日米欧製薬企業のアライアンス ∼ 主要企業にみる - 日本製薬工業協会

日米欧製薬企業のアライアンス
∼ 主要企業にみるアライアンスの分野と形態 ∼
政策研レポート No.4
2002 年 9 月
医薬産業政策研究所
日米欧製薬企業のアライアンス
∼ 主要企業にみるアライアンスの分野と形態 ∼
政策研レポート No.4
2002 年 9 月
平井 浩行
(医薬産業政策研究所 前主任研究員)
本報告書の内容や意見は、筆者個人に属し、日本製薬工業協会や医薬産業政策研究所の
公式見解を示すものではない。
連絡先:
日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所
103-0023 東京都中央区日本橋本町三丁目四番一号 トリイ日本橋ビル五階
TEL:03-5200-2681、FAX:03-5200-2684
目
次
エグゼクティブ・サマリー...................................................... 1
1. はじめに ................................................................... 3
2. データ概要 ................................................................. 4
3. アライアンス件数の推移 ..................................................... 7
4. 分野別にみたアライアンス ................................................... 12
5. テクノロジー別にみたアライアンス ........................................... 19
6. 薬効分類別にみたアライアンス ............................................... 24
7. 契約ステージ別にみたアライアンス ........................................... 29
8. アライアンスのパートナー ................................................... 31
9. 考察 ....................................................................... 36
参考文献 ..................................................................... 39
日米欧製薬企業のアライアンス
∼主要企業にみるアライアンスの分野と形態∼
医薬産業政策研究所 前主任研究員 平井 浩行
エグゼクティブ・サマリー
欧米企業を中心に M&A(吸収合併)が繰り返され、世界の製薬大手企業と我が国の製薬
企業との間の規模格差が大きくなるにつれて、国内でも製薬企業再編の必要性を説く声が
高まってきている。しかしながら、市場のグローバル化やテクノロジーの進歩、研究開発
投資の規模の拡大に応ずる企業間のアライアンス(戦略提携)が製薬業界において活発に
進められていることは、M&A ほど目立たないだけに、十分な注目を集めていないように思
われる。本報告書では、日米欧の主要製薬企業によるアライアンスがどのように推移して
きたかを分野別、テクノロジー別、パートナー別などを軸に整理、分析し、その全体像を
把握することを目的としている。そして最後にこれらの分析を基に、アライアンス戦略の
今後の方向を考察している。
主たる分析結果を以下に示す。
・アライアンス件数は、80 年代後半以降、加速度的に増加した。1981 年からの 5 年刻み
での推移をみると、90 年代後半に 20 年間全体の半数近いアライアンスが行われている。
・テクノロジー別に分類すると、遺伝子組み換え、コンビナトリアル・ケミストリー、
ハイスループットスクリーニング等の新たなテクノロジーがアライアンス件数増加の
主な要因となっている。
・薬効分類別にみると、アライアンス件数は市場の動向に密接に関連している。日米欧
企業にほぼ共通してアライアンス件数の多い薬効分類は、「一般的全身性抗感染剤」、
「抗腫瘍剤及び免疫調節剤」、「中枢神経系用剤」、
「診断薬」であった。日本企業の場
合、90 年代後半に入り「消化器官用剤及び代謝性医薬品」と「循環器官用剤」が大幅
に増加している。今後、患者の増加が予想される生活習慣病である高脂血症、高血圧
症、糖尿病に対する治療薬を含む領域であり、将来の市場の拡大に対応したアライア
ンスといえる。
・バリューチェーンを構成する研究、開発、製造、マーケティング別にアライアンスを
みると、日米欧製薬企業に共通して最も多いのは、開発のアライアンスであり、それ
に次ぐのが、研究のアライアンスとなっている。
・1981-2000 年の 20 年間における日米欧製薬企業のアライアンスパートナーの構成をみ
ると、日米欧のいずれにおいても、バイオベンチャーをパートナーとするアライアン
スが多く 70%を越えている。日本企業のバイオベンチャーをパートナーとするアライ
アンスは、80 年代前半から後半にかけて急増し、その後も着実に増加している。また、
− 1 −
そのバイオベンチャーの国籍をみると、圧倒的に多いのは米国であり、日本のバイオ
ベンチャーとのアライアンスは少ない。
− 2 −
1. はじめに
企業はアライアンスを通じて、企業外から人・知識・テクノロジーなど、有形・無形
の経営資源を必要に応じて取り入れ、それらを組み合わせて業績の向上を目指している。
ドッグイヤーと言われるほどテクノロジーの進歩が加速化しているだけに、自社内部で
コアとなるテクノロジーを蓄積し進化させると共に、経営資源を外部からタイムリーに
かつ効率良く吸収し活用する戦略は不可欠である。また、
「スピード」が勝敗を決する
グローバルな競争の世界では、製品をいち早く上市し、売上・利益を極大化する必要が
ある。アライアンスは、「効率」と「スピード」を両立させ安定的・発展的な経営に繋
げていく有効なオプションである。
ゲイリー・ハメルとイヴ・L・ドーズは、アライアンスの目的として以下の 3 点を挙
げている1。
1) コ・オプション(Co-option)
潜在的なライバルや補完的な製品・サービスの提供者との提携によって、新し
いビジネスを生み出そうとすること。
①潜在的なライバルをアライアンスに取り込むことで、その脅威を効果的に中
和する。
②アライアンスを目指す企業にとって意味のある製品・サービスを持つ企業に
対し、連合への参加を呼びかけてネットワークによる経済効果を生み出す。
敵となる可能性のあるものを連合という屋根の下に取り込み懐柔するという方法
である。
2) コ・スペシャライゼーション(Co-specialization)
経営資源や業界での地位、スキル、知識などを結び付けることによってシナジ
ー効果を実現し、新たな価値を生み出すというものである。これは、今日のアラ
イアンスの中心をなしている。
3) 学習と内部化
まだ具体化されていない新しいスキルやマーケットで取り引きされていないコ
アとなる能力を学習、内部化し、アライアンスの垣根を越えて展開すること。
このようなことを目的とした様々な形態のアライアンスが製薬企業の世界でも活発
に実施されている。本報告書では、過去 20 年間の日米欧主要企業のアライアンスの推
移と現状を把握することを目的とし、若干の考察を試みた。
1
ゲーリー・ハメル、イブ・L・ドーズ「競争優位のアライアンス戦略」2001 年 ダイヤモンド
社
− 3 −
2. データ概要
今回対象とした企業は、2000 年度医薬品売上の上位 10 社に独国企業 2 社と日本企業
9 社を加えた 21 社である(表 1)
。
表1 対象とした製薬企業
企業
米
国
Merck、Pfizer、Pharmacia、Bristol-Myers Squibb (BMS)、Johnson & Johnson
(J&J)
欧
州
Glaxo Smithkline (GSK)、Roche、Novartis、Astra Zeneca (AZ)、Aventis、Bayer、
Boehringer-Ingelheim (BI)
日
本
武田、三共、山之内、第一、エーザイ、藤沢、中外、田辺、塩野義
データベースは、Recombinant Capital 社(ReCap 社)の ReCap’s Biotech Alliance
Database を基本の情報源として用いた。①SEC(米国証券取引委員会)にファイリン
グされている報告書、②バイオテクノロジー企業・製薬企業のプレスリリース、③投資
家向け説明会での企業のプレゼンテーションをもとにデータベース化したものであり、
1978 年から 2000 年までを対象期間とし、約 10,000 件を超えるライフサイエンス関係
のアライアンス情報が収められている。
このデータベースを使用するにあたっては、次の点について注意が必要である。
アライアンスは、企業にとっての重要な戦略であるため、企業機密に属する場合も多
く、全てのアライアンスが公表されているわけではない。例えば、ベンチャーに対する
初期段階での投資などは捕捉不可能であり、また、大学との連携については、日米欧い
ずれの場合も、インフォーマルな人のつながりを軸とした知識・テクノロジーの創造・
移転も多いため、データベースには表れないアライアンスが多数存在する。
