ディーセント・ワークの 実現に向けて

働く女性の全国センター総会にむけて
2012.2.11
健康で安心して生活できる
働き方を考える
〜ディーセント・ワーク実現にむけて〜
中嶋 滋(日本ILO協議会専務理事、前ILO理事)
一緒に考え、追求していきたいこ
と
• 今の働き方、暮らし方は?
• どのように変ればいい?
• 目指す方向は?
• 実現するために何をする?
• まずはおかしなところを直していく!
• 「社会正義の新時代」に向けて!
• その鍵となるDW実現!
どのような働き方・暮らし方、
そして社会を望むか
• 東日本大震災、福島原発事故が示唆したこと
は(少なくともいえることは)?
• 大量生産・大量消費型(自然破壊・資源収奪
型)、経済成長至上主義からの脱却!
• 量的な豊かさよりも上質な安定・安心を!
• 排他的・競争的社会からの脱却!
• グリーンでクリーンな循環型持続可能社会へ!
目指す方向は?
• 「大国」の虚栄を捨てる。
• 民主主義を徹底し多様性を認め合う包摂・連帯
型社会を追求する。
• 協同・連帯型経済活動を重視・拡大する。
• 所得再配分の新しいあり方(資産公開と所得の
透明化、ストック課税の重視など)を追求する。
• 可処分所得と可処分時間のバランスを考える
働き方・暮らし方を実現していく。
労働をめぐる状況
• グローバル化の進展による影響
*メガコンペティションといわれる過当競争
*その下での過激な価格競争
*極限的な労働コスト削減の追求
• 規制緩和と雇用形態の多様化
• Race to the bottom状況の拡大
• 行き過ぎを懸念し規制する動き
• 国際労働基準の適用の重要性
• 求められるディーセントワークの実現
著しく劣化する労働の世界
(97年と10年との比較)
• 正社員:非正規 3812万人:1152万人(23.2%)→
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3355万人:1756万人(34.4%)
賃金・一時金(平均、高卒男)31.6万円→28.9万円
114.5万円→71.7万円
減らない労働時間(年間実労働) 2304H→2215H
悪化する年休取得率 53.8%→48.1%
深刻な過労死・精神障害の労災申請と認定(01→10年)
過労死 690(143)件→802(285)件
精神障害等 265(70)件→1181(308)件
ILO第15回アジア太平洋地域会議 結論が
指摘していること(別紙資料参照)
• AP地域は急激な成長にもかかわらず、多数のワーキ
•
•
•
•
ングプアーと巨大なインフォーマル経済を減少させる
に十分なディーセントワークは創出できていない。
国際的な市場での競争がもたらす、あらゆる機会と挑
戦とともに、一段とグローバル経済に統合されつつあ
る。
急速な経済成長は、経済的不均衡を拡大させ、所得
と富の不平等を拡大した。
何億人も最下層の貧困から脱したが、依然として全世
界のワーキングプアーの73%をAP地域が占める。
社会保護制度は、大多数の人々に効果的に適用され
ていない。
特にディーセントワークに関して
• AP地域は、世界最多の人口で労働力が急激に増大
•
•
•
し、インフォーマル経済の縮小、ディーセントな仕事
の創出奨励により、巨大な潜在的生産力を拡大し、
貧困を撲滅に活用せねばならない。
ジェンダー不平等、特に仕事の世界における女性の
不均等な待遇と機会は、依然として現代社会の主要
課題であり、優先課題として取り組まねばならない。
若い男女の多数が、ディーセントな生活に不可欠な
ディーセントな仕事を見つけ得ないでいる。一方、同
じ地域に数千万の学校に通うべき少年・少女が働い
ている。
経済のグリーン化に取り組めば、ディーセントワーク
の機会が創出される。
目指す方向実現の鍵は?
