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382
第 43 回地盤工学研究発表会
(広島) 2008 年7月
D - 06
泥炭地盤の弾塑性 FE 解析用土質パラメータの決定法
泥炭、有限要素解析、カムクレイ
土木研究所 寒地土木研究所
国際会員
○林
宏親
北海道大学大学院 工学研究科
国際会員
三田地利之
土木研究所 寒地土木研究所
国際会員
西本
聡
1.まえがき
泥炭地盤の変形解析として、カムクレイモデルを用いた FE 解析の有効性が既に明らかとなっている 1)が、その際の土
2)
質パラメータの決定が実務上の問題となっている。泥炭地盤は極めて不均質に堆積しており
、土層の代表パラメータ
を決定するには、数多くの試験が必要となる。しかし、高価な三軸圧縮試験などを数多く行うことは、大規模プロジェ
クト以外では現実的ではない。また、既存の限られた試験結果からパラメータを推定しなければならないこともある。
そこで、泥炭の自然含水比や強熱減量などから、弾塑性 FE 解析に用いる土質パラメータを決定する方法を検討した。
2.解析用土質パラメータと物理インデックスの関係
2.1 圧縮指数、膨張指数および限界状態の応力比 3)
12
近似式
Cc=0.01Wn
北海道内の泥炭地盤から採取した 173 個の不撹乱試料について、自然含水
い直線的に増加しており、Cc=0.01Wn(%)で近似できる。次に Cc と膨張指数
Cs の関係を図-2に示す。Cc の増加に伴い Cs が増加している。全試料の 90%
R=0.88
圧縮指数 Cc
比 Wn と圧縮指数 Cc の関係を整理した(図-1)。泥炭の Cc は Wn の増加に伴
8
4
は Cs=0.05~0.2Cc の範囲内にあるが、単純な荷重増加問題においては、この
0
程度のばらつきは FE 解析結果に大きく影響を与えないことが確認されてい
る 4)。したがって、Cs=0.1Cc で近似して良いと判断できる。
限界状態の応力比 M は有効せん断抵抗角φ’から、M = 6sinφ’/ (3 - sinφ’)で決
0
図-1
2.2 静止土圧係数
5), 6)
800
1000
泥炭の自然含水比と圧縮指数 3)
近似式
Cs=0.1Cc
R=0.60
1.6
膨張指数 Cs
従い、φ’がほぼ直線的に増加し、その関係はφ’= 0.19Li (%) + 32 で近似できる。
600
2.0
料を採取し、等方圧密非排水三軸圧縮試験を実施した。強熱減量 Li とφ’の関
は、50°を超えるφ’があった。また、Li の増加すなわち有機物量が増えるに
400
自然含水比 Wn (%)
まる。北海道の泥炭地盤において、泥炭、有機質粘土および粘土の不撹乱試
係を図-3に示す。粘土に比べ、有機質粘土および泥炭のφ’は高い。泥炭で
200
Cs=0.2Cc
1.2
0.8
0.4
Cs=0.05Cc
弾塑性モデルの場合、応力の増分が同じであっても、初期応力状態が違え
0.0
0
4
8
ば生じるひずみが異なる。したがって、初期の原位置応力を定義する静止土
12
圧縮指数 Cc
図-2
圧係数は、解析結果に大きな影響を与える。そこで、三軸圧縮試験と同じ箇
泥炭の圧縮指数と膨張指数 3)
所から採取した不撹乱試料の三軸 K0 圧密試験を実施した。図-4に sinφ’と
Jaky7)の提案式 K0nc=1- sinφ’が適用できることがわかる。次に、過圧密状態で
の静止土圧係数 K0OC を K0OC=K0NC OCRm によって表現したときの定数 m と
Li の関係を図-5に示す。ここで、OCR は過圧密比である。粘土と比較して
泥炭の m は著しく大きく、応力履歴の影響を強く受けることがわかる。また、
70
有効せん断抵抗角 φ’(deg.)
