脳外科専門医不在の離島病院における脳外科 緊急手術の意義と問題点

平成19年11月10日
第7回奄美ブロック研修医勉強会
第1回沖縄ブロック共同開催
脳外科専門医丌在の離島病院におけ
る脳外科緊急手術の意義と問題点
徳之島徳洲会病院
佐々木良輔、桑原良奈、
狩俣宏樹、若山昌彦、
小野隆司
Tokunoshima Tokushukai Hospital
背 景
徳之島の人口は約26,000人だが、脳外科手術が年間
60件以上あり、他の離島と同様にその対応に苦慮し
ている。当院は脳外科の常勤医師が丌在であるが、一
般に緊急時の脳圧亢進に対する脳室ドレナージや慢性
硬膜下血腫の血腫除去は多くの症例で一般外科医が
行っている。週に一回程度の定期的な脳外科医の応援
指導で治療は進められ、くも膜下出血など重篤かつ緊
急手術を要する症例では、搬送での再出血の危険性
も考慮して、可能な限り専門医に来島いただき、緊急
手術を実施することでこれまで多くの症例を治療して
きた。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
当院における手術症例
H .19
10月まで
H .18
H .17
7
11
7
8
9
15
血腫除去
7
17
7
シャント
脳腫瘍摘出術
4
0
10
2
3
0
クリッピング
脳室ドレナージ
Tokunoshima Tokushukai Hospital
当院における脳外科症例
くも膜下出血
脳内出血
(血腫除去適応のみ)
脳出血脳室穿破
慢性硬膜下血腫
急性硬膜下血腫
急性硬膜外血腫
水頭症
未破裂脳動脈瘤
脳腫瘍
H19
6
7
H18
6
2
H17
9
8
4
9
0
11
7
20
2
0
7
1
0
1
1
8
0
2
3
0
4
0
0
Tokunoshima Tokushukai Hospital
徳之島の過去10年間のヘリ搬送数の推移
平成年
総数
徳洲会病院
当院以外
18
17
16
15
14
13
12
11
10
9
36
16
15
16
13
8
4
1
3
3
13
6
8
8
6
1
1
・
・
・
22
10
7
8
7
7
3
・
・
・
ヘリ搬送は最近5年間で急増!5年で96件
Tokunoshima Tokushukai Hospital
資料提供;徳之島町消防署
徳之島の平成18年の緊急島外搬送方法の内容
搬送方法
総数
徳洲会病院
当院以外
自衛隊ヘリ
36
13
22
民間機
24
6
18
民間船
5
3
2
計
65
22
42
ヘリ搬送だけでなく他の輸送機関も状況によっては利用
Tokunoshima Tokushukai Hospital
資料提供;徳之島町消防署
過去5年間のヘリ搬送した脳外科疾患4症例
当院の脳外科患者の島外搬送は尐ない
症例数
2 .5
2
1 .5
症例数
1
0 .5
0
急性硬膜下血腫
頭蓋内出血
脳挫傷
・多くの症例は初期緊急対応後、専門医が当院で手術
・若年者による外傷を中心に搬送
Tokunoshima Tokushukai Hospital
方 法
このような現状から、離島における専門医丌
在の厳しい状況で、脳外科緊急手術施行の
是非を含めて、その意義と諸問題について症
例を提示するとともに検討した。
最近3年間の当院の脳外科関連症例、とくに
手術症例を中心に内容を検討した。さらに最
近経験したくも膜下出血の3例を提示した。
治療経過とともに各症例の離島における治
療上の問題点を整理した。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
症例1 56歳
女性
【主訴】 頭痛
【現病歴】
8月30日、19:15頃 車を運転して帰宅
19:30 意識消失で駐車場で発見
20:10 当院へ救急搬送
Tokunoshima Tokushukai Hospital
【身体所見】
JCS 1-0、 血圧 130/70、
脈拍 88、瞳孔3mm 左右差なし、
対光反射 正常、麻痺・感覚障害なし
【既往歴】 高血圧・糖尿病・高脂血症なし
【服薬歴】 なし
【家族歴】 叔母が脳出血
【生活歴】 喫煙:なし 飲酒:なし
Tokunoshima Tokushukai Hospital
来院時の画像所見
来院時CT くも膜下出血
血管造影 左IC-PC脳動脈瘤
Tokunoshima Tokushukai Hospital
手術後経過
8/31 同日、クリッピング術施行
9/8 術後経過は順調食事摂取可能
9/9 意識混濁・・・
手術と反対側の中大脳動脈域の脳梗塞
Tokunoshima Tokushukai Hospital
手術後経過と問題点
急変時、脳外科医丌在であり、病状悪化に
対して患者家族の理解が得られなかった。
その後、広範な脳壊死、脳浮腫を認め、意
識状態の回復は得られなかった。尿崩症ほ
か著明な脳圧亢進症状が続き、多臓器丌
全となった。10月13日(第48病日) 死亡
確認となった。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
症例2 64歳 男性
【主訴】
頭痛・意識消失発作
【現病歴】
10月31日、午前9時ころ、庭の掃除をしようと
外に出た際、意識消失が数分あり、意識回復
後、後頭部~頚部にかけての疼痛と嘔気・嘔吐
が1回あったため9:39救急車にて来院。救急
外来にて9:50に再度強い頭痛を訴えた後、再
度意識消失した。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
【身体所見】
JCS Ⅲ-100、 血圧 120/70
脈拍 77、 瞳孔3mm 左右差なし
対光反射 正常、 左上下肢麻痺あり
【既往歴】 肺気腫
【生活歴】
喫煙:20~60歳まで10本/日
飲酒:日本酒1合/日
Tokunoshima Tokushukai Hospital
画像所見
来院時CT
右側頭葉を中心に
くも膜下出血と脳出血
Tokunoshima Tokushukai Hospital
画像所見
血管造影 右MCA基部脳動脈瘤
Tokunoshima Tokushukai Hospital
術後経過と問題点
くも膜下出血grade4と診断。院内にいた非常勤の
脳外科医に連絡し、脳血管造影を行ったところ右
中大脳動脈分岐部に動脈瘤を認めたため、右中大
脳動脈瘤破裂と診断。16:00より開頭血腫除去と
脳動脈瘤頚部クリッピング術を施行した。術後脳浮
腫、血管攣縮などの合併症の予防を行っている。現
在、14病日、脳梗塞などは起こさず経過は順調で
