F.Shinohara

住宅内の真菌とダニアレルゲン調査及び評価法に関する研究
指導教員 岩田 利枝 教授 1ACAM017 篠原 史彦
1. はじめに
表 1 サンプリング方法(文献 3)を参考にまとめた)
近年、住宅内の真菌やダニが原因で喘息等が生じている
真菌
ことから、建築学分野でも真菌やダニの研究がされている。
温湿度との関係や地域差にとどまらず、化学物質との関係
も検討されているが 1) 、いずれも明確な結果は得られてい
ない。この原因の一つとして真菌、
ダニとも様々な採取方法
が存在し、明確な環境基準値がなく 2) 、汚染の評価が難し
いことが挙げられる。そこで本研究では真菌とダニ汚染の
評価方法を提案することを目的とした。
2. サンプリング方法の種類 現在真菌のサンプリング方法は表 1 に示すように数多く存
在し、それぞれ異なった特徴を持っている。真菌の測定は
室内環境だけでなく食品等についても行われることから、
捕集機構
落下法
測定法
シャーレ開放
ステンレス鋼版法
実例
Koch法
NASA法
掃除機法
M/Gエアサンプラー
PBIエアサンプラー
スリット法
NSBスリットサンプラー
Casellaスリットサンプラー
空中
ピンホールLTサンプラー
ピンホール法
真菌
衝突
ピンホールサンプラー
(エアサンプラー、
多段多孔板法
アンダーセンサンプラー
固体培地使用)
SASサンプラー
MAS-100サンプラー
多孔板法*
MATサンプラー
MBS-1000サンプラー
*
RCSサンプラー
回転遠心法
拭取り法
スワブ法
付着
コンタクト・スライド
―
真菌
スタンプ法
RODACプレート
培地の種類についても同様のことがいえる(表 2)。このこ
* 携帯型エアサンプラーを使用
とから対象物にあわせてサンプリング方法及び培地を使い分け
ン フ ゚ ラ ー とも 7 段階の採取量で 2
ることが可能である。しかしこれだけ多くの方法が存在す
回ずつ実験を行った。
ることと、その多くが化学物質測定法のように簡易でない
c) サ ン フ ゚ ラ ー の捕集量についての
ことからデータ数が少なく、未だに明確な環境基準値がない
検討 大学の 5 教室で実験を行
という問題が生じている。
い、集合住宅実測結果も加
真菌のサンプリングの主体は空気捕集後、培養によってコロ
えて検討を行った。
ニー数で評価するエアサンプラーである。各エアサンプラーの特徴につ
d)気流による捕集量への影
いては小鷲の研究に示す 4) 。また培地を使用しないで顕微
響 a)と同じ教室で各サンプ
鏡で直接カウントする Air-o-Cellサンプラーを比較した研究も報
ラーとも 11 段階(0m/s を含
告されている 5)。さらに海外ではコロニー数でなく真菌アレルゲ
む)の気流について実験を
6)
ン 量を対象とした研究も報告されているが 、分析方法に
行った。
問題があることから評価が難しい。
3-3 結果 以下に検討結果
3. 携帯型浮遊菌サンプラーの性能比較実験 4)
を示す。
3-1 目的 本研究では携帯型の RCS・standard(Biotest
a)分析(方法×回数)を行っ
製、以下 RCS(S)とする)と RCS・high flow(Biotest 製、
た結果、方法間では有意差
以下 RCS(H)とする)、BIOサンプラー(ミドリ安全製、以下 BIO と
(1 %)がみられたが、回数
長所・短所
簡易だが、粒径
の大きいものし
か採取できない
捕集効率は高い
が、定置型でAC
電源を必要とす
ることから測定
が困難
簡易だが、定置
型サンプラーに比べ
て捕集効率は
低い
採取が困難
簡易だが、拭取
り法に比べて捕
集効率は低い
表 2 培地の種類
培地
PDA培地
SDX培地
MEA培地
YM培地
DG-18培地
M40Y培地
対象
一般真菌及び酵母用
