地球惑星科学II 地球温暖化(3/3)

地球惑星科学II
気候変動と地球温暖化(3/3)
北海道大学・環境科学院
藤原正智
http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/
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気候変動と地球温暖化(3/3)
• 地球温暖化:今後の課題
– 気候工学(ジオエンジニアリング)
• (「数値モデリングの課題」、「観測の課題」については、
http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/edu/chigaku2011/ に置いて
ある本日分の講義資料(pptx/pdf)の一番後ろにあります)
• 本講義のまとめ
• レポート課題(再連絡)
• 今日の配布資料:
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講義資料
気候工学(ジオエンジニアリング)に関するアンケート用紙
授業アンケート用紙
ミニレポート用紙
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(復習)地球温暖化: 人間による“気候改変”?
★結論
以上の、最新の気候モデルを用いた注意深い数値実験により、
20世紀の温暖化は、人間活動起源の温室効果気体の増加の効果が、
自然起源の効果(や人間活動起源エアロゾル増加の効果)を上回った結果である
ことが、示された。
さらに、最新の気候モデルが20世紀の気候変化を再現できること、従って、
将来の気候変化を推定(projection)する能力があることも、示された。
[IPCC, Climate Change 2007, Cambridge]
1950年前後の低下: 第二次大戦後の産業発展・大気汚染激化太陽放射の入射量減少
3
(復習)最新(2007年度版)の将来予測
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全球地表気温の上昇(100年後): 2.4~6.4℃(A1F1)、 1.7~4.4℃(A1B)、1.1~2.9℃(B1)(確率66%)
海洋の熱塩循環が弱まる(グリーンランドと南極の周りでの沈み込みが弱まる)
北半球高緯度地域の冬で、雪や氷が減り、気温上昇が大きくなる
•
降水量は地球全体では増加(水蒸気量増加するため)。中高緯度で特に増加。熱帯太平洋はおおむ
ね増加、ただし、熱帯の陸域ではモデルにより違いが大きい。亜熱帯では減少(ハドレー循環の強化、
傾圧帯がより高緯度へシフト)。
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“異常気象”(定義は、“30年に一度の現象”):
異常に暑い夏が増え、異常に寒い冬が減る
大雨・豪雨が増える(平均的には降水量が減るような地域でも)
異常な乾燥、旱魃が増える地域が出てくる
•
日本では:
•
オホーツク海付近が高圧傾向となり、熱帯太平洋はエルニーニョ的となり、長梅雨・冷夏になることが
多くなる(とはいえ、平均すれば昇温)
•
台風(ハリケーンやサイクロンも含めて)の発生数は減るが(熱帯では大気上層がより温まり安定化す
るため)、強いものの数は増える(水蒸気量増加するため)
•
海面上昇は、むこう100年で18~59 cm(過去100年で17 cm)(ただし、南極氷床の理解不十分)
[江守正多、地球温暖化の予測は「正しい」か?不確かな未来に科学が挑む、化学同人]
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(復習)なぜ地球温暖化に「対策」が必要なのだろう?
• オゾン層破壊対策の経緯を振り返ってみると:
– 科学的理解社会合意・国際合意対策開始(1987)効果
(2000~2010頃最悪、2040~2070頃元に戻るはず)
– 社会の理解・合意には時間が必要; 気候システムには慣性があ
る(フロンの大気中での寿命) 本当に悪い状況になってからでは
遅すぎる
– 科学的に不確かな点があっても、環境に重大かつ不可逆な影響を
及ぼす恐れがある場合には、規制措置等の対策をとる: 「予防原
則」という考え方
• 地球温暖化
– エネルギー消費等、現代文明・現代社会のシステムの根幹に関わ
る問題
– 昇温は「産業革命前を基準に2℃」に抑えることが望ましい、としば
しば言われる: 現代文明システムの維持とそのコストという観点
からの合意(あるいは、ひとつのスローガン)
– (日本1億3000万人:先進国、少子高齢・人口減少 世界70億人
の視点で考える必要あり…日本の生活レベルを目指している人々
が数十億人いる)
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地球温暖化:今後の課題
気候工学(ジオエンジニアリング)
• たとえば、「全球地表気温の上昇(100年後): 2.4~6.4℃(A1F1)、 1.7~
4.4℃(A1B)、1.1~2.9℃(B1)(確率66%)」について、「10℃上昇もありう
る」という見方も出来る
• 国際社会の温室効果ガス削減に関する協議はあまりうまくいっていない
(新興国に排出削減義務がない京都議定書(1997)は有効でない、温暖
化に関する外交交渉は国益を背負った経済競争である、等々)
• 今後、急激な温暖化が顕在し、従来議論されてきたような「緩和策」、「適
応策」では現代文明の維持が間に合わなくなる可能性がある
• 大気中に排出されたCO2は100年~1000年程度は大気中に残るし、海洋
の熱慣性により温暖化分は簡単には消えない(cf. オゾン層破壊問題)
 積極的な気候の制御法・地球の冷却法について、検討・研究だけでも進
めておくべきではないか?
