(5)砂浜海岸の植物 海岸を歩いてみよう。珊瑚、貝類、有孔虫などの海の生物に由来する白い砂浜は、島の自然の美 しさを象徴する。近年は人間の生活ゴミで汚れてきたが、白い砂浜の中に自然の漂着物である植物 の果実や種子を探すことができる。これらの果実や種子は、ほとんどが亜熱帯、熱帯性のもので、 黒潮の流れにのって東南アジアの国々、島々からやってきた客人もいる。漂流果実で思い浮かぶの は島崎藤村の「椰子の実」で知られるココヤシで、果実は厚いコルク質の果肉に包まれて中の種子 を保護し浮くようになっている。果実や種子がコルク質となるものには、モモタマナ、ミフクラギ、 ゴバンノアシ、アダンなどがあり、クサトベラも同じような性質をもち、グンバイヒルガオも海流 で運ばれる漂着種子植物である。 漂着植物は適する環境で発芽、定着、成長して、島で生産された他の植物たちと一緒に砂浜の植 生を形成する。定着して砂浜の表面に一枚一枚の葉を出しているジシバリの下をていねいに掘ると、 たくさんの葉が砂の下の長い茎でつながっているのがみえるだろう。グンバイヒルガオの茎もこの ように砂に覆われて、一枚一枚の葉を砂上に出すことがある。強風などで砂が動いたり、移動しや すい砂浜に生育する植物の適応の仕方のひとつである。このような植物たちの生き方はまた、砂の 動きを弱めたり止める働きをもち、他の植物、ハマダイコン、ハマアカザ、ハマボッスなどの定着 をたすけたり、本来陸地に生育するカタバミ、エノコログサ、ギシギシなどの侵入を許したりする。 砂浜に定着する植物群は、砂、潮風、それぞれのもつ特性、他の植物たちとの対応などによって、 汀線から内陸の方へ草本植生(ハマニガナ群落、ツキイゲ群落、ツルナ群落)eクサトベラ−モン パノキ群落eアダン群落のようにゾーネイション(帯状分布)とよばれる特徴的な植生景観が発達 する。草本植生地ではクサトベラ、モンパノキのような木本植物も茎が砂に埋もれているのが観察 できる。 砂浜海岸の植物 137 砂浜海岸の景観図 オ オオ アダン クサトベラ アオノリュウゼツラン モンパノキ ツキイゲ ハマダイゲキ キ ハマダイコン 138 砂浜海岸の植物 オ オオハマボウ ハマササゲ ハマボウフウ シマアザミ ゲキ キ グンバイヒルガオ 砂浜海岸の植物 139 代表的な砂浜海岸の植生断面図 アダン アダン クサトベラ クサトベラ モンパノキ クサトベラ モンパノキ モンパノキ モンパノキ キダチハマグルマ モンパノキ 東側砂浜地 50m正面図 クサトベラ モンパノキ アダン オオハマボウ 砂浜植生票−1 砂浜植生票−2 東南海岸の砂浜植生−2 群 落 名 グンバイヒルガオーツルナ群落 汀線からの距離 19∼21m 調査面積 10G(2m×5m) 斜面方位 SE86° 傾斜角 7° 群 落 高 0.1m 植 被 率 10% 群 落 名 モンパノキークサトベラ群落 汀線からの距離 23∼28m 調査面積 25G(5m×5m) 群 落 高 低木層 1.0∼1.5m 草本層 0.1m 植 被 率 低木層 95% 草本層 2% 砂浜植生票−4 出現種 優占度・群度 出現種 優占度・群度 低木層 草本層 モンパノキ 5・1 アダン +・2 クサトベラ 1・2 クサトベラ + キダチハマグルマ + ハマアズキ + ヘクソカズラ + グンバイヒルガオ + ハマダイコン + クロイワザサ + 東南海岸の砂浜植生−3 東南海岸の砂浜植生−4 群 落 名 アダンーオオハマボウ群落 汀線からの距離 33∼38m 調査面積 25G(5m×5m) 群 落 高 低木層 1.5∼5.0m 草本層 1.0m 植 