株式会社東芝における戦略的CSR ポーターの競争優位のCSR戦略をも とに 13-MC001 李 博維 1 東芝グループの経営理念 出典: http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/policy/aim.htm 2 経営理念の全体に埋め込まれているCSRの思想 東芝グループは、経営理念として「人間尊重」「豊 かな価値の創造」「世界の人々の生活・文化への貢 献」を掲げている。また、経営理念を集約したものと して「人と、地球の、明日のために。」をグループの スローガンとしている。 東芝は、こうした理念、スローガンを事業活動のな かで実現するよう努めることがCSR(企業の社会的責 任)であると考えている。その実践にあたっては、 「生命・安全、コンプライアンス(遵守、従順)」を 最優先しているのである。 3 CSRの定義 ・欧州委員会による定義 責任がある行動が継続可能な事業の成功につながるという認識を、企業が 深め、社会・環境問題を、自発的に、その事業活動及びステークホルダー との相互関係に取り入れるための概念。(「出所」 「CSRに関する通 達」2002) ・経済産業省による定義 企業が、法律遵守にとどまらず、企業自ら、市民、地域及び社会を利する ような形で、経済、環境、社会問題においてバランスのとれたアプローチ を行うことにより、事業を成功させること。 (「出所」 経済産業 省資料) ・経済同友会による定義 「社会的責任」とは、様々なステークホルダーを視野に入れながら、企業 と社会の利益を高い次元で調和させ、企業と社会の相乗効果を図る経営の あり方 (「出所」 「日本企業のCSR: 現状と課題2003」 ) 4 ポーターの競争優位のCSR戦略 CSRは、積極的な態度で挑むことで競争優位の源泉になる。 すなわち、数ある会社問題のなかから、企業として取り組むこ とで大きなインパクトをもたらされるものを選択し、これを踏 まえたうえでバリューチェーンと競争環境を改革することに よって、企業と社会双方がメリットを享受できる活動を展開す る。 ここで、注目すべきなのは、ポーターはCSRにバリュー チェーンと競争環境という概念を取り入れ、大きなインパクト がもたらされる社会問題に取り組むという点である。 5 バリューチェーンでCSRを考える (内から外への影響) 2011年度の取扱量は、半導体と社会インフ ラ分野で9割以上を占め、化学反応や排水処 理に使用される物質が上位となっている。 また、PRTR対象物質のマテリアルバランス は、中和・吸着などにより除去される量が 25%、製品にともなって消費される量が 68%と大半を占め、大気・水域へは全体の 約2%のみが排出されている。従来より取扱 量の把握は行ってきましたが、第5次環境ア クションプランでは、これまで以上に化学 物質の使用を控えたモノづくりへの移行を 推進するため、取扱量の生産高原単位を新 たに目標指標に取り入れ、2015年度に2010 年度比で5%の削減をめざす。 2011年度は、輸送時における積荷集積率の向上、モーダル シフト適用の拡大、物流拠点再編による輸送距離削減など輸送時 のエネルギー削減施策に取り組んだ。さらに震災により寸断され た道路を避け、一時的にトラック輸送の代替として通常と異なる 船舶輸送ルートを使用した結果、CO2排出量原単位を2000年度比 で56%削減し、2011年度の目標を14%と大幅に上回り達成した。 出典: http://www.toshiba.co.jp/env/j p/industry/logistics_j.htm 出典: http://www.toshiba.co.jp/env/jp/industry/chemica l_reduce_j.htm 6 ダイヤモンドモデルでCSRを考える (外から内への影響) 公正な取引を徹底するための体制 東芝グループのCSR調達推進体制図 地域大学・研究機関との連携 インドに研究開発部門を設立 東芝グループは、研究・開発における市場変化への即応力を高 め、地域の人財育成に貢献するため、中国・国内外に研究開発 拠点を設け、地域大学・研究機関との連携を行っている。 アジアでは、製造拠点だけではなく、エンジニアリング拠点や 開発拠点の現地展開を図り、現地大学・企業との共同研究・開 発を進めている。 その一環として、2013年1月、インド(バンガロール)に研究 開発部門を設立した。現地有力校と共同研究テーマを選定し、 共同研究に関連したインターンシップを受け入れるなど、産学 連携の取り組みを開始している。 出典: http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/performance/community/d evelopment.htm#dev_01 出典: http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/performance/fair_ practices/fairtrade.htm 中国向けの掃除機を発売 中国の都市部では、美意識の変化やマンションの増加など 住環境の変化から、箒(ほうき)、モップに代わって電気掃 除機が使用され始めている。 東芝家電製造(深圳)社は、「箒の時代よ、さようなら」 をキャッチフレーズとして中国の家庭向けに開発した掃除 機を2011年10月に発売した。開発に際して、同社では生産、 企画、技術が一体となってお客様のニーズを調査・反映す るとともに、部品の現地調達率を高め、低価格のモータを 搭載することで手頃な価格を実現してる。 出典: http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/performance/community/deve lopment.htm#dev_01 7 戦略的CSRを企画する東芝 受動的CSR • 一般的な社会問題(事業への 関連性が乏しい) 例:中国で希望工程小学校の建設 を支援 中国における東芝のグループ会社は、 2001年から「東芝希望工程小学校」の 建設を支援している。