 ジオエンジニアリングという考え方が、SFの世界からサイエンスの表舞台
に出てきつつある (特に、2006年のPaul Crutzenによる成層圏に硫酸エ
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アロゾルを撒く“Pinatubo Option”に関する論文を契機として)
(参考)「適応策」と「緩和策」の例
•
適応策(気候の変化に対して現代社会の様々なシステムを変化させ、適応する)
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水: 雨水収集の拡大、水貯蔵と節水の技術、等々
農業: 作付け時期と品種の調整、作地の移動、等々
インフラ・居住地: 居住地の移動、護岸堤や高潮バリアの設置、等々
健康: 暑さ対策の行動計画、緊急医療サービス、等々
ツーリズム: アトラクションや収入の多様化、スキーゲレンデの高緯度地域や氷河への移動、
等々
– 運輸: 輸送網の再編成・再配置、等々
– エネルギー: 高架送電や配電インフラの強化、地下ケーブルの設置、省エネルギー、再生可能
エネルギーの利用、単一エネルギー源依存の低減
•
緩和策(温室効果ガス削減について大きな可能性のある技術)
– エネルギー供給: エネルギーの供給・流通効率の改善、石炭からガスへの燃料転換、原子力発
電、再生可能なエネルギー(水力、太陽光、風力、地熱、バイオエネルギーなど)、二酸化炭素の
回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage, CCS)、等々
– 運輸: 低燃費の車、ハイブリッド車、等々
– 建築: 省エネタイプの照明・太陽光の取り入れ、省エネタイプの電気器具及び冷暖房設備、等々
– 産業: 省エネタイプの電気器具、廃熱・未利用電力の回収、等々
– 農業: 土壌の炭素貯留量の増加に向けた耕作地及び放牧地の管理方法の改善、等々
– 林業/森林: 新規(再)植林、森林管理、森林破壊の抑制、等々
– 廃棄物: 廃棄物埋立地から発生するメタンガスの回収、廃棄物焼却に伴うエネルギー回収、
等々
•
(上記緩和策に対して、気候工学は直接気温あるいは大気中CO2濃度をコントロール
しようとする技術群。なお、新規(再)植林は気候工学的ではあるが、最近の「気候工
学には含めない」)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/ar4syr.pdf
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気候工学(Climate Geoengineering)
左図は、やや昔(2001年)の気候工学的手
法のまとめ図である。最近では、大きく2種類
の手法群として整理されている。
(1)太陽放射管理
(Solar Radiation Management, SRM)
・成層圏エアロゾル注入
・低層雲の反射率増加
・(cf. 大気汚染)
(2)CO2除去
(Carbon Dioxide Removal, CDR)
・鉄散布による海洋肥沃化
・CO2直接空気回収
[ Shapiro et al. 2010 BAMS “An Earth-System Prediction Initiative for the Twenty-First Century”]
参考文献:
• 杉山昌広、気候工学入門 新たな温暖化対策ジオエンジニアリング、日刊工業新聞社, 160 pp.、2011年5月
• 杉山昌広、西岡純、藤原正智、気候工学(ジオエンジニアリング), 天気(日本気象学会機関誌), 58, 577-598,
2011. <http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2011/2011_07_0003.pdf>
太陽放射管理:成層圏エアロゾル注入
大規模火山噴火により成層圏内の硫酸エアロ
ゾル粒子が増大すると、太陽光を反射するため、
数ヶ月~一年程度、全球平均気温が低下する
とされる。
同様の効果を期待して、硫酸エアロゾル粒子、
スス、ダスト、アルミ酸化物等の微粒子を成層圏
に航空機・ロケット・気球その他の方法により、
連続的・断続的に注入する。
どのような粒径・物質を注入するか太陽光反射
効率、滞留時間(寿命)、つまり効果を左右する。
考えられる副作用
・効果が全球一様には出ない(温室効果は全球
一様だが、太陽放射量には緯度分布、季節
分布があるため)
・地表への太陽入射量が減ると、地表からの
潜熱(水蒸気)フラックスが減る。従って、
全球の水循環を弱める。特に、陸域で降水
量が大きく減る可能性が示唆されている。
・オゾン層破壊が促進される。
・やめられなくなる。(いずれにせよ温室効果
ガスの削減は進める必要がある。)
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杉山昌広、気候工学入門 新たな温暖化対策ジオエンジニアリング、2011
太陽放射管理:低層雲の反射率増加
もともと、亜熱帯太平洋東部・大西洋東部上空に
広がる層積雲は、太陽放射を反射して地球を
暖まらないようにしている。この効果を強める。
雲凝結核として働く海塩粒子を特殊船で巻きあげる。
杉山昌広、気候工学入門 新たな温暖化対策ジオエンジニアリング、
