心に刻む少人数の学級活動

実践例
6学年
学級活動⑴
心に刻む少人数の学級活動
─1年生との交流活動を通して─
東京都八王子市立みなみ野君田小学校教諭
藤本悦子
はじめに
四学級であるが、六学年は一学級。しかも男
子二名、女子九名、計十一名の少人数学級で
ある。前の学校環境や友達関係から離れ、さ
一人の児童が発した
まざまな経過から親子ともども心機一転、新
│
言葉にはっとした。なんとすばらしい言葉だ
一年にかける保護者の思いは強い。
︿学校目標﹀
〝共に輝こう〟
○学んで伸びる子 ○強く優しい子
○健康に過ごす子
を受け、次のように学年︵学級︶目標を立てた。
﹁〝 心 に 残 そ う 〟 だ と、 た だ 思 っ て い る だ
ちょっと子どもの心を揺さぶってみた。
﹁〝心に残そう〟では、どうかなあ﹂
気持ちを育てていく。
を合言葉に、生活や学習の中で〝学び合う〟
ばしていく。﹁みんなで一緒に良くなろう﹂
学校全体の中でも子どもたちの力を高め、伸
一人一人の個性を尊重しながら、少人数な
らではの学級のまとまりをつくるとともに、
け っ て 感 じ が す る け ど、〝 刻 も う 〟 だ と、 み
命を大切にする心。自分の生活を見直し、
心も体も健康になるように努める力
○健康づくりに励む子
学校全体のことを考えて、積極的に仕事に
取り組む力
○進んで仕事のできる子
〝良いところをみつける〟という段階から
〝友達から学ぶこと〟のできる力
○友達の良さ・がんばりの分かる子
中学への助走の時。自分が自分のために自
分で考えて学習に取り組む力
○自ら学習に取り組む子
らの児童が大半を占めている。他学年は三∼
本校は新設校である。開発地域で、今も宅
地などの造成が進んでいる。二つの隣接校か
間、これでいこう!﹂
﹁気に入った、思いが伝わってくるよ。一年
月、A児の成長を感じる。
うか﹂の母親の話を思い出した。わずか二か
﹁口数が少なく、新しい環境で大丈夫でしょ
こ の 春 に 引 っ 越 し て き た A 児 が 発 言 し た。
返ってきた言葉に全員一致でうなずいていた。
がする﹂
んなの心にもっと深く、ずっと残っている気
○よみがえれ
自然
○学ぼう 歴史と文化
心に刻もう!三日間
の合言葉が決まった。
現在、間近に迫った日光移動教室に向けて
の活動の真っ最中である。次のようにみんな
﹁心に刻もう⋮⋮﹂
4
しい気持ちで転校してきた。卒業までのこの
4
ろう、子どもから教えられたと思った。
4
2 0 0 7 . 0 8 道徳と特別活動 36
帰りの会では一日を振り返り、〝輝いた人、
輝いたクラスのできごと〟を発表している。
題材名
﹁一年生と仲良くなろう﹂
入学した一年生に、どのような気持ちで、
どのようにかかわったらよいか、自分のどの
ような力を伸ばしたいか、考えさせた。
経過
四月六日、開校式・入学式・始業式があっ
た。新設校ならではの行事であり、学校や学
級、友達づくり、すべての出発の式となった。
最高学年としての六年生。新しい学校づくり
の役割は大きい。少人数であるので、この一
年間、五年生と共同体で進める活動も多い。
すべてが新しくスタートした今の気持ちを大
︻活動計画︼︵一学期︶
・雨の日の遊び
・パソコン学習
︵使い方などを教える︶
四・五月 ・前日準備
・入学式への参加
・朝の時間のお世話
・一年生の教室の清掃
︵五月より一年生と一緒に︶
・
﹁一年生を迎える会﹂の出し物
六月
年間
活動の様子
⑴ 入学式への参加
前日・当日ともに会場準備と後片付け。見
えない裏方の仕事である。どの子も嫌な顔一
つ見せず、手際よく行動していた。
り返し言ってくれ
ました。体育館に
入る前、緊張しな
いでいいからねと
言うと、うん、大
丈夫と言っていま
した。﹂
⑵
遊びの交流︵休み時間や雨の日︶
一人一人が、一年生の喜ぶ遊びを考えてい
た。六年生の教室まで、一年生が誘いにくる