一般真菌及び酵母用
一般真菌及び酵母用
一般真菌及び酵母用
好稠性真菌用
好稠性真菌用
表 3 使用培地、サンプラーの採取量
サンプラー
RCS(S)
a)
RCS(H)
BIO
RCS(S)
b) RCS(H)
BIO
RCS(S)
c) RCS(H)
BIO
RCS(S)
d) RCS(H)
BIO
培地
YM
(1st)
YM
DG-18
(1st)
(2nd)
PDA、
DG-18
(1st)
YM
YM
PDA、DG-18
DG-18
DG-18
採取量(㍑)
320
(1st)
800
80
(1st)
(2nd)
800
(1st)
40∼640
100∼1600
100∼1600
320
800
800
80
する)について性能比較実験を行い、サンプラーの特性、使用
については差がみられなかったことから、各サンプラーの平均
可能範囲を明らかにし、各サンプラーの測定値をアンダーセンサンプ
値と標準偏差をとり、測定誤差の検討を行った。その結果
ラーのガイドライン値 7) と比較可能にすることを目的とした。
サンプラーについては RCS(H)> BIO > RCS(S)の順に、また培
3-2 検討項目 表 3 と以下の項目について検討を行った。
地については YM > DG-18 > PDA の順に誤差が大きかった。
尚、分析方法は 25℃、96 時間培養後、カウントした。
b)採取量が浮遊真菌濃度に与える影響について検討した結
a) 繰り返しによる測定誤差の検討 大学の教室で実験を
果、安定した値を得るためには RCS(S)では 320リットル以下、
行った。各サンプラーを室中央付近の床上 1.2m に 2m 間隔で
RCS(H)では 200リットル以上、また BIO では 400リットル以上の採
設置し、7 回採取を行った。
取が必要であることがわかった。
b)空気採取量と浮遊真菌濃度の関係 a)と同じ教室で各サ
c)Lee ら 5) に従い対数値について調べた結果、サンプラー間の
Study on fungi and mite allergens in houses and evaluation methods SHINOHARA Fumihiko
気に対して逆風の場合、風速が上昇するとともに減衰率も
増加したが、追風の場合、風速が上昇しても概ね安定して
いた。RCS(H)は測定値が変動し、減衰率は最大 50%程度
であった。BIO は風速が上昇するとともに減衰率も増加し
たが、室内環境基準 8) の 0.5m/s 以下では概ね安定してい
たことから、室内測定では問題ないと考えられた。
4. 真菌実測調査結果の評価
4-1 目的 3 章の実験結果からアンダーセンサンプラーのガイドラ
y=1.39x-0.54
R=0.86
400
200
2 分間、Y M 培地)を使用し、温湿度は小型温湿度計測器
(ESPEC 製)を、換気回数はパッシブトレーサーガス法(pentIAQ
製)を用いて行った。尚、分析方法は 3 章と同様とした。
L・D
A
寝室
邸
和室
浮遊真菌濃度
測定
温湿度
項目
換気回数
L・D
○
○
○
*3
キッチン
*2
○
―
―
トイレ
○
*2
○
―
浴室
○
*3
○
―
和室
*3
○
*3
○
*3
○
B
邸
L・D
寝室
換気回数 真菌濃度(CFU/m )
(回/h)
室内
屋外
2557
1.18
(High)
3252
3808
0.87
(High)
3905
1.75
(High)
41
0.55
(Very low)
458
138
0.41
(Low)
和室
浴室
寝室
4000
3000
High
2000 Intermediate
Low
1000
0
0
Very low
20 40 60 80 100
相対湿度(%)
図 3 湿度、屋外真菌濃度との関係
5. 浮遊真菌パッシブサンプラーの開発
