公共経済学

公共経済学
三井 清
「公共経済学(第 2 学期)
:三井」の運営方法
【講義のねらい】
社会全体のリスクを分散するための社会保障政策、所得分配の公平性
を確保する政策としての課税制度(所得税、消費税、資産課税など)
についての理解を深めることをねらいとしている。
【講義内容】
(1) 外部性1:環境汚染と共有資源(第 9 章)
(2) 外部性2:ピグー税とコースの定理(第 9 章)
(3) 社会保障(第 14 章と②の第 6 章)
(4) 公的年金1(②の第 6 章)
(5) 公的年金2(②の第 6 章)
(6) 租税入門(第 17 章と⑤の第 2 章)
(7) 課税の同等性:消費税と労働所得税 & 資産所得課税と資産課税(第 18 章)
(8) 個別消費税と利子所得税(第 19 章)
(9) 労働所得税(第 19 章)
(10) 法人所得課税(第 23 章)
(11) 租税の帰着と中立性(第 18 章)
(12) 地方分権と政府間の役割分担(第 24 章と②の第 12 章)
(13) 計算問題の解説
(14) まとめ
【教科書・参考書】
① スティグリッツ「公共経済学:第 2 版 (上) 、(下)」東洋経済新報社
② 井堀利宏「現代経済入門・財政」岩波書店
【成績評価の方法】
成績評価のための「総合得点」は、①定期試験、②宿題、③出席、④講義への貢献、
⑤レポート、の 4 つの得点の合計である。なお、配点は以下の通りである。また、レポ
ートは 3 年生以上が提出可で、通年の「定期試験+宿題+出席+講義への貢献」の合計
点が 40 点台である場合にのみ採点の対象となる。
① 定期試験
:40 点×2 回
② 宿題
:10 点×2 回
③ 出席
:2 点(遅刻・早退は 1 点)×5 回
④ 講義への貢献
:1 点×貢献回数(上限 10 回)
⑤ レポート
:10 点×1回
なお、「講義への貢献」とは以下の 3 つである。
① 講義中の板書や言葉による説明の間違いを指摘する。
② 講義の内容に関する質問をする。
③ ホームページにアップされた資料の間違いを指摘する。
【ホームページ】
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20040012/index.htm
【メールのアドレス】
[email protected]
13.外部性 1:環境汚染と共有資源
13.1 外部性の幾つかの特徴
13.2 環境汚染(物質排出)のケース
13.3 共有資源(=混雑外部性)のケース
13.4 補論 1*:ネットワーク外部性
13.5 補論 2:企業 2 の最適化行動と利潤関数
13.6 補論 3**: SR  SR(n) が微分可能な場合の(13-19)の導出
13.1 外部性の幾つかの特徴
外 部 性 と は ど の よ う な 概 念 化 を 最 初 に 説 明 し よ う 。 ま ず 、「 ( 広 義 の ) 外 部 性
(externalities)」とは、
「経済主体の活動が対価を伴う取引を経由せずに他の経済主体に
影響を与えること」である。すなわち、市場における直接的な取引をしている経済主体以
外から受ける影響のことである。
この「広義の外部性」は、価格の変化を通じた影響であるかどうかで、2 つに分類するこ
とができる。
まず第 1 は、ある経済主体の行動で、
(対価を伴う取引をしていない)他の経済主体が購
入あるいは販売する財の価格にも変化が生じることで、その経済主体に影響が及ぶ効果で
あり、その効果は「金銭的外部性(pecuniary externalities)
」と呼ばれる。
第 2 は、ある経済主体の行動で、
(対価を伴う取引をしていない)他の経済主体が購入あ
るいは販売する財の価格に変化が生じないにも関わらず、その経済主体に影響が及ぶ効果
であり、その効果は「(技術的)外部性((technological) externalities)
」と呼ばれる。そし
て、
「(技術的)外部性」は生活環境に影響するものと生産環境に影響するもので、2 つに分
類することができる。なお、経済主体の生活環境は効用関数で捉えられ、生産環境は生産
可能性曲線(あるいは生産関数)や費用関数などで捉えられる。
(問題 13-1)
① ある川の上流に自動車会社 A があり、その下流に自動車会社 B がある。
② どちらの会社も自動車を生産するとき、川の水を濾過した水で部品を洗
浄するとともに、その洗浄した後の汚水をそのまま川に戻している。
③ 自動車会社 A が生産量を増加させたとしよう。そのときの自動車会社 B
