巻線の開発動向について(304KB) PDF - 昭和電線ホールディングス

巻線の開発動向について
91
巻線の開発動向について
Trend of Development in Magnet Wire Products
金 光 大*
平 野 辰 美*
Futoshi KANEMITSU
Tatsumi HIRANO
巻線における最近の技術開発動向をまとめた。巻線加工時の不良率の低減,電気機器の高効率化などの動き
に対応し電線表面の潤滑性向上,絶縁皮膜と導体間の密着性向上,小サイズの平角線の開発,耐熱性の向上を
図った巻線等が開発されてきた。また,新たな手法を用いて巻線の課電寿命特性向上が検討され,優れた特性
を持つ巻線が開発されてきている。一方,巻線の製造方法においては全長にわたりオンラインで監視できる欠
陥検出装置の導入により品質の向上が図られている。
巻線技術の応用展開も図られており,そのひとつとして熱収縮防止材への適用が行われている。
今後は各種機器における地球温暖化対策等,環境への対応という面において種々の新たな要求が発生してくる
と思われ,巻線に対する技術開発がなお一層重要になると考えている。
This paper summarizes the recent trends in the development of magnet wires. We have developed as follows:
・ a new self-lubricating wire with fine windability, improved adhesion between bare wire conductor and insulation film.
・ special flat wire for higher efficiency products
・ higher heat resistant wire than polyimide enameled wire
・ enameled wire improved lifetime for accelerated AC aging test.
Further, we were able to get good quality wires by installation of continuos warranty system in manufacturing enameled
wires.
By applying magnet wire coating techniques, we have developed ADD COAT wire for shrink-proof of thermoplastic
resin.
In environmental protection, we think the development of magnet wires for electric applications will be more important
in the future.
1.は じ め に
巻線は通常目に触れることはないが,身近なものでは携
帯電話(振動用モータ)や家電製品(エアコン,テレビ等)
,
の材料の組み合わせによる新機能および従来機能の改良が
行われている。更に現在ではユーザーでの使用しやすさ,
機器としての効率の向上,低価格な巻線ということが主な
要求となっている。
自動車(オルタネータやハイブリッド車),大きなもので
使用しやすさとは巻線加工時の作業しやすさおよび不良
は発電所に設置される発電機や変圧器などあらゆる電気機
率の低減ということになるが,これらについては,融着巻
器で利用され,その役割を果たしている。ただ,巻線を使
線の適用,巻線表面の潤滑性能の向上,皮膜と導体の密着
用していただいているユーザーの海外展開に伴い,エナメ
性改良による耐加工性の向上が継続して行われている。
ル線の海外での使用は増えているが,国内では 1994 年をピ
1)
ークに年々減少している 。
巻線はエナメル線と横巻線に大別される。生産量から見
るとエナメル線がほぼ 9 割を占める。
エナメル線に関する開発動向は従来,ユーザーの要求が
