スライド 1

無機化学 1
3章 イオン結合とイオン結晶
目的:NaCl、Na2SO4などのような原子および多原
子イオンから成るイオン結晶の生成、構造、格子
エネルギー、物性を紹介する。
****前期 「化学」 復習****
化学式, 分子式, 実験式, 化学方程式
●元素記号を用いて物質を表した式( 化学式 chemical
formula)のうち、分子を表記するのは 分子式 (molecular
formula)(例:He, H2O, O2, C6H6)で、イオン結晶では各構
成元素の最も簡単な整数比で表す( 実験式 empirical
formula 例:NaCl, NH4Cl、Na2SO4)。
●化学式を用いて 化学反応 (chemical reaction)を示し
たものを 化学方程式 (chemical equation)という。左辺
に 反応物 (reactant)、右辺に 生成物 (product)を書き、
左辺と右辺で同じ種類の原子数は同じである。
2H2 + O2 → 2H2O (反応式は→を用いる)
アボガドロの法則、モル
●「同温同圧のもとでは、すべての気体は同じ体積中に
同数の分子を含む」というのが「 アボガドロの法則 」で
0℃、1.013×105Pa(パスカル)(1気圧)で、6.0221×1023
個(NA, 凡そ6×1023)の気体分子を集めると、その種類に
よらず22.414 l(リットル、凡そ22.4 l)となる。
●この粒子数を含む純物質を 1モル(mol) という単位で
カウントする。基準は炭素で、炭素12.0 g が1モルである。
上の化学反応は、2モルの水素と1モルの酸素が反応し
て2モルの水ができることを示す。
物質量、分子量、式量、化学量論係数
●酸素原子1モルは16.00 g、酸素分子1モルは32.00 gで、
物質量という。純物質1モルの質量はモル質量(M g/mol)
で、分子の場合、単位を除いたのが 分子量 (molecular
weight)である。イオン結晶では実験式を用いた化学方程
式が用いられ、分子量の代わりに 式量 (formula weight)
が用いられる。
●化学反応で重要なのは反応物、生成物の前につく係数
と熱の出入りである。エタノールを燃やすと、炭酸ガスと水
が生成するので
aC2H5OH + bO2 → cCO2 + dH2O
係数a―dを化学量論係数(stoichiometric coefficient)
という。炭素で 2a = c, 酸素で a + 2b = 2c + d, 水素で
6a = 2dであるから, a:b:c:d =1:3:2:3となる。
C2H5OH + 3O2 → 2CO2 + 3H2O
熱化学方程式
●熱の出入りを考慮した熱化学方程式(thermochemical
equation)では、反応物、生成物の状態が重要であり、化学
式の後ろに気体(gas)g , 液体(liquid) l , 固体 (solid) sの
記号を付ける(熱化学方程式は等号を用いる)。
C2H5OH(l) + 3O2(g) = 2CO2(g) + 3H2O(l) + 1366.7 KJ
1モルのエタノール(液体)と3モルの酸素(気体)の反応に
より、2モルの炭酸ガス(気体)と3モルの水(液体)が生成し、
1366.7 KJの発熱を伴う。
●イオン化傾向:2つの元素のどちらがより酸化され易い(あ
るいは還元され易い)か、つまり酸化還元反応における化学
平衡がどちらに偏っているかの序列である。イオンの溶液中
での安定性や電気化学活量など化学平衡として反応が進
む方向を決定づける他の因子に大きく影響され、定量化は
困難。水溶媒でイオン化列という。(Li, K, Ca, Na) > Mg >
(Al, Zn, Fe) > (Ni, Sn, Pb) > (H2, Cu) > (Hg, Ag) > (Pt,
Au) のように( )内のイオン化傾向は条件に依存する。貸
そうかな、まああてにすな、ひどすぎる借金。理智 (Li) ルビ (Rb)
カ (K) バー (Ba)巣と炉 (Sr)仮 (Ca) 名 (Na) 魔具 (Mg)アル (Al) 漫画 (Mn) 合えん
(Zn)黒夢 (Cr)鉄 (Fe) 門 (Cd)木庭 (Co) に (Ni) 鈴 (Sn) 園 (Pb) 水 (H)アンチ (Sb)
尾 (Bi) 藤 (Cu)水銀 (Hg)銀色 (Ag) パラパラ (Pd) 白い (Pt) 金 (Au)
化学電池ではイオン化傾向の大きい金属が 負極 、逆
が正極 。
3.1)イオン結晶