に与える影響を考えることで、金銭的外部性と技術的外部性の相違を検
討しなさい。
④ 自動車の市場は自動車会社 A と自動車会社 B だけが存在する寡占市場で
ある。
濾過
川の水
会社A
汚水
川の水
濾過
汚水
会社B
(問題 13-1)
① ある川の上流に自動車会社 A があり、その下流に自動車会社 B がある。
② どちらの会社も自動車を生産するとき、川の水を濾過した水で部品を洗
浄するとともに、その洗浄した後の汚水をそのまま川に戻している。
③ 自動車会社 A が生産量を増加させたとしよう。そのときの自動車会社 B
に与える影響を考えることで、金銭的外部性と技術的外部性の相違を検
討しなさい。
④ 自動車の市場は自動車会社 A と自動車会社 B だけが存在する寡占市場で
ある。
「外部経済(正の外部性)
」external economies (or positive externalities)
= 他の経済主体に良い影響を与える外部性
「外部不経済(負の外部性)
」external diseconomies (or negative externalities)
=
他の経済主体に悪い影響を与える外部性
(問題 13-2)
① 生産関数に影響を与える外部経済と外部不経済の例を1つずつ挙げなさい。
② 効用関数に影響を与える外部経済と外部不経済の例を1つずつ挙げなさい。
問題13-2
対象
効用
生産
正
隣家の借景
果樹園と養蜂業者
負
スタジアムの騒音
方向
公害
13.2 環境汚染(物質排出)のケース
企業1が生産している財の量を x を表し、その財の価格を p とする。また、その財の需要
曲線は水平( p  p 、 p は定数)であるとする。
そして、企業 1 の「私的費用(private cost) PC1 」は
PC1  PC1 ( x)
(13-1)
と生産量 x の関数として表わされるとし、この関数を「企業 1 の私的費用関数」と呼ぶこ
とにする。
このとき、企業1の利潤  1 は
1  p  x  PC1 ( x) [ 1 ( x)]
(13-2)
と表されることになる。そして、 PC1 (0)  0 、 PC1 ( x)  0 、 PC1( x)  0 を仮定する。
したがって、 1( x)   PC1( x)  0 である。
企業 1 の生産量 x が与えられたもとでの(最大化された)企業2の利潤  2 は
 2   2 ( x)
(13-3)
と表されるとして、この関数を「企業 2 の利潤関数」と呼ぶことにする。そのとき、企業
1 の生産量が x のとき「(企業 2 が被る)損害(damage) D 」は
D   2 (0)   2 ( x) [ D( x)]
(13-4)
と表すことができる。そして、 D  D(x) を「損害関数」と呼ぶことにする。
2 ( x)  0 かつ 2 ( x)  0 を仮定する。したがって、(13-4)より、 D( x)  2 ( x)  0 か
つ D( x)  2 ( x)  0 である。
<政策的介入がない場合の企業 1 の供給量>
生産量 x のもとでの企業 1 の「限界私的費用(marginal private cost) MPC1 」は、
MPC1  PC1 ( x) [ MPC1 ( x)]
(13-5)
と表すことができる。そして、 MPC1  MPC1 ( x) を「限界私的費用関数」と呼ぶことに
する。このとき、 MPC1 ( x)  PC1 ( x)  0 かつ MPC1 ( x)  PC1( x)  0 である。
そして、企業 1 は利潤  1 を最大化するとすれば、政策的介入がない場合の企業1の供給量
x m は、
1 ( x m )  0 または p  MPC1 ( x m )
(13-6)
を満たすように決定される。
1 ( x) : p  x  PC1 ( x)
1 ( x)  p  MPC1 ( x)
1 ( x m )  0
p  MPC1 ( x m )  0
(問題 13-3) x MPC1 平面に企業 1 の限界費用曲線 MPC1  MPC1 ( x) を図示するととも
に、政策的介入がない場合の企業1の供給量 x m を図示しなさい。また、 p が上
昇したときに、供給量 x m がどのように変化するかを検討しなさい。
MPC1( x)  PC1( x)  0
MPC1
MPC1  MPC1 ( x)
p
xm
x
<効率的(=社会的に最適)な資源配分>
企業2が生産している財の生産に固定費用が存在せず、その財の需要曲線は水平であると
