特段の議論無く、LSA コードの改正に対応する「救命設備試験に関する改正勧告(決議 MSC.81(70))
」の改正
案を基本承認した。本勧告は MSC 85 で採択が予定されている LSA コードと一緒に、次回、MSC 85 で採択される
見込みである。
(ホ) 救命艇の負荷離脱装置
特段の議論無く、救命艇の負荷離脱装置に係る小委員会の作業結果を確認した。
(ヘ) 全閉囲型救命艇内のイマーション・スーツ着用指針
委員会は、特段の議論無く、MSC 回章案「全閉囲型救命艇内のイマーション・スーツ着用指針」を承認した。尚、
本指針には、全閉囲型救命艇に乗り込む場合には、原則として、イマーション・スーツを着用すべきでないこと
等について記述されている。
(ト) 新形式の救命設備の承認に関する指針
委員会は、特段の議論無く、新型式救命設備の承認のための指針策定に関する小委員会の作業結果を確認した。
(4) 防食(Corrosion Protection)
(イ)
防食塗装のメンテナンス指針
特段の議論無く、防食塗装のメンテナンス指針策定等に係る進捗状況をノートした。また、
「塗装基準の実施
に関する産業界ガイドライン」の有益性を小委員会が確認したことを確認した。
更に、本件に関連して IACS が提出した建造時のバラストタンク等の塗装性能基準に関する統一解釈 SC222 に
ついて以下の審議を行った。
IACS は、MSC 84/11/6 に基づき、統一解釈の概略を説明するとともに、PSPC の統一的な実施のためには、本解
釈について至急、MSC の決定が必要なこと、IACS の解釈と異なる決定がなされた場合には、直ちに統一解釈を見
直す用意がある旨を述べた。
(ロ) 固定点検設備(PMA)の防食のための指針
特段の議論無く、MSC 回章案「固定点検設備(PMA)の防食のための指針」
(非強制)を承認した。尚、本指針
はバラストタンク内の艤装品タイプの固定点検設備に対して、溶融亜鉛メッキの場合と防食塗料を使用する場合
について、①溶融亜鉛メッキ:ISO 1461 又は塗装メーカー推奨を適用すること、②亜鉛メッキの上への塗装につ
いては、ISO 12944-5 又は塗装メーカー推奨を適用すること、及び③防食塗料:PSPC で要求される Job
Specification、塗装システム及び膜厚の要件を少なくとも満足することが推奨事項として規定されている。ま
た、ボイドスペースについては若干緩和された内容となっている。
(5) バルクキャリアの定義
DE 小委員会の議事録(DE 51/28)に基づき、バルクキャリアの定義に関する小委員会の作業結果及び小委員会
は更なる検討が必要なため、本件を小委員会の作業計画及び DE 52 の議題に含めるよう委員会に要請することに
合意したことを確認した。
更に本件に関する提案文書等に基づく議論の結果、バルクキャリアの定義の解釈についての追加の提案文書及
び今次会議への提案文書は次回 MSC 85 の議題である「DE 小委員会からの報告」で検討することで合意した。ま
た、次回 MSC85 の直前の 11 月 24 日及び 25 日に作業グループ(WG)を設置してバルクキャリアの定義の解釈を
審議すべきことを合意した。
7.海賊及び海上武装強盗
今次会合では上記総会決議に基づき、以下の海賊及び武装強盗に係る回章等の見直しに関し、審議された。
(1)海賊及び船舶に対する武装強盗の予防と抑止のための政府に対する勧告
(2)海賊及び船舶に対する武装強盗の予防及び抑止のための船舶所有者、船舶運航者、船長及び乗組員に対す
る手引き
(3)海賊及び船舶に対する武装強盗の捜査に関する実施規定
結果、海賊及び武装強盗に係る回章等の見直しを目的としたコレポンデンスグループが設立されることとなり、
次回 MSC85 において中間報告、MSC86 において採択を目途に作業を進めることとなった。
8.フォーマル・セーフティー・アセスメント
事務局から MSC83 における本件議題に関係する検討の結果報告(MSC84/16)及び MEPC57 における本件議題に
関係する検討の結果報告(MSC84/16/1)があり、特段のコメントなく、この結果をノートした。
9.今後の作業計画
MSC 及びその下部委員会で今後取り組む新規作業計画が合意されたが、主なものは以下のとおり。
(1)RORO 旅客船の損傷時復原性に係る新 SOLAS 条約付属書第 II-1 章見直し
旅客船と貨物船の損傷時復原性の基準を調和させる SOLAS 条約 II-1 章改正が 2009 年1月1日に発効する予定で
あるが、これら SOLAS 条約と 1996 年のストックホルム合意における復原性計算手法に互換性がなく、安全性の
比較が困難な状況となっている現状について、欧州諸国から共同提案がなされ、SLF(復原性・満載喫水線・漁
船安全)小委員会の新規作業項目として合意された。
(2)イマーション・スーツ保温性試験への RTD の導入(日本提案)
イマーション・スーツの保温性能試験は「着用者の深部体温による」と定められているが、低温状態での体温の
個人差が大きいことから、試験の標準化をはかるため試験用標準品の使用を認めることの検討を実施することが
DE(船舶設計・設備)小委員会の新規作業項目として認められた。
(3)救命設備試験方法の問題点の改正(日本提案)
救命設備の試験方法のいくつかの記載間違い及び救命設備要件に関する矛盾点を是正するための検討をする
ことが DE(船舶設計・設備)小委員会の新規作業項目として認められた。
○次回会議予定
次回海上安全委員会(MSC85)は、平成 20 年 (2008 年)11 月 27 日~12 月 7 日にロンドンの IMO 本部にて開催さ
れる予定。