全学テーマ別評価自己評価書 「研究活動面における社会との連携及び協力」 (平成13年度着手分) 平成14年 7 月 宮崎医科大学 宮崎医科大学 Ⅰ 対象機関の概要 Ⅱ 研究活動面における社会との連携 及び協力に関するとらえ方 1 機関名:宮崎医科大学 1 「研究連携」に関するとらえ方 2 所在地:宮崎県宮崎郡清武町大字木原5200番地 本学は宮崎県唯一の医科大学・附属病院であるため、 3 学部・研究科・附置研究所等の構成 高度の医療を提供できる地域の中核的医療機関として、 (学部)医学部、(研究科)医学研究科、(附置研究所等) 県内の医学・医療水準の向上及び県民の健康増進を図り、 動物実験施設、実験実習機器センター 福祉に貢献することは必然的な使命である。 その一方で、 4 学生総数及び教員総数 国立大学であるがゆえに、先端の医学研究、医療技術の ①学生総数 842名 (うち学部学生数 773名) 研究・開発を行う研究機関として、地域の他大学や企業 ②教員総数 264名 などに限らず、広く国内外の大学、研究機関、企業など 5 特徴 と連携して研究成果をあげ、世界に情報を発信してゆく 本学は国の無医大県解消施策、一県一医大構想のもと ことも本学の重要な使命である。 宮崎県並びに県民の熱意によって 1974 年 6 月 7 日に開 学した。1977 年 10 月 31 日に附属病院が開院し、診療 2 取組や活動の現状 活動を開始した。1980 年 4 月 1 日には大学院医学研究 「社会と連携及び協力するための取組」 科が設置され、名実ともに医科大学としての教育・研究・ 1)地域社会との連携及び協力 診療体制が整えられた。2001 年 4 月 1 日には看護学科 本学は開学以来一貫して、地域医療への貢献を研究の 大切な柱の一つとしている。講座や診療科の設置、授業 が設置された。 本学は教育理念を、 「進歩した医学及び看護学を修得 科目についてもそれらを考慮し、加齢に関係の深い癌・ せしめ、人命尊重を第一義とし、医の倫理に徹した人格 高血圧・動脈硬化などの疾患の研究、周産期医学、スポ 高潔な医師、医学研究者、看護職者及び看護学研究者を ーツ・リハビリテーション医学、微生物・寄生虫などに 育成することを目的とし、医学及び看護学の水準向上と よる感染症の研究などを特に重要視している。大学・附 社会福祉に貢献することを使命とする」 と定め、 「地域に 属病院をあげて、これらの研究テーマでの地域医療への おける医学・医療のセンターとしての役割を果たすため 取組を積極的に行っており、住民の各種健康診断、乳児 に、地域に開かれた大学である」と位置づけている。そ 検診、妊産婦検診などを受託研究として推進している。 して初代学長の「一つ屋根の下で」という方針の下に、 特に、この地域に多い成人 T 細胞白血病、C 型肝炎の検 基礎医学講座・臨床医学講座・基礎教育などを研究棟に 診では優れた研究成果をあげている。また、本県はスポ 混在させ、 相互の研究連携が緊密になるように意図した。 ーツを地域振興の大きな看板としていることから、本学 その結果、最新の情報交換はもとより、共同研究体制が は宮崎県体育協会と連携してスポーツ医・科学委員会を 容易に構築できる環境作りがなされている。 設置したり、スポーツドクター連盟を発足させて、社会 的ニーズに対応している。 附属病院はその理念として「地域の人々の要求にこた える医療の実践」など5項目を定めている。高度、中核 宮崎県は山間部に多くの過疎地を抱えており、全県民 的医療機関として、先端の医学研究、医療技術の研究・ が均質で高度な医療を享受できるように、地域医療水準 開発を行うとともに、高度の医療を提供している。さら の向上を目指して、IT 技術を活用した地域との医療情報 に地域の医療機関との連携強化を目的として「地域医療 連携システムの構築に各医療機関、県医師会、県歯科医 連携推進センター」を設置して、宮崎県、県医師会、県 師会、 県薬剤師会、 行政機関と協力して取り組んでいる。 歯科医師会、県薬剤師会、各医療機関とも連携して医学・ その成果は大学病院の電子カルテ化、地域医療ネットワ 医療を通して社会に貢献している。 ークとしての「はにわネットワーク」事業、医療情報交 本学は優れた医師・看護師養成のための教育機関、先 換規格群を管理するための MedXML コンソーシアムの立 端の医学研究・医療技術の研究、開発を行う研究機関、 ち上げ、など地域にとどまらず、全国的な医療 IT 革命 研究者養成機関、高度の医療を提供できる地域の中核的 の拠点となっていることで示されている。 医療機関として、医学・医療水準の向上をめざす重要な 役割を果たしている。 -1- 宮崎医科大学 2)企業、他省庁との連携及び協力 も過去6年間に三度にわたって文部省科研費、JSPS 研究 医学研究は一般に応用研究とみなされがちであるが、 者派遣事業などにより基礎・臨床から人材を派遣し、 2002 本学では基礎的な研究として世界に伍するレベルでの研 年には現地での第 1 回世界顎口虫症会議を共同開催した。 究が推進されており、日本学術振興会未来開拓学術研究 推進事業、ミレニアムゲノムプロジェクト、科学技術振 「研究成果の活用に関する取組」 興事業団戦略的基礎研究推進事業などのコアリーダーや 研究成果を地域の医学・医療水準の向上に役立てるた メンバーを輩出している。本学では開学以来第2生化学 めに、県医師会、県歯科医師会、県薬剤師会や地方自治 松尾教授(現学長)を中心とした生理活性ペプチド研究 体等が主催する講演会などで積極的に講演を行っている。 が盛んであり、長年に亘って全学の多くの講座等が協力 また、地域の医師・医療技術者等に最新の研究成果や知 して研究を発展させてきている。その成果は心房性ナト 識・技術を提供するため、学内での症例検討、合同カン リウム利尿ペプチドの発見(学士院賞)に始まり、アド ファレンスなどを公開している。さらに、本学での研究 レノメデュリン、グレリンなどの発見へとつながってい を通して得られた専門的知識を生かし、包括的医療水準 る。これらの研究は単なる基礎研究に留まらず、その測 向上のために地方自治体レベルでの地域保健行政に積極 定系の開発や、臨床応用へ向けての開発研究や治験など 的に協力し、国民健康保険、社会保険審査委員会の他、 で、多くの省庁の研究班や企業との連携及び協力を生み 精神医療審査会、感染症対策審議会、薬事審議会、環境 出している。その他に、生理学では体液調節における重 審議会など各種委員会、協議会へ委員を派遣している。 力の影響の研究で日本宇宙フォーラムからの委託研究を 宮崎県土呂久地区慢性砒素中毒症の調査研究も手がけて 実施している。衛生学ではジヒドロピラジン測定に関し いる。 また、 市民を対象に公開講座を毎年実施しており、 て県衛生環境研究所と共同研究を行っている。寄生虫学 医学知識の普及と医療における最近の話題を提供してい ではその診断技術が評価され、厚生科研費創薬等HS総 る。地元のラジオ・TV・新聞等マスコミを通しての情報 合研究事業の研究班員、薬剤保管機関として輸入熱帯病 提供にも積極的に取り組み、地域住民へ研究成果を還元 や寄生虫症の診断・治療・疫学調査研究を実施している。 している。2001 年から中高生を対象とした理科体験学習 「科学どっぷり学習」が県の事業として立ち上げられ、 3)国際社会との連携及び協力 これに全面的に協力している。その他、糖尿病サマーキ 国際交流は各研究者の研究の特質や専門的知識を生か ャンプ、心肺蘇生法の講習会なども行い、病気予防への した国際協力事業への参加や日本学術振興会支援による 意識向上、健康増進の指導を行っている。抗精子単クロ 開発途上国への技術援助、指導等の実績を重ね、それを ーン抗体作成技術は、不妊症患者精子機能評価法として 基盤として実施されるべきであるというのが本学のポリ 地域の臨床医と連携した臨床応用研究であると同時に家 シーである。それに基づいて、本学はこれまでに国際交 畜改良事業団へ技術提供を行なうことで、本県で重要な 流協定をプリンス・オブ・ソンクラ大学(タイ国) 、温州 畜産振興にも貢献している。全国に先駆けて導入された 医学院附属第二医院・育英児童医院(中国) 、及び国立成 電顕高圧凍結置換固定法は優れた研究成果をあげており、 功大学医学院(台湾)と締結している。協定締結後は継 技術紹介の教育講演や講習会講師依頼を受けている。ま 続的に合同シンポジウムを開催したり、臨床研修受け入 た、サイトメガロウイルス抗体測定法、O157DNA アレ れを実施している。