する。そのとき、固定費用が存在しないので利潤と生産者余剰が一致するとともに、需要
曲線は両市場とも水平であるので、消費者余剰は生産水準の如何に係わらず常に一定であ
る。したがって、社会的余剰(総余剰)の最大化問題は両企業の利潤の和の最大化問題と
一致する。
企業 1 が生産量 x を選択しているときの「社会的費用(social cost) SC 」を、
「(企業 1
の)私的費用」と「
(企業 2 が被る)損害」の和として捉えることにする。つまり、
SC  PC1 ( x)  D( x) [ SC( x)]
であり、 SC  SC(x) を「社会的費用関数」と呼ぶことにする。
(13-7)
このとき、(13-4)と(13-7)を用いれば、両企業の利潤の和を
1 ( x)   2 ( x)   px  SC( x)   2 (0)
(13-8)
と表すことができる。したがって、  2 (0) は定数なので、「両企業の利潤の和を最大化す
る企業 1 の生産量と、企業 1 が(私的費用ではなく)社会的費用を考慮して利潤を最大化
するときの生産量は一致する」ことになる。そこで、以下では効率的な企業 1 の生産量を
「企業 1 が社会的費用を考慮して利潤を最大化するときの生産量」として求めることにす
る。
(問題 13-4)(13-8)を導きなさい。
1 ( x) : p  x  PC1 ( x)
(13-2)
D( x) :  2 (0)   2 ( x)
(13-4)
SC( x) : PC1 ( x)  D( x)
(13-7)
1 ( x) : px  PC1 ( x)
 p  x  SC( x)  D( x)
 p  x  SC( x)   2 (0)   2 ( x)
(13-8)
企業 1 の生産量 x のときの「限界損害(marginal damage) MD 」は
MD  D( x) [ MD( x)]
(13-9)
と求めることができる。そして、 MD  MD(x) を「限界損害関数」と呼ぶことにする。
このとき、 MD( x)  D( x)  0 かつ MD( x)  D( x)  0 である。
SC( x) : PC1 ( x)  D( x)
(13-7)
「限界社会的費用(marginal social cost) MSC 」は、(13-7)より、
(13-10)
MSC  MPC1 ( x)  MD( x) [ MSC( x)]
と求めることができる。なお、 MSC( x) : SC ( x) であり、 MSC  MSC(x) を「限界社会
的費用関数」と呼ぶことにする。
*
以上の準備のもとで、効率的な(利潤の和を最大にする)企業1の生産量 x は
p  MPC1 ( x* )  MD( x* )  MSC( x* )
より求められる。
(13-11)
(問題 13-5)効率的な生産量 x * は企業 1 にとって私的な観点から最適な生産量 x m より小
さいことを、図を用いて説明しなさい。
p  MPC1 ( x m )
p  MPC1 ( x* )  MD( x* )  MSC( x* )
(13-6)
(13-11)
MSC  MPC1 ( x)  MD( x)
MPC1  MPC1 ( x)
p
MD( x) : D( x)  2 ( x)  0
x*
xm
x
13.3 共有資源(=混雑外部性)のケース
ある湖で何艘かの船が漁をする状況を考える。また、この湖で採れる魚は海外からも輸入
されており、この湖の漁獲量が変化しても魚の販売価格(=国際価格)は1で変化しない
ものとする。したがって、消費者余剰は常に一定である。
販売価格が 1 であるので、(1 年間の)「社会的(船全体での)漁獲量(output)」すなわち
「社会的(船全体での)漁獲高(social return)」を SR と置く。また、
「船の数(船主の
数)
」を n と置く。そして、社会的(船全体での)漁獲高関数を
(13-12)
SR  SR(n)
と表すことにする( SR(0)  0 )。そして、社会的漁獲高曲線 SR  SR(n) は滑らかな曲線
であり、船の数が増えるときの船全体での漁獲高の増分 SR (n) は、船の数が増えるにした
がって減少すると仮定する( SR(n)  0 )。言い換えると、この湖での漁には「混雑現象」
が発生していることになる。
「私的な(個別船主の)漁獲高(private return)」すなわち「平均(船一艘あたりの)漁
獲高(average return)」を PR と置けば、