5-1 目的 化学物質はパッシブサンプラーの使用によって多く
表 4 測定場所及び測定項目
*1
40
L・D
5000
3
で実測を行った。測定場所及び測定項目を表 4 に示す。ま
た測定方法については浮遊真菌濃度は RCS(S)(40 ㍑ / 分、
60
0
表5 換気回数と真菌濃度の関係
ら、実測結果 9)10) を換算し各影響要因について検討するこ
4-2 方法 2000 ∼ 2001 年に戸建住宅 12 軒(築 1 ∼ 30 年)
80
20
200
400
0
10
20
30
RCS(S)[YM](CFU/m3)
温度(℃)
図 1 YM 培地と DG-18 培地の関係 図 2 温湿度と真菌濃度の関係
0
イン値が RCS(S)、RCS(H)、BIO に換算可能となったことか
とを目的とした。
相対湿度(%)
d)気流と減衰率の関係について検討した結果、RCS(S)は排
Very low Low Intermediate High
100
600
屋外真菌濃度(CFU/m3)
R=0.76、RCS(H)と BIO で R=0.84 であった。
RCS(S)[DG-18](CFU/m3)
相関係数は RCS(S)と RCS(H)で R=0.93、RCS(S)と BIO で
寝室
*3
○
*3
○
*3
○
屋外
*3
○
*3
○
―
のデータを集めることが可能であることから環境基準値も設
定されている。3 章の実験結果からサンプラー間について換算
可能となり、それを用いて 4 章で実測結果について検討し
*1 リビング・ダイニング *2 12 軒中 10 軒 *3 12 軒中 2 軒
たが、データ不足のため、より多くのデータを蓄積する必要が
4-3 結果 以下に結果を示す。
あると考えられた。よって真菌も化学物質のようにパッシブ
a)培地間の比較 2002 年 7 ∼ 11 月に行った寝室の RCS(S)
サンプラーが提案されればデータが蓄積され、今後明確な環境
による浮遊真菌濃度測定結果から、YM 培地と DG-18 培地
基準値の設定につながると考えられる。そこで 3 章で検討
間に強い相関関係(R=0.86)がみられた(図 1)。よって
した BIO を用いてパッシブサンプラーを提案することを目的と
以降直線回帰式 y=1.39x-0.54 により DG-18 培地に換算し
した。尚、ここでは捕集材に胞子を付着させ、それを RODAC
たものについて述べる。
フ ゚レートを用いて培地に直接採取することを基本とした。
b)温湿度との関係 図 2 に温湿度と浮遊真菌濃度の関係を
5-2 予備検討 示す。温度については明確な関係は得られなかった。相対
5-2-1 方法 以下の項目について検討を行った。尚、分
湿度については湿度が高いと真菌濃度も高くなり、3 章で
析方法は 3 章と同様とした。
得られたガイドライン値に当てはめた結果、80%以上で汚染レ
a)材の違いについての検討 大学の教室でマジックアンカー(ナイ
ベルが Intermediate 以上と高かった。小峯らも真菌の生
ロン)、カッティングシート
(塩化ビニール)、壁紙(塩化ビニール)、
ゴム、PET
育に必要な湿度の目安は 80%と報告していることから 11)、 (ポリエチレンテレフタレート)、アルミ箔、タイルの表面が光沢面の 7 種類の
80 %以下に保つことが濃度抑制につながるといえる。
材を 14 日間床面で曝露し検討した。
c)換気回数との関係 換気回数を測定した住宅 2 軒(A、B
b)個人間差と個人内差の検討 a)と同じ教室の床で PET を
邸)の結果を表 5 に示す。換気回数の多い A 邸の方が浮遊
15 日間曝露した後、7 人の測定者によって実験を行った。
真菌濃度が高く、汚染レベルも High であった。屋外の真菌
5-2-2 結果 以下に結果を示す。