被 率 低木層 95% 草本層 1% 落 名 モクマオウーエダウチチヂミザサ群落 汀線からの距離 52∼58m 調査面積 50G(10m×5m) 群 落 高 高木層7.0∼10.0 亜高木層 4.0∼6.0 低木層1.0∼4.0m 草 本 層 1.0m 植被率 高木層20% 亜高木層 20% 低木層60% 草 本 層 10% 出現種 優占度・群度 出現種 優占度・群度 高木層 低木層(つづき) モクマオウ 2・2 ヘクソカズラ + 亜高木層 ノアサガオ + モクマオウ 1・2 ハマサルトリイバラ + マサキ 2・1 パパイア + イボタクサギ 1・2 草本層 ギンネム + エダウチチヂミザサ 1・2 ヘクソカズラ + ハマサルトリイバラ 1・2 ノアサガオ + アダン + 低木層 オオバギ + オオムラサキシキブ 3・3 トベラ + アダン 2・3 ギンネム + イボタクサギ 1・2 オキナワシャリンバイ + トベラ 1・2 オオシマコバンノキ + ゲットウ 1・2 パパイア + マサキ + ゲットウ + ギンネム + ヘクソカズラ + オオバギ + ハマサルトリイバラ + シマグワ + ノアサガオ + リュウキュウコクタン + 出現種 優占度・群度 出現種 優占度・群度 低木層 草本層 アダン 5・5 アダン + オオハマボウ 2・3 オオハマボウ + サルカケミカン + ヤブニッケイ + イボタクサギ + イボタクサギ + ヘクソカズラ + ヘクソカズラ + ハマサルトリイバラ + ノアサガオ + 140 モクマオウ 東側砂浜地 植生断面図 砂浜植生票−3 東南海岸の砂浜植生−1 出現種 優占度・群度 草本層 グンバイヒルガオ 2・2 クサトベラ + ツルナ + ハマダイコン + キダチハマグルマ + クロイワザサ + クサトベラ 砂浜海岸の植物 スナヅル Cassytha filiformis クスノキ科 主に砂浜海岸で見られる無葉で寄生性の つる性植物で、茎は糸状であたり一面をお おうように広がる。茎の長さは3∼5mく らいにのび、緑∼黄褐色を呈する。茎の片 方から出た吸収根で他の植物にくっつく。 茎のところどころから3∼4cmくらいの 直立した花茎をだして穂状花序に花をつけ る。 【現況・その他】浜崎の海岸に自生する。 薬用。薬効は利尿。 【方言名及び由来・意味】ニ−ナシハンザ ハスノハギリ Hernandia nymphaeaefolia ハスノハギリ科 本来砂浜海岸で見られる常緑高木である が、伊江島では海岸林として導入植栽され ている。葉は互生してつき、長さ5∼ 15cmの葉柄がある。葉身は革質で卵円形 をなし、長さ10∼30cm、鋭頭、基部は浅 い心形をなす。全縁で、表面は光沢があり、 両面無毛。花は白色で、径3mm。果実は 楕円状球形で、長さ約2cmで黒熟する。 この果実を包むように黄色または淡赤色の ほう葉(総包)がある。 【現況・その他】浜崎海岸の旅行村に防風 林として植裁。伊江島では移入種。 【方言名及び由来・意味】 果実 砂浜海岸の植物 141 シマキケマン Corydalis tashiroi ケシ科 海岸の低地や道路わき、農耕地などには える2年生草本で、全体が白っぽい緑色で、 もむと独特の臭みがある。葉は2回羽状複 葉で、小葉は長さ5cmくらいになる。茎 の先に長い花軸を出して、淡黄色の花を総 状につける。 【現況・その他】北海岸に多い。 【方言名及び由来・意味】ユシバインザ アブラナ Brassica campestris アブラナ科 海岸の砂地から農耕地や荒れ地などに見 られる1年生草本で、高さ20∼60cmくら いになる。