光技術情報誌「ライトエッジ」No.13(1998年7月発行) エキシマランプの実用状況と測定の実際 エキシマランプの実用状況と測光の実際 ランプ第二事業部 ELEプロジェクト 菱沼 宣是 はじめに 形状にする事も可能である。我々は、材料の入 1993年11月の北海道大学で開催された秋季第 54回応用物理学会の併設展示会で、誘電体バリ 手性、加工性の点から、図.1に示すような中空 二重円筒状の構造を採用した。 ア放電エキシマランプ(以後エキシマランプと称 す)の発売を開始して以来、約4年半が経過した。 『エキシマ光源即ちエキシマレーザ』というの が一般通念であったが、エキシマランプの発売 でエキシマ光源に対する常識が変わったように 思われる。エキシマランプはエキシマレーザに 比べ安価で、しかも取扱いが非常に簡単である。 また対応している波長は 126nm、146nm、 172nm、222nm、308nmの5種類である。 図.1 エキシマランプの概略構造 大小の石英管 (誘電体) で放電空間が形成され、 現在まで、大学、官公庁の研究機関、企業の その放電空間には放電気体が所定の圧力で充填 研究所を中心に研究開発用の光源として多数の される。内側管の内壁に金属電極を、外側管の 出荷台数を数えている。また、産業用途として 外壁には金属網電極が配置されている。内外両 半導体、液晶関係のVUV/O3 洗浄用の光源とし 電極に高周波高電圧が印加され、放電空間に発 てXe2*エキシマランプが使われ始めている。従 生した放電プラズマが放電気体を励起しエキシ 来のVUV/O3 洗浄用光源は、低圧水銀ランプが マ発光させ、金属網電極の網目を通してエキシ 主であったが、ランプ温度が高くワーク温度を マ光が放出する。 不必要に上昇させ、また漏れ光が人体に悪影響 同様の構造で、ランプ軸の一方の端面に窓を を及ぼすという問題があった。Xe2*エキシマラ 取り付けたタイプが「ヘッドオン型」である。 ンプはこの問題を解決し、さらに高速洗浄を可 図.2に概略構造を示す。上述の外管側面から光 能にするなど、生産に寄与している。 を取出すタイプに比べて、数倍の強さの放射強 これまでエキシマランプに関して数多くの報 度が得られる。 告が行われているが、ここでは、用途とエキシ マ光(特にAr2*の126nm、Kr2*の146nm、Xe2*の 172nm)の測光の実際についてを中心に概説す る。 1. エキシマランプの構造と特徴 ①エキシマランプの構造 エキシマランプの構造上の最大の特徴は、電 極が放電空間内に無いということである。そし て、誘電体(石英ガラス)、放電空間、電極の3 者の配列が一定の条件を満たせば、どのような 図.2 ヘッドオン型ランプの概略構造 34 寄 稿 ウシオ電機株式会社 Copyright(C)USHIO INC. All Right Reserved 光技術情報誌「ライトエッジ」No.13(1998年7月発行) 170nm以下の波長の真空紫外線を効率良く透 離するため金属容器内に収められ、容器内はエ 過 す る 材 質 と し て は 、 フッ化 マ グ ネ シ ウ ム キシマ光の吸収の少ない気体(窒素)で満たされ (MgF2)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化リチウ ている。ランプ前面にはエキシマ光を効率良く ム(LiF2)等があるが、いずれも板状で小さなも 透過する窓ガラス(合成石英)が設けてあり、窓 のしか入手できない。従って、Ar2*エキシマラ ガラスよりエキシマ光が照射される。 (146nm)は、 ンプ (126nm)、Kr2*エキシマランプ エキシマランプの特徴で示したように、エキ フッ化物を窓材に使ったヘッドオン構造に限定 シマランプは並列点灯が可能である。金属ブロ される。実際の商品は、放電空間を石英ガラス ックをグランド電位、ランプ内管を高圧電位と で形成し、金属を介して石英ガラスとフッ化物 して高周波高電圧が給電されて、同一電源で複 (MgF2)の窓材とを接合している。 数本のランプが点灯する。 以上のような構成で製作した窓面積610mm× ②エキシマランプの特徴 690mmを持った平面光源は、総出力約46Wの エキシマランプには次のような特徴がある。 172nmエキシマ光を取り出すことができる。窓 ● 瞬時点滅点灯が可能 面における放射照度分布のバラツキは±10%程 ● 実質的な単一波長 度である。 誘電体バリア放電によるエキシマ発光は、充 填ガスに固有の発光波長を持ち、半値幅が小さ く、それ以外の光の出力は小さく、実質的には 単一波長といっても良い。 ● ランプ温度が低い(低温処理が可能) ● 並列点灯が可能 2. エキシマランプを搭載した平面光源 図.3 エキシマランプを搭載した平面光源構造図 エキシマランプを搭載して172nmエキシマ光 を照射できる平面光源を商品化した。その平面 光源について概説する。 基本構造を図.3に、610mm×690mmの窓を持 つ照射装置を写真.1に示す。金属ブロックに設 けた複数本の溝にエキシマランプを固定する。 金属ブロックは水冷できるように冷却水の流路 を備えており、ランプは金属ブロックを介して 水冷される。ランプとランプの間には山形のミ ラーが設けてあり、窓面の照度分布を均一にす ると同時に、光を有効に取出す働きをしている。 ランプ、金属ブロック、山形ミラーは外気と隔 写真.1 610mm×690mm 平面光源 寄稿 ウシオ電機株式会社 Copyright(C)USHIO INC. All Right Reserved 35 光技術情報誌「ライトエッジ」No.13(1998年7月発行) エキシマランプの実用状況と測定の実際 3. エキシマランプの用途例 エキシマランプの用途例について、支障の無 に発光感度を持っている)を塗布し、真空紫外 光を蛍光体で可視光に変換して、可視光の強度 い範囲で紹介する。 をシリコンフォトダイオードで測定した。Ar2* Ar2*エキシマランプ126nm(半値幅10nm) エキシマランプ(126nm)、Kr2*エキシマランプ (146nm)の場合は、石英ガラスが光を透過しな 真空中の微量水分の測定 1) ● いため、蛍光体に真空紫外光が直接照射するよ 光CVD用光源 ● Kr2*エキシマランプ146nm(半値幅13nm) 蛍光体の特性評価 ● アルコキシドからのSiO2の形成 3) ● ②ヘッドオン型Ar2*、Kr2*エキシマランプの照度測定 上記の照度モニタを用いてヘッドオン型 光CVD用光源 ● Xe2*エキシマランプ172nm(半値幅14nm) ● う塗布面を露出させた。 2) 蛍光体の特性評価 2) 分布と、放射照度の距離依存特性を測定した。 測定装置の概要を図.4に示す。エキシマランプ 4) ● VUV/O3 ドライ洗浄 ● 真空中における脱ガス 5) ● フォトエッチング 6) ● プラスチックの表面改質 7) ● 光CVD用光源 Ar2*、Kr2*エキシマランプについて窓面の照度 KrC1*エキシマランプ222nm(半値幅2nm) ● PDP用蛍光体の評価 ● ダイヤモンドの結晶性解析 XeC1*エキシマランプ308nm(半値幅2nm) ● 図.4 放射照度分布測定の概要図 と照度モニタは真空チェンバ内に設置した。放 UVキュア 9) 射照度分布測定の際には、モニタ前面にφ1.5の 4. 真空紫外エキシマ光の測定 真空紫外光用の照度測定器は一般に市販され アパーチャを配置している。 真空ポンプR.P.でチェンバ内を真空(約2Pa) ていない。唯一、(株)オーク製作所より185nm に排気した後、窒素入り口バルブを徐々に開放 専用照度測定器UV−185が市販されているのみ してチェンバ内を窒素(純度99.999%以上)で満 である。そこで我々は真空紫外光用専用モニタ たす。チェンバ内が窒素で満たされた後は、窒 を製作して Ar 2 *、Kr 2 *、Xe 2 * エキシマランプ 素出口バルブを開放して系内に酸素が流入しな (126nm、146nm、172nm)の放射照度の特性測 いように測定中は流量約2L/minの窒素でパージし 定を行った。また、分光分布の測定はACTON 社の真空紫外分光器(型式VM−502)を用いて 続けている。 放射照度分布測定はモニタをランプ窓面より 行った。 所定の距離に配置し、ランプ軸に垂直に移動さ ①照度モニタの構造 せて分布を測定した。また、放射照度の距離依 石英ガラスに蛍光体(126nm、146nm、172nm 存特性を測定する際には、ランプ軸方向にモニ 36 寄 稿 ウシオ電機株式会社 Copyright(C)USHIO INC. All Right Reserved 光技術情報誌「ライトエッジ」No.13(1998年7月発行) タを移動させて測定した。放射照度分布の測定 結果を図.7に示す。Ar2*エキシマランプ(126nm)、 結果を図.5に、放射照度の距離依存特性の測定 Kr2*エキシマランプ(146nm)、Xe2*エキシマラ 結果を図.6に示す。Ar 2*、Kr 2*エキシマランプ ンプ(172nm)の重水素ランプに対する強度比は 共に同じ放射照度分布を示した。窓面外周部の 4:7:13であった。 放射照度が高くなっているのは、ランプ構造に 由来する。中空ランプ構造であるため窓面中心 の放射照度が低くなってしまう。 