濃度が室内より概ね高かったため、換気回数が多い方が室
a)図 4 に材による違いを示す。マジックアンカーと壁紙は他の材
内に真菌を取り込みやすいと考えられた。
との間に有意差(1%)がみられたが、他の 5 種類は差が
d)湿度、屋外真菌濃度との関係 換気回数が多いと室内浮
みられなかった。変動係数は、ゴム>カッティングシート>タイル>ア
遊真菌濃度が高かったことから、相対湿度、屋外浮遊真菌
ルミ箔> PET の順に大きかった。
濃度と室内浮遊真菌濃度の関係を調べた。図 3 に結果を示
b)図 5 に個人間差及び個人内差の結果を示す。分析(個人
す。相対湿度が高く、屋外浮遊真菌濃度が高いほど室内浮
×回数)を行った結果、ともに有意差がなかった。よって
遊真菌濃度が高かった。
採取誤差、採取者の違いは無視できると考えられた。
材
図 4 材と真菌の関係
Ave
Ave ± SD N=5
( )内は SD/Ave
0
A
B
(0.13)
(0.10)
(0.17)
(0.10)
(0.10)
た捕集材の間隔の違いによる差はみられなかった。図 9 に
4
2
low、その他の場所では Low 以上であったことから、相当
サンプリング係数は Low 以上で概ね安定したと考えられた。ま
6
(0.32)
(0.06)
(0.05)
(0.05)
(0.07)
アンカー シート 壁紙ゴム PET アルミ タイル
8
(0.10)
真菌数(CFU/cm2)
Ave ± SD N=5
(0.20)
(0.10)
8
6
4
2
0
Ave
( )内は SD/Ave
(0.07)
真菌数(CFU/cm2)
10
C
D E F G
人
図 5 個人間差及び個人内差の結果
5-3 パッシブサンプラーの開発
5-3-1 方法 以下の項目について検討を行った。尚、分
3 章の各サンプラーの検討結果にパッシブサンプラー(a-3)を加え
た関係を示す。尚、曝露期間を 15 日間と考え、相当サンプ
リング係数 0.04 を用いた。その結果 RODACプレート上(16cm2)
の真菌数が 9 ∼ 28(CFU/16cm2・15 日間)で Intermediate、
28 以上で High であった。これらはカウントを行うのに適して
いる量であり、15 日間曝露は妥当であると考えた。
a-3
a-2
析方法は 3 章と同様とした。
a-4
a)捕集方法の検討 多くの胞子を捕集するには、『①表面
風速を抑えて、接触した胞子が付着する確率を高める』、
a-1
b-1
PET 間(a-2はPET と装置間)の空気溜り利用
図 6 各サンプラー
Ave
Ave ± SD
材とした①の空気溜り利用型サンプラー4 種(a-1 ∼ a-4)と
2 枚[間隔 5.5cm]、a-3’:14cm × 12cm × 2 枚[間隔 2.5cm]、
a-3’’:8cm × 7cm × 4 枚[間隔 1cm]・側面を塞いだもの、
5-3-2 結果 以下に検討結果を示す。
BIO による浮遊真菌濃度測定結果と同じ傾向を示した。ま
た空気溜り利用型サンプラー内では a-1 と a-4 が最も安定し
ていたが、サンプラーの構造上落下真菌も含まれていることが
考えられた。よって浮遊真菌との関係を考慮すると a-3 が
概ね安定していた。
相当サンプリング係数
a)図 7 に各サンプラー の測定結果を示す。気流利用型よりも
空気溜り利用型の方が安定しており、空気溜り利用型は
0.15
M=C × v × η…①
K=v × η…②
M:捕集真菌数(CFU/m2・h)、C:浮遊真菌濃度(CFU/m3)
(0.59)
(0.72)
(0.04)
(0.17)
(0.29)
(1.41)
(0.11)
(0.43)
(0.09)
0.10
0.05
0.00
0
0.05
0.00
10
5
15
0
5
10
15
曝露期間(日)
曝露期間(日)
