46 - 日本蝶類学会

Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
The Butterfly Society of Japan (Teinopalpus)
Butterflies
Newsletter
●バタフライズ ニュースレター
No.46
日本蝶類学会 ( テングアゲハ ) 春はもうすぐです!ことしもよろしくお願いします!!
▲集団越冬中のオオカバマダラ (Danaus plexippus)
メキシコ・ミコアカン 2008 年 12 月 河原章人・撮影
アメリカ在住の当会学術委員、河原章人さんより届いたのがこの1枚。メキシコで撮影されたご
存じ、オオカバマダラの集団越冬の様子です。ぎっしりと密集したこの密度。まるでモダンアート
の巨匠アンディ・ウォーホールを想起させるような反復の美が感じられます。これだけの個体が気
温の高い日には一斉に飛び立つとしたら、まさに蝶吹雪が舞うことになるのでしょう。
私もかつてアメリカ・ウィスコンシン州でオオカバマダラを採集しました。分布の北にあたるこ
の地では、土着する他の種類がみな小型の蝶ばかりであるが故か、悠然と飛ぶオオカバマダラはた
いへん大型の蝶に見えました。本邦のアサギマダラよりも遥かに力強く感じたことを懐かしく思い
出します。( 事務局 )
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2009年度「会員総会・大会」開催報告!
前年度をさらに超える120人が出席!!
▲盛況だった昨年を上回る参加者で熱気あふれる質疑が行われました。
当学会の 2009 年度の会員総会・大会は去年 12 月 12 日に昨年同様、東京都文京区の東京大学で開
催されました。大会には 100 人を超す参加者で大盛況に終わった前年度をさらに上回る 120 人が出
席しました。大会の終了後、大学構内で行われた懇親会にも 80 人以上が参加し、たいへんな賑わい
となりました。
今回の会員総会・大会の開催にあたり、ご協力いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。残
念ながら参加できなかった皆様のために、総会・大会の報告を以下掲載します。(事務局)
2009年度理事会 ・ 総会報告
大会に先立ち、2009 年度の理事会と総会が行われましたのでご報告申し上げます。
1.理事会報告
日時:2009 年 12 月 12日 (土) 11:00~12:30
場所:東京大学理学部 2 号館 323 会議室
出席:矢田脩 (会長)、高崎浩幸、植村好延 (以上、副会長)
増井暁夫、向山幸男、蛭川憲男、菱川法之、稲岡茂、横地隆、上田恭一郎、
上田俊介、加藤義臣、松田邦雄、渡辺康之、上原二郎【新任】(以上、理事)
※委任状による出席:原田基弘
※欠席:小岩屋敏
陪席:辻元、井上健【新任】(以上、監事)、斎藤基樹 (運営委員長)、長谷川大 (編集委員長)、
矢後勝也 (学術委員長)、石井健一 (財務委員長)
会議の成立:審議に先立ち、委任状を含め議決権を有する役員過半数の出席で理事会が成立。
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【審議事項】
● 2010 年度事業計画 = 承認
(1) 会誌 Butterflies の発行…年 3 回 (4、8、12 月末予定 )
(2) 定時会員総会の開催…12 月第 2 土曜日または第 3 土曜日
(3) 連絡誌 Newsletter の発行…年 6 回を維持
(4) 夏のバタフライ・フォーラムなど…要検討、何か案があれば?
(5) ホームページの増強…コンテンツ募集
(6) 会員獲得キャンペーン
(7) 海外の同好者、研究会、学会との連携の強化
●役員人事 = 承認
(1) 新監事に井上健氏 ( 長田志朗監事の逝去に伴い空席となっていた )
(2) 新理事に上原二郎氏 ( 理事会機能の増強 )
(3) 委員は引き続き若手を随時登用、実動部隊として期待。誰か適任者がいれば紹介を!
●会則改正 = 承認
2008 年 1 月の和解後の「通称名」が反映されていないので、付則として第 29 条に追加。
*****************************************************************************************
会則名:日本蝶類学会会則
第 8 章 付則
第 29 条 第1条で規定した名称について、当学会と名称の類似する他学会の区別が困難な場合には
下記の通称名を用いることとする。
通称名:「日本蝶類学会 (テングアゲハ) 」The Butterfly Society of Japan (Teinopalpus)
会誌名:「バタフライズ (テングアゲハ) 」Butterflies (Teinopalpus)
*****************************************************************************************
●事務所移転 = 検討を続ける
現行の事務所はアパートの一室 ( 家賃月 63000 円、電気水道、インターネット完備 )。事務局員
常駐せず。必要に応じて一部委員が使用する程度で、ほぼ会誌の「倉庫」化。事務所移転もしく
は閉鎖を引き続き検討する。
● 2009 年度決算と 2010 年度予算 = 承認
(1) 2009年度決算(見込み)
(2) 2010年度予算(期中に欠損が見込まれる場合、学会基金から充当する)
【報告事項】
●運営委員会からの報告
(1) 固定電話の解約…基本料金のムダだったので解約。違約金が発生。
(2) 事務作業 (名簿管理、発送、各種支払い) を分担して対応
(3) 事務所賃貸契約を 1 年更新…2010 年 7 月に満期
(4) インターネット回線の継続…何かと便利
(5) ニュースレターは 2 月、4 月、8 月、10 月、11 月と 5 回発行。ウェブにも PDF で掲載。
(6) 会誌販売先に南陽堂書店を追加。53 号より 10 冊ずつ。条件は六本脚と同じ。
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●編集委員会からの報告
