公共経済学 三井 清 「公共経済学(第 2 学期) :三井」の運営方法 【講義のねらい】 社会全体のリスクを分散するための社会保障政策、所得分配の公平性 を確保する政策としての課税制度(所得税、消費税、資産課税など) についての理解を深めることをねらいとしている。 【講義内容】 (1) 外部性1:環境汚染と共有資源(第 9 章) (2) 外部性2:ピグー税とコースの定理(第 9 章) (3) 社会保障(第 14 章と②の第 6 章) (4) 公的年金1(②の第 6 章) (5) 公的年金2(②の第 6 章) (6) 租税入門(第 17 章と⑤の第 2 章) (7) 課税の同等性:消費税と労働所得税 & 資産所得課税と資産課税(第 18 章) (8) 個別消費税と利子所得税(第 19 章) (9) 労働所得税(第 19 章) (10) 法人所得課税(第 23 章) (11) 租税の帰着と中立性(第 18 章) (12) 地方分権と政府間の役割分担(第 24 章と②の第 12 章) (13) 計算問題の解説 (14) まとめ 【教科書・参考書】 ① スティグリッツ「公共経済学:第 2 版 (上) 、(下)」東洋経済新報社 ② 井堀利宏「現代経済入門・財政」岩波書店 【成績評価の方法】 成績評価のための「総合得点」は、①定期試験、②宿題、③出席、④講義への貢献、 ⑤レポート、の 4 つの得点の合計である。なお、配点は以下の通りである。また、レポ ートは 3 年生以上が提出可で、通年の「定期試験+宿題+出席+講義への貢献」の合計 点が 40 点台である場合にのみ採点の対象となる。 ① 定期試験 :40 点×2 回 ② 宿題 :10 点×2 回 ③ 出席 :2 点(遅刻・早退は 1 点)×5 回 ④ 講義への貢献 :1 点×貢献回数(上限 10 回) ⑤ レポート :10 点×1回 なお、「講義への貢献」とは以下の 3 つである。 ① 講義中の板書や言葉による説明の間違いを指摘する。 ② 講義の内容に関する質問をする。 ③ ホームページにアップされた資料の間違いを指摘する。 【ホームページ】 http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20040012/index.htm 【メールのアドレス】 [email protected] 13.外部性 1:環境汚染と共有資源 13.1 外部性の幾つかの特徴 13.2 環境汚染(物質排出)のケース 13.3 共有資源(=混雑外部性)のケース 13.4 補論 1*:ネットワーク外部性 13.5 補論 2:企業 2 の最適化行動と利潤関数 13.6 補論 3**: SR SR(n) が微分可能な場合の(13-19)の導出 13.1 外部性の幾つかの特徴 外 部 性 と は ど の よ う な 概 念 化 を 最 初 に 説 明 し よ う 。 ま ず 、「 ( 広 義 の ) 外 部 性 (externalities)」とは、 「経済主体の活動が対価を伴う取引を経由せずに他の経済主体に 影響を与えること」である。すなわち、市場における直接的な取引をしている経済主体以 外から受ける影響のことである。 この「広義の外部性」は、価格の変化を通じた影響であるかどうかで、2 つに分類するこ とができる。 まず第 1 は、ある経済主体の行動で、 (対価を伴う取引をしていない)他の経済主体が購 入あるいは販売する財の価格にも変化が生じることで、その経済主体に影響が及ぶ効果で あり、その効果は「金銭的外部性(pecuniary externalities) 」と呼ばれる。 第 2 は、ある経済主体の行動で、 (対価を伴う取引をしていない)他の経済主体が購入あ るいは販売する財の価格に変化が生じないにも関わらず、その経済主体に影響が及ぶ効果 であり、その効果は「(技術的)外部性((technological) externalities) 」と呼ばれる。そし て、 「(技術的)外部性」は生活環境に影響するものと生産環境に影響するもので、2 つに分 類することができる。なお、経済主体の生活環境は効用関数で捉えられ、生産環境は生産 可能性曲線(あるいは生産関数)や費用関数などで捉えられる。 (問題 13-1) ① ある川の上流に自動車会社 A があり、その下流に自動車会社 B がある。 ② どちらの会社も自動車を生産するとき、川の水を濾過した水で部品を洗 浄するとともに、その洗浄した後の汚水をそのまま川に戻している。 ③ 自動車会社 A が生産量を増加させたとしよう。そのときの自動車会社 B に与える影響を考えることで、金銭的外部性と技術的外部性の相違を検 討しなさい。 ④ 自動車の市場は自動車会社 A と自動車会社 B だけが存在する寡占市場で ある。 濾過 川の水 会社A 汚水 川の水 濾過 汚水 会社B (問題 13-1) ① ある川の上流に自動車会社 A があり、その下流に自動車会社 B がある。 ② どちらの会社も自動車を生産するとき、川の水を濾過した水で部品を洗 浄するとともに、その洗浄した後の汚水をそのまま川に戻している。 ③ 自動車会社 A が生産量を増加させたとしよう。そのときの自動車会社 B に与える影響を考えることで、金銭的外部性と技術的外部性の相違を検 討しなさい。 ④ 自動車の市場は自動車会社 A と自動車会社 B だけが存在する寡占市場で ある。 「外部経済(正の外部性) 」external economies (or positive externalities) = 他の経済主体に良い影響を与える外部性 「外部不経済(負の外部性) 」external diseconomies (or negative externalities) = 他の経済主体に悪い影響を与える外部性 (問題 13-2) ① 生産関数に影響を与える外部経済と外部不経済の例を1つずつ挙げなさい。 ② 効用関数に影響を与える外部経済と外部不経済の例を1つずつ挙げなさい。 問題13-2 対象 効用 生産 正 隣家の借景 果樹園と養蜂業者 負 スタジアムの騒音 方向 公害 13.2 環境汚染(物質排出)のケース 企業1が生産している財の量を x を表し、その財の価格を p とする。また、その財の需要 曲線は水平( p p 、 p は定数)であるとする。 そして、企業 1 の「私的費用(private cost) PC1 」は PC1 PC1 ( x) (13-1) と生産量 x の関数として表わされるとし、この関数を「企業 1 の私的費用関数」と呼ぶこ とにする。 このとき、企業1の利潤 1 は 1 p x PC1 ( x) [ 1 ( x)] (13-2) と表されることになる。そして、 PC1 (0) 0 、 PC1 ( x) 0 、 PC1( x) 0 を仮定する。 したがって、 1( x) PC1( x) 0 である。 企業 1 の生産量 x が与えられたもとでの(最大化された)企業2の利潤 2 は 2 2 ( x) (13-3) と表されるとして、この関数を「企業 2 の利潤関数」と呼ぶことにする。そのとき、企業 1 の生産量が x のとき「(企業 2 が被る)損害(damage) D 」は D 2 (0) 2 ( x) [ D( x)] (13-4) と表すことができる。そして、 D D(x) を「損害関数」と呼ぶことにする。 2 ( x) 0 かつ 2 ( x) 0 を仮定する。したがって、(13-4)より、 D( x) 2 ( x) 0 か つ D( x) 2 ( x) 0 である。 <政策的介入がない場合の企業 1 の供給量> 生産量 x のもとでの企業 1 の「限界私的費用(marginal private cost) MPC1 」は、 MPC1 PC1 ( x) [ MPC1 ( x)] (13-5) と表すことができる。そして、 MPC1 MPC1 ( x) を「限界私的費用関数」と呼ぶことに する。このとき、 MPC1 ( x) PC1 ( x) 0 かつ MPC1 ( x) PC1( x) 0 である。 そして、企業 1 は利潤 1 を最大化するとすれば、政策的介入がない場合の企業1の供給量 x m は、 1 ( x m ) 0 または p MPC1 ( x m ) (13-6) を満たすように決定される。 1 ( x) : p x PC1 ( x) 1 ( x) p MPC1 ( x) 1 ( x m ) 0 p MPC1 ( x m ) 0 (問題 13-3) x MPC1 平面に企業 1 の限界費用曲線 MPC1 MPC1 ( x) を図示するととも に、政策的介入がない場合の企業1の供給量 x m を図示しなさい。また、 p が上 昇したときに、供給量 x m がどのように変化するかを検討しなさい。 