2011
問題点:
成層圏エアロゾル注入に比べて、地域によりはるかに
非均一な影響が出ると考えられている。また、雲の
数値モデリングは不確かさが依然として大きいため、
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評価がより難しい。
CO2除去:鉄散布による海洋肥沃化
海洋学の謎(1980年代):
南極海、北部北太平洋、東部太平洋赤道
域は、窒素・リン・ケイ素等の主要な栄養塩
が十分存在しているのに、なぜ植物プラン
クトンの増殖が低レベルにあるのか?
海洋は鉄不足であり、そのためではない
か。さらに、過去の気候(大気CO2量)を
制御していたのも、ダストによる南極海へ
の鉄供給量ではないか: 「鉄仮説」
(植物プランクトンが増殖し、光合成を活発
化し、さらにプランクトンの死がいが(微生
物に分解されずに)海底に沈むことで、
CO2が大気から除去される: 「生物ポンプ」)
「海洋生態系にとって鉄は本当に重要なの
か」という純粋な科学的興味により、13回
の国際的な海洋鉄散布実験が実施された。
しかし、後半からは「炭素固定量の増加を
観測で直接とらえられるか」という動機が
強くなってきて、「気候工学の予備実験」の
様相を呈してきた。その結果、環境保護団
体が活発な妨害活動を行うようになり、
また、国際条約においても、事実上(純粋
な科学実験であっても)鉄散布実験はでき
ないように規制が設けられた(2010年)。
杉山昌広、気候工学入門 新たな温暖化対策ジオエンジニアリング、2011
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CO2除去: CO2直接空気回収
CO2を直接空気から回収する技術も開発されている。
(宇宙ステーションや潜水艦などの閉鎖系では実際にCO2回収技術が用いられている。)
工学プラントで(例えばアルカリ性のNaOH溶液で吸収して)空気から直接回収し、濃縮した後に、
発電所などで想定されているCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と同様に地下の
帯水層などに貯留する。
欧米では大学・研究所等で研究開発が進められており、ベンチャー企業もいくつか立ちあがっている。
発電所の排ガスに比べて大気中のCO2濃度はずっと低いので、効率が極めて悪い可能性がある。
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杉山昌広、気候工学入門 新たな温暖化対策ジオエンジニアリング、2011
気候工学に対する慎重論・反論
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現状の科学的知見では、効果や副作用などの多くが未解明であり不確かさが大
きすぎる。「研究」は支持するが「実施」は支持しない。
コンピュータを用いた研究はよいが、自然環境内における大規模実験は小規模
「実施」と同等であり、上記の懸念があてはまる。
気候工学の考え方が広まると緩和策への動機が薄れる(モラル・ハザード)
大規模プログラム(ここでは気候工学研究)は、既得権益となり、自己目的化して
継続してしまう性質がある
歴史的には失敗に終わった気象改変プロジェクトは多数ある。(気候工学も同種
である。)
先進国が研究を主導することで気候を制御する権利を実質的に得れば、作用・
副作用等を大きく被りうる途上国との間に公平性の問題が生じる
地域により異なる「最適な気候」を誰がどのようにして決めるのか
人間が神のように意図的に気候改変を行うことは倫理的に許されるのか
実施の費用が安いとされる技術もあり、一部の国家や資産家が国際的合意なし
に実施できてしまうおそれがある
現代文明は(あるいは人類は)、常に問題を「技術的に」解決しようとしてきた。
前に進むしかないのであれば、研究と実施のガバナンス(統治。市民・民間機関・国家・国際
機関など多様な主体の意見を政策形成の過程で取り入れる仕組み)を積極的に構築し、国際的合意・
民主的合意(専門家だけでなく市民による合意)のもとに進める体制を整えるべきであろう。
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本講義全体のまとめ
講義内容
1. 地球の概観(ガイダンス)
2. 宇宙論-自然哲学から自然科学へ
3. 宇宙論(2/4)
4. 宇宙論(3/4)
5. 宇宙論(4/4)・太陽の科学
6. 比較惑星学
7. 気象学事始(1/3)
8. 気象学事始(2/3)
9. 気象学事始(3/3)
10. オゾンホール
11. 海洋学事始(1/2)
12. 海洋学事始(2/2)・東日本大震災
13. 気候変動と地球温暖化(1/3)
14. 気候変動と地球温暖化(2/3)
15. 気候変動と地球温暖化(3/3)
10/27: 米国Denver出張のため休講
講義資料:
http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji
/edu/chigaku2011/
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宇宙や地球の様々な現象を学びました
身近な現象、よく話に聞く現象であっても、
