出張報告会 京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 物理学第一教室 光物性研究室 D1 渡邊 浩 開催期間 2006年6月25日~6月30日 開催場所 Wake Forest大学 Winston-Salem ノースカロナイナ州 アメリカ合衆国 参加者 日本、アメリカ、ヨーロッパなどから約100名 発表題目 Photo-induced spin-state dynamics near the thermal phase transition temperature in the spin-crossover complex EXCON トピック 励起子(超高速分光、THz分光、ナノ構造など) 光生物・化学 量子もつれ 光誘起相転移 など オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパ、日本で2年毎に開催 1. Darwin (Australia, 1994) 2. Kurort Gohrisch (Germany, 1996) 3. Boston (USA, 1998) 4. Osaka (Japan, 2000) 5. Darwin (Australia, 2002) 6. Cracow (Poland, 2004) 7. Winston-Salem (USA, 2006) 8. Kyoto (Japan,2008) 光誘起相転移現象 光照射がトリガーとなって巨視的領域の性質を変える現象 閾値特性や孵化時間、ドミノ効果といった非線形な振る舞いが見られる。 サイト間の協力的相互作用が大きな役割を果していると思われる。 TTF-CAやプルシアンブルー錯体、スピンクロスオーバー錯体などで観測される。 ドミノ効果 二価鉄スピンクロスオーバー錯体 低スピン相(S=0) 高スピン相(S=2) N N 光照射 Fe2+ Fe2+ 温度変化 Eg Eg 10Dq 10Dq S=2 T2g 1A 1 S=0 T2g 5T 2 S=2 鉄イオンの周りに窒素を含む分子が立方対称に配位しその結晶場でd電子軌道が分裂 熱的相転移と光誘起相転移 1T (Ⅰ) (Ⅱ) kBT<Ea 光誘起 高スピン相 1 kBT>Ea 熱的相転移 高スピン相 現象 0 1T 2、 3T 1 などの中間準位 H 5T 1A 2 1 光 Ea 光照射 ⊿HHL ? LIESST 現象 低スピン状態 γ 高 ス ピ ン 割 合 (Ⅲ) 1、 高スピン状態 Fe-N間の距離 低スピン相 DHHL>DSHLT DHHL≈DSHLT 温度T DHHL<DSHLT ⊿HHL=HHS-HLS > 0 ⊿SHL=SHS-SLS > 0 ⊿GHL=⊿HHL-T⊿SHL Photo-induced spin-state dynamics near the thermal phase transition temperature in the spin-crossover complex Hiroshi Watanabea, Gábor molnárb, Azzedine Bousseksoub, and Koichiro Tanakaa aDepartment of Physics, Kyoto University, Japan, bCNRS, France スピンクロスオーバー錯体[Fe(ptz)6](BF4)2 disordered R3 Fe(ptz6)(BF 4)2 Rhombohedral (R3) 0.8 0.6 0.4 125K irradiation High High Spin Spin fraction fraction 1.0 138K 0.2 disordered R3 Fe(ptz Fe(ptz 6)(BF 6)(BF 4)42)2 0.0 50 100 150 200 250 Temperature(K) 熱的相転移は構造相転移によって引き起こされる [1]. 光誘起スピン転移は構造相転移を伴わない [2]. 目的 熱的相転移点近傍での光照射効果を明らかにする。 [1] A. Hauser Coord. Chem. Rev 190/192 (1999) 471. [2] N.O.Moussa et al.CPL 402 (2005) 503. [Fe(ptz)6](BF4)2の吸収スペクトル 吸収スペクトル Pump laser: Nd:YAG laser (CW,λ=532nm,3W/cm2) 580nm 532nm 1A →1T 1 1 1A 1 1→ T1 Probe light : Halogen lamp (580nm) αLS 5A →5E 5A1 →5E 1 α αHS 580nmの吸光度の変化から高ス ピン割合を見積もることができる。 HS LS 1 過渡吸収測定 Laser on Laser off Intermediate state [Fe(ptz)6](BF4)2 125K Photo-excited state final state 指数関数的な生成過程と二段階の緩和過程が観測された。 中間状態からの緩和はS字型でありFeイオン間の弾性的相互 作用が働いていることを示している。 二段階緩和ダイナミクス Photo-excited state(■) Photo-excited Photo-excited state(■) state(■) Intermediate state(▲) Intermediate state(▲) Intermediate state(▲) τ FinalFinal state(●) state (●) Final state(●) 中間状態(▲)を経由した2段階緩和が観 測された。 