さらに現在、バングラデシュ/ダッ イ、抗寄生虫抗体スクリーニングキット、アドレノメデ カ大学歯学部への唇裂口蓋裂手術の指導を 1996 年から ュリン測定キット、 免疫・血液疾患遺伝子検索システム、 継続しており、NGO 活動として、日本口唇口蓋裂協会か 肝癌に対する抗癌剤動注療法の開発、人工心臓の開発、 ら資金援助を受けている。宮崎県土呂久地区での慢性砒 人工関節などの材料開発、運動機能の画像処理、眼内潅 素中毒症についての 25 年に亘る住民検診の成果は、 バン 流液の開発、徐放化局所麻酔薬の開発、医療情報交換規 グラデシュや中国内モンゴル自治区での砒素中毒検診に 格群の開発、抗癌剤マイクロカプセル・経口カプセルの 繋がっている。 特にバングラデシュでの取組については、 開発、アイソトープ標識試薬の開発など、本学の研究者 本学だけでなく、宮崎大学農学部とも連携し、当初は NGO が企業と連携して研究成果の実用化を進めており、既に 活動であったが、 現在は JICA の支援を受けるまでに成長 実用化され、特許取得に至った事案もある。 している。メキシコにおける顎口虫症の疫学調査研究に -2- 宮崎医科大学 Ⅲ 研究活動面における社会との連携及び協力に関する目的及び目標 中央からは見えにくい南九州の一地方が抱えている問題 1 目的 を通して、その地理的、社会的条件を生かし、 「宮崎なら 本学は国の無医大県解消施策、一県一医大構想のもと 宮崎県並びに県民の熱意によって 1974 年6月7日に開 では」といわれる研究を世界に発信し、 「宮崎ならでは」 学した。1977 年 10 月 31 日に附属病院が開院し、診療活 という視点での研究を推進することが本学の大きな目的 動を開始した。1980 年 4 月 1 日には大学院医学研究科が である。 設置され、名実ともに医科大学としての教育・研究・診 2 目標 療体制が整えられ、本格的な研究活動が開始された。大 国の無医大県解消施策、一県一医大構想のもとに宮崎 学院は本年で設置 22 年を迎え、19 期、249 名の課程博士 県並びに県民の熱意によって設立を見た本学では、そこ 及び 149 名の論文博士を輩出している。また 2001 年 4 での教育・研究・診療の全てに亘って何よりもまず地域 月 1 日に看護学科が設置され、5 月 1 日に第1期生が入 社会との連携及び協力が求められている。また、その成 学した。設立当初から本学は教育、研究、診療の全てに 果は地域社会に還元されると同時に、国内外にも広く発 亘って、地域医療の核として、県内の医学・医療水準の 信されて、グローバルなレベルでの連携及び協力が可能 向上並びに県民の健康増進を図るという重要な役割を担 な高い質のものであることが求められている。この研究 っている。本学設立当時の宮崎県の特徴として、若年層 目的を達成するための目標は、前項で述べた本県の特徴 の県外流出による県民の高齢化が他の都道府県よりも先 に見合ったものでなければならない。そのためには、本 行していること、周産期死亡率が高いこと、成人 T 細胞 県の疾病構造を具体的データとして把握することが研究 白血病、ツツガムシ病、肺吸虫症などの風土病的感染症 の第一歩となる。従って、本学ではあらゆる機会を通し が多いこと、また宮崎県は人口密度が全国11番目に少 て各種住民検診等を独自に企画立案するとともに、各自 なく、広大な山間部に多くの過疎地を抱えていること、 治体等が実施する検診にも積極的に参画する。それによ 温暖な気候風土と豊かなスペースを利用して、スポーツ って得られたデータについては受診者に還元することは 振興が県の重点振興策の一つであること、などが挙げら もちろん、県内の医師やコメディカルワーカーに対して れた。これらの宮崎県の特徴を踏まえて、本学では基礎・ も、講演会、講習会などを通じて還元し、地域の医療水 臨床を問わず、癌、高血圧、動脈硬化などの加齢に伴う 準の向上のために役立てる。また、研究を通じて得られ 疾病の基礎的・臨床的研究、周産期医学の研究、感染症 た専門知識は地元マスコミや行政組織等を利用して地域 の研究、スポーツ・リハビリテーション医学の研究、IT 住民への教育、啓発活動に生かす。さらに、疾病の診断、 技術を活用した医療情報連携についての研究等で、地域 治療のみならず、研究成果を疾病予防、健康の保持・増 社会との連携及び協力を推進し、それによって地域住民 進、リハビリテーションまで含めた包括的医療水準の向 の病気の予防、健康増進に寄与することを目的としてい 上のために役立てるように、効果的な行政政策の策定等 る。このように地域社会との連携及び協力が本学に課せ に関するさまざまな委員会へ参加して県内の医学的諸問 られた大きな責務である一方、国立大学としての性格か 題について助言、指導を行う。 ら、それぞれの研究者がその研究成果を広く国内外に発 これらの地域医療に密着した臨床研究を支援し、発展 信し、それぞれの分野におけるリーダーとして活躍する させるために、基礎医学研究を充実させる。特に癌、高 位置を占めることも、当然のことながら本学の研究にお 血圧、動脈硬化などの加齢に伴う疾病や生活習慣病の基 ける重要な使命であり、 大きな目的である。 このように、 礎的・臨床的研究、周産期医学の研究、感染症の研究、 地域社会との連携及び協力と、 国内外との連携及び協力、 スポーツ・リハビリテーション医学の研究、IT 技術を活 という全くスケールの異なった目的を達成するための本 用した医療情報連携についての研究の充実をはかる。そ 学の研究についての基本姿勢は、WHOのスローガンで のためには、単科大学の学内の講座・部門の連携だけで あり、一昨年の本学学園祭のテーマにも取り上げられた は不十分なので、広く情報を発信し、国内はもとより国 「Think globally, act locally」という言葉に要約され 外にまで連携を求める。また、得られた研究成果につい るであろう。すなわち「宮崎から何を発信できるか」 、あ ては単なる学術的成果にとどめず、企業等と連携して臨 るいはまた 「宮崎から世界が見える」 ということである。 床の現場に還元できるように実用化を推進する。 -3- 宮崎医科大学 Ⅳ 評価項目ごとの自己評価結果 1 研究活動面における社会との連携及び協力の取組 (1)取組の分類ごとの評価 (取組の分類1)社会と連携及び協力するための取組 ○観点ごとの評価結果 観点A:取組や活動を運営・実施する体制 本学は、その設立の趣旨から、地域医療への貢献を強く求められている。そのため、開学にあたっ て、講座や診療科の設置、授業科目についても地域特性を考慮し、加齢に関係の深い癌・高血圧・ 動脈硬化などの疾患の研究、周産期医学、スポーツ・リハビリテーション医学、微生物・寄生虫などに よる感染症の研究などを特に重要視している。研究面においても、一貫してこれらの領域に力を注い でいる。本学では開学当初より、大学・附属病院をあげて、これらの研究テーマでの地域医療への取 組を積極的に行っており、住民の各種健康診断、乳児検診、妊産婦検診などについて、臨床系の各 講座等が自治体等からの要請を受け、受託研究として推進している。また、宮崎県、県内市町村、医 師会、歯科医師会、薬剤師会、各医療機関からの地域保健行政に関する専門家派遣要請にも、該 当講座等が随時対応する体制をとっている。病理学教室には外来組織診断部がはやくから立ち上げ られ、平成 10 年に設置された附属病院病理部とも連携して、地域の病理診断センターとしての機能 を発揮している。平成8年には附属病院周産母子センターを設置、県内6ケ所の周産期センターの 中核として活動している。宮崎県は広大な山間僻地を抱えていることから、附属病院医療情報部の立 ち上げと同時に、全学を擧げてこれを支援し、全国に先駆けて、インターネットを利用した遠隔医療 体制の構築に取り組んできた。この取組は高く評価され、官公庁等からの多額の補助を受けて、NPO 化した自立事業へと発展しつつある。また、宮崎県はスポーツを地域振興の大きな看板としていること から、本学は宮崎県体育協会と連携してスポーツ医・科学委員会を設置したり、スポーツドクター連盟 を発足させて、社会的ニーズに対応している。 国レベルの大型研究プロジェクトに関しては、日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業、科 学技術振興財団の戦略的基礎研究推進事業等にコアメンバーとして参画している。また、研究成果 を生かした専門家派遣については県内にとどまらず、国の医療行政関連の協議会等にも要請に応じ て随時人材を派遣している。 医学研究は、たとえ基礎研究であっても応用科学としての側面が強いため、民間企業等との連携 及び協力なしには、実用化の実現が困難である。