特別奨 学生 成長 の 軌 跡 - 金沢工業大学

金沢工大を選んだ若者たち
とみつか ま ゆき
ノート」
を付けることだ。何か1つ、
そんな富塚が自分と交わした1つ
の約束がある。それは、毎日「成長
まさに目の回るような忙しさである。
ン”
を見つけたいな」
。教師の卵はそ
徒が勉強したくなる“魔法のホルモ
「教師の身振り手振りひとつで、生
ったね」
と言うようになった。
いた親も、
「KITに入学して良か
たが、すぐに強さの理由が分かった。
トを作っていたのか」
。市川は驚い
た。
「こんな人たちがあんなロボッ
いのほか普通科出身の学生が多かっ
の経験者ばかりと思っていたが、思
プロジェクトに加わった。工業高卒
である。体内の情報伝達をつかさど
ス学科3年の市川智章
( )
=静岡県
世界初の本格2足歩行ロボット
「ASIMO
(アシモ)
」
。ロボティク
の原点になっている。
日集まり、夕方5時から夜9時まで
休みなくロボットと向き合っていた。
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(北國新聞社 月刊誌「北國アクタス」 2012年12月号掲載)
|パブリシティー企画|
「自ら考え、行動する技術者」を育てたい。そんな思いから、金沢工
業大学(以下KIT/ケイアイティ)では「特別奨学生制度」を設
けている。優れた成績を修めるとともに、目標に向かって突き進む
力を持った学生に、国立大学標準額との差額を給付する制度であ
る。選抜された学生はその誇りを胸に、
KITの学習環境を最大限
に生かして、夢の実現を目指すのである。
(文中敬称略)
特別奨学生 制 度
)
ズプログラム等の課 外 活 動 」の両 面
(リーダーシップアワード生制度
高校の理科教師を目指す富塚が進
学を許されたのは、地元の国立大だ
で優れた成 果 を 修め、
リーダーとな
恩師のような先生に
けだった。授業料が安く、女の子の
学 独 自の奨 学 制 度 。特 別 奨 学 生に
る人 材の育 成を目 指す金 沢工業 大
万 5200円 、2 年 次 以 降
その日成長したと思えることを記入
う言って、屈託のない笑顔を浮かべ
とが給付の条件になる。
た課外活動プログラムに参加するこ
フェロー、
メンバーとも、大学側が定め
ンバーは年 額
万 円が支 給される。
万9200円 )、
スカラーシップメ
年次
ローは国立大 学 標 準 額との差 額(1
の2種 類があり、
スカラーシップフェ
プフェローとスカラーシップメンバー
する。特 別 奨 学 生にはスカラーシッ
称 を 与 えると 共に、奨 学 金 を 給 付
は、「リーダーシップアワード生 」の名
「 授 業 等の正 課 」と「KITオナー
(以下、フェロー)
だった。応用バイ
1人暮らしは不安があったというの
うち 人がスカラーシップフェロー
オ学科1年の富塚摩雪
( )
=兵庫県
立伊川谷高校卒=も、その1人であ
る。
の奨学生制度を知
ったのは、浪人中
のことだった。
富塚は教育学部
ではなく、専門学
部での研究を経た
うえで教師になる
ことにこだわりが
あった。KITに
する。授業、研究室、サークル、友
るホルモンにはさまざまな作用があ
立浜松南高校卒=は、独特の動きで
「生命の不思議さや命の尊さが実感
Tに進学し、入学と同時にロボット
として伝わり、すごく興味深い。友
達からは
『コオロギの話ばっかり』
と
笑われるけど」
入学して半年で、
いくつもの思い出が
できた。 月には穴
水町から野々市市
の扇が丘キャンパ
スまで夜通し歩く
「100キロ歩行」
に
参 加 し、見 事 完 歩。
充実した日々を口に
メンバーは学生が主体となってプ
ロジェクトに取り組む
「夢考房」
に連
た。
っ黒になった。
るが、分かっていない点も多い。ど
ゆっくりと歩みを進めるロボットに
今、一番熱中しているのは、研究
室で取り組んでいるホルモンの研究
のような状況で分泌され、どういう
目を奪われた。子どものころに受け
た感動は、 年以上たった今も市川
いちかわともあき
反応が出るかを、コオロギを使って
夢考房に通い詰め
人との語らい。ノートはみるみる真
は応用バイオ学科
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学を受験するものの、失敗。KIT
