「教養英語と文学」 - 常磐大学

2009年度
2008年度第1回常磐短期大学FD研究会
常磐大学FDフォーラム
「教養英語と文学」
常磐短期大学
教養英語と文学
キャリア教養学科
村 松 俊 子
はじめに
本日は,私の専門が英文学ということもあり,現在の学校英語教育の中で,
文学というものがどのような意味があるのかということを,私の担当科目との
関わりを中心にお話させていただきます。
現在,日本の学校英語教育は,どのような方向に向かっているのでしょうか。
「英語教育」という雑誌がありまして,2009年5月 vol. 58・No. 2の誌面の中で
「新学習指要領は英語の授業をどう変えるのか」というテーマで行った座談会
の内容が掲載されているので,まずそれを紹介したいと思います。〈注1〉
皆様ご存知のように,2011年(平成23年)から英語教育の指導要領が変わり
ます。それによって,小学校5〜6年から外国語活動が必修となります。すで
に公立小学校で試験的にスタートしているパイロットクラスのほぼ100 %近く
で実施されていると聞いています。
中学校では,新語数(ボキャプラリー)が今の900語から1200語に増加する
ということです。そして,高校では,新語数の増加に加えて,指定の文法項目
が必修になり,さらに2013年からは基本的に英語の授業は英語で行うことにな
り,これまでの文法事項は,必修科目の「コミュニケーション英語Ⅰ」で行う
〈注1〉 変わる英語教育の現状
「新学習指導要領は英語の授業をどう変えるのか」
『英語教育』
(2009年5月 vol.58 No. 2)の座談会から
● 2011年(平成23年)から ・小学校5,6年から
外国語活動が必修
・中学校
新語数が900語から1200語に増加
・高 校 新語数が増加、指定の文法項目必修、
基本的に英語の授業は英語で行う。
文法事項は必修科目の「コミュニケーション英語1」で行う。
― ―
ことになります。従来の文法(グラマー)が,コミュニケーション英語に入り
込んでくるというわけです。ですから,今後は,文法をどのように英語で説明
するかということが,現場の先生の間では議論になっているところです。
雑誌の座談会の中でも,このような状況の中で見えてくるものは何かという
ことが話し合われました。英語で授業をするということが,教員にとって自己
目的化するということは極端にはないでしょうが,教師が英語を話す場面を生
徒に見せることで,英語に慣れさせるということには非常に効果があるでしょ
う。それをとても乱暴な例えではありますが,実験をしない理科の教師,ピア
ノを弾かない音楽の教師,実技をしない体育の教師などがいないように,モデ
ルのない学習はありえないということで,英語の授業を英語で行うことを正当
化しています。世界的に見ても,英語の授業を英語で行わない国というのは実
際に少ないのも事実です。果たして,英語の授業を日本人が日本人に対して英
語で行うということはどうなのだろうという議論は,これからも続くだろうと
思います。授業の準備に時間がかかる割には,英語力アップにつながらないの
ではないかとも思われます。したがって,準備と効率アップのバランスという
ものも問題になるのだろうとも思います。一方で,文法事項まで必ずしも英語
で説明する必要があるのか。中学生はよく話すが,高校生になると黙ってしま
う傾向があるなど,日本人の個性や年代ごとの特徴などを考慮することも大事
ではないかなど,そんなことが教育現場では話し合われているということです。
さて,私が他大学で非常勤講師をしているときのことですが,母校でもある
立教大学全学共通カリキュラムの中で英語による英語の授業をしてほしいと言
われたときの体験をお話ししたいと思います。そのときは日本人の教員とネイ
ティブがペアになって授業をするやり方でした。だいたいの日本人の教員とい
うのは,それまでは楽な気持ちで英語の授業をしてきましたので,いざ英語で
授業をしなさいと言われると二の足を踏むのが現実でした。「それができない
なら辞めてください」という信号ではないかと思いながら,それでも3年間や
りました。まず,
「文化」の授業を英語で行うということで,膨大な資料を渡
