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経済学入門
(5) 比較優位による分業の利益
丹野忠晋
跡見学園女子大学マネジメント学部
2015年5月21日
復習1






科学としての経済学は事実を観察,仮定を
設けて,推論し,理論を構築
モデルを造るのが理論経済学
データでモデルを検証するのが実証分析
個々の市場を分析するのがミクロ経済学
日本経済全体のような分析がマクロ経済学
経済分析には冷静な頭脳をもって、しかし
暖かい心情が必要
2015/5/21
経済学入門 5
2
復習2

機会集合とは利用可能な選択肢の集まり

生産の機会集合は生産可能性フロンティア
で表す
生産可能性フロンティアは右下がり
その傾きは機会費用を表す
マイナスはトレードオフの関係があること
上に凸な時に機会費用は変化する
外側にシフトする場合は経済成長を意味





2015/5/21
経済学入門 5
3
エイベックスとトヨタどちらが大きい
従業員数(連結,他も同様,数字は丸めている)
エイベックス 1,430人,トヨタ 343,000人
 売上高
エイベ 169,000百万円,トヨタ 27,000,000百万円
 営業利益
エイベックス8,000百万円,トヨタ 2700,000百万円
 総資産
エイベ 117,000百万円,トヨタ 47,000,000百万円
 トヨタの方が圧倒的に大きい
 実は芸能・マスコミ産業は小規模 ■ 気質とは違う

2015/5/21
経済学入門 5
4
社会で生きて行くには一番にならなくても良い

トレードオフの存在は他人に依存する

交換は人々を豊かにする

自分の機会費用は分かった

優秀な人はインセンティブで金持ちに

能力のない人はどう生きていく?

能力のある人も24時間しかない

人々の活動の機会費用は異なっている

その違いが選択のヒントを与える

その鍵を教えてくれるのが比較優位
2015/5/21
経済学入門 5
5
分業と貿易

社会が豊かになるカギは分業(division of labor)

アダム・スミスのピンの例

国家間でも同様に分業を行っている

日本はサウジアラビアから原油を輸入

日本はアメリカに自動車を輸出

企業間でも同様

ユニクロは中国,ベトナム,バングラデシュ,イン
ドネシアに生産パートナーを持っている.リンク

アップルが作る iPhone はアメリカ製だろうか
2015/5/21
経済学入門 5
6
iPhone の分業

iPhone 5の生産を引き受けているのは台湾の鴻海精
密工業( ホンハイ).実際の製造工場は中国にある

研究開発から設計や試作はアメリカで行っている

日本のメーカーも多くの部品を供給

iPhone 5、日本の技光る 部品5割超が国内企業製
メーカー
ソニー
ジャパンディスプレイ
旭化成
東芝
2015/5/21
部品名
リチウムイオン充電池
タッチパネル式液晶
電子コンパス
NAND型フラッシュメモリー
経済学入門 5
7
分業と特化

日本は自動車を作りつつ原油採掘に精を出すこ
とはしない

個人,国家,企業は各々自分の得意な分野で活
動を行っている.これを特化という

すべての分野に秀でている人=絶対優位を持っ
ている人がいる.そうじゃない人も大丈夫!

これから示す比較優位を持つ活動に特化して,
交換を行うことにより人々の暮らしは良くなる
2015/5/21
経済学入門 5
8
生産可能性フロンティア

生産可能性フロンティアは生産面のトレードオフを示
す

分かり易くする一種のモデル

生産可能性フロンティアとは生産要素を効率的に使
ったときの生産物の組み合わせを図に表したもの

生産可能性フロンティアとは,生産要素とそれを用い
て生産物を作るための生産技術を前提にしている
2015/5/21
経済学入門 5
9
生産可能性フロンティア/2

