愛知工業大学研究報告 4 号 B 平成 1 1年 第3 9 9 1995年メキシコ・コリマ地震の震度・被害調査 S e i s m i cI n t e n s i t ya n dD a m a g e so ft h e1 9 9 5C o l i m aE a r t h q u a k e 正木和明 K a z u a k iM A S A K I O nO c t o b e r9o f1 9 9 5,t h ed e s t r u c t i v ee a r t h q i a k eo fm a g n i t u d eM w7 . 9o c c u r r e do f fs h o r eo ft h e M a n z a n i l l o,C o l i m as t a t e,M e x i c o . D u et ot h i se a r t h q u a k e,R Cs t r u c t u r e sH o t e li nM a n z a n i l l oc o l l a p s e da n d4 0p e r s o n sw e r eb u r i e d .T h eP o l i c eo f f i c ei nS a n c h i a g oa l s of e l ld o w na n d8p e r s o n sd i e d b yt h i sd i s a s t e. rI n1 9 9 6a n d1 9 9 7, t h eq u e s t i o 皿a i r es u r v e yw a sp e r f o r m e df o re s t i m a t i n gs e i s m i c i n t e n s i t i e si nC o 1 i m aa n dJ a l i s c os t a t e s .I n t e n s i t yi nM a n z a n i l l o,e p i c e n t r a la r e a ,w a se s t i m a t e t ob e9i n刷 s c a l e,a n di nn o r t h w e s t e r na r e aa n ds o u t h e a s t e r na r e aw e r e8a n d7r e s p e c t i v e l y . 2 . コリマ州における地震活動 l まえがき 図 1にコリマ付近のテクトニクスを示す。カリフォ 9 8 5年メキシコ地震(ミチヨア 死者 2万人を出した 1 ルニア湾内から続く破砕帯が枝分かれして、一方は 0年が経過した 1 9 9 5年 1 0月 9日コリ カン地震)から 1 太平洋へと延びてリベラ同プレートを形成し、他の 7 . 9の地震が発生した。被害は太平洋 マにおいて蜘= 一方はそのまま東南方向に続延しタマヨ破砕帯を経 沿岸のマンサニージョ、マラケを中心にコリマ州全 てメキシコ大陸内部に入りサコアルコ破砕帯を形成 9 8 5年ミチヨ 域およびハリスコ州南部に発生した。 1 する。サコアルコ破砕帯はグアダラハラ付近で、東 アカン地震ではメキシコ市で甚大な被害が発生した に続くチャパラ破砕帯と南に続くコリマ破砕帯へと が、今回の地震の Mはほぼ同じであったにもかかわ 枝分かれする。コリマ破砕帯中央にコリマ火山が形 0 0 回と前回 らず被害は皆無であった。震央距離が6 成され、さらに太平洋へと続く。この破砕帯はリベ の地震 ( 4 0 0 k m)より遠かったこともあるがその原因 ラ・プレートとココス・プレートを 2分している。 究明が課題である。 今回地震が発生した地域は過去繰り返し巨大地震 M ・ に襲われた地域である。特に 1932年ハリスコ地 震以来地震の発生がなく、近い将来被害地震が発生 9 9 3年 する確率が高いと予測されていた。筆者は、 1 から 1 9 9 4 年にわたりメキシコ国立防災センターが企 画したコリマ地震防災プロジェクトに参画した。そ の直後の地震発生であった。 この地震における震度分布については強震記録が ・ 1 9 少ないこともありよくわかっていない。本研究は、 コリマ地震による被害調査、およびアンケートによ ・ 1 8 って震度分布を調査するものである。 図 1 コリマ、ハリスコ州沖のテクトニクス υ 愛知工業大学土木工学科 (豊田市) 愛知工業大学研究報告,第 34号 1 0 0 B,平成 1 1年 , V o l . 3 4 B,M a r .1 9 9 9 1 9 3 2年 6月 3日ハリスコ州太平洋サブダクション s = 8 . 2の地震が発生、 1 9 3 2年 6月1 8日には ゾーンでM s = 7 . 8の地震が発生した。この さらにその南地域でM ふたつの地震によってリベラ・プレート・サプダク ションゾーンは完全に破壊された。 今回のコリマ地震は 1 9 3 2年の地震による破壊ゾー ンの南半分をカバーする領域で発生した。