第6章.投資ファンドとサブプライム問題 (1)ヘッジファンド ・少数の裕福な個人・法人・年金等から私募で資金を集 め、法的規制を免れて柔軟な投資戦略を採ることので きる証券投資を中心とするファンド • ファンドマネージャーの報酬は業績連動型 • 市場全体の相場動向に左右されずに一定水準の収 益率(絶対リターン)を目指す運用 • ○ヘッジファンドの種類(運用戦略による分類) – – – – – ①株式ロング・ショート ②アービトラージ(裁定) ③イベント・ドリブン ④グローバル・マクロ ⑤クレジット・オリエンティド(クレジット型) • マーケットリスクではなく、信用リスクを収益源とする 1 ・ヘッジファンドの資産規模拡大 『金融ジャーナル』06.7.p.108 2 ・ 日本銀行「ヘッジファンドを巡る最近の動向」05.7.p.29 3 ・市場全体の相場動向に左右されずに一定水準の収益率 (絶対リターン)を目指す運用 大塚明夫・神谷智『オルタナティブ投資』金融財政事情研究会 4 ・ヘッジファンドの投資家: ・ :機関投資家の増大、ヘッジファンド運営の組織化進展 U.K. Financial Service Authority 5 ・日本のヘッジファンド投資と投資家: 日本銀行「ヘッジファンドを巡る最近の動向」05.7.p.12 6 ・ヘッジファンドの投資対象: ・クレジット型ヘッジファンドの増大 7 ・クレジット・デリバティブ:信用リスクを扱うデリバティブ (債務不履行時に元利返済を肩代わりする) 島義夫・河合祐子『クレジット・デリバティブ入門』日本経済新聞社2002 p.86 8 みずほ総研編『サブプライム金融危機:21世紀型経済ショックの深層』日経2007,p.146 9 ○ 日経07.08.07. 10 日経金融07.07.04. 11 • High Grade Structured Credit Enhanced Leverage Fund (ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンドの1つ) – 投資対象:AA格以上の高格付けCDO(債務担保証券) • サブプライム関連商品は格付の割りに高利回りであった – レバレッジ:10数倍かそれ以上 • ヘッジファンドの運用方法: • 事態の推移: • • • • サブプライ関連金融商品価格下落 →借金の追加担保提供か借金の一部返済を求められる →保有CDOを売却 →CDO価格下落→損失拡大 →更なる追加担保か借金返済の要求→破綻 12 ○銀行によって設定・運営されていた ファンドの破綻 • SIV: Structured Investment Vehicle – 銀行によって設定・運営される投資ファンド • 規模:全体で4000億ドル • シティバンクが最大、しかし数的には欧州の銀行が多い • 欧州の銀行は金余り・資金運用難で新たな収益源を探していた – 投資対象:高格付けの金融商品 • 高格付けであるが、その割りに高利回りであったサブプライム関連商品 は絶好の投資対象 – 投資のための資金 • ある程度リスクはあるが、高いリターンが見込めるキャピタルノー トを発行(ヘッジファンド等が購入) 13 – 投資対象からの金利受取りからABCPへの金利 支払いを差し引いた残りが、キャピタルノートの 保有者とファンド運営者である銀行の利益 – 投資対象資産側の平均満期が3~4年程度で、 負債側の平均満期が6~9ヶ月程度 ( ) • 通常、 ので、 資産側が負債側に比べて満期が長ければ、金利差に より収益が生み出される。 • しかし、保有資産を持ち続けるには、絶えず新規に資 金を調達し続ける必要がある(新規の資金調達ができ なくなるリスク= ) 14 • SIVの破綻と欧米の短期金融市場の混乱 • • • • • • • • サブプライムローンの不良債権化の増大 →サブプライム関連商品への不信増大 →サブプライム関連商品へ投資しているSIVへの不信 →SIVが資金調達のためABCPを発行しようとしても、買 い手がいない → SIVが保有資産を投売りしようとすると、価格が暴落 →SIVを救済するため、運営者(スポンサー)である銀行 が資金を提供(銀行がリスクを抱え込む) →銀行同士が疑心暗鬼になり、銀行間市場で資金融通 