2005年からは中 国青少年発展基金会と協働で、毎年2 校ずつ建設しており、これまでの合計 は21校と4校の仮校舎となる。また、 開校後もパソコン、図書室および文房 具を寄贈するなど継続的に支援を行っ ている。 出典: http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/performance/community/development. htm 社会貢献はしているものの、事業との 関連が乏しい。 戦略的CSR • 競争環境の社会的側面(事業 への関連性が大きい) 例:東芝は2010年4月に住宅用太陽光 発電システム事業に参入し、システム 販売を開始した。東芝の住宅向け太陽 電池モジュールは、日本の住宅事情に 合わせ、発売以来、常に世界トップレ ベルの変換効率のモジュールを提供す ることで、狭い屋根でも太陽光を効率 よく取り込み、発電量を最大化させて きた。 出典:http://www.toshiba.co.jp/env/jp/energy/solar_j.htm 競争優位と環境保護を両立させるCSR 事業との関連性が大きい。 8 「内から外へ」と「外から内へ」の一体化 ベトナムで新たな雇用を創出する高効率モーター工場を稼動 2010年9月にベトナム・ホーチミン市の東芝産業機器アジア 社が開業した。同社は高効率の産業用モーターを生産し、生 産量拡大に対応して、現地従業員の雇用を拡大している。ま た、高効率モーター用の精密な部品を現地の企業から調達で きるよう、生産開始に先立って日本から従業員を派遣して技 術指導をした。「現地でできるものは現地で」という方針の もと、現地調達率を継続して高めている。 出典:http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/performance/community/development.htm#dev_01 9 バリュー・プロポジションにふさわしい競争環境を整える • バリュー・プロポジションとは、企業が顧客に提供する一連の価値 の組み合わせです。ここでいう価値とは、商品、価格、販売方法、 顧客対応など、顧客がベネフィット(利便)として感じるものすべ てである。 例:インドネシアの新洗濯機工場でニーズに適合した製品を製造 2012年11月、インドネシアに洗濯機工場を新設した。東南アジア、中 近東の洗濯機市場では、二槽式洗濯機が全体の約40%を占めており、な かでもインドネシアでは約70%を占めていることから、二層式洗濯機か ら生産を開始している。地元のニーズに適合した製品を製造するだけで なく、東南アジア、中近東、日本に洗濯機を供給するグローバル生産拠 点の一つとなる。客がベネフィット(利便)として感じるものである。 出典:http://www.toshiba.co.jp/csr/jp/performance/community/development.htm#dev_01 10 CSRを超えて:「企業と社会の一体化」へ 企業は、雇用創造、投資、購買、日々の業務を通じて会社に大 きな恩恵をもたらす。企業が社会や地域に貢献することは、経済 的繁栄を後押しする。 いかなる企業であろうと、自社が最も貢献できそうな社会問題、 最大の競争優位につながりそうな社会問題を見つけ出すことは可 能である。 11 戦略的CSRの問題 • どの企業でも、すべてのCSR事業が戦略的というのは不可 能である。受動的CSRは回避できない。 • 企業において、どの事業が戦略的CSRでどの事業が受動的 CSRというのは企業内で分かっていても、公表はできない。 関係者以外は個人の分析に頼るしかない。 • 元来, 企業による利益追求最優先に起因する不祥事等の反 省として求められたCSR が逆に企業利益の追求手段とし て位置づけられるという転倒現象にも見える、という批判 がある。 12 「戦略的CSR とCSV(共通価値創造)」 • 2011 年に発表された「Creating Shared Value:経 済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦 略」において、従来のCSR について、利益の最大化と は別物で、善い行いに価値を置いたCSR と批判し、今 後は利益の最大化に不可欠な要素となり、コストと比 較した経済的便益と社会的便益の両面に価値を置くも のとしてCSV を提唱している。そしてCSV が、リー マンショックを経て危機に瀕している資本主義から、 社会目的に従う、進化した資本主義の実現に寄与する としている。 13 個人的な考え • 戦略的CSRはもはや、従来の企業による利益追 求最優先に起因する不祥事等の反省として求め られたCSR とは異なるので、CSRの定義ではな くなった。 • これからは、本当に利益を目的としない純粋な 社会貢献をCSRと呼ぶ、経済的価値と社会的 価値を同時実現する 共通価値の戦略(CSV) とは、まったく別なものとして区別する必要が ある。 • 受動的CSRは単なるコストではなく、うまく運 用すれば、受動型でも競争優位につながる。 14 東芝のCSRの新たなフレームワーク • 受動的CSRは欠かせないと思うので、それをすべてNPOとNGO組 織に託し活動してもらう、その代り、広告宣伝費用は削減しコス ト削減する。なぜかというと、受動的CSR活動は単なるCSRコス トではなく、うまく運用すれば、企業ブランドにとってはかなり 効果の良い宣伝になると思うからである。 例:例えば、中国で希望工程小学校の建設を支援するCSRでは、パソ コンや文房具などを寄付している。その、学校の子供には、小さいこ ろから東芝というブランドに触れ、成長する。そしてやがて大人にな る。貧困層こそ将来の有望な顧客となりうるのであり、新規マーケッ トの開拓の意味においてもCSR活動による自社ブランドの浸透がマー ケティング活動になる戦略といえる。 15
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