「抜本的な」税制改革の議論 ~消費課税への移行と資本課税改革~ 日本経団連 21世紀政策研究所タスクフォース 「税制改革の国際的潮流と抜本的税制改革のあり方」 2008年3月5日 みずほ総合研究所 主任研究員 鈴木 将覚 「抜本的な」税制改革とは何か ○世界の潮流からみれば、「抜本的な」税制改革には2つの要素がある。 ①消費課税への移行:家計段階の資本所得税の撤廃、法人段階の設備投資の即時償却等。 (以下、消費を課税ベースとする税制を消費課税(Consumption Tax)、所得を課税ベースとする税 制を所得課税(Income Tax)と呼ぶ。税目としての「消費税」や「所得税」とは異なることに注意。) ②資本課税改革:資本課税の弱点克服、消費課税への動きと連動。 図表1 所得課税と消費課税 ○家計が賃金(W)と資本所得(R)を得て、消費(C)と貯蓄(S)に回す 状況を想定する。 C=W+R-S (1) ○課税ベースの違い: 所得課税の課税ベースは、W+R、C+S。 消費課税の課税ベースは、C(VAT)、W+R-S(支出税)。 1 直接税型の消費課税 ○Hall-Rabushkaのフラットタックスは、直接税型の消費課税。 ①個人に対しては、賃金(W)に累進課税。限界税率は家計部門、企業部門を問わず一律(約 19%)に設定されるが、個人に対しては人的控除によって累進性が確保される。 ②法人に対しては、「資本所得-投資」(R-I)に一律課税。同法人税は、設備投資が即時償却 される「キャッシュフロー法人税」。 ③家計部門の資本所得税は消滅。資本所得税は、企業段階で終了する。但し、「正常収益」には 課税しない。 ○Bradfordの「Xタックス」は賃金税に累進税率を適用。累進性を強化。 図表2 フラットタックスの課税ベース ○閉鎖経済を考えると、(1)において「I=S(投資=貯蓄)」より、(2)式が 成り立つ。 C=W+(R-I) (2) ○フラットタックスでは、賃金(W)に累進課税、「資本所得-投資」(R- I)に一律課税が適用される。 2 消費課税の特徴 ○効率性の観点 ①理論モデルでは、資本所得の最適税率はゼロまたは非常に小さい(Judd (1985)、Chamley (1986)、Erosa and Gervais (2002)等)。消費課税を支持。 ②実践的なモデル(55期間OLG等)による試算では、消費課税はより成長促進的である(JCT (1997)等)。 ○公平性の観点(遺産がない場合) ・ 公平の尺度を「生涯所得」で捉えると、消費課税の方が公平(「生涯所得」=「生涯消費」)。所 得課税は貯蓄に対してペナルティーを課す。 ○遺産がある場合 ・ 遺産も消費に含めて消費課税を課すのが公平。 (a)「一個人の生涯」を公平の基準とする場合 フラットタックス:「前払い方式」なので、非相続人は既に納税済み。相続人が「相続税」(賃金 税)を支払えば良い。 VAT:「後払い方式」なので、非相続人に「遺産税」(VAT)を課すべき。相続人は、消費した時点 で「VAT」が課せられる。 (b)王朝モデルの場合(無限に生きる個人を想定) フラットタックス:「前払い方式」なので、新たな課税は不要。 VAT:消費した時点で「VAT」が課せられる。 3 米国大統領税制諮問委員会案(2005年11月) ○2つの改革案のうち、1つが消費課税案(成長・投資税案)。Xタックスを基に作られた。 図表3 家計部門の税制改革案(抜粋) 図表4 企業部門の税制改革案(抜粋) 所得税の簡素化案 成長・投資税案 所得税の簡素化案 成長・投資税案 (Simplified Income Tax Plan) (Growth and Investment Tax Plan) (Simplified Income Tax Plan) (Growth and Investment Tax Plan) 通常は個人所得税率で課税される(最 個人事業主は個人所得税率で課税される 高 33%) 。 (最高 30%)。その他の中小企業は税率 税率 15%、25%、30%、33% AMT 撤廃 15%、25%、30% 基礎控除 基礎控除、概算控除、子女税額控除を廃止して、全ての納税者共通の「家族税額控 概算控除 除(Family Credit)」を創設。夫婦 3,300 ドル、単身者 1,650 ドル、追加的に、子供 子女税額控除 1 人当たり 1,500 ドル、その他扶養者 1 人当たり 5,00 ドルの税額控除。 EITC EITC を廃止して「仕事税額控除(Work Credit)」を創設。 設備投資 結婚によるペナルティの解消 税率ブラケット上限や家族税額控除等に関して、夫婦は単身者の 2 倍に設定され 大企業 中小企業 税率 30%で課税される。 る。 全て即時償却(所得税の簡素化案では土地・建物が除外される)。 税率 31.5% 30% 設備投資 簡素な加速度償却。 