免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業 - リウマチ・アレルギー情報

平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業) 総括研究報告書
免疫疾患の病因・病態解析とその制御戦略へのアプローチに関する研究 研究代表者 住田 孝之(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻臨床免疫学 教授) 研 究 要 旨 免疫疾患の発症機序の全貌がいまだ明らかにされていないために疾患特異的な治療がなく副腎皮質ホルモンや
免疫抑制薬による非特異的な治療法が中心である。そのために、感染症や腫瘍併発などの副作用が認められ患
者の quality of life (QOL)の低下、医療費の高騰化が社会問題にもなってきた。本研究プロジェクトにおいて
は、免疫疾患とくに自己免疫疾患に焦点を当て、その発症に関わる免疫担当細胞、免疫分子を明らかにし、そ
れらを標的とした疾患特異的な治療法、予防法を開発することを目的とする。このような疾患特異的治療によ
り、効率的かつ安全性の高い医療が普及することとなり、患者の QOL の改善、医療費の節約化につながると期
待される。 本プロジェクトにおける具体的な研究テーマは以下のように考えている。 自然免疫系において重要な役割を果たしている樹状細胞(DC)は Toll 様受容体(TLR)により活性化され IL-15 等
のサイトカインを産生し免疫系を動かす。DC の活性化や炎症性サイトカイン産生を促進する TREM1-TREM1-L 相
互作用などをターゲットとした治療戦略を開発する(小安、上阪)。CD11b 細胞に発現し関節炎を制御する TIARP
分子や単球に発現する RasGRP4 分子も治療標的とする(松本、小池)。DC などに提示された抗原を認識した T 細
胞は活性化され TH1, TH2, TH17 細胞などに分化し様々なサイトカインを産生し、細胞傷害性 T 細胞の誘導も促
し、最終的に炎症や臓器破壊にいたる。そこで、T 細胞活性化の初期段階において抗原認識を抗原特異的に制御
する戦略(住田)、TH1 細胞、 TH2 細胞、TH17 細胞を標的とした制御戦略の開発(高橋、住田)をめざす。免疫
応答をネガテイブに調節している新規調節性 T 細胞(CD4+CD25- LAG3+Treg 細胞)による制御法(藤尾)、もう一
つの調節機能を有する NKT 細胞(TCRVa7.2-Ja33+MAIT 細胞)を標的とした治療戦略(山村)の開発を進める。B
細胞ケモカイン・ケモカイン受容体阻害による治療戦略(石川)、自己抗体産生機構の解析と B 細胞内チロシン
キナーゼ(Syk)を標的とした新規治療法の開発も進めている(田中)。
研究分担者
小池隆夫 北海道大学大学院医学研究科
教授
山村 隆 国立精神・神経センター神経研究所
部長
田中良哉 産業医科大学医学部第一内科学講座
教授
小安重夫 慶応義塾大学医学部 免疫学
教授
高橋 智 筑波大学大学院人間総合科学研究科
教授
石川 昌 東京大学大学院医学系研究科
准教授
上阪 等 東京医科歯科大学大学院医歯学総合
研究科 准教授
松本 功 筑波大学大学院人間総合科学研究科
准教授
藤尾圭志 東京大学医学部アレルギーリウマチ内科
助教
A.研 究 目 的 難治性疾患に制定されている疾患の多くは自己免
疫疾患である。しかし、その発症の分子機構はいま
だ明らかにされておらず、疾患特異的な治療法は開
発されていない。現在の治療の主体は、副腎皮質ホ
ルモンや免疫抑制剤などの非特異的治療であり、感
染症など種々の副作用が認められ、患者の QOL 低下
の一因となっている。本研究では、自然免疫系およ
び獲得免疫系において重要な役割を果たしている
免疫担当細胞、免疫分子の機能を分子レベルで明ら
かにし、免疫疾患の発症機構を明らかにする。さら
に、それらの細胞や分子をターゲットとした抜本的
な治療・予防戦略を開発することを目的とする。厚
生労働省の特定疾患対策として、病因解明、発症機
序に基づく疾患特異的治療の開発は急務であり、本
研究による新しい予防、治療法による患者の QOL
改善が期待される。 具体的には、1)自己抗原の T 細胞エピトープ解析、
アナログペプチドを用いた自己反応性 T 細胞の抗
原特異的制御法の開発(住田)、2) TH1 細胞、TH2
細胞、TH17 細胞の役割を T-bet, GATA3、RORγT ト
ランスジェニックマウスを用いて解明し新規治療
法開発を目指す(高橋、住田)、3)抗原提示細胞と