ある。緊急の手術で救命され順調であるが、家
族の島外への搬送希望が現在も強い
Tokunoshima Tokushukai Hospital
症例3 27歳 男性
【主訴】 突然の頭痛
【現病歴】
11月1日、19時ごろ、入浴時に突然の頭
痛を認め、風呂場でうなっている所を家族に
発見され、当院へ救急搬送された。搬入時、
意識状態は清明であった。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
【身体所見】
JCS Ⅰ-0、血圧 170/100
脈拍 77、 瞳孔3mm 左右差なし、
対光反射 正常、麻痺・感覚障害なし
【既往歴】 なし
【服薬歴】なし
【家族歴】父がくも膜下出血
【生活歴】 喫煙:10本/日
飲酒:日本酒1合/日
Tokunoshima Tokushukai Hospital
画像所見
来院時CT
くも膜下出血
Tokunoshima Tokushukai Hospital
経過と問題点
画像上、くも膜下出血をみとめたが、
同日は脳外科医の迅速な応援得られず、
へり搬送となった。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
考 察
これまで島内での治療は脳外科医の十分な協力と
一般外科医の緊急処置、術後管理で概ね問題なく
行われている。しかし、医師丌足による脳外科治療
への診療負担も大きく、また患者家族にとっては専
門医丌在での治療に満足度の限界が感じられる。明
確な指針のもとに島内での脳外科手術の守備範囲、
治療方針が示されるべきかもしれない。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
考 察
ヘリ搬送のデメリット
・患者搬送による再出血の危険性が増す
・夜間のヘリ搬送は危険
・患者家族への負担が島外搬送で増す
⇒島内での脳外科手術は有益な面が多い!
島内で脳外科治療の現状を改善するため
・脳外科医の常勤を獲得する
・更なる専門医とのより密接な連携システムを構築
する
・一般外科医により満足度の高い脳外科トレーニン
グが行われる
Tokunoshima Tokushukai Hospital
考 察
島外へ搬送せず、島内で治療して欲しいという住民の
要望に対応して、緊急対応は一般外科医が行い、高
度な手術は脳外科専門医に手術をお願いする状況で
行ってきた。しかし、術後は専門医丌在での管理が中
心となり、未熟な術後管理による合併症、患者家族と
の信頼関係におけるトラブルを生じるケースも尐なく
ない。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
自衛隊ヘリ搬送は離島医療の生命線
奄美大島以南の徳之島は、24時間ヘリ搬送に対して
沖縄からの陸上自衛隊第101飛行隊の出動に頼る
Tokunoshima Tokushukai Hospital
悪天候の夜間に自衛隊ヘリが墜落
2007年3月30日23時半頃、
自衛隊ヘリが墜落、4人全員死亡 鹿児島・徳之島
鹿児島県・徳之島の天城岳(標高533メートル)の山頂
付近に陸上自衛隊第101飛行隊(那覇市)所属のCH4
7JAヘリコプターが墜落、炎上した。鹿児島県から急病
患者(胸部大動脈瘤切迫破裂)の搬送要請を受けて出動
した隊員4人が乗っていたが、31日朝、県警などが現場
で機体の残骸とともに4人を発見し、全員の死亡を確認
した。陸上自衛隊は航空事故調査委員会を設置、委員
5人を派遣した。
共同通信 3月31日の速報に加えて
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ヘリ墜落事故現場
徳之島の最高峰
井之川岳
645m
天城岳
533m
徳之島空港
総合運動公園
夜間、深い霧の中、山中の総合運動公
園で何度か視界丌良の状況のなか着陸
を試みるも、天候回復せず着陸を諦め
一度は帰還を決める。しかし途中、霧の
中に町の明かりが見え、徳之島に引き返
し空港への着陸を決める。その移動する
途中での事故発生となった。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
徳之島徳洲会病院
陸上自衛隊 第101飛行隊 急患空輸状況
207
1
200
1
313
阿 嘉
久 高
119
11
宮 古
5
132
奄美
26
不 論
2574
420
西表
徳之島
207
470
久 米
石垣
不那国
431
粟 国
水納島
1
喜界
伊平屋
渡名喜
3
中ノ島
4
421
25
589
本島
沖永良部
伊江島
伊是名
宝島
渡嘉敷
外地
慶留間
座間味
4
7
218
351
北大東
250
南大東
651
H18.3.31 現在
波照間
5
多良間
区 分
20
鹿児島
沖 縄
合 計
件 数
1087件
6229件
7316件
患 者 数
1104名
6562名
7666名
緊急度による分類と対策
緊急度Ⅰ:緊急に処置、治療をしなければ生命に危険を生じる
場合→急性心筋梗塞、急性硬膜外出血
・専門医(循環器、脳外科)の常勤
・専門医のスムーズな移動
緊急度Ⅱ:生命に直接危険はないが、緊急に処置・治療をしな
ければ身体に障害を生じる場合→水晶体脱臼、全身熱傷
・ヘリでの搬送も十分可能(ヘリによる血圧の変化等は考慮)
緊急度Ⅲ:生命・身体のための緊急の処置、治療を必要としな
いが、高度の医療を必要とする場合、また、車での長距離搬
送が危険と考えられる場合→NICU管理
・NICU施設
・ヘリ搬送
Tokunoshima Tokushukai Hospital
結 語
患者搬送による再出血の危険性が増すこと、夜間のヘ
リ搬送は危険性であること、患者家族への負担が島外
搬送で増すことなど、島内での脳外科手術は有益な
面が多い。島内で脳外科治療の現状を改善するため
には、脳外科医の常勤を獲得すること、更なる専門医
とのより密接な連携システムを構築すること、一般外
科医により満足度の高い脳外科トレーニングが行われ
ることなどが必要と思われる。
Tokunoshima Tokushukai Hospital
Tokunoshima Tokushukai Hospital
背景・目的
離島の現状から、緊急時のヘリ要請は今後も
続くが、日々の多忙な臨床の中でヘリ搬送の
適応や問題点の分析には至っていない。
 今後の離島救急医療のあり方を問うために当
院のヘリ搬送症例を検討し、現在の徳之島の
ヘリ搬送の現状と問題点について考えた。