正規圧密状態での静止土圧係数 K0nc の関係を示す。泥炭や有機質粘土にも、
Li の増加に伴って m が直線的に増加し、m =0.005Li (%)+ 0.45 で近似できる。
R = 0.80
50
40
30
20
0
泥炭地盤の不均質性を考えると、連続的な情報が得られる原位置試験も有
用である。図-6にダイラトメータ試験から得たインデックス KD と三軸 K0
近似式
φ' = 0.19Li + 32
60
20
40
60
80
100
強熱減量 Li (%)
図-3
強熱減量と有効せん断抵抗角 3)
圧密試験結果を示す。岩崎 8)と Marchetti9) が粘土地盤などを対象に KD と K0
0.8
の関係式を提案しており、図中に併記した。泥炭や有機質粘土には既往式の
K 0NC = 1- sinφ'
適用性は低く、これらの土質の推定式として K0=0.54 KD0.13 を提案している。
図-7は北海道の泥炭地盤4箇所において実施した現場透水試験(ボーリ
ング孔を利用した回復法)から得られた透水係数 kf および段階載荷圧密試験
(以下、圧密試験)から求めた透水係数 kl を示している。kl は有効土被り圧
に対応する値である。室内に対する現場透水係数の比 kf/kl は、粘土で 3~7
K 0NC
2.3 透水係数
0.6
0.4
泥炭
有機質粘土
粘土
0.2
0.0
0.2
程度なのに対し、泥炭では 5~30 の範囲のものが大部分であり、平均的には
Determination Procedure of Soil Parameters for Elasto-plastic FE Analysis of Peat Ground:
0.4
0.6
0.8
図-4
sinφ’と K0NC5)
H. Hayashi (Civil Engineering
Research Institute for Cold Region, CERI), T. Mitachi (Graduate School of Eng., Hokkaido Univ.) and S. Nishimoto (CERI)
763
1.0
sinφ'
10 程度であった。木暮 10)は、泥炭地盤
1.0
1
m = 0.005L i + 0.45
中の大きな植物遺骸や灌木類の周りが
0.13
K0OC=0.54・KD
0.8
K0
いる。泥炭の圧密試験は供試体成形の
m
通水経路となりやすいことを指摘して
0.6
岩崎
関係上、大きな植物遺骸などを避けて
実施せざるを得ない。したがって、圧
0
20
40
正規圧密領域の間隙比 e と透水係数
Ck の関係を図-8に示す。Li の増加に
比例して Ck が線形的に大きくなるこ
0.1
1
K D と K0
図-6
5)
6)
4.0
泥炭・有機質粘土
1.0E-05
1.0E-04
k f /k l = 1
1.0E-03
1.0E-02
1.0E-02
1.0E-03
1.0E-04
粘土
3.0
2.0
1.0
k f / k l = 10
C k =0.024 Li(%) +0.8
0.0
1.0E-05
1.0E-06
0
1.0E-07
20
40
60
強熱減量 Li (%)
圧密試験の透水係数k l (cm/s)
図-7
10
KD
泥炭
有機質粘土
粘土
1.0E-06
とがわかる。泥炭の透水係数は圧密圧
力に強く依存し、有機物量が多いほど
0.1
0.01
100
透水係数の変化係数 C k
および粘土の Li と圧密試験から得た
80
1.0E-07
現場透水試験の透水係数k f (cm/s)
初期間隙比である。泥炭、有機質粘土
強熱減量と m
図-5
ているとは考えにくい。
る。ここで、k0 は初期透水係数、e0 は
60
強熱減量 L i (%)
の指摘した土層全体の透水性を評価し
k は、k=k0exp((e-e0)/Ck)で関係づけられ
泥炭
有機質粘土
粘土
0.2
密試験から得られた透水係数は、木暮
Marchetti
0.47
K0OC=(KD/1.5) -0.6
0.57
K0OC=0.29・KD
泥炭
有機質粘土
粘土
0.4
室内透水係数と現場透水係数
図-8
80
100
強熱減量と透水係数の変化係数
間隙比の減少に伴う透水係数の低下が
簡便法 線形的に著しくなり、Ck=0.024Li (%)+0.8 で近似できる。
精密法 解析用土質パラメータ
以上のことより、泥炭地盤の FE 解析用透水係数については、土
層全体の代表的な透水係数を与えると考えられる現場透水試験から
M
②
①
強熱減量試験
K 0NC
④
k0 を求めた上で、圧密の進行に伴う透水係数の低下を圧密試験から
③
φ'
CU三軸圧縮試験
m
得られる Ck をもって考慮することが望ましい。
三軸K0圧密試験
σ V0'
Pc
OCR
⑥
⑦
⑧
3.泥炭地盤の弾塑性 FE 解析用土質パラメータの決定法
K 0OC