がその理由である。現役時は神戸大
IT。この春入学した1794人の
6700人余の学部生が在学し、
全国 都道府県から学生が集まるK
特別奨学生
成長の軌跡
があり、生物学を深く学べることに
魅力を感じた。何より、国立大と同
等の授業料で学べる制度がある点に
ひ
強く惹かれた。
「人前で話すのが好き」という富塚
も、さすがに面接では緊張したとい
う。それでも、専門性を持った教師
になりたいという思いを担当教員に
ぶつけた。その願いは伝わり、晴れ
てフェローに選抜。すぐに電車で駆
25
97
19
ロボットへのあこがれから「NH
K大学ロボコン」の強豪であるKI
研究する。
21
けつけられるよう、JR金沢駅近く
に住むことを条件に、親もKITへ
の進学を認めた。
高校の理科教師を目指し、
K
I
Tに入学した富塚
10
「様々な人と
教師への夢は熱い。
の出会いがあって成長できた。高校
で恩師と出会わなければ、今の自分
はない。生徒の持つ可能性を引き出
し、導いてくれた。私もそんな先生
になりたい」
。
47
42
する娘に、心配して
市川はロボコンにあこがれてK
I
Tを選んだ
「成長ノート」日々記す
希望を胸に進んだKITだったが、
課題の多さに驚いた。ほぼすべての
授業で課題が出て、それも個人だけ
でなくグループで提出するものもあ
る。フェローは大学側が定めたいく
つかのプログラムのうち、1つを選
んで参加することが定められており、
富塚は研究室での実習に参加してい
る。ここにサークル活動が加わり、
10
今年のNHK大学ロボコンで、市川(右奥)
は
主力メンバーとしてチームを支えた
45
富塚は研究室でホルモンについて学んでいる
研究室で実験に取り組む小林
んだが、翌年は予選でまさかの敗退
2010年大会で優勝した先輩た
ちの頑張りをKIT生として間近で
い続けた。
市川も年間300日以上夢考房に通
で成長できた。就活しながらロボッ
かったけど、それを乗り越えること
ボコンに参加して、苦しいことも多
来年度のテーマに向け、すでにロ
ボット作りに取りかかっている。「ロ
決意した。
は4年夏の大会まで続行することを
で引退する学生が多い。だが、市川
就職活動や卒業研究との兼ね合い
から、夢考房プロジェクトは3年生
前、両親は金沢
「私が生まれる
Tだった。
勧めたのがKI
白そうだよ」と
「この大学は面
のある父親が
の娘に、以前金
格だった。失意
受験したが不合
め国立大を3度
なすため、連日深夜1時ごろまで自
獣医師になるた
を喫した。主力メンバーとしてチー
トを作るのは大変。でも、それをや
で暮らしたことがあり、いい街だと
習室にこもったが、全く苦にならな
周囲の熱気に引っ張られる格好で、
ムを率いた今年は優勝候補の一角と
り遂げたら、きっと一回り大きくな
言っていたのを聞いて、興味が沸い
かった。
最後の挑戦
KITでロボコンをやりたい。市
川の思いは強かったが、半ばあきら
めてもいた。私立大に進むなら自分
で学費を払うよう言われており、第
沢に住んだこと
目されながら、決勝でライバル東大
れる」
。市川は最後の挑戦に熱意を
た。フェローに合格して学費の心配
感じ、次は自分たちの番だと意気込
に敗れ、準優勝となった。
たぎらせる。
が薄らぎ、両親も喜んで私をKIT
友人に誘われて参加した学生スタ
ッフのアルバイトも、
「お金をもら
夢がかなわなかったから、KIT
に出会えた。応用バイオ学科3年
の横井真帆( )=雲雀丘学園高校
よこ い ま ほ
1志望は福井大工学部に定めた。
父の勧めで金沢へ
に送り出してくれた」
年から入部した天文部では、児童館
(兵庫県)
卒=は笑顔でそう振り返る。
かしたら全然別の業界に飛び込んで
業に加え、部活動、
た生命科学系の授
った。興味があっ
それもつかの間だ
イや韓国に留学した。
め、3年時には短期プログラムでタ
など、大学近隣の住民とも親交を深
食グラスを手作りして観望会を開く
でプラネタリウムを開催したり、日
横井は現在、自ら立ち上げたサー
クル
「KIO」(キオ/知識向上会)
の
「本当に面白い大学」
のすべてが新鮮に
活動に傾注している。その名の通り、
れるため、スケジュ
成績が振るわなけ
ればフェローを外さ
た」
。
トをさせてもらっ
強しながらアルバイ
た情報処理など、勉
映った。課題をこ
