場所は、北区滝野川2―5―6、飛鳥山のすぐ西側に 史上、及び財政史上においても重要な施設と言えるよう 関与しており、建築学的にはもとより、化学史上、醸造 ては、手島精一、古在由直、矢部規矩治、若槻礼次郎も あって明治通りに抱かれた位置にあります。石神井川の です。 道をたどる ―沿革と歴史― 南側に当たり、音無橋からすぐの赤煉瓦の立派な門が昔 ここで、簡単に歴史を紹介します。明治初期、この辺 ル工場の建築法と 蔵はドイツのビー この妻木頼黄は りは豊島村と呼ばれ、水田が広がり、人口は約八百人で 日本の清酒工場設 の正門で、現在は区の公園入口となっています。この門 ほとんどが農業に従事していました。そして、北区の誇 備を複合した建造物であり、鉄筋と煉瓦の構造となって ドイツに留学して れる荒川の水運と石神井川の水を利用し、明治八年、鹿 います。建築の構造・設備についての特徴として、①地 を入り、桜の老木のトンネルを通って奥の突き当たりに、 島万平が鹿島紡績所を建設しました。明治十六年には王 下室の構造 ②絶縁壁の築造 ③壁内を抜ける空気流 いたこともあり、 子駅が設置され、その後の同三十七年、紡績所の跡地に 通の特殊構造 ④冷却装置に関する当時の最新の設備 一目でそれと判る建物が「赤煉瓦の酒藏」です。 私は王子に二十年ほど住んでいるのですが、今回の企 醸造試験所が建設されました。設立の経緯より見て、日 ⑤醸造実験を目的とした特殊構造物として優れた技術 未知なる魅力を見つける 画編集に関わるまで、恥ずかしながらこの建物の存在を 本で初めての本格的な醸造施設であるそうです。また、 務所」と言います。お酒を研究する、日本唯一の国立の 正式名称は、 「独立行政法人 酒類総合研究所 東京事 言えます。そのことから、日本建築学会(一九九○年に れらは、同時期の他の建物には見られない優れた特徴と 震災にも立派に耐えて尚、現役の建物であるのです。こ もあります。 「自分のまちにもこんな魅力があったのか!」と宝物 研究機関です。建築設計は、官庁営繕建築の第一人者で ( ) を国税庁長官に提出)や産業考古学会(一一九一年度に 国税庁醸造試験所酒類醸造工場の保存に関する要望書 を発掘するようなおもしろさ~それはきっとまちを好 よりなか 大蔵技師工学博士、妻木頼 黄 写真 で、醸造試験所の 知りませんでした。 皆さんの中でも、知らない人は多いかと思います。近 で全体がまとめられていること、などが挙げられます。 笹川 真希 同時期・同規模の本格的な建造物は、東京都内に極めて 文・構成 年、古く歴史ある建物を保存・有効活用する動きは全国 木島 邦夫 更には埼玉県で焼いた煉瓦を使用しており、あの関東大 取材 少ないです。 ~眠り続ける北区の宝物~ 的に盛んになっており、まち興しの核として再生した例 名建築赤煉瓦の酒造 きになり、大切に思う第一歩なのではないでしょうか? 酒類製造試験工場として建設されました。設計に当たっ 33 旧醸造試験所に残された 推薦産業遺産認定)からも高く評価されています。 戦禍を潜り抜けてきた建物なので、屋根は一部が消失 して、今は木造となっています。 また、屋根と壁の境も、当時の応急処置的な修復が残 ったまま、現在に至っているのです。 石の階段を下りると半地下の酒造室があります。長い 年月と環境(温度・湿度)により育まれた貴重な微生物 研究、清酒をつくる講習(酒屋さん向け) 、技術の普及、 鑑評会などで、特別研究のテーマも行っています。 平成七年には主業務の醸造試験所が広島に移転し、そ れに伴い「醸造研究所」に名称を変更、平成十三年四月 には「独立行政法人 酒類総合研究所」として新たにス タートしています。 鉄筋コンクリート造がまだ日本に入ってこないとき 皆の思い ―未来へつなぎたい― これは、フランスのワイン貯蔵庫でも見られるもので には、ほとんどの洋風構造物は文明開化の象徴である赤 が棲息し、黒カビ状となり壁に付いています。 