根生葉はヘラ形で長い柄があり、 しばしば羽状に裂け、先は鈍くとがる。花 は春先に黄色の小さな十文字花で、茎の先 から出る総状花序でつく。若い葉をつんで 食用とする。 写真不明 【現況・その他】畑地に多く、用途は食用。 【方言名及び由来・意味】マ−ナ 142 砂浜海岸の植物 ハマガラシ Coronopus integrifolius アブラナ科 砂浜にまれにみられる1年生草木。茎は根際か ら分枝して横にはい、高さ10cm前後となる。 葉は互生し、御披針形または長楕円形、やや多肉 質で先はとがる。下方の葉は羽状に裂け、中部 および上部の葉は無柄、全縁または疎鋸歯縁、 長さ2∼4cm。花は2月頃、葉と対生する総状花序 をつけ、果期には伸長し長さ5cm位になる。花 は小花で、がく片は楕円形で長さ1mm位、花 弁は白色で長さ1mm位。雄しべ2個でがく片よ り短い。果実は角果で双生、やや凹頭となる。 【現況・その他】浜崎の海岸で数株を確認 したが、自生地が限られ、環境変化によ る減少が心配される。 【方言名及び由来・意味】 ハマダイコン Raphanus sativus f. raphanistroides アブラナ科 海岸の砂地や海岸近くの農耕地などに生 える2年生草本で、ダイコンによく似てい るが、根は太らず、径は2cm内外にしか ならない。葉は根元から多数生じ、大きさ は20cmくらいになるが、上部にいくにし たがい小さくなり、羽状の裂け目もなくな る。花は淡紫色を帯び、茎の先から出る総 状花序でつく。 【現況・その他】浜崎海岸やフナズ原海岸、 湧出の近くの農耕地などでふつうに見ら れる。食用。薬用。薬効は食欲不振、便 秘など。 【方言名及び由来・意味】ウプニ 砂浜海岸の植物 143 シロバナミヤコグサ Lotus australis マメ科 海岸の砂浜に生えるやや多肉質の多年生 草本で、茎は多数分枝して横に広がり、長 さ20∼40cmくらいになる。葉は奇数羽状 複葉で、側小葉は2対あるが、下の1対は 托葉状で小さく、上の1対は倒披針形で先 はわずかにとがる。花は白色の小さな花で、 腋生の散形花序に4個くらいつける。 【現況・その他】浜崎の海岸で1株を確認 したのみ。 【方言名及び由来・意味】 ハマアズキ(ハマササゲ)Vigna marina マメ科 海岸の砂浜に生育する匍匐性またはつる性草 本。アズキによく似るがササゲ属の種類である。 茎や葉には毛を生じず、茎の長さは5m位にな る。葉は3出複葉、小葉の形はかなり変化し、 広卵形∼卵状長だ円形または円状卵形などもあ る。表面は光沢があり、先端は鋭頭∼円頭。花 序は葉の基部から出て、長さ10∼15cm、総状 花序、上端付近に群がってつく時と2∼3花の 時もある。花は黄色で蝶形花、長さ約 1.5cm、 旗弁はやや円形、竜骨弁は真直、豆果は円柱形 で、長さ4∼5cmくらいになり、多少反曲する。 【現況・その他】浜崎海岸のような砂浜海 岸で普通に見られる。 【方言名及び由来・意味】 ハマダイゲキ Euphorbia chamissonis トウダイグサ科 砂浜に生える多年生草本で、根元から茎 が多数でて叢生でのび横に広がる。葉の質 はやや多肉質で、形状は卵状長楕円形で、 長さは2∼3cm、幅は1∼1.5cmくらいに なる。葉の縁は鋸歯はなく全縁である。花 は茎の先の葉腋につく。 【現況・その他】砂浜海岸にわずかに自生。 【方言名及び由来・意味】 144 砂浜海岸の植物 ショウジョウソウ Euphorbia heterophylla var. cyathophora トウダイグサ科 海岸砂丘の林縁で見られる1年生草本 で、茎は直立して高さ50∼70cmになる。 