3.1.1) 原子イオン間のイオン結晶
●無機イオン結晶は、電子を出して安定な陽イオンと
なる原子と、電子を受容して安定な陰イオンとなる原
子との間にクーロン静電引力が働いてできる結晶で
ある。
●各イオンは最外殻が満たされた安定な希ガス型電
子配置をとる。代表例は、周期表1族Na(電子配置
1s22s22p63s1)と17族Cl(1s22s22p63s23p5)から構
成される食塩(岩塩)で、3.1式である。
Na + Cl  Na+(Ne型) + Cl(Ar型) (3.1)
●イオン結晶を得る第一の条件は3.2式である。
Ip  EA < M
(3.2)
●NaNa+のイオン化反応に必要なエネルギー(イオン
化ポテンシャル、Ip)は5.14 eVである。
●ClClにより3.61 eVのエネルギー利得(電子親和力,
EA)がある。
●従って、Na+ + Cl-のイオン対形成に5.14  3.61 = 1.53
eVのエネルギーが必要である。
●結晶に凝集すると、異種イオン対間のクーロン引力、
同種イオン間のクーロン反発の総和による安定化エネル
ギー(マーデルング・エネルギー, M)が得られる。岩塩
の凝集エネルギーは約7.9 eVで、イオン対形成に必要な
1.53 eVを凌駕しているので安定なイオン結晶となる。
イオン結晶の一般的性質
●無機原子イオンから成るイオン結晶は、融点
(melting point)が高く、電気の絶縁体(insulator)で、
水などの極性溶媒(polar solvent)によく溶け、電解
質(electrolyte)として働く。
●中には、イオン伝導性に優れたものがある(電池
に利用)。
●しかし、これらの性質に従わない多くの例外があ
り、また、有機-無機複合系イオン結晶や有機物イオ
ン結晶は一般的性質を要約するのが困難なほど多
様性に富んでいる。
3.1.2) 多原子イオン、分子イオンを含むイオン結晶および
イオン液体
アンモニウム(NH4+)、フォスフォニウム(PH4+)、その水素原子をフェ
ニル基で置換したアニリニウム(C6H5-NH3+)やテトラフェニルフォス
フォニウム[(C6H5)4P+]、またシクロプロペニル、シクロヘプタトリエニ
ル(トロピリウム)など多くの無機多原子陽イオン、有機陽イオンがあ
る(図3.1)。また、過塩素酸イオン
(ClO4)、硫酸イオン(SO42-)、トリ
フルオロメチル硫酸イオン(トリ
フラート)(CF3SO3-),燐酸イオン
(PO43-)、などの無機多原子陰イ
オン、フェノラート(C6H5-O-)、p-ト
ルエンスルフォネート(トシラート
アニオン、CH3-C6H4-SO3, TsO)、
ピクラート(C6H2(NO2)3-O ) 、シク
ロペンタジエニル(Cp )などの
有機陰イオンがある。
クラウンエーテル:ペダーセンにより発見された環状エーテル
化合物で、環内に様々のアルカリ金属イオンやアンモニウム
イオン(M+)をゲスト分子として包含する。包含される陽イオ
ンのサイズと環の中央にある空隙サイズの適合性に依存し
た錯形成(ホストーゲスト化合物)が行われる。陰イオン(X-)
は強いイオン対形成から緩和される。従って、イオン結晶MXはクラウンエーテルを
含む無極性非水溶媒(多くの有機溶媒)に可溶となり、X-はM+に強い束縛を受け
ずに存在するので、反応性が極めて向上する。このような陰イオンをnaked anionと
いう。生体内で、活性なnaked anionを生成することは危険であり、クラウンエーテル
を飲取しないよう取り扱いに注意する。クラウンエーテルは、それを形成する原子
数と環内の酸素の数で慣用名が決定される。18-クラウン-6 エーテルが
最も一般的に利用される。
レーンはクリプタンドを用い、3次元包摂化
合物の化学を展開し、クラムは、こ
れらの包摂化合物(ホスト-ゲスト)
の化学を分子認識の視点で展開し、
上述3化学者は1987年にノーベル化学賞を受賞した。包摂化合物(クラスレート化
合物)として、ヒドロキノンへのメタノール、Ar, Kr, Xeの挿入、-シクロデキストリン
への中性分子の挿入、ヨウ素デンプンなどがある。
Charles(良男) J. Pedersen(Chemistry, 1904-1989)
● Synthesis of Crown ethers, ● Naked anion
Born in Pusan(釜山), Korea, Norwegian father
and Japanese mother •• International school in
