2012 no。 1 18 ` 気 │‐ . FOCUS 小児 がんにおける医療体制 と療養環境 の充実 に向けて 一 小児がん医療 の 現状 と課題 二 原 純 ― , 岡田 恵子 がん医療の未来を見つめて とわが国の医療 現代の「 黒船」 堀田 知光 がんチーム医療へのアプロ…チ ー「 山形チ…ム医療ワ…クショツプ」に参加して一 チー ム医療 の原 点 はコミュニケーシ∃ン 地方独立行政法人山形県 ・ 酒田市病院機構 日本海総合病院 がん診療連携拠点病 院 レポ … ト 患者さんにやさしい治療を目指 して 低侵襲手術の技術を磨く ―「 RAMIS workshop」 (金沢大学 心肺 ・ 総合外科 ロボット・ 低侵襲外科研究会)の取り組み― 渡邊 岡」 ,石川 紀彦,松本 勲,金平 永 二 地域特性を考慮 したチー ム医療 の実践 山形県立新庄病院 緩和ケアを拓く ―がん緩和ケアの発展経過を踏まえ、 真の充実に向かおう!― ロケアの始まりと 緩禾 WHOに よる普及 ・ 発展へ の支援活動 武 田 文和 表紙のイラストの「 虹」は、 患者さんと医療者、 懸け橋"をイメージしていま丸 医療者と中外製薬をつなぐ“ がん診療連携拠点病院レポート 患者さんにやさしい治療を目指して 低侵襲手術の技術を磨く 低侵襲手術の魅力を伝える 「RAMIS workshop」の活動 ─「RAMIS workshop」 (金沢大学 心肺・総合外科 ロボット・低侵襲外科研究会)の取り組み─ 術創が小さくてすむ内視鏡外科手術やロボット手術は、 術後の回復も早く、 患者さんの心身両面の負担を軽減する低侵襲手術であ 石川 紀彦 る。 金沢大学 心肺・総合外科では、 身体にやさしい手術を患者さんに安全に提供するために、 2011年1月、 低侵襲手術の技術の普及 金沢大学 心肺・総合外科 講師 と推進を目指した 「金沢大学 心肺・総合外科 ロボット・低侵襲外科研究会」 ( Robotics and Minimally Invasive Surgery Workshop;RAMIS workshop) を立ち上げた。 本研究会に携わる医師の熱意と、 低侵襲手術の現況と今後の方向性をお届けする。 渡邊 剛 金沢大学 心肺・総合外科 教授 ら、外科医が実践で学べる場は多くは す。 たとえば女性に多い甲状腺がんで ありません。 しかしながら、外科的な技 は、一般的な手術では首に傷が残っ 術は実際に自分でやってみて指導を 金沢大学附属病院では、一人ひとり てしまいますが、内視鏡外科手術であ 受けるという形でなければ上達は難し の患者さんにやさしい治療の提供を目 ればVネックを着ても見えないところに く、1つの大学だけという限られた中で 指して、低侵襲手術を積極的に取り入 傷を作るアプローチ方法があります。 は向上心も芽生えにくいのではないか れています。 さらに、それがロボット手術であれば、 と考えていました。そこで、当院および 呼吸器外科では、肺がん患者さん 完全に脇からアプローチすることが可 北陸、横浜、九州の関連病院を1つの す。 まさに超低侵襲を実現し、正確さに ト手術で世界のトップを走る韓国では、 最 に対する完全胸腔鏡下肺葉切除術 能であり、首や胸元にまったく傷を残さ チームとして、自分たちの経験を伝え おいて内視鏡外科手術に優るなど、患 先端のハイボリュームセンターにおける胃 など、年間170例ほどの肺がん手術の ないため、患者さんの満足度は非常 ていく場を作ろうと考え、2011年1月に 者さんに大きなメリットをもたらします。近 がんのロボット手術件数は年間200例を うち、約7割に内視鏡外科手術を行っ に高いものとなっています。 金沢大学心肺・総合外科は、 北陸地 い将来、 CTや超音波の画像、 術前の検 超えており、 術後5日目で退院できて食事 ています。傷が見えない、痛みが少な ロボット手術は、冠動脈バイパス手 した。当研究会は、 日本内視鏡外科学 方の外科治療の中核として130年の歴 査データを取り込めるような周辺機器を もとれるという手術を実現しています。 わ い手術を究極の目標に据えて、術式 術と根治的前立腺全摘除術において 会の公認研究会であり、同学会の技 史と伝統があります。 最近の医療が専門 統合して、 より多くの情報を総合的に判 が国もこれ以上の遅れを取らないように、 の開 発にも注 力し、経 横 隔 膜 的アプ は高度先進医療として保険診療との 術認定医の取得を目標の1つに掲げ 分化しすぎる傾向にある中、 当科は、心 断しながら治療が進められるロボット手 ロボット手術の技術を持つ外科医を育 ローチや胸骨下アプローチなども行っ 併用が認められていますが、そのほか ています。 