主要症例で学ぶ ナースが知りたい! 脳神経外科疾患の病態・治療・術後ケア 第12 回 主要症例で学ぶ 連載 ナースが知りたい! 企画 ● 林 健太郎(長崎大学 脳神経外科) 脳神経外科の患者さんをケアするには,疾患とその治療について知らないと始まらない! 基本中の基本の症例を通して,ナースが知っておくべき知識を実践的かつビジュアルに解説します。 症例提示 氏福健太 第 12 回 急性硬膜下血腫+脳挫傷 に対する 開頭血腫除去術+外減圧術 う じ ふ く・ け ん た:2001 年 長 崎 大 学 医 学 部 卒 業。 同 年 長 崎大学医学部 脳神経外科入 局,2010 年 同 大 学 病 院 救 命 救 急 セ ン タ ー 助 教,2011 年 同大学病院 脳神経外科 助教 と な り, 現 在 に 至 る。 医 学 博 士。日本脳神経外科学会専門医, 日本がん治療認定医機構認定医, 日本脳卒中学会専門医,JATEC コース修了,ISLS コース修了。 趣味は Perfume のライブと暴飲 暴食。人生迷走中。 に対する 開頭血腫除去術+外減圧術 症 例 脳神経外科疾患 の 病態・治療・術後ケア 執筆 ● 急性硬膜下血腫+脳挫傷 A 初回 CT 画像 右 B 発症 12 時間後 CT 画像 D 術後 CT 画像 左 症例 61 歳,男性。右利き 現病歴 交通外傷で受傷。第 1 病 日に左急性硬膜外血腫に対して開頭 術を行い,集中治療中であった。 来院時現症 1 回目の手術直後の頭 部 CT 検査にて術後出血がないこと を確認し,気管挿管のまま鎮静を継 続していた。全身状態は安定し,瞳 孔不同などの異常所見も認められな かった。手術翌日の頭部 CT 検査に て,右前頭葉の脳挫傷が外傷性脳内 ? はじめに C 発症 36 時間後 CT 画像 E 頭蓋形成術後 CT 画像 出血として顕在化し,急性硬膜外血 腫も若干増大した。中心偏位が認め 急性硬膜下血腫とは,硬膜下に血腫が貯留する外傷性疾患である。脳挫傷は脳実質が挫滅,断裂し,血腫の混在 を認めることもある脳実質損傷である。交通事故や転落外傷など,高エネルギー外傷が原因となることが多い。救 命のため緊急手術の適応となる場合があり,外傷シリーズの第 3 番目として取り上げる。症例は前回の続きである。 られ,手術適応となった(図 1)。 開頭血腫除去術,外減圧術 全身麻酔下に外減圧術を前提とし た大開頭を行い,血腫除去術を施行 頭蓋骨 静脈洞 した(図 2)。通常,精密な顕微鏡 操作は不要であるため,前回同様, 硬膜 くも膜 円座に頭部を置き,3 点固定は使用 軟膜 しなかった。セファゾリン 1 g を術 頭蓋骨骨折 前投与した。仰臥位で大きなクエス 急性硬膜下血腫 硬膜外出血 くも膜下出血 脳出血 【原 因】高 エ ネ ル ギ ー 外 傷 が多い 【症 状】意 識 障 害,不 穏, 片麻痺,てんかん発 作,失語など 【予 後】 手 術 に よ っ て 機 能 回復が認められる症 例は 3 割程度 チョンマーク型の皮膚切開を行い, 右前頭側頭頭頂開頭を行った。硬膜 を切開し,硬膜下血腫を除去し,出 血源を検索したが,明らかなものは 認めず,脳挫傷からの緩やかな出血 が疑われた。顕微鏡下に前頭葉と側 頭葉の挫滅脳を吸引除去し,出血点 を凝固止血した。活動性の出血が認 硬膜下出血 められないことを確認して,硬膜を 人工硬膜(人工血管などにも使われ 778 ・ BRAIN 2012/8 Vol.2 No.8 図 1 頭部 CT 画像 A:三日月型の右急性硬膜下血腫(▲)を認める。 右前頭葉には薄い脳内出血(あるいは外傷 性くも膜下出血:→)を認め,脳挫傷の存 在を疑うが,明確な所見ではない。 B:塩コショウのように, 濃淡(白黒)入り混じっ た脳挫傷が顕在化してきた(→) 。 C:脳挫傷(→)の範囲が広くなり,脳浮腫お よび外傷性脳内出血が悪化している所見で ある。中心偏位が大きくなり,脳ヘルニア の危険性が高まったため,この時点で 2 回 目の手術を決断した。 D:挫滅した脳を吸引除去し(→) ,外減圧とし て手術を終了している。右側の頭蓋骨が除 去されている(清潔な状態で,− 80℃の冷 凍庫に保存) 。両側の側頭葉にも脳挫傷の所 見がはっきりしてきた(▲) 。 E:脳浮腫が落ち着いた後,自家骨にて頭蓋骨 を再建した。 BRAIN 2012/8 Vol.2 No.8 ・ 779
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