図.7 Ar2*、Kr2*、Xe2*エキシマランプとD2 ランプの分光分布比較 ④平面光源の窓面における照度分布の測定 図.5 ランプ窓面からの距離と経方向の放射照度空間分布 (窒素中)Ar2*(126nm)同一分布 上述の専用モニタを用いてエキシマランプを 搭載した面光源(窓開口230mm×230mm)の窓 面における放射照度の分布測定を行った。酸素 の真空紫外線172nm対する吸収係数が大きく、 大気中における放射照度の距離依存性が大きい ので、窓面における放射照度を基準にした。 図.6 軸方向照射距離による放射照度の変化 ③エキシマランプの分光分布の測定 ACTON社製真空紫外分光器(型式VM−502) を用いてAr2*、Kr2*、Xe2*エキシマ光の分光分 図.8 窓面放射照度分布測定の概要 布の測定を行った。比較のため、一般に市販さ 測定方法の概要を図.8に示す。窓面に専用照 れている浜松ホトニクス製 30 W重水素ランプ 度モニタを接触させながら移動させて照度の分 (L−819−01)の分光分布測定も同時に行った。 布を測定した。230mm×230mmの開口窓を持 寄稿 ウシオ電機株式会社 Copyright(C)USHIO INC. All Right Reserved 37 光技術情報誌「ライトエッジ」No.13(1998年7月発行) エキシマランプの実用状況と測定の実際 つ8インチウエハ用Xe 2*エキシマ光平面光源の に関する研究調査会」において発表した内容を 放射照度分布の測定結果を図.9に示す。照度の まとめたものである。 バラツキは約±10%であった。放射照度が強く MgF 2 を使ったヘッドオン型ランプの構造に なっている部分はランプとランプの間である。 ついては、術研究所大西理事のご協力を頂いた。 放射照度分布を均一化するための山形ミラーの 照度モニタの較正、平面光源の放射照度分布デ 効果によるものである。 ータはELEプロジェクト竹元氏のデータを引用 させていただいた。また、Ar2*、Kr2*エキシマ ランプの放射照度分布と放射照度の距離依存デ ータ、及びAr2*、Kr2*、Xe2*エキシマ光の分光 分布比較のデータは、技術研究所菅原主任技師 のデータを引用させていただいた。ご協力に感 謝の意を表します。 参考文献 図.9 窓開口230mm×230mm平面光源の窓面における 放射照度分布 (1)計量研究所 北野 寛他:アルゴンエキシマランプを用いた 蛍光法によるガス中微量水分の測定、1996年秋季第57回 5. おわりに 応物9a−ZA−3 現在、エキシマランプの産業用途の主流は Xe 2*エキシマランプを使ったVUV/O 3 ドライ洗 浄である。従来の低圧水銀灯のマイナス要因 (温度が上がる。安全性のため漏れ光対策必要。 (2)日本電気(株) 吉岡 俊博他:真空紫エキシマランプを用い たPDP用蛍光体評価、信学技報EID95-130、ED95-204、 SDM95-244(1996-02) (3)電総研 粟津 浩一:エキシマランプ光励起による二酸化素 膜のアルコキシドからの室温形成 小型化困難。等々)を補い、なおかつ速い洗浄 (4)(株) 芝浦製作所 磯 明典:600 × 750mm 基板対応超小 速度を実現したことが市場に受け入れられた理 型洗浄装置,エレクトロニクス実装技術 1997.7(Vol.13 由であると考えている。 No.7)p27-30 Xe2*エキシマランプ以外の波長のエキシマラ ンプも、エキシマ光特有の特徴を生かした新し い用途が開拓されるものと思われる。官公庁、 企業の研究所を中心に行われているエキシマラン プを使った研究の成果が期待されるところである。 (5)ウシオ電機(株) 豊間根 孝雄他:UV照射による石英ガラ スのガス放出特性、平成7年度(第28回)照明学会全国大会 (6)宮崎大工,ウシオ電機(株) 竹添法隆他:エキシマランプによ るフォトエシチング機構、春季第45回応物29a-G-6 (7)東海大工 村原 正隆:エキシマレーザーによる素樹脂の光 化学的表面改質(1) 、ポリファイル(1997. Vol. 34 No. 398)p55-63 (8)Heraeus Noblelight Gmbh Dr. Angelika et al : 6. 謝辞 Excimer UV-lamp-The real cold alternative in UV- 本報告は、平成9年11月20日開催された社団 curing、ラドテックシカゴ 1998 Apr. 19-22 法人照明学会「第9回短波長紫外線の測定方法 38 寄 稿 ウシオ電機株式会社 Copyright(C)USHIO INC. All Right Reserved
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