本研究の目的 清酒もろみ中に含まれるジアセチル前 駆体の酵素学的直接定量法の開発 微生物、植物に存在し、分岐鎖アミノ酸生合成経路の中間体としてのアセ ト乳酸を基質とする酵素「ケトール酸レダクトイソメラーゼ (EC 1. 1. 1. 86)」 に着目した。 千葉県産業支援技術研究所 ○大垣佳寛、前田浩* 三宅幸一、星野徹也、 樋爪紀子**、藤枝正之***、井上喬**** *東北大学 ** 酒類やその他の発酵飲食品の製品開発などの際に、ジアセチル臭といわれ る異常臭味の発生が高頻度で起こることが知られている。 ジアセチルは前駆体であるアセト乳酸が自己脱炭酸して生成するので、アセ ト乳酸が簡易に定量出来れば酒類等食品の品質管理に大いに役に立つ 千葉県商工労働部 ****元麒麟麦酒株式会社 酵素を利用してアセト乳酸を直接的に定量することをめざす。 ***東葛テクノプラザ 最終目標として測定系をキット化する。 1 2 清酒の醸造について 「ジアセチル」について 基本工程 発酵飲食品の重要な香味成分 強いバター様の匂いをもつ 酒類においては「つ 酒類においては「つわり香」、「火落香」 水 玄 白 米 精白 米 蒸 米 麹 →最も忌み嫌われる異臭 蒸煮 発酵乳製品では必要な匂い(ある程度) 留添 発 上槽 火入れ 酵 (濾過) (殺菌) 貯蔵 瓶詰め 仲添 初添 酒母(酛:もと) 生 酒 粕 製品 醪(もろみ)三段仕込み 3 発酵中のもろみ 上槽(しぼり)後 4 ジアセチル臭の管理について 酵母 分岐アミノ酸 糖 ピルビン酸 アセト乳酸 酵母がいなくなると・・・ 菌体外へ アセト乳酸 ジアセチル エタノール アセトイン もろみ中にはジアセチル臭の原因となるビシナルジケ トンが存在するが、その量は微量。 その多くが、前駆体であるアセトヒドロキシ酸として存在 する。 酒類のジアセチル臭の発生は、多くの場合、酵母を除 去後、アセトヒドロキシ酸の自己脱炭酸により生じる。 アセトイン ジアセチル ブタンジオール もろみの品質管理には もろみ中のアセトヒドロキシ酸の測定の必要がある。 菌体外へ 5 6 1 アセトヒドロキシ酸について アセトヒドロキシ酸について もろみ中には、アセト乳酸の他に、アセトヒドロキシ酪酸が存在し、同様に ジアセチル臭の原因となる「2,3-ペンタンジオン」の前駆体となる。 アセトヒドロキシ酸 2-アセト乳酸 2-アセト-2-ヒドロキシ酪酸 COOH COOH CH3CCOCH3 CH3CH2CCOCH3 OH OH 酸化的脱炭酸 ビシナルジケトン ジアセチル CH3COCOCH3 生体内に存在するのは主に、アセト乳 酸・アセトヒドロキシ酪酸 酸性で不安定(これらは単離されたことはない) 熱に不安定 もろみ中には常に一定量存在する 2,3-ペンタンジオン CH3CH2COCOCH3 7 従来法とその問題点 8 今回開発した測定法の原理 一般的に、ビシナルジケトン(VDK)に変換して分析する。 直接分析する方法は(我々の知る限り)本法以外存在しない。 バリン、ロイシン、イソロイシン生合成系 2-アセト-2-ヒドロキシ酪酸 2-アセト乳酸 ・従来法(一例:ビールの公定法) NADPH NADPH 試 料 60℃, 90分加熱(VDKに変換) ケトール酸 レダクトイソメラーゼ + Mg2+ NADP 2,3-ジヒドロキシイソ吉草酸 蒸 留 NADP+ 2,3-ジヒドロキシ-3-メチル吉草酸 ガスクロマトグラフで定量分析 バリン 問題点 ・既存のVDKも定量分析される ・手間と時間 ・変換率の変動 ・蒸留によるロス 9 10 120 100 pH安定性 至適pH 80 比活性(%) 100 80 比活性 イソロイシン ロイシン Mg2+ 存在下で、補酵素 NADPH(340nmに吸収)→NADP+(340nmに吸収なし) の変換を伴う酵素反応量を吸光度の変化で定量する。 本法で用いたケトール酸レダクトイソメラーゼは、麹菌 (Aspergillus oryzae) 由来の 酵素遺伝子 (AoilvC) の麹菌を宿主とした高発現系を構築し、精製したものを用いた。 