(1) 編集委員会を学会事務所等を用いて不定期に開催。
(2) 発行号毎に編集責任者を定め進行管理を行った。( 責任編集制 )
(3) 編集作業は、電子編集・画像の加工・著者との連絡調整などを分担して行った。( 分業制 )
(4) 論文掲載に際しては査読の実施を徹底した。( 学術委員会との連携 )
(5) 会誌 Butterflies (Teinopalpus) の発行 = 定時発行を達成
(6) 合併に向けた取り組み
引き続き、編集方針や紙面構成について、「日本蝶類学会 (フジミドリシジミ) 」編集スタッ
フとの調整を行い、学会の早期統合実現に向け鋭意努力を行う。
(7) 反省点など
・財政負担削減につながる新たな広告主依頼。現状「志賀昆虫普及社」の一社のみ。
・記事全体に占める国内に関する記事の割合は、No.51…3 / 9, No.52…6 / 11, No.53…2 / 10 ( 約
37% )。徐々に国内記事も増えつつあるが、執筆者の開拓などは引き続き課題。
・保全関係の記事は今期発行号には皆無であった。
・No.54 以降も現行の体裁 (B4 表紙込み 60 ページ、本文はオール 4 色刷り ) を継続。また No.54 (3
月~ 4 月 )、No.55 (8 月 )、No.56 (12 月 ) の定期発行を堅持する。
・依然、東南アジア・南米等の海外記事が多い傾向にあり、「テングは海外、フジは国内」とい
うイメージが定着している。執筆者の確保・発掘に努め、できる限り「国内・国外」
「分類・生態」
「採集・保全」等々バランスのとれた記事構成を目指す。
・引き続き「責任編集制」
「分業制」
「学術委員会との連携」など合理的・効率的な運営に心がけ、
委員全員参加の編集体制を維持していきたい。
●学術委員会からの報告
・本年の主な活動
(1) 2009 年度学会賞 ( 林賞 ) の選考 ※詳しくは総会報告を参照
(2) 学術委員による論文の完全査読の実行
完全査読制の導入を編集委員会の協力で実行。査読が求められる論文については、学術委員
および学術委員が選定する査読者により掲載可否の判定と訂正箇所を指摘、受理日を論文の末
尾に掲載。
(3) 投稿規定の改正
投稿規定の改正を編集委員会とともに行った。掲載された画像の著作権を明確化。
(4) 掲載論文のキーワード
タイトルにあるものはキーワードに入れないことを 11 月の会議で新たに規定。
・昨年の展望で実行できなかったこと
(4) CiNii によるバックナンバーの PDF 化
(5) 学術団体登録について
現在、学術団体登録から外れているため、再申請を行いたいと考えていたが、年4回の発行が
条件の1つにあるため、年3回発行の現状では難しいことが判明。
・来年度の展望
(6) 学術委員のさらなる機能的充実と委員の補強。
(7) もし統合ができるなら、(5)、(6) の実現に向けて交渉を進める。
(8) 短報の推奨を行い、会員がもう少し気軽に投稿できるような会誌を目指す。
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●統合問題について
(1) 2009年10月より日本蝶類学会 (フジミドリシジミ) との統合に向けた公式協議が開始
(2)公式協議は植村副会長の統括のもと、斎藤(基) 運営委員長、添運営副委員長、斉藤(光) 編集副
委員長で対応
(3) 統合の実現に向けた協議は来年も継続することを確認
(4) 協議内容の議事録はニュースレターで速やかに公開、会員に報告する
2.総会報告
日時:2009 年 12 月 12 日 (土) 13:00~13:30
場所:東京大学理学部 4 号館大講堂
議事:
①矢田会長の挨拶の後、斎藤運営委員長が議長に選出された。
②斎藤運営委員長より理事会で審議・承認・報告された各事項が報告された。
③石井財務委員長より理事会で承認された今年度予算 (見込み) と次年度予算案が報告された。
④理事会で承認された役員人事・会則改正が承認された。
⑤斎藤運営委員長より「統合問題」の進捗状況が報告された。
⑥2009年度林賞を受賞する Alexander Monastyrskiy 氏 (ロシア) の表彰式が行われた。
▲矢田会長 (右)より表彰される Monastyrskiy 博士 (左)
2009 年度 林賞の選考について
矢後勝也 (学術委員長)
学術委員 8 名による学会三賞の選考委員会を 10/6 ~ 10/20 の期間で開催した。7 名の候補者が
上げられたが、4 票という半数の獲得によりベトナム・ロシア熱帯研究センターの Alexander L.
Monastyrskiy 博士に決定された。受賞者はチョウ類の解明度が低いベトナムに関するチョウ類の多
様性解明を飛躍的に進めただけでなく、シリーズで図鑑を出版、数多くの高レベルな journal への出
版など、その業績はアジア産チョウ類全体の研究への貢献が高い。また、数少ない本学会の海外会
員であることにもよる。
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大会講演報告
今回の大会には 2009 年度林賞を受賞した Alexander L. Monastyrskiy 博士の記念講演をはじめ国内
外の最新の蝶の話題についての演題が揃いました。参加できなかった会員の皆様のために、発表内
容を簡単にご紹介します。
【林賞受賞記念講演】
「ヴェトナムの蝶相 : 現在の多様性と起源」 ○アレクサンダー・モナスティルスキー
The Butterfly Fauna of Vietnam : Modern Diversity and Origin
○ Alexander L. Monastyrskiy (Vietnam-Russia Tropical Center)
ヴェトナムとその自然は、近年哺乳類の新種
が見つかるなど世界中の動物学者の注目を集め
ている。モナスティルスキー氏は 1993 年よりロ
シア科学アカデミーの援助を受けて 2009 年まで
ハノイのヴェトナム・ロシア熱帯センターで蝶
の研究を行ってきた。その中で得られた知見を
もとに、地域ごとの蝶相の生物地理や成立要因
を解説していただいた。