そのため本学では基本的に各講座等を基盤として、 積極的に産学連携を推進しており、臨床医学系のみならず、基礎医学系の多くの講座も積極的に民 間企業等との連携及び協力に取り組んでいる。そのための窓口として、事務局に「企画調査係」、「研 究協力係」を設置し、連携業務が円滑に行なわれるようサポートしている。 研究を通しての海外との連携及び協力については基本的に各講座等の個別の交流実績をベース として、交流協定締結の実現に向けて、全学を擧げて迅速に取り組んでおり、これまでに、タイ・プリン スオブソンクラ大学、中国・温州医学院附属第2医院、同眼視光学院、台湾・成功大学医学院と交流 協定を締結し、交流活動を進めている。また、日本学術振興会の二国間協定に基づく海外派遣研究 員事業等にも積極的に応募し、タイ、インドネシア、メキシコ、フィリピン等へ研究指導のための人材派 -4- 宮崎医科大学 遣を行なっている。これらの公的な海外連携とは別に、本学が宮崎において積み上げた研究実績を ベースにして、NGO レベルでの海外協力にも取り組んでいる。特に、土呂久地区の砒素公害への取 組を基盤としたバングラデシュ及び中国内モンゴル自治区での砒素公害に対する協力は JICA の援 助を受けるまでに、実績を積み上げている。また、バングラデシュでの口唇口蓋裂手術指導も 1996 年 から実績を重ねており、日本口唇口蓋裂協会から支援を受けるようになり、現在も継続している。2000 年には「大平洋・島サミット PALM2000」、「2000 年主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)外相会議」 が相次いで宮崎において開催されたことをきっかけとして、県の国際交流課と連携し、アジア・大平洋 諸国への医療技術援助の可能性について検討を開始している。 研究成果を地域住民に還元するための方策として、平成8年度から教育担当副学長をオーガナイ ザーとして、定期的な公開講座を実施している。平成 10 年度からは附属病院看護部も、看護職者の 生涯教育と業務の質的向上を目指した公開講座を開催している。児童生徒の理科離れに対して宮 崎県が平成 13 年度より立ち上げた「科学技術の杜事業」の一環としての中高生を対象とした「科学ど っぷり合宿」に対しては、実験実習機器センターが対応部署となり、本学の複数の講座が研修指導を 引き受けた。 観点B:取組や活動の推進方策とそれを検討する体制 本学は宮崎県唯一の医科大学として、地域社会への連携及び協力が求められている。そのために、 自治体等が行う各種健康診断、乳児検診、妊産婦検診などを受託研究として推進している。これらの 受託研究が公正かつ適切に行なわれるよう、「共同研究・受託研究審査委員会」を設置し、審査・助 言を行っている。また事務局においても従来の庶務課文書係、学事係を改組して、新たに「企画調査 係」、「研究協力係」を立ち上げ、連携業務が円滑に行なわれるような体制作りを行った。平成 12 年か らは、地域の医療機関との連携強化を目的として附属病院に「地域医療連携推進センター」を設置し、 専任の事務官2名を配置して、宮崎県、医師会、歯科医師会、薬剤師会、各医療機関との連携が円 滑に行なわれる体制を整備した。地域保健行政からの専門家派遣要請に対しても、「兼業審査委員 会」を設けて、適切かつ公正な人材派遣がなされるように審査・助言を行っている。また、研究を通し ての国際社会との連携及び協力を推進するために、「国際交流委員会」が設置されている。 観点C・社会や大学等内の意見を反映する取組 県医師会長など地元の学外有識者を運営諮問会議委員として、本学の在り方につき、定期 的に意見を求めている。また、学内に将来計画審議会を設け、時代のニーズに応えた組織作 りを心掛けている。平成 10 年には将来計画審議会の下部組織として若手教官からなるワーキ ンググループを設置し、本学の将来構想を検討して貰った。平成3年には総合評価検討委員 会を設置し毎年年報を作成した。平成 12 年度は自己点検・評価作業を実施し同年 11 月に報 告書を作成・公表した。同時に学外有識者による外部評価委員会を設置して、自己点検・評 価報告書に基づいて外部評価を受け、平成 13 年3月に外部評価報告書を以下のとおり作成・ 公表した。 -5- 宮崎医科大学 自己点検評価・報告書(全386頁) 外部評価報告書(全80頁) 外部評価委員会委員名簿(五十音順) 氏 名 職 名 植 松 信 一 旭メディカル(株)延岡工場 専務取締役工場長 鈴 木 仁 一 宮崎県福祉保健部長 田 中 弘 允 鹿児島大学長 秦 喜八郎 平 野 渡 邊 実 照 男 宮崎県医師会長 久留米大学長 佐賀医科大学副学長 観点D:取組や活動の地域性や国際性 繰り返し述べているように、本学は設立当初から地域医療の核として、県内の医学・医療 水準の向上並びに県民の健康増進を図るという重要な役割を担っており、教育、研究、診療 の全てに亘って、全学的な方針として地域への貢献に取り組んでいる。その成果は地域から 高く評価されており、本学の取組は目的及び目標の達成に十分に貢献している。それに比べ て国際性という点では、本学第2内科とハーバード大学との連携による成人 T 細胞白血病の 疫学調査のように地域密着型であるにも関わらず、優れた国際性を持った取組もあるが、大 学総体として研究活動面における国際的な取組状況を見ると、目的及び目標の達成にある程 度貢献しているが、改善の必要が相当にある。 -6- 宮崎医科大学 観点E:広報活動および情報収集 本学は全国に先駆けて学内 LAN の構築を行い、イントラ・インターネットの実用化、電子 カルテの実用化、地域医療ネットワークの構築などでも全国をリードしている。研究者総覧 も早くから大学ホームページに掲載し、外部から自由に閲覧できるようにしている。質問等 も電子メールで随時受け付けている。学内においては、ファーストクラスというユニークな メーリングシステムを導入して、様々な情報交換のペーパーレス化を図ると同時に、各種の 電子会議室を設定して、自由な意見交換ができるようにしている。 ファーストクラスのアクセス数 年 年 一 般 計 学 生 月 計 一 般 平 学 均 生 アカウント数 計 一般 学生 計 平成9年 359,799 125,487 485,286 29,983 10,457 40,440 798 492 1,290 平成 10 年 374,769 110,885 485,654 31,231 9,240 40,471 853 532 1,385 平成 11 年 402,851 140,941 543,792 33,571 11,745 45,316 977 562 1,539 平成 12 年 649,242 226,398 875,640 54,104 18,867 72,971 1,479 782 2,261 平成 13 年 651,735 220,025 871,760 54,311 18,335 72,646 1,586 780 2,366 ※アクセス数はログインからログアウトまでのセッションを1回としている。 平成10年からは学内に広報委員会を設置して、ホームページや、学報などを利用した広 報活動の充実に取り組んでいる。しかしながら、各講座ホームページの作成や内容の更新な どについては任意になっているため、非常にアクティブに広報活動を行っている講座等と、 そうでないところとの落差が大きい。この点は至急改善を要する。情報収集に関しては、地 域との連携については、地元の学外有識者からなる運営諮問会議や、県医師会との定期的な 懇談会により情報収集を行っている。平成 12 年には附属病院に「地域医療連携推進センター」 を設置し、日常的な情報収集活動に取り組んでいる。それに比べると、国際的なニーズにつ いての情報収集活動の取組は、マンパワー不足のせいもあり、不十分である。 ○取組の分類1の貢献の程度 以上の評価結果を総合的に判断して、社会との連携及び協力するための取組の状況は、目 的及び目標の達成におおむね貢献しているが、改善の余地もある。 -7- 宮崎医科大学 (取組の分類2)研究成果の活用に関する取組 ○観点ごとの評価結果 観点A:取組や活動を運営・実施する体制 先にも述べたように、本学は設立当初から教育、研究、診療の全てに亘って、地域医療の核として、 県内の医学・医療水準の向上並びに県民の健康増進を図るという重要な役割を担っている。このよう な全学的な方針のもとに、各講座等が各種住民検診等を独自に企画立案するとともに、各自治体等 が実施する検診にも積極的に参画している。