臓血管、消化器・内分泌、呼吸器を網 術も実現するでしょう。 そうなれば、極め 成すべきという危機感を持っています。 ています。 また、2011年よりロボット手 の場合は自費診療となります。 しかし、 内視鏡外科手術は、従来の開胸・ 羅するという特色を活かし、総合外科と て安全性の高い、 集学的な治療が可能 そうした背景から、若手外科医が研 術も導入しており、肺がんの肺葉切除 最先端の治療を受けたいという患者 開腹手術と比べて後進の指導が難し しての教養を身につけた医師の育成と、 になります。 鑽を積める環境を作る目的で、 「RAMIS や縦隔腫瘍に対して実施しています。 さんのニーズは少なくないという感触 いと言われています。そこで、動画を workshop」 ( 図) を立ち上げました。本 一方、内分泌・総合外科でも、担当 を得ています。 使用した指導が効果的かつ現実的と これからの外科治療を 大きく変えるロボット手術 高度な医療の提供を目指しています。 特 に、 内視鏡外科手術においてはわが国 「RAMIS workshop」 を立ち上げま 考え、毎回テーマを決めて、 日本内視 「RAMIS workshop」への 期待 研究会の活動を通じて、 当面の課題で 領 域である甲状 腺 、副甲状 腺 、消 化 ある北陸地方における内視鏡外科手術 器一般外科において低侵襲を貫き、 の普及と向上を目指すとともに、 ロボッ ト手 全身麻酔下手術のうち約7割に内視 います。 2005年より手術支援ロボット 「ダ・ ダ・ヴィンチは、 すでに国際的にスタン 術の有用性についても広く発信していき 鏡外科手術を適用しています。 ロボッ ヴィンチ」 (da Vinci Surgical System) ダードなツールとなっていますので、機械 たいと考えています。 ト手 術も2 0 0 9 年より導 入し、甲状 腺 北陸地方の内視鏡外科手術をリー い、それに対して指導するという方法 を導入し、 冠動脈バイパス手術などの心 さえあれば、患者さんの求めに応じてど がんと直腸がんにおいては日本初の ドし、全国的にも先陣を切ってきた先 を取り入れました。本人はベストと思っ 臓手術から症例を重ね、 消化器や呼吸 こでも同じ治療を行うことができます。 こ 実 績を誇るほか、食 道 、胃、大 腸 、直 生方が現在は指導的な立場となり、後 ている手技にも、指導医から 「こうした 器へと広げていきました。 れからの外科医は世界標準という視点 腸にも対象を広げて実施しています。 進の内視鏡外科医をいかに育成して ほうが良い」 とアドバイスが加わったり、 内視鏡や手術ロボットは、 専門領域を からも、 ロボッ ト手術の技術に慣れておか リンパ節郭清の精度という点では、 いくかが重要なテーマとなっています。 「どうすれば技術認定医を取得できる 越えて高度な医療の提供を可能にする なければ生き残れないのではないでしょ 内視鏡外科手術よりロボット手術のほ 全国的な傾向として、外科医が多 レベルに達するか」 という視点でディ 強力なツールです。特にロボット手術は うか。 日本の消化器領域における内視鏡 うが優れていると考えています。甲状 少なりとも育ちにくい状況にあります。 スカッションしたりと、実践的な指導が 外科領域における100年に一度の技術 外科手術は、 世界的にも高い水準にあり 腺や副甲状 腺などは内 視 鏡 外 科 手 すなわち、臨床経験を積むにはリスク 受けられるようにしています。 もちろん、 革新とも言えるものであり、 これからの外 ますが、 ロボット手術に関しては大きな遅 術が保険収載されていない領域です を伴いますし、医療事故などに対して ビデオを提 示した本 人でなくても、そ 科治療を大きく変え得る核となる技術で れを取っています。消化器領域のロボッ が、当科では、傷を残さないという利 社会がシビアになっている時代ですか こで交わされる討 論を通じて自分の をリードする人材を数多く輩出しているほ か、 ロボット手術にも先駆的に取り組んで 6 金沢大学 心肺・総合外科 医局長 点もあるロボット手術を推進していま 患者さんのメリットが大きい 内視鏡外科手術・ロボット手術 革新的ツールを駆使した 集学的治療を目指して 松本 勲 図 「RAMIS workshop」 のロゴマークとその由来 コンセプト: 『小さな創から救う命』 形:ロゴマークの大きな◎の外の○は身体 (カラダ) 、 内の○は心 臓 (生命) を表わしております。 