講演ではヴェトナムの蝶についてのリストは
1957 年にフランス人昆虫学者が 455 種をリスト
アップして以来、新種や新記録が相次ぎ、最新
の未発表のデータによれば 1000 種類以上が記録されていることが明かされた。
さらにヴェトナムのすべての蝶は局限されたものから広範囲に分布するものまで、世界での分布
状況に従って分類することができ、いくつかの類型的な分布パターンが認められるとした上で全種
類のおよそ 10%弱がインドシナ半島(ヴェトナム、ラオス、カンボジアとタイ東部)固有種である
ことを指摘した。さらに固有種はそれぞれの科で見られ、大半はヴェトナム中部の孤立した山塊と
北部のある地域に分布していること、固有種の全体の数は南から北に向かってわずかに増える傾向
にあることも併せて説明された。
ヴェトナムで連続した分布を孤立させる自然界の障壁には、標高差が激しい南北に縦断する山脈
と北東ヴェトナムと海岸線に沿った 0 ~ 500 mの低地の 2 つがあり、ヴェトナムの蝶相、さらには
インドシナ全体の蝶相の分布のパターンは隔離固有分布型やモザイク状分布型、連続分布型などに
分けられると指摘した。
このうち連続分布型は多くのヴェトナムの広適応的種で典型的に見られ、逆に狭適応種の連続的
な分布は、生息地の地形と一致する特定の形をとり、しばしばモザイク状となる。インドシナと東
南アジアの蝶の個体群間の分断は地史学上の異なった時代に起きた。こうした分断を経て、多くの
種は新しい種へと進化した。その後の気候変動や地殻変動で分布域が変わり、多くの種類で現在分
布が重なり合っている。
「二次接触」や「二次的融合」として良く知られているこうした重なりの例
は多数指摘できるという。たとえばサオラルリモンジャノメとカシフォネルリモンジャノメの分布
がある。サオラルリモンジャノメはインドシナの孤立した避難所のような場所で分化し、生き延び
てきた一方、
カシフォネルリモンジャノメは恐らく更新世に南方へ分布を移動させ、最後の海進期(海
面上昇期)に再び大陸の棲息環境に戻ったと考えられると述べた。
またヴェトナムの蝶の分布、気候区分、植生分布を考慮すると、ヴェトナムは生物地理学上 7 つ
の地区に分けられるとした。ユーラシア大陸の南東部では中生代の半ばから地形の形成が始まった
とされ、この地域の地形は 1 億 5000 万年以上もそれほど大きく変わっていない。漸新世半ばから、
氷河期の始まりである鮮新世初期まで比較的地形が安定していた。古昆虫学の分析によれば、蝶を
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含む東洋区の昆虫の属の大半は古第三紀に
形成されたと言われており、この時に旧熱
帯型の蝶の分布が形成されたと考えられる
という。新第三紀の寒冷な期間に、日本-
中国系、オーストラリア系の種がインドシ
ナに分布を伸ばした一方で、東洋区の種は
インドに侵入した。同時にインドの蝶相は
東洋区の固有種の形成に影響はあまり及ぼ
さなかった。更新世の氷河期の始まりから
は中国-ヒマラヤ系と旧北区の種類がイン
ドシナにどんどん侵入してきたと同時にイ
ンド-ビルマ系と東洋区系の種類は南方の
スンダの入り口まで移動した。その時にア
ンナン山脈に沿って位置する避難所に一部
の種が残存した。これらの地史的な出来事がマラヤ系とインド-ビルマ系の固有種の形成を決定づ
けたと考えられることを説明した。更新世には海面は現在の海面よりも 100 mから 130 m低かった。
2 万 5000 年から 3 万年前に始まった最後の海進期の間、多くの種の個体群が新たに姿を現したスン
ダ諸島に隔離され孤立した。同時に世界的な氷河期がインドシナ半島、ミャンマー、インド北部と
中国南部に再び戻ってきた時に、インド-ビルマ系とインド-マラヤ系の種が赤道付近に再び戻っ
ていった。この結果、多くの近似種の間で「二次接触」が起こったため、そのような場所では近縁
な 2 種類が同所的に棲息する例がたいへん多く見られるという。逆に、最後の海進期には、中国-
ヒマラヤ系の侵入してきた種は高緯度の地方には戻らなかった。そうした種は低地から、高い冷涼
な温帯の生息地へと移動した。そうした現象は中国-ヒマラヤ系の祖先種と完全に隔離することに
なり、多くの離散分布地の形成と固有種への進化を押し進めたものと考えられるとモナスティルス
キー氏は説明した。
モナスティルスキー氏は長年の研究から、こうした種の多様性を考えると、現在のヴェトナムの
蝶相というのは比較的歴史の浅い形成過程で生まれてきたものであり、現在もその形成過程は終わっ
てはいないのかもしれないと指摘した。地史学的、地理学的な背景で分布を分析することで、ヴェ
トナムの現在の蝶相の多様性の起源が明らかになるものと考えられると述べ、固有種についての分
布データで最も重要なものは、近隣の中国-ヒマラヤ系、スンダ系、インド-ビルマ系の蝶相との
関係であることを指摘した。
日本人の活躍も著しいヴェトナムの蝶についての熱の入った講演で、多くの希少な種の画像も紹
介された中身の濃い講演でした。
【一般講演】
1. 写真とビデオと電子顕微鏡画像で観る Euselasia( ベニ
モンシジミタテハ属 ) の生活史および幼齢期の形態
○西田賢司 ( コスタリカ大学・生物学部 )
当会の学術委員をつとめる西田氏の発表。西田氏はコスタ
リカに 10 年以上在住する「探検昆虫学者」としてテレビや
新聞などでも有名である。今回は講演の前半で、コスタリ
カ在住という地の利を生かして撮影された膨大な蝶の成虫や
幼生期の画像を惜しみなく紹介していただき、中米の色鮮や
かな蝶の数々に会場からは溜息が聞かれた。後半では西田氏
が研究を進めている新熱帯特有のシジミタテハ Euselasia 属
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についての詳細な研究成果が紹介された。本属
に含まれる数種類がノボタン科の植物 Miconia
属を食草とすることが西田氏の調査で分かって
きた。この食草の中には太平洋諸島、タヒチや
ハワイ諸島で侵入外来植物として猛威を振るっ
ている種類も含まれ、生物防除の面からも重要
な研究成果と言える。圧巻はその幼生期で、鱗