それらの活動によって得られたデータについては受診 者に還元することはもちろん、県内の医師やコメディカルワーカーに対しても、講演会、講習会などを 通じて還元し、地域の医療水準の向上のために役立てるように取り組んでいる。また、研究を通じて 得られた専門知識は地元マスコミや行政組織等を利用して地域住民への教育、啓発活動に生かす よう努力している。さらに、疾病の診断、治療のみならず、研究成果を疾病予防、健康の保持・増進、 リハビリテーションまで含めた包括的医療水準の向上のために役立てるように、効果的な行政政策の 策定等に関するさまざまな委員会へ参加して県内の医学的諸問題について助言、指導を行ってい る。 これらの地域医療に密着した臨床研究を支援し、発展させるために、基礎医学研究の充実 に努めている。特に癌、高血圧、動脈硬化などの加齢に伴う疾病や生活習慣病の基礎的・臨 床的研究、周産期医学の研究、感染症の研究、スポーツ・リハビリテーション医学の研究、IT 技術を活用した医療情報連携についての研究の充実に重点を置いている。得られた研究成果 については単なる学術的成果にとどめず、企業等と連携して臨床の現場に還元できるように 実用化を推進している。これまでに、様々な細胞株、モノクロナール抗体、微量アッセイキ ット、DNA アレイの開発など、研究成果の実用化について、学外の財団、企業などと連携及 び協力の推進に取り組んでいる。 観点B:取組や活動の推進方策とそれを検討する体制 取組の分類1と同様に、研究成果の活用についても、各種委員会や事務担当部局が連携及び協 力を推進する作業にあたっている。受託研究については、これが公正かつ適切に行なわれるよう、 「共同研究・受託研究審査委員会」を設置し、審査・助言を行っている。また事務局においても従来 の庶務課文書係、学事係を改組して、新たに「企画調査係」、「研究協力係」を立ち上げ、連携業務 が円滑に行なわれるような体制作りを行った。平成 12 年からは、地域の医療機関との連携強化を目 的として附属病院に「地域医療連携推進センター」を設置し、専任の事務官2名を配置して、宮崎県、 医師会、歯科医師会、薬剤師会、各医療機関との連携が円滑に行なわれる体制を整備した。さらに、 このセンターをキーステーションとして、地域連携コミュニケーションシステムを構築し、当初は FAX に よる、最近は電子メールによるネットワークにより、診断や治療に関する質問に対して、最適な専門家 が迅速に回答する体制を作り上げた。地域保健行政からの専門家派遣要請に対しても、「兼業審査 委員会」を設けて、適切かつ公正な人材派遣がなされるように審査・助言を行っている。特許の申請 等に関しては、「発明委員会」を設けて、審査、助言等を行っている。また、研究成果を国際社会に還 元するための方策についても、「国際交流委員会」が設置されており、交流協定締結や、短期訪問者 に対応している。 -8- 宮崎医科大学 観点C:社会や大学等内の意見を反映する取組 県医師会長、県知事、宮崎大学長など地元の学外有識者からなる運営諮問会議を設置して、 本学の在り方につき、定期的に意見を求めている。また、学内に将来計画審議会を設け、時 代のニーズに応えた組織作りを心掛けている。平成 10 年には将来計画審議会の下部組織とし て若手教官からなるワーキンググループを設置し、本学の将来構想を検討して貰った。平成 3年には総合評価検討委員会を設置し毎年年報を作成した。平成 12 年度は自己点検・評価作 業を実施し同年 11 月に報告書を作成・公表した。同時に学外有識者による外部評価委員会を 設置して、自己点検・評価報告書に基づいて外部評価を受け、平成 13 年3月に外部評価報告 書を作成・公表した。 観点D:取組や活動の地域性や国際性 本学は設立当初から地域医療の核として、県内の医学・医療水準の向上並びに県民の健康 増進を図るという重要な役割を担っており、教育、研究、診療の全てに亘って、全学的な方 針として地域への貢献に取り組んでいる。その成果は地域から高く評価されており、本学の 取組は目的及び目標の達成に十分に貢献している。それに比べて国際性という点では、本学 皮膚科学や公衆衛生学による土呂久での経験を生かした砒素中毒の海外疫学調査や、本学皮 膚科学・寄生虫学とメキシコの大学との連携による顎口虫症の研究のように地域密着型であ るにも関わらず、優れた国際性を持った取組もあるが、大学総体として研究成果の活用面に おける国際的な取組状況を見ると、目的及び目標の達成にある程度貢献しているが、改善の 必要が相当にある。 慢性砒素中毒症に関する文献調査(全44頁) -9- 宮崎医科大学 - 10 - 宮崎医科大学 観点E:広報活動および情報収集 本学は全国に先駆けて学内 LAN の構築を行ない、イントラ・インターネットの実用化、電子 カルテの実用化、地域医療ネットワークの構築などでも全国をリードしている。研究者総覧 も早くから大学ホームページに掲載し、外部から自由に閲覧できるようにしている。質問等 も電子メールで随時受け付けている。平成10年からは学内に広報委員会を設置して、ホー ムページや、学報などを利用した広報活動の充実に取り組んでいる。しかしながら、各講座 ホームページの作成や内容の更新などについては任意になっているため、非常にアクティブ に広報活動を行っている講座等と、そうでないところとの落差が大きい。この点は至急改善 を要する。情報収集に関しては、地域との連携については、地元の学外有識者からなる運営 諮問会議や、県医師会との定期的な懇談会により情報収集を行っている。平成 12 年には附属 病院に「地域医療連携推進センター」を設置し、日常的な情報収集活動に取り組んでいる。 それに比べると、マンパワー不足のせいもあり、国際的なニーズについての情報収集活動の 取組は不十分である。 ○取組の分類2の貢献の程度 以上の評価結果を総合的に判断して、研究成果の活用に関する取組の状況は、目的及び目 標の達成にかなり貢献しているが、改善の必要がある。 (2)研究活動面における社会との連携及び協力の取組の水準 以上の評価結果を総合的に判断して、研究活動面における社会との連携及び協力の取組は、 目的及び目標の達成にかなり貢献しているが、改善の必要がある。 (3)特に優れた点及び改善点等 本学の研究活動面における社会との連携及び協力の取組のなかで特に優れた点としては、 本学附属病院医療情報部、地域医療連携推進センターが中心となり、県内各医療機関、県医 師会、県薬剤師会、行政機関と一体となって取り組んでいる IT 技術を活用した地域との医療 情報連携システムの構築が挙げられる。この事業は日本でもトップレベルにあり、官公庁か らの多額の各種補助金を受けて、NPO 化の実現へと向かっている。また、地域に密着して行 なった研究の成果が、国際連携・協力への取組に発展している点も本学の優れた点である。 例えば、産婦人科学と周産母子センターを拠点としての地域医療への参画の成果として、本 県は日本で一番周産期死亡率の低い県になったが、この部門には、交流協定に基づいて、本 学の国際交流基金により温州医学院第2医院から短期研修生を受け入れている。また、土呂 久砒素公害の研究の成果を基にして、皮膚科や公衆衛生学がバングラデシュや中国内蒙古自 治区での砒素中毒疫学調査に取り組んでいる。南九州独特の食習慣に根差した人獣共通寄生 虫症の診断・治療の取組は、メキシコ、中国、フィリピンなどへの技術指導に直結している。 このような、 「地域から世界へ」というポリシーに基づいた活動が円滑に行なわれている背景 は、単科大学であるが故の、組織の身軽さであろう。この点については、平成15年度の宮 崎大学との統合後も組織や、意志決定の簡略化についての配慮が必要と考えられる。 改善点としては、やはり単科大学であるが故に、マンパワーの不足等のため、広報活動や 情報収集活動についての取組が十分に行なわれていない点が挙げられる。 - 11 - 宮崎医科大学 2 取組の実績と効果 (1)取組の分類ごとの評価 (取組の分類1)社会と連携及び協力するための取組 ○観点ごとの評価結果 観点A:連携(協力)活動の実績 地域医療への直接的な連携及び協力として、各種検診業務の企画立案・受託研究としての 参画がある。これについては、開学以来、学内の多くの臨床講座が積極的に取り組んでおり、 安定した実績をあげている。宮崎県健康づくり協会へも医師を派遣して検診業務を行い、地 域の健康増進に取組んでいる。 