また、 右上の小さな○は内視鏡/ ロボットなどの 『高度な技術』 を表わしております。 そして、 2つの ○をつなぐ小さな穴は低侵襲を表わしております。 「RAMIS workshop」の 最大の特色は実践的な指導 鏡 外 科 学 会 技 術 認 定 医の取 得を目 指している若手外科医に、 自分が行っ た手 術ビデオを無 編 集で出してもら Oncology Epoch 18 | 7 がん診療連携拠点病院レポート 反省点を見出したり、 より良い方法を 意見を述べるのではなく、忌憚のない 討論のほか、特別講演やテレカンファ 吸収したり、 ノウハウが蓄積されていき 意見や疑問を出し合い、皆で実力を高 レンス、実 験 動 物を用いた腹 腔 鏡 下 ますので、実際の手術に役立っている めていきたいと考えています。 手 術の実 技 講習会など、様々なプロ という声が多数寄せられています。 グラムで組み立てられています。参加 われわれの同門には、各領域にわた 資格は設けておらず、当研究会の目 る17名の日本内視鏡外科学会技術認 定医がいますので、領域に偏ることな 誰でも気軽に参加できる オープンな会を目指して 能で、開催予定はWebサイト上で告 く指導できるという強みがあります。 さら 当 研 究 会 に は 、上 部 消 化 管 外 知しています。誰でも気軽に参加でき に、 より厳しい指摘や最先端の技術を 科 、下 部 消 化 管 外 科 、肝・胆・膵・ るオープンな会を目指していますので、 紹介していただくために、外部の高名 TANKO外科の3つの分科会があり、 興味をお持ちの方にはぜひ参加して な先生方にアドバイザーとしてご協力 2012年より呼吸器外科が加わります。 いただきたいと思います。 いただいています。参加者にとってアド いずれは心 臓 血 管 外 科 分 科 会も加 今後の課題は、達成度の指標作り バイザーの先生方と面識ができるきっ え、外科をひと通り網羅する形にした かけになり、難しい症例の相談や、 これ 金平 永二 医療法人福寿会 メディカルトピア草加病院 院長 AMG内視鏡外科アカデミー代表 「RAMIS workshop」 アドバイザー まだ普及の途上にあると認識していま 多くの手術を見る機会に恵まれてい す。特に胃がんは難易度が高く、腹腔 る若手外科医には、様々な哲学を持っ 鏡下で病巣を切除しても再建の段階 た外 科医の手 術を見ることに貪 欲に 私は金沢大学心肺・総合外科の出 で開腹してしまうことも多いため、広め なって、そこから最大公約数を探す努 など、教育プログラムの整備です。若 身であり、北陸における内視鏡外科手 るべき手技として完全腹腔鏡下消化 力をし、それぞれの手技の独自性と危 いと考えています。 また、 ロボット外科 手外科医のモチベーションアップのた 術のパイオニアの一人として、恩返しの 管再建を目標に置いています。 うさをしっかり見つめたうえで “自分流” から内視鏡外科手術を導入する施設 分 科 会も立ち上げていますが、当面 めにも、明確な目標を持って段階的に 意味も込めて 「RAMIS workshop」 私は以前から内視鏡外科手術の指 を作ってほしいと願っています。最大公 では見学なども気軽に依頼できるよう は単 独での活 動ではなく、渡 邊 剛 先 技術を習得していけるようなシステム のアドバイザーを務めています。実践 導に携わっていますが、2009年春に、 約数とは取りも直さず基本手技であり、 になればという期待もあります。 生が理事長を務めている日本ロボット 作りが必要だと考えています。 的な研 究 会で、外 科の持つサイエン 内 視 鏡 外 科 手 術の技 術向上と臨 床 それを大事に次世代に伝えてほしいと 模範的な手術ビデオを見るだけで、 外科学会を通じて情報発信していき スとアートという側面のうちのアートをク 導 入を支 援する 「 A M G内 視 鏡 外 科 思います。 また、患者さんが低侵襲手 自身の技術向上に結びつけるのは難 たいと考えています。 ローズアップしているのは、非常に良い アカデミー」 ( Ageo Medical Group 術を受けられて、傷の小ささに驚き喜ん しいことですが、修 練中の人の手 術 実 際の活 動は各 分 科 会で行って アイデアだと思っています。 EndoSurgery Academy;通称“ア でくださるのは自分自身の喜びにもつな や、 うまくいかなかった部分を見るとい おり (表)、各回50∼120名程度、入局 「第1回 肝・胆・膵・TANKO外科 ミーサ”) を立ち上げました。