機器の効率向上の一環として,従来丸い導体を使用して
いた機器に平角導体を使用することにより小型化,高効率
化が図られており,従来ではあまり使用されていなかった
厚さが 0.4 mm 以下という平角巻線の需要が増えている。
巻線の低価格化に対しては従来より材料のコスト低減,
特性の向上であったため,絶縁材料である合成樹脂の研究
生産方法の改善等が行われているが,今後も継続的な取り
開発が主であったが,近年では新規材料の検討はほとんど
組みが求められる。
行われておらず,今までに開発された材料の改良とそれら
一方,横巻線では従来から使用されている,ガラス繊維,
紙,耐熱ポリアミド紙,耐熱フィルムに加え無機塗料を組
* ñユニマック技術部
み合わせた複合巻線などが実用化され,特殊用途ではある
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Vol. 51, No. 1 (2001)
表 1 高テンション巻線に対応した巻線の特性例
(導体径 0.60 mm)
が着実に実績を伸ばしつつある。
生産技術面では高速焼付炉の導入,生産設備の無人化,
項 目
巻枠の大型化が進み,巻線のコスト低減に寄与している。
0.2 %耐力
また品質管理面ではエナメル線においてオンラインで連続
やわらかさ
欠陥検出ができる装置の導入が進み,異常品の流出が抑え
巻線時の寸法減少
られるようになったばかりではなく,品質レベルの向上に
も役立っている。
導 体
社では,耐加工性については巻線表面の潤滑性能の向上を
0.04
0.02
0.02
△
△
○
6.5
℃
160
接着力半減温度
℃
100 ∼ 120
絶 縁
材 質
導体径
mm
樹 脂
皮膜厚
引張り強度
また,最近ではモータの高効率化を目的に従来のインサ
280
融着開始温度
項 目
後の工程内不良率の低減が進んでいるため,巻線の耐加工
ート方式による製造方法からステータへの直巻による製造
150
N
開発品
表 2 高強度・高導電率巻線の特性例
モータなどを製造しているメーカーでは現在,巻線加工
性の要求に応えられなくなりつつあった。
150
340
mm
接 着 力
耐加工性の向上
重点に取り組んでいたが,それだけでは現在の耐巻線加工
150
高速整列巻線性
融着性
性についての要求レベルが非常に高くなっている。従来弊
耐力向上
115
(スプリングエロンゲーション)
2.巻線の開発動向
2.1
通常品
N/mm2
導体抵抗
Type HS
銅銀合金
銅銀合金
通常品
銅
0.05
0.05
0.05
ポリウレタン
ポリウレタン
ポリウレタン
mm
0.007
0.007
0.007
MPa
1 450
550
235
12 094
9 866
8 071
Ω/km(20 ℃)
導 電 率
耐屈曲性(R:0.5
Type UHS
%
wt:5.0 g) 回
70
90
97
1 000
300
100
方法へ変化してきている分野もある。直巻においては巻線
張力の関係から巻線時に絶縁皮膜へ大きな力がかかる可能
性がある。また,絶縁皮膜だけでなく導体の引張り強さ,
表面のすべり性,導体物性の管理が重要であり,巻線の製
伸びについても考慮する必要が出てきている。
弊社では近年のトレンドである導体と皮膜の高密着化お
造方法もそれに対応した形態を取っている。
よび巻線表面すべり性の更なる向上,導体物性の改良につ
表 2 に高強度導体(銅銀合金)を使用した巻線の特性例
いて取り組んだ結果,従来にない耐加工性を持つ巻線を開
を示す。この高強度導体は旧科学技術庁金属材料技術研究
発することができた。耐加工性の評価結果について図 1 に
所殿と昭和電線電纜ñの共同研究により開発された導体で
示す。従来の潤滑性巻線は一定荷重まで十分な耐加工性を
我々の部門はこの導体を使用したエナメル線の開発につい
有していたが,それを超える場合には急激な皮膜の破壊が
て協力を行った 2)。
起こり絶縁特性が低下していた。新たに開発した巻線では
特に導体径が 0.1 mm 以下の巻線でコイル巻の都合上,