して重要な樹状細胞(DC)に焦点をあて、Toll 様受
容体(TLR)を介したシグナル、IL-15 の制御を中心
に遺伝子改変マウスや CIA モデルマウスを用いて
自己免疫寛容破綻機序を解明する(小安)、4)CD11b
細胞に発現する TNF-a 誘導蛋白 TIARP による関節炎
制御法の開発(松本)、5)サイトカイン産生を促進
する TREM1-TREM1-L 相互作用を抑制する抗体を作
成し、感染症などの副作用の無い関節炎治療薬を開
発する(上阪)、6)単球系細胞に発現する RasGRP4
分子による自己免疫疾患制御法の開発(小池)、7)
新規 NKT 細胞(MAIT 細胞)の機能解析と NKT 細胞を
介した治療法の開発(山村)、8)IL-10 を産生する
新規 Treg 細胞(CD4+CD25-LAG3+Treg)に注目し免疫
疾患発症機構の解明と治療法開発(藤尾)、9)抗
BLC 抗体による B 細胞ケモカイン・ケモカインレセ
プター阻害を介した治療戦略開発(石川)、10)自
己抗体産生機序の解析と B 細胞内チロシンキナー
ゼ(Syk)を標的とした新規治療法の臨床応用(田
中)。 本研究の独創的な点は、新しく発見された重要な
免疫担当細胞、免疫分子の視点から免疫疾患の発症
機構を分子レベルで解析し、それらを標的とした新
規治療・予防戦略を開発する点にある。国内・国外
の研究においても極めてユニークな研究プロジェク
トといえよう。
B.研 究 方 法 1.(住田)1)シェーグレン症候群や関節リウマチを
対象として、自己反応性 T 細胞エピトープ(M3R、
CII、GPI)のアナログペプチドを選定し、それぞれ
のモデルマウス(M3R 誘導唾液腺炎マウス、コラー
ゲン誘導関節炎マウス、GPI 誘導関節炎マウス)を
用いて in vivo での抗原特異的治療戦略を検定した。
2)T-bet トランスジェニックマウス(TH1 マウス)、
RORγt トランスジェニックマウス(TH17 マウス)
を用いて自己免疫性関節炎、自己免疫性唾液炎など
の発症機序を解析した。 2.(高橋)RORγT トランスジェニックマウス(TH17
マウス)においてサイトカイン産生および抗体産生
について、GATA-3 トランスジェニックマウス(TH2
マウス)および T-bet トランスジェニックマウス
(TH1 マウス)において DSS 投与による潰瘍性大腸
炎への影響を検討した。 3.(小安)1)in vitro において樹上細胞(DC)を TLR
リガンドで刺激して産生サイトカインについて検
討した。2)CpG および symosan により DC を刺激して
細胞移入することにより CIA ヘの影響を検討した。
3)IL-15 ノックアウトマウス由来 DC を細胞移入して
CIA を検討した。 4.(松本)1)TIARP ノックアウトマウスを作製し CIA
について検討した。2)関節リウマチ患者血清におい
て、環状シトルリン化 GPI(CCG)抗体の検出と臨床的
意義について検討した。 5.(上阪)1)新規TREM1-L発現細胞からcDNAライブ
ラリーをスクリーニングして新しいTREM1-L分子を
同定した。2)同分子に対するモノクローナル抗体を
作成してCIAに対する予防、治療効果を検討した。 6.(小池)1)RA 患者末梢単球において RasGRP4mRNA
発現およびスプライスバリアントの存在を real time PCR 法で検討した。2)同様に RasGRP 蛋白量発
現について Western ブロット法により検討した。 7.(山村)DBA/1 マウスにバッククロスした MRI ノ
ックアウトマウスを作製して、CIA および抗 CII 抗
体投与による自己免疫性関節炎について検討した。 8.(藤尾)1)MRL/lpr マウスに CD4+CD25-LAG3+Treg
細胞を移入し SLE 病態に対する影響を解析した。
2)in vitro および in vivo において抗 NP 抗体産生
に対する上記細胞の機能を解析した。 9.(石川)B 細胞ケモカイン(BLC/CXCL13)に対する
抗 BLC 抗体を BWF1 マウスに腹腔内投与して SLE 病
態の治療効果について検討した。 10.(田中)1)BCR 架橋、sCD40L、CpG̶ ODN(TLR9
のリガンド)により、B 細胞の活性化、増殖に対す
る影響を検討した。2)B 細胞受容体下チロシンキナ
ーゼである Syk 分子阻害薬を用いて、B 細胞活性化、
増殖、および抗体産生に対する効果を検討した。 ( 倫 理 面 へ の 配 慮 ) ヒトの検体を用いる研究に関しては、各施設にお