本当によく理解していたでしょうか?
世の中の複雑さ、および、それを解きほぐ
していくやり方・考え方
宇宙あるいは環境: 人類はどのような経
緯をたどって理解を深めてきたのでしょう
か?(人類による理解の歴史)
宇宙や環境をどう理解するか、つまり、ひ
るがえって、人類・我々自身をどう理解す
るか
環境問題とは何か(人類の存在の問題で
はなかろうか)
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連絡:レポート課題
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対象: 全員
提出期限・提出場所:
2月2日(木)16:00まで。全学教育事務室・教務課「レポートボックス」“藤原正智”
テーマ: 地球惑星科学IIの講義に関連するものを各自自由に選ぶ(迷う場合は事前に相談のこと)
講義資料websiteを参照のこと:http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/edu/chigaku2011/
用紙・ページ数:
A4紙1枚を両面使用する(表裏2ページ)。
パソコン・手書き:
パソコン・ワープロでも手書きでもどちらでも構わない。(ただし、手書きの場合、
文字が読みにくい・判読しにくい場合はどうしても評価が下がらざるを得ないことに注意。)
書式:
タイトル
名前・学部・学籍番号
本文(適宜、小見出しをつける)
図や表を入れる場合は、番号(図1、図2、表1、表2. . .)をつけ、
キャプション(図表の説明)もつけること
引用文献や参考資料(websiteのURLなど)のリスト
なお、引用文の書き方、引用文献リストの書き方については、適宜手持ちの教科書等を
参考にすること(ものにより書式は微妙に異なるが、どれかに統一すればよい)。
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補足
• 地球温暖化:今後の課題
– 数値モデリングの課題
– 観測の課題(特に高層気象観測)
• これらについては、以下の資料の17ページ以
降を見てください
– http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/edu/chigak
u2011/Lec.chigaku.2011.15.pptx
– http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~fuji/edu/chigak
u2011/Lec.chigaku.2011.15.pdf
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地球温暖化:今後の課題
(1)数値モデリングの課題
• 予測のターゲット(これまでは“100年”=人の一生)
– 近未来予測: 20年先を予測し、社会が適応する方法を考え
る(防災インフラ、農業等)
– 長期予測: 2300年(“人類”の時間スケールで、気候安定化
目標(温室効果ガス排出削減の目標)の妥当性を検証)生
物化学過程を組み込んだ地球システムモデル
• 数値モデルの高精度化
– パラメタリゼーションとチューニングの問題
– 現在導入されていない過程の導入
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パラメタリゼーションとチューニングの問題
計算機の能力には必ず限界があり、
格子点間隔は無限小には取れない
(水平100~30km)
一方で、気象現象のうち、
積雲対流(潜熱)、雲粒子・エアロゾル、
放射過程、乱流渦などは、
気象・気候に大きな役割を果たすが、
上記の格子サイズよりスケールが小さい
格子点間隔のデータで、これらの統計的な
効果を表現する「パラメタリゼーション」
という手法を使う。
しかし、完全に物理法則で記述している
わけでなく、経験の要素がある
 より高分解能化することで(計算機の能力
を向上させることで)解決に近付くものもある
(チューニングパラメターが存在)
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現在導入されていない過程の導入
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炭素循環(海洋と陸域生態系によるCO2吸収量の変動)
植生・生態系(生物化学過程)
大気化学(大気汚染物質・エアロゾルの変動・変化が熱収支に与える影響)
成層圏の表現の高度化
放射過程の3次元化(雲の3次元構造の考慮)
エアロゾル粒子・雲・放射相互作用(下図)、、、などなど
[IPCC Fourth Assessment Report (AR4), Climate Change 2007,
Working Group I Report "The Physical Science Basis“]
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地球温暖化:今後の課題
(2)観測の課題(特に高層気象観測)
•
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我々は、過去・現在の観測システムに満足しているか?