高荷重領域においても絶縁皮膜の破壊が急激には発生せ
高いテンションがかかりやすく断線を防ぎたいという場合
ず,絶縁特性が一定レベルで保持される。
に有効な材料である。また繰り返し曲げ特性が良好なので
表 1 には高テンションで行われる特殊な巻線方法に対応
したエナメル線の特性例を示す。この巻線については巻線
振動部を持つ機器に使用した場合,断線しにくくなる。
平角巻線においても耐加工性の要求が従来よりも多くな
ってきている。平角巻線の適用分野が従来の重電分野(発
電機や変圧器)だけでなく,他の分野にも広がってきてい
絶縁破壊電圧残率 %
100%
るためである。また,平角巻線は丸線に比べ導体占積率が
向上できるので従来丸線が使用されていた機器の一部で適
80%
用が進められている。
平角巻線の場合は丸線の場合と異なり,高速で巻き付け
60%
られることがないため高度な潤滑性能は要求されないが,
40%
20%
小さな形状へ曲げ加工した時の絶縁皮膜のしわや亀裂の発
生などが問題となる。
EIW-SA(新規開発滑性巻線)
弊社ではこれらの対策として種々の検討を行った結果,
EIW-NA(従来滑性巻線)
0%
0.0
次の二つのアプローチで解決できることを見出した。
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
荷重 kg
試験方法:1 種 0.80 mm の巻線に所定の荷重をかけ,35 m/分で擦った後,絶縁破壊
電圧を測定した。
図 1 耐加工性試験結果
ひとつは導体と皮膜の密着性の向上手法であり,もうひ
とつは絶縁皮膜の可とう性を向上させる手法である。
これらの手法を用いて開発した平角巻線の特性例を表 3 に
示す。
新たに開発した平角巻線は巻線を 10 %伸長後に 2 mm 径
巻線の開発動向について
表 3 耐加工平角巻線の特性例
93
このなかで PIMK-U は主に従来超耐熱電線の欠点であっ
通常品
AIW
開発品
STAIW
絶縁皮膜材質
ポリアミドイミド
ポリアミドイミド
導 体 寸 法
mm
厚
幅
1.4
1.4
耐熱性を有するポリイミド銅線(PIW)でも使用不可能で
2.8
2.8
あった 300 ℃付近の温度領域で使用可能な超耐熱絶縁電線
絶 縁 皮 膜
mm
厚
幅
0.05
0.05
0.05
0.05
皮膜き裂
発生
皮膜き裂
なし
項 目
可とう性 10 %伸長後 2 mmφに
180 ゜
エッジワイズ曲げ
絶縁破壊
kV
8.2
8.4
耐軟化
℃
400
400
た絶縁耐圧の向上を目的とし開発した製品である。
この構造により従来の有機系絶縁電線のなかでは最高の
とすることができた。
また,この電線は従来知られている無機電線に比べ,非
常に可とう性に優れるとともに,セラミック化させるため
の加熱焼成を必要としないという特長がある。
PIMK-U と PIW の比較特性を表 5 および図 2,3 に示す。
表 5 各種ワイヤの一般特性
ポリイミド・セラミック
ポリイミド電線
複合電線
(PIW)
(PIMK-U)
の丸棒に沿って 180 度エッジワイズ曲げした場合でも絶縁
皮膜のしわ,亀裂が発生せず優れた曲げ加工性を有してい
る。
2.2
超耐熱電線 3)
弊社では従来から無機ポリマであるポリボロシロキサン
系樹脂を主成分とした材料を絶縁に使用した各種超耐熱電
線の開発を行っている。超耐熱電線といえども 1 種類だけ
ではユーザーの要求特性すべてを満たせるものではなく,
それぞれの必要特性によって最適な導体や絶縁の種類を選
択している。現在ではそれぞれの耐熱クラスについて表 4
のようなラインアップを行っている。
構
造
寸
法
導 体
ニッケルメッキ銅
銅
絶 縁
下層ボロシロキサン系樹脂
(特殊処理タイプ)
上層ポリイミド
ポリイミド
1.08
1.00
40
1.07
1.00
35
11.3
13.8
0.6
0
1 d良
1 d良
4H
4H
仕 上 り 外 径
導 体 径
絶 縁 厚
mm
mm
μm
絶縁破壊
オ リ ジ ナ ル
電 圧 kV
特
(2
ヶ撚法)