受託研究受入状況 年 平成 度 件 数 金 額 9年度 21 57,542,000 平成10年度 18 51,255,000 平成11年度 15 46,455,000 平成12年度 14 27,325,000 平成13年度 17 39,147,000 ※主な研究題目 ・清武町地区における高血圧症及び高脂血症の研究(内科学第一講座) ・C型肝炎ウイルスと肝細胞癌の研究(内科学第二講座) ・都農町における成人病の研究(外科学第一講座) ・紫外線の増加が人の健康に及ぼす影響に関する研究(皮膚科学講座) 平成8年には本学に救急医学講座が設置され、県や県医師会と連携して災害医療体制、救 急医療体制の構築のための研究に取り組んでいる。 宮崎県医師会災害医療計画 毒劇物等による救急医療体制研究事業(報告書) (全64頁) (全31頁) - 12 - 宮崎医科大学 かつて宮崎県は周産期死亡率が全国一高い県であったが、本学産婦人科、さらには平成8 年に設置された周産母子センターが宮崎県福祉保健部、日本産婦人科医師会宮崎県支部等と 連携し、周産期死亡要因の研究に基づいて対策に乗り出し、今では以下のとおり日本で一番 周産期死亡率の低い県になった。これは、地域医療への本学の貢献と云う点で特筆すべき出 来事である。このことが評価され平成13年度宮崎日日新聞賞(科学賞)を受賞した。 周産期死亡率 (出典 厚生省母子保健の主なる統計) 率(出産1000対) 全国順位 平成 7年 6.0 6位 平成 8年 6.0 9位 平成 9年 6.7 28位 平成10年 6.5 31位 平成11年 3.9 1位 - 13 - 宮崎医科大学 宮崎県を含む南九州は成人 T 細胞白血病の多発地域として知られているが、その疫学調査 や原因となる腫瘍関連ウイルス感染症の制圧について、本学第2内科とハーバード大学とが 多年に亘って連携・協力しながらプロジェクトを進めている。地域医療のための国際的な連 携・協力という点で高く評価される。また、成人 T 細胞白血病の原因ウイルスである HTLV-1 の高浸淫地域において、C 型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染が肝臓癌の発生率を高めてい るという知見も、本学と自治体の連携した取組みの成果として、高く評価される。宮崎県は 九州山地の山間部に多くの過疎地を抱えており、住民の高齢化も急速に進んでいることから、 全県民が均質で高度な医療を享受できるように、地域医療水準の向上を目指して、IT 技術を 活用した地域との医療情報連携システムの構築に取り組んでいる。この事業は本学附属病院 医療情報部、地域医療連携推進センターが中心となり、県内各医療機関、県医師会、県薬剤 師会、行政機関と一体となって以下のような官公庁からの多額の補助を受けて推進されてお り、日本でもトップレベルの実績を擧げている。 ・ 経済産業省補助事業「先進的 IT 技術を活用した地域医療ネットワーク委託事業」「地域医 療情報の共有・活用を目的とした宮崎健康福祉ネットワーク(はにわネット)」(医療情報 部/宮崎県医師会:運営母体となったはにわネット協議会を平成 15 年度より NPO 化し 自立的事業化の予定) ・医療情報交換規格群の管理に関する研究「MedXML コンソーシアム」(医療情報部/本年 4月 NPO に移行) ・郵政省広域的地域情報通信ネットワーク整備促進モデル構築事業(医療情報部) 3.2「はにわネット」の全体構成図 県民 診療所 ・個人データ参照 ・電子カルテシステム運用 ・個人データ登録 ・医事システム運用 中核病院 ・患者情報の共有 ・地域医療支援 宮崎健康福祉ネットワーク 薬局 ・患者情報参照 臨床検査センタ はにわネットワークセンタ ・検査データ提供 ・施設、個人のID管理 ・指導内容送信 ・認証・アクセス権管理 ・診療所の電子カルテデータ保管(バックアップ)サービス ・真正性保証 ・EBMデータ収集・構築 - 14 - 宮崎医科大学 研究と直結した地域社会との連携及び協力という観点からは、本学では第1、第2病理学 講座と附属病院病理部が一体となって、受託研究として県内各病院の病理組織診断に対応す ると同時に、臨床病理検討会などを通じて研究成果を地元医療関係者に還元している。 病理組織診断状況 年 平成 度 件 数 金 額 9年度 5,564 24,866,520 平成10年度 6,082 31,168,200 平成11年度 12,079 43,911,000 平成12年度 12,269 40,884,480 平成13年度 10,218 36,351,840 南九州は食品媒介人獣共通寄生虫症などの感染症が多いことから、本学では開学当初から寄 生虫学講座を設置しており、県内各病院からの診断依頼を受けていたが、平成 12 年からは全 国で初めて、寄生虫症免疫診断を受託研究として実施するようになり、今では全国各地から 年間約 600 件の検査依頼を受けている。同時に、民間検査会社にも技術移転を行い、民間会 社が主に1次スクリーニングを、大学が精査および治療指導を行うように連携体制を整えた。 これに関連して、寄生虫症の治療に関しても 1998 年から厚生科研費 HS 財団輸入熱帯病オー ファンドラッグ薬剤保管機関として、抗マラリア薬や糞線虫症治療薬などの薬剤供給と指導 とを行っている。地域社会と連携及び協力したユニークな実績としては、本学動物実験施設 スタッフと県総合博物館、日本野鳥の会宮崎県支部の連携による門川町枇榔島におけるカン ムリウミスズメ(環境庁指定絶滅危惧種)の生態調査と保護活動があげられる。 宮崎県総合博物館研究紀要、第20輯(25頁―40頁) - 15 - 宮崎医科大学 本学は一県一医大構想の下に設置されたことから、地域医療に直結するような研究に重点を 置かねばならないのは当然であるが、同時に、本学は国立大学として、全国レベルでの研究 においても連携や協力が求められている。本学がこれまでに参画した官公庁等が推進する研 究事業への連携及び協力の実績としては以下のようなものがある。 ・日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業コアメンバー(第2生化学、微生物) ・日本学術振興会ミレニアムゲノムプロジェクトコアメンバー(微生物) ・科学技術振興事業団・戦略的基礎研究推進事業プロジェクトメンバー(第2生化学、薬理) ・(財)日本宇宙フォーラム:宇宙環境利用に関する公募地上研究(第1生理) ・海洋科学技術センター(薬理) ・経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業:膜乳化技術の応用(薬剤部、第1外科) ・ 厚生労働省難治性肝疾患研究班員(第2内科) ・ 厚生労働省難治性炎症性腸管障害(第2内科) ・ 厚生労働省家族性アミロイドニューロパチー研究班員(第3内科) ・ 厚生労働省摂食異常研究班員(第3内科) ・ 厚生労働省カヘキシア研究班員(第3内科) ・厚生労働省特定疾患急性高度難聴調査研究班班員(耳鼻咽喉科) ・環境庁公害喘息疫学調査研究班(公衆衛生) ・厚生省医療技術評価総合研究事業、高血圧治療ガイドライン作成に関する研究の分担研究 者(第一内科) 研究における企業等との協力および連携の取り組みとしては目的及び目標に掲げた課題のう ち、高血圧・動脈硬化に関連した研究などでは以下のようなものが列挙される。 ・動脈硬化、血栓症についての民間との共同研究(第1病理⇔化血研、味の素、中外製薬) ・血管内皮インテグリンとフィブリノーゲン結合機構の研究(輸血部⇔化血研) ・アドレノメデュリンの子宮収縮作用(薬理⇔塩野義製薬) ・ 血圧調節物質の生理作用(第1内科⇔塩野義、三共) ・ ヒト肝細胞増殖因子の細胞増殖作用(第2内科⇔三菱ウエルファーマ) ・ 成長ホルモン分泌ペプチドとしてのグレリンの生理作用(第3内科⇔ ) また、癌の研究では、以下のような共同研究が進んでいる。 ・癌の病態についての共同研究(第2病理⇔化血研、三菱化学) ・癌化学療法、補助療法の研究(第2外科⇔日本化薬、旭化成、大鵬薬品) 周産期医療の関連では以下のようなものがある。 ・慢性肉芽腫症等遺伝子検索(小児科⇔三菱化学) ・新生児合併症治療の研究(産婦人科⇔三菱東京製薬、東亜薬品) 感染症の研究等では以下のようなものがある。 ・ インフルエンザ脳症(小児科⇔エーザイ) ・ 肝細胞増殖因子による肝硬変やクローン病の治療についての研究(第2内科⇔三菱ウエル - 16 - 宮崎医科大学 ファーマ) ・ サイトメガロウイルスの診断法についての研究(微生物⇔エスアールエル、バクスター、 ウエルファイド) ・ 寄生虫症免疫診断についての共同研究(寄生虫学⇔エスアールエル) その他、人工臓器等に関連した企業との共同研究として以下のようなプロジェクトに取り組 んでいる。 ・ターボ式人工心臓、心補助装置の開発研究(第2外科⇔JMS、メディキット) ・ コンピューターを用いた病態解析、診断など(整形外科⇔横河技術情報、ネオテック) ・ 新素材によるインプラント、人工関節の開発(整形外科⇔タキロン、瑞穂医科、京セラ、 ジンマー、日本ストライカー) ・ 心臓ペースメーカー埋込み患者に対する放射線治療の研究(放射線科⇔医療機器メーカー) ・ NMR でのラジカル測定による精神神経疾患の病態解明の研究(精神科⇔宮崎大学地域共同 研究センター、山形県企業振興公社生物ラジカル研究所) 創薬関連では以下のようなものが挙げられる。 ・局所麻酔薬創薬研究(麻酔科⇔熊本大学薬学部、民間企業) ・網膜電図を用いた眼内潅流液の開発研究(眼科⇔オフテクス研究所) 特許等の出願・取得状況に関して、この5年間では眼内潅流液に関する国内特許取得1件、 ラジオアイソトープ標識試薬について、民間企業との共同出願(国内1件、国際特許出願1 件)、アドレノメデュリン関連ペプチドの生理作用の研究で、国際特許出願、国内優先権主張 出願、国内特許出願がなされている(薬理:子宮筋収縮抑制薬)。また、病原性大腸菌 O-157 のゲノム情報で国内特許と米国特許に出願中である。グレリンについても、提携企業から特 許出願中である。 ○取組の分類1の実績や効果の程度 以上の評価結果を総合的に判断して、研究成果の活用に関する実績や効果の程度は、目的 及び目標で意図した実績や効果がおおむね挙がっているが、改善の余地もある。 - 17 - 宮崎医科大学 (取組の分類2)研究成果の活用に関する取組 ○ 観点ごとの評価結果 観点B:研究成果の活用の実績 研究成果をひろく社会に還元することは大学の使命である。地域住民の健康増進に寄与す るための大学開放事業の一環として公開講座を以下とおり毎年開催している。 公開講座実施状況 年 平成 度 9年度 タ イ ト ル と 講 演 内 容(講座等名) 食と性にかかわる感染症 ・腸管出血性大腸菌 (O157) 感染症とその周辺(微生物学講座) ・食品媒介性人獣共通寄生虫病(寄生虫学講座) ・A型−G型ウイルス肝炎(内科学第二講座) ・最近の性感染症とその背景(泌尿器科学講座) ・エイズ・HIV感染症の現状と展望(第二内科) ・輸入感染症の威嚇(微生物学講座) 平成10年度 生活習慣病 ・高血圧と臓器障害(病理学第一講座) ・飲酒と肝臓(内科学第二講座) ・がん(病理学第二講座) ・心臓病(内科学第一講座) ・糖尿病(内科学第三講座) ・喫煙の医学(内科学第三講座) 看護婦が行う呼吸理学療法及び看護過程(看護部公開セミナー) 平成11年度 あなたの医療は? ・現代社会のストレス(精神医学講座) ・あなたの肝臓は大丈夫(内科学第二講座) ・不妊治療の最前線(産婦人科学講座) ・臓器移植(外科学第二講座) ・暮らしの中でおこる不慮の事故(救急医学講座) 看護婦が行う呼吸理学療法及び看護過程(看護部公開セミナー) 平成12年度 生活改善薬 ・男の更年期(泌尿器科学講座) ・ピルとホルモン補充療法(産婦人科学講座) ・筋肉増強剤・スポーツドリンク(整形外科学講座) ・薬の吸収・代謝における個人差(薬剤部) ・ビタミンの種類と働き(内科学第三講座) 看護婦が行う呼吸理学療法・重症集中ケアを必要とする患者の看護 (看護部公開セミナー) - 18 - 宮崎医科大学 平成13年度 よくわかる高度先進的医療 ・周産期医療の進歩(産婦人科学講座) ・痛みとの戦い(麻酔学講座) ・肝癌の予防と治療(内科学第二講座) ・耳鼻咽喉科の人工臓器(耳鼻咽喉科学講座) ・心不全、高血圧の新しい治療法(内科学第一講座) 看護婦が行う呼吸理学療法・重症集中ケアを必要とする患者の看護 (看護部公開セミナー) 平成13年度公開講座アンケ−ト等集計結果 1.講義内容 よく理解できた(17人) ほぼ理解できた(29人) 難しすぎた(5人) もの足りなさを感じた(4人) 2.受講して有益であったか 非常に有益であった(35人) ある程度有益であった(17人) あまり有益でなかった(0人) 3.大学の公開講座としての講義内容 一般の人が受講しても理解できる内容(35人) 多少難解でも専門的な内容(23人) もっぱら専門的な内容(1人) いずれともいえない(1人) 4.開講時期 今回のように7月中旬ころ(42人) 9月(2人)、10月(5人)、6月か9月(1人)、何月でもよい(2人) 夏季は避けたほうがよい(1人)、梅雨後(1人) 5.日程について 今回のように連続した方がいい(34人) 週1回、曜日を決めた方がいい(7人) 週2回、曜日を決めた方がいい(11人) 土曜日の午後と日曜日にまとめた方がいい(1人) 6.時間帯について 午後7時から(47人) 午前(3人)、午後(4人) 7.時間数について もっと多い方がいい(7人) 今回程度でいい(47人) - 19 - 宮崎医科大学 8.今後も受講したいか 是非受講したい(36人) 事情が許せば受講したい(17人) 講義内容によっては受講したい(5人) 学内でも附属病院において糖尿病教室(第3内科)を開催したり、学外組織である日本糖 尿病協会宮崎支部糖尿病キャンプ(第3内科、小児科)や心臓病のこどもを守る会心臓病キ ャンプ(小児科)、県教育委員会が主催する性教育セミナー(産婦人科、泌尿器科⇔)などに も積極的に人材派遣を行って、研究成果の還元に努めている。また、地元のラジオ番組 MRT (サンデーラジオ大学、サタデーブランチ)、UMK(サタデー宮崎)等の出演依頼を積極的 に受けている。昨年度から5年間の予定で始まった宮崎県教育委員会が実施する「科学技術 の杜事業」には、推進委員会および実行委員会に本学の実験実習機器センター長が委員とし て参加し、学内の各部門が協力して中高生向けの「科学どっぷり合宿」研修を次頁のとおり 実施した。 - 20 - 宮崎医科大学 ・ 宮 崎 医 科 大 学 学 報 ( 広 報 誌 ) 平 成 1 3 年 1 0 月 1 日 発 行 に 掲 載 し た 。 - 21 - 宮崎医科大学 臨床面では、研究を通して得られた専門知識を生かして、宮崎県重症難病患者入院施設確 保事業の基幹協力病院(拠点病院)として登録した。さらに、県の保健行政等に関わる各種 委員会や審議会等に基礎、臨床を問わず、多数の人材を派遣している。主なものは以下のと おりである。 ・宮崎県医師会理事 ・宮崎県環境審議会委員(薬理) ・宮崎県薬事審議会委員(薬理) ・宮崎県公害被害認定審査会委員、会長(眼科、公衆衛生) ・宮崎県公害健康被害診療報酬審査委員(眼科) ・宮崎市「健康日本21」目標策定(公衆衛生) ・JR 九州宮崎総合鉄道事業部嘱託産業医(公衆衛生) ・宮崎 IT 推進研究会生活部会長(医療情報部) ・ 刑事、民事事件への司法解剖、鑑定業務への協力 (法医学、産婦人科、精神科、歯科口腔外科 など) ・宮崎県 C 型肝炎対策委員会委員長(第2内科) ・宮崎県伝染病対策委員(第2内科) ・ 宮崎市難病在宅支援検討委員会委員(第2内科) ・ 宮崎県難病医療連絡協議会(第3内科) ・ 宮崎県国民健康保険診療報酬審査委員(第2内科、泌尿器科、産婦人科) ・ 宮崎県精神医療審査会委員長(精神科) ・ 宮崎県精神保健福祉協議会会長(精神科) ・ 地方労災委員(精神科) ・宮崎産業保健推進センター相談員(精神科) ・宮崎県保健医療推進協議会委員(救急医学) ・宮崎県結核・感染症発生動向調査委員会委員(小児科、泌尿器科) ・宮崎県医療材料滅菌管理研究会(麻酔科) ・ 宮崎県社会保険診療報酬審査委員(第2外科、歯科口腔外科) ・ 宮崎県医師会健康スポーツ医学委員会委員長(整形外科) ・ 宮崎県理学療法士会顧問(整形外科) ・ 宮崎県体育協会スポーツ科学委員会委員長(整形外科) ・ 宮崎県観光審議会委員(整形外科) ・ 宮崎県リハビリテーション協議会委員(整形外科) ・ リゾート振興基金検討会議委員(整形外科) ・ 宮崎県医師会健康教育委員会委員(整形外科) ・ 宮崎県 8020 運動推進協議会委員(歯科口腔外科) ・ 宮崎県 8020 運動推進実施委員会委員(歯科口腔外科) ・宮崎県献血推進協議会委員(輸血部) ・宮崎県総合博物館展示協力員(動物実験施設) ・宮崎県版レッドデータブック作成検討委員会(動物実験施設) ・宮崎県、日向市、門川町ウラン対策専門委員(実験実習機器センター) - 22 - 宮崎医科大学 ・宮崎県教育委員会委員(心理学) ・宮崎市社会福祉協議会委員(心理学) これらのなかでも特にユニークな研究成果の活用に関する地域社会との連携としては、整形外科を 中心としたスポーツ医学への協力が挙げられる。