特技適性の日本語授業における日韓交流の可能性

1.はじめに
特技適性・・・放課後の学習の時間
生徒個人の特技・能力を伸ばすことが
目的。
授業内容は教師の裁量で決定。
<本稿の目的>
特技適性の時間に行った日韓交流を柱とする
授業実践を紹介し、その成果について報告すること
2.日韓交流授業に関する先行研究
●谷川(2005)・・・社会科教育の観点から
社会科教師を目指す日本の大学院生と韓国の
高校生との間で行われた研究授業の事例の紹介
●曺圭福 (2005) ・・・異文化間教育の観点から
日韓の小学生を対象とした外国人に対する偏見の
変容についての実証的研究
3.特技適性の授業における
日韓交流の方法
日韓交流の目的⇒「相互理解」
●交流の相手:日本で韓国語を学ぶ高校生
●教師:日本語母語話者教師。
●教師の役割:単に日本語の知識を与えることで
はなく、日韓の高校生を結ぶ橋渡しに
なる
●交流校:日本にある高校の韓国語教師ネット
ワークのメーリングリストを活用して募集
学習言語と母語併記の手紙交換
<理由>
・学習言語レベルが同じ。
・クラスの人数が同じ。
・手書きの文字に触れることができる。
・費用や時間の面でも大きな負担がない。
<期待される効果>
・未熟な言語を使用しながらも、伝えたいことを
伝えようとする態度を育てられる。
・自分の言語を学習している高校生に対する
理解を深めることができる。
4.結果
4.1 生徒の感想文
学習言語で書かれた手紙を受け取った感想
韓国の高校生にとっては日本語
日本の高校生にとっては韓国語
母語で書かれた手紙を受け取った感想
韓国の高校生にとっては韓国語
日本の高校生にとっては日本語
生徒の感想文の記述分類一覧
項目
下位項目
a.文通相手の 1.未熟さ
学習言語能力
2.敬意
3.共感
b.自分の学習 1.理解度の
言語能力
確認
2.振り返り
項目
下位項目
c.学習言語
1.特徴への
気づき
2.難易度
d.文通相手と
の交流
1.相手への
好感
2.手紙の内
容
3.活動への
意欲
4.2 感想文の記述内容
4.2.1 学習言語で書かれた手紙を受け取った感想
<日本の高校生の感想例>
(例1)しっかりとした意味はわからなかったけど、今まで習ったことやドラマ
などで聞いたことがある言葉があったので、なんとなく内容がわかって
嬉しかった。(b-1)
(例2)韓国の人が書いたハングルは英語の筆記体みたいな感じで
読むのが難しかった。(c-2)
(例3)私の相手は、私より1つ年下なだけなのに、私のことを「お姉さん」と
呼んでくれて驚いた。礼儀正しいなと思った。(d-1)
(例4)手紙の内容は日本の学生と変わらないのでホッとしました。(d-2)
(例5)手紙をもらって嬉しかった。こうやって日韓交流ができてうれしい。
遠い存在に思っていた韓国が身近に感じる。もっと韓国のことを
知って交流したい。(d-3)
4.2 感想文の記述内容
4.2.1 学習言語で書かれた手紙を受け取った感想
<韓国の高校生の感想例>
(例6)한자를 많이 쓰는 것 같아서 약간 놀랬다. 되
게 멋있게 쓴다. 우리가 쓴 것보다 글씨체도
멋있고 이쁘다. (c-1)
(例7)한문을 쓰면 잘 이해하지 못하는 저를 위해 모
두 히라가나로 써 주신것이 고마웠어요.(d-1)
(例8)책에서만 나오는 딱딱한 말들 말고도 직접 편
지를 주고 받으면서 더 쉽게 알 수 있게 된 것 같
다. 편지를 쓰고 받으면서 그냥 배우는 것보다 더
재미있게 느껴졌다.(c-3)
4.2 感想文の記述内容
4.2.1 学習言語で書かれた手紙を受け取った感想
「b.自分の学習言語能力」「c.学習言語」「d.文通相手
との交流」に関する記述が見られた。
