329-June 2014 - アメリカ大豆協会

瀬良英介の
飼料・畜産トピックス(329)
2014年6月
(329)NASA が将来に向けて新しい大豆を作る研究を開始
アメリカ航空宇宙局(NASA)のダーレン・ドリュワリー研究員は高性能コンピュータと高度
な植生モデルを駆使して大豆の育種改良をさまざまな角度から行っています。非常に興味がある
のは大豆の生産性を7%向上させながら土壌水分を余分に使わないというものです。更に、大豆
が成長時に使う水分を13%少なくし、収量の減少無しに葉からの太陽光線を34%余分に宇宙
に返すことも可能だとしています。これらの研究はイリノイ大学の共同研究者2名と連盟で
Global Change Biology の学会誌4月号に発表しました。
上記の発表は世界の食料生産が人口増加と気候変動によって脅かされることに関心が高ま
った時期に発表されました。また、国連が食料生産に関しての予測を発表した時期とも重なりま
した。2050年までに世界の食料生産を70%増加しなくてはならないのですが、主要穀物の
生産増は微々たるものであることが判っています。また、大豆は世界の最も重要な蛋白質源であ
ることも理解されています。
ドリュワリーは高度な予測数式によって大豆の構造的な特徴を5個選び出し計算していま
す。その一つは一本の大豆の葉の総面積(葉の枚数や大きさ)と大豆の茎のどの位置に葉がどの
ような角度で出るかということです。こういう大豆の形質を通常の交配で追及すれば何十年かか
るか判りません。また、遺伝子組み換え(GMO)技術を使って作りだすにしても一つ一つの形質
を捉えては確定していくのですから大変な歳月がかかります。
少なくとも最初の篩にかける段階
で高性能コンピュータと植生モデルを駆使して育種改良をすれば改良の時間を大幅に短縮出来
るということです。この方法により最終目標が具現できる大豆を試験圃場に植える段階にこぎつ
ける歳月は大幅に短縮されます。これは一種のスクリーニング作業になりますが、2050年に
向かって必要な食物生産増を得るための方法として、今後、重要視されるようになるでしょう。
ジェネラル・ミルスと云えば米国食品会社としては大手ですが、朝食シリアルのチーリオ
ス・ブランドが有名です。そのジェネラル・ミルスが将来、遺伝子組み換え穀類などの使用量を
格段に増やすことを明言しました。ジェネラル・ミルスによれば現在でも8億7000万人(世
界人口の8人に1人)が充分な食物が無い状態だとしており、2040年には世界人口が90億
人に増えることを指摘しています。食料供給の専門家によれば現在よりも食料を50%増やし、
エネルギーを45%増やし、水を30%増やさなければならない点を引用しています。また、国
連の世界保健機構 (UN / WHO) は遺伝子組み換え作物が将来の農業生産増に大きく貢献し、人
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類の健康増進にも貢献すると明言しています。遺伝子組み換え作物の安全性は世界的には20年
前に認められており、米国の農家でも農業生産のかなりの部分を遺伝子組み換え作物に切り替え
ています。その結果、現在、米国のスーパーなどで扱われている食品の70%には何らかの遺伝
子組み換え原料が使われているとしています。遺伝子組み換え作物は殺虫剤や除草剤の使用量を
減らし生産エネルギーも軽減するとしています。また、土壌中の窒素保有量を高め、土壌流亡を
減らす点も指摘しています。国連の世界保健機構 (UN/WHO) が安全性を含めて認めている現
在でも、遺伝子組み換え(GMO) 作物を問題視する消費者のためには米国で販売されている食品
の大部分について非遺伝子組み換え作物 (Non-GMO) で製造した食品を用意するとしています。
余談ですが小澤健二氏が日本農業研究所研究報告「農業研究」第26号(2013年)51
頁~150頁(全99頁、参考文献数174件)に発表された「穀物メジャーに関する一考察・
アメリカの食品製造業の構造再編を中心に(3)
」は素晴らしい考察を含めた論文です。読んで
おられなければお薦めしたい一編です。
本トピックスはフィードスタフス誌のフードリンク(2014年4月23日~24日号)や
米国油化学会のインフォーム誌(2014年5月号)などを参照しました。
米国の大豆生産団体(ユナイテッド・ソイビーン・ボード
= USB )も莫大なチェック・
オフ資金を提供し大豆の品種改良と収穫量の増大に関する研究を米国の大学や国立試験場に委
託しています。干ばつに強い大豆、言い換えれば、少ない土壌水分で収量を落とさず生産出来る
大豆品種に力を入れると同時に大豆が持つ栄養組成分を家畜や人間が必要とする栄養組成分を
多く含んだ品種を作出する研究もやっています。つまり、目的を持った遺伝子組み換え(GMO)
大豆の作出に力を入れています。然し、初期段階で高性能コンピュータと植生モデルを駆使して
可能性を計算出来れば実際の改良速度は格段に上がることは間違いないでしょう
(瀬良、2014)
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