この中間状態はどういった状態であるの だろうか? High Spin fraction 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 115 120 125 130 135 Temperature(K) 140 Discussion それぞれの状態の高スピン割合の温度依存性を示す。 中間状態(▲)は122Kでスピン転移をしていると思われる。. 1.0 122K High Spin fraction 0.8 0.6 0.4 Thermal hysteresis final state intermediate state photo-excited state 0.2 0.0 115 120 125 130 135 Temperature(K) 140 145 中間状態の寿命 緩和時間の温度依存性 700 600 Low spin state High spin state 500 (s) 400 300 200 100 0 118 120 122 124 Temperature(K) 126 128 122K以下の低スピン状態では温度が下がるにつれと寿命が長く 122K以上の高スピン状態では温度が上がるにつれ寿命が長くなる Discussion 中間状態 (▲) は 降温時のヒステリシスループ(+) に似た振る舞いをしている。 ヒステリシスの上側ブランチは下側ブランチに緩和するのだろうか? 1.0 High Spin fraction 0.8 ? 0.6 0.4 Thermal hysteresis final state intermediate state photo-excited state 0.2 0.0 115 120 125 130 135 Temperature(K) 140 145 磁化率測定による緩和ダイナミクス Estimate from χT High Spin fraction 1.0 Fe(ptz)6(BF4)2 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 115 thermal hysteresis relaxation 120 125 130 135 Temperature(K) 140 145 131.5K以下では高スピン状態は低スピン状態に緩和した。 131.5K以下では高スピン状態は過冷却状態であるといえる。 過冷却状態からの緩和ダイナミクス [Fe(ptz6)](BF4)2 0.8 0.6 τ1/2 132K 131.5K 131K 130K 129K 128K 127K 0.4 0.2 0.0 10 2 2 3 4 5 6 7 3 10 2 3 4 5 6 7 Time(s) S字型の緩和が観測された。これは鉄イオン間の 協力的相互作用が働いていることを示している。 また緩和時間は温度の上昇と共に長くなった。 10 2 4 3 4 5 6 7 132K 1.0 High Spin fraction High Spin fraction 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 115 120 125 130 135 Temperature(K) 140 臨界緩和現象 Relaxation time 臨界緩和現象 1 D Tc T Tc=132.6K±0.4K 122K Δ=2.8±0.5 ▲ intermediate state +. thermal hysteresis loop 132.6Kで緩和時間が発散する臨界緩和現象が見られた。 122K以上では中間状態と過冷却状態は同じ振る舞いをしている。 スピン転移と構造相転移 中間状態(▲) はR3の構造を持っていると思われる。. 光励起状態(■) はdisordered R3の構造を持っていると思われる。 122K 1.0 132.6K disordered R3 R3 High Spin fraction 0.8 R3 0.6 0.4 R3 Thermal hysteresis final state intermediate state photo-excited state 0.2 disordered R3 0.0 115 120 125 130 135 Temperature(K) 140 145 まとめ HS state disordered R3 Above 122K Photo-excited state 122K Intermediate state Irradiation = Hysteresis loop Spin transition Spin phase-transition HS state, R3 Below 122K LS state, R3 Intermediate state LS state disordered R3 Final state Structural phase-transition 今後の課題 赤外領域の振動分光やX線散乱を用いて、結晶構造の相転移 ダイナミクスを観測する。 発表の成果 発表形式はOral Posterという形式で、小さな部屋で4つのセッションを並行して 行なわれました。多くの人に聞いてもらうため発表は2度繰り返して行いました。 午前の講演で光誘起関係の講演が多くあったこともあり、一度目は15人、二 度目は20人と多くの人に興味を持って聞いてもらうことができ、4つの質問をし ていただけたので、大変インパクトのある発表ができたと思います。 また共同研究を行なっているフランスのレンヌ大学のElżbieta Trzopさんとお 互いの研究についてディスカッションを行ないました。彼女は主にスピンクロ スオーバー錯体のX線構造解析を行なっており、今後は時間分解X線構造解 析を行なっていく予定なので、今後私の研究を進めていくうえで大きな収穫が ありました。 このように私が今後研究を進めていく上で大きな収穫があったといえます。
© Copyright 2024 ExpyDoc