され,さらに教員が自分に合った授業をご用意くださいとのことでした。大変
な時間をかけて準備をし,授業に臨むのですが,学生の反応はいまひとつでし
た。どうしてかというと,教室に入ってくるまではすべて日本語を話していま
すし,授業が終わって教室を出てしまえば,また日本語に戻ってしまうのです
ね。教室での授業の間だけは英語。そのギャップは埋めがたいのです。ですか
― ―
ら,それの効果が出るまでには時間がかかるということです。あるとき,ネイ
ティブの先生から「音楽をかけたらどうでしょうか」という提案があり,試し
てみましたが,それも少々わざとらしい感じでしたね。そうこうしているうち
に私も大変に疲れてしまいました。周到な準備をして授業を行う割には,学生
がついてこないのです。一番疑問に思ったのは予習をしないクラスだというこ
と。学生は資料をたくさんもらって,先生がなにか質問すると,学生は資料を
見ながらそれに答えるというような,非常に場当たり的な授業になってしまっ
ていたのです。もちろん,私が未熟だったこともあるのですが,授業の中で特
殊な時間を作っても,それが継続しないことへのストレスが日本人教員を追い
込んでしまったのだと思います。英語の授業を英語で行うということに対して,
私は決して反対ではありませんが,やはり,それは日本の文化などに対しても
造詣が深く,日本をよく理解しているネイティブスピーカーが行ったほうが効
果があるのではないかと,私は思います。これは,私自身の体験から申し上げ
る感想です。
さて,ここからは,私が関わるキャリア教養学科での報告です。常磐短期大
学における外国語カリキュラムの変遷の資料をご覧ください。〈注2〉この表
では,左側が1999年度(平成11年度)教養学科だった時代の5月のカリキュラ
ムです。右側が,現在の2009年度(平成21年度)の今年の春のキャリア教養学
科の英語のカリキュラムとなっています。いずれも1年生と2年生に分けてお
ります。これらをご覧いただく際に,補足しなくてはならないことがあります。
1999年度当時には,教養コースと秘書コース,国際コースという3コースがあ
りました。その当時,区分「国際教養」において第二外国語が充実していたの
は,この国際コースを開講していたからです。1年生のときには「基礎教養」
として,英語に(音声)というものがありました。プロナウンシエーションで
す。それから(表現)コンポジション ・ ライティングですね。そして,(解釈)
という極めて扱いにくい複雑な授業内容を「」カッコで説明するという工夫を
していました。そして,
「国際教養」という区分では,ドイツ語Ⅰ ・ Ⅱ,フラ
ンス語Ⅰ・Ⅱ,中国語Ⅰ・Ⅱ,最後は国際語学研修で,これらは1年で開講さ
れるクラスでした。ですから,
国際コースでは3カ国語を学んでいた時期であっ
たということです。国際語学研修とは,国外のイギリスで受ける研修で,国際
コースでは必修だったときもあったのですね。改めて,このような表を作って
みて驚きました。右側の新しい「キャリア教養学科」の英語カリキュラムを見
― ―
ると,空欄があって淋しいですね。
現在の「キャリア教養学科」の英語カリキュラムでは,「キャリア形成基礎
科目」区分として,イングリッシュ・リテラシーⅠ・Ⅱ,キャリア・イングリッ
シュⅠ・Ⅱ,そしてイギリスでの語学研修である「国際文化研修」があります。
付け加えますと,
「キャリア教養学科」になったときにコースの区分変更があ
り,「キャリア教養コース」
「ビジネス経営コース」
「オフィス情報コース」の
3つになり,おのずと外国語が削られるという結果になりました。そして,さ
らに2年生の科目では,1999年当時はこれだけ科目があったのです。カレン
ト・イングリッシュⅠ・Ⅱ,オーラル・イングリッシュⅠ・Ⅱ,ビジネス・イ
ングリッシュⅠ・Ⅱ,ドイツ語Ⅲ,フランス語Ⅲ,そして,パブリック・スピー
〈注2〉
「教養学科」から「キャリア教養学科」への外国語カリキュラムの変遷
1999 年度(平成 11 年)
教養学科語学カリキュラム
2009 年度 ( 平成 21 年 )
キャリア教養学科英語カリキュラム
1 年生
1 年生
区分「基礎教養」英語 I(音声)
区分 「キャリア形成基礎科目」