MPC1( x) PC1( x) 0 MPC1 MPC1 MPC1 ( x) p xm x <効率的(=社会的に最適)な資源配分> 企業2が生産している財の生産に固定費用が存在せず、その財の需要曲線は水平であると する。そのとき、固定費用が存在しないので利潤と生産者余剰が一致するとともに、需要 曲線は両市場とも水平であるので、消費者余剰は生産水準の如何に係わらず常に一定であ る。したがって、社会的余剰(総余剰)の最大化問題は両企業の利潤の和の最大化問題と 一致する。 企業 1 が生産量 x を選択しているときの「社会的費用(social cost) SC 」を、 「(企業 1 の)私的費用」と「 (企業 2 が被る)損害」の和として捉えることにする。つまり、 SC PC1 ( x) D( x) [ SC( x)] であり、 SC SC(x) を「社会的費用関数」と呼ぶことにする。 (13-7) このとき、(13-4)と(13-7)を用いれば、両企業の利潤の和を 1 ( x) 2 ( x) px SC( x) 2 (0) (13-8) と表すことができる。したがって、 2 (0) は定数なので、「両企業の利潤の和を最大化す る企業 1 の生産量と、企業 1 が(私的費用ではなく)社会的費用を考慮して利潤を最大化 するときの生産量は一致する」ことになる。そこで、以下では効率的な企業 1 の生産量を 「企業 1 が社会的費用を考慮して利潤を最大化するときの生産量」として求めることにす る。 (問題 13-4)(13-8)を導きなさい。 1 ( x) : p x PC1 ( x) (13-2) D( x) : 2 (0) 2 ( x) (13-4) SC( x) : PC1 ( x) D( x) (13-7) 1 ( x) : px PC1 ( x) p x SC( x) D( x) p x SC( x) 2 (0) 2 ( x) (13-8) 企業 1 の生産量 x のときの「限界損害(marginal damage) MD 」は MD D( x) [ MD( x)] (13-9) と求めることができる。そして、 MD MD(x) を「限界損害関数」と呼ぶことにする。 このとき、 MD( x) D( x) 0 かつ MD( x) D( x) 0 である。 SC( x) : PC1 ( x) D( x) (13-7) 「限界社会的費用(marginal social cost) MSC 」は、(13-7)より、 (13-10) MSC MPC1 ( x) MD( x) [ MSC( x)] と求めることができる。なお、 MSC( x) : SC ( x) であり、 MSC MSC(x) を「限界社会 的費用関数」と呼ぶことにする。 * 以上の準備のもとで、効率的な(利潤の和を最大にする)企業1の生産量 x は p MPC1 ( x* ) MD( x* ) MSC( x* ) より求められる。 (13-11) (問題 13-5)効率的な生産量 x * は企業 1 にとって私的な観点から最適な生産量 x m より小 さいことを、図を用いて説明しなさい。 p MPC1 ( x m ) p MPC1 ( x* ) MD( x* ) MSC( x* ) (13-6) (13-11) MSC MPC1 ( x) MD( x) MPC1 MPC1 ( x) p MD( x) : D( x) 2 ( x) 0 x* xm x 13.3 共有資源(=混雑外部性)のケース ある湖で何艘かの船が漁をする状況を考える。また、この湖で採れる魚は海外からも輸入 されており、この湖の漁獲量が変化しても魚の販売価格(=国際価格)は1で変化しない ものとする。したがって、消費者余剰は常に一定である。 販売価格が 1 であるので、(1 年間の)「社会的(船全体での)漁獲量(output)」すなわち 「社会的(船全体での)漁獲高(social return)」を SR と置く。また、 「船の数(船主の 数) 」を n と置く。そして、社会的(船全体での)漁獲高関数を (13-12) SR SR(n) と表すことにする( SR(0) 0 )。そして、社会的漁獲高曲線 SR SR(n) は滑らかな曲線 であり、船の数が増えるときの船全体での漁獲高の増分 SR (n) は、船の数が増えるにした がって減少すると仮定する( SR(n) 0 )。言い換えると、この湖での漁には「混雑現象」 が発生していることになる。 