宮崎県がスポーツによる地域振興に力を入れており、 プロ野球や J リーグのキャンプの招聘を行ったり、マスターズやベテランズなどのアマチュアスポーツの 大会開催を頻繁に行っていることから、スポーツドクターに対する需要は多く、県医師会健康スポーツ 医学委員会メンバーとして、1999 年度宮崎県医師会が刊行した「健康スポーツ医必携」の編纂にた ずさわった。 健康スポーツ医必携(全39頁) また、地域に密着したユニークな研究成果の活用の例として、本学動物実験施設スタッフによる県総 合博物館への協力が挙げられる。日常的な展示協力員としての活動のほか、特別展のパンフレット 作成、記念講演会講師、宮崎県版レッドデータブック作成(以下のとおり)の企画から写真提供、分担 執筆までの幅広い協力等は、大学による地域貢献として県民からも注目されている。 - 23 - 宮崎医科大学 特別展パンフレット (全82頁) 記念講演会パンフレット 宮崎県版レッドデータブック(全384頁) - 24 - 宮崎医科大学 研究成果から得られた専門知識を生かしての各種委員会や評議会等への人材派遣について は、県内の保健行政だけでなく、以下のような官公庁等が設置する各種審査会委員などの派 遣要請にも積極的に応えている。 ・ 厚生労働省医師国家試験委員(産婦人科) ・ 厚生労働省医道審議会専門委員(精神科) ・日本学術振興会特別研究員等審査会委員(第2生化学、寄生虫学) ・学術審議会専門委員(第1生理、整形外科) ・文部科学省大学設置・学校法人審議会大学設置分科会専門委員(救急医学) ・医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構 技術評価委員(微生物) ・日本学術振興会ゲノムテクノロジー第 164 委員会 ・ 厚生労働省薬事・食品衛生審議会 委員(微生物) 専門委員(寄生虫学) ・政府出資法人自動車事故対策センター地方委員(脳神経外科) 本学で得られた研究成果の活用のための民間企業などとの連携及び協力に関する取組として は以下のようなものがある。 ・抗精子モノクロナル抗体や作成技術を提供(第1解剖→家畜改良事業団) ・精子機能評価法の開発(第1解剖⇔地元臨床医) ・サイトメガロウイルス抗体測定法(微生物⇔バクスター、ウエルファイド) ・病原性大腸菌 DNA アレイ開発(微生物⇔シグマジェノシス) ・抗寄生虫抗体スクリーニング検査(寄生虫⇔エスアールエル) ・ジヒドロピラジン検出測定装置(衛生⇔県衛生環境研究所) ・ アドレノメデュリン測定キット開発(第1内科⇔塩野義) ・ グレリン測定キット開発(第3内科⇔第一化学) ・肝細胞増殖因子測定による劇症肝炎や重症肝疾患の予後予測(第2内科⇔大塚アッセイ) ・抗癌剤肝動注療法における DDS 開発研究(第1外科⇔宮崎県工業試験場) ・妊娠糖尿病のスクリーニング法(産婦人科多施設共同研究) ・胎児血圧測定法開発(産婦人科⇔日本コーリン) ・甲状腺ペルオキシダーゼ分子解析(臨床検査医学多施設共同研究) ・甲状腺機能測定法の開発(臨床検査医学⇔日水製薬) ・宮崎メディア学会の立ち上げ(医療情報部⇔宮崎県、県医師会) ・薬剤品質管理の評価検討(薬剤部⇔エーザイ) これらのなかでも、抗癌剤肝動注療法における DDS 開発研究では、この研究を支持する2つ の民間会社が設立され、さらに平成 13 年には本学教官によって動注化学療法研究所が設立さ れた。また、本研究は NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の地域新生コンソー シアムとしての指定を受け、本学と県工業技術センター、民間企業との共同研究に対して 3 年間に 3 億円の研究援助が行なわれることが決定している。 本学での研究成果を国際的に活用する取組としては日本学術振興会研究者派遣事業として、 血栓症の研究指導で第1病理からタイ、インドネシアへ、また、寄生虫症の免疫診断技術指 導で寄生虫学からメキシコ、フィリピンへ研究者を派遣している。 - 25 - 宮崎医科大学 これらの公的な海外連携とは別に、本学が宮崎において積み上げた研究実績をベースにして、 NGO レベルでの海外協力にも取り組んでいる。特に、土呂久地区の砒素公害への取組を基盤 としたバングラデシュ及び中国内モンゴル自治区での砒素公害に対する協力は JICA の援助 を受けるまでに、実績を積み上げている。同様に、公衆衛生学教室も、1993-2000 年にわた り、日中医学協会の依頼を受けて、内蒙古呼浩特別市の砒素汚染実態に関する疫学調査を実 施した。また、歯科口腔外科によるバングラデシュでの口唇口蓋裂手術指導も 1996 年から実 績を重ねており、NGO 活動として日本口唇口蓋裂協会から支援を受けるようになって、現在 も継続している。 公衆衛生学教室では公害健康被害補償協会から委託を受けて研究班を組織し、中国、ブラジ ル、日本で慢性閉塞性肺疾患の国際比較に関する研究も行っている。寄生虫学教室は、日中 医学協会の援助を受けて、中国浙江省温州医学院に広東住血線虫症の免疫診断技術指導に赴 き、これがきっかけとなって、本学との交流協定締結に至った。 2000 年には「大平洋・島サミット PALM2000」、「2000 年主要国首脳会議(九州・沖縄サミ ット)外相会議」が相次いで宮崎において開催されたことをきっかけとして、県の国際交流 課と連携し、アジア・大平洋諸国への医療技術援助の可能性について検討を開始している。 ○取組の分類2の実績や効果の程度 以上の評価結果を総合的に判断して、研究成果の活用に関する実績や効果の程度は、目的 及び目標で意図した実績や効果がかなり挙がっているが、改善の必要がある。 (2)取組の実績と効果の水準 以上の評価結果を総合的に判断して、取組の実績と効果は、目的及び目標で意図した実績 や効果がおおむね挙がっているが、改善の余地もある。 - 26 - 宮崎医科大学 (3)特に優れた点及び改善点等 産婦人科と周産母子センターが宮崎県福祉保健部、日本産婦人科医師会宮崎県支部等と連 携し、周産期死亡要因の研究に基づいて対策に乗り出し、本県を日本で一番周産期死亡率の 低い県にしたことは、地域住民の目に見える実績として高く評価される。動物実験施設と博 物館との連携による野生生物に関する情報提供や、実験実習機器センターと県との連携によ る体験学習の実施などの活動も、小さいながら、地域住民に判りやすいユニークな取組とし て、評価される。当初は地域医療機関へのサービスとして始まった寄生虫症免疫診断は、民 間診断会社との連携に発展し、国内で事実上唯一のレファレンスセンターとして全国の医療 機関からの利用実績があるという点で、本学の特色のある社会貢献である。肝細胞増殖因子 の研究については、本学の基礎研究が高く評価され日本肝臓学会賞(織田賞)を受賞。平成 14年度から京都大学医学部附属病院探索医療センターで「HGF 肝再生療法プロジェクト」 として、企業とタイアップしての臨床応用へ向けた研究が開始された。これは本学の研究成 果の活用として、社会貢献が期待されている大きな事業である。 - 27 - 宮崎医科大学 本学附属病院医療情報部、地域医療連携推進センターが中心となり、県内各医療機関、県医 師会、県薬剤師会、行政機関と一体となって地域医療水準の向上を目指して、IT 技術を活用 した地域との医療情報連携システムの構築に取り組んだ実績は、NPO 事業として自立すると ころにまで成長し、全国からもモデルケースとして注目されている。 土呂久の公害事件に端を発した皮膚科や公衆衛生学講座による砒素中毒疫学調査は、その能 力が高く評価され、バングラデシュや中国内蒙古自治区の砒素中毒疫学調査への参画に発展 している。同様に、寄生虫症免疫診断も海外からの要請に応えて、メキシコやフィリピンで 技術指導を行なっている。これらはいずれも地域社会に根ざした研究が国際化したもので、 研究連携の実績として特に優れた点である。 改善点としては、個別の講座等の実績が、なかなか大学のプロジェクトの中核にはならな いことで、これは、基本的に組織のサイズにも問題があり、宮崎大学との統合によるスケー ルメリットが期待されている。 - 28 - 宮崎医科大学 3 改善のための取組 (1)取組の分類ごとの評価 (取組の分類1)社会と連携及び協力するための取組 ○観点ごとの評価結果 観点A 取組状況や問題点を把握する体制や取組 本学では教育・研究・診療活動等の向上と活性化をはかるために、平成3年から総合評価 検討委員会を設置し、年度毎の自己点検・自己評価の一環として年報を発刊している。平成 6年には開学20周年を機に、本学の歩みを自己点検・自己評価する目的で「宮崎医科大学 20年の歩み 1974-1994」を発刊した。