図 8 曝露期間と相当サンプリング係数の関係
6. ダニアレルゲン量指標
値の検討 1 2 )
6-1 指標値の現状 近
v:風速(m/h)、η:捕集効率、K:相当サンプリング係数(m/h)
年ダニの個体数、ダニアレ
浮遊真菌濃度 C は測定濃度を測定間隔で重み付けした平
ルゲン量を表わす指標値
均値を用いた。③式に示す。
(0.27)
(1.32)
(0.38)
図 7 各サンプラーの測定結果
a-3 a-3’ a-3’
’ a-3’
’
’
食堂 図書室
0.15
食堂と図書室
教室 A
0.10
b)曝露期間と相当サンプリング係数の関係を明らかにするた
めに、以下の関係式を提案した。
(0.04)
B I O による浮遊真菌濃度測定結果 *
教室 A:728(CFU/m 3 )[Intermediate]、教室 B:171(CFU/m 3 )[Low]
*3 章の結果より換算した
として、ダニの個体数は
Cav = ∑(diC i)/ ∑ di…③
単位面積当りで、ダニアレ
Cav:測定日までの平均濃度、di:i日目の測定間隔(日)
ルゲン量は単位ファインダス
Ci:i 日目の測定浮遊真菌濃度(CFU/m3)
ト 量当りで表記されて
図 8 に曝露期間と相当サンプリング係数の関係を示す。曝
いるのが現状である
露期間が増加すれば相当サンプリング係数は安定すると考えら
13)
れた。濃度が低かった図書室では安定しなかったが、食堂
測定前の掃除影響を受
と教室 A では 0.04 で概ね安定していた。図書室では Very
けるのに対して、単位
。単位面積当りでは
20
繰り返しの測定誤差
採取量による誤差
気流(0.5m/s)による誤差
( ) v=0.5m/s の換算値
1000
10000
1000
100
High
以上 1997 1558 1226
(1882)
1000
(1270)
Interme334 409
340
diate
(320)
200
(272) 159
89
Low
74
50
Very
low
10
(70) (73)
100
28
9
10
4
1
N6 RCS(S)RCS(H)BIO パッシブ
a-3 型
サンプラー
図 9 各サンプラー間の関係
真菌数(CFU/16cm2・15日間)
の)の検討も行った。
相当サンプリング係数
a-3’’’:8cm × 7cm × 4 枚[間隔 1cm]・上下面を塞いだも
① ② ① ② ① ② ① ② ①②①② ① ②① ② ① ② ① ②
教室A 教室B 教室A 教室B 教室A教室B 教室A 教室B 教室A教室B
a-1(N=2) a-2(N=3) a-3(N=2) a-4(N=3) b-1(N=4)
浮遊真菌濃度(CFU/m3)
は捕集材の間隔を変えたサンプラー4 種(a-3:14cm × 12cm ×
(0.54)
期間と相当サンプリング係数について検討した。尚、教室 A で
(0.19)
3、6、13 日間、教室 A では 5、10、15 日間曝露し、曝露
( )内は SD/Ave
(0.02)
b)濃度と曝露期間の影響 a-3サンプラーを食堂、図書室では
14
12
10
8
6
4
2
0
-2
(0.16)
14 日間曝露し検討した。
真菌数(CFU/cm2)
②の気流利用型サンプラー1 種(b-1)(図 6)を教室 A、B に
PETを吊るし気流利用
(0.15)
が考えられることから、捕集誤差の少なかった PET を捕集
(1.15)
(1.51)
『②気流を起こして接触する胞子を多くする』 ということ
50
ンダスト量当りのダニアレルゲン量の単位の妥当性について明ら
かにすることを目的とした。
6-2 方法 戸建住宅 2 軒(C、D 邸、床材:カーペット)で 2、
4、8 日間掃除日数間隔をおいて実験を行った。測定には吸
込み仕事率 200W のハンドクリーナー(TWINBIRD 製)を用いた。