また、ReCap 社のデータは上記の①∼③の条件に基づいているため、データ量が米国
企業に傾斜している可能性が高い。特に日本企業の場合は、SEC にファイリングしてい
ない、アライアンスに関してプレスリリースを発表するという慣行が定着していないな
どの理由から、実際のアライアンスの件数よりもかなり少なく見えることも考え合わせ
ておく必要がある。そこで、日本企業のアライアンスについては、その実態に出来るだ
け近づけるために、異なるデータソースから一部引用し、サブデータを作成して補完す
ることにする。即ち、日本企業については、日経 BP 社の「世界のバイオ企業」からの
データを用い、
不足部分を ReCap 社のデータで補足している。「世界のバイオ企業」は、
1987 年から原則隔年で 6 冊刊行されており、そのうちの 1989-90、1992-93、1995-96、
1997-98、1999-2000 年版(1999 年 6 月刊行)から重複する事例を削除したものを作成
し(以下“日本企業データ 2”とする)
、ReCap 社データと併せて図表上に示した。
今回用いた ReCap 社データは、2001 年 6 月現在でデータベースに登録されている
− 4 −
1981-2000 年のアライアンスに限定しており、2000 年の実績については、データ格納
のタイミングから十分ではないと思われる。そのため、必要に応じて、各社のアニュア
ル・レポートも参考としている。また「世界のバイオ企業」についても、刊行のタイミ
ングから 2000 年のデータは把握できず、また 80 年代前半のデータも捕捉率が若干低い
可能性がある。
欧米の対象企業は、M&A を重ねて現在に至っているケースが殆どのため、アライア
ンスの集計上は「グループ」とでも言うべき成り立ちとなっている(対象企業のアライ
アンスの構成は、図 1 のようになっている)
。例えば、グラクソスミスクラインのアラ
イアンス集計を行うと、グラクソ、ウェルカム、 スミスクライン、グラクソウェルカ
ム、グラクソスミスクラインとしてそれぞれが経営戦略上行ったアライアンスが全て含
まれており、加えて、吸収合併したアフィマックスの過去のアライアンスも含まれるこ
とになる。当然、各社各様のポジションがあり、それぞれの戦略の上にアライアンスを
行ってきているわけであるが、それぞれのアライアンスの意思決定の集合体が現在のグ
ラクソスミスクラインを構成していると考えて、基本的には1社のアライアンスの推移
として捉えている。厳密に捉えるならば、アライアンスの契約時の目的や、戦略的な位
置付けを把握するためには、M&A 前の状態で見るべきであるが、ここでは大きな流れ
を把握することを目的として、各企業データを日米欧にグループ化して表示し、日米欧
のアライアンスの大きな傾向を見ていくこととする。
アライアンスの内訳としては、ReCap 社のデータ区分より、バリューチェーン(研究、
開発、製造、マーケティング)
、提携の度合い(資本参加の有無)
、テクノロジー別、薬
効分類別、契約ステージ別、パートナー別といった視点から、日米欧各グループでの件
数の推移を追っていくことにする。
− 5 −
図1 欧米企業のアライアンス構成比
Merck アライアンス構成
AstraZeneca アライアンス構成
SIBIA, Calgon
Others
1%
17%
AstraZeneca
14%
AstraMerck
5%
Zeneca
42%
AstraAB
36%
Merck本体
78%
AstraMerck
7%
Pfizer アライアンス構成
Roche アライアンス構成
Corange
1%
BoehringerMannheim
15%
Pfizer
47%
WarnerLambert
53%
Roche
本体合算
50%
Syntex
8%
Genentech
26%
Novertis アライアンス構成
Pharmacia アライアンス構成
Sugen
14%
Pharmacia
本体
37%
Amersham
27%
Upjohn
19%
Ciba-Geigy
31%
Novartis
23%
Kabi
3%
Genetic
Therapy
6%
Sandoz
28%
Aventis アライアンス構成
BMS アライアンス構成
Others
6%
Zimmer
3%
Others
8%
Novartis Crop
Protection
4%
Aventis
6%
Others
28%
Squibb
3%
Pasteur
Merieux
Connaught
13%
Bristol-Myers
Squibb
88%
J&J アライアンス構成
Others
13%
J&J-G
23%
Bayer
Diagnostics
14%
Ortho-G
26%
Cutter Labs
2%
Bayer
84%
GSK アライアンス構成
BI アライアンス構成
Glaxo+GW
30%
Smithkline
57%
RhonePoulenc
Rorer
26%
MMD
6%
Bayer アライアンス構成
Janssen
12%
Centocor
26%
Hoechst
Marion
Roussel
21%
Karl Thomae
3%
Others
3%
Affymax
3%
Boehringer
Ingelheim
94%
Wellcome
10%
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 6 −
3. アライアンス件数の推移
今回取り上げた日米欧主要企業について、1981-2000 年までのアライアンス総数を見
ると 2,836 件であり、内訳は欧州企業 1,545 件、米国企業 1,092 件、日本企業 199 件と
なっている(表 2)
。日本企業について、
“日本企業データ 2”で見ると同期間のアライ
アンス件数は、577 件となる(表 3)
。
表2 各企業の売上高とアライアンス件数
企業
No.
医薬品売上
($, Mil.)
アライアンス件数
(1981-2000 年)
No.
企業
医薬品売上
($, Mil.)
アライアンス件数
(1981-2000 年)
1
2
Glaxo Smithkline
Pfizer
23,377
22,567
340
255
12
13
Bayer
Boehringer-Ingelheim
5,685
5,452
115
61
3
Merck
20,223
130
14
三共
3,737
17
4
Bristol-Myers Squibb
15,883
150
15
塩野義
3,453
27
5
Astra Zeneca
15,698
100
16
山之内
3,195
19
6
Aventis
14,899
376
17
エーザイ
3,028
19
7
Pharmacia
12,651
276
18
第一
2,761
29
8
Johnson & Johnson
11,954
281
19
藤沢
2,383
33
9
Roche
10,465
318
20
中外
1,728
16
10
Novartis
10,421
235
21
田辺
1,525
10
11
武田
6,594
29
合計
2,836
注 1:SCRIP’
S 2001YEAR BOOK より 2000 年度医薬品売上上位 10 社を抽出
注 2:売上は SCRIP’
S 2001COMPANY LEAGUE TABLES より引用
注 3:アライアンス件数は ReCap’
s Biotech Alliance Database より作成
注 4:三共、田辺については、決算短信より$1=110.38 円で算出
表3 “日本企業データ2”
(日本企業のアライアンス件数)
企業
中外
アライアンス件数
企業
97 藤沢
アライアンス件数
55
山之内
83 エーザイ
55
武田
81 塩野義
37
第一
73 田辺
40
三共
56 合計
577
出典:日経 BP 社「世界のバイオ企業」
次に、過去 20 年間のアライアンス件数の推移について見てみる。
図 2 が、今回対象とする企業が締結に至ったアライアンスの年次別の件数推移を見た
ものである。80 年代前半においては、それぞれ対象企業合算でも 20 件にも満たなかっ
たアライアンス件数は、日本企業を例外として 1989 年頃を境に急激に増加している。
欧州企業は、1989 年から顕著に増加し始め 1992 年からの 3 年間でさらに増加してピ
ークを迎えた後、徐々に減少し続けている。米国企業は 1990 年に大きく増加した後、
欧州企業に比べるとなだらかに増加し、欧州企業のピークの 3 年後の 1997 年にピーク
− 7 −
を迎えた後、同じく減少し続けている。日本企業は米国企業のカーブを全体的に更にな
だらかにした推移を示している。“日本企業データ 2”においても同じ傾向を示しており、
90 年代の件数の増加が少ない。
図2 日米欧企業のアライアンス件数推移
(件)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
日本企業2
出典:ReCap's Biotech Alliance Database,日経 BP 社「世界のバイオ企業」より集計
1981 年からの 5 年刻みで比較すると、いずれの企業群においても 90 年代後半に 20
年間の全体の半数近いアライアンスが契約されている点は注目される。最も多い 5 年間
は 1994-98 年の 5 年間であり全体の約 50%がこの期間に集中している。
