副詞研究から見た 日本語モダリティ論の新展開

副詞研究から見た
日本語モダリティ論の新展開
第3回 名古屋大学日本語教育学講座講演会
名古屋大学
杉村 泰
蓋然性を表す副詞
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
明日はカナラズ雨が降る。
明日はキット雨が降るにちがいない。
明日はタブン雨が降るだろう。
明日はモシカスルト雨が降るかもしれない。
明日はカナリ雨が降るだろう。
明日はアマリ雨が降らないだろう。
明日はマサカ雨は降らないだろう。
明日はケッシテ雨が降らないだろう。
明日はゼンゼン雨が降らないだろう。
蓋然性の高さ
蓋然性の高さの違いによる説明
→共起する文末のモダリティ形式が蓋然性の高さを測る「も
のさし」として使用されてきた
(益岡1991、森本1994など)
カナラズ キット タブン モシカスルト
高 ←──────────────────→ 低 (蓋然性)
ニチガイナイ
ダロウ
カモシレナイ
副詞と文末形式
「に違いない」は確かさの非常に高い度合いを表し、「かも
しれない」は低い度合いを表す。この特徴が明瞭に現れる
のは共起する副詞の違いにおいてである。
例えば、「きっと」、「たぶん」、「あるいは」は確かさの度合
いを表す代表的な副詞であるが、これらはそれぞれ、非常
に高い度合い、かなり高い度合い、低い度合い、を表現す
るのに用いられる。そして、次の例からわかるように、「きっ
と」は「に違いない」と共起し、「あるいは」は「かもしれない」
と共起する。
(益岡隆志1991:115)
先行研究の問題点1
蓋然性の高さの違いでは説明できない場合がある
(10)a. 彼はキット君のことが好きなんだ。
b.*彼はカナラズ君のことが好きなんだ。
(11)a.?彼は毎日キット6時に起きる習慣だ。
b. 彼は毎日カナラズ6時に起きる習慣だ。
単に蓋然性の高さに違いがあるだけなら、「キット」も「カナラ
ズ」も両方とも使えるはずである。
先行研究の問題点2
副詞と文末形式の間で循環論になっている
① ニチガイナイは蓋然性の高いことを表す
→よってキットは蓋然性の高いことを表す
② キットは蓋然性の高いことを表す
→よってニチガイナイは蓋然性の高いことを表す
まず副詞とは独立に文末形式の意味を規定する必要があ
る。
先行研究の問題点3
「副詞=文末形式」であるかのように捉えられている
「キット~ニチガイナイ」、「モシカスルト~カモシレナイ」の
ように一定の共起関係はある。しかし、「キット」は「ダ、ダ
ロウ、シロ(命令)、スル(意志)」とも共起するし、「モシカ
スルト」は「ノデハナイカ」とも共起する。
副詞と文末形式は個別の機能を担っていると考える必要
がある。
先行研究の問題点4
文末形式の意味が自明であるかのように論じられている
一般に「ニチガイナイ」は蓋然性の高いことを表し、「カモシ
レナイ」は蓋然性の低いことを表すとされている(仁田
1991) 。しかし、両者には蓋然性の高低という「量的」な違
いでは説明のつかないような「質的」な違いがある。
先行研究の問題点4(続き)
(12)a. 宝くじというものは当たるカモシレナイし当たらないカ
モシレナイものだ。
b. *宝くじというものは当たらないニチガイナイものだ。
(13)a. 犯人が立ち寄るかもしれない店(三原1995)
b.?犯人が立ち寄るに違いない店(三原1995)
(14)a. 雨が降るカモシレナイそうだ。(仁田1991)
b.?雨が降るニチガイナイそうだ。(仁田1991)
※ 「カモシレナイ」は「命題」かもしれない。
研究の出発点
キット≠ニチガイナイ
モシカスルト≠カモシレナイ
ドウヤラ≠ヨウダ
マサカ≠ナイダロウ(マイ)
命題とモダリティ
おや、キット明日は雨が降るにちがいないぞ。
