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欧州の電気通信業界における規制の変化
-事業法から競争法へのシフト-
2002年12月4日
(株)情報通信総合研究所
シニア・リサーチャー
神野
新
1.電気通信産業における競争導入プロセスと事業の性格の変化(典型的な例)
市 場
事業者
(1事業者による独占的サービス提供)
国営事業
(郵電省)
郵電分離
↓
公社化
(電気通信公社)
事業の性格
段階的な市場の
自由化による競争
導入
国家による独占事業
民営化
(株式の大半
は政府が
保有)
株式の市場
放出による
完全な民間
会社化
公益事業
サービス産業
(電力、ガス、水道等)
(映画、外食、デパート等)
1
2.欧州主要国における電気通信産業への競争導入の歴史
~1970年代
1980年代
1990年代
日本(参考) △電電公社設立
〔1952 年〕
英国
フランス
ドイツ
△電電公社民営化(NTT 発足)
○電気通信市場開放
〔1985 年〕
△電気通信公社民営化(BT 発足)
〔1984 年〕
△郵電公社設立
○電気通信市場開放〔1984 年〕
〔1969 年〕
△電気通信公社〔1981 年〕
(郵電分離)
△FT
△公社としての 民営化
FT 設立
〔1997 年〕
〔1991 年〕
○電気
△公社としての
通信市場
DBP テレコム設立
完全開放
〔1990 年〕
〔1998 年〕
△
DBP テレコム民営化
(DT 発足)
〔1995 年〕
(参考)米国では、早くも1978年に長距離通信市場が競争に開放されている。
(市内通信の競争導入は実質的には1990年代半ばから)
2
3.電気通信事業分野における競争の進展と規制の変化
※欄外の( )内の具体例は英国のケース
独占事業
競争事業
(サービス産業)
(公益事業)
事後的取締り
事前規制
競争法
電気通信法(+会社法、免許条件)
(1984年電気通信法、BT免許)
(1998年競争法)
電気通信規制当局
競争当局
(電気通信庁)
〔Oftel:Office of Telecommunications〕
(公正取引庁〔Office of Fair Trading〕)
3
4.「電気通信法による事前規制」から「競争法による事後的取締り」への移行
◆移行のタイミング
◇当該市場において、「有効な競争(Effective Competition)」が展開されている場合。
◆有効な競争の測定
◇市場の競争状況を判定する「有効競争レビュー(Effective Competition Review)」
を実施する。
◆有効競争レビューの実施結果
1.既に有効な競争が進展している
→ 「有意な市場力(SMP:Significant Market Power)を
有する事業者」が存在しない
↓
事前規制の緩和、撤廃
2.有効な競争は未だ生起していない →
SMP事業者が存在する
4
→
事前規制の継続
5.主要国における「有効競争レビュー(ECR)」の導入、実施状況
欧 州
◇欧州連合(EU)が1999年から有効競争レビュー(ECR)の導入の検討を開始。
◇2002年に採択されたEUの新指令において、加盟国におけるECRの実施が義務付けられる。
米 国
◇EUのように制度化されたシステムは導入されていないが、同様の概念は規制の制定、
見直しの根底に色濃く流れている。
◇「支配的事業者」と「非支配的事業者」を認定し、後者に対する規制を大幅に緩和
するなどがその一例。
日 本
◇総務省(旧郵政省)が、ECRの導入を検討する研究会(「IP化等に対応した電気通信
分野の競争評価手法に関する研究会」)を2002年9月より運営中。
◇その中で、EUのECRが参考として大きく考慮されている。
5
6.EUの有効競争レビューの全体像と英国における実施状況
Ⅰ. EUの有効競争レビューの全体像
◇EUは、1999年より通信規制の全面的な見直しを開始し、2002年2月に新たな4つの指令が採択
され、4月より発効している。
◇それらの4つの新指令の中の「枠組み指令」において、有効競争レビュー(ECR)の実施が加盟国
に義務付けられた。(同指令の第14、15、16条に規定されている)
◇EUは加盟各国がECRを実施する際の指針とするために、「市場の画定」に関する勧告(現在は
草案段階)と「市場分析/SMP評価」に関するガイドラインを発表している。
◆4つの新指令が発効(2002年4月)
EU
◆通信規制の包括的な見直し