Yokohama •• Univ. Dayton in Ohio (at 18) ••MIT
••DuPont(at 23). At 63(1967), he published two papers about
crown ethers →At 83(1987) received Nobel Prize with Donald
Cram and Jean-Marie Lehn. Supramolecule
Cs+
Crown ether to detect Cs+
変わった物質として、アルカリ陽イオンを包摂したクラウンエーテル
など多種多様なイオンが開発されている。その中でも、融点が室温
より低いイオン液体が、蒸気圧が極めて低いので環境を汚さない
グリーンな反応溶媒として、最近注目を浴びている。これは、1-エ
チル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)などのような対称性の低い陽イ
オンを用いた塩である。
C2H5
N
N
CH3
EMI
3.2) イオン結晶の構造
幾つかの代表的結晶構造があり、重要。
塩化セシウム型、岩塩型、閃亜鉛鉱型
CsCl
NaCl
ZnS
●イオン間に働くクーロン静電力は方向性をもたないので、
イオン結晶の構造は陰イオン(半径R)、陽イオン(半径r)の
数の比、半径比、分極率によって支配される。
●各イオンはできるだけ多くの反対符号のイオン(その数を
配位数:coordination number)に取り囲まれるようにして安定
化する。陽イオンと陰イオンの数の比が1:1の場合の配位数
は、8、6、4である。
第1族 H以外はアルカリ金属
H, Li(180), Na(98), K(30), Rb(39), Cs(28)137Cs, Fr(27)
1) CsCl(caesium chloride)型:配位数8
陽イオンの半径と陰イオンの半径に大きな違いがない
時(r/R>0.73 であると)、主に塩化セシウム型: CsX(X =
Cl, Br, I)、NH4X(X = Cl, Br, I)など、約50種の化合物があ
る。配位数8。
2r
R
2
2
1
1
2
1
(2R+2r)/2R=3
r/R=0.732
全 て の 原 子 が 同 種 な ら 体 心 立 方 格 子 (body
centered cubic, bcc, 占有率68%, 全てのアルカ
リ金属、Ba, 多くの遷移金属が属す。
15
2)岩塩(rock salt)型: 配位数 6
陽イオンが小さくなり0.73 > r/R > 0.414ならば岩塩型:上
記CsX(X = Cl, Br, I)を除く全てのハロゲン化アルカリが
属す。200種以上の化合物がある。配位数6。
1
1
2r
1
(2R+2r)/2R=2
r/R=0.414
2R
陽 イ オ ン 、 陰 イ オ ン は 各 々 面 心 立 方 格 子 (face
centered cubic, fcc, 占有率74.1%)、全てが同種原子な
ら単純立方格子(simple cubic, sc, 占有率52%, Poの低
温相)である。
16
3)閃亜鉛鉱(zinc-blend)型 陽イオンが小さくなり、陰イオン
が大きくなると(0.414 > r/R)( 閃亜鉛鉱(ZnS)、CdS、ハロ
ゲン化銅(I)など40種近くの化合物がある。配位数4)。
2
O
Q
Q
O
1
2r
P
L
L
R
P
r/R =0.225(R/(R+r)=2/3) 全原子が同種でダイヤモン
ド(diamond)型構造 (4配位、Si,Ge,灰色Sn,占有率は34%)
元素記号(symbol of element) 原子記号(atomic symbol)
13C
炭素(carbon) 12
C,
6
6
原子番号(陽子数)
質量数(陽子数+中性子数)
atomic number
mass number
17
陽イオンと陰イオンの数の比が2:1または1:2の場合の配位数は8:4,
6:3と4:2(1:2ではその逆)
1) r/R > 0.73ならば配位数8:4のホタル石型(ホタル石CaF2 ), Caと
Fを入れ替えた構造を逆ホタル石型という。
図3.2e) ホタル石型
ホタル石(フルオライト fluorite) 結晶を火の中に入れると光を発す
るので、この名がある。緑や紫の美しい結晶であるが、硬度4で軟ら
く劈開性が強いので日本では宝石に使われない。高級光学レンズ
材、フッ素の貯蔵材、濃硫酸に入れて加熱するとフッ化水素(HF) が