学習言語で書かれた手紙を読み取ることは、
両国の高校生にとって学習言語や言語文化への理解を促し、
自らの学習言語能力をチェックする機会になっていること、
さらに文通を通した日韓交流が学習活動にいい影響を与え、
学習の動機付けにもつながっている様子が窺えた。
4.2 感想文の記述内容
4.2.2 母語で書かれた手紙を受け取った感想
<日本の高校生の感想例>
(例9)ちょっと「・・ん?」と思うところもあったけど、こんな短時間で
一番難しいと言われる日本語をマスターしているから、「すご
いなぁ」と思った。(a-2)
(例10)点をつけなくてもいいところにつけていたり、つけないとい
けないところになかったりして、わかりにくいんだなぁと思った。
ちょっと面白かった。(a-1,a-3)
(例11)ひらがなだけで書かれているのを見て、私もひらがなしか
書けないときがあったなぁと懐かしく思った。(a-1,b-2)
(例12)きちんと書いてくれているのでとても嬉しいです。同い年
が多いので、もう少しくずしてしゃべりたいのも本音です。一
緒に頑張りましょうねという気持ちがどんどん大きくなってい
ます。(d-3)
4.2 感想文の記述内容
4.2.2 母語で書かれた手紙を受け取った感想
<韓国の高校生の感想例>
(例13)초등학생이 쓴 것 처럼 느껴졌다.(특히 남자) 하지만 정
성이 느껴졌다. 귀여웠다. 맞춤법이 틀린 것도 있었지만 배
우는 단계니까.(a-1,a-3,d-1)
(例14)우리가 초등학생이었을 때 꾹꾹 눌러썼던 그런 글씨체
로 써진 편지를 받으니까 느낌이 새로웠고, 우리가 보낸 편
지도 그 쪽에서는 어떻게 웃겼을까, 하는 생각이 들었다. 그
래도 비슷한 나이의 학생이 우리나라에 대한 관심을 가지고
우리나라말을 배운다는 것이 신기했다. 틀린 부분도 고쳐줬
는데, 내가 썼던 일본어도 이렇게 틀렸었을까 싶어서 웃기기
도 했다.(a-1,b-2)
(例15)한국어를 열심히 배워서 편지를 써 주는게 기뻤다.
(d-1)
4.2 感想文の記述内容
4.2.2 母語で書かれた手紙を受け取った感想
「a.文通相手の学習言語能力」「b.自分の学習言語能
力」「d.文通相手との交流」に関する記述が見られた。
間違っている部分や違和感のある部分があっても、
それをおかしいと述べるだけではなく、
学習者としての自分と照らし合わせ、相手の立場を考えて
理解しようとする態度が窺えた。
5.おわりに
学習言語と母語を使用して手紙を交換した交流
授業から見えたこと
生徒は意思疎通のために学習言語をさらに
一生懸命学ぼうとしたり、文章や文字から人
柄や相手の態度を感じ取り、相手のことを
尊敬したり、共感したりしている。
お互いの言語を学び合う仲間として、相手を
認め、理解し、励ましあう態度が育成される。
特技適性の授業で行う意味
韓国の中等教育においては、クラスの定員や、
授業内容の自由度から、特技適性の授業だから
こそ効果的に実践できるのでは。
今後の課題
縦断研究、文通以外の交流の実践とその効果の
分析、教師の協働のあり方についての研究
引用文献
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国際交流基金『2003年海外日本語教育機関調査』
澤邉裕子・金姫謙(2005)「韓国の中等教育段階に
おける日本語母語話者参加の実際とその意義」
『国際交流基金 日本語教育紀要』第1号、p.115129、国際交流基金
谷川彰英編著(2005)『日韓交流授業と社会科教
育』明石書店
曺圭福(2005)『日韓小学生間のチャット交流授業
-外国人に対する偏見の変容-』『異文化間教
育』22号、p.95-109、異文化間教育学会