総合薬学基礎特別講義 I

総合基礎薬学特別講義 I
平成26年6月7日
1
物質の移動
1
2
3
4
拡散
沈降現象
透過
レオロジー
SBO 拡散および溶解速度について説明できる。
SBO 沈降現象について説明できる。
SBO 流動現象および粘度について説明できる。
2
1 拡散 diffusion
○ 液体や気体中を乱雑な熱運動により,
分子やイオンなどの粒子が移動して
いく過程
○ 溶液中,溶質分子が濃度の高領域か
ら低領域へと濃度勾配にしたがって広
がっていく現象
F  f v  ma
○ 拡散は 駆動力 と 摩擦力が釣り
合ったときにおこる
(拡散速度 vs = 定常状態の移動速度)
F  f  vs
F
vs 
f
溶液中の溶質の移動
駆動力
摩擦力
r
Fr
F
m
Fr  f  v
η : 粘度
v : 移動速度
f : 摩擦係数
濃度勾配
f  6  r
駆動力と摩擦力は溶媒と溶質
の性質によって左右される
1 拡散 diffusion
(1) 流束 J (mol m-2 s-1)
J
n通り 抜ける
d c 粒子数( n)
窓を

A窓の面積
× t d(xA)× 時間( t)
(2) フィックの第一法則
(定常状態拡散)
dc
J  D 
dx
流束=-(拡散係数)×(濃度勾配)
拡散係数 D: SI単位 m2∙s-1
4
1 拡散 diffusion
水中における拡散係数 D (x 10-9 m-2 s-1)
物質
水
グリシン
スクロース
リゾチーム
ヒト血清アルブミン
ヒトフィブリノーゲン
ポリメチルメタクリル酸
分子量
拡散係数
2.26
(25℃)
75
1.05
(25℃)
342
0.522 (25℃)
14 400
0.112 (20℃)
68 500
0.061 (20℃)
339 700
1 420 000
0.0202 (20℃)
0.0225 (25℃)
5
1 拡散 diffusion
(3) フィックの第二法則
時間経過とともに,濃度の高いところから,
濃度の低いところに物質が移動していく様子
を表す式
nin  J ( x )  A  d t
nout  J ( x  d x )  A  d t
d n  nin  nout
dc
dn
dn
dJ



d t dV  d t A  d x  d t
dx
フィックの第一法則を用いると
dc
dJ
d2 c

 D 2
dt
dx
dx
溶質濃度の時間変化が,濃度勾配
の変化の度合いに比例する。
6
1 拡散 diffusion
(4) 拡散の熱力学的な考え方
   *  R  T  ln c
○ 溶質分子1個に働く力 F
(濃度勾配によって生じる駆動力)
kB  T d c
d
R T dc
F 




dx
NA  c d x
c
dx
kB : ボルツマン定数
○ 溶質分子は溶媒中を拡散していくとき,摩擦力が駆動力とつりあうま
で速度が増加し,それ以後は速度一定となる。
kB  T d c
F( 駆動力)
拡散速度 v s 


f( 摩擦係数)
f c d x
摩擦力 = f∙v
7
1 拡散 diffusion
(4) 拡散の熱力学的な考え方
kB  T d c
F( 駆動力)
拡散速度 v s 


f( 摩擦係数)
f c d x
f  6     r
濃度 c をかけると,溶質粒子の流れ,すなわち流束 J が得られる。
kB  T d c
kB  T d c
dc
J 

c  

 D
f c d x
f
dx
dx
kB  T
D
f
フィックの第一法則
アインシュタイン-ストークスの式
温度 T を上げると,拡散係数 D は増加する。
つまり,温度が高いほど物質は速く移動する。
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1 拡散 diffusion
○ 拡散に影響を与える溶媒・溶質の性質
kB  T d c
駆動力 F  

c
dx
kB  T d c
拡散速度 v s  

f c d x
dC d x
T
濃度勾配
溶媒の温度
小 → 大
低 → 高
駆動力 F
小 → 大
小 → 大
拡散速度 vs
小 → 大
小 → 大
摩擦係数
f  6     r
kB  T
拡散係数 D 
f
r

溶質の大きさ 溶媒の粘度
小 → 大
低 → 高
摩擦係数 f
小 → 大
小 → 大
拡散速度 D
大 → 小
大 → 小
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1 拡散 diffusion
(5) 分子の並進運動と拡散
拡散を分子1個に注目すると,
○ 分子同士の衝突による無秩序な並進運動
ランダム歩行 (酔歩)
○ 二乗平均移動距離 d
d 2  2  D  t
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2 沈降 sedimentaion
(1)重力による自然沈降
○ 半径rの球形粒子が粘度  の溶媒中を
自由落下する場合の駆動力 F
4
F     r 3  (   0 )  g
3
g
 0 : 分散媒の密度
 : 分散相の密度
○ 摩擦力 Ff = f (摩擦係数) vs(沈降速度)
f  6     r
 : 分散媒の粘度
r : 粒子半径
F f  f  vs  6      r  vs
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2 沈降 sedimentaion
(1)重力による自然沈降
駆動力 F が摩擦力 Ff とつりあうところで
沈降速度が一定になる。
ストークスの式
F( 駆動力) 2  r 2  (    0 )  g
沈降速度 v s 

