日本行動計量学会第41回大会 特別セッション「文系学生に対する心理統計教育の実践」 SD1-1 心理統計教育での ICT の活用 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 [email protected] Twitter: @aterao スライドの電子ファイル http://humansci.let.hokudai.ac.jp/m/terao/products.html http://homepage3.nifty.com/~terao/products.html 2013年9月3日(火) 1.動機 • 数学には苦手意識があるが,統計学を学ぶ 必要のある学生に対する統計学教育. • ICT を用いて学習を援助することを試みる. トピック • オンラインのアンケートを利用したインタラク ティブな講義 – アクティブ・ラーニング.即時の形成的評価. • セカンドモニタとしての携帯端末 – 学習環境改善.デジタル教材の研究. • ウェブ(Ustream)での授業配信 – 簡単な e-learning 環境. 2.携帯端末を利用した インタラクティブな講義 • ウェブに用意された質問に学生が回答するこ とで,インタラクティブな講義を実現する. 簡易集計結果・ データ 回答送信 フィードバック 「統計入門」での授業実践 • 統計学の入門講義での,無作為抽出につい ての学習. • 無作為抽出について考慮されていない新聞 投書意見をとりあげ,どれぐらい同意できる かをたずねた. • 無作為抽出について学習する前後の2回,同 じ質問を行い,変化をフィードバックした. 参加者 • 青山学院大学社会情報学部1年生必修科目 「統計入門」の受講登録者86名のうち,授業 中に行った2回の質問にいずれも回答した40 名. 材料 • 2008年11月24日朝日新聞 声・主張面に掲 載された投書意見「庶民の本音は給付金ほし い」 – 大阪府寝屋川市 主婦 66歳 – 自分と周囲の人は定額給付金に賛成 – 63%が反対という世論調査は信じられない – 身近な人とのおしゃべりの中に本当の気持ちが 出るのではないか 手続き • 新聞投書をA4の紙に印刷して,授業の最初 に学生に配布した. • 投書した人の考えにどれくらい同意できるか を,6件法で回答.回答理由を記述. – 「正解」の選択肢はないということが注意された. • PC あるいは携帯端末から回答を送信.(株) ネットマンが開発したLMSである C-Learningを 利用した.携帯端末からの回答送信が可能. • 回答後,テキストをまとめたパワーポイントス ライドを用いて,無作為抽出の概念と方法に ついて講義(およそ20分)を行った. – テキスト:ホーエル『初等統計学』 – 新聞投書への言及なし • 講義後に,投書意見への同意の程度を,再 び6件法で回答.回答理由を記述. – 「正解」の選択肢はないということが注意された. 結果 • 「非常に同意できる」を1点,以下1点刻みで, 「まったく同意できない」を6点と点数化. • 無作為抽出について学習後には,「同意しな い」方向への変化が生じた. – 学習前:平均2.3 標準偏差1.0 – 学習後:平均2.8 標準偏差1.3 – 学習による変化(差得点):平均0.5 標準偏差1.2 – 差得点の95%信頼区間:下限0.09 上限0.86 18 16 14 12 度 10 数 8 6 4 2 0 学習前 学習後 N = 40 この実践のまとめ • ウェブに用意された質問への回答から,学生 の理解変化をモニタリングし,学生にフィード バックすることができる. – アクティブラーニングを促す. – リアルタイムの形成的評価ができる. – PC 教室でなくても,携帯端末があればよい. • 学生からデータを集め,それをすぐに分析す るという使い方もできる.(発表論文集参照) 3.セカンドモニタとしての携帯端末 • PC 教室のモニタは小さく,複数のウィンドウを 切り替えながらの操作はわずらわしい. – 説明文書を読みながらの実習など • 携帯端末(iPhone )をセカンドモニタとして活 用してはどうか? – 学生全員に iPhone を配布していた. – iPhone からウェブ上の授業資料にアクセス. – iPhone の利点:教材閲覧に十分な画面の大き さ.小型で邪魔にならない.すぐれた操作性. 「統計入門」での授業実践 • エクセルを用いたデータ分析の実習 • 学生は以下の2条件それぞれで度数分布表 を作成.いずれがよかったかを回答した. – シングルモニタ:PC の画面でエクセルと 説明文 書PDF の両方を表示 – デュアルモニタ:PDF を iPhone で表示. PC モニタ ではエクセルを全画面表示. 1年目(2009年)の実践 • 参加者: – 「統計入門」受講者86名のうち,第3回の講義(2009 年10月13日)に出席し,iPhone を所持していた58名. • 材料: – Microsoft Excel 2007 を用いて,度数分布表とヒストグ ラムを作成する手順を示した PDF 文書を作成. – シングルモニタ条件:文書を学生の PC に配信. – デュアルモニタ条件:iPhone のブラウザでアクセス. (株)ネットマンのC-Learningを使用. • 手続き: – 学生は度数分布表を2回作成.1回はシングルモ ニタ条件,もう1回はデュアルモニタ条件.