トンネル完成に到るまで 土木設計室 那須 友昭 平成 20 年 5 月 21 日当社が設計に携わったトンネルは無事に貫通式を迎えた。坑口部に おいて、予想外の地質により多少の計画変更は生じたが、計画変更から 5 年、トンネル工 事着手から 1 年で貫通した。 平成 15 年にこの路線の工事が起点側の切土工事に着手された。この路線一帯の地質は、 志名層と呼ばれる一度空気に触れると非常にもろい状態になるスレーキングを起こすもの であった。 起点側パイロット道路の切土工事が進んだころ、ブロック状に崩壊が発生したことから計 画切土法面勾配の見直し、法面対策の検討が 必要になった。 図.幅員変更断面 新旧 この時点で計画断面を見ると、両側歩道の 植樹帯つきの広幅員道路の計画となってい た。全線を見ると片側が高速道路に平行して おり、片側は沿道開発はできない場所であり、 片側歩道の断面で十分ではないかとの疑問 が生じた。 そこで、法面計画の見直しとコスト縮減と 変更前断面 を兼ねて再検討を行うこととなった。全線を 見直してみると、当該区間は切土が多く土工 バランスが取れていないことから、残土量が 13 万m3、残土処理費は約 4 億円程度になる ことが予想された。このように「土工バラン スが図れれば工事費が安くなる」の観点から、 計画全体の変更が可能かどうか見直しを始 めた。工事着手しているため、全線の用地買 変更後断面 収は完了しており、その範囲内での変更とな る等いくつかの問題はあるが、道路の幅員変更等により土工のバランスを図りコストの縮 減を行った。 また、大規模切土が発生する区間の対策の検討・見直しを行った。この区間は表層より 盛土層・布志名層(粘土)・布志名層(砂質土)・大森層(砂岩)となっており、左側斜面 は流れ盤、右側斜面は受け盤となる。本地点での高切土は応力解放の影響で、層理面のゆ るみが生じやすく崩壊の可能性が高い。周辺の他事業での高切土部でも地滑りが発生して おり、その箇所ではアンカー工法が採用されている。この区間をトンネルにした場合と当 初計画の比較(下表参照)を行うと、当初計画では、残土処理費 4 億円に法面対策費、町 道のオーバーブリッジ等の付帯工事も併せて約 10 億円がかかり、トンネル案の費用 6 億円 の方が安価となった。このトンネル案への変更により、中間地点の集落通過位置の計画高 さを下げることができ、道路建設の地元への貢献度も高くなる。このような比較を個別に 行い、最終的には当初計画に対して約 6 億円程度のコスト縮減を行った。 当初設計からの見直し項目とそれに対するトータルコスト縮減率 段階 見直し項目 高切土区間付近 トータル工事費 縮減率 当初計画 両側歩道 開削 1,000 百万円 2,980 百万円 0.0% 幅員変更 片側歩道 開削 1,000 百万円 2,596 百万円 87.1% 幅員変更 片側歩道 トンネル 600 百万円 2,342 百万円 78.5% このような比較を基に「工事コストの縮減」「道路の使いやすさ」「残土運搬の沿道環境 の低減」を関係機関、地元に対し説明会を行い、了解を得られた。 結果的に当区間を見直したことの成果は大きい。既に設計済みで用地買収済み、もちろ ん地元説明も終わっている、しかも工事着手後。その中で、起点側での法面崩壊対策から 一変しての見直し提案。当社で行った設計では無いのにもかかわらず、話を良く聞いても らえたとの印象が強い。あたりまえのようだが、一度設計を終えた物件の根本的な見直し、 なかなかできない。話を聞いてくださった発注者の皆様、この事業に関わった方全ての方々 に技術屋として感謝です。 土量配分計画・新旧対応縦断図
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