1 北海道大学 Hokkaido University 情報エレクトロニクス学科共通科目・2年次・第1学期〔必修科目〕 講義「情報理論」 第12回 第7章 通信路符号化の限界(2) 通信路符号化定理 通信システム全体としての情報伝達の限界 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 2 [復習]通信路符号の基礎概念(1) ∈ ∈ ∈ x’ Σ ∈ xの符号語 受信語 A A wx w’x b0b1・・・bkbk+1・・ 通信路符 a0a1・・・anan+1・・ r元通 a0a1・・・anan+1・・ 通信路 号化 信路 復号 Σ:q元アルファベット A:r元アルファベット Σ x b0b1・・・bkbk+1・・ 通信路符号化の目的: 信頼性の向上 そのために→冗長性を付加 長さkのブロックx∈Σkを長さnの符号語wx∈Anに符号化 qk < rn : 符号語としてAnの一部のみ使用 (冗長性の付加) 通信路符号(または符号):An の中から選ばれた系列の集合 C 受信空間 誤った復号 × 復号領域 正しく復号 Ω1 推定不可能な 誤り検出 2015/07/3 w2 Ω2 w1 × An Ω4 w3 × w4 Ω3 × 符号語 受信語 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 3 [復習]情報速度と冗長度 符号Cの情報(伝達)速度 R: R= log2 M n (ビット/記号) 符号Cを用いればどのくらいの速さで( 1記号あたり何ビットの)情報を伝達で きるか ただし Mは符号C(⊆An)に含まれる符号語の数 情報速度Rを用いれば、符号語数 M は M=2nR 情報速度の最大値 Rmax = (log2 rn) / n = log2 r (An に含まれる rn 個の系列すべてを符号語とした場合) R<Rmax とすることで、誤りの訂正や検出が可能となる。 情報速度Rの符号C の効率(符号化率) η : η=R / Rmax 0<η<1 C の冗長度 ρ: ρ=1-η 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 4 [復習]通信路容量の定義 入力アルファベット A={a1,a2,…,ar}の元 pi=PX(ai) X 記憶のない Y 定常通信路 出力アルファベット B={b1,b2,…,bs}の元 qj=PY(bj) 通信路行列 T=[pi j ], pi j =P(bj | ai ) 記憶のない定常通信路の通信路容量(channel capacity) C: C=max{ I(X; Y) } p (ビット/記号) ただし、maxはA上のすべての確率分布p=( p1, p2,…, pr )で考える。 一般の定常通信路の通信路容量C: その通信路を用いればど のくらいの速さで(1記号あ C= lim max{I(Xn; Yn)/n } pn n→∞ たり何ビットの)情報を伝 ただし、Xn、 Ynは長さ n の入力系列、出力系列を表し、 達できるか maxは Xn のすべての確率分布pnで考える。 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 5 通信路容量と情報速度の関係についての考察 情報速度R で符号化済み 入力アルファベット A={a1,a2,…,a|A|}の元 ひずみ! X 通信路 (通信路容量C ) Y 出力アルファベット B={b1,b2,…,b|B|}の元 通信路が伝送できる1記号あたりの情報量(通信路容量C:ビット/記号)は 通信路の統計的性質(通信路行列)から求められる。 冗長性を付加して情報を伝送した場合に、伝送できる1記号あたりの 情報量(情報速度R:ビット/記号)も分かった。 情報速度R < 通信路容量C ならば、通信の信頼性を向上できそうだ! – では、どのくらい信頼性を向上できるのか? – R を C と比べて、どのくらい低くすれば良いだろうか? 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 6 通信路符号化定理 定理 7.4 [通信路符号化定理(Shannonの第2符号化定理)] 通信路容量がC である通信路に対し、R<C であれば、情報速度Rの符 号で復号誤り率がいくらでも小さいものが存在する。R>C であれば、 そのような符号は存在しない。 証明 [後半の証明] R>C であるとき、復号誤り率がいくらでも小さい符号が存在し たとする。このとき、この通信路を通してR(ビット/記号)にいくらでも近い情報速 度で情報が伝送されることになる。これは通信路容量C は、通信路で伝送しうる 最大の情報速度という定義に矛盾する。 [前半の証明] 略。ランダム符号化(受信空間からの独立な無作為抽出をM(=2nR) 回繰り返すことによりM個の符号語を選択する符号化)によりできる符号の復号誤 り率の平均が、符号語長nをn→∞ とすれば0に近づくことを示す。平均が0に近づ けば、平均以下のものが必ず存在するので、復号誤り率がいくらでも小さい符号 が存在する。 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 7 記憶のない通信路のランダム符号化指数 符号長を n→∞ とすると、いくらでも復号誤り率を小さくできることが判った。 それでは、符号長 n が有限であるとき、復号誤り率Pe はどのように 0 に 近づいていくだろうか? 定理 7.5 記憶のない定常通信路において、ランダム符号化により生成された符号 長n、情報速度Rの符号Cの復号誤り率の期待値EC( Pe(C)) は EC( Pe(C)) ≦ 2-nEr(R) を満たす。