PR  SR(n) / n [  PR(n) ]
(13-13)
であり、 PR  PR(n) を「私的漁獲高関数」と呼ぶことにする。
船 1 艘を(1 年間)レンタルするときの限界費用(marginal cost)を MC と置き、 MC は
漁をする船の数が増えても一定であるとする。そのとき、私的な(個別船主の)利潤  P は
 P  PR(n)  MC [  P (n)]
(13-14)
と求められる。なお、利潤  P は「個別船主の生産者余剰」でもある。また、船主全体の
利潤(=生産者余剰)を  S と置けば、
 S  n   P (n) [  S (n)]
(13-15)
と表すことができる。なお、(13-13)と(13-14)より、  S (n)  SR(n)  n MC である。
「(参入が自由な下での)市場均衡における船の数」を n m と置けば、 n m は個別船主の利
潤がゼロになるように決定されるので、
(13-16)
PR(n m )  MC
の条件式から求められる。
また、「限界社会的漁獲高(marginal social revenue)」を MSR と置けば、
(13-17)
MSR  SR(n) [  MSR(n) ]
と表すことができる。なお、MSR  MSR(n) を限界社会的漁獲高関数と呼ぶことにする。
そして、効率的な(=生産者余剰を最大にする)船の数を n * と置けば、 S (n)  SR(n)  0
なので、 n * は  S (n* )  0 より求められる。
したがって、  S (n)  MSR(n)  MC なので、
MSR(n* )  MC
(13-18)
より効率的な船の数 n * を求めることができる。すなわち、 n * は限界社会的漁獲高と限界
費用が一致する船の数である。
n SR 平面に社会的漁獲高曲線 SR  SR(n) を描くとともに、その下に、横軸に n 、縦軸に
PR と MSR を重ねてとった平面を描き、その平面に私的漁獲高曲線 PR  PR(n) と限界社
会的漁獲高曲線 MSR  MSR(n) を図示しよう。
SR
n
PR, MSR
n
(問題 13-6)n SR 平面に曲線 SR  SR(n) を描くことで、PR(n) と MSR(n) の大小関係を
比較検討しなさい。また、 PR(n)  0 であることを説明しなさい。
SR
MSR(n )
SR  SR(n)
PR(n )  MSR(n )
PR(n )
n
n
SR(n)  0  SR(n)は増加関数
SR(n)  0  SR(n)は横軸に向かって凹
n SR 平面に社会的漁獲高曲線 SR  SR(n) を描くとともに、その下に、横軸に n 、縦軸に
PR と MSR を重ねてとった平面を描き、その平面に私的漁獲高曲線 PR  PR(n) と限界社
会的漁獲高曲線 MSR  MSR(n) を図示しよう。
SR
MSR(n )
PR(n )
n
n
PR, MSR
PR(n )
PR  PR(n)
MSR(n )
MSR  MSR(n)
n
n
「 MSR  MSR(n) 、 MSR  0 、 n  0 、 n  n で囲まれる図形の面積」を S1 (n , SR(n)) と
表すことにする。そのとき、
S1 (n , SR(n)) = SR(n )
(13-19)
が成立する。なお、(13-19)が成立することを、 SR  SR(n) が 2 次関数の特殊ケースにつ
いては次の問題で示し、一般的なケースについては「13.6 補論 3」で確認する。
n SR 平面に社会的漁獲高曲線 SR  SR(n) を描くとともに、その下に、横軸に n 、縦軸に
PR と MSR を重ねてとった平面を描き、その平面に私的漁獲高曲線 PR  PR(n) と限界社
会的漁獲高曲線 MSR  MSR(n) を図示しよう。
SR
SR(n )
S1 (n , SR(n)) = SR(n )
n
n
PR, MSR
MSR(n )
MSR  MSR(n)
n
n
(13-19)
(問題 13-7) SR(n)    n 2  2    n のときに(13-19)が成立することを確認しなさい。
SR(n)    n2  2    n のときに
MSR(n) : SR(n)  2  n  2    2  (  n)
である。したがって、
S1 (n , SR (n)) 
1
n  (2    2  (   n ))  n    (2  n )
2
と求められる。
また、
SR(n )    n 2  2    n  n    (2  n )
