ネットワーク利用に関する 学内罰則規定のあり方

ネットワーク利用に関する
学内罰則規定のあり方
近藤 佐保子
重原 孝臣
手柴 将司
平岡 和幸
溝口 博
三島 健稔
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はじめに
• 学内規定における法律上の注意点
– 民法・憲法の関わり
– 刑法との関係
• 罰則規定試案と根拠
– 学内処分規定の具体例を提案
• 運用上の検討課題
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学則の性格
大学と学生=民法上の契約関係
民法上の契約自由の原則
契約の内容は当事者間で自由に定める
大学は自由に学則を設定
契約を結んだ学生側には遵守義務
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契約自由の原則に対する制約
(憲法=法体系上の最高法規)
国立大学
憲法の直接適用
↓
憲法に反する学則
=無効
私立大学
私人間適用はない
間接適用の可能性
民法90条
(公序良俗)違反
憲法の基本原理との抵触回避が必要
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憲法上の要請からの留意点
(1)表現の自由(憲法21条)
(2)思想および良心の自由(憲法19条)
(3)法定手続きの保障(憲法31条)
(4)プライバシーの保護(憲法13条)
(5)男女や民族などの差別の禁止
(憲法14条・民法1条の2)
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昭和女子大事件
最判昭49・7・19
(学則の憲法違反が争われた事例)
学生の学内外における政治活動を学則で制限
政治活動をした学生を退学処分
最高裁で最終的に大学が勝訴
・被告が私立大学なので直接適用がない
・社会通念上著しく不合理な制限ではない
憲法の間接適用
裁判官の判断により大学敗訴の可能性も存在
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学内の不正行為が法的責任を負うケース
1.無体財産権の侵害
2.肖像権ないしパブリシティ権の侵害
3.猥褻罪(刑法174条)
4.名誉毀損・侮辱罪(刑法230・231条)
5.電子計算機等使用詐欺罪(刑法246条の2)
6.電磁的記録毀棄罪(刑法258条・259条)
7.電子計算機損壊等業務妨害罪(同234条の
2)
8.不正アクセス禁止法違反(施行後)
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学内処分と法律の関係
学生も刑事上・民事上の法的責任を負う
法的評価からの独立
契約の自由の原則に基づいた処分規定の策定
—法の不備
—倫理問題に関する法制化の是非
法的評価への依存
法的評価が罪刑均衡の指針
→ 刑法の法定刑のアナロジーが適切
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刑罰の目的と組織内処分
私刑の禁止→国家以外に「刑罰権」はない
応報刑から教育刑へ
教育機関は教育目的をさらに重要視すべき
一般予防と特別予防
教育機関は特別予防を重要視すべき
社会の構成要素としての責任
セキュリティー確保のため処分規定は必要
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学内処分規定の根本的指針
(1)セキュリティ維持のため
ユーザの利用規定を整備
(2)利用規定の実効性担保のため
処分規定が必要
(3)処分規定の明確化
・規定された行為以外の不処罰
・規定の効力の不遡及
・罪刑の均衡の遵守
(4)組織に広い裁量権(民法上の契約)
・ただし憲法上の制約! → 基本的人権の遵守
(5)処分の目的は教育刑論
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量刑の方法と根拠
(一般組織に適用可能な基準)
憲法 > 刑法 > 学内規則
1.法律上に同様の処罰規定があるもの
→その法定刑を参考
2.法律上に類似の規定があるもの
→類似した規定の法定刑を参考+軽重を考慮
3.法律上の規定はないが
ネットワーク社会で重大な不正行為
→他の処分の軽重と重大性を比較して決定
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刑法のアナロジーとしての具体的量刑
(試案)
自由刑(懲役など)の期間を使用停止期間に比例
・期間の逆転は不適切
・逆転にはネットワークの特殊性からの根拠が必要
量刑の上限は機関の特殊性により決定
ex. 在学年数を超える長期の利用停止
→ ・量刑の差に応じた期間の圧縮
・利用資格剥奪などへの転換
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処分される行為
参考条文(法律のアナロジー)
電磁的記録の改竄・破壊
公文書等毀棄罪
私文書等毀棄罪
システム運用の障害となる行為 電子計算機等使用業務妨害罪
著作権侵害
著作権法 119 条
他人の誹謗中傷行為
名誉毀損罪
侮辱罪
不正アクセス禁止法
情報の不正入手
国家公務員法
パスワードの解析・盗用
個人情報の暴露
組織の利用目的以外の行為
契約不履行
(民法上)