Tokunoshima Tokushukai Hospital
徳之島の平成18年のヘリ搬送内容
総数
循環器疾患
脳外科疾患
産科・新生児疾患
小児疾患・外傷
その他(消化器ほか)
10
3
15
3
5
徳洲会病院
7
2
2
1
1
宮上病院
1
1
13
2
4
その他
2
0
0
0
0
病院によって搬送する疾患が異なる!当院は循環器疾患の搬送が多い
資料提供;徳之島町消防署
Tokunoshima Tokushukai Hospital
徳之島徳州会病院の
過去5年間のヘリ搬送数
搬送数
30
25
20
15
搬送数
10
5
他
の
そ
科
児
小
新
生
児
婦
妊
疾
脳
循
環
器
疾
患
患
0
・島内で最善を尽くし、専門医との相談の後ヘリ搬送を決断
・多くは沖繩への搬送、天候他の理由で時に鹿児島県へ
Tokunoshima Tokushukai Hospital
徳之島の平成18年のヘリ搬送先病院
搬送先
総数
徳洲会病院
宮上病院
その他
南部徳洲会病院
名瀬徳洲会病院
中部徳洲会病院
4
2
1
3
2
1
0
0
0
1
0
0
県立大島病院
沖縄県立南部
・こども医療センター
琉球大学病院
沖縄県立那覇病院
沖縄赤十字病院
浦添総合病院
厚地脳神経外科病院
20
3
2
2
17
1
1
0
2
1
1
1
1
0
1
1
0
1
2
0
0
1
0
0
0
0
0
0
全体に搬送先は沖縄が中心だが産科は県立大島病院が多い
Tokunoshima Tokushukai Hospital
資料提供;徳之島町消防署
当院の過去5年間のヘリ搬送内容の推移
平成年
19
18
17
16
15
14
総数
循環器
脳外科
分娩時
小児
他
丌明
6
13
6
8
8
6
3
7
4
2
4
3
1
2
0
0
0
1
0
2
0
1
4
2
1
1
2
0
0
1
1
1
0
1
0
0
0
0
0
4
0
0
常勤医師の専門性がヘリ搬送に影響?
Tokunoshima Tokushukai Hospital
当院の過去5年間のヘリ搬送先病院
搬送先病院
搬送数
南部徳洲会病院
名瀬徳洲会病院
中部徳洲会病院
鹿児島徳洲会病院
11
10
2
2
県立大島病院
沖縄県立中部病院
沖縄県立南部
・こども医療センター
沖縄県立那覇病院
沖縄赤十字病院
豊見城中央病院
厚地脳神経外科病院
7
6
3
1
2
1
1
心血管外科で南部徳洲会病院、循環器で名瀬徳洲会病院への搬送が多い
Tokunoshima Tokushukai Hospital
過去5年間の分娩前後にヘリ搬送した疾患9症例
産科2症例