発生する 蛍光:fluorescence
2) 0.73 > r/R > 0.414で配位数6:3のルチル型(ルチル(金紅石)
は酸化チタン(TiO2)の多形の一つ)。
ルチル
O
Ti
図3.2f) ルチル型
3) 0.225>r/Rなら4:2配位のCu2O型(Ag2Oなど)
Cu
O
図3.2g) Cu2O型
Cu2O
CuO
3.3)格子エネルギー
3.3.1)マーデルング・エネルギー イオン結晶の理論はボルンにより発
展された。距離rij離れた格子点にある価数 ziとzjのイオン間に働くクーロ
ン相互作用エネルギーEijは、
zi z j e 2
Eij=
(3.3)
4 0 rij
結晶中の全静電エネルギーEcは
1
 Eij
Ec =
(3.4)
2
i j
である。NaCl結晶では、1モルのzi(Na+) = 1, zj(Cl) = –1、NA = NNa+ =
NClで、Ecは
Ec = (NNa+  Eij + NCl  Eij )
= NAEij (3.5)
i ( j  Na  )
i ( j Cl  )
である。図3.3に示すように、NaCl結晶は、Na(白丸)が作る面心立方格
子(face centered cubic, fcc)とCl-の面心立方格子の組み合わせより出
来ている。Na+(jの位置)の周りの、イオンの種類、個数、jからの距離を表
3.1にまとめる。マーデルング定数Mrを用い、Eijは3.6式となる。
図に示すように、NaCl結晶は、Na(赤丸)が作る面心
立方格子(face centered cubic, fcc)とCl(黒丸)の面
心立方格子の組み合わせより出来ている。
√3r
図 NaCl結晶の核間距離r
√5r
Na+(jの位置)の周りの、イオンの種類、
個数、jからの距離を第4隣接まで求めよ
r
4r
2r
イオンの種類 個数
距離
第1隣接イオン
第2隣接イオン
第3隣接イオン
第4隣接イオン
21
表3.1
イオンの種類
Cl
Na+
Cl
Na+
第1隣接イオン
第2隣接イオン
第3隣接イオン
第4隣接イオン
Eij =
=
e2
4 0 r

個数
6
12
8
6
距離
r
2 r
3 r
4 r
(–6/r + 12/2r  8/3r + 6/4r  •••)
e
2
4 0 r
Mr
(3.6)
1モルの結晶の静電引力エネルギー(マーデ
ルング・エネルギー)は3.7式となる。
2
N
e
Ec=
(3.7)
A

M
4 0 r
r
22
●マーデルング定数は、結晶構造に特有の値で、配位数が
大きいほど大きい(表3.2)。
●表中には、イオン間の距離r以外に、立方格子の1辺の長
さaでのマーデルング定数をも示す。
●マーデルング定数を1式量中のイオン数で割った値は、
ほぼ一定になる→熱力学的イオン半径(後述)。
●ボルンによるイオン結晶の理論は、点電荷近似で、また
剛体近似であるため、複雑で軟らかな有機イオン結晶への
適用には注意を必要とする。
表3.2 結晶構造と配位数、マーデルング定数(Mr, Ma)
構造
CsCl
岩塩
閃亜鉛鉱
ZnO
CaF2
配位数
8
6
4
4
4
Mr
1.763
1.748
1.638
1.641
2.519
Ma
2.035
3.495
3.783
aとrの関係
2r/3
2r
4r/3
5.038
4r/3
Mr/
0.88
0.87
0.82
0.82
0.84
全ポテンシャル・エネルギー
イオン核が近接すると電子雲間での反発ポテンシャル
が生じ、1モルあたりの全ポテンシャルエネルギーE(r)
は、ボルン-ランデの式(3.8式)で表される。
E(r)=
N A z 2e2

Mr
4 0 r
+ B/ r
n
(3.8)
B /r n
(3.8式)
N A z 2e2

Mr
4 0 r
(dE(r)/dr)r=r0 = 0
24
マックス・ボルン 1954年ノーベル物理学賞(72才
量子力学)、弟子にハイゼンベルグ、ジョン・フォン・
ノイマン、パウリ、孫にオリヴィア・ニュウトン・ジョン
ノーベル
物理学賞
1932 (31才)
ピアノの名手
「将来は科学者
になるか、ピアニ
ストになるか」
ノイマン型コンピュータ
驚異的な計算能力と
特異な思考様式、極め
て広い活躍領域から
「悪魔の頭脳」「火星
人」。スタンリー・キュー
ブリックによる映画『博
士の異常な愛情』のス
トレンジラヴ博士のモ
デルの一人。原爆
ノーベル物理学賞
1945(45才)
完璧主義者
実験は全く下手
Pauli効果・・Pauliが
装置のそばに寄る