翅目では恐らく初とも言える奇妙な「脚」のつ
いた卵、一齢幼虫の刺毛が他の鱗翅目よりも多
いという特異な形態、さらには寄生バエや蜂か
ら身を守るためと考えられる幼虫の行列行動な
ど、まさに奇想天外とも言える特異なシジミタ
テハの生態や形態について解説いただいた。
2. 「箱根ジャコウ」 は別ものか? ○加藤義臣 ( 東京大学・院農・生物多様性科学 )
我々にも馴染みの深いジャコウアゲハを題材
に研究を進めている加藤氏の発表。加藤氏は東
京・府中市の平地に分布する個体群と、神奈川
県と静岡県にまたがる箱根山地に分布する個体
群には発生回数、卵のサイズや幼虫の集合性に
差異が見られるのではないかとして研究を進め
た。2 つの個体群の間で交配実験を行った結果、
両個体群の間に遺伝的な不和合性があるのでは
ないかという興味深い結論を得た。両個体群を
人工交配させて飼育した結果、F2 では卵がまっ
たく孵化しないものが生じたほか、蛹の休眠性、
卵のサイズにも一定の傾向が見られた。こうし
たことから加藤氏は 2 つの個体群に DNA レベル
での分化が生じていることが予想されると指摘
した。加藤氏は今回の発表は予備的な実験であっ
たとし、来年以降さらに研究を続けるという。続報を期待したい。
3. コムラサキ亜科の楽しみ ○増井暁夫
世界的に分布し、人気の高いコムラサキ亜科
を長年にわたり研究・収集している増井氏によ
る発表。コムラサキ亜科は成虫の前後翅の中室
が閉じない、♂の交尾器の phallus と saccus が非
常に長い、幼虫や蛹の胴体部分にほとんど突起
が無い、などの形態的に明確な特徴があること
をまず指摘した。その上で増井氏は、均質な形
態を有する反面、成虫のサイズや翅の色にはバ
ラエティに富むことを各種の実例を挙げて説明
した。変異は種ごとに異なるだけでなく、同種
の中でも日本でもお馴染みのコムラサキに見ら
れる♂♀共通の多型 ( 変異 ) もあり、コムラサ
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キ亜科の魅力になっていると述べた。
増井氏はコムラサキ亜科でも最近になって 1 種と考えられていたものが 2 種に分かれたり、新た
な種や亜種、遺伝型の発見が相次いだりしているとして、コムラサキ亜科にもまだまだ未知のこと
が多いことも指摘した。
発表では増井氏の長年の収集に裏付けられたコムラサキ亜科の極珍稀種の標本画像も惜しみなく
紹介され、コムラサキ亜科に興味を持つ人が増えそうな魅力的な発表であった。
4. ただいま進化中! ~北米産蝶の楽しみ方~ ○白岩康二郎
当学会会誌でもアメリカの蝶につい
て何度も発表していただいている白岩
氏による、北米の蝶の楽しみ方につい
ての講演。北米の蝶は多くの日本人愛
好家にとって馴染みが無く、魅力的な
種類が少ないというイメージが持たれ
ていることを白岩氏は指摘し、その理
由として種類数の少なさを挙げた。種
類数が貧弱な理由は北米の地史的な成
立過程と気候変動にあると白岩氏は述
べた。しかし一方で、よく見てみると
カラスシジミ属など北米大陸で種分化
を遂げて繁栄しているものもあること
に触れ、まだまだ研究が進んでいない
現状を指摘した。白岩氏には駐在していたカリフォルニア州で出会った特産種の素晴らしい生態写
真の数々も紹介していただいた。
なお当日会場では白岩氏が自ら作成した『カリフォルニア・サンディエゴ郡の蝶』などの著書を
販売したところ、好評のうちにまたたく間に売り切れてしまった。
5. コケムシイナズマの隠蔽種 ○斉藤光太郎・稲好 豊
東南アジア大陸部の蝶相について精力的に研究されている両
氏による講演。東南アジアに広く分布するコケムシイナズマ
(Euthalia anosia) について各地の標本を集めて比較検討したとこ
ろ、これまで 1 種と考えられていたコケムシイナズマにはじつ
は複数の種類が含まれていることが判明した。ヴェトナムで採
集された 2 つのタイプのコケムシイナズマを研究したところ、
交尾器に一定の差異が見られることが判明し、それぞれ別種で
あることが明らかになった。前翅に白い紋が出現する個体群に
ついては調査を進めた結果、これまで anosia のシッキム亜種と
して扱われてきた saitaphernes と特徴が合致したことから、こ
の個体群は独立種 saitaphernes と扱わないといけないと指摘し
た。この他、フィリピンや中国の「コケムシイナズマ」につい
ても種の扱いをどのようにすべきかを指摘した。
( ※記載を含む本講演の詳しい内容は本会会誌 No.53 に掲載さ
れています。)
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6. 平衡変異する 2 種類のドクチョウ、 Heliconius melpomone と H. erato ~ボリヴィアでの観察から~
○河村暢宏
河村氏は 2001 年から JICA の専門家と
して農業技術指導のため南米・ボリヴィ
アに 3 年間滞在した。この間、河村氏は
精力的に蝶の採集を行ったが、中でも変
異に富むドクチョウに興味を惹かれ集中
的に採集した。この中でメルポモネドク
チョウとエラートドクチョウは外見上よ
く似た斑紋を持つばかりでなく、個体ご
との変異が激しく種の同定が当初困難で
あった。ところが河村氏が注意深く観察
したところ、黄色い帯や赤斑については
ダイナミックに変異するものの、両者の
間に一定の傾向が見られることに気づい
た。同定のキーは胸部背面の黄色斑や後
翅裏面基部にある赤紋などである。両者は平衡変異していることが判明した。河村氏は自身が採集した
数百頭に及ぶ両種の標本を示し、ダイナミックな変異の実態について解説した。また日本人愛好家に馴
染みの薄いボリヴィア現地の採集事情や環境写真についてもたくさんの画像で紹介していただいた。
7. 南限付近のウラゴマダラシジミの生態と変異 ○小岩屋 敏
ご存じ、ゼフィルスを語らせたらこの人の右に出る者は居ない
当会理事・小岩屋氏による九州のウラゴマダラシジミについての
講演。九州のウラゴマダラシジミには、分布が九州中央山地に限
られ、薄暗い渓谷を生息地とする「森林型」と呼ばれるタイプが