「私的な(個別船主の)漁獲高(private return)」すなわち「平均(船一艘あたりの)漁 獲高(average return)」を PR と置けば、 PR SR(n) / n [ PR(n) ] (13-13) であり、 PR PR(n) を「私的漁獲高関数」と呼ぶことにする。 船 1 艘を(1 年間)レンタルするときの限界費用(marginal cost)を MC と置き、 MC は 漁をする船の数が増えても一定であるとする。そのとき、私的な(個別船主の)利潤 P は P PR(n) MC [ P (n)] (13-14) と求められる。なお、利潤 P は「個別船主の生産者余剰」でもある。また、船主全体の 利潤(=生産者余剰)を S と置けば、 S n P (n) [ S (n)] (13-15) と表すことができる。なお、(13-13)と(13-14)より、 S (n) SR(n) n MC である。 「(参入が自由な下での)市場均衡における船の数」を n m と置けば、 n m は個別船主の利 潤がゼロになるように決定されるので、 (13-16) PR(n m ) MC の条件式から求められる。 また、「限界社会的漁獲高(marginal social revenue)」を MSR と置けば、 (13-17) MSR SR(n) [ MSR(n) ] と表すことができる。なお、MSR MSR(n) を限界社会的漁獲高関数と呼ぶことにする。 そして、効率的な(=生産者余剰を最大にする)船の数を n * と置けば、 S (n) SR(n) 0 なので、 n * は S (n* ) 0 より求められる。 したがって、 S (n) MSR(n) MC なので、 MSR(n* ) MC (13-18) より効率的な船の数 n * を求めることができる。すなわち、 n * は限界社会的漁獲高と限界 費用が一致する船の数である。 n SR 平面に社会的漁獲高曲線 SR SR(n) を描くとともに、その下に、横軸に n 、縦軸に PR と MSR を重ねてとった平面を描き、その平面に私的漁獲高曲線 PR PR(n) と限界社 会的漁獲高曲線 MSR MSR(n) を図示しよう。 SR n PR, MSR n (問題 13-6)n SR 平面に曲線 SR SR(n) を描くことで、PR(n) と MSR(n) の大小関係を 比較検討しなさい。また、 PR(n) 0 であることを説明しなさい。 SR MSR(n ) SR SR(n) PR(n ) MSR(n ) PR(n ) n n SR(n) 0 SR(n)は増加関数 SR(n) 0 SR(n)は横軸に向かって凹 n SR 平面に社会的漁獲高曲線 SR SR(n) を描くとともに、その下に、横軸に n 、縦軸に PR と MSR を重ねてとった平面を描き、その平面に私的漁獲高曲線 PR PR(n) と限界社 会的漁獲高曲線 MSR MSR(n) を図示しよう。 SR MSR(n ) PR(n ) n n PR, MSR PR(n ) PR PR(n) MSR(n ) MSR MSR(n) n n 「 MSR MSR(n) 、 MSR 0 、 n 0 、 n n で囲まれる図形の面積」を S1 (n , SR(n)) と 表すことにする。そのとき、 S1 (n , SR(n)) = SR(n ) (13-19) が成立する。なお、(13-19)が成立することを、 SR SR(n) が 2 次関数の特殊ケースにつ いては次の問題で示し、一般的なケースについては「13.6 補論 3」で確認する。 n SR 平面に社会的漁獲高曲線 SR SR(n) を描くとともに、その下に、横軸に n 、縦軸に PR と MSR を重ねてとった平面を描き、その平面に私的漁獲高曲線 PR PR(n) と限界社 会的漁獲高曲線 MSR MSR(n) を図示しよう。 SR SR(n ) S1 (n , SR(n)) = SR(n ) n n PR, MSR MSR(n ) MSR MSR(n) n n (13-19) (問題 13-7) SR(n) n 2 2 n のときに(13-19)が成立することを確認しなさい。 SR(n) n2 2 n のときに MSR(n) : SR(n) 2 n 2 2 ( n) である。したがって、 S1 (n , SR (n)) 1 n (2 2 ( n )) n (2 n ) 2 と求められる。 また、 SR(n ) n 2 2 n n (2 n ) である。 