と装置が壊れる
3.3.2) 格子エネルギー
イオン核が近接すると電子雲間での反発ポテンシャルが生じ、1モル
あたりの全ポテンシャルエネルギーE(r)は、ボルン-ランデの式(3.8式)
で表される。
N A z 2e2
E(r)= 
(3.8)
M r + B/ r n
4 0 r
3.8式のエネルギーは平衡距離r0において(dE(r)/dr)r=r0 = 0であり、
n 1
2 2
4 0 nB 1 /(n1)
r
M
N
z
e
0
r
A
r0  (
)
B(
) (3.10)
(3.9)
M r N A z 2e2
4 0 n
である。したがって、r = r0でのポテンシャルエネルギーは
E(r0)=
M r N A z 2e2
1

(1  )
4 0 r0
n
(3.11)
と成る。この符号を変えた値が格子エネルギーU(r0)(0 K, 常圧で気
体状の構成粒子が1モルの周期的固体つまり結晶に凝集するときに
得られる安定化エネルギー)である。
2 2
U(r0)=
M r NA z e
1
(1  )
4 0 r0
n
(3.12)
3.8式のnをボルン指数と言い、実験で求められる結晶の圧縮率から
求めることができる。ポーリングはnとして5(He型イオン、7(Ne型イオ
ン)、9(ArおよびCu+型イオン)、10(KrおよびAg+型イオン)、12(Xeおよび
Au+型イオン)を提案した。陽イオンと陰イオンが異なる型の電子配置
のイオン結晶では、両イオンのnの相加平均を用いる。SrCl2ではSr(Kr
型 n=10)とCl(Ar型 n=9)と組成比よりn = (10+9+9)/3 = 9.33となる。表
3.6に、圧縮率から得られたnとポーリングの提案によるnを比較する。
表3.3 ボルン指数
ハロゲン化アルカリ
LiF
LiCl
LiBr
NaCl
NaBr
ポーリングのn
6.0
7.0
7.5
8.0
8.5
圧縮率からのn
5.9
8.0
8.7
9.1
9.5
3.4) ボルン-ハーバー サイクル
●格子エネルギーを直接測定することは不可能である。
●実験により得られる標準状態(常圧、298 K (25℃)なので0 Kでの値
より2.48 kJ mol-1だけ大きい)の熱力学データを用い、イオン結晶の格
子エネルギー(Hc: エンタルピー 5章で詳しく解説)を求める方法とし
てボルンとハーバーが独立に提案した循環過程をボルン-ハーバー
サイクルという。図に塩化ナトリウム結晶の例を示す。
 ΔH
 (1 / 2) ΔH
sub
d
Na(固体) +1/2 Cl2(気体) 
Na(気体) + Cl(気体)
Hf ↓
↓ +Ip – EA
Hc
NaCl(固体)  Na+(気体) + Cl-(気体)
Hf: Na(固体) + 1/2Cl2(気体)からNaCl(固体)への生成熱
Hc: 格子エネルギーU、Ip:Naのイオン化電位
EA:Clの電子親和力、Hsub: Naの昇華熱、Hd: Cl2の解離熱
昇華: sublimation、解離: dissociation、電荷:electric charge
誘電率:dielectric constant
28
 ΔH
 (1 / 2) ΔH
d
Na(固体) +1/2 Cl2(気体)  sub
Na(気体) + Cl(気体)
Hf ↓
↓ +Ip – EA
Hc
NaCl(固体)  Na+(気体) + Cl-(気体)
Hc = –Hf(NaCl 固体) + Hsub + (1/2)Hd + Ip – EA (3.13)
多くの物質において(特に多価イオン状態の) EAを求めるの
は困難であるが、
3.13式は
Hc=–Hf (NaCl 固体)+Hf (Na+気体)+Hf (Cl–気体) (3.14)
となり、各々の標準生成熱で記述される。
29
表3.4にボルン-ハーバー サイクルによる格子エネルギーを示す。これ
らの値は文献により10 kJ mol-1程度の変動が見られる。
●簡単なモデル計算でのイオン結晶の格子エネルギー U(r0) (3.12式)
は、3.14式より実験的に得られる格子エネルギーHcと、良い一致を示
す(一番右の欄の値が小さい)。
●分極の大きいイオンになるほど一致が悪く(Hc–U(r0))が大きくなり、
剛体近似である3.12式の欠点を示す。また、3.12式は、実測のr0を用い
ているため、イオン結合性のほかに共有結合性を強く含む結晶(ハロゲ
ン化銅やハロゲン化銀)において, (Hc–U(r0))は大きくなる。
第一次世界大戦時に塩素、フォスゲン、マスタードガス