表 1に地 震の諸元を示す。 余震観測j から求めた余震域は最大で 1 7 0 回X 70 園 、 0 回である。本震は余震域の南東部 深さの下限は約 3 にあり、深さは 1 花 Eである。 この地震により高さ約 5m (最大 1 0 .9m)の津波 写真 1 ホテル・カサグランデの被害 が発生した。 2 0 0 1 8 0 写真 2 玄関棟崖根の崩落 1 0 40 図2 1 9 3 2年ハリスコ地震および 1 9 9 5年コリマ 地震の破壊域 1) 表 1 コリマ地震諸元 1) 発生年月日 発震時刻 北緯 西経深さ M w 1 9 9 5,1 0,0 9 1 5 : 3 5 : 5 1 . 41 8 . 7 91 0 4 . 4 71 7 回 8 . 0 3 . 被害調査 3 ・1 メラケ 多くの民家が被害を受けた。ホテル・カサグランデ 0 mにあるが(写真1)、大きな は海岸の砂浜から 1 )、R 被害を受けた。玄関棟の屋根が崩落(写真 2 Cラーメン枠組組積i 告4階の客室棟同志が衝突し被 写真 3 客室同志の衝突による被害 1995年メキシコ・コリマ地震の震度・被害調査 1 0 1 )。客室内は構造的被害はない 害を受けた(写真 3 が損傷が激しく、 1年後も再開の目処は立っていな かった。同ホテルに隣接する 4階RC造のコンドミ ニアムは無被害であった。 3・2 バラ・デ・ナピダード 道路に亀裂が見られた@枠組組積造の民家も多くが 倒壊した。ホテル・トロピカル新館は RCラーメン 枠組組積造 4階建てであるが、構造的破壊はなく、 仕上げ柱の一部が崩落した程度であった。別館 3階 建ての屋上に備え付けられていた給水タンクが落下 し 1階建て構造物を崩壊させた。 写真 5 シアウルトラン教会ドームの亀裂 3・3 シウアルトラン 多くの住宅が倒壊・大破した。被害のもっとも甚大 0 0年ご な地域である。特に村役場前の古い民家(19 ろに建築)は非枠自由且積造であるため大きな被害を 受けた(写真 4) 0 RCラーメン枠組組積造 2階建 ての村役場は構造的被害は受けていないが壁が剥落 した程度であった。隣接する教会は非枠組レンガ壁 構造であるがドームとタワーに亀裂が入ったが倒壊 は免れた(写真 5 )。 3 ・4 サンチャゴ 民家の被害はそれほど、見られない。プラサ・サンチ ャゴには 6棟の建物群がある。唯一 2階建てのコリ 写真 6 メキシコ銀行の被害 マ州警察の建物の屋根が落下し死者 8名を出した。 この建物は主体構造が S造であるが、外周のみ RC 階建ては外壁の崩落が激しくとり壊された(写真 6 造であり、これが被害を受けて 2階部分落下につな がったと推察される。隣接するメキシコ銀行建物 l 3・5 マンサニージョ・西部 マンサニージョ湾に延びだした砂州にホテル地域が ある。 ホテル・コスタレアルが崩壊し死者 40名の被害 が出た。このホテルは RCラーメン造 9階建てであ り海岸から 1 0 mに建っている。 1985年地震で仕 切り壁に被害を受けた。また 2階梁が 2階以上の荷 重を支え切れず勇断ひび割れを生じ、現断補強が行 なわれていたらしい。強度に問題のあった建物であ った。地震後撤去された(写真 7 )。 ラスアダス・ホテルの給水塔に亀裂入った。また 付近のホテル・ラスプラサスグロリアスの瓦屋根も 落下した。 写真 4 非枠組組積造民家の被害 社会保障庁病院 ( I M S S )はRC枠組組積造である 愛知工業大学研究報告,第 34号 B,平成 1 1年 , V ol .3 4 B,M ar .1 9 9 9 1 0 2 表 2 1995年コリマ地震最大加速度(買)~)一覧 観測地点 方 向 不 明 E W N S U D ヨ 孟主Z M a n z a n i l l o P u e r t oV a l l a l t a G u a d a r a i a r a 1 3 3 Z 4 M e x i c oc i t y Z .Z G u z m 組 5 0 aaτFHυEua生 quFhυρo (左岸) odAaFDFDFU4a且 U (左岸) I n f e r n i l l o (右岸) Fhυa474Rυqdaaτn 日 E lc a r a c o l 創J a M i l p a A S a n t aR o s a L aV i l li t a(右岸) 写真 7 マンサニージョのホテル・コスタの倒壊に より多くの死者が出た。撤去後(1年後) の現場風景。 3 8 73 8 83 0 3 が柱を中心に構造的被害を受けた。また近くの家族 O O Z ) でも建物や基礎部分に被害が見 医療団地 ( 分布に不明な点が多い。 られた。 4・2 被害からの推察 3・6 マンサニージョ市街地 被害はマンサニージョからメラケの海岸沿いに集中 パスターミナル駐車場部分の折板屋根が落下した。 している。特に、マンサニージョでは、ホテル・コ RCラーメン 3階建ての電話局の外壁のモルタルが スタレアル、 I M S S病院など RC構造物に多くの構造 剥離し落下し、入り口部分に破壊が見られた。 