全体無毛で、葉は互生してつき、卵形から バイオリン形など多様。特に頂部の葉は赤 い部分があり、これが花のように見える。 花は一つのように見えるが、いくつかの花 が集まり、色は黄緑色で鐘形を呈する。 【現況・その他】砂浜海岸に多い。 【方言名及び由来・意味】 オオハマボウ Hibiscus tiliaceus アオイ科 海岸近くに普通に生える6mくらいの常 緑小高木で、街路樹や公園木、庭木として も植栽される。葉は互生につき、長い葉柄 を有し、扁円形から倒卵状扁円形、または 円形で質は厚い。上面は濃緑色であるが、 下面は灰白色で星毛を密生する。花は枝先 に6∼8月頃に咲き、大きく黄色である。 【現況・その他】島の海岸線沿いに自生す る。フナズ原海岸に多い。用途は防風林 や防潮林。皮をはいで繊維をとり、ロー プを作って農用具とした。また、家畜の 飼料としても利用。 【方言名及び由来・意味】ユナギ サキシマハマボウ Thespesia populnea アオイ科 海岸近くに生える高さ6mくらいになる 常緑高木で、若い枝、葉柄、葉に褐色味を 帯びる鱗片を密生する。葉は互生してつき、 卵円形で全縁、先端は鋭尖頭で、基部は心 形である。花は黄色で大きく、6月から9 月ころまで咲く。 【現況・その他】阿良の東方海岸の岩場で 自生木が見られる。用途は飼料用。 【方言名及び由来・意味】ユナギ 砂浜海岸の植物 145 テリハボク (ヤラボ)Calophyllum inophyllum オトギリソウ科 海岸近くに生える高さ20mに達する常 緑高木で、海岸防潮林として利用される。 葉は互生してつき、質はかたく、楕円形で 先端は円頭である。花は白色で、6月から 7月頃葉腋に出す総状花序につける。 【現況・その他】街路樹や公園木、防風林 などに導入されている。浜崎海岸。 【方言名及び由来・意味】ヤラブ テリハボクの花 モモタマナ (コバテイシ)Terminalia catappa シクンシ科 海岸に生える高さ10mに達する落葉高木で、 枝は輪生状につけ、傘状に枝を広げる。葉は枝 先に集まって互生してつけ、狭倒卵円形で、先 端は鋭頭、葉縁は全縁である。花は4月から7 月に咲き、白色で小さく、葉腋に出す穂状花序 である。花の上方は雄花で、下方には雌花また は両生花をつける。果実(核果)は楕円形で、 始め緑色を呈するが9月から12月頃に淡黄色の 熟果となる。成熟すると乾燥して淡褐色になり 水に浮き、海流によって散布される。自生木は 見られず移入と思われる。 【現況・その他】公園木や街路樹など緑化 木として導入されている。 【方言名及び由来・意味】クワデシャ 146 砂浜海岸の植物 ナンゴクハマウド Angelica japonica var. hirsutiflora セリ科 砂浜や海岸近くの草原などに生える大型 の多年生草本で、茎は直立して高さ1∼ 1.5mに達する。葉は1∼2回3出羽状複 葉をなし、やや多肉質である。小葉や裂片 は広くて先端は円く、縁には鋸歯があり、 長さ2∼5cm、幅1∼3cmの大きさであ る。脈上にはまばらな毛を有する。花茎は 高さ5∼25cmで、白い毛を密生させ、先 端に密な複散形花序をつける。花は小さく て白い。 【現況・その他】リリ−フィ−ルドなど北 海岸に多い。薬用。 【方言名及び由来・意味】ツァーリトウー ズィ ハマボウフウ Glehnia littoralis セリ科 砂浜の代表的な多年草で根は長く茎は短 い。高さは5∼30cmで茎には枝がない。 葉は地ぎわから数枚でているが、全体的に 小形なのでグンバイヒルガオなどにかくれ て育っている。