60 40 温度安定性 至適温度 60 40 20 20 0 0 4 5 6 7 8 pH 9 10 11 20 12 図 酵素活性へのpHの影響 30 40 50 60 温度(℃) 70 80 図 酵素活性への温度の影響 (温度37℃、基質量100mM、反応時間5分) (pH=9、基質量100mM、反応時間5分) 11 12 2 測定にもちいた酵素反応系 0.8 0.7 吸光度減少値 0.6 50mM Tris-塩酸緩衝液 (pH= 9.0) 10mM NADPH溶液 1.0M MgSO4 溶液 麹菌由来ケトール酸レダクトイソメラーゼ溶液 基質 (アセトヒドロキシ酸溶液) 0.5 0.4 アセト乳酸 0.3 アセトヒドロキシ酪酸 0.2 830uL 10uL 10uL 50uL 100uL ジヒドロキシイソ吉草酸 0.1 0 0 1 2 3 4 5 37℃で10分間反応後の 340nmの吸光度減少値を測定 反応時間(分) 図 吸光度減少値の経時変化 (pH=9、温度37℃、基質量100mM) 13 14 表 0.020 0.018 アセト乳酸測定に対するジアセチル、 アセトイン共存の影響 吸光度減少値 0.016 添加共存物質とその反応系中濃度 0.014 吸光度減少値 0.012 0.010 なし 0.008 アセト乳酸0.001mM アセト乳酸0.001mM 0.006 アセト乳酸0.01mM アセト乳酸0.01mM 0.004 アセト乳酸0.001mM +ジアセチル0.01mM 0.01mM+アセトイン +アセトイン0.01mM 0.01mM アセト乳酸0.001mM+ジアセチル 0.002 0.000 アセト乳酸0.001mM +ジアセチル0.1mM 0.1mM+アセトイン +アセトイン0.1mM 0.1mM アセト乳酸0.001mM+ジアセチル 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 アセト乳酸0.01mM +ジアセチル0.01mM 0.01mM+アセトイン +アセトイン0.01mM 0.01mM アセト乳酸0.01mM+ジアセチル 標準溶液中のアセト乳酸濃度(mM) アセト乳酸0.01mM +ジアセチル0.1mM 0.1mM+アセトイン +アセトイン0.1mM 0.1mM アセト乳酸0.01mM+ジアセチル 0.001 0.002 0.019 0.002 0.001 0.018 0.019 図 反応系中のアセト乳酸濃度と吸光度減少値 15 0.035 16 本法の特徴 0.030 吸光度減少値 0.025 0.020 アセトヒドロキシ酸を直接定量する 簡便な操作 清酒試料では前処理は不要 0.015 0.05mM 0.010 0.005 0.000 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 上清試料に添加したアセト乳酸濃度(mM) 図 標準添加法による清酒醪中のアセトヒドロキシ酸の分析 17 18 3 想定される用途 想定される業界 酒類(清酒・ビール等)の品質管理 発酵乳製品(バター・ヨーグルト等)の 品質管理 清酒メーカー ビールメーカー 乳製品メーカー ワインメーカー 焼酎メーカー その他、納豆、漬物等、発酵飲食品の品 質管理 19 企業への期待 実用化に向けた課題 20 清酒以外のサンプルの分析 ・前処理法の検討 検出感度の向上 ・他の反応系と組み合わせる ・サンプルの濃縮方法 ・阻害物質の除去 本法は、感度が低い等、未解決の問題も多々 あります。 ・感度を高める ・サンプルの濃縮方法 等のノウハウをもつ分析キットメーカーとの 共同研究を希望します。 21 22 お問い合わせ先 本技術に関する知的財産権 千葉県産業支援技術研究所 ・発明の名称 飲食品中のジアセチル前駆体の定量法 ・出願番号 特願2007 特願2007--088638 ・出願人 千葉県 ・発明者 井上喬、前田浩、三宅幸一、星野徹也、 プロジェクト推進部 企画調整室 研究員 花澤 明洋 TEL 043-231-4326 FAX 043-233-4861 e-mail [email protected] 大垣佳寛、樋爪紀子、藤枝正之 23 24 4
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