など各種毒ガス使用の指導的立場にあったことから「化
学兵器の父」と呼ばれることもある。最初の妻は毒兵器
開発に抗して自殺。空気中の窒素からアンモニアを合
成するハーバー・ボッシュ法で知られる(1918年 ノーベ
ル化学賞50才)。1919年ボルン・ハーバーサイクル、
ハーバー・コロキウムを開催した。ここでは、「ヘリウム
原子からノミにいたるまで」と謳われたように、化学、物
理学から、生物に至るまで、幅広い領域を対象にした。
表3.4 ハロゲン化アルカリの格子エネルギーHc(kJ mol-1)と計算によ
る格子エネルギーU(r0)(3.12式)の比較。r0:平衡核間距離,
結晶 r0
LiF
2.01
NaF 2.31
KF
2.67
NaCl 2.81
KCl 3.14
CsCl 3.56
NaBr 2.98
KBr 3.29
CsBr 3.72
LiI
3.02
NaI
3.23
KI
3.53
RbI
3.66
CsI
3.96
CuCl 2.35
AgCl 2.77
AgI
2.81
n
配位数 U(r0) Hf(MX)
6.0 6
1006 -612
7.0 6
901 -569
8.0 6
795 -563
8.0 6
756 -411
9.0 6
687 -436
10.5 8
622 -433
8.5 6
719 -360
9.5 6
660 -392
11.0 8
598 -395
8.5 6
709 -271
9.5 6
672 -288
10.5 6
622 -328
11.0 6
603 -328
12.0 8
567 -337
9.0 4
864 -137
9.5 6
783 -127
11.0 4
738 -62
Hf(M+) Hf(X-) Hc
Hc-U(r0)
682
611
515
611
515
461
611
515
461
682
611
515
495
461
1090
1019
1019
17
8
12
20
18
26
18
13
24
47
30
24
23
34
117
117
146
-271
-271
-271
-246
-246
-246
-234
-234
-234
-197
-197
-197
-197
-197
-246
-246
-197
1023
909
807
776
705
648
737
673
622
756
702
646
626
601
981
900
884
3.5) イオン半径と配位数
3.5.1) イオン半径と低スピン・高スピン状態
●イオンは剛体球ではなく、その大きさは周囲の条件(反対の電荷の配
位子の性質や配位数)の影響を受ける。
●ハロゲン化アルカリの最外殻電子が存在するs軌道もp軌道も球対称
の確率分布をもち、イオン半径の大きさの領域においては、なめらかに
減少した関数であり、イオン半径は明確に規定できるものではなく、規
定の仕方に依存した値である。
●ポーリングはイオン半径の値を、半径が最外殻電子の感じる有効核
荷電に逆比例すると考え、岩塩型構造を仮定し、配位数6として核間距
離から理論的に求めている(有効イオン半径)。配位数が6でないときは
補正を必要とする。
●シャノンらは、イオン結晶構造の正確な電子密度分布を求め、密度
の最小の位置がイオン半径に相当するものとしてイオン半径を決定し
た(結晶半径)(表3.5)。ポーリングのイオン半径に比べ、シャノンのイオ
ン半径では、陰イオン半径が小さく、陽イオン半径が大きい。
●これらのイオン半径は核間距離を陰イオン半径+陽イオン半径( r0 =
r + R)として規定されているので、ポーリングのイオン半径とシャノンの
イオン半径を混同して使用してはならない。
●6配位のO2-のイオン半径を1.40 Åとしたポーリングのイオン半径より
も、6配位O2-およびF-の半径をそれぞれ1.26 Åおよび1.19 Åとしたシャ
ノンらの値が実際のイオン半径に近い。
●Cr, Mn, Fe, Co, Niのイオン半径はスピン構造により値が変化し、抵ス
ピン/高スピンで表す(薄青)。
●Cu+とZn2+のイオン半径は対称性に依存し四面体/八面体で(薄赤)、
同様にNi2+は四面体/正方平面(黄)で表す。
●H-では1.54, 1.94(ポーリングの値を修正)、2.08 Å(ポーリング)がある
Linus C. Pauling (1901–1994) (Chemist, Biochemist,
Peace activist, Author, Educator)
Oregon Agricultural College (16).