砂浜が人為的な工作物とし てのコンクリート護岸になり、島内でのハ マボウフウはかなり減少している。 【現況・その他】浜崎の砂浜海岸で3株が 確認される。伊江島で絶滅が危惧される 植物。薬用。 【方言名及び由来・意味】パマゴ−プ ハマボッス Lysimachia mauritiana サクラソウ科 海岸砂浜や岩場の土だまりなどに自生し ている越年生草本。茎は地ぎわから数本の 茎をだし(株立ち)て直立し、高さ30cm 内外になる。葉は互生して、質は厚くやや 多肉質で無柄である。葉身は倒卵形または 倒披針形で、長さ2∼5cm。5∼7月頃 茎の先に白い花が円錐状に総状花序で集ま って咲く。 【現況・その他】砂浜海岸に多い。用途は 魚毒(漁法)として用いる。 【方言名及び由来・意味】ササンサ、 ササ スィキンサ。方言の由来はササは毒のこ とを指し、スィキは(入れる・漬ける) の意味。 砂浜海岸の植物 147 ミフクラギ Cerbera manghas キョウチクトウ科 砂浜や海岸低地に生える常緑の小高木 で、高さ5∼10mになる。葉は互生して 枝先にあつまり、葉身は倒披針形から長楕 円状披針形で、長さ12∼15cmくらい。花 は白色で径5cmで、中心は淡紅色を呈す る。果実は楕円形から卵状楕円形で、長さ 6∼10cm。緑色から熟するにしたがって、 えんじ色になる。内果皮は繊維質で、海水 に浮かびやすく、海流によって散布される。 木の傷口から出る乳液や種子は有毒。 【現況・その他】浜崎海岸で実生苗が1株 確認された。 【方言名及び由来・意味】 ハマヒルガオ Calystegia soldanella ヒルガオ科 海辺の砂浜に生えるつる性の多年草だがとき に内陸部の道端でも見られる。根茎は白色、地 中を長くはって繁殖する。茎は分枝して砂上を はう。葉は長い葉柄があり互生、葉身は長さ2 ∼3cm、幅2∼4cm、腎臓状楕円形で質厚く光 沢がある。先は円頭または凹頭、基部は深心脚、 両面共に無毛。花季は4∼7月。葉腋に葉よりも 長い花柄をのばして淡紅色のヒルガオに似た花 を日中開く。花冠はロート状、径4∼5cm、長 さ4cm位。果実は偏球形、径1.5cm位で中に硬 くて黒い径7mmくらいの種子がある。 【現況・その他】浜崎の砂浜海岸にごく少 数が自生している。護岸工事等によって生育 地が減少している。種子は海流にのって運ば れ分布域を広げる。 【方言名及び由来・意味】 アメリカネナシカズラ Cuscuta pentagona ヒルガオ科 海岸低地や荒れ地などで見られる寄生植 物で、茎は糸状で黄褐色を呈し、他の植物 の上にからみつき、かぶさるように広がる。 茎に突起状の寄生根があり、これで他の植 物の栄養をよこどりする。花は白色で、大 きさが径2∼3mmと小さく、茎のところ どころに集まってつける。 【現況・その他】南海岸地域に帰化してい る。 【方言名及び由来・意味】 148 砂浜海岸の植物 ソコベニヒルガオ Ipomoea gracilis ヒルガオ科 海岸近くの岩礁地や護岸林に生えるつる 性の多年生草。茎はひも状で長く地を這う か他物に巻付いて長さ1∼2mになる。葉 は2∼3cmの葉柄があり疎らに互生する。 葉身は卵状心形、長さ3∼5cm、幅1∼ 3cm、先は鈍頭∼鋭頭、基部は深心脚、 縁は普通全縁ときに細かい歯縁がある。花 季は3∼7月。葉腋から出る1∼3cmの 花柄に1∼3花開く。花冠はロート形、長 さ3∼6cm、径3∼4cm、舷部は桃紅色 で花冠内部の底は濃紅紫色を帯びる。果実 は球形で径8mm位で平滑。 