英語 II ・III(表現)
イングリッシュ・リテラシー I・II
英語 IV・V(解釈)
キャリア・イングリッシュ I・II
区分「国際教養」ドイツ語 I
国際文化研修
ドイツ語 II
フランス語 I
中国語 I
中国語 II
国際語学研修
2年生
2年生
区分「国際教養」
カレント・イングリッシュ I
キャリア・イングリッシュ I・II
カレント・イングリッシュ II
インターネット・イングリッシュ I・II
オーラル・イングリッシュ I
オーラル・イングリッシュ II
ビジネス・イングリッシュ I
ビジネス・イングリッシュ II
ドイツ語 III
フランス語 III
パブリック・スピーキング(英語)
― ―
キングというクラスは,1年生のときに国外で語学研修をしてきた学生にネイ
ティブ ・ スピーカーがフォローするという内容でした。みんなで英語で話す授
業でしたが,受講生が少なくて,教師としてネイティブの方にお願いしていた
ため,学生を集めるのに大変苦労したことを覚えています。
現在の「キャリア教養学科」の2年生は,キャリア・イングリッシュⅠ・Ⅱ,
「ビジネス情報コース」の専門科目としてインターネット・イングリッシュⅠ・
Ⅱが開講されています。このように,日本における学校英語教育が変わってい
くとともに,常磐短期大学での英語教育も大幅に変わったという現実もご報告
しておきたいと思います。
さて,私は長く英語を教えておりますので,カリキュラム改訂のときにはほ
ぼ参加してきました。この「イングリッシュ・ リテラシー」という科目を作っ
たのも私自身です。短期大学において,英語の科目が多すぎるのではないかと
いう指摘も,当時はかなりありました。正直,こんなに外国語があるのでは学
生が対応しきれないし,果たして第二外国語は必要なのかという議論にもなり
ました。この議論は,全国の大学に共通するものです。その結果,日本の大学
のほとんどから,この第二外国語が消え,常磐短期大学でも完全に姿を消しま
した。そのような中で,英語だけが残ったときに,何を教えるべきなのかとい
うことをずいぶんと考えました。章のタイトルにもありますように,私は「教
養英語と文学」は非常に強いつながりをもっていると考えておりましたので「イ
ングリッシュ・ リテラシー」という科目を,どのような教材を選び,どのよう
なクラス編成で教えようかと熟慮しました。
〈注3〉
他の大学でも行われているクラス編成ですが「習熟度別クラス」というもの
があります。しかし,プレイスメント試験をしてクラスを編成するという,習
熟度別制には決してしないという考え方がいいと思いました。私の友人の英語
教師は,学生たちに「私はこのクラスに入りたいという自己申告制にしている
と言っていました。本人の自己申告制にすれば,モチベーションが上がるので
はないかというのです。そういうわけで,私は「イングリッシュ・リテラシー」
のクラス編成に際して「習熟度別」ではなく「意欲度別」というラス編成を考
〈注3〉 キャリア教養学科「イングリッシュ・リテラシー」のクラス編成方法と教材の特徴
① 意欲度別クラス編成 → 150 名5クラス編成(1クラス・30 名)体制 開始時は3つの level → 3 〜4年前から2つの level へ
― ―
えました。自分はどれだけ意欲をもっているのか,これだけ意欲がありますと
いう自己申告をしてみせてくださいというシステムにしたのです。入学時に行
うアンケートがありますのでご覧ください。〈注4〉きちんと氏名を書いても
らいます。質問が5つありまして「将来の自分のキャリアに必要だと思うか」,
「英語検定で取得している級はあるか」など具体的に記入してもらいます。ま
た「自分が短大に入ってからレベルアップを図りたいと思うかどうか」,これ
は,まさに意欲ですね。それから「英語の授業の予習はしていましたか」とい
う質問。これは「コミュニティ振興学部」に移られた吉川先生と長い間ペアで
科目を組んできたので,
「予習のことを聞いたらいかがですか」とアドバイス
をいただいたからです。これには,とても面白い回答が出てきているのですが
「ほとんどしていない」というのが大部分。つまり「いいえ」と答えた学生が