ダイラトメータ試験
⑩
以上の結果を整理したものを図-9に示す。このフローチャート
v
を利用することによって、泥炭地盤の弾塑性 FEM に用いる土質パ
γt
湿潤密度試験
⑤
含水比試験
⑬
ラメータを圧密非排水三軸圧縮試験や圧密試験などの力学試験から
⑪
λ
⑭
κ
決定(精密法)、あるいは自然含水比や強熱減量など簡易な物理試験
⑮
から推定(簡便法)することができる。
⑨
土粒子の密度試験
⑫
段階載荷圧密試験
e0
⑯
k f/k l
泥炭地盤は著しく不均質に堆積しているので、力学試験と併せて
k f0
物理試験を数多く実施し、平均的な物理インデックスから推定され
⑰
現場透水試験
Ck
る土質パラメータと力学試験から直接求めた土質パラメータの両者
を勘案して、解析用パラメータを決定する方法が合理的である。
: 必要な原位置試験・室内土質試験
: 計算過程で必要な地盤定数
4.まとめ
: 解析用土質パラメータ
泥炭地盤の弾塑性 FE 解析に必要な土質パラメータと自然含水比
や強熱減量に相関関係が認められることを利用して、解析用土質パ
ラメータを決定するフローチャートを提案することができた。地盤
工学の分野においても性能設計の導入が進みつつあり、従前以上に
① φ ' = 0.19Li (%) +32
⑦ OCR = P c /σ V0'
② M = 6sinφ ' /(3-sinφ ')
③ K 0NC = 1-sinφ '
Jaky (1948)
⑧ K 0OC = K 0NC OCR
④ m = 0.005Li (%) +0.45
⑨ K 0OC = 0.54 K D
⑩ v = k 0 /(1+k 0 )
⑤ γ t = G s γ w(1+W n)/(1+G sW n)
⑥ σ V0' = γ th -P w
⑪ λ = C c/2.3
⑫ κ = C s/2.3
泥炭地盤対策工のコスト削減にも寄与できると考えている。
⑬ C c = 0.01W n(%)
m
⑭ C s = 0.1C c
⑮ e0= GsWn
⑯ k f/k l = 10
⑰ C k = 0.024 Li (%) + 0.8
※ここで、P wは水圧、P cは圧密降伏応力、v はポアソン比である。
泥炭地盤変形予測の重要性が増している。本検討によって、泥炭地
盤の変形解析精度の向上が図られれば、安全側の設計となっている
0.13
※⑤および⑮式は、飽和土のみに成り立つことに注意が必要である。
泥炭地盤は、一般に地下水位が高く飽和状態にあることが多い。
図-9
泥炭地盤の弾塑性 FE 解析用土質パラメータ
の決定法
【参考文献】
1) Hayashi, H., Nishikawa, J., Odajima, H., Mitachi, T. and Fukuda, F.: Deformation Analysis of Peaty Ground with Cam Clay Model, Proceedings
of IS-Hokkaido, Vol.1, pp.575-581, 1994.
2) 佐々木晴美:泥炭地盤の工学的性質の均一性に関する一考察、第 28 回土木学会年次学術
講演会講演概要集(第3部門)、pp.284-285、1973.
3) 林宏親、三田地利之、西本聡:泥炭地盤有限要素解析用のカムクレイパラメ
ター決定に関する検討、第 40 回地盤工学研究発表会発表講演集、pp.857-858、2005.
4) 林宏親、三田地利之、西本聡:泥炭地盤の
弾塑性有限要素解析に用いる土質パラメーターの決定法、地盤工学会北海道支部技術報告集第 45 号、pp.243-248 、2005.
5) 林宏
親、三田地利之、田中洋行、西本聡:泥炭性軟弱地盤の静止土圧係数とその評価、土木学会論文集 C、Vol. 62、No. 1、pp.127-138、2006.
6) 林宏親、西本聡:ダイラトメーター試験による泥炭性軟弱地盤の静止土圧係数の評価、第 61 回土木学会年次学術講演会講演概要集
(第3部門)、pp.347-348、2006.
7) Jaky, J.: Pressure in silos, Proceedings of the 2nd International Conference on SMGE, Vol.1, pp.103-109,
1948.
8) 岩崎公俊:フラット・ダイラトメータ試験による静止土圧係数の評価、第 30 回土質工学研究発表会発表講演集、pp.271-272、
1999.
9) Marchetti, S.: In situ tests by flat dilatometer, Journal of the Geotechnical Engineering Division, ASCE, Vol. 106, No. GT3,
pp.229-321, 1980.
10) 木暮敬二:高有機質土の地盤工学、東洋書店、pp.56-59、1995.
764