あり、ここ数年小岩屋氏はこのウラゴマダラシジミに魅せられて
綿密な調査を行っている。森林型は斑紋から 99%識別可能とした
上で、最も顕著な差異は蛹の色であると指摘した。森林型は蛹の
色が黄緑色であるのに対し、そうではない 「原野型」 は淡褐色で
あることで区別が可能とした。
小岩屋氏によって紹介された生息環境や食樹ヤナギイボタの大
木の画像を見るにつけ、この九州の森林型ウラゴマダラシジミは、
「寄生蜂なみの眼力を持つ」とまで言われる、採集・探索能力がズ
バ抜けた小岩屋氏だからこそ採集できるのであって、おいそれと
は手が出せない代物であることがよく分かった発表であった。
8. 日本産蝶類データベースについて
○上田恭一郎 ( 北九州市立自然史・歴史博物館 )・神保宇嗣・
伊藤元己 ( 東京大学・院総合文化 )
博物館の学芸員として長らく標本保存の最前線の現場で
活躍されている上田氏による講演。上田氏らは 2006 年より
5 年計画で国内に保管されている鱗翅類標本の画像付きデー
タベース作製プロジェクトに参画し、現在、標本の表面、裏
面、ラベル、データをまとめてウェブで公開する準備を進め
ている。この中で上田氏は個人が所蔵するコレクションを次
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世代に保存・活用するにあたって現場で直面する問題を指摘した。コレクションには必ず第三者が
見てもはっきり分かるような表記でデータラベルをつけることが大事であり、その際には読み仮名
も含めて誤認が生じないようにすることが基本であると指摘した。日本蝶界でも急速に高齢化が進
んでいるが「退職してからゆっくり整理しよう」と考えていても、現実的には難しいケースも多く
あると述べ、日頃から整理を少しずつでも続けることの重要性を強調した。当会会員の中にもコレ
クションの維持管理、次世代への継承について悩んでおられる方は多いかと思うが、自分のコレク
ションをどうすべきか、今どう動くべきかについて現場からの意見が聴け、たいへん参考になる講
演であった。
9. Appias 属の諸問題 ○矢田 脩 ( 九州大学・院比文 )
長年にわたりシロチョウ科を研究されてい
る当会の矢田会長による講演。今回、矢田氏
はシロチョウ科の中でも Appias 属に着目し、
最近の話題を解説した。矢田氏は本属につい
ては近年新種の発見もなく、余り研究すべき
課題が無いように見えるかもしれないが、実
際には多くの課題を含んでいることについて
実例を挙げて説明した。例えば本属の代表的
な種で日本人愛好家にも馴染みの深いナミエ
シロチョウですら世界的視野に立った再検討
はされておらず、そもそも種の分類ですら混
乱が見られていると指摘した。また、東南ア
ジアで広く見られるベニシロチョウやカワカミシロチョウでも生態面の研究は充分でなく、断片的
な情報しか得られていないと指摘した。Appias は♂が発生期には吸水集団を形成することなどから
一般の愛好者にとってはごく普通種として余り注目されることの無い存在であるが、まだまだ研究
すべきテーマは多いことが矢田氏の発表から感じられた。
なお矢田氏は現在、ナミエシロチョウ亜属 (Catophaga) の分類や生物地理に関する論文を準備して
いるということである。
10. 沖縄の蝶の生態に迫る<ビデオ上映> ○宮城秋乃
今回の発表者の紅一点、宮城氏による沖縄産の蝶の生態映像。
宮城氏は沖縄本島在住という地の利を生かし、ビデオカメラを
持ってフィールドに足しげく通う中で、素晴らしい映像を次々
に撮影している。今回は膨大な映像コレクションの中から特に
傑作を編集して紹介いただいた。
生態面でユニークなものとしては、アサギマダラの♂が静止
中に腹端を性標にこすりつけた後、翅を開閉し、何か空中に物
質を放出するかのような行動や、ウスイロコノマチョウが接近
した際にまるで枯葉のように地表に落下する偽死の行動、テリ
トリーを張っているスミナガシ♂に接近した際に、♂が小刻み
に翅を震わせる威嚇の行動などが紹介された。記録面で目を引
くものとしては、いずれも沖縄本島で撮影されたナガサキアゲ
ハ有尾型の♀、コモンマダラやマルバネルリマダラなどが挙げられる。
沖縄に行ったことのある会員は多いと思うが、今回の宮城氏の映像は、そう簡単に目にすること
の出来ないような貴重な映像揃いで大好評を博した。
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懇親会も大盛況!!
大会の後、大学構内の生協食堂に場所
を移して懇親会が開かれました。去年は
40 人くらいの参加を見込んでフタを開
けてみれば 60 人の出席で料理が足りな
くなる事態が.
.
.この反省を踏まえて今
回は当初 60 人の出席を見込んだところ、
直前になってそれでは間に合わない嬉し
い誤算が生じました。結局、今回の懇親
会の参加者はナント 80 人(!)
。コスタ
リカの西田賢司さんは別格にしても、遠
くは北海道や九州・沖縄からも多くの会
員にご参加いただきました。久しぶりに
会う人たち、初めて顔を合わせる人たち、
蝶友同士の話は尽きない様子でした。
嬉しいことには、次世代の日本蝶界を
担う高校生や大学生諸君も懇親会に参加
していただきました。若い世代の参加は
大歓迎です!!
宴もたけなわになった頃、恒例のチャ
リティー・オークションが始まりました。
多くの会員の皆様から多数の貴重な標本
や文献を学会のために快く提供いただき
ました。セリでは沖縄からご参加いただ
いた宮城さんにセリ人を務めていただき
ました。お蔭様でほとんどの出品物が快
調にセリ上がり、学会の財政基盤の増強
に大いに寄与することになりました。この
場をお借りして、ご出品いただいた皆様、
落札していただいた皆様、宮城さんをはじ
め懇親会を盛り上げるためにご協力いただ
いた皆様に厚く御礼申し上げます。懇親会
での皆さんの楽しそうな様子を目にして、
準備をしてきた事務局の苦労も報われた思
いがしました。
懇親会は 21 時過ぎにお開きとなりまし
たが、まだまだ歓談は尽きないようで、本
郷三丁目駅前の居酒屋に場所を移し、二次
会にも 30 人以上が参加しました。かく言
う私も 3 次会まで行ってしまいました.
.
