The Murata Science Foundation マルチフェロイック材料における 磁化・電場誘起非線形光学効果に関する研究 Nonlinear Magneto- and Electro-optical Effect in Multiferroic Materials A71108 代表研究者 大 越 慎 一 東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 教授 Shin-ichi Ohkoshi Professor, Department of Chemistry, Graduate School of Science, The University of Tokyo Recently, multiferroic materials (e.g., ferroelectric-ferromagnet) have been aggressively studied because the novel interactive effects between electric dipole and magnetic dipole are expected. Multiferroic materials have non-centrosymmetric structures of both electric polarization and magnetic polarization, so that this type of materials can be a good candidate for demonstrating the second-order nonlinear magneto-optical effect. In this research, we investigated magnetization-induced second harmonic generation (MSHG) with several ferroelectric-ferromagnets and pyroelectric-ferromagnets. In previous study, we reported ferroelectric-ferromagnetism in (PLZT)x(BiFeO3)1-x In the present research, we prepared (PLZT)0.1(BiFeO3)0.9 transparent film. This film possessed the absorption due to the charge transfer below 550 nm. Faraday rotation angle in 388 nm was −0.06 ° at room temperature. In the MSHG measurement, the rotation angle of SH light in the same wavelength was +1°, which was 17 times larger than Faraday rotation angle. Based on the tensor analysis, this enhancement was attributed to the generation of the magnetic term which was along with the direction of magnetization. In addition, [{MnII(H2O)2}{MnII(pyrazine)(H2O)2}{NbIV(CN)8}]·4H2O was synthesized. The results of x-ray single-crystal analysis show that this metal assembly-based magnet had a electric polarization. This compound exhibited ferromagnetism with Curie temperature of 46 K. In powder-form sample, strong SHG was observed and SH intensity rapidly increased below 50 K. This enhancement corresponded to the temperature dependence of magnetization. The enhancement of SH light was caused by magnetic ordering of the compound. を併せ持つ材料は天然ではほとんど存在せず、 研究目的 Eu 0.5 Ba0.5 TiO3 やNi3 B7 O13 Iなどといった物質が 強磁性と強誘電性を兼ね備えたマルチフェ 知られているだけであった。近年、人工的な ロイック材料の研究が盛んに進められている。 合成が積極的に試みられており、B i F e O 3 - このような物質においては、磁場による電気 BaTiO3 やTbMnO3、Ma2 Mg2 Fe12O22などで強誘 分極の制御や、電場による磁化の制御など両 電-強磁性が観測されている。 者の相互作用に基づく新規な機能性の発現が 我々は、強誘電ヒステリシスと強磁性ヒス 期待される。ところが、磁気分極と電気分極 テリシスが共存する材料として、2 0 0 1 年に ─ 117 ─ Annual Report No.23 2009 BiFeO3 と(Pb0.9 La0.1 )(Zr0.65 Ti0.35 )O3 の固溶体で BiFeO3と透明強誘電体の(Pb0.9La0.1)(Zr0.65Ti0.35) ある(PLZT)x(BiFeO3)1-xを報告している。また、 O3 (PLZT(10/65/35), La:Zr:Ti=10:65:35)の固 シアノ金属錯体をベースとした集積型金属錯 溶体を作製し、室温で強誘電−強磁性を示す 体に着目し、強誘電-強磁性体の作製を行っ マルチフェロイック材料(PLZT) x (BiFeO3 )1-xを ている。