• ジェンダー平等原則の厳格な適用。
• それを基礎にした国際労働基準の適用
実施。
• ディーセントワークの促進。
• それを推進しうる態勢整備。
• 会社化されている諸制度の社会化。
ILO憲章
 「世界の永続する平和は、社会正義を基礎と
してのみ確立することができる」
 「世界の平和および協調が危うくされるほど大
きな社会不安を起すような不正、困苦および
窮乏を多数の人民にもたらす労働条件が存
在する」
 「いずれかの国が人道的な労働条件を採択し
ないことは、自国における労働条件の改善を
希望する他の国の障害となる」
フィラデルフィア宣言
 労働は商品ではない。
 表現と結社の自由は、不断の進歩のために
欠くことができない。
 世界のどこの片隅にでも貧困があれば、そ
れは全体の繁栄を脅かす。
 窮乏に対する闘いは、…(略)…労働者およ
び使用者の代表者が、政府の代表と同等の
地位において遂行する。
国際労働基準採択のプロセス
① 国際労働基準を設定すべき問題の確認
② 理事会が、その問題を総会議題とすることを決定
③ 事務局が、その問題に関する国内法・慣行についてと
基準内容についての質問事項を含む報告書を作成
④ 加盟国政労使に報告書送付・コメントを要請
⑤ 事務局によるコメントの分析、草案の作成
⑥ ILO総会で第1次討議
⑦ 事務局が議論概要作成・基準案起草
⑧ 加盟国政労使に報告書送付・コメントを要請
⑨ 事務局による改正起草案準備
⑩ ILO総会で第2次討議
⑪ 総会3分の2以上の賛成により採択
これまで採択された条約189、勧告200。
RENGO and Global Unions
ITUC
◆Membership: 168 million
◆Affiliates: 311
◆Countries/Territories: 155
RENGO
ITUC-Asia Pacific (ITUC-AP)
◆Membership: 18.6 million
◆Affiliates: 48
◆Countries/Territories: 29
OECD-TUAC
◆Membership: 66 million
◆Affiliates: 58
◆Countries: 34
Global Union Federations (GUF)
(Workers Group)
BWI
EI
ICEM
IFJ
IMF
ITF
ITGLWF
IUF
PSI
UNI
Affiliates
(industrial federations)
適用実施と監視機構
• 条約の適用実施には国会など最も権威ある
機関による批准が必要である。日本は48。
OECD平均は73。全加盟国平均は42。
• 批准により条約内容と国内法との適合が求
められ、既批准条約の適用実施状況を監視
するシステムがある。
• 主な監視機構は、①条約勧告適用専門家委
員会、②総会・基準適用委員会、③結社の自
由委員会である。
国際労働基準は
企業の門前で立ちすくんでいる
• あまりにひどい「労働の世界」の劣化の背景に
国際労働基準の非適用・不実施。
• 批准促進、適用実施の厳格化が必要。
• 労働市場のあり方の影響。
• 労働組合組織のあり方も影響。
• 労働時間法制の問題。
• ディーセントワークと無縁な「協力企業」従業
員・非正規労働者。
ディーセント(Decent)とは?
研究社「新英和大辞典」などから
1.(人・言語・思想・行状・服装など)穏当な、慎みのある、上品な
decent language 品の良い言葉
decent person ちゃんとした人
2.相当な身分の、かなり立派な
live in decent condition かなり立派な生活をする
3.まあまあの、人並みな、世間並みの、恥ずかしくない程度の、
適当な
decent income かなりの収入、人並みの収入
decent job まともな仕事
4.結構な、中々よい、好ましい
decent fellow 感じのいい奴
*excellentとの違い
ディーセント・ワークの意義
• 適切な水準の社会保障、賃金・労働条件が確保され
•
•
•
•
た社会的意義のある生産的労働。
平易に一言でいえば「働きがいのある人間らしい仕
事」。
1999年、ソマビアILO事務局長が提起。
時代的背景:グローバル化の負の側面克服が国際社
会の課題。
ILO新宣言(98年)、国連グローバル・コンパクト提唱
(00年)、OECD多国籍企業ガイドライン大改正(00年)、
国連ミレニアム開発目標設定(00年)などと軌を一にす
る取り組み。
ジェンダー平等原則と
4戦略目標の促進・実現
• 4戦略目標は不離一体、相互補完・強化しあう。
• ジェンダー平等原則は、4戦略目標すべての基本原
•
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•
•
則として適用されねばならない。
戦略目標1:中核的労働基準の尊重遵守(労働にお
ける基本的原則・権利を促進し実現する)。
戦略目標2:良質な雇用の確保(男女の適正な雇用
と所得を確保する機会を増大する)。
戦略目標3:社会保護の拡充(社会保護の範囲と効
果を強化する)。
戦略目標4:社会対話の促進(三者構成主義と社会
対話を強化する)。
ジェンダー平等原則の適用状況
• ILO100号条約(男女の同一価値労働・同一賃金)
•
•
•
批准。大きな賃金格差、昇進面での差別など適用面
で多くの問題。ペイ・イクイティ・ユニオンの申立。
ILO111号条約(雇用・職業生活上の差別禁止)未批
准。ILO加盟183か国中169か国が批准しているにも
拘わらず、日本は未批准。
ILO156号(家庭責任)条約批准。単身赴任問題など
適用面で多くの問題。
ILO183号条約(母性保護)未批准。母性保護権利行
使中の賃金保障、行使後の原職復帰、差別の立証
責任など多くの前進面。
GEでの日本の国際的位置は?