全て即時償却。 額控除(Home Credit)」を創設。住宅ローン額は各地域の平均住宅価格(227,000 支払金利 変更なし。 控除なし(金融機関を除く) 。 ドル~412,000 ドル)まで。 受取金利 変更なし。 非課税(金融機関を除く)。 寄付控除 所得控除として全ての納税者に適用。 国際課税主義 源泉地主義 仕向地主義 教育控除 フルタイムの学生に対して家族税額控除を適用。 法人 AMT 撤廃 州税控除 廃止 その他の控除 住宅ローン金利所得控除 住宅金利所得控除を廃止して、住宅ローン支払い金利の 15%に相当する「住宅税 (資料)U.S. President’s Advisory Panel on Federal Tax Reform (2005)より、みずほ総合研究所作成。 貯蓄・退職 確定拠出プラン “Save at Work”プランに統合。 確定給付プラン 変更なし 退職勘定 “Save for Retirement Accounts”(年間 10,000 ドルまで)に移行。全ての納税者が 利用可能。 教育資金 “Save for Family Accounts”(年間 10,000 ドルまで)に移行。教育、医療、出産、 健康保険 退職等に向けた貯蓄に適用される。全ての納税者が利用可能。低所得者には税還付 がある。 配当 100%控除。 15% キャピタルゲイン 75%控除。税率は 3.75%~8.25%。 15% 受取金利 通常の個人所得税がかかる。 15% (注)AMT は Alternative Minimum Tax(代替ミニマム税)。 (資料)U.S. President’s Advisory Panel on Federal Tax Reform (2005)より、みずほ総合研究所作成。 4 資本課税改革 ○消費課税への移行は、資本課税改革を促す。所得課税体系を維持するにしても、現行の法人税 には次のような問題がある。 ①投資に不利に働くこと。 ②負債調達を株式調達よりも優遇すること(株式投資に対する二重課税)。 ③内部留保を新株発行よりも優遇すること(内部留保が株価に反映されても、キャピタルゲインは 実現されるまで繰り延べられる)。 ④非法人形態を法人形態よりも優遇すること。 図表5 企業がRの利益処分を行う場合の家計の受取額 図表6 法人税改革案 (1)株式調達ケース( クラシカル方式) 配当R 企業 株式の収益全体 (正常収益+超過収益) ○現行の法人税 家計 企業の実質的な負担 R /(1-τ) 家計の受取額 R (1-m ) (2)借入ケース 利子支払R 企業 企業の実質的な負担 R 家計 家計の受取額 R (1-m ) 利子支払R /(1-τ) 企業 家計 企業の実質的な負担 R /(1-τ) 家計の受取額 R (1-m )/(1-τ) 課税ベース 株式の超過収益 (1)キャッシュフロー法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 (2)ACE 制度を持つ法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ( 注) τは法人税率、m は資本所得税率を表す。 ( 資料) みずほ総合研究所作成。 株式と負債の収益全体 (3)CBIT ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 (4)二元的所得税 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態(部分的に) (資料)Devereux and Sorensen (2005)を参考に、みずほ総合研究所作成。 (注)正常収益:Return to waiting。超過収益:それ以外。 5 キャッシュフロー法人税の特徴 ○キャッシュフロー法人税では、設備投資が即時償却される。 ○特徴 ①投資に対する中立性(○):「正常収益」ではなく「超過収益」のみに課税する。資本コストに影響なし。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):支払金利控除が廃止される(Rベース)。いずれの調達 についても「正常収益」に課税しない。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(△):資本所得税がなければ、中立性が保たれる。フラット タックスはそうした試みの1つ。この場合、「正常収益」に対する課税は家計段階でも行われない。 ④組織形態に対する中立性(○):中立性が確保される設計は可能。 ○問題点 ①課税ベースが縮小し、税率が高まる。開放経済下で問題。 ②導入当初は「古い」投資への課税が大半。資本集約的な企業に打撃。 