その他法律で処罰される行為
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処分される行為
処分の内容
(利用停止期間)
下限
上限
電磁的記録の改竄・破壊
1月以上 7年以下
システム運用の障害となる行為
3月以上 5年以下
著作権侵害
3月以上 3年以下
他人の誹謗中傷行為
1月以上 3年以下
パスワードの解析・盗用
1月以上 5年以下
個人情報の暴露
1月以上 5年以下
組織の利用目的以外の行為
1月以上 有期の上限
その他法律により処罰される行為 1月以上 有期の上限
利用資格の剥奪
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処分の軽重比較
1月
3月
1年
3年
5年
7年
10年
改竄破壊
運用障害
著作権
誹謗中傷
パスワード
個人情報
法の不備
プライバシーの
重要視
他目的
他の犯罪
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量刑に関する補足と問題点
補足事項
・累犯の加重(ex.利用資格の剥奪)
・行為者の情状による酌量減刑
・処分期間終了時の監察指導期間制度
問題点
・法律上の量刑のアナロジー
アナロジーの遠近の差異(測定が困
難)
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検討事項
(1)刑法のアナロジーとしての
規定時の注意
(2)規定の具体性の是非
(3)運用上の指針
(4)規定の学内における位置付け
(5)学外における公的判断との関係
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(1)刑法のアナロジーとしての規定時の注意
行為類型の原則は故意犯・作為犯・既遂犯
過失犯・不作為犯・未遂犯の処分
→罪刑法定主義からは明文化すべき
ex. 掲示板の管理の怠慢(管理義務違反)
そのため不適切な書きこみを放置
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(2)規定の具体性の是非 (a)
A.) 詳細に具体的事項を規定
(利点)
・罪刑の均衡を保障
・公平な処分が可能
(欠点)
・処分が硬直化
予期しない事態への対応力が鈍化
法技術上の技巧的調整が必要
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(2)規定の具体性の是非 (b)
B.) 包括的な規定にとどめる
(利点) ・公序良俗などの一般条項でカバー
流動的な運用が可能
・憲法と法律、学則に則った解決が
実現可能
(欠点) ・運用の適性への依存が大きい
学生の人権を侵害する危険性
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(3)運用上の指針(厳格か寛容か) (a)
A.) 厳格な規制を加える
(利点) ・当座のセキュリティ維持には有効
(欠点) ・利用範囲が狭まり、萎縮
“本当に危険な行為“が分からない
パワーユーザーのような人材が
育ちにくい
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(3)運用上の指針(厳格か寛容か) (b)
B.) 規定を最小限にとどめる
(利点) ・広範な利用が確保
自らの体験を通したネットワーク社会の体得
パワーユーザのような人材育成に有効
(欠点) ・実際に不正行為が行われる可能性は増加
管理者が不正行為に対するリスクを負う
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(4)規定の学内における位置付け
学則との関係
退学・停学は学部教授会の専権事項
ネットワーク管理組織の決定権は管理措置まで
専門的な知識を持った諮問委員会を設置
管理組織に対して→管理措置を提言
学部教授会に対して→学則上の処分を提言
諮問委員会と学部教授会のパイプが重要
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(5)学外における公的判断との関係
学生の学外での裁判を受ける権利
ex.学内で処分するなら提訴しないという申し入れ
学生が応訴を希望している場合が存在
・学生の裁判を受ける機会の尊重が必要
(機会の剥奪は憲法違反の可能性)
・web上からの削除は表現の自由の侵害・
民法上の不法行為の可能性
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まとめ
ー学内処分規定はどうあるべきかー
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法的性格=民法上の契約+憲法上の制約
罪刑均衡から法定刑のアナロジーが適切
組織の存在目的から修正
運用上の指針・方針(具体的な規定?)
上位規程との関係
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今後の課題
ー利用規定と運用規定ー
利用規定(ユーザ側)
運用規定(管理者側)
↓
表裏一体となって機能
ユーザ側の利用規定を考察
対となる管理者側の管理・運用規定が必要
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