.。
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Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
役員・委員リレーエッセイ・第 4 回
壱岐探索記
西原幸雄 ( 運営・編集委員 )
2009 年 9 月 8 ~ 10 日に壱岐に行きました。対馬に行かれる方は多いと思いますが、壱岐はこれ
といっためぼしい種類も無いためか、あまり話題にのぼる島ではないようです。しかし壱岐は、九
州本土と対馬の中間にありながら、対馬と九州には分布しているにも関わらず壱岐には分布してい
ない欠落種 ( ナミハンミョウやヤマトタマムシなど ) が知られており、地理的にも興味深い島です。
今回の渡島の目的は、まず第一に壱岐産のウラナミジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、シルビア
シジミ、クロツバメシジミの分布状況を見ることでした。そしてもうひとつの目的は、ヒメオサム
シの壱岐特産亜種であるイキオサムシの採集です。しかし今回は記録を調べる時間があまりなく、
事前に調べられたのクロツバメシジミの記録地だけという無謀な渡島でした。
さて、まずはウラナミジャノメで
す。郷ノ浦港に着いてからレンタカー
を 借 り、 市 外 の 田 圃 周 辺 で Ypthima
属を見かけたのでネットするとなん
と本種でした。いとも簡単に目的達
成です。
同所ではヒメウラナミジャノメも
見られました。興味深いことに、両
種とも新鮮な個体でした。同所的に
生息する静岡西部などでは、両種は
微妙に発生盛期をずらしており、ど
ちらかが新鮮な場合、片方はやや擦
れていることが多いからです。
▲ウラナミジャノメ ( 壱岐市郷ノ浦町 )
写真からわかるように、壱岐産の
ウラナミジャノメは日本本土亜種でした。ヒメウラナミジャノメも分布することから、壱岐はやは
り日本本土の出店なのだと強く感じました。
その後2日間壱岐各所で両種
を採集したのですが、ウラナミ
ジ ャ ノ メ の 方 が 個 体 数 が 多 く、
海岸付近でも見ることができま
した。それに対し、ヒメウラナ
ミジャノメは海岸付近では見ら
れず、内陸に入ったところでの
み見られました。
今回は採集したウラナミジャ
ノメは第 2 化の発生でした。一
方でヒメウラナミジャノメは多
化性ですので、ウラナミジャノ
メが見られない時期では、どの
▲ウラナミジャノメ1頭目が採れた草地
( 壱岐市郷ノ浦町 )
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ようになっているか興味深いと
ころです。
Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
さてもう一つの目的種であるシルビアシジミ、クロツバメシジミです。こちらも実は簡単に採れ
てしまいました。
壱岐産のクロツバメシジミは、海岸の海蝕崖に生
えるタイトゴメで発生しています。そのような場所
は海岸性草地になっているところがあり、シルビア
シジミも同所的に発生していました。海蝕崖にミヤ
コグサが生えるようなところでは、崖地にも関わら
ずシルビアシジミが少数ですが見られました。草地
を飛んでいるイメージのシルビアシジミがクロツバ
メシジミと混飛するという経験は、関東にいる自分
としては新鮮なものでした。
シルビアシジミの変異についてはわかりませんが、
クロツバメシジミは、対馬産とは明らかに異なって
おり、九州本土と同様な傾向でした。
▲シルビアシジミとクロツバメシジミが
混飛していた海蝕崖
▲吸蜜するクロツバメシジミ ( 壱岐市郷ノ浦町 )
▲産卵するクロツバメシジミ ( 壱岐市芦辺町 )
▲クロツバメシジミ幼虫 ( 壱岐市石田町 )
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Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
その他、壱岐滞在中に目撃・採集した種類は下記の通りです。迷蝶はリュウキュウムラサキのみ
でした。クロマダラソテツシジミは見られませんでした。
ナミアゲハ、キアゲハ、クロアゲハ、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、モンキチョウ、キタキチョウ、
モンシロチョウ、ゴイシシジミ、ルリシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、ウラナ
ミシジミ、ウラギンシジミ、テングチョウ、メスグロヒョウモン、コミスジ、リュウキュウムラサキ、
ルリタテハ、キタテハ、アカタテハ、ヒメアカタテハ、ゴマダラチョウ、キマダラセセリ、イチモ
ンジセセリ、チャバネセセリ(合計 27 種)
暗化傾向が強いヒメジャノメ
ヒメジャノメは対馬産や屋久島・種子島、隠
岐産が暗化することが知られていますが、壱岐
産のものもかなり暗化傾向が強いものでした。
写真のものは、母蝶採卵で飼育した個体ですが、
かなり裏面が暗化しています。
五島列島産に似ているカラスアゲハ
以前飼育してる時にも感じたのですが、壱岐
産のカラスアゲハは五島列島産のものに似てい
るように思います。全体的に暗いのですが、♀
の後翅赤斑は発達し、美麗なカラスアゲハでし
た。(写真は吸蜜する♂)
最後にイキオサムシです。イキオサムシはヒメ
オサムシ亜種の中で最大になる亜種で、是非とも
自分の手で採ってみたい種類でした。
PT( ピットホールトラップ ) を島内各所に 50 個
ほど仕掛けたのですが、個体数は非常に少なかっ
たです。競合するオサムシはマイマイカブリしか
おらず、こちらはかなりの稀種ですので、イキオ
サムシの方は多産していそうなのですが…。
以上簡単ですが壱岐についての印象を書かせて
頂きました。時期を変えて訪れればもう少し種類
数が見られると思います。全体的に平坦な島で島
内各地に道路網がはりめぐらされており探索は容
易です。皆さんも是非訪れてみてください。
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▲イキオサムシ
Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
統合協議の進捗状況について
第二回の公式協議が行われる
文責:斎藤基樹(運営委員長)
前号のニュースレター No.45 でも報告した通り、日本蝶類学会(フジミドリシジミ)[ 以下、フジ
学会と略称 ] との統合に向けた公式協議が始まりました。10 月 22 日の公式協議に続き 11 月 17 日に