300 ℃× 5 000 時間後
性 可 と う 性
鉛 筆 硬 度
表 4 超耐熱巻線の構造
名称
(記号)
導 体
絶 縁
構 造
無縁ポリマ焼付
ポリイミド
(緻密化)
PIMK-U
+
ポリイミド焼付
DGMK
ニッケルメッキ銅
無機ポリマ含浸
ガラスファイバ
特 長
1.PIW より耐熱向上
無機ポリマ
(緻密化)
無機ポリマ含浸
ガラスファイバ
2.焼成が不要
機械的強度が MK ワイヤより良好
(ガラスファイバ)
ニッケル
無機ポリマ焼付
+
DGMK-W
銀
無機ポリマ含浸
ガラスファイバ
無機ポリマ焼付
(緻密化)
DGMK-U
無機ポリマ含浸
ガラスファイバ
無機ポリマ含浸
信頼性が DGMK より上
(下層にセラミック層)
無機ポリマ
無機ポリマ含浸
ガラスファイバ
DGMK-W より耐圧が向上
ガラスファイバ
無機ポリマ
(緻密化)
無機ポリマ含浸
ガラステープ
ガラステープ
GTMK + GTC
+
ガラステープ
無機ポリマ焼付
+
MCF-H
SUS クラッド銅
機械的強度が他のワイヤより良好
無機ポリマ含浸
ガラステープ
無機ポリマ含浸
セラミックファイバ
600 ℃程度の高温でも使用可能
無機ポリマ含浸
セラミックファイバ
無機ポリマ
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
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Vol. 51, No. 1 (2001)
表 6 V-t 特性を向上させた巻線の一般特性例
絶縁破壊電圧変化率(%)
100
PIMK-U
ポリイミド
エナメル線
PIW
新規開発
エナメル線
MPIW
導 体 径
1.000
1.000
皮 膜 厚
0.035
0.035
仕 上 外 径
1.070
1.070
良
品 種
項 目
PIW
寸
法
mm
10
可 と う 性
(自己径巻付)
良
密 着 性
(急激伸長)
良
良
15.0
12.6
絶 縁 破 壊
1
0
1 000
2 000
3 000
4 000
5 000
耐 熱 衝 撃
kV
(300 ℃自己径巻付)
耐 軟 化
加熱時間(h)
図 2 各種ワイヤの 300 ℃大気中での加熱試験結果
℃
良
良
400 以上
400 以上
商用波での課電寿命
(60 Hz 2 kV)min
1 485
10 062
高周波での課電寿命
(10 kHz 2 kV)min
82.0
4611.7
試験は JIS C 3003 エナメル銅線及びエナメルアルミ銅線試験方法による。
105
PIMK-U
PIW
103
印加電圧(kV)
寿命(h)
104
10
1 PIW
0 PIW
102
M PIW
1
10
101
2.0×10−3 1.9×10−3 1.8×10−3 1.7×10−3 1.6×10−3 1.5×10−3 1.4×10−3
100
1 000
10 000
寿命(min)
(1/T)
250
300
350
図 4 MPIW の V-t 特性例(60 Hz 室温)
400
温度(℃)
図 3 各種ワイヤの耐熱寿命試験結果
2.3
V-t 特性に優れた巻線 4)
近年,V-t 特性を向上させた巻線として絶縁皮膜に無機
酸化物を含有したものが発表,市販されており機器の信頼
性向上,小型化の手法のひとつとして期待されている。
我々も絶縁皮膜に各種添加剤を加えることにより絶縁皮膜
の改質を検討した。
その結果,従来のものに比べ V-t 特性が向上した巻線が
絶縁破壊電圧(kV)
10
14
1 PIW
12
M PIW
10
8
6
4
2
0
10
開発できた。開発品の特性を表 6 および図 4,5 に示す。
7
14
21
加熱日数(日)
これらの巻線は商用周波だけでなくインバータ等で使用さ
図 5 MPIW の加熱劣化後の絶縁破壊電圧例
れる高周波数領域においても優れた V-t 特性を示すだけで
なく,耐熱性も向上するというデータが得られている。今
後の展開に期待される。
2.4
平角巻線の小サイズ化への展開