尚、分析方法は ELISA 法を用いて行い、
ダニアレルゲンを Der1
(糞由来)と Der2(虫体由来)に分類した。
Der1(µg/m2)
ついて明らかにされていない。そこで本研究では単位ファイ
C 邸 D 邸
点線は外層域
40
30
20
10
0
0
500
ダニの個体数(匹 /m2)
ファインダスト量当りでは測定前の掃除影響を受けるかどうかに
400
y=0.98x
R=0.75
300
200
100
0
200 400 600 800
0
200
400
ハウスダスト量(mg/m2)
ファインダスト量(mg/m2)
図 10 ファインダスト量と Der1 の関係 図11 ハウスダスト量とダニ個体数の関係
6-3 結果 以下に検討結果を示す。
8. まとめ
a)ハウスダスト量とファインダスト量の関係 実験と実測(7 章に示
真菌測定法、ダニ測定法に関する実験、実測を行い以下の
す)結果から、ハウスダスト量が増加するとファインダスト量も増加
知見を得た。
し、両者の間に強い相関関係(実験:R=0.97、実測:R=0.78、
①真菌エアサンプラーの性能比較を行った結果、測定誤差は RCS
両測定結果:R=0.84)がみられた。
(H)> BIO > RCS(S)であった。②採取量は RCS(S)は 320リッ
b)Der2 と Der1 の関係 実験と実測結果から、Der2 が増
トル以下、RCS(H)は 200リットル以上、BIO は 400リットル以上が必
加すると Der1 も増加し、両者の間に強い相関関係(実験:
要であることを示した。③各サンプラー間の関係を示した。④
R=0.97、実測:R=0.92、両測定結果:R=0.92)がみられた
RCS(S)は風向により気流の影響を受け、BIO は 0.5m/s 以
ことから、以下 Der1 について検討を行う。
上の気流の影響を受けることを示した。⑤各サンプラーの測定
c)ファインダスト量とダニアレルゲン量の関係 C、D 邸ともに増加
値とガイドライン値との比較を可能にした。⑥得られた換算式
傾向は異なるものの、ファインダスト量が増加すると単位ファインダ
を用いて実測結果を評価し、相対湿度 80%以上で Inter-
スト量当りのダニアレルゲン量は増加したことから、単位面積当
mediate 以上となることを示し、屋外濃度の影響を確認し
りのダニアレルゲン量についても調べた(図 10)。その結果ダ
た。⑦さらに多くのデータを蓄積するためのパッシブサンプラー
ニアレルゲン量の増加傾向は著しかった。
を考案した。⑧パッシブサンプラーの材の適性、採取者の個人
7. ダニ実測調査
間差、個人内差を検討し、捕集誤差の少ない PET を捕集材
7-1 方法 ダニの個体数は 2000 年に戸建住宅 10 軒で、ダ
とした。⑨気流利用型、空気溜り利用型のパッシブサンプラー
ニアレルゲンは 2002 年に戸建住宅 3 軒で実測を行った。尚、ダ
の捕集性能を比較検討し、空気溜り利用型の方が優れてい
ニの個体数については吸込み仕事率 550W の電気掃除機を用
ることを示した。⑩相当サンプリング係数を算出し、ガイドライ
いて採取した。ダニアレルゲンの測定は 6 章と同様とした。
ン値との比較を可能にした。⑪ダニアレルゲンの評価単位の妥
7-2 結果 以下に結果を示す。
当性について実験を行い、単位ファインダスト量当りのダニアレル
a)ハウスダスト量とダニの個体数の関係 床材がカーペットの結果
ゲン量は捕集ファインダスト量の影響を受けることから、捕集ファ
についてハ ウ ス タ ゙ ス ト 量とタ ゙ ニ の個体数の関係を調べた(図
インダスト量を明記する必要があることを示した。⑫ダニアレル
11)。その結果ダニアレルゲン量同様、ハウスダスト量が増加すると