2 回目の公式協議が行われたのでその議事録を掲載します。なお議事録に記載された 3 回目の公式
協議は、フジ学会の都合により延期されていますのでご注意下さい。今号の理事会報告にもありま
す通り、当学会としては引き続きフジ学会との統合を優先事項と考えて取り組んでまいりますので、
会員の皆様のご理解とご協力をよろしくお願いします。
統合問題公式協議(第2回)議事録
開催日時: 2009 年 11 月 17 日(火)20:00 ~ 21:40
開催場所: 霞が関法律事務所会議室(東京都千代田区霞が関)
出席者:日本蝶類学会(テングアゲハ)*以下、「テング学会」と略称
斎藤基樹(運営委員長)、添徹太郎(運営副委員長)、斉藤光太郎(編集副委員長)
日本蝶類学会(フジミドリシジミ)*以下、「フジ学会」と略称
小林真一郎(運営副委員長)
、朝日純一(組織法規委員長)
会議議題: 統合問題についての意見交換
決定事項:
1)双方が統合後の学会の理念・あり方について引き続き議論を重ねる。
2)次回の協議は 12 月 22 日 19 時 30 分より同所で開催する。
経緯:
1)前回の公式協議で決定した通り、双方が作成・事前に通知した理念・在り方の原案をもとに
議論を開始。フジ学会側からは基本的にテング学会側が作成した案に異存は無いものの、統
合後に不愉快な紛争や問題が生じないように細心の配慮が必要で、その配慮が反映された内
容にするためにさらに検討が必要と主張。この中でフジ学会側はテング学会の会員からフジ
学会を敵視するような発言を受けたことを例に挙げ、このような感情的対立がある限り統合
はうまくいかないと強調した。
2)またフジ学会側は主に会員向けに実施したアンケート調査の結果を報告した。全会員のおよ
そ 3 分の 1 にあたる 100 通を超える回答があったとし、集計は途上であると前置きした上で、
大まかに言って 3 分の 2 が統合を望んでいると回答したと明らかにした。一方で残りの 3 分
の 1 が統合反対もしくは条件次第と回答したと説明し、統合にあたってはこの 3 分の 1 の意
見をどうするかも課題になると主張した。
3)統合後の学会の在り方について、学術志向のいわゆる「学会」を目指すのか、それとも同好
会的な性格の会を目指すのかについて意見を交わしたが、テング側は現在の双方の会員の構
成からいってもアマチュアの愛好家が大勢を占めている現実がある以上、学会と同好会の中
間から「やや同好会寄り」のスタンスが望ましいのではと指摘、フジ学会側もこれに同意。
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Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
4)テング学会側はフジ学会が示したロードマップに従って本件協議を進めるつもりであるとし
た上で、1)や2)についての議論が長引くと、フジ側が示した「年内の大筋での基本合意」
は困難になるのではと懸念を示した。これに対しフジ学会側は理念・在り方の議論を尽くす
ことは何よりも重要で、ロードマップに縛られ、結論を急ぐべきではないと述べた。フジ学
会側からは本音の意見を言って欲しいと要望があった。
5)テング学会側がフジ学会は会誌の発行が著しく停滞し、会費を払っている会員に対する責任
を果たしていないのではないかと指摘したのに対し、フジ学会側は「会誌の発行遅れは問題
だと認識している」旨回答した。
6)理念・在り方を中心に引き続き協議を続けることで一致した。(決定事項1、2)
以上
★ホッと一息、癒し系連載企画
大好評連載!女子大生蝶屋メイちゃんの絵日記 その 5
凍るように寒くなってきて、外へは研究室から巻いていたマフラーを余計に巻いて、いざ幼虫探
しに挑んでいます。
ヤマトシジミの親だったらどんな所に卵を生むのか、なんてヤマトシジミが飛ぶ目線に這いつく
ばって世界を見てみると頬にあたるコンクリートがひんやりと冷たいです。
駐車場で、駐輪場で、広場で、建物脇で、一生懸命幼虫を探す私と一生懸命越冬している幼虫たち。
このにらめっこはまだまだ続きそうです。
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Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
BUTTERFLIES LIBRARY ~蝶屋の本棚~
『Citrina 通信 300号』
蝶屋は概してマメな人が多く(ちなみに当会運営委員長と運営副委員長は数少ない例外)
、記録を
まとめた小冊子を作ったり、採集記を出版したりするのがとても好きなようだ。別に出版社に話を持
ちかけてつくるような大事業でなくとも、昨今のデジタル技術の進歩でミニコミ誌や同行会誌の製作
は極めて容易になった。きちんとした出版物として見応えのあるものも多く出版されてきている。
今回紹介するのは、ウスバシロチョウの愛好家で東京在住の寺章夫さんの主宰するミニコミ誌
「Citrina 通信」である。Citrina 通信の内容は誌名の由来となっているウスバシロチョウ(属)に留ま
らず、広く蝶に関する話題を扱っており、蝶友との親交を深めたいという寺さんの思いが伝わって
くる。このほどこの通信が何と 300 号の大台に乗ることになり、特大の記念号がつくられた。寺さ
ん直筆の温かみのあるイラストが飾っている表紙(下図参照)をめくると、何と 40 余りの多彩な話
題が掲載された目次が眼に飛び込んでくる。内容は Citrina 通信の「王道」とも言えるウスバシロチョ
ウの話題はもちろん、国内外の採集記、想い出の標本、果ては原記載の見方といった学問的な内容
に至るまで、執筆者それぞれの思いが込められた記事であふれている。執筆者の年齢、性別、社会
的属性、興味の対象はバラバラであるが、いずれも「蝶が好き」という唯一無二の原理に従って、
何ら憚ることなく書かれた記事はそれぞれ読み応え十分で、1 冊まるごとどこから読んでも楽しい。
何事も継続することは難しいのが世の常であるが、300 号という素晴らしい節目を飛躍への踏み
台にして、今後とも発行を続けてもらいたいと願わずにはおれない。
本書は昆虫文献六本脚、南陽堂書店で入手が可能であるほか、著者の寺章夫さん(〒 178 -0063 東
京都練馬区東大泉 6 - 31 - 21、E-mail; [email protected])に申し込んでも入手可能。A4 サイズ。
定価 2400 円。
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運営委員会からのお知らせ
●学会ホームページ大増強中!