す。何とも不思議な雰囲気でひんやりとしており、百年 レンガで出来ていました。しかし、関東大震災や第二次 また、酒蔵の保存のため、地元としてできることがあ るなら積極的に考えていきたいという多数の意見が出 ました。現在の赤レンガの構造物の多くは、それ以前に った、明治大学大学院卒・野田晋一郎さんのコメントを ここで、この建物を実測し、保存再生の設計提案を行 されました。 建設されて生き残ってきたもので、この醸造試験所も、 地元の方々は、以前から、この建物のことを良く知っ 業など、再生の過程を共有することが大切で、愛着も湧 活動できる場であって欲しい。例えば、レンガの修復作 「確か今年でちょうど設立百周年だよね?もし本当に ていて、百年の節目に記念行事等があるなら、自治会、 くと思う。ある日気が付いたら、近所の建物が博物館な 山自治会から、酒蔵について役員会で話を聞かせてくれ 商店会をあげて是非協力したい、参加したいとのお話し り公共施設になっていた、では本当の再生とは言えない 再生するのだとしたら、地域の人が主体になって運営し、 でした。 ないかと、本誌編集長(木島)に依頼がありました。 実は、今年の一月に醸造試験所の地元、滝野川の飛鳥 紹介します。 地元での会合の様子 貴重な財産の一つと言えます。 世界大戦により、首都圏の多くのレンガ造建築は崩壊し の歴史をしみじみと感じることのできる空間です。 現在の主な業務は、酒類の分析・鑑定・品質評価等の 建物外観 34 http://www.nrib.go.jp/ 酒文化研究所 http://www.sakebunka.co.jp/ お酒にまつわるサイト http://www.jizake.ne.jp/index.cgi?mode=kt&kt=01 酒蔵組合のサイト http://www.jizake.ne.jp/index.cgi?mode=kt&kt=02 酒蔵奉行所 http://www5a.biglobe.ne.jp/~bugyosho/ ■赤煉瓦建築に関するサイトの紹介 35 金沢市民芸術村 http://www.artvillage.gr.jp/index.htm 横浜赤レンガ倉庫 http://www.yokohama-akarenga.jp/ 赤煉瓦ネットワーク http://www.aka-renga.org/ 特定非営利活動法人「赤煉瓦倶楽部舞鶴」 http://www.dance.ne.jp/~redbrick/ 赤煉瓦倶楽部・半田 http://www.akarenga-handa.jp/ んじゃないかな。完成時には人気があるだろうけれど、 独立行政法人 酒類総合研究所 それは一時期に過ぎないし、建物の再生=地域社会の再 生、にならなくては意味がないと思う。地域の人たちが 積極的にイキイキと活動できて街が元気になる、それに はどのような建物にしたらいいのか。社会問題とか含め て本当に突き詰めて考えると、難しいんだけどね。 」 最後に 醸造試験所の歴史や現況、地元の方たちの思いを見て きましたが、いかがでしたでしょうか? 下に紹介したのは、主に清酒をテーマにしたサイトと、 全国で展開されているレンガ建物の保存・まちづくり事 例のサイトです。 残念ながら現在、醸造試験所の建物内を見学すること はできないのですが、読者の皆さんに様子が少しでも伝 われば、それは建物の保存に向けた大事な一歩になるか と思います。 まちの中の「古いもの」を通じて、住民同士の、ある いは住民と行政の「新しいきっかけ」が生まれるのなら ば、それも北区らしいまちづくりの一つなのかもしれま せんね。 ■お酒に関するサイトの紹介
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