こともあった。
E児 ﹁次の日から一年生の教室に遊びに
いったら、今までよりもっと仲良くなれた
気がしました。学校のことをたくさん教え
またF児は、日常、友達とのかかわりが薄
いが、折り紙名人である。日々、作品の種類
てあげようと思います。﹂
派 に お 祝 い の 言 葉 を 言 っ た。 集 合 し、﹁ こ れ
を増やし、そのほか、かぎ針で編んだあやと
切にしながら、活動を進めた。
からも、行事や委員会など全校のために活動
当日は、五・六年生がかわいい一年生と手
をつないで入退場。B児は児童代表として立
することが多い。人に頼らず、一人一人がや
初仕事は、何と言っても一年生とのかかわ
りである。次のようなねらいと活動計画を立
てた。
○もっと一年生を知ろう
●ねらい
みんなが喜んでくれる出し物を考え、成功
させよう
⑶
﹁一年生を迎える会﹂での発表
●議題
得意顔で教えていた。優しい面を見受けた。
りを用意していた。いつも一年生に囲まれて、
︻ねらい︼
り抜いていこう。下級生には優しくしよう﹂
と、担任から話した。
○一年生に優しくしよう。
C児
﹁ 手 を 握 る と 小 さ く て、 何 度 も す る す
るとわたしの手から抜けてしまいました。
だ か ら、 手 を し っ か り と 握 っ て あ げ ま し
○リーダーーとして活躍しよう。
○自分の得意なところを伸ばそう。
た。﹂
D児
﹁ わ た し の 名 前 を 言 う と、 繰 り 返 し 繰
実 践 例 学級活動⑴
37 道徳と特別活動 2007. 08
▼手をつないで退場
指導・援助
○考えを出し合い、協力して進めよう
●展開
◇話合い活動
児童の 活 動
義について気付かせる。
・
﹁一年生を迎える会﹂の意
確認させる。
1.始めの言葉 ・ め あ て や 話 し 合 う 内 容 を
と流れ
・今 日 の 活 動
・議 題 と め あ
ての確認
︵代 表 委 員 ︶
2 .提 案 理 由
・効果音⋮博士登場のファンファーレなど
・劇の役⋮みなみ野君田博士、司会者
中心になって進めていた。工夫したり、笑っ
た。台本を仕上た満足感からか、劇の練習を
のでとてもうれしかった。みんなの前で褒め
豊かな台本を書いてきたこと、予想外だった
いてきた。真っ先に実践したことやアイデア
・楽器⋮解答時、小太鼓とシンバルを使う
たり、ああしたらこうしたら⋮、と、みんな
︿役割分担﹀
・三択カード
楽しそうな練習風景でほほえましかった。
・幕の開閉
︿活動計画﹀
た。その後、教室で〝牛乳で乾杯!〟をし、
当日は、友達に頼らない一人一人のがんば
りや優しさをたくさん見受けた。大盛況だっ
帰りの会では、H児が、クラスの輝いた出来
好きな遊び・食べ物・動物・色など
1.一年生にアンケートを取りに行く
2.アンケートの集計
﹁全校の人たちは
ものすごく喜んで
いました。大成功
だと思いました。
みんなで協力して
いた実感がありま
した。自分自身も
楽しめてよかった
です﹂
があった。﹁∼してあげたい﹂﹁∼してくれ
○学年︵学級︶の枠をはずした〝学び合い〟
みんなの役に立ったことを喜び合えた。
○協力して、大きな行事を成功させたことや
○児童の発意・発想を重視した。
まとめ
成就感が伝わる。
事として発言した。振り返りのカードからも
3.劇の練習、係ごとの活動
●発表と振り返り
﹁朝のお世話をしているけれど、どれくらい
いとの思いが、出し物の題名から伝わってきた。
内容が決定した次の日、G児は、台本を書
▼出し物をしている様子
3 .話 合 い
ものがあるか考えさせる。
①どん な 出 し 物 ・ 楽 し め る 出 し 物 に ど ん な
をす る か
か考えさせる。
め に は、 ど う し た ら よ い
②どん な 役 割 分 ・ 協 力 し て 仕 事 が で き る た
担が あ る か