図表7 キャッシュフロー法人税の課税ベース(ミード報告) キャッシュの流入 実物取引ベース 実物・金融取引ベース 資本取引ベース (R base) (R+F base) (S=R+F base) ・製品、サービスの売上。 ・製品、サービスの売上。 ・株式の買い戻し。 ・固定資産売却。 ・固定資産売却。 ・配当支払。 ・借入金の増加額。 ・受取金利。 キャッシュの流出 (マイナス項目) ・原材料費。 ・賃金。 ・固定資産購入。 ・原材料費。 ・賃金。 ・固定資産購入。 ・借入金の返済額。 ・支払金利 (資料)Auerbach et al. (2007)を参考に、みずほ総合研究所作成。 6 ・新株発行。 ・配当受取。 ACE制度とは何か、その特徴は ○ACE (Allowance for Corporation Equity)制度は、IFS (1991)とDevereux and Freeman (1991) によって提案されたもの。株式調達にも「支払金利控除」に相当する「株式控除」(Equity Allowance)を設けることで、二重課税を回避。 ○特徴 ①投資に対する中立性(○):「正常収益」ではなく「超過収益」のみに課税。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):いずれのケースも「正常収益」に課税しない。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):「株式控除」によって調整される。 ④組織形態に対する中立性(○):中立性が確保される設計は可能。 ○問題点 ①株式に帰属するコスト(概念上の金利)の計算が困難。 ②課税ベースが縮小し、税率が高まる。開放経済下で問題。 図表8 株主基金と株式控除の計算 ○株主基金の価値= 資金の流入(+) ・株式控除 ・(株式控除を差し引いた後の)課税収益 ・他社からの配当受取 ・純新株式発行額 資金の流出(-) ・税額 ・配当支払 ・他社の純新株式取得 ○株式控除=株主基金×概念上の金利(名目金利) (資料)IFS (1991)より、みずほ総合研究所作成。 7 CBITとは何か、その特徴は ○CBIT(Comprehensive Business Income Tax、包括的事 業所得税)は、米財務省が1992年に提案した法人税。 ○ 「支払利子控除」が廃止される。基本的な考え方は、 利子と配当に対する課税を全て企業段階で済ませ、 一度きりの課税を行うこと。 ○特徴 ①投資に対する中立性(×):所得課税体系内での改 革であり、「正常収益」に課税する。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):「支払利 子控除」の廃止によって利子が課税される。株式に 対する二重課税は、配当免除勘定(EDA)によって回 避される。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):内部留保 に対応するキャピタルゲイン税は、内部留保を「みな し配当」とすることで調整される。 ④組織形態に対する中立性(○):法人税率を個人所 得税率の最高税率と等しくすることで中立性が確保 される。 ○問題点 ①投資に対する中立性が確保されない。 ②移行期に企業の負債コストが上昇し、倒産が増加す る。 8 図表9 現行税制とCBIT 現行税制 企業 株式 課税 非課税 負債 株式保有者 課税 国内投資家 課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 負債保有者 課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 投資 非企業 株式 非課税 負債 C B IT 企業 株式 課税 課税 負債 株式保有者 課税 国内投資家 課税 外国人投資家 課税 非課税主体 負債保有者 課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 株式保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 負債保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 投資 非企業 株式 課税 負債 (資料)U .S .D epartm ent of the Treasury (1992) 株式保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 負債保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 二元的所得税とは何か ○二元的所得税(Dual Income Tax)は、所得を労働所得と資本所得の2つに分けて課税する北欧型 の課税方式。 ○基本的な考え方は、労働所得の累進性を確保する一方で、資本所得に対しては一律の低税率を 課すこと。国際的な資本移動が考慮されている。 ①労働所得:賃金、フリンジベネフィット、年金所得、社会保障給付等。 ②資本所得:企業収益、配当、キャピタルゲイン、利子、家賃等。 ○全ての所得が一律に課税され、勤労所得について付加的な累進所得税率が課される。 ○資本所得と労働所得が資本所得税率によって共同で課税される場合には、共同の基礎控除が設 けられ、負の資本所得が労働所得によって相殺される。 図表10 二元的所得税の仕組み 森信 (2002)より転載。 9 二元的所得税の特徴 ○特徴 ①投資に対する中立性(×):所得課税としての改革であるため、「正常収益」に課税する。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):完全インピュテーション方式によって二重課税が 回避される。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):ノルウェーではRISK法が用いられてきた(2005年 まで)。RISK法とは、個別株主に帰属する内部留保を算出し、その分だけ株主が保有する株 式の評価額をその購入額から引き上げる。これによって内部留保を反映したキャピタルゲイン が家計段階で課税されない。 ④組織形態に対する中立性(△):資本所得税率が勤労所得税率よりも低く設定されるため、経 営者が自らの所得を勤労所得ではなく資本所得として受け取る誘因が働く。これに対しては決 定的な対応策が見つかっていない。 ○問題点 ①投資に対する中立性が確保されない。 ②組織形態に対する中立性が確保されない。 森信 (2002)より転載。 1 日本の金融所得一体課税 ○2007年12月、与党税制協議会「平成20年度税制大綱」において、金融所得一体課税の導 入が決定。 ○しかし、金融所得一体課税は、「抜本的な」税制改革からみればマージナルな改革。「抜本 的な」資本課税改革ではない。 ○今後、二元的所得税やその他の法人税改革につなげられるか? 図表11 証券税制の見直し 図表12 「抜本的な」税制改革の流れ 【軽減税率】 ○ ①金融所得一体課税 2008 年末に上場株式等の譲渡益・配当の軽減税率を廃止( 10%→ 資本所得に対する一律課税の実現 20%)。 ○ ②二元的所得税 但し、500 万円以下の上場株式等の譲渡益と 100 万円以下の配当につ いては、2010 年末まで軽減税率を延長 ③C B IT 企業段階で課税を終える資本課税 へ 【損益通算】 ○ 2009 年より上場株式等の譲渡損失と配当との間の損益通算が可能。 ④キャッシュフロー法人税 ○ 投資家の利便性に配慮して特定口座を活用する方法(申告不要)は、 証券会社のシステム開発等の準備が整った段階(2010 年)より開始。 ( 資料) みずほ総合研究所作成。 (資料)自由民主党「平成 20 年度税制改正大綱」より、みずほ総合研究所作成。 11 設備投資の即時償却を認める ( 「 正常収益」 に課税しない) 経済のグローバル化に対応する資本課税 ○開放経済では、法人税が克服すべき課題として、(p.5の①~④に加えて)⑤国際的な企業 立地に関する中立性と⑥国際的な所得配分に関する中立性が加えられる。 図表13 国際課税主義と課税ベースの違いによる法人税の分類 国際課税 主義 源泉地主義 株式の収益全体 (正常収益+超過収益) 現行の法人税(外国源泉所得を除 く) 課税ベース 株式の超過収益 源泉キャッシュフロー法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ACE 制度を持つ法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 居住者主義 居住者ベースの法人税 ⑤国際的な企業立地 ⑥国際的な所得配分 居住者ベースの株主課税 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ⑤国際的な企業立地 ⑥国際的な所得配分 仕向地主義 VAT 型仕向地主義キャッシュ フロー法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ⑤国際的な企業立地 ⑥国際的な所得配分 (資料)Devereux and Sorensen (2005)を参考に、みずほ総合研究所作成。 1 株式と負債の収益全体 (正常収益+超過収益) CBIT ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 二元的所得税 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態(部分的に) 国際課税主義の分類 ○直接税に関する国際課税主義は、次の2つ。 ①居住地主義(Residence Principle):自国企業の国内源泉所得のみならず、海外源泉所得 に対しても課税する。採用国は、米国、英国、日本、韓国等。 ②源泉地主義(Source Principle):国内源泉所得のみが課税され、海外源泉所得は課税さ れない。採用国は、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、カナダ、 オーストラリア等。 ○実際には、居住地主義の国でも、多国籍企業の海外源泉所得は、国内送金された時点で しか課税されない。このため、企業が海外源泉所得を国内に還流させず、海外での再投 資によって課税を繰り延べるインセンティブが働く。 ○間接税に関する国際課税主義は、次の2つ。 ①原産地主義(Origin Principle):国内で生産された全ての財・サービスが課税される。輸出 品は課税され、輸入品は課税されない。 ②仕向地主義(Destination Principle):仕向地で消費される全ての財・サービスは、仕向地 で課税される。輸出品は課税されず、輸入品は課税される。 1 居住地主義の法人税 ○「純粋な」居住地主義の法人税は、グローバル化に対応しやすい。企業立地選択や企業の 所得分配行動に影響しない。しかし、実務上の困難があり、現実的ではない。 ①個人株主の居住国を基準とする場合 利点:株主の居住国さえ特定できれば、企業所得が世界のどこで発生しようと株主への課 税額には影響しない。 欠点:税務当局にとって他国は管轄外であるため、世界中の税務当局の協力が必要。 ②法人の居住国を基準とする場合 利点:自国の税務当局は多国籍企業の世界所得を把握するだけでよく、どこで生まれた所 得化を特定する必要がない。 欠点:企業は個人と比べて移動性が高い。英国に持ち株会社を持つ多国籍企業があるとし て、その企業が世界中で利益を計上しているものの、英国では活動しておらず、英国で商 品販売もしておらず、株主も英国に住んでいないとき、英国の税務当局がこの企業に課 税する根拠は薄弱である(Devereux and Sorensen (2005))。 1 VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税とは何か ○VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税の課税ベースを考える。開放経済では、「支出面 =所得面」より(2)式が成り立つ。ここで、Cは消費、Wは賃金、Rは資本所得、Iは投資、X は輸出、Mは輸入を表す。 C=W+R-I-X+M (2) また、国際収支の恒等式から(3)式が成り立つ。ここで、 Rfは海外からの純資本所得、 Ifは 海外への純資本投資を表す。 (X-M+Rf)+(-If)=0 (3) (2)式と(3)式より、(4)式が成り立つ。 C=W+(R-I)+ ( Rf- If) (4) (消費=賃金+国内純キャッシュフロー+海外純キャッシュフロー) ○VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税は、 (4)式の「(R-I)+ ( Rf- If)」に課税する。 これは、VATの課税ベースから賃金(W)を引いたものに等しい。 1 VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税の特徴 ○VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税は、国内販売から国内生産者からの購入と賃金 を除いたものに課税する。課税ベースから控除されるのは国内中間財のみで、輸入中間 財は控除されない。一方で、輸出から得られる収益は非課税となる。 ○VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税の利点と欠点。 利点 ①国内市場の売上から生じる収益のみに対して課税するため、企業の国際的な立地選択 に影響を及ぼさない。 ②輸入中間財が控除されないため、海外子会社からの中間財価格を操作することによって 損金算入を拡大するインセンティブが生じない(企業の所得分配行動に影響しない)。 欠点 ①海外の消費者に帰属する超過収益が課税されない。このため、立地特殊性から超過収益 が発生し、その多くが輸出される場合、税務当局は大きな税収減を失う可能性がある。 ②製品が本当に輸出されるかどうか、また中間財が本当に輸入品ではなく国内生産品であ るかどうかを監視する必要がある。 ③ GATT / WTO協定において、輸出補助金と認定される可能性がある。 1
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