を開始(1999年10月)
アクセス指令
ユニバーサル・サービス指令
◆ECRに関する2つの指針を発表
認証指令(免許指令)
「関連製品及びサービス市場に
関する勧告草案」(2002年6月)
枠組み指令
ECRの実施を、加盟国に義務付け
6
「市場分析とSMPの評価に関
するガイドライン」(2002年7月)
A.欧州連合(EUの)枠組み指令における「有効競争レビュー」の規定
(前文における記述より)
◇事前的な規制による責務賦課は、有効な競争がない場合、すなわち、有意な市場力を持つ企業
が一つあるいは複数存在する市場において、また国内及び共同体競争法の改善命令措置が
その問題を十分に解決しない場合にのみ課されるべきである。
◇そのため、欧州委員会は、一定市場において競争が有効かどうかの評価、また有意な市場力の
判断において、国内規制機関が従うべき競争法の原則に従って、共同体レベルでのガイドライン
を策定する必要がある。
◇国内規制機関は、一定の製品あるいはサービス市場が、一定の地理的エリアにおいて有効に
競争的であるかどうかを分析するべきである。そのときの地理的エリアは加盟国における全国
ないし一部であり、また他の加盟国の隣接地域も含めて考慮できるかもしれない。
◇有効競争の分析には、市場が全体的に競争的かどうか、また有効競争の欠如が継続するかどう
かも含められるべきである。
◇これらのガイドラインは、新たに出現する市場の問題にも言及するべきであり、そこではデファクト
な市場のリーダーは大きな市場シェアを持つ可能性があるが、不適切な責務を課されないように
するべきである。
◇欧州委員会は急激に変化する市場で適切さを維持するために、このガイドラインを定期的に見直
すべきである。国内規制機関は関連する市場が国土を超えている場合には、お互いに協力する
必要がある。
7
B.有効競争レビューに関するEUと加盟各国の関係 (市場画定と競争の有効性の評価)
EU
「枠組み指令」
(2002年2月4日採択、2002年4月24日発効)
有効競争レビューを
実施する市場の画定
「関連製品及びサービス市場に
関する勧告草案」
(2002年6月17日草案発表)
EU勧告を考慮し、
各国の市場を画定
各国の市場を画定
各国規制当局
有効な競争が進展
(SMP事業者なし)
「市場分析とSMP評価の
ガイドライン」
(2002年7月11日官報公示)
有効競争レビューの実施
(2003年7月25日までに完了)
規制の差し控え
または撤廃
有効な競争は進展せず
(SMP事業者あり)
規制の導入
または維持
8
有効競争の
判断基準を
提示
C.「関連製品及びサービス市場に関する勧告草案」(2002年6月)
◇勧告草案においては、ECRを実施する市場の画定の方法と、EUが画定した市場のリストを
提案している。
(1)市場の画定の方法
仮想的独占者テスト
需要と供給の代替性を考慮して、各市場を
特徴付けた上で(仮想的独占者テストの実
施)、3つの具体的な基準に基づいて市場を
画定する。
○仮想の独占者が、製品・サービスの料金の“小幅であるが有意かつ一時的なものでない引き
上げ”を行った場合の、消費者・供給者の反応によって関連市場を画定するテスト
①
消費者(a)
A(製品の)市場
市場画定の基準
仮想の独占者が
料金引き上げ
①参入障
壁の存否
②時間の経
過により有効
な競争が進
展する市場
の特徴
③競争法
と補完的な
事前規制
の評価
※市場が持続的かつ有効に競争的である証拠が
あれば、その市場は「勧告」から取り除かれ得る
B (製品の)市場
②
行動
消費者(a)
①B製品に移転
供給者(b)
②A製品の市場に参入
9
供給者(b)
市場の特定への評価
A市場とB市場は同一市
場と評価される
同上
(2)勧告草案で画定された市場
小
売
レ
ベ
ル
1. 固定地点での公衆向け電話網へのアクセス(加入者回線)
2. 固定地点で提供される公共的に利用可能な電話サービス(市内・市外・国際通話の発着信)
3. 専用線の最小限の単位 (※ 64Kbps、2Mbps)
4. 固定地点での公衆向け電話網における通話の発信
5. 固定地点での個別の公衆向け電話網における通話の着信
卸
売
レ
ベ
ル
6. ブロードバンド・インターネット・サービス提供のための加入者回線の卸売
具体的に特定される市場セグメントは、メタリック・ループ及びサブ・ループに対するアンバンドル・ア
クセス(共用アクセスを含む)である
