免震構造建築物の定期点検 - 免震テクノサービス

免震構造建築物の定期点検
ふる
はた
古
畑
ゆう
雄
さく
策
(株)免震テクノサービス
はじめに
実際の報告書事例
免震構造建築物は地震時の安全性が免震部材の機
免震A社本社ビル
械的特性に依存し、地震時に地盤と上部構造との相
第5年次定期点検報告書
対変位が在来の建物に比べて大きいことから、免震
部材及び上部構造周辺の継続的な点検を通じて所定
(株)
A ビルメンテが受諾しました、「免震 A 社本
の免震性能を維持させるため、定期的な点検が行わ
社ビル」免震部の「第5年次定期点検」を実施しま
れている。
したので以下にご報告致します。
チェックポイントとしては免震層・建物外周部の
クリアランス、エキスパンションジョイント等に関
なお、点検の詳細につきましては添付の付属書を
ご確認下さい。
し、免震建物の水平移動が可能かどうか、「上部構
造は支障なく動きうるか。」であり、免震部材が目
1.対象建物(点検した建物名)
視できる状態にある場合、「免震部材に劣化・損傷
1)名 称: A 社本社ビル
はないか。
」
、外観上の著しい変化や損傷の有無につ
2)所在地:神奈川県横浜市
いて調査している。また、免震建物点検技術者等に
よる「定期的な点検が行われているか、また地震等
2.点検日(点検年月日)
平成 21年(2009 年)1月15 日16日
が発生した場合の応急点検を実施しているか。」も
チェックしている。
実務で行われている点検の報告書は本文と付属書
3.点検実施者(誰が点検を実施したか)
1)立会:株式会社 A ビルメンテ
から構成されている。
本文は、点検結果を総括したもので、結果と以後
2)実施:株式会社免震テクノサービス
何をする必要があるか記載されている。
点検技術者:責任者 古畑 成一
(JSSI登録番号 第 04 120号)
付属書は、建物概要、点検管理体制、点検内容、
免震建物の維持管理基準─ 2007
(JSSI )、点検方法
と点検結果、免震部材配置図(下げ振り・ケガキ・
クリアランス位置図)
、設備配管・電気配線位置図、
検査データと検査状況写真、及び点検チェックリス
トが示されており、特に不具合がある場合は状況写
4.点検概要(何年目の点検か)
この定期点検は、下記の基準に基づき実施致しま
した。
社団法人日本免震構造協会編「免震建物の維持管
理基準─ 2007」
真と位置図が示されている。
ここでは、
(社)
日本免震構造協会が定める検査項
本年は竣工後5年目の定期点検として管理基準に
目( 免震建物の維持管理基準 - 2007
( JSSI )
)抜粋) 従い実施しています。
に関し、実際行われている点検内容が判るよう写真
を使って説明し、検査結果総括等も合せて紹介す
5.点検結果の概要
5 -1 免震部材(使われている免震部材は何か)
る。
なお、以下の解説では免震装置を日本建築学会の
免震構造設計指針に例い免震部材と称している。
点検対象免震部材
・積層ゴム支承
・弾性すべり支承
・鋼棒ダンパー
─ 1─
18基
10基
8基
建築防災 2009. 6
免震建物の維持管理基準─ 2007 ─抜粋
アンダーライン事項が5年次定期点検対象項目
建築防災 2009. 6
─ 2─
(社)日本免震構造協会編
1)積層ゴム支承(劣化・損傷はないか)
◇外観点検(外観目視点検 全数・ 18基 )
点検はゴムの変質、損傷(写真1)、ボルトの
緩み(写真3)、鋼材部の発錆、塗装剥離の有無
(写真4)について実施した。
その結果、積層ゴム本体に粘着硬化等の変質や
損傷等の異常は発見されなかったが、全体に取付
ボルト、ベースプレート部の一部に赤錆の発生が
見られた。
特にボルト部のワッシャーの端面に錆が多く発
写真3 ボルトに緩みは無いか
生していた。錆の程度は著しく進行している。
写真1 ゴムに損傷・クラック等の変状はないか
写真4 鋼材部に錆や塗膜剥れは無いか
◇変位測定(変位は変わっていないか)
(鉛直変位、水平変位測定 各4基)
計測の結果、竣工時初期値検査値に比較して、
鉛直変位(写真5)、水平変位(写真6)とも
に異常な変位は認められなかった。
図1 鉛直変位・水平変位計測方法概念図
写真5 鉛直変位に大きな変化は無いか
写真2 点検環境測定(データ処理用)
─ 3─
建築防災 2009. 6
写真6 水平変位に大きな変化はないか
写真9 ボルトに緩みは無いか
2)弾性すべり支承(劣化・損傷はないか)
◇外観点検(外観目視点検 全数・ 10 基 )
点検は本体の変質(写真7)、すべり板の損
傷(写真8)、ボルトの緩み(写真9)、鋼材部
の発錆、塗装剥離の有無(写真 10 )について実
施した。
その結果、弾性すべり支承本体に損傷、変色、
粘着硬化等の異常は発見されなかったが、取付
ボルト、ベースプレート部に進行した赤錆が見
写真 10 鋼材部に錆や塗膜剥れは無いか
られた。状況は積層ゴム支承と同様である。
◇変位測定(変位は変っていないか)