RC 的被害が見られ、また液状化現象も見られことから 枠組組積造 2階建ての映画館の外壁が落下した。内 、大きな震度であったことは間違いない。火力発電 部の被害も大きい様である。リベルタード地区では 0 0ガル近くあった事はその事を 所の最大加速度が4 液状化が見られ民家の多くに被害が見られた。港湾 裏付けている。サンチアゴにおけるコリマ警察署の の防波堤付近でも液状化が見られ、岸壁が数m迫り 崩壊は構造物のは構造自体に問題があったと考えら 出した。 れるが、メキシコ銀行の建物も被害があり、これら 火力発電所の配電施設に落下が見られた。また液 状化による岸壁の亀裂、はみ出しが見られた。 震度) 9であ を総合すると改正メルカリ震度 (MM ったと推察される。 シウアトランは民家の多くが被害を受け、教会や 3・7 7JItメリア RCラーメン構造の新しい教会の 2次壁に亀裂、落 下が見られた。その他の被害は見られない。 村役場にも被害が出るなどあたりの地域に比べ被害 震度は 8程度と推察される。 が大きく M M メラケおよびバラデナピダードでは R C造のホテ ルに被害が出た。また、民家の被害も多く、シウア 3・8 コリマ 郊外のピジャデアルパレスにある教会の塔の一部が 落下した程度である。 トランほどではないが、これに近い震度であったと 震度 8程度であろう。 考えられる。 M M 1 0 回のプエルトバジヤルタ これらの地域の北Z の強震計が 1 3 3ガルを記録しているところから、海 4. 震度分布 震度 8の地域が分布していたと考えら 岸沿いに M M 4 ・1 強震記録 れる。 一方、マンサニージョの南東側では被害が少なく 震源に最も近いマンサニージョ火力発電所の強震計 北西側に比べて震度は小さく、教会に被害があった 0 3ガル,南北3 8 8 ガル,東西3 8 7ガルを記録 は上下3 アルメリアで醐震度 7程度であったと思われる。 した。その他の地点における最大加速度を表 2に示 す。強震記録の数が少なく、震源近傍における震度 4 ・3 アンケートによる震度寵査 1995年メキシコ・コリマ地震の震度 被害調査 1 0 3 a G u a d a r a ja r a6 .4 @ 加 田i n691 V o l c a nd eC o li !ll a~"" ,/ 1 ハリスコ州 r ー 一一戸--- / ,""( / ( " C o m a l a6 . 4" . _ ~可 M e l a Q u e . . V i l l ad eA l v a r e z6 . 9ケ C u油u t叩o c7 .1 吹 / " V " "_ / Lod eV a l 1e7 . 8 a ¥C i h u a t 一 君 主: > ! _ . f I S a n t i a g o7 . 1 さ し ( C o q E i皿a t l a n6 . 2 /'----'ー~ 1/Hotela r e a _ . ._ ' " ,B a 比ad eN a v i d a d、 ィ 私4 、 も吋 M a n z a n il l o コリマ州 i A r r n e r i a7 目 。 / ¥ 〆T e c o 皿a n7 .1 / ー ア @ 、 山 い u U ゐ - . ー す @ ( V 5/ ノ / ノ 図 3 アンケートから求めた MM 震度 1 9 9 7年 1月および 1 9 9 8年 1月に震度に関するアンケ ート調査を行なった D アンケート用紙は北大による 1 9 7 2 )を基に、メキシコ用に改 9 9 0 ) を用いた。回 変・翻訳した調査用紙(正木, 1 収枚数は 1 5 2枚、内有効回答は 1 0 5枚であった。 調査用紙(太田他、 表 3に地域別解答数および震度を示す。旧気象庁 震度から改正メルカリ震度への変換は以下の式を用 いた。 1MM=O.5+1 .5 1JMA ( 1 ) 0 震源地に近いテコマンでMM 震度 7 .1 、アルメリ . 0、やや離れたコリマで震度69、グス ア で 震 度7 園 . 9、遠く離れたグアダラハラで震度6 . 4と マンで6 なった。強震計による最大加速度はグスマンで 5 0ガ ル (MM震度 7弱)、グアダラハラで 2 0ガル(震度 5強)であった。 表 3 アンケート回答数 .MM 震度 地名有効回答数無効回答数改正メルカリ震度 6 5 C o li 盟a 1 3 A l v呂r e z L od eV a l l e C u a h u t e m o c 4 C o 田a l a G u z m a n C o q u i皿a t l a n 2 7 T e c o m a n A r m e r i a S a n c h i a g o G u a d a r a j a r a 2 2 9 2 2 2 。 3 。 。 6 . 8 6 .9 7 . 8 7 .1 6 . 4 6 . 9 6 . 