最近の電気機器の小型化・軽量化・高効率化の流れの中
この程度のサイズの平角巻線も市場にはあったが価格,特
性面であまり魅力がなかったこともあって採用例は少なか
った。
で,これまで平角巻線を使用していなかった家電,情報機
弊社では絶縁材料,製造方法を検討し,平角導体のコー
器積載品の分野でも平角巻線の使用が検討され,需要が伸
ナー部に十分な絶縁皮膜を形成させた従来よりも絶縁特性
びてきている。
に優れた細サイズの平角巻線を開発した。
これらの分野で使用されている巻線は従来,断面積 0.6
2
弊社の細物平角巻線の特長は絶縁特性だけでなく 105 ℃
mm 以下の丸線が主に使用されており,一般的に考えられ
から 220 ℃までの各クラスの耐熱性を持つ絶縁材料を選択
ている平角巻線の範疇からは外れるサイズ領域であった。
できることにある。各種巻線の構成例を表 7 に示す。
巻線の開発動向について
95
表 7 細物平角銅線について
表 8 ボンド線の特長
ボンド線の種類 記号
特 長
項 目
SF タイプ
SFT タイプ
断 面 積 mm2
0.2 ∼ 0.8
0.2 ∼ 0.8
1:2.5 ∼ 1:20
1:2.5 ∼ 1:10
P1
新規品。従来品より高接着力,耐熱性良好
0.15
0.15
N
従来品。低温融着タイプと標準品
導体厚幅比
最小導体厚さ mm
ポリウレタン,ポリエステル ポリウレタン,ポリエステル
B ∼ H 種はんだ付け可能樹脂 B ∼ H 種はんだ付け可能樹脂
ポリアミドイミド,ポリイミド ポリアミドイミド,ポリイミド
絶縁皮膜種類
融着皮膜種類
ポリアミド
ポリエステル
ポリアミド
ポリエステル
絶 縁 性 能
ややピンホールあり
ピンホールほとんどなし
P
ポリエステル系
ポリアミド系
NF
従来品
新規品。整列巻良好,離型性あり,融着性と耐熱性のバランス
NB
新規品。熱風や通電加熱に適する低温融着タイプ
NC
新規品。耐熱性の向上した熱風や通電加熱に適するタイプ
ることは少ない。
ただ,一部の機種においては耐熱性向上が必要なため,
2.5
自己融着巻線について
従来とは異なる耐熱フィルム等が使用される場合もある。
自己融着巻線は絶縁層の上に融着層を設け,コイル巻後
各種耐熱フィルムを用いて試作した巻線の特性を比較し
に加熱することにより融着層が自己融着し,コイルを固定
た。その結果,それぞれのフィルムにより特長のある電線
するものである。
特性を示すことがわかった。各種耐熱フィルムを使用した
自己融着巻線に対しては要求がユーザーごとに異なるた
横巻線の特性例を表 9,10 および図 8 に示す。
め,そのたびに新たな材料を開発している。多くの場合は
電線としての特性はそれぞれのフィルムが元々持ってい
コイル巻に合わせた融着特性と高温雰囲気下での接着力の
る物性に左右される。フィルムの選択については導体への
保持である。これらの特性は相反することが多く,バラン
フィルム巻,フィルムを巻いた後の巻線加工条件,機器と
スをとることが開発のなかで重要なポイントとなってい
しての耐熱性や使用環境(水分の有無,雰囲気)等をよく
る。
考慮しなければならない。
弊社では低温で融着可能なタイプから高温でも高い接着
力を維持するものまで各種タイプのラインアップを行って
熱収縮防止材としての巻線技術の応用について
自動車や建材に使用されるモールと呼ばれる樹脂成形品
は成形後の樹脂の収縮,また使用環境での気温の上昇,低
きた。
下による熱膨張,収縮が発生するので所定の寸法に収まら
特性例を表 8 および図 6,7 に示す。
2.6
2.7
横巻線について
5)
なかったり取り付け後に隙間ができたりするので,これら
導体上に絶縁として紙やテープなどを巻きつけて製造さ
れている横巻線は主に発電機やトランスなどに使用されて
の変化ができるだけ少なくなるような工夫が各メーカーで
行われている。
このような分野への収縮防止材として弊社ではエナメル
る材料を選択される場合が多く,新規材料の検討が行われ
線製造技術の応用および新規材料の検討によりアドコート
2.0
2.0
1.5
1.5
1.0
P(従来品)