【現況・その他】海岸の護岸工事などによ り生育地が減少している。 【方言名及び由来・意味】パマアサガオ グンバイヒルガオ Ipomoea pes-caprae ssp. brasiliensis ヒルガオ科 砂浜の前線に群生するつる性の多年生草 本で、茎は長く地表をはう。葉は軍配形で、 質は厚く光沢があり、長さ3∼8cm、幅 4∼10cmで、先端は凹み、左右から二つ おりになる。花は腋生し、葉柄とほぼ同じ 長さの直立した花柄に1∼6個つく。花は 漏斗(ろうと)形で、紅紫色を呈し、径5 ∼6cmで、先端は5裂する。 【現況・その他】リリーフィールドや浜崎 海岸に多い。 【方言名及び由来・意味】パマーアサガオ モンパノキ Argusia argentea ムラサキ科 砂浜海岸やサンゴ礁の隆起した岩場など に多く生える亜高木で、幹は直立し、ふつ う2∼5mくらいになる。樹皮は灰褐色で 縦に深く裂ける。葉は倒卵状楕円形をなし、 多肉質で先はにぶくとがり、小枝の先に集 まってつく。花は鐘形をした白色の小さな 花で、頂生または腋生の集散花序で密につ ける。 【現況・その他】砂浜海岸に多い。枯れる と軽く水に浮き、加工しやすいことから 水中メガネの材料として利用した。 【方言名及び由来・意味】ミージュキ 砂浜海岸の植物 149 イボタクサギ Clerodendrum inerme クマツヅラ科 海岸林に生える半つる性の低木で株全体 に臭気があり、枝は長さ2∼4mになる。葉 は1cmくらいの葉柄があり対生する。葉身 は革質、光沢があり卵形∼楕円形、長さ3∼ 10cm、 幅2∼4cm、 鈍頭、 全縁、 側脈は4∼6対、 中肋は下面に凸出、鈍脚。花期は初夏から 秋。枝の上部の葉腋に長い柄のある集散花 序を出し2∼3花つける。花冠は白色、筒部 は長さ2∼3cm、舷部は平開、径1.5∼2cmで 5深裂。雄蕊は4本、紅紫色を帯びて長く抽 出する。果実は径1cm位で種子は普通2個。 【現況・その他】海岸に多い。護岸工事な どにより生育地が減少している。防災林。 【方言名及び由来・意味】ポ−ギ ハマゴウ Vitex rotundifolia クマツヅラ科 海岸の砂地や岩場などに見られる匍匐性 の低木で、幹は地上をはって長さ1.5∼3 mくらいになる。小枝は四角形で白色の微 毛を密生する。葉は倒卵形で、質は紙質で、 先は幾分円みを帯び、基部はくさび形を呈 し、裏面は灰白色の毛が密生し、白っぽく 見える。花は淡紫色をした小さなロート状 花で、頂生の円錐花序で多数集まって咲く。 【現況・その他】北海岸に多い。防災林。 【方言名及び由来・意味】ポ−ギ ハマゴウの花 150 砂浜海岸の植物 クサトベラ(テリハクサトベラ)Scaevola taccada クサトベラ科 海岸の砂浜や隆起サンゴ礁の岩礁海岸な どに生える常緑の低木で、高さ1∼2mに 達し、海岸低地林の前面に生え、群落を形 成する。小枝は太いがもろく折れやすい。 葉は大型でやわらかく、やや肉質で、小枝 の先端に束生する。花は白色で、のちに帯 黄色に変わる。 核果は白く熟し、内果皮は固いコルク質 で、海流によって遠距離まで散布される。 【現況・その他】砂浜海岸や岩礁海岸に群 落を形成する。飼料用。 【方言名及び由来・意味】ゥウ−ジュキ リュウキュウヨモギ Artemisia campestris キク科 海岸の砂浜に多く見られる低木状の多年 生草本。茎は分枝して数多くつき、高さ 20∼50cmくらいになる。葉は2回羽状の 複葉で、裂片は糸状線形になり、先はにぶ くとがる。はじめの間は絹毛がみられるが、 後に無毛となる。