あるものの機会費用とは,それを選択するために諦
めたものの価値で測る

生産可能性フロンティアの傾きの大きさは機会
費用を表している

横軸の財が1単位増えたときに縦軸の財が何単位
犠牲になるかを示す

傾きがマイナスなのはトレードオフがある事

直線の場合と上に凸の場合に二通りがある

今回は直線のケースで考える
2015/5/21
経済学入門 5
10
数学のけいこ
x座標(横座標)=ブラックサンダーの個数
0 1
y座標(縦座標)=うまい棒の個数
4
3
2
1
0
ブラックサン
ダーが3個,う
まい棒が4本は
どこ?
-3
2015/5/21
3
2
(1,2)=
(ブラックサンダーの個数が1,
うまい棒の個数が2)
4
3
2
1
-2 -1
経済学入門 5
0 1
2
3
11
生産可能性フロンティアの例
マツタケ
の数量
10
A
A
効率的な生産
9
生産可能性フロンティアと
その内部が機会集合
D
D
実現不可能な生産
B
5
B
他の効率的な生産
C
C
非効率的な生産
3
0
2015/5/21
3
5
7
経済学入門 5
10
サンマ
の数量
12
数学のけいこ:傾き


直線は,右上がり,右下がり,急,平らと
いう様々なある方向へ進む傾向を持つ
直線の傾斜の度合いを傾きという
タテの変化
傾き=
ヨコの変化

例えば,点(2,8)から点(3,6)を通る直線の傾き
 ヨコの変化=3-2=1
 タテの変化=6-8=-2

傾き=タテの変化÷ヨコの変化
=(-2)/1=-2
2015/5/21
経済学入門 5
13
浦島太郎と桃太郎がサンマとマツタケを作る

二人の人物,浦島太郎と桃太郎がいる

両者ともサンマとマツタケを捕ることができる

浦島太郎がサンマだけを捕れば32匹,マツタケ
だけを捕れば8個収穫可能だとする
同様に桃太郎がサンマだけを捕れば48匹,マツ
タケだけを捕れば24個収穫可能だとする
マツタケ(個)
サンマ(匹)
8
32
浦島太郎
24
48
桃太郎

2015/5/21
経済学入門 5
14
浦島太郎の生産可能性フロンティア
マツタケ
(個)
生産可能性フロンティアの傾きの大きさ
(絶対値)は機会費用を意味した
A点からB点への変化
タテの変化
傾き=
A
=
ヨコの変化
8
B
4
0
2015/5/21
4-8
-4
=-
=
16 - 0
1
16
4
1
傾きの大きさは 4
32
16
経済学入門 5
サンマ
(匹)
15
桃太郎の生産可能性フロンティア
マツタケ
(個)
24
C点からD点への変化
C
タテの変化
傾き=
=
ヨコの変化
D
12
0
2015/5/21
12 -24
24
経済学入門 5
-12
=-
=
24 - 0
1
24
2
1
傾きの大きさは 2
48
サンマ
(匹)
16
両者の機会費用の違い

浦島太郎の生産可能性フロンティアの傾きの大
きさは 1/4

サンマを1匹増やすためにはマツタケを1/4
個犠牲にしなければならない

桃太郎の生産可能性フロンティアの傾きの大き
さは 1/2

サンマを1匹増やすためにはマツタケを1/2
個犠牲にしなければならない
浦島太郎のサンマの機会費用<
桃太郎のサンマの機会費用
2015/5/21
経済学入門 5
17
当初の生産と消費

最初は浦島太郎と桃太郎は自分でサンマとマツタ
ケを採って消費していたとしよう

交換はしていないケース

例えば,各々半分のサンマとマツタケを採ってい
たとしよう

浦島太郎はB点で生産.サンマ16匹,マツタケ4個

桃太郎はD点で生産.サンマ24匹,マツタケ12個

サンマは合計40匹,マツタケは合計16個採れる

この場合は自給自足という.生産と消費は等しい
2015/5/21
経済学入門 5
18
浦島太郎の生産可能性フロンティア
マツタケ
(個)
浦島太郎の当初の生産と消費
A
8
B
4
0
2015/5/21
32
16
経済学入門 5
サンマ
(匹)
19
桃太郎の生産可能性フロンティア
マツタケ
(個)
24
C
桃太郎の当初の生産と消費
D
12
0
2015/5/21
24
経済学入門 5
48
サンマ
(匹)
20
桃太郎は両方の財に絶対優位にある

桃太郎は浦島太郎よりもサンマとマツタケの両方
についてより多くの収穫を得ることができる

桃太郎はサンマだけを採れば48匹.浦島は32匹

桃太郎はマツタケだけを採れば24個.浦島は8個

この時,桃太郎は両方の財に絶対優位にある
投入量とは,生産のために必要とされる財やサー
ビスの量をいう
ある財を生産するのにより少ない投入量しか必要が
ない生産者は,その財の生産に関して絶対優位を
持っているという