f( 摩擦係数)
9 
粒子の沈降を抑えるには,
① 粒子径 を小さくする。
② 粒子と溶媒の密度差を小さくする。
③ 粒子の粘度を上げる。
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2 沈降 sedimentaion
(2) 超遠心による沈降
沈降平衡: 拡散速度=沈降速度
溶液をあまり大きくはない回転数で回転
↓
沈降効果により溶質分子は管の底部沈降
↓
濃度勾配ができる。
↓
拡散効果が発生する。
↓
沈降平衡に達する。
↓ 溶質の濃度比,
↓ 溶媒の密度,
↓ 溶質の部分比容
○コロイド粒子
(粒子径1 m以下)
○巨大分子
(たんぱく質,核酸,
多糖類など分子量
が10 ~ 100 kDa)
溶質のモル質量が求まる。
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3 透過 permiation
(1)膜透過
膜内での溶質分子の拡散は
フィックの第一法則で表される。
c3  c2
dc
J  D 
 D 
dx
L
分配係数 ( K = c2/c1 = c3/c4 )を考慮すると,
c4  c1
J  D  K 
  P   c4  c1 
L
D K
P
L
膜透過係数
3 透過 permiation
(1)膜透過
c4  c1
流束:J   D  K 
  P   c4  c1 
L
D K
膜透過係数:P 
L
kB  T
拡散係数 :D 
f
摩擦係数:f  6      r
膜透過の指標
① 膜への分配が高いほど
②分子サイズが小さいほど
③溶液の温度が高いほど
膜透過係数は大きくなる。
3 透過 permiation
(2) 溶解
dissolution
溶質分子の拡散はフィックの第一法
則で表される。
c  cs
1 dn
J 
 D
A dt
h
A : 固体の表面積
cs  c
dn
 A D 
dt
h
d n 1 A  D cs  c
 

dt V
V
h
d c A  D cs  c


dt
V
h
Nernst – Noyes – Whitney 式
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3 透過 permiation
(2) 溶解
dissolution
Nernst – Noyes – Whitney 式
d c A  D cs  c


dt
V
h
○ 溶解速度を速くするための条件
①
②
③
④
溶解度 Cs を高くする。
固体表面積 A を大きくする。
拡散層の厚さ h を薄くする。
温度を上昇 → D の増大
拡散係数
kB  T
D
f
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a フィックの第一法則 slide 4
dc
J  D
dx
b フィックの第二法則 slide 6
dc
d2 c
 D 2
dt
dx
dc
d2 c
が一定であ れば, 2  0
dx
dx
c 薬物の移動速度 slide 13
c2  c3
c1  c4
dM
 D
 D K 
Sdt
L
L
d シンク条件
高濃度側に比べて,低濃度側の溶質濃度が 0 とみなせる条件
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4 レオロジー Rheology
“rheo” = “flow” 「物質の変形と流動に関する化学」
by E. C.
Bingham
○ 応力 stress
S : 外力 F の作用によって生じた内力 ( Pa = N m-2)
○ ひずみ strain
g : 物体の大きさに関係しない相対的な変形量
○ 弾性 elasticity; 応力がゼロになったとき,
直ちに元の平衡状態に戻る性質
F
○ 粘性 viscosity:ごく小さい応力に対しては固体として弾性を
示すが,ある限界以上の応力では流動する
(乳液、クリーム)
S
○ 塑性 plasticity:力を取り除いても元にはもどらない性質
(プラスチック製定規)
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4 レオロジー Rheology
力(応力)-物質の変形(流動)-時間の関係を定量的に解析
せん断応力 S
F
S
A
せん断速度 D
dg
D
dt
(Pa)
( s 1 )
g : せん断ひずみ( ずり ひずみ)
g =t an 
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4 レオロジー Rheology
(1) 変形および流動
○ ニュートン流動
S =  D
or
D
1

S
応力 [Pa] = 粘度 [Pa  s]  ひずみ速度 [s 1 ]
純溶媒
粘度  (mPa∙s)
水
1.002
アセトン
0.322
エタノール
1.200
ベンゼン
0.652
グリセリン
1412
21
4 レオロジー Rheology
○ 非ニュートン流動
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4 レオロジー Rheology
(2) 粘度 
○ 温度上昇に伴い,粘度は低下する
  Ae
 E 


 RT 
○ 純液体の粘度
動粘度(動粘性率)
アンドレードの式
 (Pa∙s = N∙s∙m-2 = kg∙m-1∙s-1)
/ (m2∙s-1)
密度 
流動度(流動性の指標) 1/
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4 レオロジー Rheology
(2) 粘度
○ 溶液の粘度
相対粘度
比粘度
還元粘度
rel
sp
red
固有粘度 [] (L/g)
マーク – ハウインクの式
[ ]  K  M a
濃度 c の溶液の粘度 
溶媒の粘度 0

rel 
0
  0 
sp 
  1  rel  1
0
0
sp
red 
c
 sp 
[ ]  lim 
 limred

c 0
 c  c 0
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4 レオロジー Rheology
(3) 粘度測定法
(a) オストワルド粘度計
ウベローデ型粘度計
ニュートン流体
(b) 回転粘度計
ニュートン流体
非ニュートン流体
(c) 落球粘度計
非常に高粘度のもの
の測定
25
卒試・国家試験に向けて
頑張ってください!!!!
平成26年6月7日
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