これを各エリア毎に企業別に見てみると、欧州企業のなかでも2極に分かれているの
がわかる(図 3)
。増加しているのは、GSK、アベンティス、ロシュであり、増加してい
ないのは、バイエル、ベーリンガー・インゲルハイムの独国企業2社とアストラゼネカ、
そしてノバルティスはその中間に位置している。
米国企業では、欧州ほどのばらつきは見られないが、ファルマシア、ファイザー、J&J
の伸長が目立つ(図 4)
。
− 8 −
図3 欧州企業のアライアンス件数推移
(件)
50
45
GSK
AZ
Novartis
Roche
Aventis
Bayer
BI
40
35
30
25
20
15
10
5
0
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
図4 米国企業のアライアンス件数推移
(件)
40
35
30
Merck
Pfizer
Pharmacia
BMS
J&J
25
20
15
10
5
0
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 9 −
日本企業では、件数的に少ないため企業毎にも各年のバラツキが大きく、傾向として
は捉え難い(図 5)
。しかし、“日本企業データ 2”では、企業毎の違いがやや明確とな
る(図 6)
。各年度で比較的多くみられるのは、中外製薬である。
アライアンス件数の増減の背景として、一般にいわれているのは、市場環境の変化や
テクノロジーの劇的な変化である。医薬品市場をみると、米国の市場規模の拡大が目立
っている(図 7)
。欧州市場は、米国に比べるとなだらかな成長が続き(図 8)、日本市
場は欧州と同様緩やかな成長であったが、95 年以降は横ばいもしくは微減傾向にある
(図 7)
。
図5 日本企業のアライアンス件数推移
(件)
7
武田
武田
山之内
三共
三共
山之内
エーザイ
エーザイ
第一
第一
藤沢
藤沢
中外
中外
田辺
田辺
塩野義
塩野義
6
5
4
3
2
1
0
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
図6 “日本企業データ2”
(日本企業のアライアンス件数推移)
(件)
15
武田
三共
山之内
エーザイ
第一
藤沢
中外
田辺
塩野義
12
9
6
3
0
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
出典:日経 BP 社「世界のバイオ企業」
− 10 −
図7 日米欧の医薬品市場規模推移
($, Mil.)
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
85
87
日本
89
91
アメリカ
93
イギリス
95
ドイツ
97
フランス
出典:IMS World Review
図8 欧州の医薬品市場規模推移
($, Mil.)
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
85
87
89
91
イギリス
93
ドイツ
95
97
フランス
出典:IMS World Review
規模、成長性ともに抜きんでている米国市場でのプレゼンスの向上のために欧州企業
がアライアンスを含めて、注力してきたことが推定できる。事実、80 年代半ば以降の欧
州企業各社のアニュアル・レポートには、米国市場での販売拡大を意識した記載が毎年
度見受けられる。またこの時期、米国では新技術を持ち、特定の分野で専門性を持つバ
イオベンチャー企業が続々と誕生し、新しいテクノロジーの供給を大企業に向けて行う
ようになったことも特筆される。
アライアンス件数の増加に影響を与える市場面、テクノロジー面については次章以降
で、項目別にアライアンス件数の推移を追い、特徴を捉えていくことにする。
− 11 −
4. 分野別にみたアライアンス
アライアンスは、研究、開発、製造、マーケティングなどのバリューチェーンを主体
とするもの、ジョイントベンチャー、コラボレーションといったより総合的な枠組みを
主体とするものなど様々である。また、1件のアライアンスには、研究、コラボレーシ
ョンなどいろいろな分野のものが組み合わさって行われるケースが多い。例えば、ある
企業 2 社が共同出資によりジョイントベンチャーを設立し、ある国での臨床開発を共同
で実施するというアライアンスがそれである。したがって、アライアンスをひとつの軸
で分類・分析することは非常に難しい。今回は、全体的な傾向をみるために個々のアラ
イアンスに組み込まれている内容を分野別に分類し検討を行った2。
1) バリューチェーン別にみたアライアンス
バリューチェーンを構成する研究、開発、製造、マーケティング別にアライアン
スについて検討した。
バリューチェーンの最も上流に位置する研究のアライアンスは、全アライアンス
の推移とほぼ同じ動きを示し、1989 年頃から急激に増加している。また、この分野
でのアライアンスでは、米国企業のウェイトが相対的に高い(図 9)
。
図9 研究のアライアンス件数推移
(件)
50
40
30
20
10
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
2
ReCap’s Biotech Alliance Database では、個々のアライアンスに組み込まれている内容が 30
種類の分野に分類されているが、本報告書ではその中の主なものを取り上げ分析を行った。
− 12 −
開発のアライアンスは、研究のアライアンスと連動した動きを示しており、欧米
企業においては、研究のアライアンスがピークを打った翌年に開発のアライアンス
もピークを迎えている(図 10)
。日本企業においては両者の間に連動性はみられない
が、全体としては増加傾向にある。日米欧いずれの企業においても、研究に比べ開
発のアライアンスが多い。ここで注意すべきは、研究と開発では、臨床試験の前と
後で区分されている場合が多いが、契約内容によってはリード化合物の決定以降、
前臨床試験の段階を含めて開発と定義している場合もある点である。また、テクノ
ロジーの進展に伴い様々な研究段階でのリサーチツールの開発のためのアライアン
スもこの期間に増加しており、このようなものがここでいう開発に入れられている
場合も多い。そのため研究と開発のアライアンスを比べると開発のアライアンスが
多くなっているが、純粋な臨床開発だけが増加しているとは必ずしも言えないと思
われる。
図10 開発のアライアンス件数推移
(件)
50
40
30
20
10
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
製造のアライアンスは、製薬産業の場合他の製造業種に比べ製造コストの全コス
トに占めるウェイトが小さいためか、件数は少なくなっている(図 11)。アライアン
スの目的のひとつはリスク分散と効率性の追求にあるが、製造のアライアンスが少
ないことは、この部分での優位性の獲得が競争力強化に他産業ほど直接的には結び
つき難いという業界の構造を表していると考えられる。製造業という括りに分類さ
れる製薬産業であるが、製造そのものに要するコストよりも、研究開発に関わるコ
ストがはるかに大きく、ソフト産業的な構造を強く持っていると言える。実際には、
− 13 −
製造の一部工程を外注することが行われているが、高度な技術の外注は難しいため
件数が少なくなっているのであろう。特に日本企業の場合は、製造承認というこれ
までの薬事法上の規定が影響を与えている可能性も考えられる。
図11 製造のアライアンス件数推移
(件)
10
8
6
4
2
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
マーケティングのアライアンスとして特記すべき点は、1993 年をピークに前後数
年間、欧州企業の件数が極端に多いことである(図 12)
。本国市場の停滞を受け、同
時期に急激に市場が拡大し始めた米国市場への販売力の増強を意図したもの、欧州
企業同士の提携強化、バイオベンチャーから供給を受ける化合物が販売を視野に入
れた契約を締結する段階に到達し始めたことなどがその理由として考えられる。
− 14 −
図12 マーケティングのアライアンス件数推移
(件)
15
12
9
6
3
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
2) 提携の度合い別にみたアライアンス
a. 資本参加を伴うアライアンス
資本参加を伴うアライアンスとして、エクイティー(出資)
、ジョイントベン
チャーのアライアンスについて検討を行った。
エクイティーのアライアンスの推移を図 13 に示す。バイオベンチャー設立の
初期段階での資本参加は 80 年代半ばから急激に増加し、90 年代に入ってからは、
アライアンスの一つのタイプとして定着したことが伺える。バイドール法の施行、
NIH によるベンチャー支援を目的とした SBTR/STTR の法制化などが影響を与
えたと考えられる。また、80 年代半ばから、急速な発展を遂げたプライベートエ
クイティー市場の動きとも重なっている。
− 15 −
図13 エクイティーのアライアンス件数推移
(件)
35
30
25
20
15
10
5
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
今回、対象としたアライアンスのうち、エクイティーのアライアンス件数は 418