頭花は球状で、3mmく らいの大きさになり、頂生の総状円錐花序 につく。 【現況・その他】伊江港付近にわずかに自 生する。自家用に栽培されているものが 多い。薬用。 【方言名及び由来・意味】パママツィ シロバナシマアザミ Cirsium brevicaule f. albescens キク科 海岸近くでふつうに見られる大形の多年 生草本。根茎は太く、茎は分枝して、高さ 30∼100cmくらいになり、クモの糸状の 毛を密生する。根生葉は長楕円形、やや厚 質で羽状に裂け、表面は光沢がある。裂片 は長楕円形で、鋸歯の先は針状にとがり、 さわると痛い。頭花は白色、または淡紅紫 色を帯びるが、ふつうは白色が多く、淡紅 紫色はまれ。 【現況・その他】浜崎や北海岸など島の海 岸線にふつうに分布する。ゴボウ状の根 茎を料理、薬用として利用する。 【方言名及び由来・意味】アザミナ・アダ ミナ 砂浜海岸の植物 151 ムラサキシマアザミ Cirsium brevicaule f. purpurascens キク科 本来海岸近くの原野や岩場、砂地などに 生える多年生草本であるが、島内での自生地 の確認はできなかった。茎は直立して高さ 15∼100cmくらいになる。根もとから出る 葉は、長さ20∼30cmくらいで羽状にさける。 葉の縁は鋸歯があり、先がするどい針状にな ってとがりさわると痛い。花は紅色で枝の先 に付く。葉の裏にめん毛がある。 【現況・その他】民家の庭先に緊急避難的 に植栽されている。 【方言名及び由来・意味】アダミナ ハマニガナ Ixeris repens キク科 砂浜海岸の砂に埋もれるように生える多 年生草本。地中に白色の地下茎をのばして 横に広がり、葉身と花を砂の外に出しなが 繁殖する。葉は互生してつき、やや質厚く、 3∼5角状心形で3∼5裂し、縁には不規 則な微凸状牙歯がある。花はあざやかな黄 色で、径3cmくらい。 【現況・その他】北海岸や東海岸の砂浜に 多い。 【方言名及び由来・意味】パマンジャナ キダチハマグルマ Wedelia biflora キク科 海岸の砂地や海岸林、岩場などに見られ る大形のつる性多年生草本。茎は他のもの にもたれかかるように長くのび、長さ3か ら7mにもなる。草全体に剛毛があり、表 面はざらつく。葉は卵形で、やや厚みがあ り、先はとがって3本の脈が目立つ。頭花 は直径3cmくらいの黄色で、枝先近くの 葉腋からでる。10cm内外の花べんに1か ら3個の花がつく。 【現況・その他】浜崎や西崎など砂浜のあ る海岸でふつうに見られる。 【方言名及び由来・意味】 152 砂浜海岸の植物 アダン Pandanus odoratissimus タコノキ科 海岸の砂浜や原野、岩場などに見られる 常緑の小高木。太い枝を疎に分枝し、幹か ら多数の支柱根(気根)を出す。葉は硬く、 枝の先端に束生し、線状披針形をなし、長 さ1∼1.5mくらいになる。縁と裏面の中 脈にするどいとげがある。 【現況・その他】海岸に多い。用途として は、防潮林や気根の繊維を利用した手芸 玩具の材料。 【方言名及び由来・意味】アダン ツキイゲ Spinifex littoreus イネ科 砂浜海岸に群落を形成して広がる多年生 草本で、長い匍匐枝によって増える。雌雄 異株で、葉は刺針状で硬く、内巻きする。 色は淡緑白色を呈し、長さ5∼20cm、幅 2.5∼3cmくらい。先端は急に針状にとが り、内側にみぞがある。雌花序は球形で径 20∼30cmあり、熟して乾燥すると脱落し、 風で砂浜を回転しながら種子を散布する。 【現況・その他】浜崎の海岸のみに自生す る。 【方言名及び由来・意味】マーパラシャ。 