7. 専用線のローカルまたは終端セグメントの卸売(専用線の加入者部分の相互接続)
8. 個別の移動体網における通話の着信
9. 公衆向け移動体電話網における国際ローミング・サービスの国内卸売市場
10. エンド・ユーザに放送コンテンツを配信するための放送伝送サービス及び配信ネットワーク
11. 固定地点での公衆向け電話網における中継サービス
12. 公衆向け移動体電話網に対するアクセス及び通話の発信
(注)「枠組み指令」付録Ⅰは、最初の「勧告」に含められるべき市場のリストを規定しており、上記の市場は、その市場リスト
とかなり類似している。
10
D.「市場分析とSMP評価のガイドライン」(2002年7月)
◇このガイドラインにおいては、以下の4点について加盟国に指針を示している。
①SMPの評価(単独支配性、共同支配性、SMPの梃子利用)
②加盟国の国家規制当局(NRA:National Regulatory Authority)が、その国独自の市場を
画定する際の方法
③分野特殊な規制と競争法上の規制の関係
④欧州委員会、国家規制当局(NRA)、国家競争当局(NCA:National Competition Authority)
の間の協力手続き等の手続き上の問題
(※本発表資料においては、上記の①のみについて解説を行なう。)
(1)単独支配性の評価
◇「枠組み指令」においては、SMPの定義が競争法の定義と同義となるように変更された。
定義
評価基準
(市場シェア等)
関連市場
その他
従来の規制の枠組み
新しい規制の枠組み
―
企業が、個別であれ、他との共同であれ、競争者、顧客、更には消
費者から認識できる程度に独立して行動する力を与える経済的な
強さの地位(欧州裁判所の支配性の定義に一致)
市場シェア25%程度でSMPの存在が推定される(SMPテスト)
市場シェア40%超でSMPの存在の懸念が発生。但し、市場シェアだ
けでなく市場の特徴の全体的な分析が必要
エンドtoエンドの通信のある特定の側面を基礎とした市場
(各EU指令に定められた広範な市場、競争法の原則には基づい
ていない)
競争法の原則に基づき、需要と供給の代替性の基準により定めら
れる市場
―
共同支配性、SMPの梃子利用が認められ得る
11
◇ガイドラインは、SMP評価の基準として市場シェアを上げているが、高い市場シェアだけでは
SMPを証明できないとして、市場シェア以外の様々な評価基準を提示している。
市場シェア以外の
SMPの評価基準
市場シェア
50%
①市場シェア50%超:例外的な場合を除き、それだ
けで支配的地位存在の証拠となる
40%
②市場シェア40%超:支配的地位の懸念が発生する
25%
50%
③市場シェア25%未満:支配的地位を有しそうにない
○高い市場シェア
→それだけでSMPを立証す
るには不十分である
○低い市場シェア
→SMPを有しそうにない
●全体的な企業規模
●容易に複製できないインフラストラクチャーの支配
●技術的な有利性、優位性
●対抗する購買力が存在しない、もしくは、低いこと
●資本市場/財政資源への容易又は優先的なアクセス
●製品/サービスの多様性(例:バンドルされた製品又は
サービス)
●規模の経済
●範囲の経済
●垂直統合
●高度に展開された流通及び販売網
●潜在的な競争が存在しないこと
●拡大に対する障壁
●市場参入の容易性(参入障壁がなければ原則として、
相当な市場シェアを有する企業も独立して競争制限的
行為を行えない)
12
(2)共同支配性
○支配的地位は、1又は複数の企業が保持することも可能である(共同支配性)。(EC条約82条)
○企業は個別でも、他社と共同でも、SMPを享受し得る。すなわち、支配的地位にあり得る。
(「枠組み指令」第14条(2))
(3)SMPの梃子利用
「企業が特定の市場においてSMPを有する場合に、その市場と、その市場に密接に関連した
市場の関係が、1市場の市場支配力が他の市場に梃子利用される(leveraged)ような関係に
あり、企業の市場支配力を強化することになるような場合には、当該企業はその市場に密接
に関連した市場においてもSMPを有すると考えることもできる」(「枠組み指令」第14条(3))
X社(A市場でSMP
有り)
B市場(A市場とは別
個であるが、A市場と
密接に関連した市場)
B市場
X社(A市場・B市場
でSMP有り)
A市場
A市場
A市場
X社がA市場での市場支配力をB市場にも梃子
利用(leverage)し、その市場支配力を強化す
るような場合