当学会のホームページは長らく更新されませんでしたが、会員獲得を目指して昨年末から少しず
つ更新を始めました。ポイントは大きく分けて 2 つで、蝶の画像を増やしたことと英語のコンテン
ツを増やしたことです。最近の更新は「月刊むし」などでもお馴染み、当会の運営・編集委員も務
めていただいている永幡嘉之氏の沿海州の美しい写真です。ぜひ皆さんもご覧下さい。アドレスは
下記の通りです。または「日本蝶類学会 テング」で検索して下さい。
http://www.asahi-net.or.jp/~EY4Y-TKNM/bsjn/bsjn.html
●2010年度会費の納入をお願いします!!
当学会の会計年度は 1 月~ 12 月となっております。会員の皆様におかれましては、今年度も引き
続き当学会の会員を継続して下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。
会費は一般会員が 1 万円、学生会員は 6000 円となっております。学生会員の方は学生証など学生
であることが分かる身分証のコピーをご提出下さい。納入先は下記の通りです。
会費納入先: 郵便振替口座:00170 - 1 - 334608 <日本蝶類学会>
なお、この時期は事務作業が繁忙になっており、すでに会費を納入いただいた方の中でも宛て名
ラベルで今年度会費が未納となっている方がおられるかもしれません。当会では会費の納入につき
ましてはきちんと管理していますのでご安心下さい。速やかに納入状況を反映させられるよう尽力し
ます。
●故・五十嵐名誉会長のコレクションが公開!!
当会の元名誉会長、故・五十嵐邁氏の膨大なコレクションは、フランス文学者・奥本大三郎氏の
私設博物館で、東京都文京区千駄木にあるファーブル昆虫館(虫の詩人の館)に納められることに
なりました。膨大なコレクションを当会の会員数名で整理にあたってきましたが、このほど整理の
めどもつき、コレクションが一般に初公開されることになりました。標本だけでなく著書や図鑑用
の原画なども展示されるようです。無料とのことですので、ぜひ皆さん観覧に行ってみて下さい。
詳細は学会ホームページからも見ることができます。
《五十嵐邁コレクション展》
2010 年 3月20日 (土) ~ 29日 (月) 、虫の詩人の館 (文京区千駄木5 - 46 - 6)、入場料無料
●各地のニュースをお寄せ下さい!!
今号には西原委員の壱岐採集記が掲載されましたが、会員の皆様も全国各地の蝶の話題をぜひお
寄せ下さい。ニュースレターや会誌でどんどん紹介していきたいと思います。当会は「学会」と銘打っ
ているせいか、敷居が高いと思われている方もおられるようです。当会はあくまでアマチュアもプ
ロも蝶を楽しめるような「楽会」を目指しておりますので、お気軽にニュースをお寄せ下さい。ニュー
スレターは去年から発行回数を大幅に増やしております。最新情報もどしどし掲載していきます。
ご投稿はメールまたは郵便にて。電話での情報提供もお待ちしております。
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Butterflies Newsletter No.46 (Feb. 2010)
都心の蝶スケッチ
その2:オオミドリシジミ、ウラナミアカシジミが都心で記録されていた!
ニュースレター No.43 ( 学会ホームページで公開しています ) で都心の最近のゼフィルスについて述
べたが、その後、たいへん貴重な記録が発表されていたことを知ったので追加のかたちで報告して
おきたい。それは国立科学博物館附属自然教育園 ( 目黒区白金台 ) でのオオミドリシジミとウラナミ
アカシジミの記録である。いずれも自然教育園の久居宣夫研究主幹によって報告されている。
それによると、オオミドリシジミが 2008 年 7 月 1 日、ウラナミアカシジミが 2008 年 6 月 15 日に
それぞれ 1 個体ずつ自然教育園内で撮影されている。下記の参考文献に生態写真も掲載されている。
興味を惹かれたので先日、久居氏を訪ねて話を聞いてみた。久居氏によれば園内ではアカシジミ
とミズイロオナガシジミは毎年少数が確認されており、発生しているようであるが、オオミドリシ
ジミとウラナミアカシジミは初めてと言うことである。オオミドリシジミもウラナミアカシジミも、
まさか都心に生き残っていたとは考えてもみなかったので、たいへん驚いた次第である。
なお、貴重なお話を聞かせていただいた久居宣夫氏には改めて厚く御礼申し上げておきたい。
(事務局)
【参考文献】
久居宣夫(2009)
「自然教育園および新宿御苑の蝶類」、自然教育園報告 Rept.Inst.Nat.Stu. 第 40 号 :9-45
【編集後記】
昨年度の総会・大会はお陰さまで前年度を上回る大盛況となりました。去年のこの時期には「大
会の成功に気を良くして特大のニュースレターを作ってしまいました」とか書いていた記憶があり
ますが、今年はさらに去年をしのぐ全 20 ページ(!)などという当会史上最大のニュースレターを
作ってしまいました。読み応えはいかがでしたか? それもこれも会員の皆様のご支援があればこそ
ではありますが、当会も厳しい財政事情故、あまり大盤振る舞いばかりも出来ないのが厳しい現状
です。ぜひお近くのご友人、お仲間にもお声掛けいただき、当会の活発な活動をお伝えいただき、
入会をお勧めいただけませんでしょうか。会員の数が増えれば、ますます充実した活動も可能とな
ります。どうか引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます。あと 1 カ月ほどでギフチョウ
のシーズンです。遅ればせながら、本年が会員の皆様にとりまして蝶の成果が多い年でありますよう、
ご祈念申し上げます。(事務局)
Butterflies Newsletter No.46 (2 0 1 0 年2 月22日)
発行 日本蝶類学会 ( テングアゲハ )
日本蝶類学会 ( テングアゲハ ) 事務局
〒 162 - 0053 東京都新宿区原町 3 - 46 - 1 メゾンフモト 1 - B
TEL:080 - 3534 - 9528
URL:http://www.asahi-net.or.jp/~EY4Y-TKNM/bsjn/bsjn.html
E - mail:[email protected]
郵便振替口座:00170 - 1 - 334608 <日本蝶類学会>
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