横井にとって、そ
んだ哲学の研究室。
ムの1つとして選
課外活動プログラ
うのが悪いくらい」楽しかった。2
当初は男子学生の多さに圧倒され、
受験の失敗を引きずってもいたが、
特別奨学生制度を知ったのは受験
を間近に控えた高校3年の時だ。「フ
ェローに選ばれれば親も許してくれ
るかもしれない」
。市川はKITで
しかできないことがあると両親を説
得した。KITフェローと福井大の
両方に合格し、そのうえでKITに
行きたいと願う息子に両親も折れた。
「タイミングがよかった。僕が受験
する年に特別奨学生制度が始まった
が、もし1年遅れていたら、KIT
知らないことを何でも知ろうという
しまうかも」
。横井の好奇心は広が
には来られなかった」
集まりで、メンバーのそれぞれが興
る一方のようだ。
大学を
「使いこなす」
味のある分野を研究し、ほかのメン
バーに伝えるのが趣旨である。KI
Oを大学公認のサークルにするため、
積極的に部員の勧誘を続けている。
元信州大学とKITに合格し、
こ地
ばやしあすか
小林飛鳥
( )
=長野県立長野高校=
倒がらずに何でも教えてくれる。本
の乏しい私が研究室を尋ねても、面
があるのか」
。KITのやつかほリ
名前のある大学を出たところで意味
やりたいことをやれないなら、少々
は大いに迷った。
「大学全入時代に、
「言葉は悪いかもしれないけど、
『大
にサポートする体制が整っていた。
ともある。
えるプリペイドカードをもらったこ
して学長褒賞を受け、学食などで使
「KITは熱心な先生が多く、知識
当に面白い大学だと思う」
サーチキャンパス
(白山市)
は水関連
学を使いこなしてやろう』
と思った。
ール管理をしながら
間もなく始まる就職活動では、食
品系の企業を中心に受ける予定だ。
の研究をしており、小林の学究心を
先生も面倒くさがらずに、気分良く
物質や有機化学をテーマにした研究
結果、成績優秀者と
授業に取り組んだ。
「いろんなことに興味があり、もし
くすぐった。フェローに選ばれてお
所属する研究室ではカニの甲羅か
ら人間の皮膚の代用品をつくるなど、
も、小林の決意を後押しした。
を行っている。食品や医療、環境系
ものと信じ切っていたようだったが、
に合格した以上、そちらに入学する
の奥深さも痛感した。情報学や物理
化学の分野の広さを知り、水の研究
授業の傍ら、片っ端から研究室に
顔を出し、実験や実習に参加した。
「KITに来て成長できたと自信を
面白そう」
と目を輝かせる。
座」
も利用しており、
「警察の鑑識も
年生向けに開かれている「公務員講
企業への就職を検討しているが、3
小林の信念を聞くと、
「頑張れ」
と背
学といった専門外の施設にも通い、
「就職率が良い」
とKIT
もともと
受験を勧めたのは父だった。信州大
中を押してくれた。
持って言える。この大学を選んで本
の先生たちと英会話を楽しめる。学
イングリッシュラウンジでは外国人
究センター」
で丁寧に教えてくれた。
らない点があれば、
「数理工教育研
とを感じ取った。数学や理科で分か
積分の採点や、最新のソフトを使っ
どを時給800円で請け負った。「微
果の解析、資料やデータの映像化な
として、試験の採点やアンケート結
ている。小林も教員のアシスタント
KITでは1000人を超える学
生がさまざまな形でアルバイトをし
かもしれない。
らの表情こそ、その最大の証しなの
Tを選んでいる。充実感に満ちた彼
は特別奨学生制度をきっかけにKI
KITは国立大学にない魅力があ
る。そう信じたからこそ、学生たち
当に良かった」
びたいと思っている学生を、全面的
気負って入学した小林は、すぐに
自分の決断が間違っていなかったこ
知識の幅を広げた。
勉強しながらアルバイト
受け入れてくれた」
横井は両親の薦めでK
I
Tを選んだ
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り、学費を心配しなくても良いこと
小林は
「K
I
Tを選んで良かった」
と語る
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留学先のタイで横井は現地の大学生や
子供たちと交流を深めた
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