実は、従来の気象観測にも衛星観測にも重大な問題がある
(ここでは特に、高層気象(上空大気)の観測に話を絞る)
これまでの気象観測(~100年の歴史)は、気候変動の監視では
なく天気予報(つまり天気変化の監視)を主目的としてきた
• (中高緯度の高気圧・低気圧に伴う変動は数日で数℃だが、気候
の変動はたとえば10年で0.1℃)(注:「地球温暖化」の研究が活発
化したのは最近20年強)
• ~100年の歴史の中で(現在においても)、観測測器の改良が継
続的に行われており、それに伴って、記録の連続性に問題が生じ
ている
• この「記録の不連続性の問題」は、天気予報にはそれほど問題で
ないが、10年20年で小さな(測定の不確かさをわずかに超えるよう
な)変化を検出しようとする気候監視には重大な問題である 20
高層気象観測機器の問題
Vaisala RS92-SGP
Meisei RS-06G
気温センサー:
日中は太陽放射によりセンサーが加熱されてしまう。
(この加熱効果は周囲の空気密度が小さいほど大きい。)
 周囲の空気の温度(=気温)より高い値を示してしまう。
 この人工的な昇温値を見積もって補正している。
GRAW DFM-06
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高層気象観測機器の問題
世界各地の高層気象観測所で
過去数十年にわたり起こってきたこと
・メーカーが新しいモデルを開発し、
古いモデルを生産中止として
新しいモデルを納品するようになる
・観測所において使用する観測システム
のメーカーを変更する
・ある日ある時から、観測に使用する
測器を新しいモデルあるいは別の
メーカーのものに変更
・その変更の情報が、記録されていない
あるいは記録が他の人に容易
に利用可能な状態になっていない
観測データの時系列図を作成して
みると、階段状変化としてみえる。
気候研究の観点からゆゆしき事態
Lanzante et al. [Journal of Climate, 2003]
による客観的手法と主観的手法を組み合わせた
“changepoint”決定法
-鹿児島観測所の気温データの例-
1957年と1993年に地表気温に大きな変化
 1957: 世界的な観測時刻の3時間変更
 1993: 著者ら(米国人)は情報(メタデータ)がない
と書いているが、気象庁によるとセンサー
のモデル変更
(赤の縦線はなんらかのメタデータがあった箇所)
(黒丸は今回彼らの手法でch.pnt.と判定された箇所)
22
[Seidel et al., Bulletin of the American Meteorological Society (BAMS), 2009]
上空の気温の1979-1999におけるトレンドの比較
5つのラジオゾンデデータセット(“changepoint”補正): Thorne et al. (2005a), Free et al. (2005),
Haimberger et al. (2008, two datasets), and Sherwood et al. (2008)
3つの人工衛星(MSU)データセット(補正):
Mears and Wentz (2005), Christy et al. (2003), and Vinnikov et al. (2006)
(T2: 対流圏ただし下部成層圏の影響あり。 T2LT: 下部対流圏)
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左図:ラジオゾンデ放球の様子。 右図:人工衛星(Polar Operational Environmental Satellite, POES)
通常の高層気象観測機器では、
上部対流圏・下部成層圏の
水蒸気は測定できていなかった
(1990年代になってから広く
認識されるようになる)
オクラホマ(USA)における同時観測例
赤: 高精度水蒸気センサー
“Snow White”
青: 高層気象観測用センサー1
(carbon hygristor)
緑: 高層気象観測用センサー2
(Vaisala RS80-H)
[Seidel et al., BAMS, 2009]
天気予報の観点からは、上部対流圏・下部成層圏の水蒸気測定は重要でないとされている
しかし、上部対流圏の水蒸気は放射収支に大きな影響がある
下部成層圏の水蒸気はオゾン層変動に大きな影響がある
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(なお、水蒸気は強力な温室効果ガスだが、海という巨大な貯水池があり、人間が直接コントロールするものではない)
GCOS Reference Upper-Air Network
(GRUAN)
• GCOS : Global Climate Observing System
• (世界気象機関WMO + 国連教育科学文化機関UNESCO + 国際海洋
委員会IOC + 国連環境計画UNEP + 国際科学委員会ICSUのもとにあ