ほとんどです。つまり,そういう学生が入ってきているということです。最後
の5番目の質問では,ちょっとでも英語を書いてほしいという思いから,「自
己紹介をしてください」としました。私がショックを受けたのは「質問の意味
がわからない」という回答があったことです。日本語でなら「自己紹介」はわ
かると思うのですが,英語だとわ
からなくなるようです。自己紹介
とは「自分の名前,どこで生まれ
たかとか,どこに住んでいるかと
か,趣味はなにかとかいうレベル
で,それ以上難しいことは聞きま
せんね。だから,そのことを伝え
て自己紹介文を書かせるという状
態です。
それから,英語検定で取得した
級を聞くことにより,それでその
学生の意欲度と能力がだいたいわ
かります。徐々に徐々に,級の取
得者は減ってきています。準2級
がトップです。今の2年生で2級
を取った学生がいますね。準2級
が1割から1割半ぐらいですが,
〈注 4〉英語クラス編成のためのアンケート
― ―
徐々に減ってきているのです。学生が150人ぐらいいますが,1クラスに20名
いるかいないかです。ひとクラスだけでもレベルアップを図りたいと思い,先
ほどのアンケートの回答から1クラス30名ほどの「意欲あり」とするクラスを
1つ作ります。はじめの頃は3つのレベルを作りました。担当者が5人いるの
ですが,一番ボトムのクラスは担当する教員は大変な思いをするわけです。で
きる学生はいいけれど,意欲のない学生を担当する場合は苦労するのです。ク
ラス全体が活気がないのですね。誰かが引っ張って行ってくれないと,特に英
語のクラスの場合は前に進みません。だからクラスには,少しデコボコしたレ
ベルの学生がいた方がいいということにも気づきました。3年前からクラスの
レベルを2段階にしました。クラス分けをする上でも,初めにトップクラスを
作り,あとは30人,30人で切って4クラス作ったら大変上手くいきました。意
欲度の高い1クラスの学生たちは,ほとんど「自分たちのクラスが一番だろう」
とわかるんですね。それで非常に張り切るようになるんです。プライドが出て
くる感じで,積極的に勉強に取組むようになったのです。それから意欲度の低
いクラスの学生たちの中でも「私は意欲がないからこのクラスにいるのだけど,
いつまでもこんなことではいけない」と思う学生が必ず出てきて,一生懸命勉
強して,そのクラスでトップになるのです。レベルの差が激しいものですから,
驚くようなこともあるわけです。3つのレベルから2つのレベルに変えたこと
が功を奏したのです。しかし,現在私が進めている編成でも,30名は多すぎま
す。理想は1クラス20名です。20名であれば,より理想的授業が展開できるの
ではないかと思っています。
さて,教材選択の基本方針ということですが,
〈注5〉
「イングリッシュ・ リ
テラシー」は,
「読み ・ 書き」の能力を修得するためのものですから,一般的
な英語で書かれたもので,暗唱できるもの,音読に耐えられるもの,日本語で
言えば名文ですね。標準的で品格のある英語がいい。それは,覚えやすさや音
読しやすさにつながります。英語にもいろいろあり,あまり品のない英語とい
うのもあるのです。ストーリーが簡潔で,完結しているもの,そして,私が一
番重要だと思っているのは,作者の意図が読み取れるものであることです。つ
まり,解釈することができるようなものです。たとえば,新聞記事を読むとす
ると,そのときは著者の意図を読み取るというよりは,何が書かれているかと
いう事実を知るだけです。でも,それではなく,作者はどういうことをここで
語ろうとしているのかということを解釈できるようなもの,それに値するよう
― ―
なものを教材として選びたいと思います。それから,それを読むことによって
異文化理解への発展が可能なもの。さらに,これはとても重要ですが,会話が
出てくるもの。あまり特殊な会話でない限り,普通の会話においても使えるか
らです。
さて,これらの条件に耐えうる教材とは,やはり「文学」なのです。高等教
育において修得すべき英語というのは教養英語であるということに行き着いた
のです。文学というものが,全国的に,あるいは世界的に軽視されていくよう
な時代の風潮の中で,書かれたテキストとして残っているものは文学くらいで
