銅、亜鉛の排水処理の課題解決

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銅、亜鉛の排水処理の課題解決
沖津技術士事務所 沖津 修 工場で、排水の銅、亜鉛処理が
難しくなっている
製造ラインでの
高機能薬品
排水処理が難しい
処理コスト UP
日本のものづくりを支える産業に、プリント基板
製造業とメッキ業とがある。両者とも、製造過程で
多くの化学薬品を使用して製品を作る。近年、現場
図 1 排水処理が難しくなる原因
で使用する薬品の性能向上が著しい。
生産性の向上、
製品品質の安定化、作業性の向上など利便性が格別
いる。
に良くなっている。例えば、プリント基板製造にお
一方で、環境意識の高まりで、下水道へ排水を流す
いては、
レジスト膜の銅板への密着性を高める機能、
場合の排除基準が厳格化してきている。現場では、
感光後のレジスト膜を剥離しやすくする機能などは
今、環境経営が大きな課題となってきている。排水
進歩が著しい。メッキにおいては、光沢性を高めた
処理費用が増えているのだ。難処理排水の出現がコ
り、素材との密着性を上げたり、次工程での作業性
ストを増やしている。
を高める機能など、進歩が著しい。これらは、製品
を生産する側から見た進歩である。しかし、これら
亜鉛の基準が厳しくなった
の薬品が高機能になるほど、排水処理が難しくなっ
ている現実がある。それは、何故か。答えは、これ
メッキ排水でポピュラーなのは、銅、亜鉛、クロ
らの薬品では、銅や亜鉛を水に溶けやすくする性質
ム、ニッケルの 4 つだ。この中で、最も処理が安
が強くなっているからである。例えば、レジスト膜
定しているのは、クロムである。クロムは高度成長
の剥離液の機能向上とは、水に溶かして洗い流す機
時代に環境問題となった歴史があり、クロム処理技
能が向上しているのであり、排水処理が難しくなる
術はかなり進んだ。そのため、現場で処理ができず
ことと表裏一体と考えられる。ここ数年、私は、プ
問題になることはあまりない。
リント基板製造工場や、メッキ工場の排水処理の問
実は、亜鉛の処理が一筋縄では行かない。理由
題の相談を受け、国内外の現場を見て回ってきた。
は、亜鉛の持って生まれた性質だから何ともならな
現場担当者からは、
「最近、銅濃度が高めで」とか、
い。通常、
重金属排水は酸化還元で無毒化した後に、
「亜鉛濃度が下がらない」とか「処理出来ない原液
pH 調整で高アルカリにして水に不要な水酸化物に
のドラムが・・・」と言った声を多く聞く。
「最近、
してデカンターで沈殿分離して除く。しかし、亜鉛
製造工程に新しい設備は入っていませんか」
「
、最近、
の水酸化物は、ちょっとした pH の変動で、水に再
製造ラインが変更になって、使用薬品が変わってい
溶解する。特に、銅、ニッケル、クロムが混在して
ませんか」と聞き返すと、十中八九、Yes である。
いる場合(四種混合と言っている)
、亜鉛がいつも
排水処理部門の役割は工場での砦である。アメフト
排水中に残る。亜鉛は身近なものだが、排水基準を
で言えばラインバック、最近の言葉で言えば、バッ
満足するには、苦労する。
クエンド技術。ここが崩れたら、工場の運転ができ
この亜鉛に対する排水基準が、
水質汚濁防止法で、
なくなる重要な守護神なのだ。ここの苦労が増えて
5 年の猶予期間が終了し、昨年の 12 月に 2ppm に
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原水
(酸性)
中和
(pH7)
pH 調整
(pH > 11)
苛性ソーダ
消石灰
固液分離/
再中和
処理水
通常の、銅、ニッケル、酸化還元処理
後のクロムはこれで大丈夫。
しかし、亜鉛は処理が安定しない。工
夫が必要。
図 2 一般的な重金属排水処理のスキーム
厳しくなった。今回、さらに 5 年間猶予期間を延
(1) 処理剤の再評価
ばす措置も検討されているようだ。それだけ、充分
排水処理ラインで使用している薬液はそれで良いの?
な処理技術がないものと推測される。
① 種類は適切か ③ 投入ポイントは適切か
以下に、
各自治体の下水道排除基準値をまとめた。
② 使用量は適切か ④ 新しい処理剤を試す
横浜、川崎、さがみはらの基準が厳しい。
(2) 工場トータルで薬品使用を考える
Cu
Zn
Cr
Ni
3ppm
2ppm
2ppm
−
① 全体最適を考える
② 生産と排水処理での薬品の組合せは大丈夫か
環境省(国)
図 3 排水処理の低コスト化のポイントは 2 つ
茨城県
3ppm 2ppm ※ 2ppm
−
東京 23 区
3ppm
2ppm
2ppm
−
横浜市
1ppm
1ppm
2ppm
1ppm
量も重要である。新しい処理剤を試すことも効果が
川崎市
1ppm
1ppm
2ppm
1ppm
期待できる。最近、亜鉛と銅の排水を効果的に処理
さがみはら市
1ppm
1ppm
2ppm
1ppm
京都市
3ppm
2ppm
2ppm
2ppm
大阪市
3ppm
2ppm
2ppm
−
名古屋市
3ppm
2ppm
2ppm
−
場合は、食べ物の食べ合わせではないが、組み合わ
せの是非も考える。ラインでの投入ポイントや使用
する確かな薬剤も出てきている。2 つは、工場全体
で考えることである。製造ラインと排水処理ライン
の薬品の組合せやトータルコスト、製品品質、排水
処理のしやすさを全体最適で考えて作戦を立てる。
効果とコストの両立は、現状の分析、見直しと、
全体最適を考えることが一歩となる。
排水処理に困った際は、御一報を。
※電気メッキ業などは 5ppm
亜鉛、銅、ニッケルなら何とかなりますよ。
解決策
最近の排水処理技術は高度化してきている。設備
お問合せ先
と処理剤の 2 つの分野で技術が進歩している。し
沖津技術士事務所 代表
技術士(化学) 沖津 修
かし、経営環境が厳しい中での設備投資は難しい。
そこで、2 つの提案をしたい。1 つは、排水処理に
電話:050 ­ 3735 ­ 8751
FAX:050 ­ 3488 ­ 3936
E-mail:[email protected]
使用している薬液が現状の処理に合っているかどう
かを再考する事である。複数の薬液を使用している
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