るプログラム)
• “気候監視”のための高層気象観測ネットワーク(cf. “天気予報”)
• 気温、水蒸気、気圧(高度)、水平風、および他の気象量・大気組成
• 高性能ゾンデ(ゴム気球搭載機器)観測を主体とし(直接測定がや
はり最も信頼性が高い)、各種地上リモセン機器を組み合わせる
• 長期間にわたり高精度な(精度の情報を付加した)対流圏・下部成
層圏データを(各種メタデータ付きで)供給する
• 将来的に全世界に30~40地点程度の観測点を確保する
• より密な全球観測システムである人工衛星観測や現在の高層気象
観測ネットワーク(GUAN)や、再解析に校正データを提供する
• ドイツ気象局の Lindenberg観測所をLead Centreとする
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GRUANの観測所のイメージ
Fig. 1. Schematic diagram showing some required measurements for a generic GRUAN station. The first priority includes surface and
reference upper-air meteorological variables and total column water vapor from ground-based Global Navigation Satellite System
(GNSS) receivers. The second priority includes wind profiles, surface radiation parameters (ideally as measured by the GCOS Baseline
Surface Radiation Network), temperature and water vapor from a ground-based remote sensor such as a microwave or multichannel
infrared radiometer, water vapor and cloud information from ground-based lidar, and total column and profile measurements of ozone,
methane, and aerosols. Third and fourth priority variables [not illustrated here; see GCOS (2007)] include carbon dioxide profiles
26and
detailed cloud and hydrologic variables.
[Seidel et al., BAMS, 2009]
現在のGRUAN観測所(今後30~40地点に拡大)
[Report of GRUAN ICM-2,
GCOS 140 (WMO/TD No. 1526), 2010]
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GRUANの経緯と今後
•
•
1980年代後半:地球温暖化問題が広く認識され •
始める
1990年代:既存の高層気象観測データの利用
•
問題発覚
•
2003年ごろから具体的な検討始まる
•
White paper for WMO/GCOS by Kevin Trenberth •
in 2003
White paper by Dian Seidel of NOAA in 2004
•
•
•
2005年2月:Boulder会議
2006年5月:Seattle会議
•
•
•
•
•
2006年8月:Working Group(作業部会)結成
2008年2月:ドイツLindenbergにLead Centre開設、
Lindenberg会議
2009年3月:米国Oklahoma会議(ICM-1)
2010年3月:スイスPayerne会議(ICM-2)
2010年7月:CIMO/GCOS 高層気象観測用機器
の比較観測キャンペーン(中国・広東省・陽江)
2011年3月:GRUAN観測開始・ニュージーランド
会議(ICM-3)
2012年3月:東京会議(ICM-4)
2014年:GRUANフル稼働予定
藤原正智, 「気候監視のための新しい高層
気象観測ネットワークGRUAN」, 天気(日本
気象学会機関誌), 58, 679-695, 2011.
<http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2
011/2011_08_0003.pdf>
GRUANのWorking Group(作業部会)メンバー(2008年2月・Lindenberg)
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