件で、うち金額の公表されているものの総額は 52 億ドル(280 件)である。全
アライアンスの推移と同じように、1994 年にその件数はピークを迎え、その後減
少している。1件当たりの平均金額も同様の傾向にあるが、1994 年はチバガイギ
ーによるカイロンの株式 50%取得、2000 年はアベンティスとミレニアムのよう
な大型の案件が大きく影響したため、1 件当たり金額が大きくなっている。参考
までに 2001 年以降をみると、1 件当たり金額は増加傾向にある。バイオベンチ
ャー興隆の初期段階での「浅く広く」の投資の時期を終え、アライアンス先を見
極めて集中投資を行う傾向にあることが推察される。また、米国各地にバイオ関
係のクラスターが生まれ、例えば、ボストン地区の MBC(The Massachusetts
Biotechnology Council)などバイオベンチャーと製薬企業の仲介を行うコミュニ
ティー組織ができてきたため、従来に比べ公表に至らない初期段階での投資が増
加していることが影響を及ぼしている可能性もある。現在は、成果物が予想でき
るようなリスクは低いが規模の大きな案件と初期段階でのリスクは高いが規模
の小さな案件の両極へ動いていることが予想される。
ジョイントベンチャーのアライアンスは、新市場への橋頭堡作りの手法として
用いられており、20 年の期間において平均的にみられる数少ない形態のアライア
ンスである(図 14)
。ジョイントベンチャーは、2 社の間で実施され、想定可能
なリスクを分散させる安定志向の提携ともいえ、80 年代の前半に各企業が対象市
場のグローバル化を志向し始めた時に、広く用いられた手法である。欧州企業に
− 16 −
おいては、
マーケティングのアライアンスがピークであった 1993 年の翌年には、
その件数が高水準に達している。これは、販売面での提携からジョイントベンチ
ャーの提携へと一歩進んだ形態に一気に進んだためと考えられる。
図14 ジョイントベンチャーのアライアンス件数推移
(件)
15
12
9
6
3
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
b. 資本参加を伴わないアライアンス
資本参加を伴わないアライアンスとして、ライセンス、コラボレーションのア
ライアンスがある。
ライセンスのアライアンスとして、クロスライセンス、サブライセンスをも含
めて集計すると、全アライアンス 2,836 件のうち 59%、1,662 件に達する(図 15)
。
ライセンスのアライアンスの中には、製品に直結するものもあれば、製品創製の
ための基盤技術に関するアライアンスもある。90 年代に入ってからアライアンス
件数は急増しているが、内容をみると基盤技術導入を目的としているものが多く
なっている。これは、テクノロジーの進歩に伴い外部から確立した技術を導入す
ることが必要となったためと考えられる。ライセンスそのものを必要としている
というだけでなく、特許の範囲が拡大され、アライアンス契約において様々なラ
イセンスを避けて通れなくなっている状況を反映していると推察される。
コラボレーションのアライアンスは、より機動的なオプションの要素が強いア
ライアンスである。コア部分以外の多くの部分を外部に依存する志向を強める企
業にとって、複数のテクノロジー・ノウハウ・人材を効率良く統合させ、ビジネ
スの状況に合わせて目的に合った体制を整えることができるコラボレーション
− 17 −
は重要な経営手法である。コラボレーションのアライアンスは、1999 年に一度大
きく減少したが(図 16)
、2000 年には再び増加しており、今後ますます増加する
ことが予想される。
図15 ライセンスのアライアンス件数推移
(件)
100
80
60
40
20
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
図16 コラボレーションのアライアンス件数推移
(件)
50
40
30
20
10
0
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
欧州企業
米国企業
日本企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 18 −
5. テクノロジー別にみたアライアンス
1) テクノロジーの発展と産業構造の変化
コンビナトリアル・ケミストリー(CC)3、ハイスループットスクリーニング(HTS)4、
ストラクチャーベースドドラッグデザイン(SBDD)5、ドラッグデリバリーシステ
ム(DDS)等のテクノロジーの発展により、ここ 20 年の医薬品の研究開発は、従来
のランダムスクリーニングという手法から大きく変化し、創薬という点においては
革命的な時代に入ったと言われている。これらの劇的なテクノロジーの発展は、バ
イオベンチャーの設立を増加させるとともに、大手製薬企業においては、研究開発
を効率化すべく自社のコアとなるテクノロジー以外を外部に求めることを促した。
産業の構造は、特に研究開発分野において大きく変化したのである。
製薬企業の歴史において、医薬品の研究開発は大きく 3 つの時代に分けて捉える
ことができる。第一の時代は第二次世界大戦までの時代で、これは前研究開発時代
とも呼べるものであり、原始的な研究手法によりいくつかの新薬が開発された。そ
の中心的な役割を果たしたのは、独国やスイスにある合成染料の企業である。その
時代、独国の大学が有機合成に優れていたことや染料や合成化学品に薬剤としての
効果が見いだされてきたことなどから、独国やバーゼル(スイスの都市、独国や仏
国のシルクや織物の消費地域に近い)に、バイエル、ヘキスト、チバガイギー、サ
ンドといった企業が誕生し、これらの企業は、染料や有機合成の技術で医薬品の製
造を開始した。代表的な医薬品としては、1899 年にバイエルによって開発・製造さ
れたアスピリンが挙げられる。同時期に、米国、英国でも製薬企業が誕生している
が、世界の約 8 割の医薬品は独国企業によって生産されていた。
第二次世界大戦以降から 1980-90 年までの時代が第二期にあたる。企業内の研究
開発体制が整備され、新薬の上市までの期間が短縮化された時代である。大戦の勃
発により米国政府は、医薬品の研究、商業化に注力し、20 を超える企業と幾つかの
大学がその政策に参加した。そのうちファイザーが発酵技術の活用によるペニシリ
ンの大量生産に成功し、これが医薬品の研究開発の分岐点となった。同時にこの時
3
4
5
コンビナトリアル・ケミストリーとは、合成反応を素反応に分解して組み合わせることにより、
同時に多数かつ多様な化合物を合成する技術である。Merrifield(米国)の「ペプチド固相合
成法」(1963 年)を基礎とした自動合成化技術の進展と、Furka(ハンガリー)らの「スプリ
ット合成法」(1991 年)の発明に触発され、1994 年以降盛んに研究開発が進められている。
スクリーニングとは、大量にある医薬品候補物の中から、薬として効き目のある(=生物学的
に役に立つ)ものだけを選び出す方法。ハイスループットスクリーニングは DNA チップなど
を用いた高効率のスクリーニング方法で 1 日あたり 500,000 種類以上の化合物をスクリーニン
グすることが可能となる。
薬のターゲットとなるタンパク質の立体構造をモニターに表示し、タンパク質の作用を、コン
ピューターシミュレーションによってデザインすること。
− 19 −
代は、特に米国において製薬企業が公的資金による公的研究の恩恵を受け始めた時
代でもあった。研究開発のスタイルとしては、天然物や化学的に合成された物質の
ランダムスクリーニングというアプローチの時代であった。
そして、第三の時代は、1980-90 年代以降の遺伝子組み換え(rDNA)
、モノクロ
ーナル抗体(Mabs)、CC、HTS、Genomics などのテクノロジーの変革が起こった
時期である。このようなテクノロジーのパラダイムシフトがバイオベンチャー興隆
のきっかけとなったわけであるが、70 年代後半から 80 年代にかけて、既に、バイオ
ベンチャー創業の最初の波は起きていた。rDNA、Mabs などのテクノロジーにフォ
ーカスした、ジェネンテック、カイロン、バイオジェン、アムジェンなどがそれで
ある。これらの第一世代のバイオベンチャーに対する製薬企業のアプローチは企業
によって異なる。多くの企業は資本参加、コラボレーション、ライセンス契約など
の間接的な手法でテクノロジーの吸収を図り、その一方、ロシュ、リリー、アメリ
カンホームプロダクツ等は直接的な吸収合併の手法により取り込みを図った。さら
に、80 年代には CC、HTS、Genomics などのテクノロジーによって、ミレニアム、
インサイト、ヒューマンゲノムサイエンシスほか数多くのスタートアップ企業が興
隆した。
2) テクノロジー別にみたアライアンス
様々なテクノロジーを明確に分類することは難しいが、研究に携わる複数の専門
家の意見を参考に表 4 の如く①∼⑫にグルーピングを行い、これに基づきアライア
ンスを分類し検討を行った。
図 17∼19 は、①∼⑫のテクノロジーのうち、アライアンス件数の多いものを時系
列にみたものである。日米欧企業間でアライアンスに用いられるテクノロジー6に相
違がみられる。
6
テクノロジーの吸収を目的としたものと自社の効率化のためにアウトソースしたものものと
が含まれる。
− 20 −
表4 テクノロジーのグルーピング
グループ
No.