アミーサ がります。そのモチベーションを突き詰 うのは非常に勉強になりますし、 これが 1年目の若手からベテラン医師までの 現代の外科医療の流れとして、 「手 分科会」には80人ほどが集まり、食い では以前から取り組みたかったプライ めていけば手術はどんどん上達します 当研究会の最大の特色だと考えてい 幅広い層が参加しています。内容は、 術の傷をいかに小さくするか」は避け 入るような視線で私の講演を聴いてい ベートトレーニングセミナーを実現し、1日 し、 「それは自分の身体にもできる技術 ます。指導する側も一人の先生だけが 先に述 べた手 術ビデオによる指 導・ て通れない課題です。低侵襲手術の ただき、参加者のモチベーションの高さ につき2名を対象に、各自の癖や長所 なのか」 と自問しながら研鑽することも 普及は、患者さんにとって治療の選択 や熱気を感じました。 自身の反省点が に合った指導を独自に考案したシミュ 大切だと思います。 肢が増えることになるわけですが、外 含まれた手術ビデオを披露して、厳し レーターを活用しながら行っています。 メディカルトピア草加病院は、地域密 科医から見れば、高度な技術が要求 い指導を真摯に受け止めていた若い 年間10回ほど開催していますが、受講 着の医療に、新たに 「からだにやさしい され、手術を行ううえでのコンセプトも 先 生 方の勇気には尊 敬の念を抱き、 希望者は多く、好評を得ています。 内視鏡手術部門」 を導入し、2012年2 共有する必要があります。様々な手技 感銘を受けています。同じような悩みを に触れ、 自分の技術がどのレベルにあ 持つ参加者の気づきにもなりますので、 表 「RAMIS workshop」各分科会開催状況 ■上部消化管外科分科会 第1回 2011年7月9日 (土) 第2回 2012年1月29日 (日) −腹腔鏡下胃切除術 実技講習会− 外科医療崩壊回避のために 若手外科医の育成が課題 “アート” としての 外科技術を研鑽する場 月に開院しました。患者さんの利便性 多くの手術を見て作り上げる “自分流” 第3回 2012年7月14日 (土) り、他にどのような方 法があるのかを 「RAMIS workshop」 のような研究会 ■下部消化管外科分科会 知識として持つことが、外科医として を全国で展開するのは、外科技術を研 の将来の成長に必ずつながるものと 鑽するための1つの有効な方法だと思 I.P.Semmelweisが手術時の感染 考えています。 います。 予防を訴えてから約200年間、手術は 第1回 2011年6月25日 (土) 第2回 2011年10月15日 (土) 第3回 2012年2月4日 (土) 第1回 上部消化管外科分科会 ■肝・胆・膵・TANKO外科分科会 成は外科の医療崩壊を防ぐためにも コミュニケーションが取りにくい状況が □テレカンファレンス 若手外科医の参加を促進し、低侵襲 一般消化器外科では、胆石症に対 くの人が見ることのできる内視鏡外科 手術の魅力を伝えながら、開胸・開腹 する内視 鏡 外 科手 術は普及率が高 手術は、 こうした200年の歴史を打ち破 −第20回関東腹腔鏡下胃切除 研究会− 手術から最新の内視鏡外科手術まで く、ほぼ全国的に一定 水準以上の手 り、Semmelweis以前にも増して広大 すべてこなせる外科医を育成していき 術が受けられますが、大 腸がんや胃 な劇場化をもたらす可能性を秘めてい たいと思います。 がんに対する内視鏡外科手術は、 まだ ます。 第1回 肝・胆・膵・TANKO外科分科会 ションとして提供できる病院を目指して います。 続きました。 しかし、 モニターを通じて多 極めて重要な課題です。当研究会も http://www.ramis.jp/ サービスを個々のニーズに応じてオプ お互いの手技を見て影響し合うという 内視鏡外科手術の指導では プライベートトレーニングも実現 ■ロボット外科分科会 第1回 2011年10月8日 (土) を徹底的に追求し、 スタンダード以上の 閉鎖された空間で行われ、外科医は とりわけ地 方では、外 科 医が高 齢 化してきている傾向にあり、若手の育 第1回 2011年9月30日 (金) 8 的に賛同する医療者であれば参加可 「RAMIS workshop」 は 内視鏡外科手術を学ぶ モデルになる 第1回 肝・胆・膵・TANKO外科分科会 Oncology Epoch 18 | 9
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