(鉛直変位、水平変位測定 各4基)
計測の結果、竣工時初期値検査値に比較して、
鉛直変位(写真 11)
、水平変位(写真12 )とも
に異常な変位は認められなかった。
写真7 ゴムに損傷、クラック等の変状は無いか
図2 鉛直変位・水平変位計測方法概略図
写真8 すべり面に有害な傷や突起は無いか
建築防災 2009. 6
─ 4─
写真 11 鉛直変位に大きな変化は無いか
写真 13 免震部材に近接して配管されていないか
5-2 建物クリアランス
敷地境界との間隔(写真 14)、建物との間隔
(写真 15 、16 )を確認した結果、免震層と外周部
の水平・鉛直クリアランスは設計値を満足し、竣
工時検査に比較して異常な変化のない事を確認し
た。
写真 12 水平変位に大きな変化は無いか
3)鋼棒ダンパー(劣化・損傷はないか)
◇外観点検(外観目視点検 全数・8基)
点検は形状の異常、損傷、発錆、塗装剥離、
取付ボルトの緩みの有無について実施した。
その結果、ボルト、ワッシャー部に塗装剥離、
錆の進行が見られ、一部本体部にも塗装剥離、
写真 14 敷地境界との間隔は確保されているか
錆が見られた。
なお、免震部材 S - 8 のN 側にある配管とのク
リアランスが180 mm
(写真 13 )になっており
確認が必要である。
◇変位測定(変位は変わっていないか)
(水平変位測定 各4基)
計測の結果、竣工時初期値検査値に比較して、
異常な変位は認められなかった。
写真 15 建物の間隔(水平変位)は確保されて
いるか
─ 5─
建築防災 2009. 6
図 16 建物の間隔(鉛直変位)は確保されているか
写真 18 ケガキの軌跡状況はどうか
5-3 建物位置(建物の位置に変化はないか)
◇下げ振りの位置(5台)
竣工時設定した0点に比較し最大3 mm 移動
している( 写真 17 )箇所があるが、数値は小さ
く誤差範囲内である。
写真 17 下げ振りに変化は無いか
図4 水平変位・鉛直変位計測方法概念図
図3 建物の位置関係概念図
5-4 別置き試験体
竣工時に設置した別置き試験体は所定位置に保
◇ケガキ装置の軌跡(1台)
竣工時設定した0点に比較し東西に最大
6 mm 稼動(写真18 )した軌跡が記録されてい
管され、指定圧力で加圧されていることを確認し
た。
た。
建築防災 2009. 6
─ 6─
5- 5 免震層内・建物外周部(免震層内・外周部に異
5- 6 設備配管、電気配線(設備配管・電気配線及び
常は無く、余裕度は確保されているか)
その経路の余裕度は確保されているか)
1)免震層北側の天井に結露が発生(写真 19 )して
いる。
2)建物東側の追加工事で設置したと思われる雨水
配管は、建物と地盤に直結(写真 20 )してい
配管の液体漏れ、傷、亀裂、取付、障害物につ
いて異常がない事を確認したが(写真 22 、
23 、
24、
25 )、
1箇所免震部材 I - 6付近の躯体と架台のクリ
アランス(230mm )
(写真 26 )が不足している。
る。
配管の可撓継手フランジ部(接続側フランジ含
3)建物南側に隣接して駐輪場が設けられており
む)の錆が進行している。
(写真 21)、子供の遊び場にもなっている。
写真 19 免震層に結露等の異常はないか
写真 22 設備配管に異常はないか
写真 20 問題となる追加工事はないか
写真 23 架台・ラックの間隔は確保さているか
写真 21 稼動範囲の安全は確保されているか
写真 24 配管経路の間隔は確保されているか
─ 7─
建築防災 2009. 6
写真 25 電気配線に異常はないか
写真 27 免震建物告知看板
錆の進行は弾性すべり支承、鋼棒ダンパーも
同様で塗装剥離も見られた。
以後の錆進行防止の為、タッチアップ等の塗
装補修をする時期にきている。
2)追加工事の建物と直結された設備配管は是正
処置が必要である。
3)建物と隣接して設けられた駐輪場は子供の遊
び場にもなっており場所の移動や注意喚起の看
板の設置等の安全対策が望まれる。
写真 26 躯体と架台の間隔は確保されているか
4)建物が免震建物である告知看板(写真 27 )を
免震層入口等に設置する事を推奨いたします。
6.点検結果の総括(点検結果総括表参照)
(点検の結果、今後何をしたら良いか記載されて
報告書作成者(報告書作成責任者は誰か)
株式会社 免震テクノサービス
いるか)
1)免震部材本体に異常は見られなかったが積層
ゴム支承の殆どの取付ボルトワッシャーの端
面やベースプレートに赤錆が見られ、錆は著
しく進行している。
図5 設備配管・電気配線の概念図
建築防災 2009. 6
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免震建物点検技術者 古畑 成一
(JSSI登録番号 第 04 120 号)
点 検 結 果 総 括 ( 点 検 結 果 を 総 括 し て い る)
─ 9─
建築防災 2009. 6