搬送理由は2症例(妊娠中毒症、切迫流産)とも
家族、本人希望によるものであった
新生児7症例

全て未熟児(新生児仮死2例、呼吸丌全3例、24週
早産、感染症)でありNICU管理が必要な症例
Tokunoshima Tokushukai Hospital
過去5年間のヘリ搬送した小児疾患2症例

風疹・脳炎1症例、難治性けいれん(原因丌明) 1症
例でありより専門医の治療が必要な症例

小児の重篤な外傷は積極的に搬送

小児では家族の強い希望でヘリ搬送となることも
Tokunoshima Tokushukai Hospital
過去5年間のヘリ搬送その他5症例

右眼水晶体脱臼、右化膿性股関節炎、劇症肝炎、
広範囲熱傷、急性胆嚢炎それぞれ1症例づつ

緊急症例以外にも難治症例も搬送の適応

家族の搬送への希望が強い場合なども
Tokunoshima Tokushukai Hospital
考察
自衛隊員のヘリ搬送への負担、搬送の危険性も考慮さ
れるべきであり、可能な限りヘリ要請を減じるべきと考
える。沖縄の一部の離島では5年間で2600回以上の
ヘリ搬送。徳之島徳洲会病院では医師、看護師同乗し
ているが、丌可能な離島の病院も多い。
 早期発見・予防治療を充実させ、離島では対応困難な
救急を減らすことが重要。冠動脈のCTによるスクリー
ニングや高血圧、糖尿病の厳重な管理は明らかに救急
件数を減じることが予想できる。早期発見に必要な検
査機器の準備も離島こそ重要。

Tokunoshima Tokushukai Hospital
考察
奄美諸島の徳洲会病院には手術や高度な医療に対
応できる設備もある。専門医師の常駐が困難である
状況から、患者の移動より専門医師および専門ス
タッフの緊急時の移動が円滑であることが理想的。
ドクター・ヘリ構想の実現。
 夜間、天候丌良など搬送に危険を伴う場合は、緊急
性を自衛隊と密に連絡を取りあい、ヘリの安全性に
配慮することも重要。
 自衛隊ヘリ搬送後の患者の転帰について報告し、可
能な限り自衛隊へ謝意を伝える。

Tokunoshima Tokushukai Hospital
自衛隊員4名の御霊に
離島のヘリ搬送状況の改善を誓う!
総理大臣、防衛省大臣が列席しての自衛隊葬
自衛隊と協力しヘリ搬送に関する連絡会の設置が必要!
Tokunoshima Tokushukai Hospital
国・県への離島の救急への要請
伊藤祐一郎鹿児島県知事にも奄美地区の救急ヘリ搬送につい
て直接要望する機会があったが・・・
禧久伸一郎鹿児島県議会議員が平成19年の鹿児島県議会定
例本会議で離島の救急・ヘリ医療について質問
1.ITインフラ整備による遠隔医療について
2.医療機関の治療可能範囲情報の一元化について
3.救急搬送手続きの簡素化について
徳之島・奄美全体としての要望を!
徳洲会だけの問題ではない!
Tokunoshima Tokushukai Hospital