ハイスループット ミトコンドリアDNAシーケンシングの役割 - テカンジャパン

12
APPLICATION BIOPHARMA
Naming the dead
死亡者の身元確認
ハイスループット ミトコンドリアDNAシーケンシングの役割
Timothy McMahon PhD, Head of Validation Services, Armed Forces DNA Identification Laboratory (米軍DNA鑑定研究室)米国、メリーランド州
イラク戦争などの最近の紛争から、朝鮮戦
る無傷のミトコンドリアDNA(mtDNA)の短い
争、ベトナム戦争、第二次世界大戦といった
配列を抽出し、遺体の変性の程度に応じて
過去の軍事行動を含め、戦闘中に死亡した
プライマーセットまたはミニプライマーセット
アメリカ兵の遺体の身元を確認するという慎
を 用 い て増 幅 した 超可 変 領 域1お よび 2
重な扱いを要する行為は、メリーランド州に
(HV1およびHV2)を使用する。これらの増幅
ある米軍DNA鑑定研究室(AFDIL)に委ねら
の結果を行方不明兵士の母方親族から採
れている。近年の紛争で亡くなった犠牲者
取した参考検体と比較し、部隊歴、人類学
の場合、新鮮な骨や組織検体から身元確
的調査および交戦後の戦闘報告書と併せ
認が可能であるが、時間が経ち白骨化した
て正式な身元確認に用いる。
遺体の場合、核ゲノムの変性が激しいため、
米軍DNA鑑定研究室では、Tecan Genesis 200ワークステーションを用いて、毎年、数千検体の処理が
行われている。
標準的な核DNA(nucDNA)鑑 定法では識
別できないことが多く、問題が多々生じてい
る。そこで、この鑑定法に代わり、損傷した遺
体においてゲノムDNAより高濃度で含まれ
Tecan Journal 1/2006
AFDILには、年間、身元不明の遺体から800
を超える骨検体ならびに家族から採取され
た1,500∼2,000の参考検 体が届けられ
る。骨検体は、全体的な状態から、マニュア
ルでのDNA抽出およびシーケンシングが必
要だが、参考検体は処理が行いやすく、HV1
およびHV2 を含むmtDNA制御領域ならびに
小型可変領域1および2の1,122を超える
塩基をカバーする7つのプライマーを使用し
たシーケンシングが行われる。93検体、2つ
のネガティブコントロール、およびPCRのポジ
ティブコントロールから成るグループにおい
て処理される。各プライマー用のシーケンシ
ング反応プレートを用意し、それらそれぞれ
をサーマルサイクラーに入れ、シーケンシン
グ後に検体を精製するという作業は、大変
な手間がかかり、それは12人時に相当す
る。シーケンシング反応をより迅速に行うた
めに自動化された方法が必要なことは明ら
かで、この作業用にTecan Genesis・RWS
200ワークステーションが選ばれた。Genesis
200ワークステーションの柔軟なプログラミ
ング機能、また、チップの代わりにプローブ検
出システムが使用できることは、AFDILが求
める完全な自動化と多機能性の他、装置の
選択において同じく重視された高感度とコン
タミネーションレベルの低さという条件も満
たしている。ただし、プログラミングの柔軟性
およびワークステーションのプラットフォーム
にサーマルサイクラーとヒートシーラーを搭載
できることがGenesis 200をこの作業に最適
な装置として選択した最大の理由であった。
このシステムは、完全な自動化により、装置
作動後はユーザーの介入を一切必要とせ
ず、翌朝にはシーケンシングが完了する、と
いう設計になっている。Teflon®コートした8
つの固定チップを備えた分注(LiHa)アーム
およびロボット(RoMa)アームが装備され、プ
ラットフォームには、シーケンシング反応を
行う4つのサーマルサイクラーを同時に格
納できる。
APPLICATION PIOPHARMA
精製されたmtDNAは、LiHaアームによって7
参考検体のシーケンシング処理を自動化
枚の96穴プレートに分配され、個別のプライ
することが、身元確認に伴う長年の問題解
マーシーケンシングマスターミックス(プライ
決を促し、戦争で亡くなった兵士の家族に
マー、希釈バッファー、半反応分のBigDye
安息をもたらす上で一役買っていることに
v1.1)と混ぜ合わされる。RoMaアームが各
間違いはない。
■この記事は2006年1月発行 Tecan Journal
1/2006に掲載されているユーザーストーリーを
抜粋、翻訳したものです。
ご質問、ご要望は下記までお願いします。
プレートをシーリングユニットに移動させ、最
初の4枚のプレートをサーマルサイクラーに
入れる。シーケンシング反応が完了すると、
テカンジャパン株式会社
Teflon®は、E.I. Dupont de Nemours, Wilmington
DE, USAの登録商標である。
TEL. 044-556-7311/FAX.044-556-7312
E-mail: [email protected]
RoMaアームが冷却デッキにプレートを移動
させ、残りのプレートのシーケンシング反応を
開始する。LiHaアームの固定チップを定期
的に漂白洗浄することで、検体のクロスコン
タミネーションは最小限に抑えられる。
このハンズフリープロセスにより、シーケンシ
ングが再度必要となる検体の数が著しく減
少した。以前は、検体の平均4.9%について
シーケンシングを再度行う必要があったが、
このワークステーションを使用することで、失
敗率は10分の1に低下し、時間、費用およ
び試薬も削減できる。同様に、検体の処理
に必要な時間の約3分の2が削減され、技
術者は骨検体のシーケンシングとデータ分
析により多くの時間を費やせるようになっ
た。参考検体から得た塩基配列情報は、比
較調査用に施設内データベースに保管さ
れるが、骨検体から得た塩基配列情報は、
施 設 内 で 厳 密 な 検 討 を 行 っ た 後、Joint
Pacific
Accounting
Command
AFDILに設置されたTecan Genesis 200ワークステーション
Central
Identification Laboratory (JPAC-CIL)に報
告される。次に、JPAC-CILから、AFDILに対
して検体の比較要請が提出され、我々は、
施設内データベースに保管してある家族の
参考検体とそれを比較し、mtDNAにより身
元の確認を試みる。状態の良い検体では、
2ヶ月以内で確認が可能だが、DNAの変性
が激しい場合、さらに時間がかかる。多くの
場合、遺体の身元は、JPAC-CILが集めたそ
の他の情報によりある程度推測されている
ため、検体はその参考検体の標的セットに
13
Timothy McMahon氏
Head of Validation Services, AFDIL
研究室でのTimothy McMahon氏
対してスクリーニングされる。一部の遺体に
ついては、最終的な鑑定を行うために母方
の親戚を見つけなければならない場合があ
る。い ず れ の 場 合 に お い て も、Tecan
Genesis 200ワークステーションを使用して
Tecan Journal 1/2006