↓
3層構造
① 明日は雨が降る(コト) 事態 (命題)
② キット~にちがいない 推量 (命題態度のモダリティ)
③ おや~(だ)ぞ 発見 (発話態度のモダリティ)
命題
命題態度の
モダリティ
発話態度の
モダリティ
命題とモダリティの定義
命題 (文の客観的成分)
話し手が切り取った客体世界の事態
(例)雨、激しい雨、冷たい雨、雨が降る、雨が降った、
かなり降っている、あまり降らない、降られた
モダリティ (文の主観的成分)
発話時点における話し手の心的態度
(例)きっと、たぶん、まさか、さぞ、どうか、ぜひ、おや、
にちがいない、だろう、(して)くれ、ぞ、ね、よ
2種類の蓋然性
事態の蓋然性
客体世界における事態成立の可能性の度合い
(15) 明日は雨が降る可能性ガ高イ。
(16) 明日はカナラズ雨が降る。
判断の蓋然性
話し手の判断の中での事態成立の可能性の度合い
(17) 明日は雨が降るニチガイナイ。
(18) 明日はキット雨が降る。
「知識表明文」と「推量文」
田野村(1990)
知識表明文
推量判断の関わらない文
(19) (君ハ知ラナイダロウガ)あの男はヤクザだ。
推量判断実践文
推量判断の関わる文
(20) (アノ風体カラスルト)あの男はヤクザだ。
三原(1995)の「判断確定性」
連体
修飾
ムードの表現
判断確定性
OK
ソウダ(予感・予想)、ヨウダ、ミタイダ(様態)
完全確定
OK
デアロウ、ハズダ
主観的確定
OK
カモシレナイ
確定に近似
OK #
ニチガイナイ
直感的確定
??
ラシイ
未確定に近似
*?
ダロウ
未確定
*
ヨウダ・ミタイダ(蓋然性)、ソウダ
完全未確定
「事態確定性」と「認識確定性」
本研究では三原(1995)の「判断確定性」を修正して考える
※ 「ソウ-ダ(様態)」、 「ヨウ-ダ、ミタイ-ダ(様態)」、 「ハズ-ダ」は「ダ」
に含めて考える
文末形式
事態確定性
ダ/φ
確実
カモシレナイ
不確実
認識確定性
(確定 or 不確定)
ニチガイナイ
不確定
ヨウダ
不確定
ラシイ
不確定
ダロウ
(確定 or 不確定)
事態確定性
事態確定性
客体世界における事態成立の確実・不確実を指す
(21) あの男はスパイダよ。 (確実)
(22) あの男はスパイジャナイよ。 (確実)
(23) あの男はスパイカモシレナイよ。
=スパイではないカモシレナイ (不確実)
認識確定性
認識確定性
話し手の頭の中における事態成立の確定・不確定を指す
(24) ねえ、知ってる? あの男はスパイダよ。 (確定)
(25) ねえ、知ってる? あの男はスパイカモシレナイよ。
(確定)
(26) たぶんあの男はスパイダ。 (不確定)
(27) もしかしてあの男はスパイカモシレナイ。(不確定)
(28) きっとあの男はスパイニチガイナイ。 (不確定)
(29) どうもあの男はスパイノヨウダ。 (不確定)
カモシレナイ
(30) 経路全体を考えれば、複雑さはさらに広がる。電子は、
たとえばAから出発してまっすぐにOまで来たのかもし
れないし、ぐるっとまわり道をしてOにたどりついたの
かもしれない。 (和田純夫『量子力学が語る世界像』)
(31) 生まれる子は男か女のどちらかである。男の子カモシ
レナイし、女の子カモシレナイ。
「カモシレナイ」
複数の事態の成立可能性が共存することを表す
→これ自体に推論の意味はない
カモシレナイ
複数の事態の成立可能性が共存すること
…話し手の存在とは独立した客体的世界
「カモシレナイ」 ⇒ 「カモシレナイP - φM 」
(命題)
(32)
(33)
(34)
(35)
(モダリティ)
あの人はもう来ないカモシレナイP - φM 。
来ないカモシレナイP 人を待つ。
あの男は元気ダP - φM 。
あの男は元気ナP 人だ。
「φ」
おいしいィ~φ !!