X社は、A市場とB市場において全体としてSMP
を有すると考えることもできる
13
Ⅱ.英国における有効競争レビューの実施状況
A.英国の有効競争レビューの全体像
◇オフテルは1998年2月、「有効競争レビュー(Effective Competition Review)」と題する声明文書を
発表し、EU及び他国に先駆けて、電気通信規制の見直しに際して市場の競争状況の分析結果
を勘案するという概念を導入した。しかし、当時の競争分析の手法は、現在と比較すると非常に
シンプルな2段階手法であった。
第1段階:製品・市場の定義
〔主要な問題〕-需要サイドの代替性(供給サイドの代替性、市場の地理的範囲)
第2段階:競争の範囲の分析
〔主要な問題〕-市場の構造(企業の行動、参入障壁)
◇オフテルは2000年8月、EUでECRを義務付けた「枠組み指令」を含む4つの指令案が提案されたのを
受けて、「オフテルの戦略の施行:有効競争レビューのガイドライン」(以下、「2000年ガイドライン」)
を発表した。
◇オフテルは、2000年ガイドラインに従い、電気通信に関連したサービスについて、主に2000年-2002年
にかけて有効競争レビューを実施済み、もしくは実施中である。
◇2002年になり、EUの新指令が発効し、ECRの指針を示すEU文書(前出の勧告草案、ガイドライン)が
発表されたことから、オフテルは2002年8月、2000年ガイドラインを見直して、 「市場レビューのガイド
ライン:SMP評価の基準」(以下、「2002年ガイドライン」)と題する新たなガイドラインを発表した。
14
B.「オフテルの戦略の施行:有効競争レビューのガイドライン」(2000年8月)
(1)市場の区分と有効競争の評価
■市場区分
①固定網サービス
⑤固定広帯域サービス
②移動体
⑥双方向テレビへのアクセス
③インターネット・アクセス
⑦ディジタル・テレビへの条件付アクセス
④専用線
⑧デリバリー・チャンネルの融合
(EU指令が正式に採択された場合、変更予定)
■規制と有効競争の評価
有効競争の
指標による
分析
関連市場
の規制
を確定
規制の
影響を判断
15
影響がなく、市
場に任せること
が
可能な場合
規制を廃止し、
競争の有効性を
監視
規制の影響が
不明な場合
段階的に規制を
廃止し、規制緩和
の範囲を調査
市場が規制に
依存している
場合
規制緩和、規制
廃止の便益分析を
実施
(2)有効競争レビューの指標
◇2000年ガイドラインが提案した、有効競争測定の指標は下表の通りである。
指 標
消費者の利益(Outcome)
消費者の行動
供給者の行動
市場構造
基 準
・英国の消費者は、類似の経済(注:他国)における消費者と比較して、「最善もしくは、
最善に近い取引」を享受していることが示されているか。
・英国の消費者に広範なサービス利用可能性があるか。
・消費者はサービスの品質に満足しているか。
・該当のコストを広範に反映した料金設定(すなわち、一貫した過剰利益が無いこと)
。
・消費者は、有効な選択の一助となる情報にアクセス可能か。
・市場機会の利益を享受し、情報を使用する点において、消費者は自信/知識を持っている
か。
・消費者が供給者を変更する際の障壁が存在しないこと。
・料金と品質、及び革新における活発な競争。
・反競争的行為が存在しないこと。
・共謀が存在しないこと。
・消費者のニーズを満たすこと。
・サービスの有効な提供。
・新規参入。
(Recent Entry)
・参入の脅威が競争の規律であるようにする、限定された参入障壁。
・非効率な供給者が存在しないこと。
・関連市場において市場力を有する電気通信事業者が、その市場力を調査中の市場分野で発
揮しないこと(垂直、水平統合を通じて)
。
・経過的な市場構造の変化。特に、集中の減少の傾向。
16
C.英国の有効競争レビューにおけるSMP評価基準
◇オフテルは、2000年ガイドラインの中において、EUの新指令が正式に発効した場合には見直しを行なうことを
約束していたが、2002年8月に「オフテルの市場レビューのガイドライン:SMP評価の基準」(2002年ガイド
ライン)を発表し、 2000年ガイドラインの一部を2002年ガイドラインで置き換えることを明らかにした。
◇オフテルの2002年ガイドラインにおいては、4つの英国独自の競争の評価基準が追加されている。
EUがガイドラインで提示した評価基準
(2002年7月)
オフテルが2002年ガイドラインで追加
した英国独自の評価基準(2002年8月)