ゲン、ダニの個体数について実測を行い、ファインダスト量が概ね
ダニ の個体数も増加し、両者の間に正の相関がみられた。
100mg/m 2 以上でダニアレルゲン量が喘息発作誘発値の 10µg/g
b)ファインダスト量とダニアレルゲン量の関係 実験結果同様各住宅
を超えることを示した。⑬タ ゙ ニ の個体数への換算を行い、
で増加傾向は異なるもののファインダスト量が増加すると単位
ファインダスト量当りのダニアレルゲン量も増加した。またファインダス
ト量が概ね 100mg/m 2 以上になるとダニアレルゲン量が喘息発作
誘発値である 10µg/g 14) を超えることが確認された。
c)ダニアレルゲン量とダニの個体数の関係 ファインダスト量が概ね
100mg/m 2 で喘息発作誘発値を超えたことから、これをハウス
タ ゙ ス ト 量とフ ァ イ ン タ ゙ ス ト 量の関係で得られた直線回帰式
(y=0.40x、x:ハウスダスト量、y:ファインダスト量)に当てはめた
ところ、ハウスダスト量は概ね 250mg/m 2 となり、これをさらに
図 11 の直線回帰式に当てはめたところ、ダニの個体数は概
ね 250 匹 /m 2 となったことから、これを超えると喘息発作
誘発の危険があるといえる。
喘息発作誘発値(概ね 250 匹 /m 2 )を示した。
【謝辞】
本研究は学部等研究教育補助金及び平成14年度文部省科学研究費
(特別研
究促進費)
による。
また本研究を進めるにあたり佐野千絵先生
(東京文化財研究所)
と宮沢博先生(杏林大学)に御指導頂いた。記して感謝の意を表す。
【参考文献】
1) 例えば、菅原文子「床塵埃中のカビとダニアレルゲン量 第 1 報 集合住
宅の場合」日本建築学会計画系論文報告集、第 448 号、1993 年 6 月、pp.9-14 2)
池田耕一「室内空気汚染のメカニズム」鹿島出版会、1992 年、pp.84-101 3) 山崎省二
「環境の微生物の測定と評価」空気清浄、2002年第 40 巻第 1号、pp.52-56 4) 小鷲
悠「空中浮遊真菌サンプラーの性能比較に関する研究」東海大学 2002 年度卒業論文 5)KS Lee, et al. A FIELD COMPARISON OF METHODS FOR ENUMERATING
AIRBORNE FUNGAL BIOAEROSOLS, Indoor Air 2002, pp.455-460 6)B Fluckiger,
et al. MEASURWMENTS OF VIABLE SPORES AND FUNGAL ALLERGEN CONCENTRATIONS IN THE HOMES OF ALLERGIC PATIENTS Indoor Air 1999, pp.914-919 7)M.Maroni, et al. Indoor Air Quality, Elsevier Science, 1995, pp.811821 8) 田中俊六ら「最新 建築環境工学[改訂版]」井上書院、1998 年、p.39 9)
篠原史彦
「住宅内のカビ・ダニに関する調査研究」
東海大学2000年度卒業論文 10)森
田雄亮
「住宅内における真菌の動態に関する研究」東海大学2001年度卒業論文 11)
小峯裕巳ら
「住宅室内のカビ汚染と防止に関する研究
(その1)
」
日本建築学会計画系
論文集、第 484 号、1996 年 6 月、pp.33-41 12) 長瀬由徳「住宅内ダニアレルゲン指標
値と影響要因に関する研究」東海大学2002年度卒業論文 13)入江建久ら「住居に
おけるダニアレルゲンの挙動に関する研究」公衆衛生学会誌、1991年、pp.318-326 14)
安枝浩「ダニアレルゲンの定量法について」
アレルギーの臨床 7、1993 年、pp.464-467
2002 年度修士論文梗概集 東海大学工学研究科建築学専攻