すから,どういうテキストを選択するのかということはとても重要なのです。
他の先生たちと相談しながら教材を決めています。言い忘れましたが,教材は
意欲度が違うクラスでも共通です。すべて同じテキストで行っています。まっ
たく問題はありません。このような理由から,キャリア教養学科では教養英語
として文学を教材として選んでいるのです。
「教養英語」と「実用英語」,最近は「話せる英語」「使える英語」という言
い方をしますが,その中で文学教材が少なくなってきているので,選択するの
が困難な状況です。基礎的な知識と技能が定着しないまま高校を卒業している
今の学生たちが,日本中の大学でどんな教材を使っているのかというと,調べ
てみると1951年の目標修得単語は,中 ・ 高で6800語だったのが,2700語まで減
少したというデータがありました。半分以下になっています。つい最近ですが,
テキスト出版社から消えた文学教材をインターネットで調べてみました。大学
〈注5〉 キャリア教養学科「イングリッシュ・リテラシー」のクラス編成方法と教材の特徴
② 教材選択の基本方針
*一般的な英語で書かれたもの
(暗唱・音読できる、標準的で、品格のある英語)
*ストーリーが簡潔で、完結しているもの
*作者の意図を読み取る(解釈)ことができるもの
*異文化理解への発展が可能なもの
*会話文が出てくるもの ◎これらの条件に堪えうる教材とは ↓ 「文学」教材
↓
高等教育において習得すべき英語
↓
教養英語 (高等教育での英語)
― ―
英語教科書協会というのがあって,そこのホームページにテキストの数が出て
いました。
〈注6〉私たちが一般的に総合教材と読んでいるものは,非常に欲
張りで1つの教材で何もかもまかなってしまおうというような内容です。読
む・書く・聞く・話す・コミュニケーション・文法という6つのスキルをすべ
て修得できるためのテキストだとお考えください。私は,これを何回も使いま
した。イギリスのもの,アメリカのもの,日本のもの,すべて使ってみました。
これらは864冊。毎日のように新しいものが出てきているので,今はもっとあ
るかもしれません。次の第2位が LL・リスニング教材,第3位がリーディング・
スキル ・ 速読の教材,第4位は,5分間で学んでしまおうという副教材です。
第5位が検定試験用,第6位の英文法は,最近どんどん増えてきています。大
学で文法をやるということが普通になってきたのだと思います。第7位が英会
話。イギリス・アメリカ小説・物語の中から私は教材選びをしたいと考えてい
るのです。これらは358冊あります。しかし,今の学生が読めない単語もあり
ますから,実際にはこの半分ぐらいの数になってしまうでしょう。
どうして,こんなに文学の教材がなくなってしまったのでしょうか。〈注7〉
1948年には,教科書図書検定基準として「外国語の標準的な現代作品が読める
こと」と打ち出されました。しかし,4年後の1952年には,どういう理由から
かわかりませんが「文学面に限ることは必要でもないし,望ましいことでも
ない」と変化しました。1955年には,とても影響力のある日本経営者団体連盟
〈注 6〉「教養英語」と「実用英語」(話せる英語)のはざまで
・ 基礎的な知識(文法・語彙)と技能が定着しないまま高校を卒業している現状
1951 年の目標習得単語は中・高で 6800 語 2700 語まで減少
・ テキスト出版社から消えた文学教材とその理由
カテゴリー別教科書検索の結果(2009/9/9 現在)
第1位 総合教材
864 冊
第 2 位 LL・リスニング教材
464 第 3 位 リーディング・スキル・速読
367 第 4 位 副教材 (「5 分間英語観光」)
252 第 5 位 TOEIC/ 検定試験
243 第 6 位 英文法
202 第7位 英会話
174 イギリス / アメリカ小説・物語
― ―
358 が「役に立つ英語」に転換すべしという要望を出し,以後脱英米文学への政策
が加速し始めます。さらに1960年になると,
「主として英語国民のもの」から,
ネイティブだけではなく「広く世界の人々のもの」を選択するようにとなって