平成8年には将来計画審議会の下に若手教官によるワ ーキンググループを組織し、1)宮崎医科大学の在り方、2)医師に適した人材確保、3) 21 世紀の医療人としての医師養成、4)附属病院の在り方、5)研究の活性化、6)情報化 時代に向けて・施設の整備等を検討し、平成10年に「宮崎医科大学の将来—ワーキンググ ループからの提案—」として冊子の形で全学への提言を行った。さらに、平成11年度には 過去5年間の本学の活動状況を自己点検・評価し、結果を「宮崎医科大学自己点検・評価報 告書」として取りまとめた。同時に、学外の医学・医療関係者からなる外部評価委員会を設 置し、この「自己点検・評価報告書」の内容評価と現場視察に基づいて、外部評価がなされ、 その結果は平成13年3月に「宮崎医科大学外部評価報告書」として学内外に公表された。 平成12年から本学附属病院に「地域医療連携推進センター」が設置されて地域医療への参 画を組織的に行うための体制を整備した。共同研究・受託研究の個々の案件に対しては、「共 同研究・受託研究審査委員会」を設置し、審査・助言を行っているが、メンバーの多くが他 の委員会との併任であり、社会との連携及び協力を推進する母体としては非力である。特に、 広報や情報収集に関しては、マンパワー不足のため、取組が十分になされているとは言えな い。平成15年10月に本学と宮崎大学が統合し、新生大学となった時点では、現宮崎大学 に既存の「地域共同研究センター」が、地域社会との研究連携を推進するための機能を担う 予定である。 観点B 学外者の意見等を把握する体制や取組 本学では地域社会のニーズを大学運営に反映させるために、県医師会長など地元の 学外有識者を運営諮問会議委員として委嘱し、定期的に意見を求めている。このよう な定期的な意見聴取とは別に、本学では平成3年から総合評価検討委員会を設け、学 外に情報提供するために毎年「年報」を刊行しているが、平成12年度には過去5年 に 亘 る 自 己 点 検・評 価 作 業 を 行 い 、報 告 書 と し て 取 り ま と め 、そ れ に 基 づ い て 、学 外 医 学・医療関係者からなる外部評価委員会により、この報告書の内容評価と現場視察によって、 外部評価がなされた。その結果は平成13年3月に「宮崎医科大学外部評価報告書」として 学内外に公表されており、指摘された問題点については可能なものから逐次改善に取組んで いる。 - 29 - 宮崎医科大学 観点C 把握した意見や問題点の改善状況 学内外から聴取した意見や、指摘された問題点については、現状で対応可能な範囲 で改善に努めているが、昨今の定員削減や緊縮財政の中で、人的あるいは財政的措置 を必要とするような改善は殆ど不可能に近い。宮崎大学との統合によるスケールメリ ットを生かした改善方策を両大学で検討中である。 ○取組の分類1の貢献の程度 改善のための取組が目的及び目標の達成にある程度貢献しているが、改善の必要が相当に ある。 (取組の分類2)研究成果の活用に関する取組 ○観点ごとの評価結果 観点A 取組状況や問題点を把握する体制や取組 平成3年に設置された総合評価検討委員会が、年度毎の自己点検・自己評価を実施してお り、研究成果の活用についての地域社会との連携の状況や問題点を把握する作業を行ってお り、その結果は年報として公表されている。特許等の取得に関しては、 「発明委員会」が設置 されているが、メンバーの多くが他の委員会との併任であり、充分にその機能を果たしてい るとは言えない。現在のところ、個々の研究者や部署に任されているのが実情であり、共同 研究の相手企業等に依存している部分が大きい。 観点B 学外者の意見等を把握する体制や取組 学外者に本学の研究内容を広く知って貰うために、本学の公式ホームページを立ち上げて、 各研究室の研究内容を個別ホームページで紹介するとともに、個々の研究者の業績について 研究者総覧を公開している。学外者の意見等を把握する体制として、県 医 師 会 長 な ど 地 元 の 学外有識者を運営諮問会議委員として委嘱し、定期的に意見を求めているが、これは あくまでも総論的なものであり、個々の企業や自治体等の意見を直接的に把握するも の で は な い 。臨 床 医 学 面 で は 平成12年から本学附属病院に「地域医療連携推進センター」 が設置され、医療情報連携システムを立ち上げて、地域の医療従事者からの意見等を日常的 に把握するように努めている。研究成果の活用に関する国際的な取組については、国際交流 委員会がその任に当たっており、海外からの技術支援要請などに対して迅速な取組を心掛け ている。しかしながら、これらの広報活動や情報収集活動に関しては、マンパワー不足のた め、取組が十分になされているとは言えない。これについても、平成15年10月に本学と 宮崎大学が統合し、新生大学となった時点では、現宮崎大学に設置されている「地域共同研 究センター」が、改組充実されて、大きな役割を果たすものと考えられる。 観点C 把握した意見や問題点の改善状況 学内外から聴取した意見や、指摘された問題点については、現状で対応可能な範囲 で改善に努めているが、昨今の定員削減や緊縮財政の中で、人的あるいは財政的措置 を必要とするような改善は殆ど不可能に近い。宮崎大学との統合によるスケールメリ ットを生かした改善方策を両大学で検討中である。 - 30 - 宮崎医科大学 ○取組の分類2の貢献の程度 改善のための取組が目的及び目標の達成に貢献しておらず、大幅な改善の必要がある。 (2)改善のための取組の水準 以上の評価結果を総合的に判断して、改善のための取組が目的及び目標の達成にある程度 貢献しているが、改善の必要が相当にある。 (3)特に優れた点及び改善点等 本学の研究活動面における社会との連携及び協力については、単科医科大学のため、小回 りがきくという特性を生かしており、個々の研究者、あるいは講座等と、行政、企業等との 連携や協力が非常に円滑かつ迅速に行なわれているのが特徴である。その一方で、単科大学 であるが故のマンパワーの絶対的不足から、広報活動や情報収集活動は非常に手薄である。 この点については、宮崎大学との統合計画を立案するなかで、改善するよう努力中である。 - 31 - 宮崎医科大学 Ⅴ 特記事項 本学は平成14年5月8日に宮崎大学と統合について の合意書を取り交わした。それにより、 「宮崎国立大学 (仮称)設立準備委員会」が設置され、その下に①管理 運営体制、②教育問題等、③大学院研究科、④入試、⑤ 附属施設等、⑥事務組織の六つの検討部会を設けて、新 生大学のマスタープラン作りを急いでいる。 新生大学は、 その理念として「人類の英知の結晶としての学術・文化 に関する知的遺産の継承と発展、深奥なる学理の探究、 生命を育んできた地球環境の保全、さらに人類の福祉と 繁栄に資する学際的な生命科学の創造を志向し、変動す る多様な社会の要請に応え得る人材の育成を本学の使命 とする。 」と謳っており、その理念の具現化に向け、次の 三項を目的に掲げている。 1)恵まれた自然環境の下で豊かな人間性を育む教養教 育に取り組むと共に、自ら基礎的研究を深め、独創性・ 普遍性に富んだ研究を推進し、加えて最新の学術的知 見を踏まえた専門教育を実施して、課題の探求・解決 能力に優れた人材の育成を図る。 2)社会の要請に応えるために、既存の農学部、教育文 化学部、工学部および医学部の各学問分野を基盤とし て、学際領域に属する生命科学分野に特色を持つ大学 の創造を目指し、教育・研究の充実を図る。 3) 開かれた大学として、 社会人の再教育などを通じて、 本学で得られ、蓄積された教育・研究の知的資源を広 く社会に発信するとともに、世界の大学・研究機関と の国際交流を促進する。さらに宮崎県内の他大学との 連携を深め、相互に教育・研究を補完して、南九州に おける高等教育の充実と特色ある研究の展開に資する とともに、積極的に地域の人材を発掘し、世界的視野 を持ち、かつ地域の発展、ひいては世界の人類の福祉 に寄与する人材の育成に勤める。 この新生大学の目的は従来の本学の目的と何ら異なるも のではないが、その実現のための目標の設定や、目的・目 標を達成するための取組については、新生大学の中での医 学部、附属病院としての検討作業が必要である。現在、両 大学の統合へ向けた平成15年度概算要求書策定中であり、 本自己評価書は統合後の研究活動面における社会との連 携及び協力に関する改善の方策等の具体案を盛り込むこと ができないという制約の下に作成されたことを特記しておく。 - 32 -
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