強誘電-強磁性体の光学物性に着目す 報告している。本研究では、(PLZT)x (BiFeO3)1-x ると、例えば磁化誘起第二高調波発生(SHG) 薄膜を作製し、室温において磁化誘起第二高 を磁化によって制御する磁化誘起第二高調 調波発生(MSHG)の観測を行った。 波発生(MSHG)や、電気分極によって制御 (PLZT)0.1(BiFeO3 )0.9薄膜のSEM像を撮影し する電場誘起第二高調波発生が期待される。 たところ、厚さは300nmで、表面は粒径70± 我々は、圧電性−強磁性体や焦電性−強磁性 20nmの粒子で構成されていた。また、得られ 体においてMSHGの観測に成功している。本研 た薄膜は茶色透明であり、透過率スペクトル 究では、新規マルチフェロイック材料の創製を を測定したところ、550nm以下にバンド間遷 行うとともに、MSHGの観測を行い、自発磁化 移による吸収が観測された。室温において外 と自発電気分極が第二高調波に与える影響を 部磁場±1Tの条件で磁気光学効果を測定した 検討することを目的として研究を行った。 ところ、550nm以下ではバンド間遷移に対応 具体的には、以下の2つについて研究を行った。 したスペクトルが観測され、ファラデー回転 1. (PLZT) x (BiFeO3 )1-x 薄膜においてMSHGの 角は、388n mにおいて−0.06°であった。高 観測を行った。(PLZT) x (BiFeO3 )1-x 薄膜は 調波の波長が388n mの領域でM S H G測定を 透明であるために、透過モードでの測定が 行ったところ、外部磁場を+1T印加すると、 可能であり、バルク物性由来のM S H Gの S H光強度は+1°回転した。また、外部磁場 観測が可能である。 を−1T印加した時は、−1°回転し、SH回転 2. 分極を持った新規集積型金属錯体強磁性 角は+1°であった。この回転角は、ファラ 体[{Mn (H2 O)2 }{Mn (pyrazine)(H2 O)2 } デー効果の17倍の大きな値であった。 {Nb (CN)8}]·4H2 Oを合成し、MSHGの観 消磁状態の2次の非線形感受率は以下のテ 測を行った。集積型金属錯体は、用いる ンソルで表される。 II II IV 配位子および磁性イオンの選択によって構 造設計および磁気特性の制御が可能であ り、電気分極と磁気分極を併せ持つ材料 を作製する上で、非常に適した構築素子 S 偏光入射 - P 偏光出射に対応した感受率 である。 成分は、光軸と試料がなす角を θ とすると、 c χcr SP =χ zyy sinθと表せる。また、S偏光入射-S偏 概 要 光出射に対応する非線形感受率成分は存在し 1.( PLZT)x (BiFeO3)1-x 固溶体薄膜における強 ないため、S偏光成分は出射されない。従って、 θ=0°ではSH光は出射されないが、θが大き 誘電-強磁性と非線形磁気光学効果 マルチフェロイック材料では、MSHGのよ くなるにつれてP偏光のSH光が出射されるよ うな電気、磁気、光学の3つが複合した新機 うになる。 能性が期待される。我々は、反強磁性体の この状態に磁場を印加することにより、磁 ─ 118 ─ The Murata Science Foundation 気スピンが配列する。磁気スピンは軸性ベク 容易軸が存在していた。 トルのため、時間反転対称性の低下を生じる。 粉末試料を用いてS H G測定を行い、S H光 本測定では外部磁場と光軸は平行であるので、 の出射を確認した。SH強度の温度依存性を測 試料角度 θ = 0°の時は面直方向に磁化する 定したところ、90K以下からSH強度は徐々に ことにより磁気点群∞mmとなる。一方、θ= 増加し、50K以下で急激に増大した。磁化-温 90°の時は面内磁化によって磁気点群2mmと 度曲線とSH強度の温度依存性の変化はよい一 なる。本測定ではθ=45°なので、θ=0°とθ 致を示した。単結晶構造解析の結果から、本 =90°の中間の状態であり、非線形感受率テ 錯体は反転対称性を持たない空間群P2 1(点 ンソルは以下のように表わされる。 群2)に属しており、SHG活性である。また、 本測定は無磁場で行っているので、T C 以下で は磁化は容易軸方向を向き、磁気点群2に変 すなわち、磁気スピンによってS偏光出射に 対応した感受率成分 化する。このときの非線形感受率は が 発生する。そして、電気分極による感受率成 分 との合成ベクトルが形成され、偏光面 の回転が発生する。このときの回転角はΦ= tan –1 χ myyy (M)/χ czyy となり、外部磁場を反転させ るとχ myyy (M)の符号も反転するため、磁化方向 と表わされる。 によって回転角の変化が発生する。 磁気オーダリングによって発生する磁性項で は結晶項、 は微視的な ある。すなわち、SH強度は90K以下では超常 2.分極を有する新規集積型金属錯体強磁性体 の作製と磁化誘起第二高調波発生の観測 磁性によって増加し、T C 以下では自発磁化に よって増大したと考えられる。 我々はこれまでに、新規集積型金属錯体強 磁性体の合成を行い M S H G の観測を行って きた。集積型金属錯体は、磁性イオンおよび 配位子の選択によって構造設計および磁気 特性の制御が可能であり、電気分極と磁気 分極を併せ持つ材料を作製する上で有効な 構築素子である。本研究では、8配位型シア ノ架橋型金属錯体を構築素子として、新規 磁性体[{Mn II (H2 O)2 }{Mn II (pyrazine)(H2 O)2 } {Nb IV (CN) 8 }]·4H2 Oを合成し、MSHGの観測 を行った。 本錯体磁性体は単斜晶系に属し、空間群は P2 1 であり、b軸方向に自発電気分極が存在し ていた。また磁化測定の結果、キュリー温度 (T C)46Kの強磁性体であり、a軸方向に磁化 ─ 119 ─ −以下割愛−
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