したがって、(13-19)が成立する。 S1 (n , SR(n)) = SR(n ) (13-19) (問題 13-8)横軸に n 、縦軸に PR と MSR を重ねてとった図に、「平均漁獲高曲線」と「限 界社会的漁獲高曲線」を描くとともに、 n * と n m を図示しなさい。また、市場均 衡における厚生損失(=「 n * のもとでの生産者余剰」-「 n m のもとでの生産者 余剰」)の大きさを図示しなさい。 n*の下での生産者余剰= SR(n* ) n*MC =(Ⅰ+Ⅲ+Ⅵ)-Ⅵ 問題13-8 =Ⅰ+Ⅲ PR, MSR nmの下での生産者余剰= SR(nm ) nm MC =(Ⅰ+Ⅲ+Ⅵ+Ⅶ)-(Ⅵ+Ⅶ+Ⅷ) =Ⅰ+Ⅲ-Ⅷ MSR=MSR(n) Ⅰ PR(n*) Ⅱ PR=PR(n) Ⅳ Ⅲ 厚生損失 =「 n*の下での生産者余剰」 Ⅴ PR(nm) = MC -「nmの下での生産者余剰」 Ⅷ Ⅵ =( Ⅰ+Ⅲ )-( Ⅰ+Ⅲ-Ⅷ) =Ⅷ Ⅶ n* =Ⅲ+Ⅳ nm n Ⅰ+Ⅲ= SR(n* ) n*MC n* PR(n* ) MC =Ⅲ+Ⅳ SR(nm ) nm MC nm PR(nm ) MC 0 (問題 13-9) SR 8n n 2 かつ MC 2 のとき、 n * と n m を求めなさい。また、 「漁船の 数が n * の場合の生産者余剰 S (n * ) 」と「漁船の数が n m の場合の生産者余剰 S (n m ) 」を求めなさい。 13.4 補論 1*:ネットワーク外部性 ネットワーク外部性とは 「ある財(サービス)を消費する個人の数が多いほど、その財(サービス) の消費から得られる効用が高まる効果」 のことである。 (例)電話、FAX、ブロードバンドネットワーク、ソフトウェア 以下では、財 x (ソフトウェア)と財 y (その他の財)の 2 財が存在し、個 人が2人存在するケースで、ネットワーク外部性の問題を検討する。 個人 i の財 x の消費量を x i と置き、 xi 0 または xi 1 であるとする。そし て、財 x の普及率を f ( x1 , x2 ) と置けば、 0 if x1 x 2 0 f ( x1 , x 2 ) 1 / 2 if x1 x 2 1 1 if x x 2 1 2 (13-20) である。 個人 i の効用関数は ui f ( x1 , x2 ) xi yi (13-21) であるとする。つまり、普及率 f ( x1 , x2 ) が高いほうか同じ消費パターンの もとでも効用水準が高いとする。 財 x を1単位生産するための固定費用は存在せず、限界費用は c であり、その市場 への参入は自由であると想定する。 そのとき、財 x のコスト c はその価格でもあり、企業の利潤(そして生産者余剰) はゼロである。なお、 1 / 2 c 1 を仮定する。 そして、個人 i の所得を mi と置けば、個人 i の予算制約式は c xi yi mi となる。 (13-21) 両個人の財 x の消費量を「戦略」とするゲームを考え、各個人は相手の戦略を与えられた もとで、自分の効用を最大化するように自分の戦略を選択すると想定する。 (問題 13-10*)上記のゲームを戦略形(各個人の戦略の組に対応する各個人の効用水準を N N 対応させた表)で表す次の表を完成させるとともに、Nash 均衡 ( x1 , x2 ) を求め なさい。 x2 0 x1 0 1 1 , m2 m1 1 / 2 c , m2 m1 ui f ( x1, x2 ) xi yi f ( x1 , x2 ) xi mi c xi c xi yi mi 1/ 2 c 1 ( x1N , x2N ) (0, 0), (1,1) m1 , m1 1 c , m2 1 / 2 c m2 1 c (問題 13-11*) (パレート) 効率的な資源配分 (すなわち戦略の組)( x1* , x2* ) を求めなさい。 1/ 2 c 1 ( x1* , x2* ) (1,1) 問題 13-8 より Nash 均衡は 2 つあるが、問題 13-9 よりその一方の均衡は(パレート)効 率的であるのに対してもう一方は非効率的であることが分かる。 13.5 補論 2:企業 2 の最適化行動と利潤関数 企業 1 の生産量 x が与えられたもとでの、企業 2 の生産量が y のときの私的費用関数が (13-23) PC2 PC2 ( y) e( x) という特殊ケースに着目する。 