(別紙1)
• ジェンダーギャップ指数(GGI) 134国中94位
• ジェンダー不平等指数(GII)138国中12位
• 人間開発指数(HDI)169国中11位
• 各指数の説明と、他国との比較は別紙資料。
他のGE関連資料(別紙2)
• 企業取締役に関するクウォーター制
• 年齢階級別労働力率(国際比較)
• 「性的役割分業」意識
戦略目標1(中核的労働基準の尊重遵
守)は?
• 4分野8条約で表される中核的労働基準
• 第1分野:結社の自由・団結権、団交権の効果的承認・
保障(ILO87,98条約)。
• 第2分野:強制労働の禁止(ILO29,105号条約)。
• 第3分野:児童労働の撲滅(ILO138 ,182号条約)。
• 第4分野:平等・反差別の促進(ILO100,111号条約)。
アンダーライン付き条約は日本未批准。
既批准条約でも適用実施に多くの問題点あり。
戦略目標2(良質な雇用確保)は?
• 非正規労働者の急増。不安定、低賃金・劣悪労働
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条件雇用の増加。
長時間労働。過労死・自殺。セクハラ、パワハラ。
労働の「商品化」の横行←→「フィラデルフィア宣言」。
ILO175号(パート労働者)条約の未批准。
ILO181号(民間職業紹介事業)条約の適用上の問
題。「労働者派遣法」の問題点。
ILO155号(労働安全)条約の未批准。
ILO158号(雇用の終了)条約の未批准。
ILO81号(労働監督)条約の重要性。
戦略目標3(社会保護の拡充)は?
• 雇用保険をはじめ社会保障制度非適用労働
者の増加。
• 社会的安全網(ソーシャル・セーフティ・ネット)
の水準の低さと綻び。
• 低すぎる水準の最低賃金制度。東京837円。
• 生活保護で「健康で文化的生活」可能?
• 特に深刻な母子家庭の生活。
• 多すぎる自殺者。
雇用保険適用率、「現役世帯の貧困」
(別紙3)
• 雇用保険適用率
2008年 11月 23% (ILO理事会資料)
適用者 1年以上の雇用が見込まれる者
2011年 10月 22% (厚労省、総務省)
失業者数 292万人 受給者数 64.4万人
2011年 11月 20.5%
失業者数 296万人 受給者数 60.9万人
適用者 1月以上の雇用が見込まれる者
戦略目標4(社会対話の促進)は?
• ILO144号条約と日本的三者構成の問題点。
• グローバル化の進展下での経営姿勢(マネージメン
ト・スタイル)の変化と影響。
• 経営者の使用者性が薄れつつある状況への危惧。
GFA締結によるチャレンジ。
• 「日本的労使関係」の基盤の変化。
*終身雇用制
*年功序列賃金制度
*企業内組合
取り組みの方向・課題は?
• 国際労働基準の適用状況を常にチェック、実施を目
•
•
•
指す。特にDW。ジェンダー平等原則、4戦略目標をめ
ぐる実態の把握。関係国内法の適用状況も含め(労
働基準法や労働安全衛生法など)。
未達成、不十分な状況の克服に向けた取り組み計画
の策定と実施。全国、産別、企業、地域の各レベルで。
それを基礎にした各レベルの労使協議、行政への働
きかけ(地域での社会対話の促進)。
企業のCSR確立(GFA締結、ISO26000活用)、 行政
における公契約条例実現(ILO94号条約批准・適用)
に向けた取り組みの推進。
ご静聴ありがとうございました。
ご質問、ご意見をどうぞ。