テクノロジー
① DDS 関連
Drug Delivery-Liposomes、Drug Delivery-Oral、Drug
Delivery-Other、Drug Delivery-Sustained Release、Drug
Delivery-Transdermal、Microspheres
② モノクローナル・ポリクローナル関連
Monoclonal、Monoclonals-Anti-Idiotypes、
Monoclonals-Humanized Abs、Monoclonals-Transgenic
mice、Monoclonals-Conjugates、Polyclonal Antibodies
③ 核酸・タンパク・ペプチド化合物関連
Collagen Matrix、DNA Probes、Immunoglobulin、
Oligonucleotides Ligands、Oligonucleotides
Antisense/Triple Helix、Oligonucleotides-Gene- Therapy、
Oligonucleotides-Ribozymes、Peptides、Purines &
Pyrimidines
④ 天然物・抽出物関連
Attenuated Virus Product、Carbohydrates、Hyaluronic
acid、Natural Product、Polyethylene glycol products
⑤ 遺伝子関連
Bioinformatics、Gene Expression、Gene Sequencing、
Pharmacogenomics、Proteomics、Transcription Factors、
Transgenics、rDNA
⑥ 装置関連
Device、Implantable Devices
⑦ 分離・合成技術関連
Combinatorial、Rational Drug Design-Computational、
Rational Drug Design-Synthetics、Separations、Service
Laboratory、Synthetics
⑧ アッセイ・スクリーニング関連
Immunoassay、Microarrays、Screening
⑨ ジェネリック
Generics
⑩ 導入品
In-licensed Products
⑪ 治療法
Cell Therapy-Stem Cells/Factors、Phototherapy
⑫ その他
Adjuvant、Micropropagation、PFOB Emulsions
図17 欧州企業のテクノロジー別アライアンス件数推移
欧州企業
(件)
35
30
25
20
15
10
5
0
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
①DDS関連
③核酸・タンパク・ペプチド化合物関連
⑤遺伝子関連
⑦分離・合成技術関連
⑧アッセイ・スクリーニング関連
②モノクローナル・ポリクローナル関連
2000
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 21 −
図18 米国企業のテクノロジー別アライアンス件数推移
米国企業
(件)
35
30
25
20
15
10
5
0
80
82
84
86
88
90
92
94
96
③核酸・タンパク・ペプチド化合物関連
⑤遺伝子関連
⑦分離・合成技術関連
⑧アッセイ・スクリーニング関連
⑩導入品
②モノクローナル・ポリクローナル関連
98
2000
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
図19 日本企業のテクノロジー別アライアンス件数推移
日本企業
(件)
15
10
5
0
80
82
84
86
88
90
92
①DDS関連
⑤遺伝子関連
⑧アッセイ・スクリーニング関連
94
96
98
2000
③核酸・タンパク・ペプチド化合物関連
⑦分離・合成技術関連
②モノクローナル・ポリクローナル関連
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
欧州企業においては、③核酸・タンパク・ペプチド化合物関連のアライアンスが
80 年代半ばから増加し、90 年代の初頭にピークを迎えた後、件数は減少している。
これと同様に、80 年代に増加したものとして⑤遺伝子関連のアライアンスがある。
この 2 つが 80 年代後半の第一の波を築いている。第二の波は、80 年代末から急増
し 90 年代後半まで続いた⑦分離・合成技術関連、⑧アッセイ・スクリーニング関連
のアライアンスである。これは、一般に製薬企業の研究開発のテクノロジーにパラ
ダイムシフトを起したとされる CC、HTS、SBDD 等が大きく関係している。両者と
並行して 90 年代末まで増加したものとして、①DDS 関連のアライアンスがある。
− 22 −
第三の波として、90 年代前半から急激に増加した⑤遺伝子関連のアライアンスが挙
げられる。
米国企業においても、欧州企業とほぼ同じ動向を示しているが、欧州企業に比べ
ると①DDS 関連のアライアンスが殆どなく、⑩導入品のアライアンスの多いことが
特徴として挙げられる。また、欧州企業のように波がなく、⑤遺伝子関連、⑦分離・
合成技術関連、⑧アッセイ・スクリーニング関連のアラインスが 90 年代の前半から
後半にかけて同時に増加している。特に、90 年代後半の⑤遺伝子関連のアライアン
スが相対的に多いことが特徴である。
日本企業においては、データの絶対数が少ないために傾向が捉えにくい。件数が
多いのは、欧米企業と同じく⑦分離・合成技術関連のアライアンスである。
今回、テクノロジー別に分類したアライアンスは、研究開発に関係するものだけ
ではなく、製薬企業のあらゆる案件を対象に分類しており、総件数 2,836 件のうち、
欧州企業は 1,545 件、米国企業は 1,092 件、日本企業は 199 件となっている。この
中で研究関係のアライアンスは 675 件あり、全体の約 25%を占めている。欧州企業
で 22%、米国企業で 28%、日本企業で 18%と米国企業での研究関係のアライアンス
が際立って多い。米国はライフサイエンス関係を 70 年代末から国家戦略の重点領域
に定め、特許権の帰属などに関する体制整備を行ってきたため、テクノロジー関係
の特許の大半が米国の企業・大学の所有となっていることが多い。CC の技術別の特
許出願人をみてみると 70 年代後半から 1999 年度までの出願件数の 9 割が米国の企
業・大学となっている。近年の創薬研究のパラダイムシフトを起こしているテクノ
ロジーが、米国の企業・大学の発祥のものであるため、米国企業がそれを用いてア
ライアンスを展開してきたことが、この比率に現れていると推察される。
− 23 −
6. 薬効分類別にみたアライアンス
薬効分類別のアライアンスをみるため、ATC 分類を用い、表 5 の如く①∼⑯の薬効分
類に基づきアライアンスを分類し検討を行った。
図 20∼23 は、1981-2000 年のアライアンスを薬効分類別に 5 年単位で集計し、その
推移をみたものである。図 20 は全アライアンス、図 21 は研究に関するアライアンス、
図 22 は開発に関するアライアンスである。
表5 薬効分類
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
消化器官用剤及び代謝性医薬品
血液及び体液用剤
循環器官用剤
皮膚科用剤
泌尿、生殖器官用剤及び性ホルモン
全身性ホルモン剤
一般的全身性抗感染剤
輸液剤
抗腫瘍剤及び免疫調節剤
骨格筋用剤
中枢神経系用剤
寄生虫用剤
呼吸器官用剤
感覚器官用剤
診断薬
その他
日米欧企業にほぼ共通して件数の多いものは、⑦一般的全身性抗感染剤、⑨抗腫瘍剤
及び免疫調節剤、⑪中枢神経系用剤、⑮診断薬である。全アライアンスの推移と連動し、
①∼⑫のほとんどにおいて 90 年代前半が最もアライアンス件数が多い。
日本企業においてのみ 90 年代後半に、①消化器官用剤及び代謝性医薬品と③循環器
官用剤に大幅なアライアンスの増加がみられる。これは、生活習慣病と呼ばれ今後の患
者の増加が予想されている高脂血症、高血圧症、糖尿病を含む領域であり、市場の拡大
に対応したアライアンスと思われる。
日本での⑪中枢神経系用剤の市場規模が小さいことを除き、日米欧における薬効分類
別の市場規模の構成はほぼ同じ傾向にある。薬効分類別の市場規模とアライアンス件数
を比べてみると⑦一般的全身性抗感染剤と⑪中枢神経系用剤については、市場規模とア
ライアンス件数の間に相関性がある程度認められるが、①消化器官用剤及び代謝性医薬
品、③循環器官用剤、⑬呼吸器官用剤については相関性はあまり認められない。①消化
器官用剤及び代謝性医薬品、③循環器官用剤、⑬呼吸器官用剤おいては、アライアンス
に頼らず自社単独で研究開発等を行っていることが予想される(図 23、表 6)。