(無形の 文末の
モダリティ形式)
『ザ・シェフ』
事態、認識、推論の関係
事態:客体世界 (命題)
認識:話し手が事態の成立を見たまま、記憶のままに
捉えること (モダリティ)
推論:事態の成立が不確定で、その成立について思考
をめぐらすこと (モダリティ)
事態
→
認識
↑
↑
事態確定性
認識確定性
→
推論
↑
任意
推論の型 (木下1999を修正)
①演繹推論
「知識(pならばq)」と「p」を根拠として、「q」を導く推論
知識:家が古ければネズミがいる
(家が古いことを知って)
(a) あの家にはネズミがいるニチガイナイ。
(b)*(どうやら)あの家にはネズミがいるヨウダ/ラシイ。
※ 木下(1999)は(a)にカモシレナイとハズダも含めている。
推論の型 (木下1999を修正)
②帰納推論
「知識(pならばq)」と「q」を根拠として、「p」を導く推論
知識:家が古ければネズミがいる
(ネズミがいることを知って)
(a) あの家は古いニチガイナイ。
(b) (どうやら)あの家は古いヨウダ/ラシイ。
※ 木下(1999)は(a)にカモシレナイとハズダも含めている。
推論の型
①演繹推論
知識(p→q) ⇒ 推論(p→q)
ニチガイナイ
②帰納推論
知識(p→q) ⇒ 推論(q→p)
ニチガイナイ、ヨウダ、ラシイ
推論の裏付けとなる根拠
小林(1980)
いつもは来るはずの電車が三十分以上途絶えている場面
A ×電車が脱線したようだ。
×電車が脱線したらしい。
B ○電車が脱線したんだろう。
○電車が脱線したに違いない。
Aが成立するためにはAの事実を裏付けるような何らかの
客観的な情報なり、証拠がなくてはならない。
小林(1980)→推論の型による説明
帰納推論 q から p を導く (ヨウダ、ラシイ)
事態
p (原因)
→
認識
→
不明
推論
知識 (a→q) ⇒ 推論 (q→a)
脱線すれば電車が来ない
q (結果)
認識
電車が来ない
知識 (b→q) ⇒ 推論 (q→b)
ストがあれば電車が来ない
:
:
知識 (p→q) ⇒ 推論 (q→p)
事故があれば電車が来ない
⇒ p (q から想起しやすいもの)
比況の「ヨウダ」と推量の「ヨウダ」
比況の「ヨウダ」
スカートをはいて、あの人は(まるで)女のヨウダ。
→「あの人」が男であることが分かっている場合
推量の「ヨウダ」
スカートをはいているから、あの人は(どうも)女のヨウダ。
→「あの人」の性別が分からない場合
共通点 「根拠Xにより、Aは B(の)ヨウダ」
(スカート)
(あの人) (女)
文末のモダリティ形式
ダ/φ: 当該の事態の成立が確実であると認識したことを表す
カモシレナイ: 当該の事態の成立が不確実で、他の事態の成立する可
能性もあると認識したことを表す
ニチガイナイ: 話し手の確信により、当該の事態の成立が確実であると
推論したことを表す
ヨウダ: 2つの事態に共通の属性があることを根拠に、当該の事態が成
立すると推論したことを表す
ラシイ: 他者からの情報や外界の現象を根拠に、当該の事態が成立す
ると推論したことを表す
ダロウ: 証拠不足のため当該の認識や推論が確証できないことを表す
「キット」と「カナラズ」
(36) 彼はカナラズ来るだろう。 (100%?)
(37) 彼はキット来るだろう。
(90%?)
(38) 私は[彼がカナラズ来る]コトを信じている。
(39)?私は[彼がキット来る]コトを信じている。
「カナラズ」は命題(「来る」)と共起する
→命題副詞
「キット」はモダリティ(「ダロウ」)と共起する
→モダリティ副詞
「キット」と「カナラズ」
森本(1994)
「推量的機能」と「習慣的機能」
過去文
現在文
キット
カナラズ
単一の行為を表す文
*
*
複数の行為を表す文
?習慣
習慣
単一の行為を表す文
推量
推量
複数の行為を表す文
推量、習慣
習慣
「キット」と「カナラズ」
森本(1994)
(40) わたしの予想ではまりこはかならずここを通る。
(推量的機能)
(41) まりこはかならずここを通る。それで店の人が彼女の
顔をおぼえてしまった。
(習慣的機能)
「キット」と「カナラズ」
森本(1994)の反例
(42) 警察は、「まりこはいつもカナラズここを通るにちがい
ない」と見ている。
(習慣的機能も推量的機能もある)
(43) 警察からの情報では、まりこは今日カナラズここを通
るそうだ。
(習慣的機能も推量的機能もない)
「キット」と「カナラズ」
本研究の考え
カナラズ
ある事態が例外なく確実に成立することを表す
(カナラズ自体に推量の意味があるわけではない)
① [反復的文脈] 場面1、場面2、場面3…あらゆる場面で成立
(44) 太郎は毎日カナラズ学校に行きます。
② [一回的文脈] 条件1、条件2、条件3…あらゆる条件の下で成立
(45) 太郎は明日はカナラズ学校に行きます。
「キット」と「カナラズ」
本研究の考え
キット
事態の実現に対する話し手の強い信念を表す
(キット自体に推量の意味があるわけではない)
(46)a.
b.
c.
d.
e.