ここに、 PC2 ( y) は企業 2 の私的費用のうち企業 2 の生産量 y だけに依存する部分である ( PC2 (0) 0 、 PC2 ( y) 0 、 PC2( y) 0 ) 。 また、e(x) は「外部性(externality)の費用関数」である( e(0) 0 、e( x) 0 、e( x) 0 )。 企業 2 が生産している財の価格を q とし、その財の需要曲線が水平( q q 、 q は定数) であるとする。そのとき、企業 2 の利潤 2 は (13-24) 2 q y PC2 ( y) e( x) と表される。 また、企業 2 の限界私的費用 MPC2 は (13-25) MPC2 PC2 ( y) [ MPC2 ( y)] と求められる。なお、 MPC2 MPC2 ( y) を「企業 2 の限界私的費用関数」である。 そして、企業 2 は企業 1 の生産量 x を与えられたものとして利潤を最大化するように行動 すると想定する。そのとき、企業 2 の供給量 y m は x から独立に、 q MPC2 ( y m ) (13-26) を満たすように決定される。 y m を(13-24)の右辺の y に代入すれば、企業 1 の生産量が与えられたもとでの最大化され た企業 2 の利潤 2m が 2m q y m PC2 ( y m ) e( x) [ 2 ( x)] (13-27) と求められる。なお、 2 ( x) e( x) 0 かつ 2 ( x) e( x) 0 である。そして、 D( x) 2 (0) 2 ( x) e( x) (13-28) である。つまり、「損害関数 D (x ) 」と「外部性の費用関数 e(x) 」が一致することになる。 13.6 補論 3**: SR SR(n) が微分可能な場合の(13-19)の導出 社会的漁獲高曲線 SR SR(n) が滑らかな曲線、すなわち関数 SR SR(n) が微分可能なケ ースにおいては、 (13-19)は「微分積分学の基本定理」から導かれることになる。なお、 「微分積分学の基本定理」とは、微分可能な関数 f (n) に関して、a n b の範囲で f (n) が連続であれば、 f (n)dn f (b) f (a) b (13-29) a が成立することである。また、 a n b の範囲で f (n) 0 であれば、定積分 f (n)dn b (13-30) a は「 n MSR 平面における曲線 MSR f (n) 、直線 n a 、直線 n b 、 n 軸(すなわち直 線 MSR 0 )で囲まれる図形の面積」である。 f (n) SR(n) 、 a 0 、 b n (ただし MSR(n ) 0 )と置けば、 f (n) MSR(n) であ るから、(13-29)、(13-30)と S1 (n , SR(n)) の定義より、次の関係が導かれる。 n S1 (n , SR(n)) MSR(n)dn SR(n ) SR(0) SR(n ) 0 (13-19) (問題 13-9) SR 8n n 2 かつ MC 2 のとき、 n * と n m を求めなさい。また、 「漁船の 数が n * の場合の生産者余剰 S (n * ) 」と「漁船の数が n m の場合の生産者余剰 S (n m ) 」を求めなさい。 PR 8 n MSR 8 2n PR(nm ) MC 8n 2 MSR(n* ) MC 8 2n* 2 m nm 6 n* 3 「漁船の数が n * の場合の生産者余剰 S (n * ) 」は、(13-17)より、 S (n* ) SR(n* ) n* MC 8n* (n* ) 2 n* 2 9 である。 また、同様にして「漁船の数が n m の場合の生産者余剰 S (n m ) 」は、 S (n m ) SR(n m ) n m MC 8n m (n m ) 2 n m 2 0 である。 13.外部性 1:環境汚染と共有資源 13.1 外部性の幾つかの特徴 13.2 環境汚染(物質排出)のケース 13.3 共有資源(=混雑外部性)のケース 13.4 補論 1*:ネットワーク外部性 13.5 補論 2:企業 2 の最適化行動と利潤関数 13.6 補論 3**: SR SR(n) が微分可能な場合の(13-19)の導出
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