ただし、Er(R) はランダム符号化指数(random coding exponent)と呼ばれる関数であり、次式で定義される。 Er(R) = max{-ρR+E0(ρ, p)} 0≦ρ≦1, p ここに、p=(p1,…, pr) であり、 s r E0(ρ, p)=-log2 ∑ ∑ pi pij1/(1+ρ) である。 2015/07/3 1+ρ j=1 i=1 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 8 信頼性関数 系 7.1 記憶のない定常通信路において、復号誤り率が Pe ≦ 2-nEr(R) を満たす長さn,、情報速度Rの符号が存在する。 • ランダム符号化指数Er(R)はランダムに生成した情報速度Rの符号の復号誤 り率の期待値に対して成立 • 信頼性関数(reliability function) E(R): 情報速度Rのもっともよい符号の復号誤り率の収束速度を表す指標 -log 2 Pe* (n, R) E(R) = lim n®¥ n Pe* (n, R) は長さn、情報速度Rの符号における復号誤り率の最 ただし、 小値を表すものとする。 • Er(R)≦E(R) が成立 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 9 2元対称通信路に対するランダム符号化指数 p をビット誤り率とするとき、 ì ïï 1- R - 2 log 2 ( p + 1- p) Er (R) = í * p* 1- p* * ï p log 2 + (1- p )log 2 p 1- p ïî ただし R0=1-H(p1*) (0 £ R £ R0 ) (R0 £ R £ C) p p = p + 1- p Er(R) * 1 p* (p<p*<p1*)は R=1-H(p*) を満たす値。 R 図: 2元対称通信路の ランダム符号化指数 図に、p=0.01 のときの Er(R) を示す。 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 10 通信の限界(1) α記号/秒 情報源 S 符号化 情報源 符号化 β記号/秒 通信路 符号化 通信路 (通信路容量C ) 復号 あて先 情報源 復号 通信路 復号 図: 通信システムのモデル 情報源と通信路が与えられたとき、どこまで良い通信ができるだろうか? 図の通信システムにおいて、情報源のエントロピーは H(S) (ビット/情報 源記号)であり、通信路容量は C(ビット/通信路記号)である。さらに、情 報源から情報源記号が毎秒α個発生し、通信路では毎秒β個の通信路記 号が伝送されているとする。 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 11 通信の限界(2) このとき、情報源からは R=αH(S) (ビット/秒) の速度で情報が発生する。また、通信路容量は秒あたり C=βC (ビット/秒) となる。もし、 R<C ならば、任意に小さい誤り率で通報をあて先まで送ることができる。しかし、 R>C の場合は、ひずみが生じる。 情報源S の速度・ひずみ関数を R(D) (ビット/情報源記号)とし、 αR(D*)=C を満たす D* を考える。さらに、εを任意の正数とし、平均ひずみ d が D*+ε以下になるという条件の下で、情報源S の出力系列を符号化 するものとする。 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 12 通信の限界(3) このとき、1情報源記号あたりの平均符号長が R(D*) [>R(D*+ε)]より 小さく なるような符号化ができる。その際の情報速度をR(D*+ε) (ビット /秒)とすると、これは、 R(D*+ε)<αR(D*)=C を満たす。よって、情報源S からの通報をD* に任意に近い平均ひずみで 送ることができる。 定理 7.6 情報速度R(ビット/秒)で発生する情報を、通信路容量C(ビット/秒)の 通信路を介して送るとき、R<C であれば、任意に小さい誤り率で情報を伝 送できる。 また、R>C であれば、情報源の速度・ひずみ関数の値がR(D*)=C(ビッ ト/秒)を満たす D* に対し、 D*に任意に近い平均ひずみで情報を伝送できる が、 D* より小さい平均ひずみでは伝送できない。 2015/07/3 情報理論 講義資料 北海道大学 Hokkaido University 13 例題7.3 1, 0 を 0.2, 0.8 の確率で発生する記憶のない情報源からの通報を、 ビット誤り率が0.1 の2元対称通信路を通して送るものとする。 情報源は1秒に1記号を発生し、通信路も1秒に1記号を伝送する。 (すなわち、α=β=1) このとき、 R=0.7219 (ビット/秒) C=0.5310 (ビット/秒) となる。R>C であるから、ひずみなしには通報を送れない。 ひずみ測度としてビット誤り率を使うと、この情報源の速度・ひずみ関数は R(D)=H(PX(1)) − H(D)=H(0.2) − H(D)≒0.7219 − H(D) (ビット/秒) であるからR(D*)=Cとすれば H(D*)≒0.7219 − 0.5310=0.1909 よって D*=H −1(0.1909)=0.0293 したがって復号誤り率の下限は0.0293である。 2015/07/3 情報理論 講義資料
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