経験す る条件の順序はカウンターバランスをとった. – 2条件を比較する質問項目に回答.質問項目は C-Learning に用意.学生は PC あるいは iPhone からアクセスして回答. • 質問項目: – PDFの閲覧がしやすいのはどちらか?(PC vs. iPhone) – エクセルの操作がしやすいのはどちらか? – 次の機会ではどちらを使うか?その理由は? 結果(2009年) 支 持 割 合 ( % ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 74 64 62 36 38 26 PDF閲覧 Excel操作 PC 次回使用 iPhone およそ4割の学生がiPhoneを支持 • iPhone を支持した学生の多くは,ウィンドウを 切り替える必要がなく,エクセル操作がしや すい点を支持理由とした. – 「Excelを全面に表示したまま作業できるから」 – 「iPhoneなら操作の仕方を見ながらパソコンを操 作できるからやりやすい」 • PC を支持した学生は,iPhone よりも文字が大 きいこと,操作の慣れ,iPhoneでの無線LANア クセスの手間を指摘した. – 「iPhoneは画面が小さくて見にくかったし画面がで てくるのに時間がかるため」 – 「パソコンのほうが慣れているので使いやすいた め」 – 「iPhoneは画面が小さくて目がちかちかして非常 に疲れるし,起動や設定に時間がかかりすぎて いらいらする」 考察 • セカンドモニタとしての iPhone の使用は40% ほどの学生の支持を得た.iPhone 導入の意 味は十分にあったと考える. • しかし,支持率をもう少し高くすることはできな いか? • 注目した点:学生はなぜ「画面が小さい」と言 うのか? – 小さければ拡大すればよい. • 画面をスクロールしたり,拡大したりして,必 要な情報を適切に表示させることが,そもそ も面倒. – 余分な操作なく,ひとつの画面から必要な情報が 得られるべき. • 教材のレイアウトを改善する必要 Word 2007 で作成した文書を PDF にした教材を iPhone のブラウザで表示した画面. 教材PDFの一部を拡大した画面. 必要な情報が一画面に収められていない. 2年目(2010年)の実践 • Spatial Contiguity Principle: 対応する文と絵 は近くに配置すると,学習が促進される. – Mayer (2009) による,マルチメディア学習でのデ ザイン原理のひとつ. • この原理にしたがって,教材レイアウトを改善 した. – ひとまとまりの操作に必要な情報が,ひとつの画 面に収まるようにする. PowerPoint 2007 で作成した文書を PDF にした教材を iPhone のブラウザで表示した画面. 方法 • 参加者: – 「統計入門」受講者96名のうち,第2回の講義(2010 年9月28日)に出席し,iPhone を所持していた67名. • 材料: – Microsoft Excel 2007 を用いて,度数分布表とヒストグ ラムを作成する手順を示した PDF 文書を作成. – シングルモニタ条件:文書を学生の PC に配信. – デュアルモニタ条件:iPhone のブラウザでアクセス. (株)ネットマンのC-Learningを使用. • 手続き: – 学生は度数分布表を2回作成.1回はシングルモ ニタ条件,もう1回はデュアルモニタ条件.経験す る条件の順序はカウンターバランスをとった. – 2条件を比較する質問項目に回答.質問項目は C-Learning に用意.学生は PC あるいは iPhone からアクセスして回答. • 質問項目: – PDFの閲覧がしやすいのはどちらか?(PC vs. iPhone) – エクセルの操作がしやすいのはどちらか? – 次の機会ではどちらを使うか?その理由は? 結果(2010年) 支 持 割 合 ( % ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 70 73 70 30 30 27 PDF閲覧 Excel操作 次回使用 PC iPhone およそ7割の学生がiPhoneを支持 考察 • 教材改善の効果は劇的であった. – マルチメディア学習のデザイン原理にしたがっ た.Spatial Contiguity Principle • 2010年は,無線LAN使用の設定やC-Learning へのアクセスにとまどった学生が少なかっ た.このことも,セカンドモニタとしての iPhone の支持率を引き上げた要因かもしれない. 3年目(2011年)の実践 • 2010年の追試 • さらに,iPhone の使用経験がセカンドモニタと しての iPhone の支持に関係しているかを検 討. – 2010年にセカンドモニタとしての iPhone の支持 率が高くなったのは,2009年の学生に比べ, iPhone の操作に慣れていたからかもしれない. 