方言の由来は馬を走らすことを「マーパ ラシャ」と言い、ツキイゲの棘が馬に刺さ ると痛みで馬が走り出す所からきている。 クロイワザサ Thuarea involuta イネ科 砂浜海岸に生える匍匐性の多年生草本 で、匍匐枝は長さ7mに達することもある が、直立する稈は10cmくらいである。葉 は線状長楕円形で、長さ2∼5cm、幅3 ∼5mmくらい。花は穂状花序でつけ、約 1cmくらいになり、白色の小花をくし状 に咲かせる。 【現況・その他】砂浜海岸にふつうに見ら れる。 【方言名及び由来・意味】パマガギナ 砂浜海岸の植物 153 アオノリュウゼツラン Agave americana リュウゼツラン科 海岸近くの原野や砂浜などに植えられる 大型の多年生草本。葉は根生して20∼30 枚くらいもつき、多肉質で厚く灰緑色を呈 し、長さ1∼2mにもなる。葉の先端には 硬くするどい刺がある。花も5∼8mの花 茎をのばし、その先につける。 【現況・その他】海浜や海岸線に植える。 用途としては、昭和17∼19年頃、戦時 用の繊維を採取、ロープ材料として提供 したことがある。 【方言名及び由来・意味】トーアダン、ド ウグワイ ハマオモト(ハマユウ)Crinum asiaticum var. japonicum ヒガンバナ科 海岸の砂浜に多い大型で常緑の多年生草本 で、多肉質の葉柄がいくつも巻き重なって、円 柱状となり、茎のように見える(偽茎)。偽茎 は白色で高さは50cmくらいになり、太さは 10cmくらいになる。葉は偽茎の上部から四方 八方に出し、幅広く全縁、ゆるやかに波をうつ。 表面は光沢があり、質は革質。夏季に葉の間か ら花茎をだし、先に十数個の白色を呈する花を つける。種子は球形で、長さ2cm内外、白色 で乾燥に耐える。 【現況・その他】浜崎の海岸やリリーフィ ールドでみられる。用途は輪切りにして 表皮を採り薄く皮を剥ぐと風船が出来 る。子女の玩具・遊具。 【方言名及び由来・意味】サデク 154 砂浜海岸の植物 (6)分布記録はあるが、自生が確認されていない植物 ここでは、過去に文献や標本等で自生が記録されているが、今回の調査で自生していることが確認できな かった植物種をあげる。この中のいくつかは、さらに調査がすすむことで確認される可能性もあるが、その 一部は島からすでに絶滅している可能性も考えられる。 植物はあらゆる動物の食料とすみかを提供している。また、大気を浄化し、私たち人間の生活に潤いを与 えてくれるものでもある。 一方、植物の中には、研究がすすむことで新しい有用な資源植物になることがあり、植物が絶滅すること は将来の貴重な資源を失うことにつながる。したがって、今後こうした絶滅植物がでないように植物種の保 全を図る必要性があろう。 1.ヤナギバモクマオ(ヤナギヤブマオ) 2.ハクサンボク Boehmeria densiflora Viburnum japonicum 生息環境:がけ地、のり面、林緑 生息環境:山地森林 3.イワダイゲキ 4.シバニッケイ Euphorbia jolkinii Cinnamomum doederleinii ジクム 生息環境:岩礁海岸 生息環境:山地森林 5.インドヨメナ 6.ハマヒサカキ Kalimeris indica Eurya emarginata 生息環境:道路沿い、農耕地 ツアーリギイマ 生息環境:海岸、低地 (備考:ここで掲載した植物写真は島外で撮影したものである。) 自生が確認されていない植物 155
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