太郎は毎日キット学校に行きます。 (知識表明文)
太郎は明日はキット学校に行くだろう。 (推量文)
私は明日はキット学校に行きます。 (意志文)
明日はキット学校に行けよ。 (命令文)
明日はキット一緒に学校に行こうぜ。 (勧誘文)
※ ただし、森本(1994)でも指摘されているように現代語で
は「推量文」以外にはあまり使われない。
「カナラズ」と「キマッテ」
反復的文脈
(47) 太郎の天気予報は{カナラズ/キマッテ}当たる。
(48) 星がたくさん出ている日の翌朝は、{カナラズ/キマッ
テ}いい天気になる。 (知識表明文)
一回的文脈
(49) 星がたくさん出ているから、明日は{カナラズ/*キマッ
テ}いい天気になる。 (推量文)
「カナラズ」と「キマッテ」
既成の事態
(50)a. 毎日{カナラズ/キマッテ}9時に行くそうだ。 (伝聞文)
b. 毎日{カナラズ/キマッテ}9時に行っただろう。 (推量文)
未実現の事態
(51)a. 明日からは毎日{カナラズ/*キマッテ}9時に行くそうだ。 (伝聞文)
b. 明日からは毎日{カナラズ/*キマッテ}9時に行くだろう。 (推量文)
c. 明日からは毎日{カナラズ/*キマッテ}9時に行くぞ。 (意志文)
d. 明日からは毎日{カナラズ/*キマッテ}9時に行け。 (命令文)
e. 明日からは毎日{カナラズ/*キマッテ}9時に行こうぜ。 (勧誘文)
「キマッテ」は既成の反復的事態が確実に成立することを表す
「キット」、「タブン」、「オソラク」
石神(1987)
陳述副詞「きっと」は、程度の極大ということがら的意味を共通項にし
て、断言・推量・意志・願望という陳述的要素が加わることによって、
それぞれの陳述副詞としての意味を表現している。
(52)a.
b.
c.
d.
明日は{キット/タブン/オソラク}学校に行くだろう。(推量文)
明日は{キット/*タブン/*オソラク}学校に行くぞ。(意志文)
明日は{キット/*タブン/*オソラク}学校に行け。(命令文)
明日は{キット/*タブン/*オソラク}一緒に学校に行こうぜ。
(勧誘文)
本研究
「キット」は事態の実現に対する話し手の強い信念を表す
「サゾ」
サゾ
他人の、あるいは未知の経験に対し共感・想像する気持ちを強める
(旺文社『旺文社国語辞典』第八版)
(53) 彼は今頃サゾ喜んでいることだろう。 (他人の経験)
(54) この分だと今年の夏はサゾ暑くなるだろう。 (未知の経験)
(55) 彼は今頃{キット/ *サゾ}諦めていることだろう。
(56) この分だと今年の夏は{キット/ *サゾ}暑くならないだろう。
↓
なぜ「サゾ」は使えないのか?
「サゾ」
小林(1980)
述語のもつ「程度性」に対する推量判断
森田(1989)
話し手の現在認知できない条件に対して、その立場にあ
る状態を推測的に想像し、推量判断を下すときに用いる
小学館辞典編集部(1994)
推量を表わす文に用いられ、話し手が現在推測できない
事柄を実感を伴って想像するときに用いる語
「サゾ」
飛田・浅田(1994)
程度がはなはだしいことを推量する様子を表す
森本(1994)
(a) 高い蓋然性を示す構文(「だろう」構文、「ちがいない」
構文)には現れるが、基本的平叙文には現れない。
(b) 「さぞ」と共起する文は肯定文でなければならない。
*彼はさぞ悲しんでいないだろう。
(c) 「さぞ」と共起する文は非行為文(non-action)でなけれ
ばならない。
*彼はさぞ行くだろう。
「サゾ」
「サゾ」は状態性の推量文に付く
(57) 入学試験は{キット/サゾ}難しいだろう。 (推量文)
(58)a.
b.
c.
d.