③当日 ま で 、 ど
ど の 良 か っ た と こ ろ や、
・司会グループや発言者な
のよ う に 進 め ・ 活 動 の 見 通 し を も た せ る 。
るか
4 .決 ま っ た こ
との 発 表
5.振り返り
が ん ば り を 発 表 さ せ る。
劇にして、三択クイズを出す。
︿出し物⋮﹁一年生を知ろうよクイズ﹂
﹀
◇児童の意見やアイデア
返らせる。
一
年
生のことを知っている?﹂
・会に向けて意欲付けをする。
と担任から投げかけてみた。自分たちも全
校のみんなも、一年生のことをもっと知るとい
自分の参加の仕方を振り
▼台本
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新しい学校での新たな出会い,しかも最高
学年であっても最も少ない児童数である。し
かし,開校という歴史の一歩を踏み出した,
みなみ野君田小学校にとって,11 名とは言
え 6 年生への期待は大きいものがある。
う思いが自然とわいてきている。それは,周
りから強制されたものではなく促されたもの
でもない,まさに自発的な思いなのである。
このように,児童も場に応じた動きができ
るのである。このことは,自発的,自治的な
活動を進める上で,大きなかぎとなる。
■場が人を育てる
ここに集まった 11 名の 6 年生の,5 年生
までの学校生活はどうであっただろうか。新
設校の開校であっても新 6 年生は特別で,必
ずしも転校しなくてもよいとされたのかもし
れない。また開発地域ということで,A児の
ように転居のために入ってきた児童もいる。
この 11 名は,5 年生までの学級集団で,
それぞれどのような活動を体験してきたのか
は分からない。それでも,この 11 名は集まっ
たその日から学校のリーダーなのである。好
むと好まざるとにかかわらず,大勢の下級生
の前で自己を発揮しなければならない。
また互いのことがよく分からなくても,活
動を通して理解し合っていくのであり,5 年
生まで口数が少なくても済んでいたというA
児も,ここでは自分も最前線に立たねばとい
39 道徳と特別活動 2007. 08
■「心に刻む」は意欲の表れ
今,この 11 名は 5 年生までに経験したこ
とのない新鮮さとやりがいを感じている。ま
さに「なすことによって学ぶ」であり,学級
活動⑴・学級会の基本姿勢からすれば,もう
少し時間をかけて児童の発意発想を待ちたい
ところである。
しかし,11 名を取り巻く状況に,そのよ
うな余裕はないのである。5 年生までにそれ
ぞれが体験してきたことを大きくふくらませ
ようとしており,活動によって 11 名が力を
合わせることの大切さ,一人一人が自分の持
てる力を発揮させることのすばらしさを体感
しているのである。この意欲を高めつつ,学
級会の本質に迫っていく教師の指導助言に期
待したい。
(本誌編集委員会)
てありがとう﹂という、互いの学年の心が
実 践 例 学級活動⑴
11 名の新たな出発にエール
少しずつ育っている。
○次への課題がもてた。
﹁二学期は各学年と
の交流を目指す﹂という意見が出た。本好
きなI児は読み聞かせを、障害のある人に
関心をもっているJ 児は、手話を教えたい
と発言した。
なる。以前は学習が進まないことが多かっ
○K児は、交流のとき、とても輝いた表情に
た が、 自 分 の 力 が 役 に 立 っ て い る 喜 び を
もったことで、学習にも前向きに取り組む
活力が見えてきた。
今は、時間と場所を設定して進めており、
日常の自然なかかわりがほしいところである
が、活動や出番が多い良さを生かしながら、
子の小さなステップを見守りたい。心に刻ん
だ学級での思い出を胸に、三月には、第一期
卒業生である自信と誇りをもって、中学へ飛
び立ってほしいと願っている。
▲1年生からの「ありがとう」寄せ書き