2015/5/21
経済学入門 5
21
二人の生産可能性フロンティアを重ねてみる
マツタケ
(個)
24
C
桃太郎の生産可能性フロンティア
D
12
A
浦島太郎の
生産可能性フロンティア
8
B
4
0
2015/5/21
16
24
経済学入門 5
32
48
サンマ
(匹)
22
マツタケの機会費用は桃太郎の方が低い

桃太郎は両方の財の生産が得意なので浦島太郎は
何もすることがない?

浦島太郎の得意な活動は何だろう?

桃太郎よりも機会費用が低いサンマを採ることだ

反対に桃太郎のマツタケを採ることの機会費用は
浦島太郎よりも低い

桃太郎は1匹のサンマを採るために1/2個のマ
ツタケの収穫を諦めていた

逆に,桃太郎は1個のマツタケを増やすにはサン
マを2匹諦めなければならない
2015/5/21
経済学入門 5
23
マツタケの機会費用は桃太郎の方が低い

サンマの量:マツタケの量=1:1/2=2:1

サンマ1匹が2匹になったら,マツタケは1/2個
を2倍する.マツタケは1個

浦島太郎は1匹のサンマを採るために1/4個の
マツタケの収穫を諦めていた

逆に,浦島太郎は1個のマツタケを増やすにはサ
ンマを4匹諦めなければならない

サンマの量:マツタケの量=1:1/4=4:1

サンマ1匹が4匹になったら,マツタケは1/4個
を4倍する.マツタケは1個
2015/5/21
経済学入門 5
24
機会費用の比較
桃太郎のマツタケの機会費用は2 <
浦島太郎のマツタケの機会費用は4

このとき桃太郎はマツタケの生産に比較優位を持
つという

一方,浦島太郎はサンマ生産に比較優位を持つ
機会費用
マツタケ生産(1個)
サンマ生産(1匹)
浦島太郎
4
1/4
桃太郎
2
1/2
2015/5/21
経済学入門 5
25
比較優位
ある財を生産するのに他の財をより少ししか諦めな
い生産者は,その財の生産に関して比較優位を持っ
ているという

言い換えると機会費用の低い財に生産者は比較優
位を持つ

一人の生産者が両方の財に比較優位を持つことは
ありえない

計算したようにある財の機会費用は,他方の財の
機会費用の逆数となっている

浦島太郎:1/4→4,桃太郎:1/2→2
2015/5/21
経済学入門 5
26
比較優位と特化

二人が同じ機会費用を持っていない限り,一人が
ある財に比較優位を持ち,他方が残りの財に比較
優位を持つ

浦島太郎はサンマ漁に,桃太郎はマツタケ狩りに
比較優位を持っている

浦島太郎はサンマ漁に専念して,桃太郎はマツタ
ケ狩りに専念するとしよう

その後,両者で各々の獲物を交換することにより
両者は豊かになれる

ある活動に専念することを特化という
2015/5/21
経済学入門 5
27
新しい浦島太郎と桃太郎の生産

新しい生産パターン,交換,消費を考える

浦島太郎がサンマを32匹採る.マツタケは採ら
ない.E点とする

桃太郎はサンマを12匹採る.マツタケは18個採
る.F点とする

サンマは合計44匹,マツタケは合計18個採れる

この時,自給自足の場合よりも両財の生産量は
多くなる
2015/5/21
経済学入門 5
28
浦島太郎の生産可能性フロンティアと新たな生産
マツタケ
(個)
浦島太郎の
生産可能性フロンティア
A
浦島太郎の新しい生産
8
B
4
E
0
2015/5/21
32
16
経済学入門 5
サンマ
(匹)
29
桃太郎の生産可能性フロンティアと新しい生産
マツタケ
(個)
24
C
桃太郎の新しい生産
F
18
D 桃太郎の生産可能性フロンティア
12
0
2015/5/21
12
24
経済学入門 5
48
サンマ
(匹)
30
浦島太郎と桃太郎の交換