が滞る →中央銀行(特に欧州中央銀行ECB)が市場に大量に 資金供給 15 ・ABCP市場:2005年以降急拡大、 サブプライム問題発生後急激に縮小 16 (2)ヘッジファンド以外のファンドも世界的 に急速に増大している • Private Equity Fund(PEファンド) – private:非公開の、public:公開の ・ベンチャー・キャピタル・ファンド ・広義のPEファンド ・積極的経営参画 ・株主価値拡大目標 スタート・アップ段階の企業への投資 ・狭義のPEファンド( すでに事業基盤を持っている 企業への投資 ) 17 ・PEファンドの世界的拡大 出所:Private Equity Intelligence 18 ・世界の買収ファンドの規模は急拡大 買収ファンド: 出所:Private Equity Intelligence 19 ○世界的なファンド増大の背景: ・ 日米の家計金融資産保有推移:GDP比 倍 4.0 3.5 3.0 アメリカ 日本 2.5 2.0 1.5 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1.0 20 ・ ・IMF World Economic Outlook, April 2006 p.136 21 ○証券化の3つのタイプと世界 的金余り傾向 • タイプ①:既存の金融機関・企業による手持ち資産 の証券化 – 手持ち資産をそのままバランスシートに持ち続けるかor 証券化するか、という選択の結果証券化される – 証券化の中心はオリジネーター(原資産保有者) • タイプ②:証券化を前提にした新たな金融業務プロ セスの創出 – ローンを提供する段階から証券化を前提 – 米国のCMBS(商業不動産ローン担保証券)やRMBS(住宅 ローン担保証券、サブプライムローンを含む)が典型 – 証券化の中心はアレンジャー(主として証券会社) 22 • タイプ③: – オリジネーターの事情とは関係なく、既存の資産 を流通市場等から買い集めて束ね、それを組み 替えて投資家にとって魅力的な新たな証券を作 り上げ、提供する。 – CDO(債務担保証券):ジャンクボンド(投機的債 券)、高金利のローン、低格付の証券化商品を 束ねて証券化 • サブプライムRMBSを束ねたCDOが近年急拡大 23 ・CDOの発行額は近年急増している 『金融ビジネス』Autumn 2007 p.35 24 ○サブプライム問題で痛手を被った欧米金融 機関への政府系ファンドによる出資 日経07.12.20. 25 • 政府系ファンド – 産油国や新興国が蓄えた外貨を有効に運用するために 作った国家ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンドSWF) • 欧米の金融機関 – サブプライム問題で大きな損失を被り、毀損した自己資 本を増強する必要がある • 政府系ファンド – 投資の狙い:基本的には純粋な経済的投資(欧米金融機 関が痛手を受けており、有利な条件で投資可能) – 将来:政府系ファンドは今後も規模拡大が見込まれており、 世界の金融・経済への影響は未知数、民間主導の市場 原理とはかけ離れた国家利益の追求に走らないか? 26 ・アジア・中東諸国の経常収支黒字は、近年急拡大している。 みずほ総研編『サブプライム金融危機:21世紀型経済ショックの深層』日経2007,p.174 27 第6章.投資ファンドとサブプライム問 題:参考文献 • みずほ総研『サブプライム金融危機:21世紀型経済 ショックの深層』日本経済新聞社2007 • 春山昇華『サブプライム問題とは何か』宝島社新書 • 光定洋介・白木信一郎『投資ファンドのすべて』金融 財政事情研究会2006 • ウィリアム・クレンド『ヘッジファンド&リスク』日本短 波放送2000 • 日本銀行「ヘッジファンドを巡る最近の動向」2005.7 • 越純一郎編『プライベートエクィティ』日本経済新聞 社2000 • 笹沼泰助「PE投資ファンドと企業再生」『証券アナリ ストジャーナル』2005.5. 28
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