明日は{キット/*サゾ}学校に行くだろう。 (推量文)
明日は{キット/*サゾ}学校に行くぞ。 (意志文)
明日は{キット/*サゾ}学校に行けよ。 (命令文)
明日は{キット/*サゾ}一緒に学校に行こうね。
(勧誘文)
「サゾ」
「サゾ」は状態性の推量文に付く
(59)a. さぞかしアメリカ人は沢山食べるだろう (野坂昭如
『アメリカひじき』)
b. *サゾカシアメリカ人は食べるだろう。
(60)a. 松田さんならさぞうまく洗っておくれだろう (山本周五
郎『さぶ』)
b. *松田さんならサゾ洗っておくれだろう。
(61) 義昭は、洟を垂らしそうな顔で、寒そうにすわってい
る。「近江の戦陣も、{さぞや/キット}雪景色であろう
な」と義昭は目で笑った。 (司馬遼太郎『国盗り物語』)
「サゾ」
佐野(1998)
[-進展的変化]動詞句
死ぬ、割れる、(モノが)落ちる、生まれる、結婚する、
(人が)座る、着る、(人が)消える
[+限界/+進展的変化]動詞句
暮れる、腐る、凍る、冷める、沸く、溶ける、治る、枯れる、
(夜が)明ける、(魚が)焼ける
[-限界/+進展的変化]動詞句
広まる、冷える、上がる、温まる、老ける、高まる、太る、
痩せる、伸びる、縮む (←「サゾ」と共起する)
「サゾ」
形容(動)詞の場合
「美しい、寒い、元気だ」(-限界)
→「サゾ」と共起する
「ない、丸い 、同じだ」(+限界)
→「サゾ」と共起しない
⇒ 「*彼はサゾ諦めているだろう」、 「*今年の夏はサゾ暑く
ならないだろう」が非文となるのは、「-限界/+進展的
変化動詞句」ではないためである。
「モシカスルト」
従来の説明
「モシカスルト」は蓋然性の低いことを表す
(62) {キット/タブン/ *モシカスルト}明日は雨が降るダロウ。
(63) { *キット/ *タブン/モシカスルト}明日は雨が降るカモ
シレナイ。
和佐(2001)
肯定とも否定とも判断がつかないとき、両方の命題成立の
可能性があると判断されるとき使用できる副詞
「モシカスルト」
しかし、「モシカスルト」は「カモシレナイ」以外の表現とも共起する。
(64) だけど、もしかしたら、真相はそうじゃないかもしれないって思いは
じめたんだ。 (貴志裕介『黒い家』)
(65) 範子は(中略)IQも測定不能で、もしかすると、言語能力がまった
く欠如している可能性さえあった。 (貴志祐介『十三番目の人格』 )
(66) もしかすると、千尋の交代人格は、すべて千尋自信が生み出して
いるのではないだろうか? 由香里の中で、そんな疑問が芽生え
た。 (貴志祐介『十三番目の人格』)
「モシカスルト」
想定外の事態の発生を推量する場合に用いる
「ドウモ」と「ドウヤラ」
証拠性による説明
益岡(1991)
「どうやら」や「どうも」は、「何らかの観察や情報からする
と」といった意味で用いられていると言ってよさそうである
不確定性による説明
田中(1983)
「どうやら」「どうも」は、不確実ながらも認定が成り立つと
いうことを表す
「ドウモ」と「ドウヤラ」
本研究の立場
証拠性は「ヨウダ」、「ラシイ」に帰せられる意味である
(67) 「知識(無理な運転をする→事故が起きる)」
a. (事故が起きたのを見て){ドウモ/ドウヤラ}無理な
運転をしたヨウダ。(帰納推論)
b. (無理な運転をしているのを見て){ドウモ/ドウヤラ}
事故が起きソウダ。(演繹推論)
「ドウモ」、「ドウヤラ」は様相の現れが不完全なことを表す
「タシカ」
「タシカ」は不確かな記憶による推量(想起)を表す
未知推量ではなく、既知のことを思い出すときに用いる
(68)a. 昨日はタシカ雨が降った{φ/ハズダ/ト覚エテイル}。
b. *昨日はタシカ雨が降った{カモシレナイ/ニチガイナイ
/ヨウダ/ラシイ/ダロウ}。
「もし記憶に間違いがなければ~」という譲歩の意味がある
否定副詞
否定文で使われる副詞を総称して「否定副詞」と呼ぶ
(69) 太郎はマサカ風邪を引かないだろう。
(70) 太郎はケッシテ風邪を引かないだろう。