2 7 .1 7 . 0 7 .1 6 . 4 被害からは震度 9と推定されたサンチャゴは震度 7 .1 と求まったが、回答数が 1つしかないので何と 震度は68 7であった。 .4 、 6 . も言えない。コマラ、コキマトランの震度は 6 2と小さいが山にある村なので、地盤がよく震度が小 度調査から地域的特徴が見られることを期待したが さくなったと考えられる。ロデパジェは解答数が 1 そのような特徴は見られなかった。 つしかないが、震度 7 . 7と大きかった。 固 市内全域に配布回収したアンケート調査による震 コリマ市は、コリマ火山から流出した厚さ 600~7 0 0 阻程度と見積もられる砂磯層の上に発展した町で 4"4 コリマ市内の震度分布 コリマ市(郊外のビジャデアルパレス市を含む)で ある。粘土質の柔らかい地盤は存在しない。地盤の 構造はよくわかっていないが、どの地域もおおよそ 3枚の有効回答を得た。図 4に得られたMM 震 合計8 同じ構造をもっていると考えられている。市内 2箇 .0 から 9 .0 に分布している。平均 度の分布を示す。 5 5固 ま 所で宴摘された PS検層結果によれば、深さ 1 1 0 4 愛知工業大学研究報告,第 34号 B . 平成 1 1年. V ol .3 4 B,M ar .1 9 9 9 定される。マンサニージョから北西の海岸地域の震 度は 8、マンサニージョ南東地域は震度 7程度と推 定された。 アンケートによって震度を求めた。コリマ市では 9 8 5年 震度 7、周辺山地では震度 6と推定された。 1 の地震で被害があったグ、スマン市では震央距離が大 きい割に震度はコリマ市と同じ 7となった。 コリマ市街地についてアンケート震度分布図を作 成した。特に特徴的なパターンは見られなかったが これはコリマ市の地盤がコリマ火山からの流出物で できており特徴をもたないためと考えられる。 謝辞 コリマ大学地質研究所のガ 1 )ンド教授にはアンケー 図 4 コリマ市街地おけるアンケート震度分布 (太田他による方法から求められた気象庁 1 )により改正メルカリ震度に 震度を式( 換算した) トの配布ー回収にあたり多大なるご援助をいただい た。またメキシコ国立防災センターのカルロス・グ テレス室長にはアンケートの実施方法についていつ も討論していただいた。ここに甚大なる感謝の意を 表します。 で S波速度 2 5 0m/s の層があるが、その下部には 5 0 0 m l sの層が厚く堆積しているようである。 唯一教会の塔の一部落下の被害が見られた地点の 本研究は文部省科学研究費補助金(国際学術研究 )N o0 9 0 41 1 Z7(代表者:望月利男東京都立大学教 園 授)による援助をいただいた。 震度は、すぐ近くに居た人(ただ一人ではあるが) . 4であり、特に大き へのアンケートによると震度 5 な震度であった可能性は薄い。 5 . まとめ 1 9 9 5年 1 0月 9日に発生したコリマ地震の被害調査を 参考文献 I ) J a i m eD o m i n g u e zR i v a se ta l : S e i s 皿o l o g y , E lM a c r O S 1 S 田od eM a n z a n i l l od e l 9d eo c t u b r ed e 1 9 9 5,S o c i e d a dM e x i c a n ad eI n g e n i e r i aS i s m i c, A .C .,1 9 9 7 いて RC構造 9階建てのホテルの倒壊が見られた他 2 )太 田 裕 、 他 :M ai 1S u r v e yによる S e i s m i cm i c r o z o n i n gm a pの作成、災害科学総合シンポジウム論 文集、 9 、 2 4 1 2 4 6、1 9 7 2 R C構造を含む多くの構造物に被害が見られた。ま 9 8 5年 9月1 9日メキシコ地震に関する 3 )正木和明:1 た液状化も見られた。サンチアゴでは州警察の建物 研究( 2 ) 、アンケート方式による震度・人間行動の 行なった。被害は震央近くのマンサニージョ市にお が崩落した。シウアルトランでは多くの民家が被害 o2 5,1 2 9 1 3 7,1 9 調査、愛知工業大学研究報告、 N を受けた。メラケでは RC4階建てのホテルが大き 9 0 な被害を受けた。マンサニージョにおける最大加速 度は 3 8 8ガルが記録されている。これらの被害およ び加速度からマンサニージョにおける震度は 9と推 園 4 )三 雲 健 :1 9 9 5年メキシコ C o p a l a 地震および C o l i m a J a l i s c o地震概況報告、地震工学振興会ニュー ス 、 N o .1 5 5,2 2 3 5 .1 9 9 7 (受理平成 1 1年 3月初日)
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