①市場シェア
②全体的な企業規模
③容易に複製できないインフラストラクチャーの支配
④技術的な有利性、優位性
⑤対抗する購買力が存在しない、もしくは、低いこと
⑥資本市場/財政資源への容易又は優先的なアクセス
⑦製品/サービスの多様性(例:バンドルされた製品又は
サービス)
⑧規模の経済
⑨範囲の経済
⑩垂直統合
⑪高度に展開された流通及び販売網
⑫潜在的な競争が存在しないこと
⑬拡大に対する障壁
⑭市場参入の容易性(参入障壁がなければ原則として、
相当な市場シェアを有する企業も独立して競争制限的
行為を行えない)
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1. 過剰な料金設定及び収益性
2. 非価格競争における活発な競争の欠如
+
3. 転換障壁
4. 情報のアクセスや使用における顧客の能力
7.電気通信分野における事業法と競争法の役割分担
-英国の電気通信分野における1998年競争法の適用を例に
(1)経緯
・英国はすべての商業活動における公正競争を促進する目的で、1998年に競争法を成立させた。
・公正取引庁とオフテルは2000年1月、1998年競争法を電気通信分野に適用する際のガイドライン
を共同で作成して発表した。(「1998年競争法の電気通信分野における適用」)
〔ガイドラインの目的〕
「このガイドラインは、1998年競争法(以下、「競争法」)が電気通信分野において、
どのように適用され、施行されるかを説明している。このガイドラインはまた、競争
法と1984年電気通信法(以下、「電気通信法」)の間の関係について説明している」
・競争法が対象としている禁止規定は下記の2つに分類される。これらは、EC条約
(注:ローマ条約)の第81条及び第82条に対応している。
◆反競争的な協定、決定もしくは共謀的行為(anti-competitive agreements,decisions,
or concerted practices)
◆支配的な地位の濫用(abuse of dominant position)
18
(2)1998年競争法における反競争的行為の定義
反競争的な協定、決定、
もしくは共謀的行為
支配的な地位の濫用
・英国における競争を阻害し、抑制し、または歪めるような目
的もしくは効果を有し、英国内における取引に影響を与え
る、企業間の協定、企業の団体による決定、もしくは共謀
的行為の禁止。
・ある協定は、たとえ明らかにされていなかったり、公然とし
たものでなくとも、反競争的である可能性がある。この禁止
規定には一定の除外(「exclusions」)と免除(「exemptions」)
が適用される。
・ 英国の市場において、支配的地位の濫用につながるよう
な、そして、英国内の取引に影響を与える、1もしくは複数
の企業による行為の禁止。
・ 支配的な地位を 占めること は禁止されていない。禁止され
ているのは、支配的な地位の濫用である。
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(3)電気通信分野に競争法を適用する際の管轄権
①電気通信分野では、競争法の適用ならびに施行において、オフテル長官(DGT:Director
General for Telecommunications)と公正取引庁長官(DGFT: Director General for Fair Trading)
が並立的な管轄権を有している。
②オフテル長官(DGT)は公正取引庁長官(DGFT)とともに、「電気通信に関する商業行為」に関係
する機能である限りにおいて、競争法のもとでDGFTの機能のほとんどすべてを実施することが
可能である。従って、電気通信分野に関係する協定や行為は通常はDGTによって処理されるで
あろう。
③DGTとDGFTは並立的な管轄権を有することから、その案件をどちらが処理するかに関して、決定
が行われる前にDGTとDGFTは常にお互いに相談することになる。
1998年競争法
適用、施行
オフテル長官
公正取引庁長官
相談
通常はオフテル
長官が処理
並立的管轄権
電気通信業界における商業活動
20
8.電気通信規制当局(NRA)と競争当局(NCA)の統合に関する動き
「電気通信規制当局は競争当局の一部となるべきか」(Telecom Markets誌 2002.7.30号)
セクターごとに特定された規制制度から、競争法に基づく単一の規制制度への移行を受けて、欧州では政府間で、国家