(71) 太郎はゼンゼン風邪を引かないだろう。
「ゼンゼン」は「スコシモ」や「ナニモ」などと同様に事態の程
度量がゼロであることを表す
「マサカ」
森田(1989)、森本(1994)など
(72) マサカ太郎が謝るはずがない。 (可能性の否定)
(73) マサカ太郎は謝るまい。 (否定推量)
しかし、単に事態が「想定外」のものであることを表す場合
にも使われる。
(74) マサカ太郎が謝るとは思わなかった。
(75) マサカ太郎が謝るとは知らなかった。
「マサカ」は「否定」というよりは「想定外」を表す
想定外
この親子丼の味は
ひょっとすると…
(考えうる)
この親子丼は
まさか…
(考えられない)
『ザ・シェフ』
「ケッシテ」
たとえどんな
困難や反対が
あっても
決してくじけては
ならない
(あらゆる条件
の下で否定)
『ザ・シェフ』
「ケッシテ」
本研究の考え
ケッシテ
ある事態が例外なく成立しないことを表す
(ケッシテ自体に推量の意味があるわけではない)
① [反復的文脈] 条件1、条件2、条件3…あらゆる条件の下で不成立
(76) 太郎は雨の日も風の日もケッシテ学校を休みません。
② [一回的文脈] 条件1、条件2、条件3…あらゆる条件の下で不成立
(77)*太郎は明日は病気でもケッシテ学校を休まないつもりだ。
→ゼッタイニ
まとめ
キット:事態の実現に対する話し手の強い信念を表す
タブン:推論において直感的にある1つの帰結を導き出したことを表す
オソラク:推論において根拠に基づきある1つの帰結を導き出したことを
表す
サゾ:推論において共感に基づきある1つの帰結を導き出したことを表す
モシカスルト:当初、当該の事態の成立する可能性を想定していなかっ
たが、発話時点において当該の事態の成立する可能性もある
と判断したことを表す
ドウモ:話し手の認識が不確定で事態の成立がはっきりしないことを表す
ドウヤラ:当該の事態がある基準点にほぼ近づいたことを表す
タシカ:当該の事態の成立を話し手の記憶によって確認することを表す
マサカ:当該の事態が想定外のものであることを表す
参考文献
石神照雄(1987)「陳述副詞の修飾」寺村秀夫・鈴木泰・野田尚史・矢澤真人(編)『ケーススタディ日本
文法』,おうふう,96-101
木下りか(1999)『文末における「真偽判断のモダリティ」形式の意味』名古屋大学博士学位論文
小林幸江(1980)「推量の表現及びそれと呼応する副詞について」『日本語学校論集』7,東京外国語大
学付属日本語学校,3-22
佐野由紀子(1998)「程度副詞と主体変化動詞との共起」『日本語科学』3,国立国語研究所,7-22
小学館辞典編集部(1994)『使い方の分かる類語例解辞典』小学館
田中敏生(1983)「否定述語・不確定述語の作用面と対象面─陳述副詞の呼応の内実を求めて─」『日
本語学』2-10,明治書院,77-89
田野村忠温(1990)「文における判断をめぐって」『アジアの諸言語と一般言語学』,三省堂,785-795
仁田義雄(1991)『日本語のモダリティと人称』ひつじ書房
飛田良文・浅田秀子(1994)『現代副詞用法辞典』東京堂出版
益岡隆志(1991)『モダリティの文法』くろしお出版
三原健一1995)「慨言のムード表現と連体修飾語」仁田義雄(編)『複文の研究』,くろしお出版,285307
森田良行(1989)『基礎日本語辞典』角川書店
森本順子(1994)『話し手の主観を表す副詞について』くろしお出版
和佐敦子(2001)「日本語とスペイン語の可能性判断を表す副詞─疑問文との共起をめぐって─」『言
語研究』120,日本言語学会,pp.67-88
著書紹介
『現代日本語における蓋然
性を表すモダリティ副詞の
研究』
杉村泰 著
(ひつじ書房)
どうもありがとうございました。
第3回 名古屋大学日本語教育学講座講演会
「副詞研究から見た日本語モダリティ論の新展開」
時:2010年4月23日(金)
場所:名古屋大学
名古屋大学
杉村 泰