きました。1979年,文学は,かつては入試問題に採用されていて,トップはラ
フカディオ・ハーン,サマセット・モーム,バートランド・ラッセルなどの文
章が定番でしたが,毎年同じものを使うのはけないとなり,入学試験の問題が
文学から少しずつアップ ・ トゥー・ デイトな内容へと変化していきました。受
験勉強で文学を学ばなくなり,共通一次試験の導入によって文学が消えてし
まったのではないかと,今日改めて実感しました。
思わぬところで,入学試験に出題された文学が,教材として出回ることになっ
た重要さを知ることができました。
さて,次に,英語教育への危惧を考えることが多くなりました。〈注8〉私
は,まずは英語で書かれたものを読むことによって「使えて」「話せる」よう
になるのだと思います。最大の人が使える英語とは,やはり「話せる」ことだ
と思うのです。入学したとき,学生に「4つのスキル」の中で一番難しいのは
何かと聞くと,ほとんどが「話すこと」だと言います。スピーキング,リスニ
ング,ライティング,リーディングの中で,一番難しいのは「スピーキング」
つまり話すことだと言うのです。でも,一番難しいスキルが必要なのは「書く」
ことです。難しい順番で言うと,書く,読む,話す,聞くの順です。「話したい,
話したい」という気持ちが先走って,一番難しいのは「話すこと」だと誤解し
ているのです。授業を進めていくうちにいろいろな話しをしていくと「書くこ
と」が全然できないことに気づくのです。自分の伝えたい要求があれば「話し」
「伝える」ことは意外にできるんですね。こんな実態を見るにつけ,英語教育
への危惧は,人は読んで考えるというのに,読まないで「話せる英語」が修得
できるのかということです。学生に「どうしたら話せる英語が身に付くのか」
〈注 7〉“理由”?
1948 年 教科書図書検定基準「外国語の標準的な現代文学作品が読めること」
1952 年 「文学面に限ることは必要でもないし、望ましいことでもない」
1955 年 日本経営者団体連盟が「役に立つ英語」へ転換すべしとの要望
→ 以後脱英米文学への政策が加速する
1960 年代「主として英語国民のもの」から「広く世界の人々のもの」を選択
1979 年 共通一次試験の導入によって、かつては入学試験に出題された文学か
ら、up-to-date な内容へと出題傾向が変化
― 10 ―
と良く聞かれます。小学生で英語を始めると,だいたいが「道を聞く」ことが
できるようになります。しかし,中・高・大学までその域を出ないのです。い
かにしてその上のレベルに行けるのかということです。また,将来英語で日常
生活を送る環境の学生は限られています。この大学の中だけでなく日本人のほ
とんどの人は,英語を使わなくても生きていけるでしょう。英語ができる人は
とてもよくできるが,できない人はまったくできない。その両極端な格差はさ
らに増大することでしょう。さらに,日本中の大学改革によって「文学部英米
文学科」がなくなってしまいました。
「英米文学科」「英米文化学科」「英米語
学科」の中で,今残っているのは,ほんのわずかの「英米文学科」です。みん
な「コミュニケーション学科」になっています。
日本の英語教育を支えてきたのは英米文学科です。2009年の5月,東大の駒
場キャンパスで「英米文学を教えない今の大学で英米文学研究者は必要か」と
いうテーマで日本英文学会がシンポジウムで話し合いました。英米文学者は冷
遇されているというわけです。しかし,英米文学研究者は長く英語に関わって
きたのだから,大学から追い出すのはまだ早いのではないかというところまで
で,結論は出ないで終わっています。
私がこれまでに使用した主な文学教材は,まず Romeo and Juliet。とても難し
い内容ではありますが私自身はおもしろかった。Sophie's World.ノルウェーの
作家が書いたもので日本語版のテキストもありましたが,これは成功しません
でした。内容が「なぜ人は生まれてきたのか」というような難しいものだった
のです。Harry Potter は2年間ぐらい使いました。ハリーを原書で読めたという
ので好評で,150人の学生が全員がこのテキストを持っているわけですが,持っ
〈注 8〉これからの英語教育への危惧とは?