− 24 −
図20 日米欧企業の薬効分類別アライアンス件数
欧州企業
(件)
100
80
60
40
20
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
⑭
⑮
⑯
⑭
⑮
⑯
96-00
米国企業
(件)
60
40
20
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
96-00
日本企業
(件)
20
15
10
5
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
96-00
注:①∼⑯は表 7 参照
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 25 −
図21 日米欧企業の薬効分類別アライアンス件数(研究関係)
欧州企業(研究関係)
(件)
40
30
20
10
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
⑭
⑮
⑯
⑭
⑮
⑯
96-00
米国企業(研究関係)
(件)
30
20
10
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
96-00
日本企業(研究関係)
(件)
6
4
2
0
①
②
③
④
⑤
⑥
81-85
⑦
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
96-00
注:①∼⑯は表 7 参照
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 26 −
図22 日米欧企業の薬効分類別アライアンス件数(開発関係)
欧州企業(開発関係)
(件)
60
40
20
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
⑫
91-95
⑬
⑭
⑮
⑯
⑭
⑮
⑯
⑭
⑮
⑯
96-00
米国企業(開発関係)
(件)
40
30
20
10
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
81-85
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
96-00
日本企業(開発関係)
(件)
12
10
8
6
4
2
0
①
②
③
④
⑤
⑥
81-85
⑦
⑧
⑨
86-90
⑩
⑪
91-95
⑫
⑬
96-00
注:①∼⑯は表 7 参照
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 27 −
図23 1998年全世界における薬効分類別売上
($, Mil.)
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
出典:IMS World Review
表6 薬効分類の市場規模とアライアンス件数
①
③
⑦
⑪
⑨
⑬
⑮
薬効分類
消化器官用剤及び代謝性医薬品
循環器官用剤
一般的全身性抗感染剤
中枢神経系用剤
抗腫瘍剤及び免疫調節剤
呼吸器官用剤
診断薬
市場規模
大
大
大
大
中
中
小
アライアンス件数
中
中
多
多
多
少
多
全アライアンスと研究、開発に関するアライアンスを比べ、⑮診断薬の研究、開発に
関するアライアンスがあまりみられない。これは研究開発段階から大手製薬企業が取り
組むというよりは、マーケットや自社のラインアップに合わせて、ライセンスインなど
の形で取り込むケースが多いためと考えられる。また、日本企業における 90 年代後半
での①消化器官用剤及び代謝性医薬品、③循環器官用剤のアライアンスの増加は、研究
に関するアライアンスではあまりみられず、開発に関するアライアンスの増加で顕著で
ある。抗生剤全盛の時代を過ぎ、企業の指向と市場のニーズが生活習慣病へ移行し、時
代とともにバリューチェーンにおける下流側でのアライアンス件数が増加した結果と
思われる。
⑦一般的全身性抗感染剤、⑨抗腫瘍剤及び免疫調節剤が 80 年代後半から急激に増加
しているのは、これらの創薬に適したテクノロジーと連動していることが考えられる。
− 28 −
7. 契約ステージ別にみたアライアンス
アライアンスが製薬企業の研究、開発といったバリューチェーンの中のどのステージ
に契約されているのかをみる。今回、表 7 にある①∼⑧の 8 つのステージのアライアン
スについて検討した。
表7 契約ステージ
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
探索
リード化合物
前臨床
製剤化
Phase Ⅰ
Phase Ⅱ
Phase Ⅲ
承認
図 24 は、1981-2000 年のアライアンスを契約ステージごとに 5 年単位で集計し、そ
の件数推移と構成比をみたものである。日米欧企業に共通しているのは、リード化合物
ステージのアライアンスの減少と探索ステージ、PhaseⅠステージ以降のアライアンス
の増加である。80 年代前半に欧州企業で 45%、米国企業で 23%、日本企業で 66%を占
めていたリード化合物ステージでのアライアンスが、90 年代後半にはそれぞれ 6%、6%、
5%と大きく減少し、逆に探索ステージのアライアンスは、欧州企業で 22%から 46%へ、
米国企業で 30%から 57%へ、日本企業で 17%から 41%へと大幅に増加しており、Phase
Ⅰステージ以降のアライアンスも同様に増加している。上流のステージでのアライアン
スによって、テクノロジーやサイエンスの優位を獲得することを目指すとともに、より
下流のライセンスインによって開発中の製品ポートフォリオの谷間やギャップを埋め
ることに集中していると考えられる。ちなみに、CMR International は、1998 年に巨
大製薬企業が臨床開発を行っているバイオ医薬品のうち、約半数がライセンスイン品目
であると述べている。
日本企業においては、PhaseⅠステージ以降のアライアンスが近年増加し、90 年代後
半には約半数を占めている。日本国内の治験環境の悪化により、欧米先行型、日米欧同
時型の臨床開発が進んでいることによる影響とも考えられる。
− 29 −
図24 日米欧企業の契約ステージ別アライアンス件数推移と構成比
欧州企業 契約ステージ別件数推移
欧州企業 契約ステージ別件数構成比率
(件)
350
100%
90%
300
250
200
150
100
50
0
承認
Approved
80%
Phase III
Phase II
Phase I
製剤化
Formulation
前臨床
Preclinical
リード化合物
Lead
Molecule
探索
Discovery
70%
承認
Approved
Phase III
Phase II
Phase I
製剤化
Formulation
前臨床
Preclinical
リード化合物
Lead
Molecule
探索
Discovery
60%
50%
40%
30%
20%
10%
81-85 86-90 91-95
962000
0%
米国企業 契約ステージ別件数推移
81-85
86-90
91-95
962000
米国企業 契約ステージ別件数構成比率
(件)
250
100%
90%
200
150
100
50
0
承認
Approved
80%
Phase III
Phase II
Phase I
製剤化
Formulation
前臨床
Preclinical
リード化合物
Lead Molecule
探索
Discovery
70%
承認
Approved
Phase III
Phase II
Phase I
製剤化
Formulation
前臨床
Preclinical
リード化合物
Lead
Molecule
探索
Discovery
60%
50%
40%
30%
20%
10%
81-85 86-90 91-95
962000
0%
81-85
86-90
91-95
962000
日本企業 契約ステージ別件数構成比率
日本企業 契約ステージ別件数推移
(件)
50
100%
90%
40
承認
Approved
Phase III
Phase II
Phase I
製剤化
Formulation
前臨床
Preclinical
リード化合物
Lead
Molecule
探索
Discovery
30
20
10
80%
承認
Approved
Phase III
Phase II
Phase I
製剤化
Formulation
前臨床
Preclinical
リード化合物
Lead
Molecule
探索
Discovery
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0
81-85
86-90
91-95
962000
0%
81-85
86-90