である。
したがって、(13-19)が成立する。
S1 (n , SR(n)) = SR(n )
(13-19)
(問題 13-8)横軸に n 、縦軸に PR と MSR を重ねてとった図に、「平均漁獲高曲線」と「限
界社会的漁獲高曲線」を描くとともに、 n * と n m を図示しなさい。また、市場均
衡における厚生損失(=「 n * のもとでの生産者余剰」-「 n m のもとでの生産者
余剰」)の大きさを図示しなさい。
n*の下での生産者余剰= SR(n* )  n*MC
=(Ⅰ+Ⅲ+Ⅵ)-Ⅵ
問題13-8
=Ⅰ+Ⅲ
PR, MSR
nmの下での生産者余剰= SR(nm )  nm MC
=(Ⅰ+Ⅲ+Ⅵ+Ⅶ)-(Ⅵ+Ⅶ+Ⅷ)
=Ⅰ+Ⅲ-Ⅷ
MSR=MSR(n)
Ⅰ
PR(n*)
Ⅱ
PR=PR(n)
Ⅳ
Ⅲ
厚生損失
=「 n*の下での生産者余剰」
Ⅴ
PR(nm) = MC
-「nmの下での生産者余剰」
Ⅷ
Ⅵ
=( Ⅰ+Ⅲ )-( Ⅰ+Ⅲ-Ⅷ)
=Ⅷ
Ⅶ
n*
=Ⅲ+Ⅳ
nm
n
Ⅰ+Ⅲ= SR(n* )  n*MC  n* PR(n* )  MC  =Ⅲ+Ⅳ
SR(nm )  nm MC  nm PR(nm )  MC   0
(問題 13-9) SR  8n  n 2 かつ MC  2 のとき、 n * と n m を求めなさい。また、
「漁船の
数が n * の場合の生産者余剰  S (n * ) 」と「漁船の数が n m の場合の生産者余剰
 S (n m ) 」を求めなさい。
13.4 補論 1*:ネットワーク外部性
ネットワーク外部性とは
「ある財(サービス)を消費する個人の数が多いほど、その財(サービス)
の消費から得られる効用が高まる効果」
のことである。
(例)電話、FAX、ブロードバンドネットワーク、ソフトウェア
以下では、財 x (ソフトウェア)と財 y (その他の財)の 2 財が存在し、個
人が2人存在するケースで、ネットワーク外部性の問題を検討する。
個人 i の財 x の消費量を x i と置き、 xi  0 または xi  1 であるとする。そし
て、財 x の普及率を f ( x1 , x2 ) と置けば、
0 if x1  x 2  0

f ( x1 , x 2 )  1 / 2 if x1  x 2  1
1 if x  x  2
1
2

(13-20)
である。
個人 i の効用関数は
ui  f ( x1 , x2 ) xi  yi
(13-21)
であるとする。つまり、普及率 f ( x1 , x2 ) が高いほうか同じ消費パターンの
もとでも効用水準が高いとする。
財 x を1単位生産するための固定費用は存在せず、限界費用は c であり、その市場
への参入は自由であると想定する。
そのとき、財 x のコスト c はその価格でもあり、企業の利潤(そして生産者余剰)
はゼロである。なお、 1 / 2  c  1 を仮定する。
そして、個人 i の所得を mi と置けば、個人 i の予算制約式は
c  xi  yi  mi
となる。
(13-21)
両個人の財 x の消費量を「戦略」とするゲームを考え、各個人は相手の戦略を与えられた
もとで、自分の効用を最大化するように自分の戦略を選択すると想定する。
(問題 13-10*)上記のゲームを戦略形(各個人の戦略の組に対応する各個人の効用水準を
N
N
対応させた表)で表す次の表を完成させるとともに、Nash 均衡 ( x1 , x2 ) を求め
なさい。
x2
0
x1
0
1
1
,
m2
m1  1 / 2  c ,
m2
m1
ui  f ( x1, x2 ) xi  yi  f ( x1 , x2 ) xi  mi  c  xi
c  xi  yi  mi
1/ 2  c  1
( x1N , x2N )  (0, 0), (1,1)
m1
,
m1 1  c ,
m2  1 / 2  c
m2 1  c
(問題 13-11*)
(パレート)
効率的な資源配分
(すなわち戦略の組)( x1* , x2* ) を求めなさい。
1/ 2  c  1
( x1* , x2* )  (1,1)
問題 13-8 より Nash 均衡は 2 つあるが、問題 13-9 よりその一方の均衡は(パレート)効
率的であるのに対してもう一方は非効率的であることが分かる。
13.5 補論 2:企業 2 の最適化行動と利潤関数
企業 1 の生産量 x が与えられたもとでの、企業 2 の生産量が y のときの私的費用関数が
(13-23)