● In his last two years at school, Pauling
became aware of the work of Gilbert N.
Lewis and Irving Langmuir on the
electronic structure of atoms and their
bonding to form molecules.→ ● Caltech
(Crystallography) → ●Guggenheim
Fellowship to study under A.
Sommerfeld, N. Bohr, E. Schrödinger →
● Quantum chemistry
New concept: hybridization
The Nature of the Chemical Bond(1939)
1954 Nobel Prize in Chemistry
● Valence Bond Theory(Quantum chemistry)
● Biological Molecule
● Molecular Genetics
● Molecular Medicine ??
•Pauling is notable for the diversity of his
interests: quantum mechanics, inorganic
chemistry, organic chemistry, protein
structure, molecular biology, and medicine. In
all these fields, and especially on the
boundaries between them, he made decisive
contributions.
• Pauling's work on crystal structure
contributed significantly to the prediction and
elucidation of the structures of complex
minerals and compounds.
• His discovery of the alpha helix and beta
sheet is a fundamental foundation for the
study of protein structure
L. Pauling as an educator
Williams Lipscomb (Boron Chemistry, Biochemistry)
1976
Lipscomb’s student R. Hoffman (Extended Hückel)
1981, T.A.Steitz, A. Yonath(Bio) 2009
Martin Karplus(Theory, Molecular dynamics) 2013
Pauling
Lipscomb
Karplus
Hoffman
Steitz
Yonath
表3.5 各種イオンの結晶半径 (Å)
1
Li+ 0.90
Na+ 1.16
K+ 1.52
Rb+ 1.66
Cs+ 1.81
3
Sc3+
0.89
Y3+
1.04
ランタ
ノイド
2
Be2+ 0.59
Mg2+0.86
Ca2+1.14
Sr2+1.32
Ba2+1.49
13
B3+0.41
Al3+0.68
Ga3+0.76
In3+0.94
Tl3+1.03
14
C4+0.30
Si4+0.54
Ge4+0.67
Sn4+0.83
Pb4+0.92
15
N3-1.32
P3As3Sb3Bi3-
16
O2-1.26
S2-1.70
Se2-1.84
Te2-2.07
Po2-
17
F-1.19
Cl-1.67
Br-1.82
I- 2.06
At-
4
Ti4+
0.75
5
V3+
0.81
6
7
8
9
10
Fe3+
Co3+
Ni3+
Cr3+ 0.76 Mn3+
0.72/0.79 0.69/0.79 0.69/0.75 0.70/0.74
11
Cu3+
0.68/-
Ti2+
1.00
V2+
0.93
Cr2+
Mn2+
Fe2+
Co2+
Ni2+
0.87/0.94 0.81/0.97 0.75/0.92 0.79/0.89 0.69/0.63
Cu2+ 0.87
Zr4+
0.86
Hf4+
0.85
La3+ Ce3+
1.17 1.15
12
Zn2+
0.74/0.88
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Cu+
0.74/0.91
Ag+ 1.29