P1(新規品)
N(従来品:低温融着タイプ)
N(従来品:標準タイプ)
NF(新規品)
NB(新規品)
NC(新規品)
0.5
0
0
80
100
120
140
160
180
200
融着温度(℃)
図 6 ボンド線の融着特性(引き剥がし法)
融着力(N)
融着力(N)
いる。この分野は材料の信頼性を重視するため,実績のあ
P(従来品)
P1(新規品)
N(従来品:低温融着タイプ)
N(従来品:標準タイプ)
NF(新規品)
NB(新規品)
NC(新規品)
1.0
0.5
0
20
40
60
80 100 120 140 160 180
雰囲気温度(℃)
図 7 ボンド線の高温接着力特性(引き剥がし法)
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
96
Vol. 51, No. 1 (2001)
表 9 耐熱テープ巻線の特性例
項 目
ポリエチレン
テレフタレート
テープ
PET
耐熱
ポリエチレン
テレフタレート
テープ
耐熱 PET
ポリエチレン
ナフタレート
テープ
PEN
ポリフェニレン
サルファイド
テープ
PPS
ポリメチル
ペンテンテープ
PMP
テープ厚さ
mm
0.050
0.050
0.050
0.038
0.050
導 体 寸 法
mm
3×6
3×6
3×6
3×6
3×6
絶縁厚さ片側
mm
0.15
0.15
0.15
0.15
0.15
テープ巻枚数
2
2
2
2
2
巻 き 方
2 ∼ 3 mm ラップ
2 ∼ 3 mm ラップ
2 ∼ 3 mm ラップ
2 ∼ 3 mm ラップ
2 ∼ 3 mm ラップ
11.7
12.0
11.2
9.8
9.7
絶 縁 破 壊
kV
油中サイクル加熱後の絶縁破壊電圧残率
PET
水
絶
縁
破
壊
電
圧
残
率
%
100 ℃
150 ℃
耐熱 PET
PEN
PMP
クラフト紙
有
無
有
無
無
有
無
有
無
有
無
50 回
100
98
95
97 103 102
96
97
×
△
99
99
100 回
96
97
99
97 105 103
98
99
×
△
99
99
50 回
×
97
×
96
×
101 100 102
×
△
47
40
100 回
×
101
×
94
×
102
×
△
27
33
△:テープが著しく膨潤
×:テープが著しく分解
有
PPS
分
75 100
100
絶縁破壊電圧残高(%)
表 10
試験条件:室温 4 時間,加熱 2 時間を 1 回と
する。2 号絶縁油(水分 0.2 vol %)
とともにガラス管に密封。
線を開発し販売を行っている。
アドコート線は伸直性のある金属導体を使用し,各種モ
PEN
PPS
PET
PMP
耐熱
PET
50
PET
耐熱PET
ール材と接着可能な材料を導体表面に設けた構造となって
PEN
いる。
PPS
アドコート線を使用することにより樹脂成形品の収縮が
PMP
抑えられることが確認され,精密加工,生産性の向上に役
0
立っている。
初期値
100
モールに使用される樹脂は従来ポリ塩化ビニルが主であ
150
200
250
300
空気中加熱温度(℃)
ったが環境上の対策からポリオレフィン系の樹脂へ転換が
進められている。ポリオレフィン系樹脂は他のものとの接
図 8 空気中 6 時間加熱後の絶縁破壊電圧残率
(フラットワイズ 6 倍径曲げ部)
着性が悪いため,弊社がポリ塩化ビニル用に開発したアド
コート線では対応できなかったが,各種材料,製造方法を
検討した結果,新たに EPDM やポリオレフィン系樹脂であ
る TPO にも対応できるタイプのアドコート線を開発する
ことができた。各種アドコート線の特性例を表 11 に示す。
表 11 アドコート線の特性例
PVC 樹脂用アドコート線
高抗張力タイプ
TPO 樹脂用アドコート線
一般タイプ
一般タイプ
SP-AD-25R-s
SP-AD-40R-s
AD-25R-s
AD-40R-s
AD-25-O
AD-40-O
寸
素 線 径
0.250
0.400
0.250
0.400