PC2  PC2 ( y)  e( x)
という特殊ケースに着目する。
ここに、 PC2 ( y) は企業 2 の私的費用のうち企業 2 の生産量 y だけに依存する部分である
( PC2 (0)  0 、 PC2 ( y)  0 、 PC2( y)  0 )
。
また、e(x) は「外部性(externality)の費用関数」である( e(0)  0 、e( x)  0 、e( x)  0 )。
企業 2 が生産している財の価格を q とし、その財の需要曲線が水平( q  q 、 q は定数)
であるとする。そのとき、企業 2 の利潤  2 は
(13-24)
 2  q  y  PC2 ( y)  e( x)
と表される。
また、企業 2 の限界私的費用 MPC2 は
(13-25)
MPC2  PC2 ( y) [ MPC2 ( y)]
と求められる。なお、 MPC2  MPC2 ( y) を「企業 2 の限界私的費用関数」である。
そして、企業 2 は企業 1 の生産量 x を与えられたものとして利潤を最大化するように行動
すると想定する。そのとき、企業 2 の供給量 y m は x から独立に、
q  MPC2 ( y m )
(13-26)
を満たすように決定される。
y m を(13-24)の右辺の y に代入すれば、企業 1 の生産量が与えられたもとでの最大化され
た企業 2 の利潤  2m が
 2m  q  y m  PC2 ( y m )  e( x) [  2 ( x)]
(13-27)
と求められる。なお、 2 ( x)  e( x)  0 かつ 2 ( x)  e( x)  0 である。そして、
D( x)   2 (0)   2 ( x)  e( x)
(13-28)
である。つまり、「損害関数 D (x ) 」と「外部性の費用関数 e(x) 」が一致することになる。
13.6 補論 3**: SR  SR(n) が微分可能な場合の(13-19)の導出
社会的漁獲高曲線 SR  SR(n) が滑らかな曲線、すなわち関数 SR  SR(n) が微分可能なケ
ースにおいては、 (13-19)は「微分積分学の基本定理」から導かれることになる。なお、
「微分積分学の基本定理」とは、微分可能な関数 f (n) に関して、a  n  b の範囲で f (n)
が連続であれば、
 f (n)dn  f (b)  f (a)
b
(13-29)
a
が成立することである。また、 a  n  b の範囲で f (n)  0 であれば、定積分
 f (n)dn
b
(13-30)
a
は「 n MSR 平面における曲線 MSR  f (n) 、直線 n  a 、直線 n  b 、 n 軸(すなわち直
線 MSR  0 )で囲まれる図形の面積」である。
f (n)  SR(n) 、 a  0 、 b  n (ただし MSR(n )  0 )と置けば、 f (n)  MSR(n) であ
るから、(13-29)、(13-30)と S1 (n , SR(n)) の定義より、次の関係が導かれる。

n
S1 (n , SR(n))  MSR(n)dn  SR(n )  SR(0)  SR(n )
0
(13-19)
(問題 13-9) SR  8n  n 2 かつ MC  2 のとき、 n * と n m を求めなさい。また、
「漁船の
数が n * の場合の生産者余剰  S (n * ) 」と「漁船の数が n m の場合の生産者余剰
 S (n m ) 」を求めなさい。
PR  8  n
MSR  8  2n
PR(nm )  MC
8n  2
MSR(n* )  MC
8  2n*  2
m
nm  6
n*  3
「漁船の数が n * の場合の生産者余剰  S (n * ) 」は、(13-17)より、
 S (n* )  SR(n* )  n* MC  8n*  (n* ) 2  n*  2  9
である。
また、同様にして「漁船の数が n m の場合の生産者余剰  S (n m ) 」は、
 S (n m )  SR(n m )  n m MC  8n m  (n m ) 2  n m  2  0
である。
13.外部性 1:環境汚染と共有資源
13.1 外部性の幾つかの特徴
13.2 環境汚染(物質排出)のケース
13.3 共有資源(=混雑外部性)のケース
13.4 補論 1*:ネットワーク外部性
13.5 補論 2:企業 2 の最適化行動と利潤関数
13.6 補論 3**: SR  SR(n) が微分可能な場合の(13-19)の導出