91-95
962000
出典:ReCap's Biotech Alliance Database より集計
− 30 −
8. アライアンスのパートナー
1) パートナーの構成と推移
アライアンスのパートナーについて、表 8 の 4 種類に分類して検討を行った7。
1981-2000 年の 20 年間における日米欧企業のアライアンスパートナーの構成をみ
ると、日米欧のいずれにおいても、バイオベンチャーをパートナーとするアライア
ンスが 70%を超えており、圧倒的な比率を占めている。大手製薬企業同士のアライ
アンスは、
欧米企業では 20%弱、
日本企業においても 26%にとどまっている(図 25)
。
大学をパートナーとするアライアンスは、日米欧のいずれにおいても数パーセント
である。前述したように、大学からのテクノロジー・ノウハウ・人材の移転はイン
フォーマルなものが多く、公表された情報を源とするデータベースでは把握されて
いないことが理由として考えられる。特に日本企業においては、大学をパートナー
としたアライアンスは 1%(2 件)と少なく、その大学はいずれも米国の大学である。
表8 アライアンスの組み合わせ
①
②
③
④
製薬企業とバイオベンチャーのアライアンス(製薬企業+バイオベンチャー)
製薬企業と製薬企業のアライアンス(製薬企業+製薬企業)
製薬企業と大学のアライアンス(製薬企業+大学)
その他のアライアンス(メディカルの分野には関係ないアライアンス)
図25 日米欧企業のパートナー別アライアンス件数構成比
④その他
③製薬企業+大学
②製薬企業+製薬企業
①製薬企業+バイオベンチャー
100%
80%
60%
40%
20%
0%
欧州企業 米国企業 日本企業
合計
出典:ReCap's Biotech Alliance Databese より集計
7
ReCap’s Biotech Alliance Database では、
アライアンスの組み合わせを 6 種に分類しており、
その種類は表 4 の他に
「バイオベンチャーと大学」、
「バイオベンチャー同士」
の 2 種類がある。
大手製薬企業の関連会社であるバイオベンチャーのアライアンスであるが、ここではそのバイ
オベンチャーを製薬企業として取り扱っている。
− 31 −
表 9、図 26、27 は、アライアンスのパートナーを 80 年代と 90 年代で比較したも
のである。いずれにおいても 80 年代に比べて 90 年代では件数は増加している。ま
た、80、90 年代ともバイオベンチャーをパートナーとしたアライアンス件数が最も
多いが、製薬企業同士のアライアンスが急増していることも分かる。90 年代の大手
製薬企業同士のアライアンスをみると、欧米企業では 20%以下であるのに対して日
本企業では 30%を超えており、特に日本企業は欧米企業と比較し、製薬企業をパー
トナーとするアライアンスの比率が高くなっている。
表9 80年代、90年代 日米欧企業のパートナー別アライアンス件数
欧州企業
'81-'90 '91-'00
(A) (B)
① 製薬企業+バイオベンチャー
米国企業
B/A
'81-'90 '91-'00
(C) (D)
日本企業
D/C
'81-'90 '91-'00
(E) (F)
F/E
192
967
5.0
162
677
4.2
41
104
2.5
② 製薬企業+製薬企業
19
238
12.5
13
155
11.9
3
48
16.0
③ 製薬企業+大学
10
53
5.3
23
41
1.8
0
2
-
④ その他
23
43
1.9
10
11
1.1
0
1
-
244
1,301
5.3
208
884
4.3
44
155
3.5
合計
出典:ReCap's Biotech Alliance Databese より集計
− 32 −
図26 80年代、90年代の日米欧企業のパートナー別アライアンス件数推移
欧州企業
(件)
1,000
800
①製薬企業+バイオベンチャー
②製薬企業+製薬企業
③製薬企業+大学
④その他
600
400
200
0
'81-'90
'91-'00
米国企業
(件)
800
600
①製薬企業+バイオベンチャー
②製薬企業+製薬企業
③製薬企業+大学
④その他
400
200
0
'81-'90
'91-'00
日本企業
(件)
120
100
80
①製薬企業+バイオベンチャー
②製薬企業+製薬企業
③製薬企業+大学
④その他
60
40
20
0
'81-'90
'91-'00
出典:ReCap's
Biotech Alliance Databese より集計
出典:ReCap's Biotech Alliance Databese より集計
− 33 −
図27 80年代、90年代の日米欧企業のパートナー別アライアンス件数構成比
100%
④
③
②
①
80%
その他
製薬企業+大学
製薬企業+製薬企業
製薬企業+バイオベンチャー
60%
40%
20%
0%
'81-'90 '91-'00
欧州企業
欧州企業
'81-'90 '91-'00
米国企業
米国企業
'81-'90 '91-'00
日本企業
'81-'90 '91-'00
日本企業
合計
合計
出典:ReCap's Biotech Alliance Databese より集計
− 34 −
2) 日本企業の場合
ReCap’s Biotech Alliance Database は、日本企業のアライアンスについては捕足
率が低いため “日本企業データ 2”を用い、日本企業のパートナーについて検討を
行った。その結果、最も件数が多いのはバイオベンチャーをパートナーとするアラ
イアンスであることにかわりがないが、その件数は 80 年代前半から後半にかけて急
増し、その後も着実に増加していた(図 28)
。また、製薬企業のアライアンスパート
ナーであるバイオベンチャーの国籍を欧州、米国(含むカナダ)
、日本、その他(豪
州、中国、3 極企業合同)に分類してみると、圧倒的に多いのは米国である。逆に、
日本のバイオベンチャーとのアライアンスが極めて少ないことが目立っている(図
29)
。このようにみてくると、日本の製薬企業は、これまで、米国のバイオベンチャ
ーを主たる相手とするアライアンスを通じてテクノロジーの吸収を図ってきたと推
察される。
図28 日本企業のアライアンスパートナー
(件)
100
'81-'85
'86-'90
'91-'95
'96-'00
80
60
40
20
0
製薬企業
バイオベンチャー企業
大学
他業種企業
出典:ReCap's Biotech Alliance Databese、日経 BP 社「世界のバイオ企業」より集計
図29 アライアンスパートナーであるバイオベンチャーの国籍
(件)
100
'81-'85
'86-'90
'91-'95
'96-'00
80
60
40
20
0
米国
欧州
日本
その他
出典:ReCap's Biotech Alliance Databese、日経 BP 社「世界のバイオ企業」より集計
− 35 −
9. 考察
1) ライフサイエンス分野をリードする米国
ここまで、アライアンスの推移を性格別、分野別にみてきたが、いずれにおいて
も 80 年代から 90 年代にかけて件数の増加が認められた。大手製薬企業の経営方針
が、変化していることの現われといえる。中でも多いのがバリューチェーン別でみ
た場合の研究・開発に関連したアライアンスである。また、契約ステージ別でも、
研究開発段階の約半数が探索ステージという結果であった。これは 90 年代に入り、
研究面で新しいテクノロジーが次々と導入されたことと一致している。新しいテク
ノロジーを製薬企業側に供給してきたのは、特に米国のバイオベンチャーであった。
パートナー別に、また市場環境、新技術の発信といった面から見ても、あらゆる面
で米国のベンチャー企業が中心となっている。米国政府が、80 年代からバイドール
法を始めとする技術革新・移転の促進を目的とした政策、公的資金の投入等を行い
ライフサイエンスの発展に積極的に取り組んだ成果と考えられる。米国での大きな
動きは以下に要約される。
・大学での研究成果物・技術が、産業へスムーズに移転された。
・スピンアウトを中心としたバイオベンチャーの興隆が起きた。
・政府、大学、ベンチャー、製薬企業の連携による研究開発力の向上と技術革新が
社会システムとして確立し、これらがプラスのスパイラルを起こし続けている。
・その顕著な例として挙げられるのが、ボストン周辺、ワシントン DC 周辺、サン
ディエゴ周辺、ノースカロライナ州中央部、テキサス州ヒューストン、サンフラ
ンシスコ湾周辺に登場したクラスターであり、公的研究機関、病院、有力な大学
が一つの地域で連携を図ることにより、ライフサイエンスの発展に大きく貢献し
た。
・大手製薬企業は、このモデルに合わせてバイオベンチャーを活用するとともに、
社内資源の配分を行い発展した。
2) 日本のライフサイエンス分野発展のために