規制当局(NRAs: National Regulatory Authorities)と競争当局(competition authorities)がより密接な協力、もしく
は合併をするべきかという議論が浮上している。
加盟諸国が電気通信セクター全体を競争法に基づいて規制することを最終的な目的としたEUの枠組み指令を、来年7月
までに導入する計画を受けて、NRAsと競争当局の統合の可能性に関する議論が大きく浮上した。当面は、市場の中で
競争的ではないと見なされた部分に対しては、特定の電気通信法が維持される。NRAsはどの市場がこの分類に該当する
かを明確にするために、今夏より(有効競争)レビューを開始することになっている。
多数の国がNRAsと競争当局の統合について議論を行うと考えられており、その中には、ベルギーやフランスの他に、
今月上旬に電気通信規制当局であるOptaが、同国の競争当局であるNMaの一部となる計画があることを発表したオランダ
などが含まれている。
「理論的には、電気通信規制当局は、競争法が導入された時点で縮小し、競争当局の一部分となるべきである」と、ある
弁護士は述べている。
NRAの競争当局への規制上の合併、もしくは吸収に賛成する意見は、特定の電気通信規制がもはや存在しなくなれば、競争
法を施行するために2つの分離した組織を維持する必要は無いというものである。
さらに、この2つの組織の融合により、特定の問題に対する責任の所在をより明確にすることができるようになるという
主張もある。例えば、このような問題がもしインターネットに関連するものであった場合、NRAsは国内の支配的な電気
通信事業者に対する管轄権を有するため、調査を行うべきであり、一方の競争当局もマイクロソフトの関与で発生した
ような、幅広い業務上の問題を処理するために調査を行うべきであるという、同等の妥当性についての議論が生じ得る。
さらに、専門知識を集積し、業務の重複を防ぐためにも、この2つの組織を融合するべきであるという意見もある。
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NRAsと競争当局の合併が好ましい、望ましいという考えに反対する意見もある。電気通信セクターにおける現在の不況に
より、既存事業者に対する潜在的な競争事業者が市場から撤退し、競争が弱まったため、事前的・予防的な意味で、1990
年代後半にEUの電気通信法制(EU telecom legislation)が策定された際の見通しよりも、かなり長く規制は維持される
べきであると批評家は述べている。
合併に対するその他の反論は、通信セクターの特徴(distinctive identity)が分離した組織を正当化するというもので
ある。さらに、もし電気通信が、拡大された競争規制当局の一部となるのであれば、電気・ガス・水道業界という公益事業
の規制当局もこれに含まれるべきだという意見もある。このような「巨大規制当局」のリスクは、非現実的で扱い難いもの
になり得ると反対者は主張している。
また、特に無線周波数の割当ては、無線サービス間での混信の防止を主要な機能とする高度な技術を要する業務であり、
このような通信セクターの特定の分野は、競争当局の管理の下にある他の分野とは両立できないという反対意見もある。
たとえNRAsが競争当局に吸収されたとしても、このような業務は外部に維持するべきであると主張する。
このような変化に反対する意見は確かに多い。フィンランドの運輸通信省のシニア・アドバイザーであるKari Ojala氏は、
同国では電気通信及びメディアの規制当局であるFicoraと競争当局を統合する計画はないという。EUの法制を受けて、
これらの組織はより密接に協力していくが、再編成は混乱を生じさせ、「統合は解決よりも多くの問題をもたらす可能性
がある」と同氏は述べている。
電気通信規制当局が競争当局の管理下に置かれるべきかどうかの議論がメディアで行われているスウェーデンでは、
既存事業者であるTeliaに対して規制当局が反対する判断を下したことがないため、このような状況はTeliaにとって好ま
しいと、批評家は主張している。NRAsと競争当局の合併に対する反論者の一人は「電気通信についての知識が全くない
官僚に規制を受けるより、Teliaは現状の方を望むであろう」と述べている。
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