方法 • 参加者: – 「統計入門」受講者68名のうち,第2回の講義(2011 年10月4日)に出席し,iPhone を所持していた55名. • 材料: – Microsoft Excel 2007 を用いて,度数分布表とヒストグ ラムを作成する手順を示した PDF 文書を作成. – シングルモニタ条件:文書を学生の PC に配信. – デュアルモニタ条件:iPhone のブラウザでアクセス. (株)ネットマンのC-Learningを使用. • 手続き: – 学生は度数分布表を2回作成.1回はシングルモ ニタ条件,もう1回はデュアルモニタ条件.経験す る条件の順序はカウンターバランスをとった. – 2条件を比較する質問項目に回答.質問項目は C-Learning に用意.学生は PC あるいは iPhone からアクセスして回答. • 質問項目(教材閲覧について): – PDFの閲覧がしやすいのはどちらか?(PC vs. iPhone) – エクセルの操作がしやすいのはどちらか? – 次の機会ではどちらを使うか?その理由は? • 質問項目(iPhone使用経験について) – ふだんiPhoneをどの程度使っているか? – 学内無線LANへの接続経験は? • • • • よく接続している(1週間に2,3日以上) たまに接続している(1週間に1日あるかどうか) ほんの数回 接続したことはない – その他,iPhone の使用方法と頻度に関するいく つかの質問. 結果:教材閲覧方法の支持 100 90 76 80 支 持 割 合 ( % ) 82 82 70 60 50 40 30 24 20 18 18 Excel操作 次回使用 10 0 PDF閲覧 PC iPhone 2010年の結果が再現された iPhone 使用頻度 100% 90% 80% 回 答 割 合 ( % ) 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% ほぼ毎日 1週間に 2,3日 たまに ほとんど 使用せず 無線LAN接続経験 100 90 80 回 答 割 合 ( % ) 70 60 50 40 30 20 10 0 ほぼ毎日 2・3日/1週 たまに ほとんどなし 結果:無線LAN接続経験とiPhone支持 度 数 ( 人 ) 16 14 12 10 8 6 4 2 0 PC iPhone 無線接続 iPhone の支持は無線LANへの接続経験と無関係 結論 • 統計学の授業で携帯端末( iPhone) をセカン ドモニタとして 使用するのは,携帯端末の活 用方法として有望である. • 教材は,マルチメディア学習のデザイン原理 にしたがって作成すべきである. • 適切にデザインされた教材は,携帯端末の使 用経験によらず支持される. この実践のまとめ • PC教室での統計学の授業で,携帯端末 (iPhoneなど) をセカンドモニタとして使用する ことで,PCモニタが小さいという問題を解決す ることができる. – 学習環境の改善 – デザイン原理にしたがって教材作成を行う.デジ タル教材のデザイン研究. 4.Ustream での授業配信 • Ustream などの動画配信サービス利用によ り,手軽に授業配信を行うことが可能になっ た. – 簡単な e-Learning 環境 – PC 画面と音声の配信なら,費用も手間もほとん どかからない. – 学生は,欠席した授業を後で視聴したり,復習に 利用したりできる. 「社会統計」での授業実践 • Ustream のチャンネル aoyamassi を作成. – 「社会統計」および「社会統計演習」の授業を配 信. – いずれは他の授業,他の教員にも広げたい. • 大学の LAN 環境が Ustream Producer での配 信を許さないため,授業後に自宅から配信を 行っている. – 2010年度は,SCFH DSF を利用しての授業配信も 実施.この方法はたいていの環境で可能. PC での授業の視聴 PC での授業の視聴 (フルスクリーンモード) この実践のまとめ • Ustream の利用により,手軽に授業配信を行 うことが可能になった. – 簡単な e-Learning 環境 – 学生は,欠席した授業を後で視聴したり,復習に 利用したりできる. • 予習のための動画教材として使用することも 可能.反転授業への利用も. トピック • オンラインのアンケートを利用したインタラク ティブな講義 – アクティブ・ラーニング.即時の形成的評価. • セカンドモニタとしての携帯端末 – 学習環境改善.デジタル教材の研究. • ウェブ(Ustream)での授業配信 – 簡単な e-learning 環境. 謝辞 • 紹介した実践・研究は,以下の科学研究費補 助金による支援を受けました. – 携帯端末を活用した新しい大学教育の創造(研 究代表者:寺尾敦,課題番号22500934) – 心理統計教育のためのテスト項目データベース の構築と運用(研究代表者:山田剛史,課題番 号:20530595) – 心理統計テスト項目データベースの実践的運用 ~コミュニティ形成を目指して(研究代表者:山田 剛史,課題番号:23530857) ありがとうございました 相模大野高校 国松稔之先生作成 「ドア開けロボ」
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