0.250
0.400
法
仕 上 径
0.270
0.430
0.270
0.430
0.266
0.420
mm
皮 膜 厚
0.010
0.015
0.010
0.015
0.008
0.010
切 断 荷 重
N
135
300
50
110
50
110
接 着 力
N
1.0
2.0
0.8
1.6
0.6
1.2
良
良
良
良
良
良
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
非 粘 着 性
伸 び
%
注)TPO 樹脂:熱可塑性オレフィン樹脂
巻線の開発動向について
3.巻線製造工程について
97
気自動車などが今後市場に増えていくものと思われる。そ
れらに使用される巻線は今後新たな需要となるものと期待
巻線の製造工程では高速焼付炉の導入,生産設備の無人
を含め動向を注視している。
近年の省エネ法や地球温暖化防止等の環境関連対策のた
化,巻枠の大型化が進み,巻線のコスト低減に寄与してい
る。また品質面においても改善が進んでいる。
巻線の絶縁皮膜は 0.010 ∼ 0.060 mm 程度と薄いため全長
め,一部の電気機器では従来とは異なる設計を行ない,効
率を一気に引き上げることが行われている。これに伴い,
にわたる電気的な特性の安定化が重要な点である。ユーザ
巻線のコイル巻加工方法も従来とは異なった形になりつつ
ーから要求される品質特性を保証するには従来の端末試験
ある。
だけでは不十分と考えられるようになってきた。弊社では
冷媒を使用する機器では特定フロンから代替フロンへの
エナメル線の製造工程中でリアルタイムに全長にわたり電
切り替えが進んだが一部の機器では温暖化防止のため更に
気特性,寸法,外観,製造状態を監視できるシステムの導
新たな冷媒(炭化水素系)への切り替えも検討されている
入を行った。
ようである 6)。
システムの概要を図 9 に示す。
これらのような環境対応という面において今後とも巻線
このシステムの導入による利点としては次のことが挙げら
に種々の新たな要求が発生していくものと考えられる。
れる。
巻線業界内においてはコスト削減,生産性向上のため新
b 製造中でも異常の有無が発見できるようになったので
処置を早くできるようになった。
たな協力関係に基づく合弁事業が始まっている(昭和電線
電
b 端末試験では発見できなかった異常品の流出が押さえ
られるようになった。
ñとñフジクラとの合弁事業として 2001 年 4 月よりñ
ユニマックとして営業開始)。
今後,新たな組織の中で市場を席巻する新製品を開発し
b 検出された異常品の調査結果を元に品質レベルの向上
を図ることができた。
ていく所存である。
参考文献
4.巻線の将来について
1)技術部:電線時報,Vol.53,No.12,p.16(2000)
巻線に関する国内の近年の状況は思わしくない。主要電
気機械分野における海外生産移管が更に進められ,国内で
の巻線使用量は減る一方だからである。しかし,今後発展
していく分野もないわけではない。
2)森安他:昭和電線レビュー,Vol.50,No.1,p.47(2000)
3)助川他:昭和電線レビュー,Vol.44,No.2(1994)
4)金光他:昭和電線レビュー,Vol.46,No.2(1996)
5)近藤他:昭和電線レビュー,Vol.48,No.1(1998)
6)冨田他:昭和電線レビュー,Vol.50,No.1,p.36(2000)
情報産業機器向けが主体となっている小サイズの平角巻
線等一部の巻線製品においては今後も繁忙が続いていくも
のと思われる。また,自動車分野ではハイブリッド車や電
上位コンピュータ
光磁気ディスク
1系統
下位コンピュータ
2系統
プログラマブルコントローラ
品質情報1 品質情報2 品質情報3
炉温制御
図 9 全長保証システムの構成
金光 大(かねみつ ふとし)
ñユニマック 技術部 開発グループ 主査
1987 年入社
巻線の設計開発に従事
平野 辰美(ひらの たつみ)
ñユニマック 技術部 開発グループ長
1979 年入社
巻線の設計開発に従事