2P176 自己組織化単分子膜の分子構造 (株)リコー 先端技術研究所 ○加藤拓司 鳥居昌史 【序】 分子鎖あるいは表面官能基の凝集構造を持つ有機超薄膜である自己組織化有機単 分子膜は、様々な分野において応用研究がなされている。当初用いられた LB 法によ る有機単分子膜は単結晶レベルの構造制御が可能であるが、製膜プロセスの煩雑さが 応用研究の障壁となっていた。 1990 年代からは金-チオール系およびシロキサン系有機単分子膜を中心に化学吸着 法を用いて容易に構造制御がなされるようになった。金―チオール系有機単分子膜で は金の単結晶基板に硫黄原子を化学結合あるいは吸着させて製膜する方法であり、単 分子膜も単結晶レベルの構造を有しており走査型トンネル電子顕微鏡(STM)を中心 に構造解析と物性を合わせて議論がなされてきている。 化学吸着法を用いたシロキサン系有機単分子膜は基板選択の制約が少ないため、そ の応用分野の広がりに期待できる。このシロキサン系有機単分子膜を利用した表面改 質や機能化による分子デバイス化する上で、この単分子膜の構造解析は重要である。 本研究では、シロキサン系有機単分子膜を用いて、官能基の特定には65°入射に よる ATR 測定、原子数の定量には XPS 測定、膜厚および膜密度測定には X 線反射率 測定(XR)、面内周期構造の評価には視斜角入射 X 線回折(GIXD)測定を用いて総合的 な構造解析を行った。 【実験】 シロキサン系有機単分子膜は、Si 基板上にオクタデシルトリクロロシラン(OTS) 、 ラウリルトリクロロシラン(LTS)、ヘキシルトリクロロシラン(HTS)を用いて作 製した。 製膜方法は、いずれもこれらシラン化合物の 5mM トルエン溶液に硫酸洗浄あるい は表面プラズマ洗浄を施した Si 基板を5分間浸漬した。GIXD 測定は SPring8 BL24XU B ハッチでおこなった。 【結果および考察】 図 1 に OTS、LTS、HTS を用いて製膜した単分子膜について、XPS、ATR、XR、 GIXD による構造解析結果を示す。XPS 測定では C1s ピーク強度と Si2p ピーク強度比 の対数を縦軸にアルキル鎖の炭素数を横軸に取ることにより直線の関係が得られ、製 膜した単分子膜上の構成炭素数に関する定量性を確認した。ATR 測定では直鎖アル カンの CH2 非対称伸縮に注目した。Zig-Zag 構造では CH2 の非対称伸縮は 2919cm -1 に吸収ピークが観察され、アモルファスでは 2925cm-1 にシフトすることが知られ ている。OTS では Zig-Zag 構造になっているのに対してアルキル鎖長が短くなるに つれて乱れてくる様子が確認できる。また XR 測定結果をフィッティングにより膜密 度および膜厚を見積った。MO 計算から見積もられる分子鎖長から、この膜厚は単分 子から形成される膜であることが示唆される。さらに、GIXD により、これら単分子 膜は 4.0~4.5Åの面内周期構造を有する結果が得られた。以上の総合的解析により、 シロキサン系有機単分子膜の構造を明らかした。 XR:膜厚、膜密度 GIXD:面内周期構造 1.0E+00 1.0E-01 1.0E-02 1.0E-03 1.0E-04 1.0E-05 1.0E-06 1.0E-07 30 OTS LTS HTS OTS LTS HTS SUB 25 C P S 0 1 2 3 4 5 20 6 q/nm -1 15 膜厚(nm) 膜密度(g/cm3) OTS 2.5 1.19 LTS 1.7 1.18 HTS 1.0 1.20 10 5 O Si O O Si O O Si 0 O 10 O SiO2/Si 15 20 q(nm-1) 25 IR:官能基の特定、アルキル鎖 XPS:アルキル鎖中炭素数の定量 のコンフォーメーション Log(C1s/Si2P) Zig-Zag構造 1 OTS LTS HTS SUB 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 5 10 15 アルキル鎖の炭素数 20 25 3100 3050 3000 2950 2900 cm -1 図1:シロキサン系有機単分子膜の模式図および、 OTS,LTS,HTS の XPS、IR、XR、GIXD 測定結果 【実験協力者】 GIXD 測定: 前原和則 1、和田いずみ 1、牧田憲吾 2、岩田周行 2、谷克彦 3 1 兵庫科学技術財団、2(株)リコー 基盤技術研究所、3 リコーヒューマンクリエイツ(株) 2850 2800 2750
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