本論でみたように、日本の製薬企業についても、米国を中心としたアライアンス
を通じてテクノロジーの吸収を図ってきた。しかしながら、委託・共同研究という
ケースでは、頻繁なモニタリングが必要であり、いかに情報通信技術が進展したと
はいえ、創薬にかかわる部分の標準化されにくい暗黙知の伝達には、言語の壁、文
化の違い、地理的な距離がそのモニタリングに影響を与えるはずである。また、テ
クノロジーの多くの分野で米国が先端であることは紛れもない事実であるが、日本
企業も高度の技術力を保持しており、また、新たなテクノロジーを吸収し、シナジ
ー効果を生み出す受容能力を備えていると考えられる。従って、日本企業にとって
− 36 −
は日本国内にパートナーが存在し、アライアンスネットワークを構築することは重
要であり、これが、日本の国際競争力の強化にも繋がると考えられる。
その期待されるパートナー、すなわち日本のバイオベンチャーの現状はどうであ
ろうか。規模、マネジメント力を見ても、総じていえば未だ製薬企業と対等に交渉
のできる関係には達していない。さらに、日本のバイオベンチャーは、資金面にお
いても製薬企業からの契約金に依存せざるを得ない状況にあり、十分な研究資金を
確保できず、そのため成果も不十分といったケースも多い。最近になって、国内に
おいてベンチャー企業育成の方針が打ち出され体制整備が進められており、ベンチ
ャー企業自身が資金調達力を有するようになってきたことから、製薬企業との距離
が縮まることが期待されている。また、日本の製薬企業としても、バイオベンチャ
ーが資金力をつけるのを待つのではなく、これまで以上にベンチャーのリサーチを
行い、発展的な関係を構築することが必要となっている。近年、日本の大手製薬企
業がベンチャーキャピタルファンドを設立したことは、そうした意味でも評価され
てよい。今後、行政の政策と企業の活動が一体となり、ライフサイエンス分野の発
展に向けてのシステムが早期に確立されることが求められる。
「バイオベンチャー1000 社構想」等、バイオベンチャー発展のための各種支援策
が打ち出されてはいるが、バイオベンチャーを含めた産学官の連携は、未だ発展途
上にあると言わざるを得ない。最近では、TLO によるライセンスアウトやリエゾン
機能を発揮した共同研究、大学発ベンチャーの興隆等が求められているが、現在は、
TLO による製薬企業へのライセンスアウトに政策の重点が傾斜している嫌いがある。
従って、今後は、バイオベンチャーをも加えた大学と製薬企業との有機的な連携の
構築、大学発のベンチャー育成に一層の政策的配慮がなされてしかるべきであろう。
バイオベンチャーの果たすべき役割は以下の 4 つに要約される。
① 大学研究者と製薬企業との意識ベクトルの違いの緩衝剤や繋ぎ
② 特定分野に焦点を絞ることによる研究の効率化
③ ベンチャー企業同士のネットワーク化による情報の流通・融合・パッケージ化
とそれによる付加価値創造
④ 商業化を念頭においた研究の評価
むろん、大学が研究成果の商業化をあまりに意識しすぎ、大学での自由な研究の
意味が失われてしまう恐れがある点は留意すべきであろう。企業とは異なる意識の
もとでなされた研究成果が企業の能力と融合することによりイノベーティブな製品
が誕生する可能性が大きいことなどを考慮すれば、大学研究者と企業との間の研究
に対しての意識の違いは、ある程度は担保されるべきと考えられるからである。
創薬における技術革新、進歩が加速度化しているなかにあって、製薬企業にとっ
て、企業内で完結できない技術を、アライアンスを通じて速やかに取り込んでいく
戦略の重要性は今後とも益々高まっていくことは間違いない。その戦略を支える意
− 37 −
味において、成長を遂げつつある日本国内のバイオベンチャーの更なる育成とそれ
を取り巻く産学官のネットワークの構築を行っていくことは、わが国製薬企業の国
際競争力強化にとって喫緊の課題である。
最後にアライアンスを成功させる要因についても触れておこう。新聞紙上での華
やかなアライアンスの発表とは裏腹に、契約後のオペレーションがスムーズに進ん
でいないケースも多い。製薬企業がバイオベンチャーとのアライアンスを成功させ
るためには、経験の積み重ねと相互の信頼関係の構築が極めて重要である。調査会
社ブーズ・アレン&ハミルトン社によるアンケート調査によれば、アライアンスを数
多く経験している企業は、経験のない企業の 2 倍の投資利益率(ROI)をあげており、
アライアンスを経験すればするほど、アライアンスを理解できるようになるとされ
ている。また、アライアンスの失敗の原因として、調査対象の半数以上が希薄な人
間関係や人間関係の失敗を挙げている調査結果がある。さらに、同じ調査によれば、
企業間の関係維持に取り組む専任のアライアンスマネージャーを配置している企業
は、全体の 3 割弱にすぎず、企業間の関係構築・維持を関係スタッフだけに任せて、
組織的にアライアンスの価値を高めていく意識が薄いと指摘している。アライアン
スは、短期的なパフォーマンスにこだわるとその潜在的な提携の価値を見失いがち
になる。提携先との関係を構築・維持できる人材を組織的に育成し、それをバック
アップしていく企業文化と体制の整備がアライアンス成功のための要因であろう。
− 38 −
参考文献
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Pharmaceutical Biotechnology (Chapter 14), Princeton University Press, 2001
2. ゲイリー・ハメル,イヴ・L・ドーズ: 競争優位のアライアンス戦略,ダイヤモンド社,
2001. 4
3. 寺東寛治: 制度神話の崩壊と企業革命,同友館,1999. 11
4. サイラス・フリードハイム: 一兆ドル企業体の登場,㈱ピアソン・エデュケーション,
2000. 10
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6. JETRO レポート: 米国のバイオ産業集積地帯「バイオキャピタル」の実態調査,2000.
7
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8. 産業構造審議会: 技術革新システムとしての産学連携の推進と大学発ベンチャー創
出に向けて,1999. 7
9. Dr. Hannah E Kettler: Consolidation and Competition in the Pharmaceutical
Industry,OHE Conference in London, October 16, 2000
10. Angela Hullmann: Generation, Transfer and Exploitation of New Knowledge
11. Benjamin Gomes-Casseres: Managing International Alliances: Conceptual
Framework, Harvard Business School, May 14, 1993
12. Josh Lerner, Alexander Tsai: Do Equity Financing Cycles Matter? Evidence
from Biotechnology Alliances, NBER Working Paper Series, January, 2000
13. Helen Simpson: Biotechnology and the Economics of Discovery in the
Pharmaceutical Industry, Office of Health Economics (OHE), October, 1998
14. Hiroyuki Odagiri: Transaction Costs and Capabilities as Determinants of the
R&D Boundaries of the Firm: A Case Study of the Ten Largest Pharmaceutical
Firms in Japan, Discussion Paper No. 19, First Theory-Oriented Research Group,
National Institute of Science and Technology Policy (NISTEP), Ministry of
Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), September, 2001
− 39 −
日本製薬工業協会
医薬産業政策研究所
政策研レポートNo.4
2002年9月発行
〒103-0023
東京都中央区日本橋本町3−4−1
トリイ日本橋ビル5階
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