浦島太郎はサンマを32匹採っているが,そのうち15
匹を桃太郎に与える

その見返りとして桃太郎から5個のマツタケを貰う

反対に,桃太郎はマツタケを18個採っているが,そ
のうち.5個のマツタケを浦島太郎に与える

その見返りとして浦島太郎から15匹のサンマを貰う

つまり,浦島太郎のサンマ15匹と桃太郎のマツタケ
5個の交換

依然として両者の収穫は,サンマは合計44匹,マツ
タケは合計18個である
2015/5/21
経済学入門 5
31
浦島太郎と桃太郎の新しい消費

浦島太郎のサンマの消費は15匹を桃太郎に与えた
から,新しい消費は
32-15=17 (匹)

浦島太郎は桃太郎から5個のマツタケを貰ったから
5 (個)

桃太郎はサンマを12匹採っていたが,浦島太郎か
ら15匹のサンマを貰うから新しい消費は
12+15=27(匹)

桃太郎はマツタケを5個浦島太郎に与えたから
18-5=13(個)
2015/5/21
経済学入門 5
32
浦島太郎の生産可能性フロンティアと新たな生産
マツタケ
(個)
浦島太郎の
生産可能性フロンティア
浦島太郎の新しい消費
A
8
5
4
G
浦島太郎の新しい生産
B
0
2015/5/21
16
E
17
32
経済学入門 5
サンマ
(匹)
33
桃太郎の生産可能性フロンティアと新しい生産
マツタケ
(個)
24
C
桃太郎の生産可能性フロンティア
F
桃太郎の新しい生産
18
H
桃太郎の新しい消費
13
12
D
0
2015/5/21
12
24 27
経済学入門 5
48
サンマ
(匹)
34
浦島太郎と桃太郎の新しい消費

浦島太郎の新しい消費点G(17,5)では,サンマの17
匹消費し,マツタケを5個消費している

この点は,浦島太郎の生産可能性フロンティアの
外側にある

取引からの利益は,サンマ+1,マツタケ+1

桃太郎の新しい消費点H(27,13)では,サンマの27匹
消費し,マツタケを13個消費している

この点は桃太郎の生産可能性フロンティアの外側
にある

取引からの利益は,サンマ+3,マツタケ+1
2015/5/21
経済学入門 5
35
比較優位,特化,交換

絶対優位になくとも比較優位を活かすことによっ
て両者は利益を得た

交換によって人々が自分の比較優位にある活動に
専念できる(特化できる)ので,交換が社会のすべて
の人々に利益をもたらす

浦島太郎のサンマ15匹と桃太郎のマツタケ5個の交
換を行っていた

マツタケ1個あたりサンマ3匹の交換比率

この交換比率は,浦島太郎と桃太郎のマツタケの
機会費用の中間の値である
2015/5/21
経済学入門 5
36
比較優位,特化,交換

浦島太郎のマツタケの機会費用は4.桃太郎のマツ
タケの機会費用は2

交換比率が3であれば,浦島太郎は,交換比率は自
分の機会費用よりも低いので,マツタケを諦めて
サンマと交換するだろう

一方,桃太郎は,自分の機会費用の方が低いので
マツタケを多く作って交換するだろう

もし両者の機会費用よりも高い交換比率だったら
両者がマツタケを売ろうとするだろう.その時,
買い手は誰もいないので取引は成立しない
2015/5/21
経済学入門 5
37
比較優位は個人の活動にも適用可能

大学教授はコピー取りも上手いが,助手さんに任
せている

芸能人はクルマの運転ができるが付き人に任せる

結婚したら家事に専念するのも比較優位で説明可
能

アメリカは日本より自動車生産が上手いかも知れ
ないが,食料生産に比較優位を持つ

よって,日本は自動車を輸出して,アメリカから
牛肉を輸入する
2015/5/21
経済学入門 5
38
復習

ある活動に絶対優位を持つとは,他の人(国)に比
べて効率的に生産できることを意味する

各人(国)に絶対優位にある財があるとは限らない

ある財の生産が他人(国)と比べ機会費用が低い
場合にその人(国)はその財の生産に比較優位が
あると言う

各人(国)が比較優位にある財に特化して交換(貿
易)することによって両人(国)は利益を得る

その交換比率は各人の機会費用の中間にある
2015/5/21
経済学入門 5
39