ける倫理委員会での承諾を得た上で、患者および健
常者に充分なインフォームド・コンセントを行い、
理解と同意を得る。動物実験においては、過度の苦
痛や恐怖を与えないように配慮する。遺伝子改変マ
ウスを用いた実験では、当該施設の組換え DNA 実験
および動物実験の学内規定を遵守して行う。 C.研 究 結 果 1) 住田:1)RORγt トランスジェニックマウスにお
いて自己反応性唾液腺炎が自然発症した。その発
症機序として、M3R に対する IL-17 産生 T 細胞
および抗 M3R 抗体の存在が関与しているが判明
した。2)RORγt トランスジェニックマウスにお
いて CIA が完全に抑制された。その機序として、
抗 CII 抗体価の有意な低下が示唆された。
2) 高橋:1)RORγt トランスジェニッックマウスに
おいて、血清 IL-17 の増加、Balb/c バックグラン
ドにおいて高γグロブリン血症、血清 IL-6 の上
昇、多臓器に形質細胞増加の浸潤を認めた。
2)DSS 投与による潰瘍性大腸炎は、GATA-3 トラ
ンスジェニックマウスにおいて最も重篤化し、
T-bet トランスジェニックでは軽症であった。
3) 小安:1)CpG 刺激により IL-12、IL-6、TNF-α産
生が増加した。2)CpG 刺激 DC 移入では LPS 刺
激と同等の CIA 発症が認められた。3)IL-15 ノッ
クアウトマウス由来 DC 移入により CIA が誘導
できなかった。
4) 松 本 : 1)TIARP ノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス に お い て
CD11b+細胞の増加、CIA の増悪、血清 IL-6 の増
加、関節内 IL-6 および TNF-αmRNA の増加が認
められた。2)RA 患者血清において、抗 CCG 抗体
の感度は 40.3%、特異度は 95.4%であった。
5) 上阪:1)新規 TREM1-L 分子を選定した。2)同分
子に対するモノクローナル抗体により CIA を予
防、治療することに成功した。3)抗体の関節炎抑
制機序は、TREM1-TREM1-L の相互作用を競合的
に阻害するだけでなく TREM1-L 産生細胞に対し
て細胞内シグナルへ影響を与えている結果であ
ることも明らかにした。
6) 小 池 : 1)RA 患 者 末 梢 単 球 に お い て
RasGRP4mRNA は高発現し RasGRP4 スプライス
バリアント mRNA 発現も検出された。一方、
RasGRP4 蛋白発現は低下していた。この結果か
ら、スプライスバリアントが RasGRP4 を負に制
御している可能性が示唆された。
7) 山村:MRI-/-DBA/1 マウスにおいて CIA および
抗体誘導関節炎はともに、臨床スコア、病理スコ
アが軽度であった。
8) 藤尾:1)MRL/lpr マウスに CD4+CD25-LAG3+Treg
細胞を移入した結果、自己抗体産生および腎障害
が有意に改善した。2)上記細胞は in vivo および
in vitro において抗 NP 抗体産生を著明に抑制し
た。
9) 石川:抗 BLC 抗体投与により BWF1 マウスの生
存曲線、蛋白尿、抗体 DNA 抗体の改善、各臓器
における IL-17mRNA 発現低下が認められた。 10) 田中:1)BCR 架橋、sCD40L、CpG-ODN による
刺激によりメモリーB 細胞においてより活性化
された。2)Syk 阻害薬により TLR9、TRAF6 発現、
NFkB のリン酸化が完全に抑制された。 D.E.考 察 と 結 論 本研究では、自然免疫系および獲得免疫系におい
て重要な役割を果たしている免疫担当細胞、免疫分
子の機能を分子レベルで明らかにし、免疫疾患の発
症機構を明らかにする。さらに、それらの細胞や分
子をターゲットとした抜本的な治療・予防戦略を開
発することを目的とした。本年度の研究成果では、
自己免疫疾患における DC 細胞、T 細胞抗原エピト
ープ、TH1, TH2, TH17 細胞の関与、新規 Treg 細胞
やユニークな NKT 細胞などの調節性 T 細胞、B 細胞
の関与等について明らかにする事ができ一定の研
究成果が得られたと考えられる。本研究成果は、自
己免疫疾患の発症機構を分子、細胞レベルで解析す
る基盤研究であり、次年度以降は、本研究成果に基
づいた具体的な新規治療戦略の開発をめざす。 F.健 康 危 険 情 報 特になし G.研 究 発 表 分担研究報告書参照 H.知 的 財 産 権 の 出 願 ・ 登 録 状 況 ( 予 定 を 含 む ) 分担研究報告書参照