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au+ 1.51
Pr3+
1.13
Nd3+
1.12
Gd3+ Tb3+
1.08 1.06
Dy3+
1.05
Pm3+ Sm3+ Eu3+
1.11 1.10 1.09
Ho3+
1.04
Er3+
1.03
Tm3+
1.02
Cd2+ 1.09
Hg2+ 1.16
Yb3+
1.01
3.5.2)熱化学的イオン半径
マーデルング定数を一式量中のイオン数で割ると、ほぼ一定の値となる(表
3.2)。これを利用すると、全てのイオン結晶の格子エネルギーを、岩塩型構造
で代用し、構造未知のイオン結晶の格子エネルギーの推定やイオン半径を
求めにくい複雑なイオンの有効半径を評価できる。岩塩型構造で、 Mr =
0.874であるから、3.12式はn = 9, r0 = r + Rとして、
0.874N A z 2 e 2
z z
1
U(r0)=
(3.15)
(1  )  1071   kJmol1
4 0 (r  R)
9
rR
となる(カプステインスキーの式)。3.15式を用い、イオン結晶M1XとM2Xならび
にM1+とM2+の標準生成エンタルピーとM1+とM2+のイオン半径を使い、複雑な
陰イオンXの半径RXを次式より推定できる。
 M X zM zx
1071(
1
1
rM1  RX

 M X zM zx
2
2
rM 2  RX


)  H f (M 1 )  H f (M 2 )  H f (M 1 X)  H f (M 2 X)
このようなイオン半径を熱化学的イオン半径という(表3.6)。
イオン
NH4+
NMe4+
AlCl4–
BF4–
BrO3–
CH3COO–
ClO3–
ClO4–
CN–
CNS–
イオン半径
1.51(1.61)
2.15
2.81
2.18 (2.28)
1.40
1.48
1.57
2.26 (2.36)
1.77
1.99
イオン
CO32–
IO4–
N3–
NO2–
NO3–
O22–
OH–
SO42–
SeO42–
TeO42–
イオン半径
1.64
(2.49)
1.81
1.78
1.65
1.44
1.19(1.23)
2.44 (2.30)
2.35(2.43)
(2.54)
イオン
CrO42–
MnO42–
PO43–
AsO43–
SbO43–
BiO43–
PtF62–
PtCl62–
PtBr62–
PtI62–
イオン半径
(2.40)
2.15
(2.38)
(2.48)
(2.60)
(2.68)
2.82
2.99
3.28
3.28
39
表3.7 四面体陰イオンのイオン体積
陰イオン体積=(Ri + 2Ro)3 (Å3)
Ri:内側イオンの半径, Ro : 外側イオンの半径
イオン
FSO4
HSO4
BF4
ClO4
体積
14.7
15.3
16.4
18.4
イオン
BrO4
ReO4
IO4
GaCl4
体積
22.2
25.4
26.5
61.6
イオン
InCl4
TlCl4
GaBr4
InBr4
体積
68.9
75.7
76.8
85.2
イオン
TlBr4
GaI4
InI4
TlI4
(3.16)
体積
93.0
105.8
116.2
125.8
表3.8 直線状陰イオンの長さ
イオン
I3
AuI2
長さ イオン
長さ
10.2 IBr2
9.30
9.42 Au(CN)2 9.2
イオン 長さ
BrICl 9.0
ICl2
8.7
イオン 長さ
AuBr2 8.70
AuCl2 8.14
40
無機化学 基本元素記号
日本語
水素
元素記号
(48元素)
日本語
元素記号
日本語
ナトリウム
タリウム
水銀
カリウム
鉄
ヘリウム
カルシウム
銅
銀
マグネシウム
亜鉛
金
セシウム
スズ
アルゴン
アルミニウム
クロム
白金
リチウム
ニッケル
鉛
ルビジウム
マンガン
ポロニウム
バリウム
カドミウム
燐
ベリリウム
チタン
パラジウム
塩素
タングステン
ホウ素
臭素
ラジウム
炭素
ヨウ素
ウラン
窒素
硫黄
クリプトン
酸素
セレン
キセノン
フッ素
テルル
ラドン
元素記号
無機化学 基本単語 2
40語
学生番号
名前
日本語
化学式
分子式
実験式
化学反応
化学方程式
反応物
生成物
分子量
式量
化学量論係数
熱化学方程式
融点
絶縁体
極性溶媒
電解質
配位数
体心立法
面心立法
岩塩
ダイヤモンド
English
日本語
元素記号
原子記号
質量数
昇華
分解、解離
電荷
誘電率
化学者
生化学者
生化学
生物学
医学・薬
農学
平和活動家
教育者
境界
量子化学
タンパク質
構造
結晶
English