その1 標準的な英語で書かれたものを「読まない」ことによって、語るべき自己
が欠落していて、どのようにして「話せる英語」の修得ができるのか?
その2 将来英語で日常生活を送る環境にある学生の数は限られている。
motivation が生じたときに最も学習の成果が上がるのだから、
英語の能力の格差は増大する。
その3 大学改革による「文学部英米文学科」の廃止
「英米文学を教えない今の大学で英米文学研究者は必要か?」
(2009 年 5 月 日本英文学会・東大駒場キャンパス)
― 11 ―
ていること自体が嬉しく,おしゃれな感じらしく,楽しんでいる様子でした。
全部読めるわけではありませんが。さらに The Man Who Planted Trees.フラン
ス語が原作ですが,最初は英語版で出版されました。
学生のために事前に,200の質問を作りました。The Happy Prince and other
Tales.これは19世紀のオスカー・ワイルドの作品。原書を使う場合のディメリッ
トは,何ページの何行目か確認できないこと。今,どこをやっているのか,共
通認識を学生がもつのが難しいということです。
最後に,私が心がけている「キャリア教養学科」における英語教育の基本理
念についてですが,なかなか「楽しく」とは言いがたいのが大学教育ですが,
しかし「楽しく」ではなく「おもしろく( interesting )」が教養を身につけるこ
との基本だと考えています。それから英語は好き,嫌いが激しい科目ですから,
イヤイヤ勉強している学生もいます。そんな学生に対しても必ず指名して授業
に引っぱり出します。公平に,つまりフェアにやるということです。これが私
の心がけている「イングリッシュ・リテラシー」の授業の基本です。
最後になりましたが,〈注9〉私は学生に対して厳しいと自認しています。
しかし,学生には「どのようなことでもいつでも聞いてください」と言ってい
ます。
最後になりましたが,シェイクスピアの『ハムレット』で,王子ハムレット
は父の弟と再婚する母を非難しますが,そのあとにこのようなセリフがありま
す。〈 I must be cruel only to be kind. 〉
「私はあなたのことを思って厳しくす
るのです」。それが私の教える立場としての理念です。
御静聴ありがとうございました。
〈注 9〉私の心がける「キャリア教養学科」における英語教育
「イングリッシュ・リテラシー」の基本理念
・学校英語(教室)の学習は楽しく(enjoyable)はできないが、おもしろく(interesting)
はできる。
・
「文法と発音の習熟は不可欠である」 最低限の使用ルール
・言語(英語)スキルの基本は読む(発音する)こと・書くこと
→ 発音できない語は運用できないのだから
・曖昧な日本語訳は避ける。
― 12 ―
【付記】これまでに使用した主な文学教材(総合教材を除く)
*Romeo and Juliet ( retold edition )
*Sophie’s World
*Harry Potter and the Philosopher’s Stone
*Harry Potter and the Chamber of Secrets
*The Man W ho Planted Trees
*The Happy Prince and other Tales
日本語版テキスト
by Jostein Gaarader
by J.K. Rowling
by J.K. Rowling
by Jean Gion
by Oscar Wilde
― 13 ―
日本語版テキスト
原書
原書
原書
原書
2009年度 第1回常磐短期大学FD研究会
「教養英語と文学」
発行日
2010年3月30日
発行所
常磐短期大学FD委員会
〒310-8585 茨城県水戸市見和1−430−1
TEL 029-232-2511
(代)
印刷所
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〒310-0036 茨城県水戸市新荘3−3−36
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(代)